●夢 「んっ……」 重なる唇、留美は思わず瞳を閉じる。 細い体は逞しい腕の中に包み込まれ、何度も重なり合う感触に、思わず二の腕をぎゅっと掴んでしまう。 「っ……はぁ……」 ゆっくりと離れる唇の間に、光に反射する透き通ったラインが消えていく。 深くゆっくりとした呼吸を続けながら、留美は目の前にいる彼を見上げた。 そこにいるのは健、クラスメイトの少年である。 「な、何するのよ……急に……っ」 返事の代わりに彼女を壁へと押しやると、再び唇を重ねてきたのだ。 唇を啄ばみ、重ね、広げて、奥へと侵入した存在が交じり合う。 「んっ……う……っ、ふっ……んんっ」 何が起きているのか、分からないまま唇を貪られ、ぐいっと胸板を押しやれば唇が離れていく。 「ちゃんと答えなさいよ……っ」 何故だろうか、何時もの自分なら、こんな事をされれば相手をぶん殴っている筈。 それなのに何も抵抗できなかった、ぼんやりとした思考は答えを見つけられず、ぐるぐると巡る。 「留美は俺のものだろ……? 留美だって抵抗しなかったのは、認めてるんだろ?」 「ばっ、馬鹿いわないでよ! 確かに……付き合ってる……けど」 愛している、けれど認めたくない。 素直になれない気持ちで、つい そっぽを向いてしまうのだが、抱き寄せられた体はソファーへと横たえられた。 「イヤなら止めろよ?」 「……っ」 赤いドレスの背中、隠されたジッパーに指が掛かれば、下ろされていくのが聞こえる。 ベアトップのゴスロリドレスが崩れていき、丸みを帯びた胸元を包む黒いブラが露になっても、留美は抗わない。 (「……私は」) 認めたくないが、きっと健を本当に愛しているのだろう。 恥ずかしいのに、それより先の事を何処か望んでいる。 このまま全てを彼に奪われたい、言葉に出来ぬ思いを彼の唇へ重ねることで伝えれば、求め『愛』は続くのであった。 ●独身危険注意報 「せんきょーよほー、するよっ!」 『なちゅらる・ぷろふぇっと』ノエル・S・アテニャン(nBNE000223)は何時になくテンションが高い、両手をグッと天井へ向かって突き上げ、満面の笑みを浮かべていた。 対照的に仏頂面を浮かべた兄、紳護の姿もある。 「ノエルは~……こーいうアーティファクト、大好きかも。でもあぶないのがすごく残念なの、ふふふっ♪」 何処か嬉しそうである、しかしこれから戦いの話をするにはあまりにも不自然だ。 訝しげな表情を浮かべるリベリスタ達を置き去りにノエルははしゃいでいた。 「ありじごくってアーティファクトなんだけどね、近づいた人に夢を見せるの。夢はね……好きな人とぎゅーしたり、ちゅーしたりしてる夢」 自分でと言うことは浮かべず、ドラマや映画のラブシーンを浮かべているのだろう。 きゃっきゃっと落ち着かぬノエルに苦笑いを浮かべつつ、紳護が細かい説明に入った。 「アーティファクト名は蟻地獄、こいつはブローチの形をしているんだが、射程内に入った人間に夢を見せる。それは自分が望む相手と……まぁ、その、愛を語らう夢を見せるらしい。ノエルは理解していないようだったが……キス以上の事になる場合もあるようだ」 愛しの想い人がいる少女であったり、相思相愛の男女であったり、片思い中の男性だとかは間違いなく引っ掛かりそうだ。 逆にそう言うのが直ぐに浮かばない無恋愛者は蚊帳の外である。 それでも欲望から拾い上げて夢を見せることもあるらしく、独身男は煩悩爆発大公開となろう。 「普通の人間なら夢を見せられている間に生命力を吸い取られて死んでしまう、しかしリベリスタなら易々掛からない筈だ。それに掛かったとて簡単にはやられない」 害という点に関しては比較的易しい分類ではなかろうか。 それでも一般人には危険すぎる、これの回収が今回の目標だ。 「最初に夢を見せるオーラを放つが、これで掛からなかった場合、オーラで作った敵を差し向けて排除しようとする素振りを見せる。それに気をとられている間に、再度夢に絡め取るというのが本命らしい」 温和な割には狡猾な手段である。 気を引き締めなおしたところでリベリスタ達は紳護から資料を受け取り、プランを検討し始めるのであった。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:常陸岐路 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年08月27日(月)23:10 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●プロローグ 雑居ビルの隙間に生まれた空き地に、淫靡な空気が満ち溢れている。 けれど誰も来ない、ここにいるのは己が欲望で生まれた夢に沈む女達と一人の男だけ。 現場に到着したリベリスタ達は、事前の打ち合わせ通りの作戦を展開する。 『重金属姫』雲野 杏(BNE000582)と『エターナル・ノービス』メイ・リィ・ルゥ(BNE003539)は頭上から奪取のチャンスを狙い、他のメンバーは地上から敵兵の排除と支援を行う事でニ方向からの攻撃を仕掛ける算段だ。 早速『蒼き祈りの魔弾』リリ・シュヴァイヤー(BNE000742)の放った流星群の如き魔弾に紛れ、『女好き』李 腕鍛(BNE002775)は冷気を纏った拳を振るい、オーラで作られた敵兵を凍てつかせ、粉砕していた。 「さぁ、きりきり回収してしまおうよ」 「いっちょいきますかぁー!」 『愛を求める少女』アンジェリカ・ミスティオラ(BNE000759)も赤き月の呪力を解き放ち、残った敵を更に弱らせていく。 赤い不吉な光を際立たせるかの様に、『バルバロイ』霧積・桃華(BNE003863)の漆黒の闇が広がり、命を蝕む瘴気が追い討ちをかける。 実力の強さでは何か尖ったものの無い敵兵達は一気に弱らされ、沈んでいくものの数の多さは強い。 (「幸せな夢を見れるのなら、現実に未練など無い。そう思う者もおるんじゃろうが……」) 『雪暮れ兎』卜部 冬路(BNE000992)もエネルギーを纏わせた大剣を叩きつけ、敵を切り伏せながら複雑な思いを抱く。 (「欲望から拾い上げるっていうと、あたしの場合どうなるんだろう」) 『フェアリーライト』レイチェル・ウィン・スノウフィールド(BNE002411)も今は聖なる光で敵を焼き払いながら前進あるのみ。 アーティファクトの特性を耳にした時、自分に該当する甘い感情が想像が付かなかった。 単純なぶつかり合いだけでは直ぐに勝敗は決していただろう、けれどここから始まるのは潜在意識に残る渇望の世界。 けして醜いだけではない、寧ろ純粋な欲望に自身を知ることとなるだろう。 ●すれ違い 魔手に引きずり込まれた最初の犠牲者はリリであった。 「ん……っ」 夢の中、愛する腕鍛に抱きしめられ、求められるがまま唇を塞がれていく。 ほぼ同じ視線、離れた唇から緩く吐息が零れれば、まだ足りぬと唇は貪られ、何度も何度も重なり合う。 「んぅ……っ、んんっ、ふぁっ……んっ」 キスの合間に零れるのは互いを確かめ合う愛の波音、舌は寄せては返しと繰り返し、互いの中を行き交うのだ。 (「こ、こんなに深いキスがあるなんて……」) 考える余裕があるここまで、ぼんやりとしつつあった意識はビクリと起き上がらされた。 「わ、腕鍛様……っ?」 幻想の愛しき人は背中をつぅっとなぞり上げ、隠されたファスナーを探り当てていく。 戸惑いを秘めた瞳で彼を見つめれば、微笑と共に耳元に唇が寄り添う。 『……リリ殿の全てが欲しいでござる』 境界線を越えた男女の世界なぞ、何も知らない少女には十分すぎる告白だった。 『その手も、唇も、髪も……触れれば触れるほど、愛しくなればなるほど、拙者の心が焼け落ちそうでござるよ』 堪えきれないほど膨れ上がった愛という名の欲望の手がファスナーをとうとう捕まえてしまう。 心臓を鷲掴みにされたかのような心地、下ろされる音とは裏腹に心の全ては上へ上へと浮かぶ。 (「恥ずかしい……です、おかしくなりそうです。おかしくなったら、嫌われてしまうでしょうか……? でも、あなたが望むのなら、私は… …」) 愛する人を受け入れる、全てを捧げて、全てが繋がっていく。 ぱさりとドレスは陥落し、白い肌と共に白にレースがあしらわれた可愛らしいデザインの下着姿が晒される。 きゅっと唇をかみ締め恥じらいながらも、彼の手が胸元に触れた瞬間、この先の結末と教えの言葉がぶつかり合った。 「だ、駄目ッ! 婚前交渉は、いけません――ッッ!」 寸前のところで彼の手を拒んだ瞬間、彼女の夢は晴れていく。 「リリ殿……」 時を同じくして、腕鍛も夢の中にいた。 本来であれば、二人の夢は繋がる可能性が高かった。 しかし、独立しているのには理由がある。 彼と彼女の望んだ結末が、違ってしまったからだ。 (「これは……聖職者を愛すると決めた時からの覚悟でござる」) 細い体を抱きしめる腕鍛は、それ以上のことを彼女へ望まない。 いっその事、この夢に騙されて抱え続けた愛を吐き出してしまうべきなのかもしれない。 常人ならばそうするだろう、けれど腕鍛はそれを覚悟で押しやってしまう。 (「夢の中とは言えど、リリ殿に冷たくするのは心苦しいでござるな……」 夢の中にいる彼女は物足りなさそうに瞳を潤ませ、ぎゅっと胸元を掴んで彼を見つめるも、腕鍛は惑わされなかった。 そろそろ夢は覚めるであろう、最後にもう一度強く抱きしめた瞬間、本物のリリの叫び声に彼の意識も目覚めていく。 少女の前から消えていくオーラが象っていたのは紛れもなく自分の姿、そして下着姿となった恋人は現実を理解すると共に身をちぢこませ、体を隠す。 「こ、これは失礼したでござるよ……」 背を向ける腕鍛は願いの相違に気付いたはずだ。 彼女は自分の欲望を望んだ未来を見ていた、この相違点は二人にどんな変化をもたらすのだろうか。 貴女は愛故の歪みを愛せますか? 貴女の大切な答えは何でしょうか? 理性という教えと、本能という愛情と、両方を見た二人の未来は如何に。 ●欲望 「まこにゃん……寝ているの?」 杏の夢は、褐色の少女……否、少年への想い。 「まこにゃんはどうしてそんなにかわいいの? ずるいわ、まこにゃんはアタシなんかより、見た目も中身も女の子なんだもの」 眠り姫の様に横たわる愛しの人の傍へ腰を下ろすと、杏はゆっくりと頬をなで上げる。 軽く擦り寄る様に揺れる頭は、彼女の欲望を爆発させていく。 「そりゃあ皆はまこにゃんを女の子として扱うわよね。でもアタシには無理よ」 自分よりも女性らしい彼、女となった彼も欲しいが失われてしまった本能を望んでしまう。 それは今の彼を否定するのではなく、彼の全てが欲しいからこそだ。 誰も知らない、彼を自分が全て奪いたい……その欲望はその体を容赦なく貪る。 「んはっ……! まこにゃん……まこにゃん……っ!!」 右耳に降り立った唇が頬へと滑り、何度も重ねなおしながらも首筋へと滑る。 飢えに飢えきった唇は遠慮なく細い首筋をしゃぶりまわし、舌先が濡れたラインを描きつつ左の頬へと駆け上がった。 まだ足りない。頬にも何度もキスを降り注がせ、左耳にキスの水音を直接届け、耳の粘膜すら撫でまわしてはびっしょりと濡らしてしまう。 額に、鼻先、最後に自分にマテを掛け続けた唇へ飛びつく。 「はぁ……っ、まこにゃんの唇っ」 眠りから覚めた王子様はどんな顔をしているのだろう。 視線が重なった瞬間、微笑を浮かべながら唇を重ね、口内を蹂躙する。 「んっ、んん……っ、ふ……んんっ」 可愛らしい服のボタンを乱暴に外し、はだけた褐色の素肌を撫で回す。 くりくりと爪先がこそばゆく神経の集まる場所を弄び、反応を楽しみながらも反撃は許さない。 唇は鎖骨を甘く噛み、くぐもった声と水音だけが薄暗い寝室を支配する。 穢れを知らぬ少女の甘美な悲鳴に目を細め、掌は彼の大切な場所へと沈んでいくのであった。 「ふぁっ!? んんっ、んんぅぅっ!?」 杏と入れ違いに夢に沈んだレイチェルはスタートからトップギアに入ってたような状態である。 目の前の少女はレイチェルを熱っぽい視線で見つめてはキスを重ね、唇の合間から舌の絡み合う妖しいメロディが零れていく。 いつの間にか後ろにいた別の少女が、レイチェルの服を脱がせようと手をかければ真っ赤になりながらその手を掴む。 「い、いいって、自分で脱ぐから……!」 もじもじとおぼつかない手の動きは、レイチェルを囲む少女達を焦らしているかの様にも見える。 煽られきった幻想の3人は辛抱溜まらず半脱ぎのレイチェルへ、我先と手を伸ばす。 「まだ全部脱いでないんだからそういう事しちゃダメっ……だってばぁ……」 後ろから伸ばされた手がレイチェルの胸元を包み、正面から腰へ手を回す少女からは唇や頬に熱烈なキスを、直ぐ傍で寄り添う少女の手は太腿を摩り、内股を擽ってと、3重の同時攻撃が迫る。 触れ合う肌、重なり合う吐息に視線、こそばゆい刺激に身を捩りながらも潤んだ瞳が自分を貪る少女達を見つめていた。 ぱつんとブラのホックが外れる感触を覚える頃には遅く、崩れぬ様に支えていた布は既に無い。 全てが零れ落ちる前に小さな掌が包み込み、顔を覗き込みながらが女の象徴を弄ぶ。 あまりの恥ずかしさに逃げ出そうとすれば、そのまま四つん這いに倒れ込んでしまう。 無論終わることは無い。前からは胸元を、背後からは腰から緩やかなカーブを下り、谷間を目指す。 「や、やだっ、指で……そんなに激しく、されたら……ぁっ!」 翻弄されるがまま思考を真っ白に染め上げられ、何度も背が弧を描く。 「ぇ? あ、あたしが……?」 幻想の少女のオネダリに、おずおずと頷けば寝転がった少女に跨ると共に素肌を重ねあう。 違う体温が交じり合い、鼓動の感触も心地良い。そして強請られた事は体を擦り合わせるだけ。 「は……ぁぁ……」 じりじりと、まるで歩調を確かめる様に動くだけでも何故か脳が痺れるような甘い刺激を覚え、レイチェルはより深く夢に沈むのだろう。 ●倒錯 レイチェルが真っ赤になって現実に戻る頃、入れ替わりにアンジェリカが夢につかまる。 我が家であった教会、礼拝堂には捜し求めた神父の姿。 表情を出すのが苦手な彼女が浮かべた、最高の微笑みが彼がどんな存在なのかを示している。 失いたくない、その強い願望が叶えられようとした瞬間。 「アンジェリカ~!」 何処から現れたのか? 神父から引き剥がすように桃華が飛びついたのだ。 不意打ちに近いハグに流され、アンジェリカはたたらを踏むが如く神父から離されてしまう。 「と、桃華さんっ?」 予想外の乱入に戸惑っている合間も、桃華は遠慮せず背後から伸ばした両手がスカートをめくり上げてしまう。 身を捩ろうとも容赦はなく、上着も緩ませる様に乱され捲られ、白黒縞模様のショーツとブラが露になった。 愛しき人の前で、その人ではない手で。 「や、やめてっ。ボクには神父様という心に決めた人が……」 そんな声を聞かされては、桃華の嗜虐心を余計煽る事には気付かないらしい。 ククッと口角が上がり、サディズム溢れる微笑のまま膨らみの小さな胸元を掴む。 「その愛し方を教えてあげるわぁ……それに、男の人は何だかんだいって、ここは大きい方が好きな事多いしぃ」 刺激を当たれば育つなんて嘘の様な手段で膨らませようと、ぐにぐにと掌に収まる双丘を揉み解す。 「や……っ」 目の間には神父、自分の痴態を余す事無く見られているのを実感すると嫌な筈なのに……羞恥は欲望を燃え上がらせてしまう。 イケナイコトなのに、今すぐ目の前の人の下に戻りたいのに。 焼け焦げていく胸の奥の痛みすら、甘い刺激と錯覚する倒錯感。 そんな自分の全てを晒したい、受けいれて欲しい。 アーティファクトは少女の心を丸裸に、歪めていく。 「いい香りねぇ……?」 胸元の刺激にカクンと傾いたところを逃さず、桃華の唇が押し付けられてしまう。 吸い付く様な貪るキスは、白いキャンパスに赤い花弁を描く。 ほんの少し青く見透かせた血管を舌先がなぞり上げれば、ゾクゾクッと駆け上がる刺激にアンジェリカの頭は感電したような痺れを覚える。 耐えようとすれば別の場所、崩れれば再び別の角度から。 桃華の愛情はアンジェリカを翻弄し、じっくりと余分な力を削ぎ落とす。 「顔もよくなってきたわぁ」 感情起伏の薄いアンジェリカの表情は必死にこそばゆさと未知の刺激に耐えるも、瞼の力が弱まり、力を失った瞳は今にも溶けてしまいそう。 つぅっと内股から臍までを一筆でなぞり上げる人差し指、速度に合わせて総身が震える様は桃華の本能を限界まで昂ぶらせた。 頬にそえた指がアンジェリカの視野へ自分を映り込ませ、ゆっくりと顔を近づける。 背中越しに乗り出すようなキス、きっと重ねれば堕ちるだけ。 「だ、駄目……!」 最後の理性を振り絞り、AFから取り出したフライパンが桃華の頭部を殴打。 目覚めの鐘と共に二人は妖艶な夢から解き放たれていく。 「彼なんて忘れてさあ……私とイイ事しましょお……?」 何故か、叩かれた桃華が目覚めるまで、少しの間を要したが。 時を同じくして冬路も幻想に飲み込まれていた。 彼女の目の前にいるのは、白黒の髪が特徴的な少年である。 「……ほんの一時だけでもいい」 精練された胸板へ額をこつりと寄せて呟く言葉は消えそうなほど小さい。 彼の顔を見上げるのが怖かった。見えぬ二重の十字架は、此れだけ近づくと見えてしまいそうだから。 抱きしめてと、彼の胸元に消えた弱々しい願い。するりと腕は冬路を包み、彼に顔を埋めていく。 (「かつては……悪の僕、今は見た目は若かれども、私は八十近い老女じゃ」) この時と逞しく燃え上がる少年の傍に相応しくない、叶わぬ恋と胸が張り裂けそうだ。 (「今だけは……この身体も、刻み込まれた手練手管も、貴女に捧げよう」) 顔を上げれば、軽く背伸びをしながら唇を重ねていく。 長く長く、重なる度に早鐘の如く鼓動を奏で、啄ばむ様な濃厚な口づけへと変わっていた。 「はぁ……ぁ」 彼の身体を沈め、スプリングの軋む音と共に彼の上へと冬路が覆いかぶさる。 首筋にキスを重ね、筋のラインをなぞる様に舌が踊り、上目遣いに彼の機嫌を窺う。 「まだ……じゃ……」 彼の上着の前が開かれ、逞しい身体を見下ろしつつ冬路は身体を起こす。 軍服のボタンを一つ一つ解けば肩から滑り、ゆっくりと白い腕を下り落ちていく。 男を魅了する黒レースのブラ、たわわに揺れる胸元を見せつけながらズボンの拘束を解いていた。 古い軍服の下、腰元だけを肌蹴ながら黒き上下を晒し、顔は再び彼の胸元へ。 響く水音は緩やかに、何度も彼の肌を擽っては誘い、蕩けた瞳で視線を向ければ緩やかに逸らす。 肉食獣への餌の様に、兎の耳を揺らしながら食欲を煽りつつ片手が彼の手を握る。 導いた先は谷間の奥。フロントの留め金に手を導き、何を求めているのかを指し示す。 解き放たれた瞬間、大きく転び出る房は互いの身体に挟まれてもう見えない。 もっともっとと、自分を思い知りながらも彼を求め続けていった。 ●夢醒めて 順々に夢へと沈む最中、幻想へと沈まなかったものが一人。 (「皆、なにしてるのかな?」) メイは恐らくノエルの時と同じく、発生すること事象を理解できないが故に夢に沈まなかったのだろう。 何せ到着するまでの間、『あれだっけ?たしかぎゅーってしたり、ちゅーしたら赤ちゃんできちゃうんだっけ?』と、のたまい皆を凍りつかせた程だ。 こんなに何も知らない子を連れてきても良かったのだろうか? 誰しも思ったが結果として対象から逸れる事で行動を確実に行えるのは大きいだろう。 オーラで象られた人型と戯れる仲間達をみても、直ぐに揺さぶられる事は無かったが濃厚な欲望の世界の断片は、彼女に大人の味を感じさせてしまう。 「ぅ……っ」 何をしているのか? キスやハグぐらいは分かる、けれどそれだけすら強いというのに、その先の世界を間接的に垣間見ればいつしか息は荒くなる。 「な、何だろう……?」 病気だろうか? それなら早く終らせるべきと、蹴散らされる敵兵の合間を縫って突撃するメイはブローチまで後一歩と迫る。 「つかまえたっ!」 飛び道具を身を翻して回避し、蟻地獄は少女の手の中に納まった。 瞬間、今まで別の人間に見せてきた夢の断片がメイを襲う。 「っ……!?」 甘い声、擦れあう肌、欲望に重なり合う唇、それ以上の何か、走馬灯のように過ぎ去る世界を受け止め、ぺしゃんと地面へ座り込んでしまった。 「だ、大丈夫だよ?」 驚く仲間達へ微笑んで振り返るメイ。戦いは終った、けれど、彼女の真っ白な純心は欲を知らずにいられたかは分からない。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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