●九美上興和会所属、篠田組 組長・篠田豪蔵 ライダージャケットのポケットからナイフやナックルを取り出す若者たち。 彼らは円陣を組んで一人の男を囲んでいた。 一般人であれば震えあがるこの状況で、男はパチンと自らの腹を叩いた。 でっぷりとした大きな腹だ。胸にサラシを巻き、法被を崩したような服を羽織っている。 しかし身体にたるみは殆どなく、見る者が見れば鍛え上げられた屈強で日本的な巨漢であることが分かる筈だ。 周囲を囲んでいた若者たちに見る目がなかったのだろう。 「ヤク返せって? 俺達を誰だと思ってんの? 笑えるよなこのデブ!」 「ヒヒヒッ、やっちゃうよ? やっちゃうよ!?」 肩をゆすりながらケラケラと笑う若者。 フロアの脇にはいかにもヤクザじみたニット帽の男達が横たわり、血を流して呻いていた。彼等は列記とした組所属のフィクサードであり、それを若者たちが倒したのであれば自信がつくのも無理からぬことである。 でっぷりとした男は左右に視線を走らせるとぐるんと首を回した。 「若衆数人倒したくらいで粋がってんのかい、小せえ悪党じゃのうワレ」 「アァン? 喧嘩売ってんのかテメオラ!」 「シメんぞラァ! ンのブタコラァ!」 威嚇と牽制の意味も知らないのか、若者の一人がナイフを持った手を近づける。 しかし男はその場から一歩も動くことなく腕を振るうと、若者を片手で振り上げた。何が起きたのかすら分からないうちに頭上に掲げ、壁へ向かって放り投げる。 「ギッ!?」 背中から壁にぶつかって気絶する若者。 「な……え……」 「丁度イライラしとったとこや、シメたるわガキィ」 その後に起きた暴虐の嵐に、若者は一生分の地獄を見た。 掴んで投げて振り回し、叩き潰して撥ね飛ばす。 パワーそのものが暴れる様を存分に見せつけられ、若者(リーダーだと思われる)は失禁しながら土下座し、最後には山と積み上がった若者たちの頂点へと放り投げられたのだった。 「「オヤジ、お疲れ様です!」」 男が建物から出てきたタイミングを見計らってか、紺色のスーツを着たこわもての男達が左右で同時に頭を下げる。 無論二人だけではない。 ずらりと並んだ総勢七十人。 その全てが頭を下げ、アーチゲートさながらの光景を作っていた。 男が手を出すと、小走りにやってきたアロハシャツが煙草を手渡す。それを咥えると、流れるような速さでライターをつけるアロハシャツ。 男は満足げに煙を吐くと、人間通路をゆっくりと歩き出す。 「顔上げろや」 「「ハイ!」」 顔を上げた順に頬を思い切りビンタして回る。 そして先にあるベンツへと乗り込んだ。窓を開ける。 「『部下ァやられた』って聞いてみれば若衆四人やられただけじゃねえかボケェ! 今度はもっとやりがいある奴連れて来い!」 「「ハイ!」」 一斉に顔を上げ、腹から声を出す男達。 「……いいで。出せ」 窓が閉まり、車が走り出す。 男は――篠田豪蔵は、後部座席を占領するかのようにどっしりとした身体を背もたれに沈めた。 途端、携帯電話が鳴る。ワンタッチで通話状態に。 『オウ篠田、お疲れやないのぉ?』 「……縞島か。例の歓楽街は順調に動いとるで」 『そら結構結構。ほんでも気の毒やなぁ、工場がアークに潰されたんは。マトモなシノギやったんやろ』 「ちんまいシノギや。ま、暫くはこっちの運営に集中しとくわ」 『ヒヒッ、ヨロシク頼むでぇ。ああそや、十億は既に運ばせたから、好きに使えや』 「おう。ほなな」 通話を切り、携帯電話をシートに投げ捨てる。 「よく言うで。アークのとばっちりをこっちにまで跳ねさしよってからに……ま、その辺は持ちつ持たれつやな」 車はやがて一件のビルの前で停止した。 四階建てのビルである。 篠田は車から降りると、まず大きなガラス扉を押し開き、曲がってすぐの広い通路を歩き出す。その間にも何人もの組員が立ち止って頭を下げた。 通路の端まで行ってから、今度は階段を上る。一階分上に登った所で漸くエレベーターの入り口があった。篠田と二人程の組員が乗り込むが、残りの組員たちは急いで通路の端へと走って行った。 このビルは外からの襲撃を警戒した様々な工夫がされていた。 エレベーターはいつでも封鎖できるようになっており、階段もひと繋ぎではなく、四階までずっと通路の端から端まで歩き続けなければならない造りになっている。 学校の廊下から窓を無くしたようなもので、脇には扉が並んでいる。一階から順番に位の高い組員が詰める部屋があるのだ。 しかも念の入ったことにビルには『飛行した人間を意識した防衛構造』として上階の窓を強固なシャッターで一斉に塞ぐ仕掛けなど様々な防御を施していた。もはやビルというより城である。 もしこのビルを攻略するなら、弱い順に何十人というフィクサード組員をノンストップで強行突破し続ける必要が出るだろう。 そして最上階をまるまる使った広大なフロアで待ち構えているのが篠田豪蔵である。 並のE能力者組織では攻略中に力尽きるのがオチというものだ。 篠田はどっかりと革張りソファに腰をおろし、咥えた煙草を灰皿へ突っ込んだ。 「アーク……か」 ●攻略作戦概要 場所はアーク、ブリーフィングルーム。 『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)の説明は続く。 「篠田組。恐山の三次団体で、麻薬の製造と販売を行うフィクサード組織です」 製造している麻薬は『まっとうな』違法麻薬であり、神秘にかかわるものではない。家出少女を薬漬けにして裏ビデオ撮影に回したり、強姦罪で服役していたことはあるが、(言い方は悪いが)フィクサードにしてはまっとうな組織である。 汚れてもいるし、暗くもあるが、これも世界の一部である。 ここでしか生きていけない人間がいて、社会がある。 篠田豪蔵と言う男はその一部を守る人間に過ぎない。 しかし事実として彼はフィクサード組織のリーダーであり、何十人という危険思想をもったフィクサード達を抱えている人間なのだ。場合によっては彼等を法から避けさせるために神秘の力を使うこともあるだろう。 「皆さんの任務はこの『フィクサード組織』の壊滅です」 勘違いしがちなことだが、我々は法の番人ではない。仮に法の手に委ねた所で彼らは無傷で帰ってくることだろう。 だから、我々の役目はただ単純に、フィクサード退治なのだ。 「戦闘に関する資料はお渡ししておきます。作戦や役割分担については話し合いで決めて下さい。では、後はよろしくお願いします」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:八重紅友禅 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年08月28日(火)22:56 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●篠田組攻略戦1~2階 強化ガラス扉を炎の渦が貫通した。 自動販売機とベンチが置かれ、門番代わりのチンピラがたむろする十メートル四方の玄関フロアにである。 チンピラは泡を食って飛び上がったが、自らの身体を炎が突き抜けていくことは避けられなかった。 痙攣のような悲鳴をあげながら倒れ、未だ尚燃えるチンピラ『だったもの』を一瞥し、周りのチンピラたちが身構える。 「な、なんだテメェ! ここがどこだか分かってん――ふぐ」 傷のある顔に、分厚い本の背表紙が叩きつけられた。 目を細め、顎を上げる少女。 名を『いつも元気な』ウェスティア・ウォルカニス(BNE000360)。 「邪魔だよ」 途端、チンピラの頭に炎が舞い上がり、続いて身体を一瞬にして焼き焦がしていく。ガソリンを振りかけた焼死体のように、チンピラはその場に崩れ落ちた。 「この人達も、悪いことをした人なんだよね?」 杖を胸の前で握り、『いつか出会う、大切な人の為に』アリステア・ショーゼット(BNE000313)はウェスティアの傍に立った。 12歳の少女である。本来このシチュエーションであれば、誰かの陰に隠れて震えているのが普通だ。 だが彼女は首を傾げ、学校の宿題でも片付けているふうな口ぶりで言った。 「法ってなんだろうねー。どんな悪いことしても捌けないんじゃ理不尽だよ。大人の世界って、やだねー」 アリステアはチンピラたちを横目に見たが、彼女の眼はチンピラたちの向こう。彼らの所為で泣いた、見知らぬ誰かを見ていた。 「何ぼやいとんじゃコラガキィ!」 チンピラは懐からトカレフ(乱暴に述べるなら粗悪なハンドガンである)を抜き、アリステアに狙いを定め――。 「ン?」 た、その時には既に額に穴が開いていた。 アリステアを守るように、彼女の肩越しに腕を伸ばす『アリアドネの銀弾』不動峰 杏樹(BNE000062)。 トカレフとは比べ物にならない程美しく精度の高い銃から、ほのかに硝煙が昇った。 「世の中には、こういうやつらが少なからずいる。黴が生えるみたいに、蟲が沸くみたいに、石の裏に生まれる影みたいに」 頭上に銃口を向け、引金を引く。 天井スレスレでホーミングした無数の魔炎が矢となり、周囲のチンピラたちを焼き払った。 アリステアの手を引いて走りだす杏樹。 「少しでも闇(うみ)が払えるなら、焼き払いたい」 篠田組事務所。 リベリスタの襲撃に備えいくつかの防御策を備えた建物が今、8人のリベリスタに襲撃されていた。 スーツを着たヤクザ風の男が、赤い押しボタンを銃のストックで叩く。途端、エレベーターや階段に鉄格子が現れ、一部の通路を封鎖。建物内に火災報知器と防犯ブザーが混じったような音が鳴った。 それに伴い、通路脇に並ぶように設置された扉が開かれ、チンピラが飛び出してきた。 開いたばかりの扉を逆に蹴飛ばし、チンピラを薙ぎ倒す『騎士の末裔』ユーディス・エーレンフェルト(BNE003247)。 顔面を抑えてのたうつチンピラを踏みつけながら、後から出てきた敵の首を一刀のもとに斬り飛ばした。 「それが見過ごせない犯罪であっても、こちら(神秘)の世界に関係ないものなら世の法に任せるしかない」 「それが、私達がリベリスタである以上越えられない一線なのでしょう。わかります。それは、分かります」 仲間を連れて二階への階段を駆け上がる『祈りに応じるもの』アラストール・ロード・ナイトオブライエン(BNE000024)。 AFからオイルタンクを出すと、振り向きざまに剣で両断。空中で四散した油が階段へとまき散らされ、チンピラがドミノ倒しになって転がり落ちていく。 紙についた油を無視し、正面から飛び込んできたヤクザの攻撃を受け止める。 鉄パイプによる打撃だったが、あくまでフィクサードの打撃。乗用車をゆがませコンクリート壁を粉砕できる。 だがアラストールの剣には、ヒビ一つ入れられなかった。無論、彼女の身体にもだ。 「相手がフィクサードであるなら、私達の仕事です」 「フィクサード組織『篠田組』、その所業、見過ごすことはできません」 ユーディスの剣がヤクザの腕を肩から切断。続いて後続のヤクザの胸に剣を突き刺し、本人ごと薙ぎ払った。 「こちら(神秘)の住人である以上、心置きなく叩き潰させて頂きます!」 快進撃。そう呼んで差し支えないだろう。 鉄パイプや木刀、ナイフやドスで武装したヤクザの集団を、円で囲むような陣形で突き抜けていく。 それはさながら海をかき分ける水生哺乳類の様であり、土を掘り進む地底生物のそれであった。 対群衆。それも攻勢突破という状況において、これほど相応しい陣形も無い。彼女達は時として弱きを庇い、補い合い、ヤクザの群をかき分けていく。 「ごきげんよう、社会のゴミ共。世界の為の掃除活動に来たわ!」 『鋼脚のマスケティア』ミュゼーヌ・三条寺(BNE000589)は片手でマスケット銃を構え、正面のヤクザに発砲。球形弾丸が口から喉へ達し、首から貫通。急激な回転をかけてターンすると隣のヤクザの側頭部を右から左へ貫通し、そのままミュゼーヌたちの周囲を回るようにヤクザの胸や腹を貫通していく。その間に素早く火皿を解放、親指で弾くように火薬を籠め、火皿を閉じると同時に殆ど投げるように銃筒の内部へ弾を叩き込み、最後にぐるんと回して無理矢理整えると、背後に向かって発砲。縦横無尽に駆け回る数個の弾丸がヤクザ達を蹂躙する。 「さあ跪きなさい。地獄に叩き落としてあげるから!」 「調子に乗ってんじゃ――」 「おっとそれ以上は近づくなよ」 『リベリスタ見習い』高橋 禅次郎(BNE003527)が銃剣を足元へ流し打ち。 ヤクザ達は思わず足を止めるが、その間に額と胸に一発ずつ弾頭を打ちこんでやった。 「法で裁けない社会のゴミは掃除するに限るよな。俺は難しい御託は考えたくないタチなんだよ。ムカついたらドカンでいいだろうが」 「はっはー、気が合うじゃないのゼンジロちゃん!」 『フォートプリンセス』セルマ・アルメイア(BNE003886)は二枚の盾……否、二枚の装甲板をトレージャグルのようにくるくると回すと。ヤクザの頭を両側からサンドしてやった。 「あちきは小難しい事情なんかクソくらえだと思うね! ワルそーな奴がいる! サーチアンドデストロイ(見敵必殺)! これで充分、セルマちゃん流!」 盾を翳して突撃の構えをとるセルマ。 禅次郎は片眉を上げて銃を水平に構えると、そのまま群衆の中を突っ切って行った。 こうして彼らは、篠田組ビル三階へ一気呵成に駆け上がって行ったのだった。 ●篠田組攻略戦3階・最上階直前フロア 一気呵成に駆け抜けただけあって、階下から根性出して追いかけてきたチンピラやヤクザの群を相手にするというのは非常につらい作業だった。 人ごみだらけで視界が通りづらく、全体攻撃がブレやすくなり、絶え間なく全方向から囲まれているようなものなので気を抜けない。 キリの良い所で最上階の組長室へと飛び込みたかったが、狭い場所での飽和状態がそれを許さなかった。 次々迫るヤクザを、外や階下から増える分を上回る勢いで倒し続ける必要があった。 「次から次へとなんだこいつら。無限ポップか! 無限ポップしてるのか! くぬ、くぬ!」 半透明なダブルシールドで、押し寄せるヤクザをつっかえさせるセルマ。 ここまで来ると銃を持ったヤツも多く、持久戦の要であり回復役のアリステアを落とせば早いのではという短絡的思考に基づいて各方位から乱射してくるようになった。かといって庇いに回れば周辺を囲むドス持ちやナックル持ちが物量に任せて押し潰そうとしてくる。気を抜いたが最後死ぬ。そういう戦いに発展しつつあるのだ。 「チッ……来いよゴミ共。それとも、リサイクルできるだけゴミのがマシか?」 できるだけアリステアへの狙いを反らすべくアッパーユアハートで的をひきつける禅次郎。 ヤクザ達が短絡的だからか、五割近く惹きつけることはできたが、彼等の攻撃を一手に受けて耐えていられる自信は無い。 「一気に潰すわ。全弾撃ち尽くす覚悟でいて」 「望む所だ」 「死にたい愚図からかかって来なさい!」 「一人残らず焼いてやる!」 ミュゼーヌと杏樹が同時に天井へ銃口を向けた。 同時に引金を引き、同時に弾を射出する。 ホーミングした球形弾丸と魔炎の矢が辺り一面のヤクザ達を薙ぎ払って行く。 しかし仮にも篠田組本拠地の組長前を守るヤクザ達である。根性のある何人かが身体から炎をあげながらも食いついてくる。 「しつこいよ!」 本を乱暴に開き、魔方陣を出現させるウェスティア。葬操曲・黒が発動し、ヤクザ達を残らず撃滅、もしくは束縛していった。 ほんの数秒ではあるが、周囲の視界が開ける。 「今の内だよ、走って!」 ウェスティアは階下につながる階段にフレアバーストを乱射しながらバックダッシュ。 組長室への階段は身の丈2m近い大柄なヤクザが護っていたが。 「推し通るぞフィクサード!」 アラストールの突きが腹に刺さり。 「そこを退いてもらいます!」 更にユーディスの剣も突き刺さり。 その勢いのまま大柄ヤクザを地面から浮かせ、階段を駆け上がって行く。 ひときわ頑丈そうな扉を彼ごと突き破り、彼女達は一斉に組長室へと雪崩れ込んだ。 ●『不必要悪』篠田豪蔵 2mの巨漢が煌びやかな壺と共に床に倒れる。 口から血を流し、顔を上げようとする彼の後頭部を、ミュゼーヌが勢いよく踏み潰した。 高そうな絨毯に染み広がる血の色。 そんな光景を一瞥して、男は煙草を咥えた。 でっぷりとした腹に、指輪のギラつく手。 身の丈はたった今踏み潰した巨漢よりさらに大きかった。だからだろうか、組長室も4階フロアをフルに使い、天井もかなり高い。 「ここまでだよ。……悪い事をしたら、いつか自分に還ってくるの。だから、悪い事をしちゃいけないんだよ」 ミュゼーヌ達を盾にするように立ち、杖を構えるアリステア。 その後ろでは、禅次郎やセルマ達が踵を返して階下から追って来ようとするヤクザ達へ身構えていた。 剣を抜き、攻勢の構えをとるユーディス。 「貴方たちの商売もここで終わりにさせて頂きます。篠田組組長・篠田豪蔵――御覚悟!」 部屋の中に殺気が充満し、一般人であれば泡をくって逃げ出すような、むっとした空気がさらに煮詰まっていく。 そんな中、豪蔵は咥えた煙草に大きなオイルライターで火をつけていた。 妙に甘い匂いが部屋に流れ始める。 「あんたら、アークかい」 「そうだよ」 頷くアリステアに、豪蔵は世にもつまらなそうに煙を吐いた。 「ワシぁよく知らんのやけど、アークってのは『セイギのミカタ』みたいなモンなんか」 「……は?」 「まあええわい、ヤクザの事務所にカチコミかけるっちゅーのは理由は何であれおんなじ意味じゃ。ほれ――」 眉を寄せるミュゼーヌ達に、豪蔵は顔の前で手を振った。 煙草を灰皿に押し付ける。 ガラス製の大きな灰皿には、既に無数の吸殻が乗っていた。 「かかって来いや」 飛出したミュゼーヌとユーディスが最初に見たものは、目の高さで飛んでくるガラスの灰皿だった。大量の灰が空中で飛び散り、視界を無理やり塞ぎにかかる。 盾を翳すユーディス。固いガラスの砕ける音と衝撃。更に細かな灰が当たっては落ちる音。そして自らの脚を鷲掴みにされる感覚を得た。 「――!?」 振り払おうと身を捻るも、既にユーディスの身体は地面から離れていた。 豪快に部屋の風景が回転し、ミュゼーヌと目が合う。 目の前に星と鮮血が飛び散り、ミュゼーヌとユーディスは顔を叩きつけ合って転がった。 「ユーディスちゃ――」 「アリステア、前に出過ぎるな。と言っても、下がれもしないがな!」 禅次郎は階下から早速押し寄せるヤクザたちにアッパーユアハートをかけつつ、銃剣を連射していた。 放っておいても突っ込んでくるヤクザ達である。一見惹きつける意味は無いように見えるが、アリステアの回復ルーチンを単純化させる効果があった。 ……今回に限っては惹きつける割合が微妙にブレていたので少々混乱が生まれたのだが。 「このっ、おうちへ帰れっ! ヤクザ、ハウスッ! 駄目無理アリステちゃん車出して車ー!」 油(というよりタンク)を撒きつくし、空のタンクを階下へ投げるセルマ。相手は流石フィクサードと言うべきか、滑る床にも障害物にもすぐさま対応し、射撃やジャンプで次々対応していく。 だが乗用車が階段にがっちり挟まればどうだ! ……などと思いはしていたのだが。 「ええと、さすがにこの位置に車取り出すのは……無理かな……階段出た所ならなんとか」 「それでいいから、早く早く!」 アリステアに軽自動車を出してもらい、うんしょと持ち上げるセルマ。無人で尚且つ軽量の自動車ならまあ、傾ける要領で持ちあがらないこともない。 「これでフタすればちょっとは保つだろ! やーいやーいざまみろヤクザ今度こそおうちに帰――」 転がすように階段の入り口に突っ込もうとした軽自動車。その運転席に黒ずんだパイナップルが転がった。 なんだこれと思って覗き込んだその時、パイナップルもといMark2破片手榴弾が破裂した。 「う――おおおおおおお!?」 続いて重機関銃や対物ライフルを持ち出したヤクザが乱射。バリケードのつもりだった車が粉々に破裂・飛散し、鋭いカッターになってセルマ達を襲った。 ごろんごろんと転がって行くセルマ。 その勢いに乗じて駆け上げって行くヤクザたち。 アラストールは先頭の一人めがけて剣を振り上げる。野球のバットのように構えた剣が光り輝き、輝かしい軌道を描いてスイングされる。 階段の天井に一度激突し、そのまま数度バウンドして転がり落ちていくヤクザ。 「通りたければ私を倒せ。筋モノならば私のような若輩者に怖気づくまい! どうか!?」 「チィ……舐めんなよガキども!」 気弱なチンピラが怖気づく中、コワモテのヤクザ達が銃を乱射しながら突っ込んでくる。 弾を首の動きでかわす杏樹。 「狙いが甘い、反省してから来い」 本のページを乱暴に捲り、掌を鉄砲の形にして突き出すウェスティア。 「飛び散れ!」 「溺れろ!」 階下へ向かって放たれるスターライトシュートと葬操曲。 入り乱れる黒鎖と弾丸がヤクザ達を次々に跳ね除け、転げ落としていく。 「この場は暫く抑えていられる筈だ。あとは、ミュゼーヌ達に任せるしかない」 銃に弾を込め直し、禅次郎はぐっと奥歯をかみしめた。 その一方。 ミュゼーヌの放つ鋼鉄の周り蹴りが空を裂く。 「私は、貴様のような外道がこの世で一番嫌いなのよ!」 豪蔵はその足を両手で掴み取り、相撲のような構えで衝撃を殺すとミュゼーヌを一本釣りにした。頭上高く振り上げ、一転して地面へ叩きつける。 「ワシはおどれらンような『セイギのミカタごっこ』しとる奴らが大嫌いじゃボケェ!」 背後から上段に斬りつけるユーディス。豪蔵は素早く半身を捻り、剣を拳の指輪で受け止めると、力技で跳ね上げた。 「なんや聞いとったら勝手な理屈捏ねよってからに。お手々繋いで仲良しこよしできねぇヤツは一定数おるんじゃ。カツアゲだのケンカだのヤクだのしないと生きていけん奴らがおる。そりゃ悪い奴等じゃ。社会のゴミじゃ。そいつらがカタギに迷惑かけんように、じめじめの岩の裏で生活させのがワシらじゃろうが! おどりゃあ、仲良くできんヤツは皆殺しか! ワシらよりよっぽどタチ悪いわ! 頭おかしいんとちゃうかボケェ!」 「頭がおかしいのはどっちよ」 ミュゼーヌは脚を掴んだ豪蔵の腕に銃弾を叩き込み、一度後転。素早く立ち上がると、大きく足を振り上げた。 同時に、ユーディスが剣を水平に構え、刃を煌びやかに光らせる。 「人の心につけ込み食い物にして来た貴様に、鉄槌を!」 ミュゼーヌの豪快な踵落としが豪蔵の胸に叩き込まれる。軽くよろめいた豪蔵に、強烈なリーガルブレードを繰り出すユーディス。 二人は目をぎらりと光らせると、更に身体をぐいと捻った。 ミュゼーヌの跳躍からの後ろ浴びせ蹴りと、ミュゼーヌによる一回転からのなで斬りが同時に炸裂。 豪蔵は血を吹きあげ、その場に崩れ落ちた。 「ぐ……ふ……」 「交渉による解散? 冗談じゃないわ。ここで死ね、社会のゴミ」 豪蔵の顔面に足の裏をつけ、ミュゼーヌは神聖の力によって粉砕した。 ●空席、1。 「お、オヤジ……」 事態を察したヤクザやチンピラたちは騒然となった。 怒りに震える者、絶望に崩れ落ちる者。受け取り方は様々だったが、それを最後まで見る必要はなかった。 リベリスタ達は組長用の脱出路を使って篠田組ビルから離脱。 無数の死体の中に組長の死体を付け加え、この依頼を完遂したのだった。 結果として、いくらかの負傷者は出たものの、一人の死者も無く攻略戦は終了。 篠田豪蔵は死亡し、篠田組は空中分解。 九美上興和会直系組織が一つ、空席となったのだった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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