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ぜんまい仕掛けの百年少女

●優しくないもの:時間
 病弱で、寝たきりの男の子がいた。
 母は彼が寂しくないよう、人形を与えた。
 ビスク・ドールに似たそれは、如何にも女の子が好みそうなものであったけれど、それでも男の子は喜んだ。
 病床から動けぬ彼は毎日、彼女と友達のように接した。その光景は正に本当に友達同士のようだった。
 優しく穏やかなその時間は正しく友達同士の得るそれだった。
 やがて時は流れた。男の子は大人になった。老人になった。そして不治の病を患いながら、奇跡的に老衰で息を引き取った。
 年を取らぬ永遠の少女に見守られながら。幸せであったけれど、ただ彼女を遺していく事だけが心残りであるようだった。
 それでも、大切に扱っていた彼女を自らと共に燃やしてしまう決断が出来なかった。
 そうして彼女は――人形は、独り遺された。


 更に月日は流れる。
 人形は男の子が大切に扱っていた為、状態が良く、彼の姪夫婦の下に引き取られ、暫くは彼等の家の居間に飾られていた。
 しかし其処に生まれた子供が大きくなると、彼等はうっかり人形の足を壊してしまった。
 そうして傷物となった物言わぬ人形は、躊躇いも無く棄てられる事となったのである。



●優しくないもの:運命
「それが事の発端」
 言葉を紡いでいたのは、『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)。
「結果、生まれたのは人形と瓜二つの姿を取ったE・フォース。かつて人形を引き取った夫婦が住んでた空き家に潜んでる」
 姪夫婦やその子供達は既にその家からは引っ越し、今は空き家になっているのが不幸中の幸いだろうか。
 また、E・フォースは少なくとも偶々近くを通り掛かったり、近所に住んでいる人間に対しては敵意を抱いておらず、何も害していないのだとか。
 ――今の所は。
「エリューションだからって理由だけで、いつも皆を駆り出して申し訳無いとは思ってる。でも、放っておけばどうなるか判らないのも、事実だから」
 淡々と述べるイヴのその容貌もその優美さを兼ね備えた愛らしさも相俟って人形のようだ。但し彼女は間違い無く人間として生きている。瞳の奥に僅かに罪悪感のような、負の色を表しているように見えるのはその所為だろう。
 しかし彼女の言う事は正論だ。だから、それだけの理由であっても、リベリスタ達は赴かねばならない。
「敵は一体。戦闘能力は低くないけど、それでもアークのトップレベルのリベリスタに若干劣る程度。ただ、厄介な事にこのエリューション、倒しても復活する」
 ブリーフィングルーム内に、どよめきが起こる。
 それでもイヴは緩やかにかぶりを振ると、続ける。
「何か、エリューションとは別の力が働いてるのは判ったの。でも、それが何なのかまでは観測する事が出来なかった」
 だが、何らかの仕掛けがある事は確かなのだ。それを突き止める事が出来たなら、討ち果たす事が出来る筈だ。
 其処からは、戦いに出向くリベリスタ達の仕事。
「皆が頼りだから。お願いね」
 いつの間にかイヴの表情は、いつも通りの無表情へと戻っていた。


「……ああそれと、戦闘には全く関係無い事なんだけど」
 リベリスタ達が資料を手にブリーフィングルームを去ろうとした時、イヴが不意に呟くように口を開いた。
「このE・フォース、“誰の思念から生まれたのか”判らないの。人形に宿ったものなのは、間違い無いんだけど」
 それは人形に対する男の子の思念なのか。
 それとも男の子に対する人形の思念なのか。
 後者である可能性は、現実的に考えれば、きっとほぼ皆無なのであろうけれど。
 それでもイヴは、こう言うのだ。
「判らないの」


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:西条智沙  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2012年08月30日(木)23:15
いつもお世話になっております、西条です。
遺されたものを、葬ってきてあげて下さい。
きっとそれこそが唯一の“優しさ”になるのですから。


●敵データ

<1>E・フォース『百年少女』
ブロンドの髪にシルクのドレス、白い素肌は磁器のよう
十代後半の女性程の大きさになっていますが、それ以外は男の子の人形に瓜二つ
神秘系の能力値が総じて高く、速さと技巧も兼ね備えています
以下の技を使用してきます

・生の幸福:神自中回復、小リジェネレート、反
・死の絶望:神近複中ダメージ、神防無、無力、ショック
・痛みの記憶:神遠全超大ダメージ、混乱、致命


●地形データ

ごく普通の一軒家
家具等は既に残っていないので、居間のみで戦えば遮蔽物・障害物はありません
遮蔽物を使いたい場合、隣接するキッチンに移動すると良いでしょう
全員がキッチンに移動戦う事も可能ですが、狭い上に遮蔽物の意味が無くなります


●その他データ

E・フォースは普通に倒しても何度でも体力全回復した状態でで復活します
阻止するには復活の能力を与えているものが何なのか突きとめなければなりません
但しPC様達がシナリオ内でそれに気付けるのは一度撃破した後になります
相談で正解を導き出すのは可です、寧ろ当てに来ちゃって下さい
今回はノーヒント……ではなく、ちゃんとヒントは出しています
(更にヒント:“その単語”、内容と何か繋がりある?)


以上です。
皆様のご参加、お待ちしております。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
インヤンマスター
宵咲 瑠琵(BNE000129)
ソードミラージュ
須賀 義衛郎(BNE000465)
覇界闘士
大御堂 彩花(BNE000609)
ソードミラージュ
リンシード・フラックス(BNE002684)
プロアデプト
氏名 姓(BNE002967)
インヤンマスター
小雪・綺沙羅(BNE003284)
ホーリーメイガス
石動 麻衣(BNE003692)
ダークナイト
黄桜 魅零(BNE003845)

●優しくないもの:神秘
 早朝、目的の空き家に辿り着いたリベリスタ達。
 想いの具現が歪みを生んだ。その事実を前にしても、今更『ライトニング・フェミニーヌ』大御堂 彩花(BNE000609)に感慨は無い。
「想いの具現化した存在……いわゆる付喪神に属するエリューション。まあ、神秘の世界に関わっている身ならよくあるお話です」
 凛とした毅然な態度、はっきりとした良く通るその澄んだ声は、揺るがない。
「この根源がエリューション以外の何かであったとしても、役割を終えた存在に余計な手を差し伸べたのは間違いなく、神秘以外の何物でもない。それならリベリスタとして神秘を葬る役割を全うするまでです。それに」
 そう、感慨は無い、が。
「想いとはきっと、葬られることで完成するんです」
 不完全な形で現世に留まってしまったこの想いを、葬る事で、解き放つ。
 それがきっと行き場の無い想いに対して彼女達に出来る唯一の事なのだろうから。
「きっかけとなる事故はほんの些細な出来事だったのでしょう」
 ぽつりとそう、静かに零したのは、『おとなこども』石動 麻衣(BNE003692)。
 下ろした前髪に隠されたその双眸は今、何を“視て”いるのだろうか。
「人形を捨てた夫妻に落ち度があるとは私自身、肯定も否定も出来ませんね」
 壊れたしまった玩具を無用のものと見做し、捨ててしまう事。それは誰でも為しえてしまう事。だからこそ、責める事などきっと出来やしないのだ。
「ただ、前の主人が大切していただけに付喪神な存在みたいなものが生まれ出てしまったのかも知れません。出来ることならただ倒すのではなくその思いを消化させてあげられたら、と」
 麻衣の言葉に、こくりと無言で『K2』小雪・綺沙羅(BNE003284)が頷いた。
 年齢、そして可愛らしい要望の割に大人びた考え方をする彼女は冷静に、そして客観的に事実を見据えていた。
「物の価値は人によって異なる。少年にとって人形は無二の親友でも、姪夫婦にとってはただの綺麗なだけの置物」
 だからこそ、きっと想いは蟠り、このような形で留まってしまったのだろう。
 ゆっくり目を伏せ、綺沙羅は考える。
「人形にとっては少年達はどういった存在だったんだろうね」
 もし、人形に心があったなら。
 もし、そうなら。
「素敵ですね……望まれて、擬似的に…かもしれませんが、心を与えられた人形……」
 何処かうっとりと、虚ろな双眸を蕩けさせ、『鏡操り人形』リンシード・フラックス(BNE002684)は、ほうと感嘆の溜息を吐いた。
 しかし、続く言葉は何処か自嘲的な微笑と共に綴られて。
「同じ、人形同士、ですから……色々、気になる所はありますね……」
 自身に、本来なら在るのであろう年相応の、無垢な少女のような、その心があるとは思えなくて。
 自身は人間でありながら人形のようで、だからこそ人形でありながら人間のようであった人形にこそ淡い羨望を覚えて。
「あちらのほうがドラマチックです。ちょっと、取り残されたのは、可愛そうですけどね……」
 せめて彼女を、囚われた何かから解放する。それは無念か哀しみか、寂しさか――いずれにせよ、放ってはおけない。
「留まる理由は知らないが、誰かを手に掛けてしまう前に、止めるさ」
 迷いの無い真っ直ぐな瞳で戦場となるであろう空き家を見つめて告げられた『闘争アップリカート』須賀 義衛郎(BNE000465)のその言葉こそ、リベリスタ達の果たすべき使命、そして人形にとって残酷で、それでも唯一の救済手段である事を、誰もが知っていた。


●優しくないもの:闘争
「我が子が寂しがらない様に、か。多分、自分の代わりにと人形を息子に贈ったんだろうね」
 ドアに手を掛ける前、『名無し』氏名 姓(BNE002967)が思いを馳せるは少年に人形を贈ったその女性の事。
 恐らくは命あるものとしては、一番彼の近くにいて、一番彼を見つめ続けてく他であろうその人。つまりは――母親。
「ずっと一緒には、いられないから、きっと」
 生を授かった喜び。
 その生を生む苦しみ。
 そして、先立たれる悲しみ。
 それ等全てを抱えて、想いを人形へと託したのだろうと。
 目を閉じ、その思考を一時追い出し、集中領域に入るまで、ずっと、姓はそれを考えていた。
「人形に宿る思念が誰のものか知りたいかぇ? わらわとしては誰のものでも良いと思うのじゃ」
 神秘への不可侵の結界を張りつつ、あっさりと言い放ったのは『陰陽狂』宵咲 瑠琵(BNE000129)。
 けれどそれは、考える事の放棄では無く、可能性の示唆。答が見えないからこそ、存在するそれ等全ての肯定。
「寂しくないようにと与えた母親のものでも、受け取って大切に扱った持ち主のものでも、壊してしまった姪夫婦とその子供のものでも」
 そして或いは、現実的に考えれば在り得ないであろう選択肢。けれど、幾度も神秘を見てきた彼女達だからこそ、否定しない可能性。
「人の一生に等しい時を過ごして来たのじゃから、持ち主に対する人形の思念でも良いと思うがのぅ」
 ともあれ解決が先だと、瑠琵は式の仔鬼を呼び出した。それは主たる瑠琵を護り支える衛兵。
 そして姓が音をたてぬよう鍵を壊すのを見計らい、『骸』黄桜 魅零(BNE003845)がドアノブに手を掛けて。
「……百年少女、ね。これから先、一人で長い時間をさ迷うの?」
 それは、哀しい事だ。あってはならない事だ。
 ならばどうする。決まっている。答は最初からひとつだ。
「帰りなさい、あるべき場所へ……さ、そのお手伝いをしてあげる!」
 勢い良くドアを開けた。駆け込むリベリスタ達。
 これが百年の時に打たれる終止符、その始まり。


「はいどうも、お邪魔しますよ」
 律儀に挨拶ひとつして、義衛郎は辺りを見渡す。
 玄関に人影は無い。彼はリンシードに目配せする。彼女はこくりと頷くと、しずかに居間へと続くのであろうドアを、少しだけ開けた。
 身を隠し其処から覗く光景の中に、その姿はあった。
「……あれ、か」
 瑠琵と同様、子鬼を護衛に付けた綺沙羅が視線で指した先。
 家具も無くなった居間で、ゆるり、くるり、舞う少女。
 淡く綺麗な金糸の如きプラチナブロンドの髪に、セレスト・ブルーを思わせる空の色したシルクのドレス、瞳はスター・サファイアの輝き、白い素肌は磁器のよう。
 イヴに渡された資料にあった特徴と、相違無い。間違いは無い、彼女こそが“百年少女”!
「では、参りましょうか」
 半開きのままのドアを、彩花が、今度こそ完全に開け放つ。
 居間に足を踏み入れるリベリスタ達。踊る少女の振り向き様、魅零と目が合った。
「こんにちは、百年少女。貴女の真実、見せて貰うよ」
 刹那――気配を消したまま、驚異的な速さで背後に回り込んでいたリンシードが、碧光の飛沫纏う蒼の連突を見舞う!



●優しくないもの:現実
 リンシードの華麗なる刺撃が開戦の合図となり、臨戦態勢に入ったリベリスタ達も一斉に動き出した。
 彼女に続く義衛郎が、その半端な長さの刀身を有する打刀、その曖昧さを活かした剣技で生み出す幻の影にて百年少女を翻弄し、刻む。
 素早くカーテンを閉めた魅零は、身を翻し護りの闇で自らを覆う。その脇をすり抜けて、彩花が颯爽と前へ。
「神秘に依る攻撃への体勢を持つ相手なら、その単純明快な攻略法はひとつ……物理的に強引に叩きのめす!」
 流水の如く外柔内剛、変幻自在の構えから彩花が、家の会社が試作した最新鋭ヘビーアームズ『Lightning Arms』を振るい繰り出した、雪崩とも思える程の勢いを伴って叩き出された掌打は、百年少女の身体をいとも容易くフローリングへと張り倒す。
 百年少女が実を起こすよりも先に、姓がその周囲に神気宿せし束縛の光糸を張り巡らせ、その華奢な身体を床へと縛り付けた。
 そんな中、麻衣と共にキッチンへと移動した綺沙羅は百年少女に復活の力を与える『何か』を探す。
 深淵を覗き解する瞳を得、手始めに少女をじっと見つめて――気付く。
(……身体全体に、靄みたいなものがかかってる。良く見えない……でも逆を言えば身体の何処かにあるのは確定だね)
 阻害する神秘は、其処に護るべきものがあると言外に語っているようなもの。
 そうと判れば遠慮は無用。式の鴉を喚び出しては、戒めを受けた百年少女のその身を喰らい付かせる。永遠に死ねぬ罪人を喰らう罰の如く。
 そして瑠琵の召喚した、自らを模す式符に護られながら麻衣は、現時点で回復は不要と判断、キッチンに隠れそのまま魔法陣を展開。産み出し、飛来した一条の矢が百年少女を貫いた。
 再び、リンシードの煌めきの剣舞と義衛郎の惑わしの剣戟が、百年少女の身を穿ち、斬り払う。そして彩花が、戒めを解き起き上がろうとした百年少女へと馬乗りになると、その鳩尾に白鈍の冷気纏う拳の一撃を撃ち込んだ。
 駄目押しの氷結を受けた百年少女は遂に殆ど動かなくなり、好機と見た姓が、自らの名を黒き名の中に埋めた『氏屍』で、所々破れたドレスを纏う隙だらけのその身体に的確な一撃を打ち下ろした。
 ビクンと痙攣する少女の身体を、更に魅零の漆黒の霧が包み込む。
「一人ぼっちが嫌なら、黄桜と同じね。黄桜と一緒で二人ボッチかしら?」
 一人じゃあない。一人ぼっちなんかじゃあない。貴方は、貴女は独りなんかじゃあない。それを判って欲しくて、哀しみに囚われた心を静めて欲しくて。
 だから、届く届かないは関係無く言うのだ、魅零は。現実は残酷で、葬る事でしか救えないから。せめて、心だけでも穏やかに、安らかにと、願いを込めて。
 そして二度、綺沙羅の黒鴉は餌を求めて百年少女へと迫る。その式符が離れた時、瑠琵も百年少女の喉元へと噛み付いた。
 血は、無い。その代わりに神秘を吸い上げる。そして我が物とし、擦り減ってゆく筈の戦う為の力を確かに補充する。
 麻衣が、再度魔矢を投げ放つ。逃れ得ぬ百年少女はその一撃をまともに受けた。
 だが、その拍子に百年少女を捕えていた氷が、砕けた。
「!」
 リベリスタ達は急ぎ、追撃を開始する。しかしリンシードの煌剣も、義衛郎の刀撃も、魅零の闇霧も、彩花の凍拳も、姓の捕糸も、舞うように、紙一重で躱され、或いは直撃を避けられた。
 直後、百年少女を柔らかな白金の光が纏う。生命無き者から溢れ出たとは思えない、生命の輝きに満ちたそれは、百年少女の損傷を修復していった。
「面倒な事になったね」
 表情は殆ど変えずに淡々と、しかし声の響きは何処か忌々しげに、綺沙羅が呟いた。同時に式符の鴉を差し向けるも、弾かれた一羽が彼女の腕を軽く打った。
 瑠琵の立てた牙も硬質になった身体の為に衝撃と、鈍い痛みを返される。麻衣が放った矢の一撃も破片が返された。
「面妖な……」
「反射によるダメージは少ないですが、厄介ですね」
 それでも、怯む訳にはいかないから。
 多少の怪我は元より覚悟の上だ。彼等は臆せず立ち向かう。
 しかし百年少女が、くるりとその場でピルエット。同時に、彼女を囲むリベリスタ達の思念を、蝕み侵食するように、何かが乗っ取らんとしてきた。
 ――死の記憶。それは置いて逝かれる哀しみ――
「……あ」
 これは、百年少女の記憶、にして、絶望、だ。
 へたり込みそうになるリンシードと魅零。だが、抗うように、義衛郎が剣の柄を握り、彩花がガントレットを構える。
「絶望に、屈しはしない。お前を放っておく訳にいかないからな……!」
「ええ、余りわたくし達を見くびらない事です。恐怖も絶望も、全て乗り越えて見せます!」
 そのまま二人が百年少女を攻め立てる間、麻衣が浄化の神気を光に代えて、リンシードと魅零にこびり付いた穢れを祓う。それを受けて二人も戦線に復帰。
 そして、遂に、姓の放った一撃が。
「すぐに楽にしてやるから、ちょっとばかり、ね」
 反攻の光ごと粉砕し、地に伏させた。



●優しくないもの:天命
 ――それでも。
 ふらり、立ち上がる百年少女。
 だがその時、一筋の希望の光が見えた。
「百年少女の、キサ達から見て右脚。接ぎ目があるの見える?」
 綺沙羅のその言葉に、一斉に人形の右側の脚、即ち左足を一斉に見るリベリスタ達。確かに綺沙羅の言う通り、敗れたドレスの裾から見える白く細い脚、その大腿部には、痛々しい接ぎ目が見えた。
 恐らくは姪夫婦の子供によって壊されたのであろうが――もしや。
「其処に、何かが……アーティファクトが、埋まってる」
 それが、百年少女に今尚それ以上の時を求めるものの正体なのか。
「生の幸福、死の絶望……そして痛みの記憶……それらは少年の記憶を示すけど……」
 百年少女の中で、何度も何度も繰り返されるそれは。
「ぜんまいを撒く……繰り返し……」
「ぜんまい、ですか?」
「そう、ですか……それが、彼女の“原因”なのですね……」
 麻衣にも、リンシードにも合点がいった。百年少女は――彼女に嵌められたぜんまいは、彼女の時を“巻き戻す”事で、彼女を美しいままの姿に“戻して”いる。
 ならば、それを壊せば――彼女はきっと、この永きに渡った悲劇から、解放される。
 リンシードがその剣を煌めかせ、百年少女の気を引く間。
「そうと、判れば……」
 義衛郎が、百年少女の復活の合間に研ぎ澄ませた集中力もそのままに、接ぎ目を瞬断した。
 其処に出来た切れ目に、彩花が追撃を掛ける。有りっ丈の力を籠めて拳を振り翳して。
「粉砕、します!」
 躊躇いも無く突き出されたその全身全霊の一撃は、呑み込み圧倒する如く、百年少女の身を強引に横たわらせ、その脚を折った。
 折れた脚は虚しく宙を舞った後に光の粒子となって霧散した。それは本来ならば実体を持たぬ“想い”であるが故の。
 鈍色のぜんまいが姿を現す。
『――!!』
 初めて、百年少女が声にならない叫びを上げた。
 悲痛な、拒絶の色を纏ったそれと同時に巻き起こったのは、リベリスタ達の身を襲い、精神を突き崩さんと為す、四肢を容易く折られるかのような錯覚。
 ――これは 彼女の 痛みの記憶――
「……それでも」
 痛みを堪え、姓が前へと進み出る。
 幾重にも、幾重にも、どんなにも、どんなにも。
 巻き戻しても、巻き戻しても、失った時は戻らない。
「只、時は進むものだ」
 止まった時から、百年少女を解放しよう。
 姓の、無駄の無い動きで一瞬の内に繰り出された殴打は、呆気無くぜんまいを破片へと変えた。
「今なら……!」
「うむ、終わりにしようぞ」
 麻衣の齎す癒しの微風が、リベリスタ達の傷を塞いでゆき。
 応えた瑠琵が、そして綺沙羅が、百年少女へと食らいつく。
「成長したその姿を持ち主に見せに行くが良い」
 燃やされた訳でも無く、捨てられた訳でも無く、今日この場で生涯を終えた女としての姿で。
「狂ったオルゴールのような繰り返しは必要無い。百年で時を止めた時計のように主人を追っていけ」
 送る事。それがリベリスタ達に出来るせめてもの餞だから。
(黄桜は忘れないよ、あなたたちの存在を)
 人も、物も、いずれは朽ちる。
 そしてその存在を、人々は永遠に覚えている事は出来はしない。
 それでも、せめて、自分が生きている間だけは、覚えている。
 そうする事で、その身も心も滅びたとしても、百年少女は、記憶の中で生き続ける。
 人は――心は、忘れられた時に死ぬものだから。
 だから、今出来る精一杯を。

「おやすみ、百年少女……あちらでは皆に会えると良いね?」

 魅零の痛みの刻印が、呪詛となって、百年少女を刻み付けてゆく。
 霧散し、飛沫となって、薄れゆき、消えてゆくその姿に、リベリスタ達は永遠に続く百年の終わりを悟る。
「……お疲れ様」
「まあなんであれ、想いを向けた相手のところへ行けるなら、それで良いんじゃない」
 唯々、その結末を見届ける姓。彼なりの手向けの言葉を贈る義衛郎。
 彼女はきっと幸せで、同時に不幸だった。けれど、幸福な時間があったのは事実だから。
「私も、この人形のように……誰かに、必要とされ続けたい、です……」
 いつか、百年少女のよう、少女らしい心を得られるなら。
 きっと、とても幸せな事だろう。不幸が訪れたとしても、きっとその幸せを胸に抱いて、生きていける。
 ――この残酷な時の中で消えゆく百年少女が、微かに笑ったように、リンシードには見えた。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
遅ればせながら『ぜんまい仕掛けの百年少女』を納品させて頂きます。
申し訳ありませんでした、そしてご参加有難うございます、西条です。

今回は無事、百年少女を解放して頂きました。
皆様の決意と優しさが心に沁みました。
本当に有難うございました。

それでは、ご縁がありましたらまた宜しくお願いします。