●恐山の暴力担当 恐山派フィクサードの『係長』は、重傷の身体を引きずって出社した。 『係長』が所属する企業は、通称『商事』という。恐山が出資する営利団体であり、革醒者へ"仕事"を仲介して、仲介料を取る企業である。 とかく雇われ者を使う立場であるオフィス勤めで、且つ役職持ちであれば、相応の責任が降り掛かってくる。 「どいつもこいつも、夏休みか」 オフィスはガランとしていた。 デスクに着いてPCを立ち上げて、業務に取り掛かる。 メーラーをダブルクリックした後、業務ソフトを立ちあげてデータベースに接続する。 PCの動きが何とも鈍い。 仲介する依頼の性質は多岐に渡り、ノーフェイスを護衛するというフィクサード的なものから、これを倒したいというリベリスタのもの、果ては夕食を作ってくださいという案件まである。 『係長』がひと通り目を通したタイミングで、ようやくメーラーが開いた。 未読メールの横の数字が、一気に(6)となる。 未読メール一覧 From Subject 千堂 遼一<r-sendo@jp.osoreyama.c... 【重要】暑いし提案があるんだけど 怪盗ストろベリー<strawberry@jp.o.. (´・ω・`)ぴっくいってきたれす 凍イ出 アイビス<i_ibis@jp.osorey.. 【夏期休暇】9月まで実家行ってます 干興院<kankyo-in@jp.osoreyama.. 【欠勤】尻に(´・ω・`*)入れられて痔になった 巡 三四郎<sun4ro@yomigatsuji.n.. ヤマノケなう 如月・ノーム・チェロスキー<cello.. 新しい兵器ができたのだよ 『係長』は、下から3つを読まずに削除した。 どうせ大したことは言っていない。 次に【重要】と書かれた千堂からのメールを開く。千堂は恐山会の最高権力者に雇われているエージェントである。 同じ恐山だが、千堂が"暴力"という外交カードを必要とした際、仕事を回してくれるお客様でもあった。 謀略の恐山。 謀略とは、外交カードを駆使して、目的を達成する"役"である。 ワンペア、ツーペア、フルハウス。…… 『商事』のその本質は、恐山が所有する"暴力"という名の外交カードの一枚である。 「『美味いカレー屋をリサーチしてレポートにしてくれない? あと、辛すぎるのは厳禁でイチゴのデザートがあるといいらしい。』……だと」 恐山最高権力者の認印付き依頼書がpdfで添付されていた。 : : : 昼食よりやや早い時間。 『係長』は女性受けしそうな、お洒落な内装のカレー屋さんを見つけて入店した。『華麗なるみっひろきい』というらしい。 『係長』の隣の卓では、一般人の母子が美味そうにカレーを食べている。 二人をぼんやり見ているうちに、カレーが出される。味はなかなかバランスが良い。 「……何考えてんだ。あのバランス芸人」 ふと厨房から妙な音が鳴りだした。 ごっぼごっぼと、うす気味の悪い音を立てている。 突如、カレーの塊とも言える球体が厨房より躍り出る。 躍り出た球体は、悪意を携えて、そしてこの場にいる全員目掛けて爆裂四散した。 ●カレー屋『華麗なるみっひろきい』 「カレーのエリューション」 ――ガタッ! リベリスタ達は驚愕した。 『リンク・カレイド』真白 イヴ(nBNE000001)が告げた恐るべき敵の存在。思わず立ってしまった者は、きっとイエローだろう。 ブリーフィングルームを静粛が支配する。ごくり、と唾を飲む音さえ聴こえる。滴る汗。 「カレー屋『華麗なるみっひろきい』っていうところのカレーが、エリューション化するの。何も対処しないとフェーズ2」 ならば、早々に出向いて流し台で処理してしまえば良い、と意見が出る。イヴが首を振る。 「たべものを粗末にしてはいけないと思うの」 いやそうじゃなくて。 「んと、洗い場に流そうとしたり、強硬手段を使うと、何も対処しなかった時より強力になる。フェーズ3で」 「い、いきなりフェーズ3……」 粛々と胃に全て納めてしまえば、革醒を食い止められるという。 また、少しでも食べていれば、時間切れとなっても弱体化するとの事だった。 「もう一つ」 イヴは言葉を一旦切って、もう一つの懸念を話しだした。 「恐山派のフィクサードが食事しているの。たしかちょっと前に事件起こしてたと思う。無視していいし世間話、交戦してもいいけど――」 本命はカレー。こちらを対処できる見込みがあるなら、という事か。 そしてイヴが退室する。 どうするか。 リベリスタ達は相談を始めた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:Celloskii | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年08月30日(木)23:15 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●完全世界 -Curry World- スパイスの香りが鼻孔をくすぐった。 甘辛い味わいが口中にイメージされて、空腹を刺激する。 とろけた脂の甘みと、ピリッとした辛さ。 目を瞑れば、凝縮された旨味が"とろり"と白飯に絡むシーン。 『もう本気を出す時じゃない』春津見・小梢(BNE000805)は辛抱堪らなかった。 りん、と入店を知らせるベルが鳴る。 「この時のために、今日は朝食を抜いて……は来ないで普通にカレー食べてきましたな」 『怪人Q』百舌鳥 九十九(BNE001407)は、ゆったりと落ち着き払いながらも、そわそわ早足で着席して『カレー百人前』を注文した。 「どうも、アークです」 「お、おう……?」 九十九は隣の卓の『係長』に軽く挨拶をして、空いていた卓を係長の卓へと合体させた。 「おい」 「はい?」 「カレー大好きじゃよカレー。黄色カラーじゃし!」 『巻き戻りし残像』レイライン・エレアニック(BNE002137)は、思わず耳がぴこぴこしている。大好きなカレー。『係長』などに構っている暇はない。 「黄色あんまり関係ねぇだろ」 「え? そ……そうなのかえ……」 まさかの『係長』からのツッコミに少し狼狽する。しかし耳のぴこぴこは止まらない。カレーの覚醒を阻止せねば、と胸裏に響かせる。ぴこぴこ。 「宿題とかやってる場合じゃないですよね……まったくやってませんが!」 「カレーでも食べないとやってられません」 『第28話:あつはなつい』宮部・香夏子(BNE003035)は宿題そっちのけで滾っていた。小梢と共に滾る。 着席即座にマイスプーンをキラリと出す。カレー食べ放題の任務。スーパーカレータイム。 香夏子が小梢の表情を見れば、表情が乏しいながらも目はキラキラとしている。 小梢が香夏子の表情を見れば、全てを投げ打った決意が見られる。 本気(ガチ)だ、と互いが認識するのに、1秒もかからない。 1.5秒にしてうずうずとそわそわが止まらない。 2秒にして、九十九のそわそわと連動し、卓がカタカタ揺れる。 「にゅふふふふ」 『ぴゅあで可憐』マリル・フロート(BNE001309)の目的は他の違っていた。謀略を巡らせて、ロイヤルストレートフラッシュの"役"を狙う。 早速デザートのメニューを開く。何故、と一同に?マークが浮かぶ。 「ハロー。おひさしぶりー」 「ふふふ、また会いましたね係長さん♪」 『Trompe-l'?il』歪 ぐるぐ(BNE000001)と『ヴァイオレット・クラウン』烏頭森・ハガル・エーデルワイス(BNE002939)が、悠長な調子で『係長』に話しかけた。 二人は先日の"係長戦"を思い出す。ガチで追撃した、あの良き夜を。 ――ガタッ! ぐるぐとエーデルワイスを見るや、『係長』は椅子から転げ落ちそうになった。狼狽の顔色が警戒へと変わる。 「カレーくーださーい!」 ぐるぐは『係長』の横によちよち座る。 「おい! 何で、俺の横に来る!?」 「これも合縁奇縁、相席失礼しますねー♪」 エーデルワイスもひらひらと横に座る。 「いや、おいクソアマ、待――」 「ちゃーっす」 『イケメン覇界闘士』御厨・夏栖斗もまた、当然のように『係長』の近くに座る。 「御厨 夏栖斗じゃねぇかっっ!?」 アークと恐山会は、過去に共同作戦を展開している。 抜きん出た夏栖斗の名声は随分と恐山に伝わっている様だった。 「待って待って、今は戦う気ないって、任務任務」 「任務?」 夏栖斗がゆるーくかるーく説明する。カレー爆散を止めるためにカレー食いにきた。 「どうせだし手伝ってくんね?」 「経費は沙織から出ますから幾らでもカレー驕りますし、依頼料も出せますよ。金銭でのギブ&テイクね」 エーデルワイスからも提案が出る。 『係長』は舌打ちしながらそっぽを向いた。しかし席を外す様子は無い。 了承と受け取って良いと見るや、夏栖斗とエーデルワイスは胸裏でガッツポーズをした。 レイラインとマリルの耳がぴこぴこ動く。卓がカタカタ鳴る。 幻視で素の姿は誤魔化されているものの、隣の卓の母子がぽかーんと見ていた。 ●辛世界 -Curry Curry Curry Curry Curryyyyy!! - 一匙、また一匙とカレーライスを口に運ぶ。ルゥが良く染みたご飯は、何とも旨かった。 良い色に漬かった漬物が目にも嬉しい。 素材を丹念に煮こんだ甘み。とろっとろっのルゥとご飯が、頬にじわりと染みる。 「折角のカレー、ゆっくりよく噛んで味わわなきゃ勿体ない」 小梢は、先日のバイデン戦で"運命"を消耗していた。 消耗した分を回復するのには、美味しいカレーが一番! と考えて、この店のチラシも用意している。アザーバイドデータのファイルからチラチラする。 楽しみにしていた甲斐があった味わいが、口一杯に広がる。1皿15秒。 「『食』のギアを最大限に高めるのじゃ……!」 しゃきーんと耳を尖らせ、しゃきーんとスプーンを構える。 残りの量や時間を気にしているとペースも狂うし精神的にも辛くなる。トップスピードを伴った速さでカレーを食む食む。 「ひー熱いのじゃー!? み、水ぅー!」 猫舌であった。 今日の日の為に、大食いの本(漫画)で予習してきたが、水は必要最低限に抑えろという重大な要素が障壁となる。 「もー! 大食いは難しいのう!」 「香夏子はこの日の為に朝昼晩とカレー以外のものは食べずに来ました……!」 香夏子はちびちびと、そしてもぐもぐ良く噛んで、味わってペースを乱さずに食べる。水も極力摂らない。 ああ、絵日記も書かなくちゃ、と考える。 考えるが、手が止まらない。幸せな気分だった。 食べ方はそれぞれ異なっていたが、大食いと早食いの知識を伴っていた。 「おかわり」「おかわり」「おかわり」 疾い。 「私の分まで食べられないかの方が心配ではあります」 九十九が見れば、全員一様に身体の隅々まで"血中カレー"がもりもり満たされていく様子が伺えた。 九十九は甘口を頼もうと考えていたが、ピリ辛さと甘さの塩梅が実が良い。 そして素直な感想に、飾り気のある言葉など無用。 「うむ、美味い」 「香夏子しあわせ」 「フーフーッ……ぱくっ、美味しいのじゃ」 「うーん、マンダム♪」 「辛すぎず甘すぎずこくもあってまろやかなカレーなのですぅ」 マリルは苺のパフェを発見していた。胸が躍る。 「デザートの為にはいくらでもカレーを食べ続けるのですぅ。いくらでも頑張るですぅ」 先を行く4人に負けないようにカレーを食べ―― 「にゅっふっふ、あたし天才なのですぅ」 ひょいひょいとカレーを九十九の皿に輸出する。これぞ謀略のロイヤルストレートフラッシュ! 九十九は気づいていたが、むしろカレーが増える事に、うほほと喜んでいた。 積み上げられる皿は、悠然として眉に迫る。 「どんだけカレー好きなんだ、お前ら……」 『係長』は食いっぷりに驚き、次に呆れた顔をした。 九十九と『係長』の目が合う。 九十九が「貴方もカレーが好きなんですな」と目で語りかける。カレー好きに言葉は不要。 『ついでにデザートも奢ります。何、迷惑料ってやつですよ』 『そりゃどうも』 ぐるぐは自前のお子様ランチの旗をカレーに刺して食べていた。 ニンジンは苦手なので『係長』の皿へと移す。 「おい」 「おいしーよ!!」 「いや、そうじゃ」 「おいしーよ? ぐるぐさんの仲間にしたげよー! はい旗」 「聞けよ」 「あ、いちご詳しい子いるよ。ほら、あっちのまりるちゃん」 「にゅ!? なんですぅ?」 突然の指名にマリルが驚く。 「まあ、そんな顔してるもんな」 どういう顔なのか。 「てか、口拭け」 ぐるぐの口を『係長』がテーブルナフキンで拭いた。なすがままに拭かれて、えへへとカレーを再開する。 「ぐるぐさんもぐるぐ砲ってのやってみたいんだーあれかっくいいよね!」 よじよじと『係長』にへばりつく。 「何か親子っぽいね。あ、おねーさん、おかわり!」 夏栖斗が、店員に何度目かのおかわりをした。 この時期は辛めのカレーが美味い。カッと汗をかいて、さわやかな汗で涼を得る。 「すっげー、オイシイね。おねーさんの愛とかこもってるの?」 ふふ、と笑顔で肯定したお姉さんは、おかわりを作りに戻っていく。夏栖斗はルゥ多めでご飯は少なめと付け加えてから、係長の方を向いた。 「でさ、係長。これ、君んとこのあの自由なバランス芸人の指示っしょー?」 「情報漏洩対策を厳しくしてんのが馬鹿らしくなるな」 『係長』はスプーンでジャガイモをころころ遊ばせている。 「オイシイカレーショップとか知ってるし、そっちも良かったら手伝うよ。どうせストロベリーちゃんのわがままでしょ?」 「正直、何考えてるのかは知らん。――が、手伝って貰うには及ばん」 申し出は嬉しいがな、と続けた。 「危ない仕事して御家族は心配しないのですか?」 エーデルワイスも世間話に加わる。 「お前な、俺に"御代はもちろん貴方の命♪"とか言っておいて……」 「さあ? 何のことでしょう♪」 ぴらぴらと笑いながら、すかさずハイリーディングを施す。 「……お前」 得た情報は、係長の娘らしき映像。 革醒の有無や、現住所は『係長』自身にも不明。 また、この場。最悪、リベリスタ達との交戦も考えているようだった。 しかし"Black Box"が、あと少しで効力を失うという懸念が見られる。 「可愛らしい娘さんですね。足を洗ったらどうです? ふふ」 『係長』は苦虫を噛み潰したような顔をした。 ●88mm大陸弾道ドリルバンカー -Nice Joke- カレーの大食い早食いは続いた。 消化の早い者、容量のある者。スピード。 多くのカレーがリベリスタ達の腹に納まった。 ――ごっぼ――ごっぼッ! 異変は音からだった。 くつくつ、という音が、まるで沼地で弾ける水球の様に重くなる。 ――ごっぼ――ごっぼッ! やがて、マグマの様に重厚となり、終いにはうめき声とも産声ともつかない。 突如、『華麗魔神』が生じた。 「きゃあ!?」 店員にぶつかり、バウントするように厨房から躍り出る。 「くっくっく、カレーです」 九十九が真っ先に動いた。手にはカレー皿。一般人である母子の母を庇いながら、避難を促す。 「来おったな!」 レイラインもカレー皿を放さず、高速で母子の子へと庇いに入る。 「……もったいない」 香夏子が無念を呟きながら椅子や卓をどけると、ここで華麗魔神が爆裂四散した。 しめやかに飛び散るルゥ。 スパイスの香りが一層濃くなり、辛世界へと誘う。涅槃への解脱を誘う。 「熱っ! 熱いのじゃー!?」 「にゅー! 熱いのですぅ、辛いのですぅ!」 レイラインとマリルの目にカレーが入った。尋常じゃなく痛い。 お洋服もカレーだらけとなる。涅槃(怒り)がこみ上げてくる。 「俺はここまでだ」 『係長』が逃走を図る。 「あ!」「あ!」 カレーまみれになりながらも、エーデルワイスとぐるぐが、『係長』を追う。 「食後の運動とかしようよ、ぐるぐがさ、すっげーあんたのこと気にしてるの」 「ヤだよ」 「えー」 夏栖斗も続く。 「しかし、カレーを食べに来て戦闘になる係長は、何だか災難ですな」 爆裂四散を魔力盾で防いだ九十九が、のんびりした調子で銃を構える。 「あ、小梢さん、お願いします」 「はいー。ブレイクひゃー……もぐもぐ」 小梢がゆったりとスプーンを高らかにする。 スプーンから放たれた破邪の光。マリルとレイラインの涅槃(怒り)が解除される。しかし付着したカレーは消えない。 「なにこのカレーうどんが服にかかっちゃった時みたいな絶望感!?」 我に返ったレイラインの悲鳴。 「にゅー! にゅ?」 マリルもカレーでべとべとだった。悲しい。悲しいが、持参したデザートの安否を確かめる。 問題無さそうだった。 「ま、待つのですぅ!」 マリルも『係長』を追いかけた。 「――もぐもぐもぐ」 : : : 「あり? 変身しないの?」 「ぶっ壊しておいてよく言うな!」 ぐるぐが、手をぐるぐる回転させて『係長』を追跡する。 「まぁいいや、あしょんでー!」 「ヤだよ!」 「うふふ、帰っちゃ駄目ですよ~」 エーデルワイスもバンバカ発砲しながら『係長』を狙う。 「逃げたらアークに通報して、娘さんを拉致監禁誘拐――もとい善意の保護をしちゃいますからね♪」 挑発には乗らんとばかりに無言の返答。『係長』の足は止まらない。 「保護した娘さんは私があはははは♪ 言わずもがな」 『係長』の足が止まる。 「……大したクソアマだ」 「私には褒め言葉です♪ 守りたいなら私をここで殺す事。詳細を知ってるのは私だけですから♪」 脅迫は成功。前は逃げられた。同じ轍は踏まない。 「よし! 追いついた!」 夏栖斗も合流する。 「……チッ」 『係長』の舌打ちが大きく響く。これで3対1。 数は優っている。質も本来であれば劣ることは無い精鋭三人。圧倒的有利。 問題があるとすれば一つだけ。 「カレーを食ってたら、リベリスタに喧嘩を売られた……か、意味がわからん」 係長の破界器。 とあるフィクサードが作成した"変態兵器"が目の当たりになる。 こ ん な も の 88mm大陸弾道ドリルバンカー 「いや、なんだこれ」 夏栖斗の脳裏に、こんな浪漫を携えた知人がチラチラ浮かぶ。 巨大な筒。筒からガンベルトの様に連なるドリル。 ドリルが一本、筒に飲み込まれると、悲鳴のような音が鳴る。青白いスパークが迸る。 「あり? 今日は一個だけ?」 「ぶっ壊しておいてよく言うな!」 ぐるぐの言葉と共に、係長戦の火蓋が切られた。 ●華麗なる魔神 -Aquarius- 二箇所での戦い。 カレー側は優勢に進む。 怒りと呪いを伴った攻撃も、小梢のスプーンが光れば、大事には至らない。 係長側は大きく劣勢であった。マリルが合流して更に激化する。 「超レアレアないちごをふんだんに使ったいちごのお菓子をもってきたのですぅ。あたしたちに勝負で買ったらこのお菓子はくれてやるですぅ」 いちご好きの間では知らない人はいないほどの有名なお菓子である。 どやぁとお菓子をちらつかせながら、アーリースナイプを撃つ。 「苺芸人なら釣れるんだろうがな、まあくれるんなら貰ってやる」 逃さない為の作戦は、ほぼ成功と言えた。 あとは倒すだけだが―― 「さぁ懺悔の時間だ」 断罪の魔弾とほぼ同時に、夏栖斗が掌を当てる。当てて衝撃を叩きこむ。 「何で麻痺にならないん?」 「こいつさ。気色悪いシロモノだが」 『係長』は得物を構え直す。 「もう少しで、中の『シッポウ』が燃えちまうんだわ。だからな――」 夏栖斗の眼前に、砲口が向けられる。 「――速攻で行くぜ」 目の前の青が赤くなる。赤色が揺らぎ黒になる。 ぐるぐが溜めを開放する。 「ぐるぐさんそれ欲しいなぁ!」 「憎悪は私の本質よ。貴方の憎悪を見せて私が見極めてあげるから」 ぐるぐもエーデルワイスも、何が来るかを察した。 ドリルが発射される。爆発する。 黒いドーム状の火球。ドームに描かれた真っ赤で不気味な文様――係長砲。 まだだ。 運命を火にくべて立つリベリスタ達に、『係長』は静かに言葉を続ける。 「もう一回」 : : : 「早く倒して合流しましょう」 香夏子はそう言いつつも、カレーに未練を残していた。 二本の指の間から生じた道化の札を放る。道化が舞って嘲笑いながら、華麗魔神を切り裂く。 「ですな。速やかに撃破を」 九十九が魔銃を構える。最も核となる部分を察知し、狙い、精密に―― 発砲と同時。弾丸の横からレイラインが前に出る。 「わらわの服ー!」 長剣からの一振りにより、一陣の風が鳴る。涅槃逆巻く空気を引き裂く。 道化の嘲笑い、銃声、一陣の風が、和気あいあいの空気を引き裂き、華麗側は決着となった。 香夏子は、係長側が劣勢なら合流を考えていたが、戦況を把握できない所まで場を移されたのが手痛かった。合流の為に足を速めると、マリルが道端でにゅーにゅー言っていた。 「ほんとはくれてやりたくないけれどしょうがないのですぅ」 しょんぼり。係長の姿はなく、レアレアなお菓子は持ち去られた。 ぐるぐ、エーデルワイスは目を回している。 耐久力の高い夏栖斗が言うには、数が減った所で逃げられたという。 「悔しいなー。でもカレー美味しかった」 正直、マジで旨かった。 傷つきながらも、存分に堪能した心持ちで、リベリスタ達は帰路についた……? 「おねーさん! おかわり!」 「いちごパフェ美味しいですぅ」 「係長の娘さん、拉致決定ー! ぱく」 「次は、ぜ~ったいラーニングしてやるのですよ」 「フーッフーッ、ぱく。ん~美味いのじゃ」 「絶品。至福の極みですな」 「あ、香夏子ちゃん、絵日記は?」 「もぐもぐ……あ、そうだった」 『香夏子は小梢お姉さんとカレーを食べに来ました……とても美味しかったです……まる』 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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