● 此の世に生を受けた、存在した瞬間から其の命令は聞こえていた。 人を斬れ。 お前は、其の為に此の世に産み出されたのだと。 人を斬れと命じられ、望まれ、そう在り続けた其れはやがて 人の生き血を啜る妖刀――血吸丸(ちすいまる)と呼ばれるようになったのである。 ● 「――例えば、此処に一振りのナイフがあったとして」 ブリーフィングルームの机の上に用意された玩具のナイフをくるくると手元で弄びながら 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は集まったリベリスタ達を前にそんな事を呟いた。 「そのナイフで人を殺したとする」 何もない場所に向かって軽くナイフを突き出す動作をしてみせるイヴ。 言ってしまってはなんだが、こう……とても迫力はない。演技なのだから良いのだけれど。 「悪いのは私?其れとも人を殺してしまったこのナイフが悪いのかしら」 「其れは使う人が悪いんじゃ?」 集まったリベリスタ達の誰かがそう言った。 極めて当然の反応だ。 道具に意思は無い、先のナイフにしたって人を殺す為に使う以外に幾らだって使い道はあるのだ。 人を殺してしまった道具が悪い、だなんて言い訳甚だしいにも程がある。 「そうよね、其れが聞きたかった」 ナイフを机の上に戻しながらイヴがそう、満足気に頷いてみせる。 そうして、一息ついて視線をリベリスタ達の方へ戻しながら。 「そろそろ本題に入るわね。今回貴方達に依頼するのは『血吸丸』という刀の破壊」 妖刀血吸丸。 戦乱の時代に人を斬る為に創られた其の刀は、望まれるままに力を振るい多くの人を斬り殺して来たのだという。 「何十、何百という人の血を啜りながら使われ続けた其れは妖刀と恐れられたそうよ」 やがて、戦乱の時代が終わりを告げ其の存在価値を失った時、血吸丸は小さな神社にて封印されたというのだが。 「でも、封印された血吸丸は長い年月の中で密かに革醒しエリューション化してしまっていた」 人斬りを続けた使い手の意思が宿ったのか、はたまた血吸丸に殺された人々の怨念が宿ってしまったのか。 まぁ、事実はどうあれエリューション化してしまったのなら放ってはおけないということである。 「そして其れが、封印を解かれて現代に蘇ってしまったと」 リベリスタの問いにイヴがこくりと頷く。 「封印を解いたのは、逆凪のフィクサードみたい……でも、懐柔するには相手が悪かったみたいね」 神社を訪れ封印を解いたフィクサードは、血吸丸を優れたアーティファクトとして用いるつもりだったのだろう。 しかし、人を斬る為に生を受け存在し続けた其れが自身の封印を解いた愚かな”人”を見て真っ先に行った事は。 想像は余りに容易であり、敵対している組織のフィクサードとはいえ不憫さを感じてしまう。 「放っておけば被害が拡大するのは目に見えてる」 今から神社に向かえば、少なくとも血吸丸が野に放たれる前に破壊する事が出来る。 速やかに現場に向かって欲しいとそう最後に告げて、イヴはリベリスタ達を送り出した。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:ゆうきひろ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年08月24日(金)23:02 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 丑の刻を過ぎた頃の人気のない神社。 其の境内に続く石段を登る影が八つあった。 「刃とは、何かを斬る為に在る……」 其れが刀であるのならば。 確かに、人を斬る為に生まれて来たとも言えると語るのは『騎士の末裔』ユーディス・エーレンフェルト(BNE003247)だ。 「道具とは其の役割を全うする、ただその為だけに存在するものですからね」 ならば、やはり刀は人を斬り殺す為の道具であり、その事実に疑いようはないのだと。 ユーディスの言葉に軽く頷きながら、『ライトニング・フェミニーヌ』大御堂 彩花(BNE000609)はそう呟いた。 この石段の先で待っているであろう刀――血吸丸は、只自身の刀という道具の存在意義を求めているだけのだろう。 決して其れが呪われた存在だとは思わないと、そんな風に憐れむ事自体が彼女への侮辱だと彩花は思う。 「人を斬る事を望まれ、その役目を果たさんとする血吸丸を責める事など私には出来ません」 二人同様に、道具に罪はないのですからとそう言うのは『蛇巫の血統』三輪 大和(BNE002273)だ。 とは言ったものの、罪が無いからと現代で放っておくわけにはいかないのもまた事実。 彼女に課せられた人斬りという役目を此処で終わらせなくてはと大和は強く決意する。 「――しかし」 血吸丸だなんて、奇妙な名前をつける刀工も居たものだと『酔いどれ獣戦車』ディートリッヒ・ファーレンハイト(BNE002610)。 名は体を表す、或いは卵と鶏の様に。 最初からそういう名前を持って生まれてきたのか、妖刀として血吸丸の名を与えられたのか。 「どっちにしても、安直な其の名前通りの厄介な能力を持ったエリューションになったものだ」 この神社に封印されていたのは刀への畏怖か、或いは浄化を願ってかだったのだろうか。 どちらにせよ、封印が解けて蘇ってしまった以上叩き折ってでも倒すしかないと言うディートリッヒの言葉に仲間達が頷いた。 ● 今宵の月は、真っ赤な赤。 嗚呼、其れはまるで――――。 長い長い石段を登り終え、辿り着いた境内に其の少女は一人只月を見上げ、佇んでいた。 神社に迷い込んでしまったのだろうか。 否、この時間に其れは有り得ないだろう。 何よりも、少女の容姿が――携えている血濡れた刀が彼女が只の人では無い事を証明している。 何十、何百という人間の返り血を浴び赤黒く染まった袴を其の身に纏いながら 現代風に言えば姫カットとでも呼ぶべき其の長く艶やかな輝きを放つ黒髪を風に揺らし、月を見上げるその姿は儚くも可憐。 まるで、此処ではない遠い何処かに想いを馳せているようではないか。 そんな少女の姿を見て、微笑むのは『残念な』山田・珍粘(BNE002078)。 フォーチュナから件のエリューションは小学生くらいの可愛い少女と聞いていた。 (ふふふ、これは楽しくなってきましたよー) 言葉には出さずに、そんな事をついつい考えてしまう。 「今晩は、血吸丸」 おやすみの時間だよ、とそう少女――血吸丸に『禍を斬る剣の道』絢堂・霧香(BNE000618)が言葉をかける。 即座に武器を構え、駆け出そうとするそんな霧香に。 容姿からは想像もつかない程の凄みを含む真っ直ぐで何処か、凍り付いた冷たい視線で血吸丸が微笑んだ。 其の視線に、ほんの僅かに動きが鈍り。 (斬られる……!?) 生まれた隙に、霧香が其の覚悟を決めた次の瞬間。 「――月は」 不意に、刀をだらんと下げたまま血吸丸の口が開かれた。 自身に斬りかからんとした霧香のこと等意にも介さぬ様に、言葉を紡いでゆく。 「月は、何時の時代も変わらぬ。何時の世も、変わらず其処に在り続ける」 「其れは、ちーちゃんの事を言っているのですか?」 人を斬れと命じられ生きてきた自らと重ねていたのかも知れないと珍粘は思ったのかも知れない。 時がどれ程経とうとも。 時代が移り変わり、人の在り方そのものが変わろうとも。 為すべき事を為す――只、其れだけの事と。 其の珍粘の問いかけに、面白い名で妾を呼ぶ者も居たものだと。 「妾は、人を斬れと命じられ、望まれ生を受けた」 そんな自身が人を斬るのは当然の道理――其れは雨の中、傘をさす様な自然な事と言う血吸丸の言葉に。 「人が道具に求める物というのは手段であって目的じゃない」 今まで手段にしてたのを目的にしているだけと。 まだ道具根性が抜けていないと『定めず黙さず』有馬 守羅(BNE002974)が反論する。 刀は人にとって、人を斬る手段であり目的ではない。 血吸丸は其れを分かっていないのだと。 「例えば物心付いたばかりの子供に嘘を付くのはいけない事だと大人は教えるだろう」 そう、血吸丸に言うのは『不当なる契約者』ノアノア・アンダーテイカー(BNE002519)だ。 嘘を付くことはいけない事。 そう教えられた子供は純粋に、素直に其の教えを守り続けるかも知れない。 しかし現実には、嘘をつかなくてはならない事もあるだろう。 「それを知らずに人は生きていけるだろうか? 僕は、そうは思えないね」 詰まる所、君もそうじゃないのかと静かにノアノアは血吸丸へ問いかける。 「――さて、今生に残す言葉は、それだけかえ?」 其の問いには答える事はなく、血吸丸が真っ赤に染まった刀をノアノア達へと向ける。 「主らがどういう経緯で此処へ来たのかは知らぬ。だが、此処へ来た以上……妾を眠りから覚ました愚か者同様に」 斬り殺す、のみ。 口元を歪めながらそう呟いた血吸丸を見てリベリスタ達が即座に 先程までの問答が単なる戯れであったに過ぎないと理解し各々の構えを取るのにさほど時間はかからなかった。 元より、彼女と戦い――破壊する為に此の場を訪れたのだから。 ● 月光に照らされる境内を、紅い軌跡が彩って行く。 其れは、ひらりひらりと舞い踊る様に軽やかに繰り出される血吸丸の剣技――舞刀。 容姿通りの身軽さで一瞬にしてリベリスタ達へ肉迫した血吸丸は、其の名の示す通りに彼等の血を吸い上げていく。 「ッ……」 自身の反応速度を上回るスピードで傷つけられた傷口がじわりと痛む。 出血が止まらないのは、傷が深いだけではきっと無いのだろうと霧香は思う。 「流石は人を斬る為に、殺す為に作られた刀だね」 斬られたのは無論、自分だけではない。 長期戦になればなるほど戦況は自分達にとって不利になって行く。 そして、血吸丸は此方が語る言葉になど、きっと耳を貸す事はないのだろう。 (だったら……) 霧香が桜花の鍔に白銀の刀身を持つ『妖刀・櫻嵐』を構える。 言葉が通じないのならば。 強い意思と共に、霧香が刀を構え血吸丸へ肉迫し。 刹那――戦場に桜花の花弁を思わせる光の飛沫がキラキラと舞い散っていく。 芸術の域に達した剣舞は、血吸丸に躱す隙など決して与えはしない禍を断ち斬る刃。 一太刀一太刀に、霧香の伝えたい想いを乗せ剣を繰り出す。 人を斬る為、殺す為に作られたのはどの刀も同じだと。 そして、そんな道具に――刀に意味を持たせるのは人なのだと。 「美術館で埃を被るより本望でしょう? 死合の中で散れるのなら」 霧香に続く様に、刀の死角――斬り様のない程の間合いに彩花が素早く潜り込む。 其の両手には、血吸丸が見たことも聞いたことも無い様な豪腕『Lightning Arms』。 堅牢さと柔軟さを兼ね備えた流体特殊合金を用いたヘビーアームズが纏うのは、全てを凍てつかさせる冷気。 「血を吸うくらいですから、冷気を吸っても可笑しくないですよね?」 流水を思わせる動きで繰り出された冷気の拳が血吸丸の身体へ撃ち付けられる。 その感触はまるで大鎚で鉄塊を叩きつけたかの様な、華奢な見た目とは裏腹な頑強な身体。 刀の化身というのは、伊達ではないと彩花は思う。 だが、撃ち込んだ感触は本物だ。 拳を撃ち込んだ箇所こそ凍り付いてはいないが、効いてない訳ではないのだ。 「言葉で語るのも良いですが、剣で語るのも良いですよね、血が騒ぎます」 うふふふと笑いながら、逃走経路を断つ様に接近した珍粘が二刀のブロードソードを構える。 「良い良い、その意気ぞ。妾をもっと楽しませよ」 其の言葉に、同様に笑いながら血吸丸が言葉を返す。 恐るべき速度で振るわれた二刀のブロードソードを、しかし血吸丸は身軽に跳ね、躱す。 手元が狂ったか、或いは不吉な妖刀の呪いによるものか。 当たれば只では済まなかったであろう其の攻撃を躱された珍粘が悔しそうに血吸丸を見る。 「あたしの血が吸いたいなら持っていけばいいわ」 痛覚遮断――痛みに惑わされる事なく、守羅が大太刀を振るう。 全身の闘気という闘気を大太刀へ乗せ、裂帛の気合と共に血吸丸へ刀が叩きつけられる。 足場が沈む程の破滅的な破壊力と共に繰り出された力任せの一撃。 が、其れすらもまるで無邪気に遊ぶ童子の様にひらりと躱しながら血吸丸は笑みを浮かべる。 「ちょこまかと……!」 「力任せに振るうだけなら、幼子とて出来るぞ? 其れ、もっと本気を見せるが良い」 「流石は血で血を洗う戦乱の世を潜り抜けてきた強者と言うわけですか」 数の上では圧倒的に此方が有利とはいえ、油断は出来ないと自分に言い聞かせながら続く大和が前へ一歩踏み出る。 其の手に構えるは、明鏡家当主の手により鍛えられし名刀『止水』。 「血吸丸。貴女の在り様、私の全身全霊で受け止め、刃を持って応えましょう」 だから、貴女の歩んできた道を、そこで得てきた業を私とこの子――止水に全て見せてくださいと。 僅かにではあるが、運命を呼び込む力を持ったその刀を手に血吸丸に致命的な一撃を叩きこむ。 「ふん、その程度の太刀筋が見えんと思うてか?」 リベリスタ達も二度も三度も続けて攻撃を躱される訳には行かない。 大和の意地か。あるいは止水の運命を呼び込む力がほんの僅かだけ味方をしたのか。 先ほどまでと同じ様に太刀筋を見切り、そのまま躱そうとした血吸丸に喰らいつく様に 止水と、そして大和の足元から伸びた黒い影が、彼女の頭部に癒える事のない致命傷を与える。 「主……何をした?」 頭部に受けた傷そのものは大した事は無い。 が、其処から感じる奇妙な違和感に血吸丸は気付いていた様で僅かに顔が歪む。 「俺達を甘く見るなという事だ、血吸丸!」 全身のリミッターを解除したディートリッヒが『Naglering』を手に強引に血吸丸の間合いへと踏み込む。 短期決戦を望む彼等にとって、最大の不安要素は血吸丸が此方の攻撃以上の回復をしてしまう事だ。 前衛に立つ者が多くなればなる程に、其の懸念は増えていく。 だが、其れも大和の刃によって解消された。……とすればである。 (此処で一気に叩きこむ!) 鬼気迫る気合と共に、強烈に打ち込まれた一撃に血吸丸の身体が揺らぐ。 「面白い! そうだ、それでこそ斬り甲斐もあるというもの!」 「そうは言うけどさ」 その命じた人は、どういう思いで人を斬れと言ったんだろうねと。 どういう意味で言ったのか、考えた事はあるかとノアノアが血吸丸へ問いかける。 無論、語りかけるのは言葉でだけではない。 脚部に装着されたヘビーレガースによる強烈な蹴撃を加えていく。 「人を斬る事に綺麗も汚いもないであろう?」 ヘビーレガースの蹴撃を捌きながら、そう血吸丸はノアノアへと言葉を返す。 「――妾の使い手は、一人二人ではない」 戦乱の世を終わらせる理想を掲げ、刀を手にした者がいた。 妖刀としての噂を聞き、己の快楽の為に刀を振るう者がいた。 「だが、如何な理由があったとて行った事は只の人斬り、殺しであろう?」 主らは、斬られた相手にも理想や世迷言を言って言い訳するのかえと、そう。 何処か――悟りを開いた様な表情で問いかけた。 「貴女は只、そうした在り様から外れられずに居るだけでしょう!」 歪んでいると、光輝くブロードソードを構えたユーディスが駆ける。 ユーディスの両親は『護る』為に剣を振るい戦った。 その生き様は、心は、決してそんな理屈だけで終るものではないのだから。 自身の剣を振るうその意味を、叩き付ける様に破邪の一撃を血吸丸へと繰り出す。 「護る為など、おこがましいわ!」 そんなユーディスの気持ちを一蹴するかの様に吠えた血吸丸の刀が、大蛇の姿を形取ってゆく。 形容するのであれば、蛇腹剣だろうか。 飛蛇――神秘の力によって自在に伸縮する力を以って血吸丸が己を取り囲むリベリスタ達を砂塵を巻き上げながら薙ぎ払う。 「これは、先ほど躱されたお返しですよ」 先ほど自分の攻撃を躱されたお返しにと、既の所で飛蛇を躱した珍粘が血吸丸にそう呟いた。 が、戦況は芳しくはない……攻撃を躱す事が出来たのは周囲を見る限り珍粘と大和のみ。 (倒れた人が居ないのは救いですね……ですが) 回復手段が自分達に無い以上、此れ以上の攻撃を受ければ倒れる者も出るのは必至だった。 ● 「あなたの言ってる事は、分かるよ」 満身創痍の身体を起こしながら、霧香が血吸丸へ言う。 刀を振るう其の意味と、振るわれた者の想い。 自身がやっている事への事実から目を背けてはならないと。 ならば自分はどうなのだろう? 禍を断つと決めた自身の刃――だが其れは、もしかしたら斬られる側からすれば関係の無い事なのかも知れない。 理由はどうあれ、其処に残るのは斬ったという事実と、斬られたという事実のみ。 只の、人殺しにすぎないのかも知れない。 「でも、それでも」 決めたのだ。 「剣の道の下、禍(わざわい)を斬る」 乾坤一擲――赤く赤い自身と彼女の血で染まった白無垢の羽織を翻し。 今宵、禍を断つ桜花は一層華麗に戦場を舞う。 「ちーちゃんは、一途で良い子ですね」 「……? 気でもとうとう狂ったかえ?」 不意に自身に向けられた珍粘の言葉に、血吸丸が首を傾げながら答える。 「いいえ? 少し、微笑ましく思っただけですよ。さて……今度は躱せますか?」 恐らくこの子は自分自身がどういう存在であるか、本当の意味で理解しているのだろうと珍粘は思う。 何人、或いは何十何百という人の想いに触れ、生きてきたのだろうから。 先に躱された時より尚映える剣さばきで二刀のブロードソードを手足の様に操作する。 「剣にかけた歳月は、貴女には遠く及びはしないでしょうけれど」 足りない分は剣と手数の多さで補うと、其の言葉通りに血吸丸の身体を二刀の刃が交差した。 「先程とは別人の様な動き……見事ぞ。だが妾を斬るには足りぬな」 「言ったでしょう? 手数の多さで補うと……其れは私一人で、という意味ではありませんよ」 其の言葉通りに。 「此処で決めさせて貰いますよ」 「こっちも後はないんでな」 息を合わせた様に、彩花とディートリッヒが同時に飛び出し各々の持てる最大限の攻撃を繰り出していく。 彩花の絶対零度の拳が血吸丸の身体を凍らせ、其の隙をついて放たれたディートリッヒの剣撃が大きく血吸丸にダメージを与える。 「この様な絡め手を狙っておったとはな」 「出来れば、最初に凍って貰いたかったですけどね」 悔しげに歯噛みする血吸丸に、彩花が言葉を返す。 更に、その勢いのまま今度は守羅と大和が迫る。 「何を言った所で、今更よね」 其れしか知らないのなら……いや、或いは理解しているのなら。 「貴女の動きはちゃんと見てる、今度は外さない!」 守羅の大太刀が、今度は正確に血吸丸の身体を捉え必殺の一撃となり、叩きつけられる。 「貴女の全てを私と、この子の糧にさせて頂きます!」 懐から取り出した破滅を予告する道化のカード。 魔力によって産み出された其れは変幻自在の軌道を以って血吸丸に次々と命中していく。 「人を斬る為の道具で人を護るなんて、矛盾していると言いたいのかも知れませんが」 其れでも、護る為に自分は剣を振るうのだと。 決意を胸に、ユーディスの剣がより一層の輝きを放つ。 「良かったよ」 血吸丸はきちんと考えていたじゃないか。 どんな想いで人を斬れと命じられたのか、使い手がどういう想いで人を斬っていたのか。 その上で出した答えならば――。 「君は血塗られている。それでも君は、美しい」 ユーディスの剣とノアノアのヘビーレガースによる蹴撃が同時に血吸丸へ炸裂した。 度重なる激しいい猛攻に耐え切れなくなったのか、不意に血吸丸の構えた刀に一斉に亀裂が入り……。 まるで戦いの終わりを告げる鐘の様に、儚く鳴り響きながら血吸丸の刀身が砕け散る。 自身の刀が砕け散る様を目の当たりにし、驚愕に目を見開く血吸丸に。 「――おやすみ、血吸丸」 「御役目、ご苦労様でした」 もう、誰も斬る必要は無いと。 あなたの想いは、ちゃんと持っていくからと。 だから、休んでいいんだよと優しく霧香と大和が呟いた。 嗚呼、終ったのだなと。 糸の切れた人形の様に倒れこむ血吸丸の身体を珍粘が優しく支えた。 そうして自身の最期を見届けんとするリベリスタ達に。 「努、忘れるな」 己が何をしているのかを。 理解し、覚悟した上で剣を振るえとそう、最期に呟いて。 現代に蘇った妖刀は、静かに此の世を去っていったのだった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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