●早すぎる冬 憎い 悔しい 私は此処で凍えているのに 私を捨てた両親は今も村で安穏と暮らしているのだろうか 私より働き手になると判断されて手元に置かれた兄や姉は今も温かな炉辺を囲んでいるのだろうか 貧しさが憎い 私を捨てた両親が憎い 手元に残された兄弟達が憎い 凍らせてやる、凍えさせてやる 私の孤独を、凍えながら体温さえ奪われていったこの苦しみを、まずはあの村から――…… そして世界を全て雪と氷で閉ざしてやろう ●終わらない冬 「北海道の農村で雪が降り始めたみたい」 『リンク・カレイド』真白 イヴ(nBNE000001)は静かに告げた。 「この時期に雪が降るわけがない。エリューションの仕業なの。 エリューションは口減らしや姥捨てが普通にあった時代に生きていた少女。 口減らしのために山に捨てられて、それっきり省みられることがなかった。 そのまま息絶えたの。 少女は配下エリューションとして雪で出来た子供たちを使うわ。 この子供たちの力の源も、少女と同じ雪の季節に捨てられた子供たちの無念や憎悪。悲哀。 子供たちは雪玉を硬化させて投げつけてくるし、少女は吹雪を巻き起こしたり凍りついた縄を鞭代わりに攻撃してくる。 倒してもいいんだけれど……出来れば説得というか昇華をお願いしたい。 子供たちも子供たちを操っている少女も、本心からの『人の温もり』を感じて人の温かさに触れることが出来れば昇華されるから。 憎悪しか覚えていない彼女たちに最期位温かさを思い出させてあげて欲しいの」 力ずくで退治しても、私は責められないけれど、可哀相だと思うなら……とイヴは独り言のように呟いた。 「場所は少女の亡骸があったと思われる山中よ。 それ程標高は高くない山だけれどもう雪と氷の世界になってる。 足を滑らせないように気をつけて。 其処からふもとの農村へと雪が降る地帯が広がっていってるから、食い止めないと全世界が終わらない冬を迎えることになるかもしれない。 少女の亡骸を見つけることは雪があるせいで無理だと思うけれど……魂だけでも、救ってあげて」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:秋月雅哉 | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年08月26日(日)22:48 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●哀しさゆえに、少女は微笑む 北海道の農村地帯近くの山。 さほどの標高ではなく、今はまだ八月だというのにその山は雪に覆われている。 寒波は農村の作物に深刻な影響を与え、このままでは収穫が難しいと村人達は困り果てていた。 どんよりとした灰色の空から舞い落ちる、純白の雪。 いつの時代も冬になれば必ず降っていたこの雪が、今回明らかになった悲劇の象徴だ。 口減らしのために親に山に置き去りにされた子供。 寒さで凍え死んだ子供。 そのまま親に忘れられたら。 亡骸さえ弔ってもらえなかったら。 その悲しみは、嘆きは、いかばかりだろう。 憎しみが親恋しさを凌駕したとして、誰が子供を責められるだろう。 雪の中、継ぎはぎだらけのボロボロの着物を着て少女は笑っていた。 むき出しの細すぎる足が痛々しい。 「あはは、凍れ、凍れ、凍え死ね。私の苦しみを少しでも思い知って死んでしまえ!」 涙を流しながら少女は笑っていた。 少女の周りには雪で出来た子供達。 此方も着物はボロボロで身体は雪でもかつて実在した子供だとうかがわせるものがある。 「……凍らせて、凍らせて。全部全部終わりにするの……」 一方山の麓には八人のリベリスタが事の収束をはかるため集まっていた。 「寒かった。 ひもじかった。 寂しかった。 辛かった。 悲しかった。 ……大変でしたね。 でももう終わりにしましょう。 泣く人が増えても楽にはならないのですから」 雪白 桐(BNE000185)が山頂を見上げて呟く。 「いつの世もエネルギーと食糧問題、そして貧困は密接に関連している。 そして飢饉などに襲われると姥捨て山や子供の間引きなどが行われるのは必然といってもいい。なお、北海道は開拓初期に何度か飢饉に襲われ全滅寸前まで追い込まれる事態が発生している。 と、真面目なことを言ってはみたが僕とて二人の娘の父親だ。 全滅を避けるため、選ばなければならなかった気持ちは分かるし、捨てられた子供の気持ちも痛いほどわかる」 『灼熱ビーチサイドバニーマニア』如月・達哉(BNE001662)は捨てた者と捨てられた者両方の立場に立って考えているためか少々難しい顔で唸る。 「供養碑、ありましたよー」 番町・J・ゑる夢(BNE001923)が半ば雪に埋もれかけている供養碑を雪の中から掘り出した。 口減らしがあったということは子供達は着物だろう、と推測して彼女も着物を着ているが果たして雪山登山に着物というのは大丈夫なのだろうか。 「じゃあ名前をメモしてっと……。 それにしても……。 一人は寂しい、一人は怖い、捨てられるなら尚つらい。 捨てた家族は凍える季節に放置していけば、雪が全てを覆い隠してくれると思ったかしら? 寒い寒い、この上なく白々しい」 『白詰草の花冠』月杜・とら(BNE002285)が供養碑に残った子供達の名前を記す。 真新しい供養碑は村人の話によるとこの季節はずれな雪が降り始めてから祟りではないかと建てられたらしい。 いまさらなにを、と思わなくもないが説得の材料にはなるかもしれない。 「凍えるなか餓死するのを待つのはきっと一番苦しい死に方だな。 捨てる他ないならせめて苦しまないようにしてやれなかったんだろうか」 『輝く蜜色の毛並』虎 牙緑(BNE002333)は供養碑に祈りを捧げながら顔をしかめた。 「凍り付いて迷子になった子供達の心。 彼らの心が少しでも癒されるように。 幸せを、感じてもらえるように」 隣で『ディフェンシブハーフ』エルヴィン・ガーネット(BNE002792)もまた祈りを捧げる。 「当時としては生きていく為に仕方なかった行為だとしても された方は恨むでしょうね、憎むでしょうね、呪うでしょうね。 まして今更取ってつけたように供養碑なんて……」 『ヴァイオレット・クラウン』烏頭森・ハガル・エーデルワイス(BNE002939)は供養碑が建てられた経緯を知ってやりきれなそうに唇を噛む。 『霧の人』霧里 まがや(BNE002983)はやる気なさそうに供養碑とこれから向かう山を一瞥する。 「そろそろ行こう」 ●哀しい、憎い、辛い……寂しい エーデルワイスが感情探査を使うと吹雪の先だという結果が出た。 後は吹雪に向かって歩くだけ。 各自飯盒炊飯の道具やらスコップやら色々持っているだけになかなか歩は進まない。 やがて一際強い風が吹いた。 「何をしにきたの?」 冷え切った声。 ボロボロの、膝丈までしかない着物。 ガリガリに痩せた小さな身体。 少女の年は十二か、三か。 身体が小さいだけで実際はもう少し上なのかもしれない。 八人を見る目は不審と拒絶の色しかない。 「寒かっただろ? 食いもん持ってきたぞ!」 牙緑の笑みに返って来たのはしかめられた顔と雪つぶて。 「今更ご機嫌取りのつもりなの?」 「なんのかんの言って救われたいのかい? あんまり他人に期待するなよ……どーせ誰も助けなんてくれやしないって。 自分の過去が証明してくれてるでしょう? ねー」 「救われたいんじゃないわ、壊したいのよ!」 「まがやさん、敵対感情あおってどうするのよ……」 「だってわたし暇つぶしに来ただけだし」 まがやの言葉に雪つぶてが勢いを増す。 エルヴィンはその中を一歩ずつ少女に向かって近づいた。 雪で出来た子供達が行く手を遮る。 「寒くて辛くて、ずっと憎んで来たんだな。 でもさ、もう苦しまなくていいんだ。 もう、休んでもいいんだ。 ほらこっちに来いよ、暖めてやるからさ」 「今更、温もりなんてっ……」 「そういうなよ」 手を広げても長年凍りついた心はそう簡単に溶けたりしない。 更に歩を進めて少女をそっと抱きしめた。 小さな体がびくりと震える。 「お姉ちゃんに触るな!」 「人間なんて嫌いだ!」 「悪い人間ばっかりじゃないぞ」 牙緑が雪で出来た子供の頭を撫でる。 「でもねーちゃん守ろうとするのはえらい! そんで、オレたちは敵じゃない。 言ったろ? 飯、食おう」 「そうそう。お腹が空くといらいらするし、まずは一緒にごはんにしない?」 とらも雪つぶてに耐えながら近づく。 「雪娘と雪の子の相手ということで、私も着物をまとってきましたよ★ え? 着方が違う? ははは、ソンナコトナイデスヨソンナコト」 「…………え。それ着物なの」 ゑる夢の言葉に子供達が呆ける。 「着物に見えませんか?」 「着方、違うし……柄も、派手だし……継ぎはぎ……ないし……」 「とらは鹿でも狩ってくるねー。……友達だったら、やめるけど」 「別に、友達じゃない……」 「じゃあみんなで自然の恵みを頂こう。ちょっと待っててね」 背中の翼で鹿を探しに行くとら。 子供達、呆然。 「クリームシチューを作る用意をして来たんだ。食べたことあるか?」 「…………くりーむ?」 「ないか。そうだな。美味いから一緒に食べよう」 達哉が手際よく料理の準備を始める。 「な、なんなの、貴方たち……何しにきたの……」 少女は困惑気味だ。 「貴方達と親交を深めにきたんですよ。……優ちゃん」 「何で……私の名前……」 「麓にね、供養碑があったんです。貴方たちの。 忘れられたわけじゃ、ないんですよ」 「そんなの……だって、誰も来てくれなくて……見つけるのは私と同じ捨てられた子の死体ばっかりで……迎えなんて、一人もっ……!」 「言いたい恨み言があればぶちまけていいですよ、叩きたければどうぞ自由に。 でももう全てを恨むのはやめてください。 心まで凍らせてしまっては貴女が辛くなってしまいますよ」 「ぅ……」 「こういう時は甘いもの、です。チョコレート、どっさり持ってきましたよ」 削って湯煎で溶かして型に入れたら雪原にぽとり。 「ほら、綺麗なハートチョコができましたよー。食べてみませんか? あなたたちの時代には、こういう甘いものは貴重品でしたよね。 時代は移ろいました。悲しみは消え去ってはいないけれど、でも、昔よりは良くなってるんじゃないかと思います。 だから、そろそろ、巡り巡って、帰ってきてくださいなー」 「……何これ、炭……?」 「チョコレートですってば。食べれますよ」 見た事のない物体(チョコレート)に再び警戒心をもたげた子供達に言うより見せるが早いとゑる夢はチョコレートを食べてみせる。 「甘くて美味しいんですよ」 どうする? と視線で会話する子供達に一つずつチョコレートを口の中に放り込んでいく。 最初は口の中に食べ物を入れられたことへの驚き、次いで食べたことのない甘さへの驚き。 「……美味しい」 少女――優が思わず呟く。 ゑる夢たちはそれを聞いてにっこりと笑った。 「皆、肉だよ~☆」 しっかり血抜きもしてとらが大きな雌鹿をしとめて帰ってくる。 「折角だから遊ぼう!」 子供たち、また目をぱちくり。 「雪合戦得意? 思いっきり遊んだ後のご飯は美味しいよ」 そうして雪合戦が始まった。 「よっしゃーあっちからもどんどん雪集めてこいよ!オレが特大かまくら作ってやるぜ!」 かと思うと他では牙緑を中心にかまくら作りも始まっている。 子供たちの見えないところで達哉を中心に鹿を捌いているメンバーがそれを見ていた。 何人かはエルヴィンと一緒に食器の用意などをしている。 その子たちの頭を撫でると皆嬉しそうに笑った。 「偉いな、ありがとう」 「…なに? なんでこの人達はこんなやる気満々なのでしょう。 他人どころかただのエリューション相手に。 同情か? 憐憫かしら? エリューションに情けをかけられる私って優しい(はーと)とかいいたいのか、ナルシストなの? …ま、いいや。どーせ理解できるはずもする気も起きないし。 ま、昇華したいならご自由に」 そういいつつ鹿の解体に巻き込まれているのはまがや。 「私では反面教師になってしまうから説得は手伝えなかったけれど上手くいってよかったんじゃない? まがやさん、そういうことは思ってても口に出さないほうがいいと思うよ?」 自分で恨みや辛さを肯定する者だというエーデルワイスも遊びには加わらず鹿の解体を手伝っている。 「家族の繋がり、そして愛は温かい食事から始まると僕は思っている」 てきぱきと料理を進めながら達哉は子供達の笑い声に目を細めた。 ●食事と本当の笑顔 「湯気が立ってる……」 「そこで感動しちゃうんだ……可愛いですねぇ」 「これがクリームシチューだ。ご飯にかけて食べると子供が喜ぶ素敵メニュー……じゃない、献立」 「見たことない料理……」 「チョコレートと同じで他の国から渡ってきた料理だからな。 食べてごらん。熱いから火傷しないようにな」 恐る恐る料理を口に運ぶ子供たち。 「美味しい……!」 「だろ?」 「おいしい? 足りなかったら、さっき小鹿を連れたお母さん鹿っぽいのがいたから仕留めてくるよ♪ あっちのが柔らかくて美味しいよね☆」 「ううん、量はこれで十分。ありがとう、お姉ちゃん」 「そっか」 「……雪、止ませるね」 「ありがとう」 「ううん。……お兄ちゃんと、お姉ちゃん達のおかげ。私のほうこそありがとう」 「ねえ、今でもお家帰りたい?」 おずおずと尋ねられた言葉に優は笑って首を振る。 「今はもう、いないんでしょう? 私の家族。私も、死んじゃったし」 「でも……」 「あーく、って言うんだっけ? 私達みたいになっちゃった人を助けたりするところ。 そこで供養してもらえたら嬉しいな。 お兄ちゃんやお姉ちゃんを見守れるでしょう?」 「分かった。約束するよ」 「とらの所属コーポの神社の墓地に弔ってあげる」 「ありがとう」 それから八人と子供たちは食器や調理器具の後片付けをした。 「さよなら。ありがとうね」 一人一人とハグを交わし、優が光に包まれる。 「これで漸く、逝けるよ」 「優ちゃんの優は優しさの優、ですね」 「……うん!」 最期に飛び切りの笑顔を残して少女は昇華された。 少女が操っていた雪で作られた子供たちも。 「さて、遺体を探索しますか」 「お人よし……」 遺体を捜している間に夏の日差しによって溶けた雪が大地を露にし、北海道に二度目の夏がやってきた。 供養碑に名前の書かれていた子供たち全員の遺体を発見し、リベリスタたちは約束どおり埋葬を済ませる。 「これでよかったんだよね」 「ゆっくり眠ってくださいね」 「……おやすみ、楽しかったよ」 「生まれ変わったら又遊びましょうね?今度は暖かい陽の下で」 クリームシチューとお茶を供えて手を合わせる。 色とりどりの花も墓前にあげた。 『ありがとう』 目を閉じて耳を澄ますと。 少女の笑顔と笑い声が聞こえる気がした――……。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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