●とある倉庫にて。 だだっ広い倉庫の中に、数十個の箱が一つに纏めて置かれてあった。 「で、あれを移動させるのを手伝って欲しい、って事ですか」 それを指で示しながら芝池は、アーク所属の変人フォーチュナ仲島を振り返り、確認する。 そしたら何か「うん、そう」とか無駄に美形な横顔が当たり前のように頷いたので、芝池は思わず「いや、自分で運べばいいじゃないですか」とか、指摘した。 とかいう芝池の顔をちょっと何かぼーとか眺めた仲島は、「それでね」と、そんな指摘はもー全然聞く気ありませーんみたいに、「トラックはこっちで用意するから、あれをトラックに積んで、違う倉庫に移動して、下ろして終わりっていう、簡単な仕事なのね」とか、言った。 「仲島さん」 「うん何だろう芝池君」 「だから、自分で運べばいいですよね」 「だってあれ、アーティファクトなんだもん」 「はー、あの中にアーティファクトが入ってるって事ですか」 「いや、あの箱自体がアーティファクトなのね」 「はー」 「触った人がその時考えてた事とか、念じた物が箱の中に出現しちゃうっていう、アーティファクトなのね」 「はー」 「だからあんまり触りたくないっていうか、分かるよね」 「いや分かりませんけど」 「だいたい俺が触って、ちっちゃい芝池君がいっぱい出て来ても困るわけだし」 「何でそこで僕の名前が出るのかもあんまり良く分からないですけども」 「そりゃあ俺が毎日芝池君の事を考えてるからだよね」 「からだよね、ってそんな当然の事みたいに言われても気持ち悪いんで話変えていいですか」 「うんいいよ」 「じゃあこの箱って、念じたり考えたりすれば生物とかでも出現しちゃう感じなんですか」 「うん、ただ全部箱サイズになっちゃうけど。あとこー、箱がちゃんと認識するかどうかは気分次第みたいな所があるから、本物とは若干ずれてる物が出現したりすることもあるらしいね。でね。とにかくこれは、出現しろーって思ってなくても、考えたら出現しちゃう所もあるみたいだから、よっぽど出現して欲しくない時は、心を無にして箱を持つしかないわけなんだけど、これが結構難しくてね」 「でも、開けなきゃいいわけですよね」 「まあそうね。開けなきゃ別に中身はばれないけど。生き物とかだったら、動いてる感じは、出ちゃうよね。あと何か、一つの箱から出現する物は一つだけなんだけど、結局出現しても、30分から一時間くらいで消滅するらしいよ」 「はーそれはそれで使えない感じですね」 「まあそうね使えないよね。暇潰しにしか」 「ですよね」 「まーとにかくそういうわけでね。一応これもアーティファクトだから、リベリスタの人達にお願いしようと思うのよね。ほら、アーティファクトの扱いにも慣れてるだろうし、何がどうなっても対処できそうだし」 「いや何もどうもならないんじゃないですか、箱移動させるだけなんだし」 「だから一応よ、一応」 とか、覇気のない表情でひらひらと手を振る仲島は、明らかに面倒臭そうに、見えた。 つまり結局は自分で運ぶのが面倒臭いだけなんですよね、とか思ったけれど、それを言ったら「じゃあ芝池君が運んでくれるの」とか、更に面倒臭い事になりそうな予感がしたので、芝池は「はー」といい加減な相槌を打っておくことにした。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:しもだ | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年08月23日(木)23:06 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 8人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
●潜入スクープ! 箱を移動させるだけの簡単なお仕事のはずが……! 葉月・綾乃(BNE003850)のカオスリポート! ~その1~ 筆者はジャーナリストという仕事柄、新聞社やTV局の知人に「資料の整理を手伝って欲しい」と頼まれる事が多い。そして今回の仕事についても、概要的には箱の整理ということだったので、筆者的には慣れ親しんだ「資料の整理」と同じような作業風景を想い浮かべ、軽い気持ちで請け負う事にした。 けれど、その時の様子が余りに混沌としていたので、筆者はここに、ジャーナリストとして書きとめておくことにする。 8月某日。 とある場所にある倉庫にて、うだるような暑さの中、作業が始まった。 筆者が問題の倉庫内に到着した時にはもう既に、カオスの兆しは見えていた。 ● 綾乃が到着した時、倉庫の中では既に、『くまびすはこぶしけいっ!!』テテロ ミミルノ(BNE003881)が、緑色のくるんとした瞳に涙をいっぱいためて、どういうわけか、泣いていた。 「ミミルノ……うえっく、どうすればいいか……ひっく、わかんないの~……うえっく」 ただでさえ何も分からない所に、どうすればいいか分からないとか言われても、綾乃も益々どうしていいか分からない。 「えー……っとォ……え?」 「だからね、ミミルノね。このはこはもってるひとがかんがえてるものがでちゃうから、むしんむしんとおもってはこんでたの。そしたらぽろぽろおかしがこぼれだしたから、わーいとおもってぱくぱくたべたの。そしてまたはこをもったら、またおかしがぽこぽこでてきて、それをまたぱくぱくたべて、いっぱいたべてうれしかったけど、これじゃぜんぜんはこをもっていどーできないの~っ。どーすればいいの~?」 っていうのを纏めるとつまり、無心になって箱を運ぼうと思ったら、アーティファクトの箱からお菓子が出て来てしまった、という話なのだろうけれど、でもお菓子が溢れ出てる時点で多分もう無心じゃない気がした。 でもそれは可哀想なので言ってあげてはいけない気がした。 とかやってたら、ハッ! みたいにいきなり顔を上げたミミルノが、 「そだっ! おかしをだせるだけだしておなかいっぱいになるまでたべたら、きっとおなかいっぱいだからおかしのことをかんがえなくなるの~! ミミルノかしこいっ!」 ぽふ。 とか何か、柔らかそうなもふもふした手を叩き合わせて、よっこらしょ、みたいに立ち上がった。 とことこと箱の前まで歩いてくると、いでよ! おかーし! とかって両手を振り上げ叫ぶ。 ●葉月綾乃のカオスリポート! ~その2~ 細かいことは良いのです。 そんなわけで筆者はまず、その場で作業をする人々にインタビューを試みることにした。 まずは、どんなにクソ暑い倉庫の中だろうと、どんなに退屈な作業だろうと顔色一つ、それどころか表情一つ変えない、雪白 桐(BNE000185)氏に話を聞いた。 「今回はアーティファクトの箱の移動というお仕事ですが。今の心境を一言頂けますでしょうか」 筆者がそうマイクを差し出すと、アンドロイドみたいに無の表情の雪白氏が、こちらを向く。 「そうですね。どんな困難や混乱や誘惑があろうとも、そしてそれに乗っかろうとも、最後にはちゃんと箱の移動は終わらせますよ」 「なるほどそうですか……でも、乗っかるのは、乗っかるんですね」 「乗っかるのは、乗っかります、甘い物とかお菓子とかどんどん出そうと思います」 「なるほどそうですか乗っかるんですね」 「乗っかりますね、それは」 「なるほど、そんな楽しいのか楽しくないのか、表情からは一切読みとれない風情で、乗っかるのは乗っかる、と」 「乗っかりますね」 「なるほど乗っか」 「いやもうこのくだり、良くないですか」 「はい、というわけで、こちら倉庫の綾乃です。えー俄然やる気があるのかないのか全く分からない雪白氏ですが、どうやら乗っかる気はあるようです。それではスタジオにお返ししまーす」 「いやスタジオ、ないですよね?」 続いては、耳のアンテナを謎にピコピコ光らせている、『鉄腕ガキ大将』鯨塚 モヨタ(BNE000872)氏に話を聞いた。 「今回はアーティファクトの箱の移動というお仕事ですが。今の心境を一言頂けますでしょうか」 「んー。今回はラクそーなお仕事だなーとか思ってさ。これなら大怪我して母ちゃんに怒られることもねぇよな」 「なるほど。大怪我をすると母ちゃんに怒られるわけですね。さては、母ちゃん怖いんですね?」 「ば。ばっか! んーなんじゃねえよ! 怖くねえよ! 母ちゃんなんか怖くねえよ! っていうか母ちゃんなんか怖くねえよ!」 「はいはい」 「な。なんだよ!」 「いえまあ、何で二回言ったのかなって」 「ばっ。馬鹿、あれだよ、そんなのあれだよ。怖くねえからだよ! 怖くねえよ、母ちゃんなんか怖くねえよ!」 「デスヨネー」 「な、なんだよ。馬鹿にしてんのか! おいらをなめると怪我するんだからな! 母ちゃんなんか怖くねえんだからな! ほんとに母ちゃんなんか怖くな」 続いては、既にもう何かを出し始めている『シトラス・ヴァンピール』日野宮 ななせ(BNE001084)氏に話を聞いた。 「今回はアーティファクトの箱の移動というお仕事ですが。今の心境を一言頂けますでしょうか」 「はい、こういうお手伝いみたいなものもたまにはいいですよねっ、なんて考えてる日野宮ななせです宜しくお願いします!」 「宜しくお願いします!」 「「宜しくお願いします!」」 「こ、これは一体何なのですか」 「はいこれはちっちゃいななせです!」 「つまり日野宮さんはちっちゃな自分を出されたわけですね?」 「そうです! この子達に手伝って貰ったら仕事もきっと楽になるのです。さー! ちびななせ隊、ごー♪」 そして次に、一人だけ奇妙なハイテンションで箱を運ぶ『┌(┌^o^)┐の同類』セレア・アレイン(BNE003170)氏に話を聞いた。 「今回はアーティファクトの箱の移動というお仕事ですが。今の心境を一言頂けますでしょうか」 「はいはい運びますよー! 運びます! どんどん運びます。はこはこびます! あははははは!」 「やる気に満ち満ちてらっしゃいますね」 「はいそれはもう、あたしも仕事ですからね。ガンガン運んじゃいますよ。いいですよね、お祭り騒ぎって!」 「いや何かもう最後の所おかしくなってますけど大丈夫ですか、お祭りではないですよ」 「はははは! 分かってますってー! 細かいことはいいんですよ! 人生何事も楽しまなきゃ損じゃないですくぁ!」 そして軽快に箱を持ちあげるアレイン氏。 しかしその内側には、とんでもない妄想が身を潜めていたのである。 続いては、『破壊の魔女』シェリー・D・モーガン(BNE003862)氏に話を聞いた。 「今回はアーティファクトの箱の移動というお仕事ですが。今の心境を一言頂けますでしょうか」 「ふん。笑ってしまうほど楽な仕事ではないか。大丈夫だ。妾に任せるといい。ふふふふふふ。ふふぁはははははっははははは!」 そして白い艶やかな長い髪を揺らしながら、仰け反りつつ笑い声を上げるモーガン氏。 何がそんなに可笑しいかは分からなかったけれど、何だかとっても危険な匂いがしたので、筆者はインタビューをここまでにしておくことにした。 続いては、お菓子を出すのにもう夢中! の、テテロ ミミルノ氏に話を聞いた。 「今回はアーティファクトの箱の移動というお仕事ですが。今の心境を一言頂けま」 「ミミルノいっきまーすなのっ!!」 ピュー! と、走り去られてもう聞けない。 筆者はここでもインタビューを断念することにした。 そして最後に、見た感じはわりと普通の『じぇのさいどたいがー』滝沢 美虎(BNE003973)氏に話を聞いた。 「今回はアーティファクトの箱の移動というお仕事ですが。今の心境を一言頂けますでしょうか」 「ふむ。でもこういうのって一所懸命考えないように頑張ると絶対なんか考えちゃうんだよな! んー」 「んー」 「んーーーよし! そうか! 分かったのだ!」 「何が分かったんでしょうか」 「じゃあ、あれなのだ! しりとりで頭に思い浮かべる物をあらかじめ決めておいて、箱に触ってから中身をひっくり返して外に出して、その隙にぱぱっと箱を運んじゃう作戦をとればいいのだ! だろ?」 「…………そうですね……それはとても、いいです」 「何だよその何か、奥歯に物が挟まったみたいな感じは」 「いえあんまりにも真っ当な意見だったもので、若いのに感心だなと思いまして」 「何だよ駄目なのかよ」 「いえそんな大きな目で睨まれても困るんですが。本当に良い意見だと思います。何というかあのー12歳とは思えないくらいしっかりと物を考えてらっしゃるというか、本当に最近の若い子はしっかりしているというか、しっかりし過ぎててしっかりしてるを通り越してたまにうっかり可愛げがないくらいといいますか」 「おい綾乃! 今さらっと可愛げがねえとか言っ」 「はい、というわけで、こちら倉庫の綾乃です。本当に皆さんお仕事への意欲を漲らせていらっしゃって、倉庫内も凄い熱気に包まれています! それでは、スタジオにお返ししまーす!」 「おいこら! スタジオねえだろ! 話変えんな! こら! 逃げんな、こらー!」 しかし、この「しりとり」があんな事態を招こうとは、その時はまだ、誰も知る由もなかったのである。 ● 「いでよ! おかーし!」 両手を振り上げるミミルノの後ろでは、桐が、「そうですね。思ったものが出ちゃうならもういっそ先にいらなくなるまで出しちゃって、楽しんでから運べばいいのです」とか何か、うんうん頷きながら言っていた。 と思ったら、「いでよ! おかーし!」と、全然無の表情でばっと両手を上げて、同じように召喚の呪文を唱えた。 そして箱をガッ! と、持った瞬間だった。 後ろから、美虎の声が言った。 「じんちくむがい食べ物しりとりー! うーいえー! どんどんぱふぱふー! さーまずはしりとりのりー! からだー! りー! りー! りー!」 桐(りー、りー、りー……) 「りー、りー、りー!」 桐(りーりーりーって何か野球のリードの掛け声みた……ハッ!) ごと。 桐の持つ箱から嫌な音がした。 今、絶対何か出た。何か出てしまった気がする。何が出たんだろう。どうしよう。今完全に野球のことを考えてしまっていたんじゃあ……。 とかいう隣では、やっぱり「り」の被害を受けたモヨタが、箱を必死になってロープで縛っていた。 「何をしてるんですか」 「え、いやおいら、美虎の声に惑わされちまって、間違ってリンダ出しちゃって」 「え?」 「いやだから間違ってリンダ出しちゃったの!」 「いや誰ですかリンダ」 「いやおいらにも分かんないけどな。でも何か多分リンダって人? だってあんなけりーりー言われたらさー」 「確かに。私もそれで野球的な何かを出しちゃったんですよね」 「それじゃあその箱、一旦開けてみます?」 と、丁度そこを通りかかった綾乃は、言った。 「えっ」 「その方がすっきりするでしょうし。ぱぱっと開けてしまいましょう」 「ちょっま」 「大丈夫ですよ、ほい」 バッ! 「ハーーイ!! ワタシリン」 って何か箱の中から、凄いド派手な衣装を着たちっちゃいオバサンが、切なくなるくらいのハイテンションで言いながら出てこようと。 したので、桐とモヨタと綾乃は、何も見なかったことにして、そっと箱を閉じておくことにした。 とかいう間にも、自分は無事「りんご」を出現させた美虎が、次はごー! と声を上げている。 その向かいには、お菓子の後のデザートをいっぱい出現させて、ご満悦な笑みを浮かべるミミルノの姿が。 「ごーごーごー!」 「でっざーとでっざーとたっくさんでっておいで~♪ かきごおりー! こっちはそふとくりーむ! あとあと……ぷりん!! わーい! 次はどうしようかなあ! んーとんーと」 「ごーごーごー!」 ミミルノ(ごーごーごー……) 「ごーごーごー!」 ミミルノ(ごーごーごー……ゴリ……ハッ!) 「わー! どーしよー!! ミミルノ、ゴリラのことかんがえちゃったよーー! どーしよーわーーん!」 おろおろおろー。ふるふるふるふるふるふるー。 って何か、もこもこの手でもこもこの頭を抱え込みながら蹲るミミルノ。 「やはり。また被害者が出てしまいましたね」 「あのデカイ声で繰り広げられるしりとりを止めないと、まだ他にも犠牲者が出るぜ!」 って言ってる間にも、自分は無事、ごーやちゃんぷるーを出した美虎が、次はるー! と声を上げる。 そこへとーう、とーう、とーう、とアホ毛をピーンしたしっちゃい三つの影が! 「皆さんのピンチに触覚がピーンしました! ちびななせがしりとりを止めてみせます! さーちびななせー! あのしりとりと止めるんでーす! 頑張れ負けるなー!」 「るーるーるー!」 「「「るーるーるー!」」」 「わー繰り返しちゃ駄目です、しりとりをとめるんですよ!」 「るーるーるー!」 「「「るーるーるー!」」」 「わーどうしよー益々煩くなってるー!」 「大丈夫です。私が行きます。負けませんよ」 すると更にそこへ、ずさーっと立ち向かうのは、桐。 って、一体何に立ち向かうのか、一体何に勝つ気なのか、最早きっと本人にも分かっていないだろうと思う。けれど彼は立ち向かう。箱を持ち。出すべきだった甘い物を念じる。 「いでよ、おかーし! いや、お菓子では範囲が広すぎますので、ケーキ。そう、ケーキ!」 「「「「るーるーるー!」」」」 「ケーキケーキケーキー!」 「「「「るーるーるー!」」」」 「ケーキケールケールケーーール! 青汁! ハッ!」 ごと。 そのタイミングで箱が反応する。 絶対に中身は、青汁に違いなかった。 桐はがくっと膝をつく。 「ケーキがケールに……。何故ですか……何故青汁なんかに……負け……」 「そう言う時もあるさ。何つーか……気にすんなよ」 ポン、とぷにっとした幼いモヨタの手が、桐の華奢な背中を叩く。 「応援するつもりが逆効果になっちゃいました……何だか、すいません」 ぺしょん、とアホ毛を垂れたななせが申し訳なさそうに頭を下げる。 「だいじょうぶだよ! きりっちななせっち! つぎがんばればいいよ! ミミルノといっしょにがんばろう! ミミルノとくせい、べりーでりしゃすすいーとぷりんをがんばってつくろうー!」 ぽふぽふと、やっぱりもこもこの手で、ミミルノが、桐の華奢な背中を叩く。 けれど、桐の心はまだ、完全には折れてはいなかった。彼は幾多の修羅場を乗り越えて来たのである。その容姿故、女子に間違えられようが、どんなにか女子に間違えられようが、乗り越えて来たのだ。 だからこれも乗り越える! 「いえ、大丈夫です。これは私の出したケーキです。大丈夫です、食べれます。というか、飲めます」 そして箱を開け、コップに入った緑色の液体を一気に。 「いやいやいやいやいや、絶対止めた方がいいって、変な匂いしてるから、変な匂いしてるから」 「わーきりっちすごーいよー。へいきなかおでごくごくのんでるよー!」 「いや、ミミルノ、喜んでる場合じゃないから!」 ●その頃のセレアさん。 彼女は箱をガン見していた。 そして「構って構ってってうるうるした瞳で見上げてくるタイプの、小動物系の可愛い男子」について、考えていた。 っていうか、妄想していた。 その妄想の中には「飼い主の青年」とか「首輪」とか「健気に耐える少年」とか、「痛いの?」とか、「それとも、いいの?」とか、いけないキーワードがいっぱい出てくるのだけれど、いけない妄想過ぎるので、具体的な内容は、ここではお伝えできない。 とにかくそのいけない妄想に目だけをぎらぎらさせ、ごく普通のか弱い吸血鬼気取りの外見で、内心「ゲヘヘ」とオッサンのような邪悪な笑みを浮かべ、周りの喧騒を余所に、箱を見つめるセレアへと、突然パーン! と何かが凄い勢いで当たった。 これはもしや、神の裁きか。 当然、妄想を途中で遮られたセレアは、殺意を込めた目でぐわっと、ぶつかってきたそれを見た。 おっさんだった。 どういうわけか、ちっちゃいおっさんだった。むしろ、全然知らないオッサンだった。 しかも遅れて気付いたけれど、ぶつかった所が、めちゃくちゃ冷たかった。 「え」 「あ、すまん。それは、妾が冷えたスイカを念じてたところ、美虎のしりとりに邪魔されて出た、冷えた酔漢だ」 後ろから凄い冷静に、シェリーが言う。「大丈夫だ。放っておけば、その内消えよう」 「いや何で冷えたスイカが、冷えたオッサンになるんですか!」 「おっさんではない。すいかんだ。冷えた、酔漢」 「いや、知らないし!」 「だから、美虎が、うどんの「ん」で「ん」がついたからしりとりが終わってしまったと嘆いていてな。その「ん」の連呼に、スイカが酔漢にだな」 「いやだからもうそのしりとりの件からすでに知らないし!」 ●葉月綾乃のカオスリポート! ~その3~ と、益々この後その場は混沌としていってしまうのだけれど、その後のことは余り思い出したくない。 ただもちろん、箱を移動させる作業に関しては、優秀なリベリスタの皆なので、きちんとやり遂げた事だけはお伝えしておこうと思う。 |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|