●ヒーローチャンネル スイッチ、オン! 『さて今日も始まりましたヒーローチャンネル! 現在怪人は某所銀行へと押し入り神秘強盗を働こうとしている模様です! 今回の怪人はストーン教の山羊怪人デウス! 頭部の角を補強して造られた鋼鉄の角兜はコンクリートを易々粉砕すると言われていますが……おおっとここでヒーローの登場だぁー!』 銀行員たちを魔眼や威風で黙らせ金庫をピッキングマンで開けようとしているフィクサード達。 そこへ、三人の男達が乱入していった。 「そこまでだ悪しきフィクサードたちよ! これ以上の神秘による狼藉、この『エンジェルガード隊』が許さないっ!」 正面玄関から堂々と突入し、あろうことかアシンメトリーなポーズをキメる三人組もといエンジェルガード隊。 恰好こそ第二次世界大戦中のアメリカ軍服だが、担いでいたのはGAU-8アヴェンジャーやFGM-148ジャベリンといったぶっ飛んだ重火器やミサイル類だった中央に立っている男は赤と青のカラーリングに星をちりばめたような丸盾と拳銃を持ち、いかにもなポーズで映っている。 すると、客用のソファに腰掛けていた大柄なフィクサードが立ち上がる。 身長2mはあろうかという巨漢であり、上半身は剥き出しの裸。しかし頭部は山羊のそれであった。鉄の兜を被り、雄々しく突きあがった角の先には電流が流れている。 「我はストーン教の栄えある怪人、デウス。貴様らが来るとは丁度良い、首を手土産として持ち帰ってくれる! ウオオオオオオオオッ!」 ソファを蹴倒すと、猛烈な勢いで突進を始めるデウス。 エンジェルガードの左右両脇を固める黒人スキンヘッドと刺青金髪が同時に機関銃やミサイルをぶっ放すが、デウスは向かい風でも割いているかの如く猛然と突撃してくる。なんというパワー! なんというスタミナ! そしてなんという根性であろうか! 「牽制は無意味か。ならばパワーで応えるのみ……ボブ、カニンガム!」 「「イエス、ボォス!!」」 両サイドの男達がデウスの角をそれぞれ受け止め、がっしりと握りしめた。電流が身体を駆けるが、歯を食いしばって我慢する。 トリガーを押した銃を額に突きつけるリーダーの男。 「これで終わりだ、キャプテン・ファイヤー!」 炎の柱が出現しデウスを焼き焦がす。 デウスは炎を振り払いながら後じさりする。 「ぐううっ、おのれ……次はこうはいかぬぞ!」 『おおっとデウスが逃走するようです! これは御手柄、新人ヒーローのエンジェルガードがまたもやフィクサード犯罪者を撃退しました!』 ――という映像が、巨大ディスプレイに流れていた。 「…………申し訳ありません、ヴィッカース様!」 山羊怪人デウスは、ディスプレイを背にして深々と跪く。 その頭や背中に容赦なく鞭が振り下ろされ、彼は痛みに震えた。 「この役立たずが! 資金調達に失敗しただけでなく……よりによってリチャードどもにやられるとは! このっ、このぉ!」 滅茶苦茶に鞭を叩きつけ、最後には両手でばっきりと圧し折る男。 赤い軍服を着た男で、頭や尻尾はオオトカゲのそれである。背中には金属製の義翼を背負っており、全体的なイメージはドラゴンに近かった。胸にはSatanの文字が刻まれている。 「落ち着いて下さいなヴィッカース様、あの土地にヒーローがいたことは計算外のこと。デウスを無防備で行かせたわたくしの責任ですわ」 ヴィッカースと呼ばれた男の肩に、すぅっと女の手が置かれた。 なめらかな肌をした手だ。 続いて身体をぴったりと寄せるように、薄衣の女が彼の首筋に唇を寄せた。 ため息をつくような美女である。しかし、彼女の脚は膝から先が大蛇と化していた。 「い、いや……レヴィ、お前のせいではない。私も少し怒り過ぎたようだな……」 咳払いをして襟元を正すヴィッカース。 女(レヴィという名前であるらしい)は艶やかに笑うと、甘えるような目でヴィッカースの横顔を覗いた。 「ねえヴィッカース将軍。この作戦、わたくしに任せてはみませんこと?」 「そ、そうだな……」 鼻息を荒くするヴィッカース。 「ヘェ、今日も色仕掛けに熱心なことだなァオイ」 しかしその背後から声がして彼らはちらりと振り返る。 そこに居たのは、頭部を色鮮やかな鳥にしたビーストハーフである。背中に孔雀のような羽根飾りをつけ、見るからに豪華そうだ。 「そんなヤツに任せたってヘマして逃げるだけだぜ、ここは俺に――」 「おだまり鳥頭!」 巨大な魔方陣と共に膨大な殺気があふれ出る。 孔雀の男が身構えた……その時。 「いい加減にしろ」 低く、重みのある声が一帯に響いた。 ぼうぅっと光が灯り、豪奢な玉座が照らし出される。 だが現れたのは玉座だけではない。 そこへ顎肘をついて腰掛ける大柄な男。 彼は、王者のような威厳を周囲へ放ちその場にいる全員を跪かせた。 頭には熊の毛皮を被っており、表情は読めない。 「次の作戦にはレヴィとデウスを行かせる。準備を整えろ」 「そんな、セブンスデモンを二人も……!」 顔を上げようとした孔雀の男は、びしりと走る威厳に再び顔を伏せた。 「コアの使用を許可する。ヴィッカース、施術は任せる。それと……」 ちらりと大型ディスプレイに視線を投げかけ、男は言った。 「エンジェルガードはアークの協力組織だった筈だ。次はアークと当たると思え」 「……はい」 頭を深く垂れ、レヴィとデウスは脂汗を流した。 「お任せください、醍五様」 ●銀行強盗阻止作戦 「皆さんには、フィクサードによる銀行強盗を阻止して頂きます」 アーク、ブリーフィングルーム。 『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)の説明はそんな一言から始まった。 「フィクサードによる銀行強盗が起こり、莫大な資金を根こそぎ持っていかれるだけでなく、沢山の一般人も口封じとして殺害されてしまう可能性があります。後の未来にあらゆる意味で危険を齎しますし、何より神秘の力を使った大規模な強盗を捨て置くことはできません。なんとしても彼らを倒し、犯行を阻止して下さい」 敵となるのはフィクサード組織ストーン教。裏野部の傘下組織であり、沢山のビーストハーフを抱えている。 今回もその一部が流れ込んでおり、10人前後のデュランダルとマイクメイガスによる混成部隊が組まれている。 リーダー格は二人折り、それぞれ強力なフィクサードだ。 「レヴィ、蛇のビーストハーフで強力なマイクメイガスです。そしてデウス。こちらも強力なデュランダルでパワー戦闘を得意としています。彼らは体内にアーティファクトを埋め込んでおり、これを暴走させることで『怪獣化』するという報告が入っています」 怪獣化。戦闘不能もしくは任意で発動できる1回きりの業である。使用者は命を失う代わりに巨大な外殻で覆われた怪獣へと変身できる。 その大きさは全長3m以上と言われ、術者の能力も大幅に増幅されるという。 「この上、彼等は魔眼や陣地作成などのスキルをフル活用して通報もされないまま銀行は孤立しています。人質も取られているでしょう。皆さんの力次第では、彼らの命も助けることができる筈です。どうか、宜しくお願いします」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:八重紅友禅 | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年08月31日(金)23:38 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 銀行の自動ドアが開き、武器をそろえたフィクサード達が一斉に振り返った。 一般人が立ち入る筈のない銀行へ悠々と入ってくるとなればそれはエリューションやE能力者に他ならない。だがそれ以前に、銀行強盗中に何気ない歩調でやってくる者など、只者であるはずがなかった。 「御厨夏栖斗参上。カワイコちゃんのピンチと聞いて助けに来たぜ!」 山羊の怪人デウスは目を細める。 「貴様は……『産まれたままの闘士』。アークか」 「その名前どうにかなんないの」 何処からともなくトンファーを抜き出す『イケメン覇界闘士』御厨・夏栖斗(BNE000004)に、デウスは嘲笑を返した。視線をややスライドさせる。 『無軌道の戦鬼(ゼログラヴィティ』星川・天乃(BNE000016)が無言で髪を結び直していた。臨戦態勢を現していると悟ってソファから腰を上げるデウス。 「我々の邪魔をしに来たのか。それとも死にに来たのか。いや……両方だな。残念だが、今回は相手が悪い。貴様等の首を持ち帰り、我が栄光の軌跡としてくれる!」 デウスが脚を踏み出した瞬間、フロアタイルが爆発したかのように吹き飛んだ。 猛烈な勢いで突撃をかけてくる巨体。 前面に突き出した角からは激しい電流を放っていた……が、しかし。 「その姿……獣魔教団は既に壊滅したはずだが?」 がしり、と何者かの両手がデウスの角を掴み取った。 直立不動。 仁王立ち。 凛々しい目を大きく開き『百獣百魔の王』降魔 刃紅郎(BNE002093)は身体を奔る電流すら無視してデウスの顔を見下ろした。 「まずは貴様等の企み、阻止させてもらおう」 「ぐ……ぬ……離せ!」 拳を叩き込んでくるデウス。刃紅郎はそれを甘んじて受けると、デウスの角から両手を放してやった。 じたじたと後じさりするデウス。 その時には既に夏栖斗と天乃が彼の左右を通過、スタッフ用のカウンターへと飛び込んでいた。 「いつのまに! ええい打ち払え!」 デウスの指示を受け、ヤギフィクサード達が斧や剣を担いで飛び掛る。 「ゴキゲン麗しゅう三下君たち。ヒーローとの格の差みせてやんよ!」 対する夏栖斗は焔腕で敵を薙ぎ払う。撃ち弾かれたヤギフィクサードたちはスチールデスクの角や椅子の背に激突して転がった。 「な、なんだと!?」 「使えないわねデウス。せめて盾くらいにはなりなさいな」 大蛇のビーストハーフ、蛇怪人レヴィは煌びやかな扇子を掲げて見せた。 「迎撃。一人残らず始末しなさい」 それを聞いたヘビフィクサード達がカウンターの影から身を乗り出し、一斉にフレアバーストを連射。 天乃は何発か当たったものの身を翻して天井へとはりついた。 「闘争の始まり、だね」 前傾姿勢で『天井を』走る天乃。ヘビフィクサード達の頭上を駆け抜けると、再び反転してレヴィへ飛び掛った。 「何してるのよ、使えないわね! この蟲を追い払って!」 「は、はい――!」 フィクサードたちが慌てて駆け寄ろうとした。 その時、夕立が如き金属音が鳴りだした。 身を隠していたカウンターが、ソファーが、スチールデスクが、パソコンが、椅子が、棚が、ダンボールや書類や文房具やぬいぐるみや貯金箱やありとあらゆる物品が嵐のように吹き飛ぶ。 「なっ!?」 遮蔽物がいっぺんに消えた事実に目を回すフィクサード達。 今の衝撃でうっかり死亡したフィクサードすらいた。初撃で、である。 本能的にガードしていたデウスが顔を上げる。 「だ、誰だお前は……!」 「見て分かりませんか」 重量60キロ『超』、20ミリ口径オートマチック『砲』。九七式自動砲改式。 『デストロイド・メイド』モニカ・アウステルハム・大御堂(BNE001150)は、身の丈に合わな過ぎる重火器を手に、フロアタイルを踏みしめていた。 「メイドですけど」 「お前のようなメイドがいるか! なんだこれは、滅茶苦茶だ!」 「あの、ええっと……え……」 後から屋内に入ってきた『ソリッドガール』アンナ・クロストン(BNE001816)が、アテにしていた遮蔽物が殆ど粉砕しているのを見て額を抑えた。 「銀行強盗とそれを退治するヒーロー。ベタ過ぎて斬新なくらいですよ。しかしリアル系ヒーローというのは大変ですね。巨大ロボもなければご都合覚醒もないんですから。精々フェイトで誤魔化すくらいでしょうか」 「モニカ、あなたね……」 誤魔化すどころか今現在フェイトが危ないアンナはその場でよろよろと盾を構えた。 じろりと睨んでくるデウス。 「貴様は……『エンジェル』!」 「誰がエンジェルよ! 名乗った覚えのない渾名つけよってからに!」 「そんなことはどうでもいい。貴様コアはどうした。まさか……アークに売り払ったんではないだろうな!」 「な、何よそれっ?」 「貴様を倒してコアを取り戻せばヴィッカース様もお喜びになる。我の失態も帳消しになろうというものよ。故に、まずは貴様から――うおおお離せ!」 「頭が高い」 得意の突撃をしかけようとして刃紅郎に押さえつけられるデウス。 アンナは今現在一番大きな遮蔽物である刃紅郎の背後にそっと隠れると、まずは彼の回復から始めるのだった。 既にお気づきのこととは思うが、フィクサード満載の銀行強盗現場に突入したのが彼等四人だけというわけではない。 「悪役は悪役らしく倒されるのが良いのじゃ。ほれ」 人質の少女を見張っていたヤギフィクサードの後頭部に何らかの銃口が突きつけられた。 「デ、デウスさ」 「言わせるか」 『陰陽狂』宵咲 瑠琵(BNE000129)が引金を引くと、彼の鴉の式神が額を割って飛び立った。 がくりと崩れ落ちるヤギフィクサード。 周囲のフィクサード達がそれに気付き、剣や杖を抜いて襲い掛かってくる。 「最初の四人は陽動か! 通りで派手だと思った!」 「ヒーローというのは補佐役がいて成り立つものですよ。常識でしょう?」 襲い掛からんとしたヤギフィクサードの足元で奇妙な罠が発動。すてんと転んで顔から倒れた。 デスク(の残骸)から顔を出す『極北からの識者』チャイカ・ユーリエヴナ・テレシコワ(BNE003669)と七布施・三千(BNE000346)。 「まだ居たのね……この!」 振り向きざまに四重奏の魔弾を乱射してくるフィクサード。 瑠琵は素早く間に割り込むと銃を乱射。奇妙な発砲音と共に無数の式鬼が発生。魔弾を次々に受け止めていく。 「ここはわらわに任せて先に行くのじゃ」 「瑠琵さんそれ死亡フラグ!」 「知らんのか、最近は逆らしいぞ」 三千たちは小さく頷いて奥の個室へと走り始める。 歯軋りして更なる乱射を試みるフィクサードだが、瑠琵は再びその間へ割り込んだ。 リボルバー弾倉を素早く開いて空薬莢を捨てると、陰陽の描かれたスピードローダーを押し込む。 白と黒の弾頭配置が陰陽を顕し、押し込み回転させたリボルバー薬莢が流転を顕した。 「暫く付き合ってもらうぞ。ん?」 人質の少女を二人で抱え、三千とチャイカは個室へと滑り込んだ。 「う、うわあ!? やめてくれ、殺さないでくれ!」 「皆さん、落ち着いて下さい味方です!」 拘束されていた一般人を解いてやるチャイカ。 「三千さん、感情探査の結果はどうです」 「ええと……すみません、人数が多すぎてゴチャってます。敵がある程度倒れればなんとかなりそうなんですが」 「分かりました」 チャイカはこくんと頷いて、一般人たちへタブレット端末の画面を翳し見せた。 「いいですか皆さん、今から避難誘導の説明をします!」 ● 「ぐっ、でっ……デウスさまあああああああ!」 全身を締め付けられて破裂するヤギフィクサード。 デウスとレヴィを除き、部下のフィクサードは彼が最後の一人であった。 顔を歪めるデウス。 「アークがここまでやるとは……」 「一度失敗して今度はコアを埋め込まれて来てるのじゃろう。二度目が許されると思うかぇ?」 「くっ、黙れえ!」 デウスは瑠琵目がけて突撃。既に壊れたデスクがさらに拉げて潰れた。 対して瑠琵は横っ飛びに回避して転がり、片膝立ちのまま薙ぐように媒銃を連射した。奇妙な発砲音と共に大気が変動。陰陽氷雨が室内一帯を荒れまわった。 「くっ、この程度……」 まとわりつく氷を振り払うデウス。 その隙に、個室のドアから三千が手を覗かせた。 キラリと刃紅郎の目が光る。 「そろそろ頃合いのようだな。――獣装!」 カードをベルトバックルに通す刃紅郎。その瞬間、彼の背後から光が放たれた。 いや、光ではない。彼自身が説明不可能なほどに眩しく存在しているのだ。 「な、何ィ!?」 「我は百獣の王……」 彼の羽織っていたコートやパンツが一瞬だけ千切れ去り、更に豪華な衣装が彼を覆った。 ベルトからは王の文字が鈍く光る。 「ライッガーエンペラァァーッ――サファリ!」 コートを翻し腕を組んで見せる刃紅郎。否、ライガーエンペラーサファリ! デウスは本能的に脂汗を流していた。 「変身、だと……?」 「何処を見ている。我はここだ!」 硬直していたのだろうか。気づけば巨大な剣がデウスの足を払っていた。 視界が大きくぶれる。 刃紅郎の全身から闘気が爆発し、そのすべてが剣へと流れ込む。 そして、巨大な暴力となって叩きつけられた。 「弱肉強食、荒野の掟――ライガーヴォルカニック!」 「グゥ――グアアアアアアアアアッ!!」 絶対者にして暴走戦車のデウスですら、圧倒的な物理破壊にはなすすべも無かった。 断末魔の声と共に倒れ伏す。 「ばかな、我が……我が失敗などする筈がない。間違っている。間違っている! 我が負けるなどありえないイイイイイイイイイ!」 歯を食いしばり、獣の顔で立ち上がるデウス。 しかしその目は青白く光り、胸からは小さな正十二面体が露出していた。 「これは……」 「しまった、早すぎた!」 アンナが叫ぶも時既に遅し。 デウスは猛烈な叫びと共に光に包まれ、巨大な怪獣へと変身したのだった。 建物の天井を破壊し、天へ吼える山羊怪獣デウス。 鋼鉄の角は雷を撒き散らし、蠍のような尾が周囲の壁や屋根を吹き飛ばしていく。それはこれまでのどんな破壊よりも凶暴であった。 刃紅郎の変身シーンに乗じて一般人を屋外へ避難させていた三千は、振り返って目を丸くした。 「これは、まずいですね……」 「残っている一般人は?」 「大丈夫です、それらしい感情はありません。でも」 焦りの感情が近づいてくる。恐怖やそれに近い部分もあったが、逃げ遅れた一般人とは大きく異なっていた。 「デウス、本当に使えない男……! 精々時間稼ぎになればいいのよ!」 大きな現金袋を引きずったレヴィが銀行から飛び出してきた。 「おっと、それは置いて行けよ!」 屋内から声がした。と同時に猛烈な斬撃がレヴィの手首を通過。彼女の両手を切断した。 「い、いいいいいいっ……!」 顔を青くするレヴィ。 屋内からトンファーを構えた夏栖斗が駆けだしてくる。 だがそれよりも早くワゴン車がレヴィの背後に急停止。助手席のドアを押し開いた。 「レヴィ様、お早く!」 現金の回収班だろう。レヴィは夏栖斗を睨みつけると、車の中に素早く乗り込んだ。 「覚えてなさい。この恨み……必ず晴らしてやるから!」 急アクセルによって全速力で走り去っていく車。 逃がしたか。そう思って振り返ると……。 「何処へ行く。貴様は此処で我と共に死ぬのだ!」 怪獣デウスの蹄がアスファルトを叩いた。 盛り上がり、砕け散る地面。 一般人を庇って前へ出た三千はたちまちひっくり返される。 「あっ……!」 反射的に身体を丸くする三千。だがその真上からは、デウスによる第二の蹄が叩き落とされた。 大地が鳴る。 「三千っ、こんにゃろ……!」 夏栖斗は大きく跳躍するとデウスの背に飛び乗った。 土砕掌を連続で叩き込む。 「痒い、痒いぞ『産まれたままの闘士』!」 「だからその呼び方やめろ!」 「死ねぇい!」 大きく咆哮するデウス。途端に雷が周囲を駆け巡り、夏栖斗の身体を貫いた。 デウスから転げ落ち、びくんと痙攣する夏栖斗。 「雷陣効果! ちょっとヤバいですね。こういう時は……!」 「どうしましょうね。正直、打ちあわせていないというか……ほぼぶっつけ本番なのですが」 チャイカとモニカは遮蔽物にしていた乗用車から身を乗り出し、ピンポイント・スペシャリティとハニーコムガトリングを連射した。 デウスの金属ボディを抉る大量の物理弾幕と神秘弾幕。 対してデウスは怒りの表情で振り向き、モニカたちに突撃をしかけてきた。 同じく車を遮蔽物にしていたアンナはこの先の展開を想像して青くなった。 怪獣映画やモンスターパニック映画でよく見る、車が玩具のように転がされるシーンである。 「あ、これヤバいですね」 「アンナ様、逃げられそうですか?」 「無理に決まってるでしょ!」 三人は蹴り飛ばされた小石の如く吹き飛び、隣のビルの壁に激突。 跳ね返って駐車場へ転げ落ちた。 凄まじく痛いが死ぬほどではない。アンナが額から流れる血を拭いつつ聖神の息吹を展開。 モニカとチャイカも寝転がった体勢のまま弾幕を張った。 デウスは小雨でも受けているかのように弾幕を無視し、蹄を叩き下ろしてくる。 何とか転がって回避を試みるが、叩きつけた衝撃で吹き飛ばされた。 更に周囲を舐めるような強烈な雷の群が発生。アンナたちを苛む。 「暴れすぎじゃ!」 デウスの背後から式神の鴉を放つ瑠琵。 金属外殻に傷をつけたが、それ以上の効果は見込めない。 「硬すぎる……コアの位置はなんとなく分かるが、届かせるより普通に倒した方が早いぞ」 「怪物退治などそんなものだ」 刃紅郎が剣を翳して突撃。デウスの顔面めがけてデッドオアアライブを叩き込むが、デウスもまた気合でそれを受け止めた。 弾かれて着地する刃紅郎。 「組織の長へ我が名と共につたえよ。これはヒーローと悪の組織による、新たなる戦いの序曲だとな!」 「小癪な!」 デウスが蹄を掲げる。 そのタイミングを見計らったように、天乃が刃紅郎の背を駆け上がった。 「むっ」 「見上げるの、禁止」 刃紅郎の肩を踏み台にして跳躍。 全身から大量の気糸を発してデウスへ巻きつけると、一気に締め付けた。 「無駄だ、我が身体に束縛など――ぬ!?」 目を見開くデウス。 モニカが対物ライフルを、チャイカが神秘弾を、瑠琵が銃を構えていた。 そして血塗れになった三千とアンナが聖神の息吹を展開。彼等にかかっていた雷陣の効果が切れる。 「くらえっ」 崩れた建物の上から夏栖斗が飛び立ち、同時に刃紅郎が跳躍する。 彼等の攻撃が一斉に炸裂し、デウスの金属外殻を複雑に拉げさせた。 「そんなはずはない、この我が、我があああああああああああああ!」 一際激しい断末魔をあげると、デウスは光を放ち、爆発四散したのだった。 こうして、ストーン教団による銀行強盗及び一般人の殺害は回避された。 幹部のレヴィの逃亡や味方への甚大な被害はあったものの、彼らが護ったものは大きかっただろう。 そして、いずれ来る戦いもまた、確実なものとなりつつあった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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