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NeverEnding/SummerVacation


「……クク、間違いない。美しいその顔を、忘れなどしていないぞ」
 上天に輝く月に語りかけ、女帝は不敵に微笑む。
 幼き容姿に不釣合いな威厳と、優美。
 淡い月灯に晒される細い首、かつてより幾分血色を良くしたその肌は、その内より生命力の輝きを滲ませ――しかしあくまで死の香りを纏っている。
「ボトムチャンネル。また、赴く事が出来ようとはな。
 縁、か。そう考えれば月よ、お前とお前の世界は相当な宿業を背負っているのだな。
 闇と闘争に彩られた我が運命と、繋がっているとは」
 それは腐臭――不死の鬼である女が背負う倦怠の発露だろうか。
 或いは血臭――武威と闘争を重んじる帝王を彩る暴力だろうか。
「呼んでいるのだな。愛しき怨敵との再戦が。かつて得た悦ばしき敗北の屈辱を雪ぐ宴が」
 鈴を転がすような美しき声は、朗々と謳いあげる。
 再会への期待を篭めて。
 闘いへの喜びを籠めて。
「また戦えるのだな、彼らと。また踊れるのだな、奴らと。
 ――この美しい月の下、この美しい戦場(せかい)の中で!」
 両腕を広げ、全てを祝福するが如き喝采は、しかし唐突に止む。
 不意に手を下ろし、その美貌を落ち着いた表情へと冷ました女帝は、懐から扇を取り出し己へと涼を送る。
「だが。だからこそ、準備は入念にせねばな。
 再戦と息巻き、一度目の逢瀬と同じ私で行くのでは、興醒めも良い所だろう。
 彼らがそうであるだろうように、私もまた、より強く、より新しくあらねば」
 その言葉に混じるは、ある種の信頼。そして期待。
「ククク……。期待しているが良い、そして期待しているぞ『リベリスタ』。
 味わった事の無い闘争を、共に、味わおうではないか――」
 うっとりと蕩けるような笑顔。そうして女帝は闇に消える。
 月だけがそれを見ていた。


「アザーバイド、かつて『夜の女帝』と呼ばれた存在。彼女が再び現れた」
 ブリーフィングルームのモニターの前、『リンク・カレイド』真白 イヴ(nBNE000001)は淡々とそう語った。
 集まったリベリスタのうち、その名に聞き覚えのある何人かが眉を潜める。
「夜の貴族、不老不死の権能と怪力、使役や変身を含む多様な特殊能力。
 ――この世界の『ヴァンパイア』よりずっと物語の中の『吸血鬼』に近い来訪者。でも、それだけじゃない」
 物言いたげな様子のリベリスタ達を手で制し、イヴはあくまで淡々と補足する。
「ボトムチャンネルに現れるのは二度目。そして今回の事で確信を得た。
 彼女は新しい環境の中で得た情報や経験を取り込み、己の力を劇的に進化させる性質を持っている」
 その言葉に、ブリーフィングルームの中に二種類の緊張が走った。
 女帝を知らぬものは、その力の底知れなさへの緊張を。知る者は、また別の緊張を。
「前回、女帝はこの世界の長命の術を三つ学び、それを起点に進化した。考えてみれば、結果的に長命とは無関係な力を得ている。多分、彼女の進化は元が何であろうと全て戦いの力として帰結するんだと思う」
 以前の来訪で、『吸血鬼』は使役の力を進化させ、怪力をより強化させ、そして日の光を克服した。
 夜に縛られぬ彼女は既に『夜の女帝』では無かった。
「彼女は、前回己を打ち破ったアークのリベリスタをとても気に入ってる――戦うにふさわしい相手として。
 前回同様、彼女がボトムチャンネルに来たのは今から一ヶ月ほど前。その間、更なる強化を目指していた」
「修行してたって事かよ……」
 それも、高速で進化して行く闘いの申し子が、だ。
 戦慄した顔で呻くリベリスタの一人の隣で、別のリベリスタが手を上げる。
「……御託は良い。つまりさっき見せた映像は一ヶ月前の物なんだろ? ……今のを見せてくれ」
 イヴはリベリスタの言葉に返事を返さず。暫くその目を見つめ返す。
「――分かった」
 僅かな沈黙と少しの逡巡の後、少女はやがて覚悟を決めたかのように頷いた。


『あはははははは! お前それクロールじゃないって下手すぎだって!
 よおおおおっし、私の華麗なバタフライを見習えよー!』
 モニターの中に映し出されるのは、夏の海。
 現地で仲良くなった小学生達に見事なまでの犬掻きを披露する女帝が映っている。
 ――女帝を今回始めて知ったリベリスタは椅子から転げ落ちている。
 知ってたリベリスタは諦めた顔をしている。
「……見ての通り、女帝は修行の結果吸血鬼の弱点である『流水』を克服した」
 明らかにどこからどう見ても遊んでいる映像――だがしかし、実際、猛烈な勢いで水を掻いて泳いでいるその姿は、何よりも如実に彼女の進化を示している。
「勿論、これだけじゃない。
 確認した限り、彼女は他にも恐怖を操る力と、瞬間的な加速で間合いを詰める一撃の極意を得ている」
「……確かに強力そうだな」
 呻くリベリスタ。そして目を逸らすイヴ。
「――アークはそれぞれに『肝試しマスター』『虫捕りキング』と言うスキル名を付けた」
「うおおおおおいそれって修行か!?」
 夏休み満喫してるだけだよねそれ!?
「前回同様、今のうちに倒して。撃破するか、元のチャンネルに帰らせなきゃいけない。
 夏の終わりが近付いている事に気付いた彼女が、その悲しみの反動で当初の目的を思い出す前に」
「やっぱり忘れてるんじゃん!? 修行じゃ無いじゃん!?」
 映像の中、小麦色に焼けた女帝の肌は健康そのもの。その表情は子供そのものである。
「彼女は今、見ての通り浜辺で海水浴を楽しんでる。急いで接触して。
 万華鏡によると、夜が来ると同時に彼女は新しい臣下を迎えてしまうから」
「……え、ちょ、それってもしかして……」
 映像の周囲にも映っている多くの海水浴客。吸血鬼の臣下といえば、その吸血の餌食となった――。
 戦慄したリベリスタに、イヴはゆっくりと首を振る。
「その心配はない。よほど気に入ったのか、それともこの世界だからなのか――彼女の使役するのは前と同じもの。夏場だから匂いが一層強烈だけど――あとで確認しておいて。
 それと、確かに夏の日差しにやられて一層バカになってるけど、彼女が闘争を重んじる性質は例によって変わってない。正面から挑めば、人気の無い所への移動には快く応じてくれる」
 何故か女帝の使徒を口にしたがらないイヴ。それはともかく今ドサクサに紛れてバカって言ったよね。
「ただ、今回に限っては一つ条件が付く。何せ、夏の日差し効果でバカレベルが上がってるから」
 今またバカって言ったよね。
「今の女帝は、『夏を満喫している』相手で無いと、相手にしてくれないの」
 うわあなるほどバカだ。
 て言うか何だそれ。
「水着の着用は必須。出来ればそれぞれ思い思いに夏を楽しんでる格好を心がけて、そうでないと女帝は『貴様夏を舐めるな! 夏を制する者だけが闘争を制するのだ! 覚悟を決めろ!!』って言ってヘソを曲げちゃうから」
 わーい言ってる事が何一つ分からないぞー。
「……前回も聞いたけど、これ、本当に倒さなきゃいけないのか。と言うか真面目に相手しなきゃ駄目なのか」
 リベリスタの言葉には切実な響きが篭もっていたが、イヴの返答は相変わらず淡々としていた。
「だめ。絶対に今日の内に倒して、ボトムチャンネルから退去させて。彼女が次の進化を迎え、新たなスキル『ひと夏のアバンチュール』に開眼したら色んな意味で手がつけられなくなる」
「何その内容が死ぬほど気になるスキル!?」
「――知らないほうがいい」
 そうですか。
「強力なアザーバイドだけど、きっと皆なら勝てると思う。それに、今回は助っ人もいる」
「助っ人?」
 そう、助っ人。そう言ってイヴは深く頷いてみせる。
「目には目を、歯には歯を。って事……ひょっとしたら火に油だけど」
 その言葉と同時、ブリーフィングルームの扉が大きな音を立てて開いた。
 現れたのは映像の中の女帝に負けない健康的さを誇る褐色の肌。そして子供っぽいドヤ笑顔。

「呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃじゃーん!! アークが誇る大天才! プラム・エインズワース登場よ! 私に是非とも手伝いをお願いした言って言うから来てやったのだわ! 感謝するのよ!」

 だからなんで水着でブリーフィングルームに来るんだ、このバカ(※別名:『深謀浅慮』梅子・エインズワース(nBNE000013)は。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:ももんが  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2012年08月25日(土)22:48
納豆と梅が力を合わせてみんなの幸せ(※別名:イヴの頭痛の種)を~♪
お断りします。ももんがです。

●アザーバイド:『納豆の女帝』

・使用スキル
『納豆使役』
『納豆の糸』
『ラジオ体操』
この三つは前回同様です。お手数ですが拙作、シナリオID1935『Never die』を参照ください。
ただし、納豆スキルは塩水の近くで戦うためかなり弱体化しています。

なお、今回女帝は水着姿の為、『ノーパン健康法』は不活性化状態です。
安心だねっ!

これに加え、OPでも触れられている三つのスキルを持ちます。

『肝試しマスター』
恐怖の幻覚を与え、相手の精神を恐怖で染め上げます。
神秘ダメージと共に、ブレイク・隙・圧倒・重圧・虚脱・ショックのBSを与えます。
ただしこのスキルを使用した際、女帝にも虚脱と隙が付与されます。
自分にも見えるし怖いらしいです、幻覚。
「肝試し道とは、怖がってこそと見つけたり!」だそうです。バカです。

『虫捕りキング』
インパクトの一瞬に加速する事で、対象を逃がさぬ一撃を放ちます。
命中力が非常に高い一撃です。その分威力はラジオ体操に劣ります。
素早い相手や蝉を相手取る時にはこれを使います。
「特にヒグラシが手強い」だそうです。バカです。

『夏の海の妖精』
流れ水の克服により、海水を操る力を得ました。
全体攻撃です。呪縛BSを持ちます。いつかこれで焼きそばを作るのが夢。
「ゆくゆくは醤油を操れるようにならねばな」だそうです。バカです。

『ひと夏のアバンチュール』
女帝に挑むのを夜まで待った場合のみ使用します。
イヴに曰く「絶対に開眼させちゃだめ」だそうです。
後、効果については「バカらしいから口にしたくない」そうです。
ともかく絶対開眼させるな。だそうです。

●戦場
ちゃんと条件を満たして挑めば、
女帝が前もって見つけていた穴場を教えてくれます。
ゴツゴツした岩が多く地面も硬い為、海水浴には向きませんが、戦いには向きます。
結界を張ればどれだけ激しく戦闘しても一般人が現れる事はありません。
参加NPC
梅子・エインズワース (nBNE000013)
 


■メイン参加者 8人■
クロスイージス
アラストール・ロード・ナイトオブライエン(BNE000024)
デュランダル
結城 ”Dragon” 竜一(BNE000210)
マグメイガス
雲野 杏(BNE000582)
デュランダル
ジャン・シュアード(BNE001681)
クリミナルスタア
古賀・源一郎(BNE002735)
スターサジタリー
ブレス・ダブルクロス(BNE003169)
覇界闘士
ヘキサ・ティリテス(BNE003891)
覇界闘士
滝沢 美虎(BNE003973)


「なんかすごい敵のようなのだ……」
 前回の報告書に目を通した『じぇのさいどたいがー』滝沢 美虎(BNE003973)が、戦いの予感に目を上げ、きりりと呟く。……しかしその服装は白さが眩しいサラシにフンドシ姿、麦わら帽と虎さんマークの浮き輪&ビーチサンダル。どこから見ても海に遊びに来た格好であり――海辺である以上、その格好には違和感はない。
「異界の存在とは言え別世界に来てまで修練とは見上げた心意気。
 しかも楽しんで自らの弱点を能動的に克服するその克己心も実に潔い」
 同じ報告書を読んだ『祈りに応じるもの』アラストール・ロード・ナイトオブライエン(BNE000024)も、水着の上に夏服だったりする。
「よっ、二度目のボトムを楽しんでるか? 前と同じ理由でお帰り願いに来たんだが」
 前方で水辺で時折跳ねる波に笑う少女――アザーバイドに、軽く手を上げた『さすらいの遊び人』ブレス・ダブルクロス(BNE003169)が声をかける。
「……って、おお? おお! ――見た顔だな?」
 見知った顔に、慌てて威厳を取り戻そうと鋭い目付きでひと睨みするも、浮き輪に捕まってぷかぷか流れたり波に押されたりしながらでは、その意図は成功したとは言い難い。
「性懲りもなく、我を追い出しにきたか?
 そうは行かぬ、この世界に、この陽光に打ち克った我が身が届かぬ場所などない」
 ふわり、と浮かび上がり――浮き輪は離さぬまま――ククク、と嗤ってみせる女帝が、しかし、あれ? とばかりに首を傾げる。
 声をかけてきたブレスの服装は、赤いアロハシャツに海パン、グラサン。他の顔ぶれもぐるりと見回し、戦闘準備万端、という様子ではないことに気がついたのだ。
「もしかして――遊びに来たのか!?」
「ああ、一戦の前に、存分に海を楽しもうぜ!!」
 ブレスの肯定。それを聞いて目をキラキラ輝かせながら飛んでくる女帝の様子に、薄紫に桜柄のトランクス水着に白いシャツを羽織った『メカニカルオネエ』ジャン・シュアード(BNE001681)が、傾きかけたアイガードを直しながら呟く。その指先には爽やかな白と青のグラデーションのネイル。
「……ええ、このギャップはイスから滑り落ちざるを得ないわね……」
 事前に聞いていたとはいえ、その戦闘能力と、この浮き輪でフラフープ始めたざんねんな様は、どうにも納得しにくい。ちなみに、その横で梅子が我慢できず同様のフラ浮き輪を始めたりしたのは、全員一致で放置。
 ちなみに納豆を使った技を教えて貰いたがった『重金属姫』雲野 杏(BNE000582)だが、イヴに「アザーバイドの技だから、無理だと思う」と一蹴されて、少しすね気味である。
「納豆を操る夜の女帝――不可思議な存在も居た物だが、然し腕前は興味深い故、是非に一戦交えたい」
「……遊んだ後で良いか?」
 着流し姿の『我道邁進』古賀・源一郎(BNE002735)の言葉に、しかしうずうずした様子の女帝である。
「夏は楽しんだモン勝ちって言うしな!」
 言うなりパーカーを脱ぎ捨て、トランクス風の水着姿になった『デンジャラス・ラビット』ヘキサ・ティリテス(BNE003891)が、ひゃっほー! とばかりに水に飛び込む。
「わははは! ばーかーんーすー!」
 こうしてはしゃぐさまを見ると(服装はともかく)美虎も歳相応の女の子である。
「あら? ところで、後一人、どこ?」
 フラ浮き輪にもう飽きた梅子が、周囲を見回して首を傾げた。

「夏の海! それはナンパ!」
 少し離れた場所で妙な気合を入れたのは、『合縁奇縁』結城 竜一(BNE000210)。きわどいブーメラン水着で綺麗なおねーちゃんに声をかけまくっていたりする。
「ヒュッー! きみ、きゃわうぃーねー! 俺と一緒に、スイカ割りしなぁ~い?」
「ヒュッー! きゃーわーうぃーうぃー! 俺のお馬さんでドライブしなぁ~い?」
 わざわざ本当に馬を連れてきたりした竜一だが――結果は言うまでもあるまい。


 女帝に案内された場所は、ビーチの片隅、岩場の蔭に隠れた広場。
 ゴツゴツした岩場が多く、岩肌に押されてか露出した地面も充分に硬い。
「うむ、正に鉄火に相応しい環境だ。忝い」
 一般人を近づかせない為の結界を張りながら、周囲を見渡した源一郎が満足げに頷いた。
「で、あろう。……む? むー……」
 自慢げに頷く女帝だが、リベリスタ達が着替えを始めたのに気付いて眉尻を下げる。
「夏を満喫する様に、戦を満喫するには相応の準備を要するなれば」
 泰然自若と説明する源一郎の言葉に頷きつつも頬が微妙に膨らんでいる辺り、不満がないとは言えないようだ。だが、ぷいと視線をそらした先で着替えようとしていない2人に気付き、表情が輝いた。
「貴様達は、戦装束に着替えぬのか?」
「夜の女帝か。運がいい。この俺がいるのだから……。これもまた、"縁"か。
 ならば、この合縁奇縁の下……ともに踊ろう。体を夏にして過げk」
 水着のまま、謎のポーズを取る竜一の声は、何故か後半掻き消えた。多分大人の事情。
「べ、別に着替え持ってくるの忘れたからじゃないんだからね!」
 語るに落ちる梅子。
「そうか! 貴様等良い奴だな!」
 女帝は破顔一笑である。
「無頼が一人、古賀源一郎。拳にて語るを好むと聞いている。なれば後は言わずとも」
「俺はブレス・ダブルクロス。……お嬢様の名をお聞きして宜しいかな?」
 名乗りを上げる二人。出来れば俺等が理解、発音出来るのが嬉しいんだがと補足する遊び人の言葉に、アザーバイドは何故か暫く酷く赤面してあわあわと錯乱する様子を見せたが、じきに何かに気がついたらしく、咳払いひとつ。
「そ、そうか。異界だから風習が違うのだな。私は『納豆の女帝』或いは『夏の女帝』。
 ――いや『夏の納豆帝』の方が良いかな……?」
 名乗りの途中でアレンジに悩まないで下さい。
「こほん、私は『納豆の夏女帝』、ベリアル・D・クリムゾンだ!」
 堂々としたその言葉が、激戦の開始を告げる鬨の鐘とな――
「パンツははいてきた、だと……。くそったれええええ!」
 ――ると見せかけて、女帝が水着のまま戦うつもりであると察した竜一の激しい怒りに目覚めた叫びが開始の合図となった。
 ひょっとしたら着替えてノーパンスタイルになるかも、と期待を寄せていたのだろう。
 まあ、水着だけど。水着はパンツじゃないから恥ずかしくないよ!
「男って、バカなのだわ」
 半眼になった梅子(よりにもよって)の冷たい呟きが、熱気渦巻く戦場の中で霧散した。


「最初から飛ばして一気にカタを着けるぜ! 歯ぁ食いしばれぇッ!」
 流れを作ろうと、そう宣言したのはヘキサだった。
 ギアの上がった速度は正につむじ風の如くアザーバイドを翻弄し、流れるような動作で蹴りを放つ。
「こんの納豆女! 味とか健康とか以前にくせーんだよソレ!」
 脚甲に覆われた脚の連撃が、女帝の身体を鋭く打ち据え続けたはずだった。だが。
「貴様――今なんと言った?」
 その脚を、女帝が掴んだ。――『虫捕りキング』。
 冗談の様な理由で開眼したその極意は、しかし圧倒的速度を誇るヘキサの動きをただ一度の動作のみで捕えるだけの瞬間速度と正確さを併せ持っていた。
「なに、すぐには楽にしてやらん。歯は食い縛らんで良いぞ?」
 そのまま地面に叩き付けたその威力は、『ラジオ体操』にこそ劣れど、ヘキサの全身に決して軽視は出来ない深刻なダメージを与える。と言うか、女帝の怒りがマジヤバイ。
「こ、怖……あ、いや何でもないのだわ……」
 他のリベリスタの猛攻を完全に無視し、ギャグ要素もボケも一切抜きでヘキサを壊しに掛かるその姿に、バカ仲間、もとい梅子が素で引いている。
 ヘキサは怯まず立ち向かい続け、寧ろ負けじと自分の好きな発酵食品をプッシュしようとしていたが。
「発酵食品ならマーマイトのが100倍ウマい! コレ絶──」
 ──メキ。
 無造作に振るわれた拳の一撃が、容赦も気遣いも一切無しにその言葉を強制終了させた。
「我は発酵食品が好きなわけではない。納豆を愛しているのだ――それにあの島の料理は、好かぬ!」
 女帝は一言吐き捨て、「フィッシュアンドチップスは許す」と付け足した。
「四撃、か……」
「正に戦うに過不足無い相手だ」
 倒れ付して動かなくなったヘキサの姿に、源一郎とアラストールが呻くように零す――その声に僅かに、だが確かに喜色が混じるは、和洋を問わず武辺の道を歩む2人の業か。
 そう、このアザーバイドは紛れも無く『強敵』である。
「うおおおおおおお!」
 雄叫びを上げたのはブレスだ。
 遊び人を気取る軟派であれど、彼もまた幾多の戦場を渡り歩いた傭兵――と、言う訳ではなく。彼のテンションがUPしているのは女帝の水着が戦いの中でずれたり破れたりしている事に気付いたからである。
「燃えてきた! 戦いの宴(と日焼けして無い瑞々しい素肌)をもっと楽しもうぜ!」
 ブレスさんが幸せそうで何よりです。
 前回の事で学習した女帝は破けない服装で来るだろうと、半ば諦めていた彼である。喜びも一入なのだろう。その熱き想いを乗せ、イナヅマとなったオーラを纏ったCrimson roarが、正に捨て身の如く前のめりの構えを持ってアザーバイドの腹部に叩き込まれる。
「おお、やる気だな。突然燃え上がった理由が良くわからんがとにかく善し!」
 そして全くちっとも全然学習してなかった女帝も幸せそうで何よりです。
 水着が今の一撃で相当危ない状態になってる事にも、できればこのまま気付かずにいてください。
 納豆を侮辱された怒りは取り合えず収まったらしく、何時も通りの不遜かつ理不尽なカリスマを存分に湛えた表情に戻った彼女は、改めてリベリスタ達を睥睨する。
「さて、改めて一番美味そうなのは――流石、どの者も僅差ではあるが。強いて言うなら貴様等かな?」
 不敵にも次の獲物を宣言し、いっそ恍惚とした笑みを浮かべる。
「……梅子、味方を巻き込まない為にもっと離れて好きに戦って下さい。
 大天才らしく! 凡人たちのフォローを任せるよ!」
「! わ、分かったのだわ!」
 見初められた竜一が、梅子に言葉を飛ばす。
 天才扱いされて嬉しかったらしく、梅子は呼び名にも気付かずに素直に従って最後方に下がる。
 これで彼女が女帝の攻撃のとばっちりを受けることは無いだろう。竜一の口の端に浮かぶ笑みは安堵か、それとも先ほどより怖ろしいほど高濃度の殺気をぶつけて来る女帝に気圧されぬ為の負けん気か。
 少なくとも彼の振るう一撃に篭められているのは破滅的な破壊力のみ。畏れも恐怖もありはしない。
 もう一方、アラストールもまた怯む事無く、ただ黙って剣を構えなおす。
 女帝はその様子を嬉しそうに、そしてどこか艶めいた笑みを持って見やる。
「とらカッターっ!」
 ――緊迫の空気を文字通り切り裂くが如くハイテンションな声が響き、女帝の水着が更に切り裂かれる。
 ブレスさんが何かもう動物みたいな域に達した雄叫びを上げていよいよシリアスな空気が粉々になる。
 それは、遊んでる時と同様、あるいはそれ以上の熱気を纏う、美虎の放った蹴りであった。
 練り上げられた武技の一撃は真空刃を伴うのだ。彼女の場合は何故か心なしオレンジ色な気もする。
 続けて打ち込まれるは極光を纏うアラストールのブロードソード。そして走る一陣の影。
「冷凍みかんならぬ冷凍納豆は如何か」
 少しおどけた事を言いつつも、源一郎の突き出す魔氷の拳は必中の鋭さを持っていた。
「ぬ!?」
 ブレスに女帝の注意が行っている間、仲間の苦境に臍を噛みながらも精神を研ぎ澄ませ続けた源一郎の一撃は、女帝の身体を見る見る凍らせて行く。
「今ね!」
 ジャンの振るう鉄槌がアザーバイドの小さな身体を吹き飛ばす。そこを追い打つ様に数多の魔方陣で増幅された杏の魔曲が四重の合奏となって襲い、リベリスタが距離をとった合間を見計らって放たれる梅子の焔が、逃げ道を塞ぐが如くに荒れ狂う。
「倒される前に倒せ、だ!」
 ブレスの鼓舞は勇ましく、実行を伴う。肌色面積の増加に興奮していても締める所は締めるのだ。
 竜一もまた、二刀に裂帛の気合と爆発的に高めた闘気を篭め、振るう。生と死、そして破滅を象徴するが如き一撃と共に叫ぶ言葉は恐れを知らず、勇ましい。
「おおきくてふとくてすごいの、イクぜ! 受け取れ、この想い!」
 何か、怖いもの知らずのベクトルが違う気もするが、まあ言いか。
「フハハハ! 言うだけの事はあるではないか。だが、当たらなければどうと言う事は無いのだ!」
 凍り付きかけながらも暴力的な優雅さを失わない女帝も、気づいてない。
「……何で皆竜一の叫びに変な顔してるの?」
 梅子さんと美虎ちゃん、きょとん。どうか汚れないままでいてください。


 チリィィ……ン。

 唐突に鳴り響く鈴の音。
 そのたった一音が戦場の熱気を一時冷まし、他の音を駆逐する。
 突然夜闇の如く暗くなった空間に、ぼうと蝋燭の灯が灯り、それを手にした誰とも知らぬ女性の赤い唇が嫣然とすぼめられ、灯火をフッと消す。

 イキガデキナイヨシズムヨテアシガオモイヨクルシイヨイッショニイコウヨキミモアナタモミンナデ

 耳を塞げど聞こえるは怨嗟の声。
 纏わり付くは数多の水死体。

「「いやあああああああああああ!!」」

 2人分の悲鳴が炸裂した。
「ここここんなの怖くないのだわ私天才だもん! 天才だもんー!」
 やっぱりお前か。
「怖ぇぇぇ! やめて触らないで明日から嫌いなピーマンもちゃんと食べるから助けて納豆様ー!」
 やっぱりお前か。
「完全に呑み込めぬ其れ、女帝でも恐れる物在り、か」
 しみじみと呟いたのは、丹田に力を篭め、巌と動かぬ事で恐怖の幻覚に打ち勝って見せた源一郎だ。
 物凄く真面目なコメントしててなんか恐縮ですがこれ自爆だからなあ……。
「何今の……超直感で前触れがわかるかと思ったのに」
 眉をしかめた杏が今の暗転どうやったのよ、と呟く。
 とは言え、リベリスタ達の被害も甚大である。幻覚と知っていても尚、身を縛り心を鷲掴みにする恐怖の奔流は、戦線を一度に翻弄して見せた。一番翻弄されてる片割れが当事者だとか、名前が『肝試しマスター』じゃ気取った言いかたしても何かなあとか、まあ、それは良いとする。
 そして女帝が先ほど上げた助けを求めたその言葉の通り。周囲に己が最も信頼する存在を展開する。
 つまり納豆だ。
「ぺろぺろちゅぱちゅぱはむはむもぐもぐ!!!!!!」
 なんか竜一が猛烈な勢いで食べ始めた。恐怖のバッドステータスを即座に振り払って食べ始めた。
 荒れ狂っているのはただの納豆ではなく、暴威と破壊力を持つ暴君の使い魔である。
 まともに回避できず全て直撃となる事は勿論、口の中やその周囲など洒落にならないダメージを受ける。
 だが、それでも食べる。食べるのだ。何が彼をそこまで動かすのか。
「前の報告書に寄れば、この納豆は女帝と同化したものなんだ……あとは、わかるな?」
 分かりたくないです。
 自分も食べようとしていたアラストールがビクリと手を止める。
 今食べたら彼と同じ目的だと思われそうだと思ったのだろう。
「傷付こうとも納豆を食わんとするその姿、敵ながら天晴れ!」
 女帝は相変わらず何も分かってない。
 そして竜一が倒れた。ただでさえ女帝の攻撃をアラストールと二分して受けるように傷付いていたのだ。幾ら納豆が弱体化しているとは言え無理をし過ぎたようである。
 しかし竜一は倒れない。フェイトを燃やし、立ち続ける。
「我がペロリスト道に一片の悔い無し!」
 振りかぶる拳、天に向かって放たれるペロリストエネルギー。


 数で勝り、己が運命を捧げる覚悟を持つものも多いリベリスタとて、治癒が無くともそう容易く戦線を瓦解させる気は無い。激戦の末、竜一に続きアラストールが運命の恩寵を浴びる。
 女帝の操る海水の奔流に晒され、全体の傷も浅くは無い。特にジャンと美虎は運命を燃やすことで辛うじて立っている状況。――戦況は、文字通りの消耗戦となっていた。

「焼きそば習得の暁には私に馳走して貰おう!」
「力尽き斃れる間際であろうとも尚そこまで吼えるか! 見事!」
「ちょっと待て! 醤油を操りたいらしいが、焼きそばに使うものは、ソースだ!」
「「な、何だってー!?」」
「ねえ待って今驚いたの女帝と誰?」
「お、驚いたりしてないのだわ!」
「やっぱお前か……」
「梅子ちゃんてば(ほろり)」
「吸血鬼の弱点と言えば、昔からこれと決まっているのだ! 喰らえーっ! とらナッコーっ!」
「やだー!? にんにく嫌いー!」
 ……もっとも、緊迫感は正直あまり無かったが。

「――胸を借りる様な相手なれども全力を尽くさねば」
 源一郎が、蒼穹の空さえ思わせるような、どこまでもまっすぐな右ストレートを叩き込む
「後は真っ向勝負故、是非に受けて貰おう女帝よ!」
 真っ直ぐに殴り合う、恐らく好みの展開であろうその一撃をまともに受け、女帝はついに地に足をつける。
「く……やるな、貴様ら。以前より腕を上げたと見える――」
 唇を片方だけ吊り上げた、獰猛な、しかし歓喜の滲む表情で、女帝は喜んでみせ――ところで、女帝の装いは量販店で買った水着である。
 戦闘により、もうズタボロなんてものじゃないその水着が、はらりと。

「「おおおおおおお!!」」
「チェインライトニングー」
「フレアバースト!」

<了>

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
女帝は「んじゃ、ま、いっぱい遊んだし帰るわ!」だそうです。お疲れ様でした。

マーマイトは食べないよ! 食べないよ!!