●あの話好きあとでしばく 「……なんですか、これは」 丁度その日の報告書の整理を終え、自分に割り当てられたデスクに戻ってきた『無貌の予見士』月ヶ瀬 夜倉(nBNE000202)は、机上に置かれた資料に絶句した。 表紙に貼られたポストイットには、明らかに人を喰ったような文章と独特の自画像――明らかに『スピーカー内蔵』断頭台・ギロチン(nBNE000215)の仕業と疑われるものが鎮座していた。 彼が他人に仕事を押し付けるなんて余り聞かないが、自分が他人に仕事を押し付けられるに値する条件だったら、腐るほど理解できる。 だからページはめくりたくなかったが……そうもいかないのだろう。 こうして損な役回りが回るのも業が深いせいなんだろうな、ということで、夜倉は考えるのをやめた。 ●赤いのあおいの 「テラーナイト・コックローチがまたやってくれました。あとギロチン君しばく」 「おい」 「ギロチン君マジしばく」 「何があったか分からないから説明しろ」 無表情(顔は見えないから何となくだが)ながら目がマジギレしている夜倉に、リベリスタは心底不安なものを覚えた。 『テラーナイト・コックローチ』――元製薬会社研究員、現フィクサードの害虫パニックメイカーがまた事件を起こしたことだけは理解できるが、今度は一体何だというのか。 あと、あのフォーチュナが何をしたというのか。 「某森林公園内に、テラーナイト謹製のエリューションが撒かれました。一律にフェーズ2、数は四体。 フェーズ2としては実力がやや劣る部類ですが、その分特殊能力がありまして。 エリューション素体は『マダニ』、能力特性は『吸血と吸精』。赤と青のマダニが居て、それぞれが体力と魔力をドレインする能力を有します」 「……大きさは?」 「掌より若干大きいそうです。資料によれば、共通能力として『噛み付く』能力を有し、これを受けた者は継続的に体力、または魔力をドレインされ続けます。 一定時間すぎるか、ダメージ量によって引き剥がせるようですが、剥がされ方によっても色々と不利益を生じる、とされています。 それどころか、ドレイン直後、体が膨れた状態で一気に倒すと……その、更に余計なことになりそう、で」 「『資料によれば』? 『とされている』?」 「ギロチン君が持ってきた案件です。押し付けられました。マジしばきたい」 「……ああ」 世の中って非情。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:風見鶏 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年09月02日(日)22:30 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●妄想NG 「うふ、うふふふふふふふふふふ」 うつろな目で首をあらぬ方向に向け、地獄の底から響き渡るような声色をひねり出す『局地戦支援用狐巫女型ドジっ娘』神谷 小夜(BNE001462)の様子は、実のところ、他のリベリスタ達の心胆を寒からしめるというか、割とマジで心配させるに足るものであった。 「……ダニだね。本当に、ありがとうございました……」 と、ブリーフィングルームを速攻で逃げ出そうとした『骸』黄桜 魅零(BNE003845)を脇からがっちりと掴みあげたのは、 「これも平和を守る為だ! 仕方ないんだ!」 さんざ『正義』を穢されてきっとご機嫌ななめなのにすげぇ真摯に取り組んでいる『正義の味方を目指す者』祭雅・疾風(BNE001656)。 「指折り数えて嫌な汗が出る害虫ぶっ飛ばす」 割と「害虫ぶっ飛ばす」だけで自己暗示をかけているようにすら思える『LowGear』フラウ・リード(BNE003909)の二人だった。おい、なんでこいつらに止めさせた。 「今まで色々斬ってきたけど、これをきんなきゃ駄目なのかな……!!?」 「仕方ねーだろうなあ、任務は引き受けた以上、こなすしかねーし」 悲鳴を絞りだすような魅零にダメ押しを叩き込んだのは『蒼き炎』葛木 猛(BNE002455)だった。いや、真面目なのは評価するし真っ直ぐな意見なんだけどその、この子には劇薬なんじゃないかなあ。 (テラーナイト、なあ。俺にはちぃと懐かしい名前なんだが) そんな猛にも、一応縁のある相手だったりするのがどうしようもない。一体何人にトラウマ植え付ける気だ。 「前ね、山の中に住んでたのよ。で、猫飼ってるでしょう。藪の中とかでダニ拾ってきちゃうわけ」 滔々と過去の出来事を語りながら脳裏にその様を思い浮かべた『薄明』東雲 未明(BNE000340)は、脳裏に浮かんだ『それ』をそのまま大きなサイズで想像した。目のハイライトが消えそうになった。 「……テラーナイトのあほ」 単純ながら、そんな罵倒でも出てこないとやってられない気分である。 「ダニの相手って、なんだかフクザツね……」 ところで。 『蒼震雷姫』鳴神・暁穂(BNE003659)の思考は、魅零と驚くほどに真逆であった。 取り敢えず殴り飛ばす。 拳がどうにかなる? そんな事を考えている余裕はない、とばかりの潔い態度。 そんなことより一発殴らせろみたいな。頼もしい気もするが、なんというか危なっかしさを感じなくもない。 まあ、これくらいまっすぐな子が居ても許されると思うんですけどね、相手が相手なので。 「アークで一番相手にしたくないフィクサードランキングにのっていそうと噂の、テラーナイトさん謹製の害虫ですか」 相手にしたくない、というよりは殺したいフィクサードでそれなりに名が有りそうではある。だが、真に「殺したい」類のフィクサードの皆さんが悲しい顔をするので、テラーナイトはもっと評価が低くていいと思うのだ。 本当に殺したい奴いるだろ? テラーナイトさんとか屁でもないくらいの。 「小夜は気がついたんです。テラーナイト・コックローチさんの今までの悪戯は、実は、私へのアプローチだったんですね……」 ひとしきりおかしな笑いを終えた小夜は、静かに言葉を紡ぎ始めた。 虚ろな目に僅かにハートマークが浮かんでいるような気がしないでもないが、一体何を言い出すのかこの少女は。 「あ、アプローチぃ? おい、一体何を」 「そう、彼と私は運命の人だったんです。だから何度もご縁があったんです……」 すっかりトリップしてしまっている彼女に、猛の言葉は届いていないように見えた。 ところで、テラーナイトに恋慕カマしてると三尋木の電球野郎が嫉妬に狂って戦闘ふっかけにきますぞ。 ……って真空管が言ってた。 ●もりをあるこう(物理) 「連中とは別にマジモンのくっ付いてるかもしれないっすから、後で気をつけた方がイイかもしれないっすよ?」 懐中電灯を片手に森林公園進むフラウは、後発のリベリスタ達へ注意を促した。 まあ、未明は聞かずとも重々承知しているようではあるが。 そういえば、実際に噛まれたら「ダニ」って口にしちゃいけないんだぜ。おかんが言ってた。 「にしても……ダニ、ねえ」 何か含むところのある言葉を口の端に浮かべ、猛は小さく頷いた。どちらにせよ、出てきたなら倒すしか無いし、戦う以上は勝利を収める他はない。 それ以外は、望んでいないのだから。 「マダニは何処だ」 あくまで義務的に、感情を廃した言葉で疾風は周囲を警戒する。 正義の味方として戦いに明け暮れる彼が、テラーナイトに右に左に振り回される様はある意味滑稽なのかもしれないが、彼自身にとっては深い因縁のある相手、という感情もあるのだろう。 何しろ関連事件の参加率も参加率だしな彼。 「大丈夫、ですよ。お仕事はきちんとやりますから……。彼が見ていてくれるかもしれませんし……」 リベリスタ達の移動がスムーズに言っている理由の一つとして、小夜の施した翼の加護がある。 足場の不安定な森林公園を探索するにあたって、相応の備えが必要なのは当然のことだ。 でも、この小娘は本当にそろそろ大丈夫なんだろうか。仕事はしていても精神状態がマトモじゃないので本当に心配になってくる。 「どうせなら、もっと夏っぽい奴にしとけよな、蝉とかさ……。そう言う問題じゃねぇかも知れねえが」 おいやめろ、実際に出てきたらどうしてくれるんだ。対処するんだな? いいんだな? 森の中を、ざわりと何かが動く気配がする。 何処からとも無く溢れかえる気配。この世ならざるもの、この世にあってはいけないものの気配。 「――あれか! 上から青が、赤いのは木に紛れて突っ込んでくるぞ!」 接近するマダニ達を千里眼の視野に収め、疾風が叫ぶ。その身は既に装備を纏っており、臨戦態勢であることが伺えた。 彼の檄に触発され、次々と身構える面々だったが……ブロックされるより先に、アルフォンソの肩口めがけ、強かに牙が振り下ろされる。 強襲に於いて対応を早めようとする場合、速攻を意図した状況判断が不可欠だ。ブロックを主体に動くメンバーの場合、何よりも先にそれを主体にして動くべきだった。 不意打ちを回避できるにせよ、準備に手間をかける間に先手を打たれてしまってはそれも無意味。 バトルスーツの隙間にやすやすと牙を突き込み、がっちりとくわえたそれの痛みが「少々」で済むはずもない。 ……故に、アルフォンソが貫かれた初撃はかなりの痛撃であった、といえるだろう。 うぞうぞうぞうぞ、と牙ごと頭部を埋めるようにして、足をすべて彼の体に巻きつけて、青マダニの一体はアルフォンソに組み付いた。 不確かに明滅するその姿の奇怪さたるや、その場の全員の心胆を寒からしめるに十分であったといえるだろう。 「見てるだけで体が痒くなりそうな相手だな」 だが、何故か疾風はその状況に対してかなり落ち着いていた。もう一体が他所に向かっていくのを敢えて放置してしまったのは、構えをとる為である。 落ち着きすぎなんだっつーの。とっととブロックしとけよ。 「ちゅーちゅー吸ってんじゃないわよ、やらしい虫ね!」 そうだな、だから早く止めに入れよ暁穂。 「…………帰りたい」 フリーになった魅零に向かってきた青マダニ(と、アルフォンソの方のマダニ)を視界に収め、暗黒を叩き込んだ彼女の言葉はある意味真理だ。 そうだな、俺もこんなグッダグダな導入になるなんてケほども思ってねえんだよ。 「さぁ、派手に行くぜ……! 逃がしゃしねぇよ……!」 だが、暗黒によろめいた青マダニと魅零の間に踏み込んだのは、他でもない猛だった。 構えに注力していたのは他者と大きく相違はないが、狙いを自分に向けさせることを主体とした動きは明らかに相手を射界に捉えるための動作だ。 彼へ向けて奇声を上げるが、神秘の音程も覚悟の上で踏み込んだ彼へ触れることすら許さない。 「うう、サイズが大きくなると一気に気持ち悪いッ!」 「害虫ぶっ飛ばす、害虫ぶっ飛ばす……」 幾らダニを見慣れてるといったって、実際に大型化した相手と戦うのは全く勝手が違う。未明の心の叫びは理解できなくもない。むしろ、理解して余りある。 あと、背後でステップしながらぶっ飛ばす連呼とかフラウ、君も大概恐い上になんていうか、動け。 ……いや本当、何なんだこの戦闘開始。 ●牙ってすげえ抜けにくい 「……大丈夫、怖いのは最初だけっすよ、たぶん」 「 」 最高速で飛びかかってくるフラウは、正直アルフォンソからしたらすげえ怖かった。具体的にはアングルがすげえ人ひとり殺せそうな迫力だったからだ。 のんびり自付二種類も使おうとしてるからだよ、お前。 ぢうぢうと変な音を立てながら魔力をすごい勢いで吸われているという事実は、彼とて理解できる。 だからこそ、仲間の尽力を待つしか無いのだが、なんというかこう、な。 「動いちゃダメよ、巻き込んじゃうかも知れないから!」 「やはり厄介だな……これだからテラーナイトは!」 続けざまに叩きこまれたのは、棒立ちーズ(ド失礼)の連続攻撃である。 何れも強固な破壊力を有した一撃であり、マダニを引き離すという行為に限って言えば、十分すぎるほどの破壊力。 爆発するような振動を残し、青マダニの牙がアルフォンソの首から抜け落ちる。 傷口の大きさから見ても出血量は少なくはないものの、現状酷く負傷している面々は見受けられない。 ブロックの体勢が整った以上、これ以上の被害は被らないように思われた。 ……尤も。 マダニ四体を相手にするにあたって十分に準備を施したリベリスタ達が相応に活躍するだなんてこう、ね。 「……わかってます、私はリベリスタ、彼はフィクサード。普通の方法で結ばれることなんてあり得ないですよね」 「ヒートアップしすぎッスよ。戻ってきて」 ときに小夜だが、やはり目が虚ろだった。フラウの声も余り届いていない。コイスルオトメのごとき声色似合わせるのが、命を賭けたヤンデレ行為とか、電球頭にヒビが入るレベル。 そんな状況だが、当然のように戦闘は続いている。この先頭の主体となるのは、ブロックの面々がいかに攻撃を行い、いかに組み付かれないか、を理解した上で戦う必要があった。 猛の拳が、アルフォンソから抜け落ちた個体と目の前の個体、併せて電撃で撃ち貫く。返すとばかりに牙を剥いたそれは服の上からでも彼の肌を裂きはした。が、食いつかれるほどの距離までは接近を許さず受け流した彼の動きは逞しい。 というか、組み付こうとしてそうそう一発目が……。 当たっていた。 両腕を弛緩させ、行動不能のポーズを見せたのは暁穂だった。その首筋には、青マダニががっぷりと噛み付いている。普通だったら即死だろう。 (殴らなきゃ殴らなきゃ殴らなきゃ……) ぐらっとした状態で拳を振り上げようとするが、組み付かれている以上、これが案外難しい。というかメンタル面が重い。 速攻で彼女のマダニを引き剥がそうにも、組み付き状態が増えれば重点的に狙う相手を定める必要がある。 ……っていうか組み付かれて普通に動こうにも色々と難しいと思うのだが。トラウマ的な意味で。 「最悪、最悪よ、汚物は切り刻むうううう!!!!」 そんな感じで魅零は(心の)フェイトを消耗しつつあった。 組み付かれた面々に対してはそこはかとなく哀れみの視線を向けてはいるものの、そもそも武器が穢れてしまうんじゃないかと心配気味の彼女にとって大差なかった。 ここまでノリがアレな状況で、しかし被害が最小限に抑えられているのは小夜による回復が十全に機能しているからであった。 「彼を殺して私も死ねば天国で結ばれるんです、よ……。うふふ、うふふふふ……」 まあ、当の彼女は心のフェイトをごりごりと削り続けているわけだが、彼女は本当にもう大丈夫なのか。 ホーリーメイガスだよな? 「ていうかくっ付かれてるとキモさ倍増なんだけど!」 未明の悲鳴(語呂いいな)は尤もであった。 マダニというのは、その頭部を埋める形で牙を突き刺すものだ。 というか、実は名前を呼ぶと絶対に離れないようになるという俗説も存在するヤツだ。 よく出血で済むなこれ……。 「……そろそろ、終わりと行こうぜ!」 拳を固めた猛が檄を飛ばし、マダニの一体を打ち上げる。 迅雷の一撃は既に数体を飲み込んで弾き飛ばしたが、吸い取られた「何か」をして膨れたそれらであったが、最小限の破裂で済んだのは僥倖だったのかもしれない。 ただ、僅かなれどリベリスタ達に降りかかったりもするわけで。 「テラーナイトましぶっ殺す、絶対に切り刻んでやる!」 フラウが蹴り飛ばした最後の一体に、魅零が突っ込んで闇を叩きこむ。 それで、戦闘は……色々とあったが、何とか終わったのである。 「……どこかにテラーナイトさんの痕跡は無いかしら……。私へのメッセージ……」 とりあえずこの子、どうにかしろよ。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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