●フルメタルフレーム・ブーステッド 大型スーパー花島屋。屋上駐車場つき四階建てのショッピングセンターであり、もともと商店街も衰退しかけていたこの土地を経済的に潤す建物だった。 だった……そう、過去形である。 今まさに、それは過去の遺物に、瓦礫の山に変わろうとしていた。 『目標確認――マジックブラスト、リリース』 巨大な『砲台』を囲むように巨大な魔方陣が幾重にも展開。 方陣は複雑怪奇に発光し、凄まじい神秘砲を発射した。 砲撃は建物の中腹に命中。大量の瓦礫と人間の一部をまき散らし、建物自体を傾かせた。 『損壊率30%。スタンバイ』 『五香、ラージャ』 悲鳴と爆発音が混じりあう中、蜘蛛のような六脚式装甲戦車が並木道を踏み潰しながら姿を現す。 『照準――砲撃(ファイア)』 戦車の主砲部分からミサイルを発射。更に両サイドから伸びた巨大なアームが動き、先端に装着されたガトリング砲が火を吹く。 横薙ぎにまき散らされた鉛弾の雨が、逃げ惑う人々をたちまち血煙へと変えた。 その様子を、自立浮遊するアダムスキー型飛行物体が見下ろしている。上部に設置されたパラボナアンテナが回転し、周囲の状況を伺った。 『損壊率100%。任務終了、撤退』 『五香、ラージャ』 『豊四季、ラージャ』 二つの多脚戦車と飛行物体は悠然と方向転換し、どこかへと帰って行った。 後に残ったのは、瓦礫と人間の残骸のみである。 ●人だったもの。いまは兵器。 「……以上が、未来視の内容です」 『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)が語った惨劇にリベリスタたちは沈黙した。 「スーパーマーケットを破壊した多脚戦車たちは自律行動をとり、互いに協力、連携する知能を持っているようですが、人間のような感情や記憶が存在しているわけではないようです」 「……エリューション・ゴーレムと何が違うんだ? 態々最初から人格を認めてるみたいな言い方だけど」 リベリスタの一人が疑問を口にしたが、他の何人かは和泉の言っている意味を正確に理解していた。 「それは、彼らが元人間……フィクサードであり、アーティファクトからの機械化浸食を完全に受けきってしまった神秘兵器だからです」 ――重武装戦車・五香。 ――魔導装甲車・豊四季。 ――強襲支援飛行体・六実。 この三体が、一般人が無数に集まるショッピングセンターを破壊しに到来する敵である。 「途中のルートが全く把握できない上、本気になればかなりの速度で移動できると見られており、途中での阻止はできません。皆さんには事前にショッピングセンターに先回りし、彼らを迎撃して頂きます。建築物が破壊される事態は防げないでしょうが……必要悪と割り切るほかありません」 一応事前に結界を張り、これ以上人が訪れないよう人払いをしている。だがしかし屋内に子供が残っている可能性や、何らかの原因で逃げ遅れた人が居る可能性もある。 だがそれ以上に、敵を迎撃する必要があるのだが……。 「彼等は大火力と重装甲を兼ね備えた敵です。支援機の方も味方の戦力を増強する上、反射スキルや自己防衛スキルにも優れています。皆さんで協力し、彼らを倒してください」 あなたが敗れれば、未来視の内容は現実のものとなる。 和泉は分厚い資料をあなたに手渡し、深々と頭を下げた。 「よろしく……おねがいします」 ●ひまわり子供会 スーパー花島屋、崩壊直前でのこと。 「美咲ちゃん、そんなに走ったら危ないわよ」 「だいじょうぶ」 人が多いとはいえ、土地がよくあ余る地域である。 少女はおもちゃ売り場へ駆けより、くまのぬいぐるみを抱え上げた。 彼女の居る場所が、床ごと瓦礫に変わるのは、この10秒後のことである。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:八重紅友禅 | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 9人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年08月28日(火)22:57 |
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■メイン参加者 9人■ | |||||
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●FMFブーステッド 空を飛ぶ三つの人影が見えるだろうか。 イーグルアイで周囲を見張る『デイアフタートゥモロー』新田・快(BNE000439)。 集音装置で警戒を続ける『怪人Q』百舌鳥 九十九(BNE001407)。 幻想殺しでフィルタリングをかける『糾える縄』禍原 福松(BNE003517)。 「FMFブーステッドねえ……彼等ってもとは人間だったワケですよな? もはや面影も無くなってE・ゴーレムのようで……神秘って凄いですなあ」 「神秘がみんなああでたまるか。開発経緯が偶然だったとはいえ、こうなることは想定されていたのか……?」 「陰謀も背景も関係ない。今ここで守らなきゃならない物がある。戦う理由なんてそれで十分だ」 既にある程度の避難が終了したショッピングセンター上空で、彼らは一斉に同じ方角を向いた。 「――来る」 空間が微妙に歪んだように見えたかと思うと、透明化を解いた三機の巨体が出現。光の翼を畳んで地面へと降り立った。 アダムスキー型飛行物体が上部のパラボナアンテナを回しながら、快たちを睥睨している。 『リベリスタ確認。敵性体7、未確認1。命令に基づき破壊』 『五香、ラージャ』 『豊四季、ラージャ』 アームからガトリング砲を四門同時に展開する五香。展開式装甲から多重魔方陣を出現させる豊四季。 福松達は素早く地面に降り立つと、彼等へのブロックを開始した。 「とりあえず建物に直接突っ込まれなければとりあえずの被害は抑えられるな」 「だが一人で一体づつブロックするのは難しい筈だ。弾も届くだろうしな」 「知れたこと」 タンッと駐車場のアスファルトに降り立った『紅蓮の意思』焔 優希(BNE002561)は、その勢いのまま突撃。豊四季のボディ目がけて土砕掌を叩き込んだ。 魔導防御壁を突破して直接メタルボディを殴りつける優希。 「人の命は奪わせん。その前に、装甲を内部から破壊してくれる!」 「アーティファクトによる機械化浸食で完全に兵器化した人間、FMF……なるほど。人の姿を捨ててまで戦闘力を得ようとする姿勢には美学すら感じますね」 『極北からの識者』チャイカ・ユーリエヴナ・テレシコワ(BNE003669)は建物の屋上から飛び降り翼でホバリング。 指でペンを回すとピンポイント・スペシャリティを放った。 豊四季のボディを大量の気糸が襲い掛かる。 「でも、人間に踏みとどまった底力も負けてはいません、そうでしょう皆さん!」 「そういうことだ。前回の雪辱を果たさせてもらおうか」 福松もしっかりと狙いを定めて豊四季の主要パーツ(と思われる部分)目がけてB-SSを連射。 豊四季は展開式装甲で弾幕を弾くと、眼前に魔方陣を並列展開。 同じく五香もガトリングアームを扇状に広げると、どっしりと多脚を固定した。 「来ます、快さん!」 「伏せてろ!」 七布施・三千(BNE000346)は即座にクロスジハードを発動。 『デイアフタートゥモロー』新田・快(BNE000439)は彼の言葉に反応して盾を翳す。 大量の魔弾と実弾が入り混じり、優希は勿論チャイカや福松達も纏めて薙ぎ払う。 快は三千の盾になると、魔弾を直接身体に受けながら防御。混乱や魅了といったBSがモロに身体を侵食し始めた。 「ぐ……」 「新田さん、しっかり!」 聖神の息吹で快や自分たちを回復する『境界の戦女医』氷河・凛子(BNE003330)。 彼女に強く肩を掴まれる。快の額からぶわりと汗が噴き出た。何故なら、無意識にナイフを逆手に握り、凛子の眼球めがけて振り込もうとしていたからである。 「ぐ――おおおおおおおおおおおおおお!!」 筋肉を無理やり駆動。自らの足にナイフを突き立て、意識を強制的に引き戻す。 「大丈夫、だ……」 「根性を見せたな、新田」 横目で振り返る優希。彼もまた、自らの腕に噛付くことで混乱した身体を強制停止させていた。 腕と顎の力が強すぎて肉が裂けていたが、優希は苦しい顔一つしない。 「しかし敵の威力が強すぎる。どうにか解除できるか、歪……は無理か」 「優希さんもしかして、ぐるぐさんがプロアデプトだってこと忘れてません?」 『Trompe-l'eil』歪 ぐるぐ(BNE000001)は肩を回すと、子供の用に手を振って見せた。 「ハローハロー、久しぶりー。街なんか壊してないでぐるぐるさんと遊ぼうよっ」 奇妙な軌道で走り、豊四季の魔導防壁の間をすり抜けるぐるぐ。どこからか銃を取り出すと、トリガーガードに指をひっかけて回した。 「ハイ、あでぷとあくしょん」 かつんと装甲に銃口をくっつけると、強烈な威力で走行ごと破壊。まるでドアをノックするかのように内側へと弾丸をめり込ませた。 小爆発を起こして身体を傾かせる豊四季。 「嘘だ、そんなアデプトアクションがあるか。やはりデュランダルではないのか?」 「エー」 空を仰ぐぐるぐ。一方の豊四季は蜘蛛のような脚を複雑に駆動させて起き上がると、再び魔導弾幕を展開。停め捨てされた自転車や車に被弾して次々と拉げさせていく。さすがのぐるぐもたまらず額やお腹に被弾。ころころと転がりながらガードレールに後頭部をぶつけた。 だがそんな中をまるで冗談のようにすり抜けていく影がある。 大量の残像を残しながらありえない軌道を描く九十九。しかし体勢はなぜか半身の直立不動であった 「付与しようとしても無駄ですぞ。全部解除してくれます」 悠々とした体勢のまま懐から銃を取り出すと、素早くピアッシングシュートを発射。五香の重装甲を貫通し、かかっていた付与をたちまち解除してしまった。 「メンバーに恵まれましたなあ。潤沢な回復力と確実なブレイク。多重強化と威力重視型には完全なカウンターと言っても差し支えないですのう」 銃を手品のように消して掌を見せる九十九。 そう言う彼こそ、『絶対に当たらないレベル』の回避性能と『確実にブレイクできる』ピアッシングシュートがその要になっていた。 戦いは、リベリスタ優勢の形で滑り出している。 こうしている間に、仲間が取り残された一般人を避難させていればいいが……。 「晦、頼んだぞ」 優希はちらりと建物を振り返り、中を駆け抜けているであろう仲間を想った。 一方その頃。 『足らずの』晦 烏(BNE002858)は人の居ないショッピングセンター内を駆け抜けていた。 手近な火災報知器を銃撃で鳴らし、残っていたスタッフやうっかり逃げそびれた買い物客を外へと逃がしていた。 火災報知器が鳴ってもまず悪戯だと思う現代人の特性からかスムーズには行かなかったが、装剣したショットガン片手に男が走りまわっているというシチュエーションに恐怖を覚えたのか、逃げずに留まるような人間は居なかった。 そうして走り回ること暫し。 「やっぱりここにいたか、美咲ちゃんと……房野道子さんだな?」 「どうして、その名を」 一見親子連れにすら見える少女と女が、おもちゃ売り場に立っていた。 敵意が無いこと示すように両手を上げる烏。 「はげのオッサンの仲間と言えば分かるかい」 「は……?」 「徳のアップダウンが激しそうな坊さんだ」 「あっ、フツさんの」 今だ警戒の色を見せる少女を宥めるようにしながら、女は頷いた。 「ここが戦場になる。おじさんと一緒に逃げてくれ」 「……わかりました」 烏は美咲の手を取って走りだす。道子へも手を翳したが、その手は暗に無視された。 その意味を考えるのは後にして、烏は建物の出口へと走る。 ●兵器と人間の境界線 無数のミサイルが宙を舞い、アスファルトや外壁を悉く破壊していく。 前半こそ注意をひきつけて居られたが、彼らが当てる事より破壊することを優先し始めてからは事情が変わった。大量のミサイルや魔導弾によってショッピングセンターは崩壊。残っている人々が慌てて逃げ出すが、そんな彼等すらも容赦なく弾丸の雨に晒されようとしていた。 「快さん、凛子さんをよろしくお願いします!」 三千は光の翼を鋭くすると、退避中の一般人の所へ割り込み、弾丸を体で受ける。 凛子も必死で彼を含めた仲間たちの回復に勤しむが、回復の両が徐々に追いつかなくなってきた。 「このままだと押し切られます。攻撃機のどちらかだけでも潰せませんか」 「もう少しです、堪えて下さい!」 豊四季に対抗してピンポイント・スペシャリティを連射。大量の気糸と魔導弾が交差し、お互いの身体を蹂躙し合った。威力は確実に相手の方が上だ。 しかしチャイカは相手の構造や癖、軌道やメカニズムをつぶさに観察していた。おかげで序盤よりもずっと弾を避けるのが楽になっていた。 「そろそろトドメを……そう言えば心臓とか狙ったら急所撃ちできますかのう」 ドラップラー効果を起こしながら豊四季の胸部(と思われる部分)へピアッシングシュートを打ち込む九十九。 弾丸は上手く装甲を貫いたが、思ったような弱り方はしなかった。 首をかしげる(と言うより身体ごと屈折する)九十九。 「んん? おかしいですな、今確かに心臓に弾がめり込んだ筈ですがのう……?」 「さりげなくエグイことするんだな。だが、もう一息だ」 福松は豊四季の脚部を挫くようにB-SSを連射。転倒とはいかなくとも微妙に動きを鈍らせた所で、福松たちは最後の集中砲火を浴びせてやった。 ハチの巣になり、爆発を起こして砕け散る豊四季。 「あとは五香を撃破すれば詰みです、皆さん!」 五香の弾幕に対して聖神の息吹で回復弾幕を張る凛子。 するとぐるぐが五香のそばまで飛び込んで行った。身体をいくつもの弾丸が貫通。何発かは留まって激痛を走らせた。 「メカは好きだけどさ、人間を捨てていくたびに強くなるってのは、あんまりかわいいマイクに見えないな。遊んで貰えなくなっちゃうしね!」 ぐい、と拳を振りかざす。 「まだこっち、みせてなかったね」 ぐるぐは五香のボディ上部へとりつくと、ノックするように拳を当てた。 その途端、原因不明の爆発が発生。ふるぐの小柄な体は吹き飛ばされ、五香は足を拉げさせてその場に傾いた。 ……が、まだ力尽きてはいない。 フェイト復活したばかりのぐるぐへ大砲を向ける。 「させるかあ!」 大砲の口へナイフを突っ込む快。しかし大砲の威力は彼の妨害を上回り、腕ごと吹き飛んだかと思う程の威力でナイフを吹き飛ばした。 ナパーム弾がぐるぐへモロに命中。煙を吹いて墜落するぐるぐ。 しかし五香は尚もガトリングアームをぐるぐへ向けていた。先刻の爆発で三本は機能不全に陥ったようだが、この一本だけでもぐるぐを死亡させることができるだろう。 「――――!」 快は意を決してアームを抱き込むと、自らの腹で銃口を塞ぐ。 悪夢のような連続発砲音。快は自らの身体がかき氷機にかけられた錯覚を覚えた。 意識が離れ、仰向けにアスファルトへ落ちる快。 その頭上を、血まみれのぐるぐが飛び越えた。 もしやと視線を動かす。 そこには、着弾ギリギリのタイミングで天使の息をかけていた凛子の汗ばむ表情があった。 「ごーこうちゃん」 目を大きく開き、腕を振り上げるぐるぐ。 「あーそーぼっ!」 狙いを付けずにフルスイング。その瞬間だけ時空が歪み、五香の装甲を豆腐のように切り裂き、ぐるぐのナイフが内部の五香本人の側頭部へと突き刺さった。 そしてぐるぐはにっこりと笑って。 真っ白に。 力尽きた。 同刻。ショッピングセンターは崩壊の海に呑まれていた。 床は激しく振動し、壁や棚類は倒れ、一般人なら当たれば死ぬレベルの物品が空中を乱舞していた。 「しっかり掴まってな」 烏は少女美咲を抱え込むと、身を低くして駆け出した。 道子は後ろをぴったりとついてきている。大丈夫だろう。 そう思った途端、天井が崩落。烏は身を翻して二人を庇う。 だが、なんということだろうか。 その瞬間、自らの床すらも崩落したのだ。 烏たちは悲鳴すらあげる間もなく、瓦礫の一部として階下へと落下。 その途中でショットガンを適当にぶっ放し、瓦礫の中から美咲と共に転げ出る。中に取り残さぬよう道子の腕を掴んで引っ張り出したが、その瞬間の絶望的な表情は何だったのだろうか。 地面をバウンドして転がる烏。 起き上がって階段を目指そうとするが、既に行く手は瓦礫に埋まっている。振り返ってもそこにあるのは瓦礫だけだ。 閉じ込められた。舌打ちして壁を撃つが、一発ではそう簡単に壊れてくれない。 もう一発と思った矢先に天井が崩壊を始めた。鼻をつくガスの臭い。周囲を舞う木屑の粉。 万事休すか。 烏が腕の中の少女だけでも助からせようと身を丸めた――その時。 「晦、無事かっ!」 外側から壁を破壊し、優希が突入してきた。 「翼の加護はもうすぐ切れる。急いで飛べ!」 「おじさんが天使か何かに見えるのか?」 「飛び降りろという意味だ!」 「酷えこと言うなあオイ」 などと言いつつ、烏は美咲を優希へパス。首を振って後じさりする道子を無理やり抱え上げると、二階の外壁から一気に飛び出した。 背後で起こる大爆発。 烏は偶然停車してあったワゴン車のルーフを転がると、自らをクッションにして不時着した。腕の中の道子を見下ろす。 「怪我はないかい」 返事はない。 代わりに、彼女は小さく呟いた。 「また、運命に引き込まれる」 ●『特別超人格覚醒者開発室』元室長、鎌ヶ谷禍也。 烏は車とそのキーを道子へ投げ渡す。 「とんだ母子の買い物になっちまったな」 「……」 「次は初音婆ちゃんや善三おじさんと一緒に行けな」 「……おじさんを、知ってるの?」 目を瞬かせる美咲。道子は少女の手を引くと、車へと引き込んだ。 背を向けたまま言う。 「こうなったら、関わるなと言っても無意味なんでしょうね」 「だろうな」 「今は詳しく話せません。いつか、話しますから……ありがとうございました」 ドアが閉ざされ、車が走り去っていく。 烏は新しい煙草を取り出して咥える。 横から伸びた優希の手が、マッチを擦って火をつけた。 つけた火を指でつまみ消し、優希は深いため息をついたのだった。 「あっちの方も、そろそろ片付く頃だな」 攻撃機である五香と豊四季を失い、支援特化型である六実にできることは無くなった。というより……。 『目標、逃走を確認…………ラージャ、撤退します』 「待って、六実さん!」 凛子は軽自動車の上へ駆けのぼると、掌を宙へ翳した。マジックアローが精製され、腕のスイングと共に六実へ射出される。 六実のつるんとしたボディに、マジックアローは中ほどまでめり込むが、反発したエネルギーが凛子へ矢の形で反射した。肩に突き刺さる。 それでも視線を外さない凛子に、『彼』が声をかけた。 「はぁ、無駄だよ……もう人間じゃあないんだよ彼らはさ」 六実の斜め上にあるハッチより、白衣の男が姿を現した。 「『他殺幇助』」 パチン、と指を鳴らす。 その途端、福松とチャイカは無意識にお互いの眉間に銃口とペン先を突きつけていた。 「なん――!?」 「二人とも、目を瞑って!」 三千が素早くクロスジハードを展開。低確率ではあったがなんとか彼らの状態を解除することができた。 不可視の何かをまるで当然のようによけていた九十九は仮面に隠された顎をさすった。 「敵味方無差別の強制魅了プラス呪いって所ですかな。これは恐ろしい」 「恐ろしいって……普通に回避してよくいうなあ、どうなってるんだよ全く」 頭をがりがりとかく白衣の男。 三千は彼を睨みつける。 「松戸博士じゃない。あなたは鎌ヶ谷助手……それに、その仕草と口癖」 「覚えてますよ。ずっと前……ずっと前に、死んだのを見ました。身体は別人ですけど、動きのパターンはピッタリです」 頭に手を当て、チャイカが目を細める。 「こどもリサイクルセンタア……白衣の男!」 「そうそう、うわあ良かった覚えててくれたのか。嬉しいなあ」 口ぶりのわりに何も嬉しそうではない。 白衣の男、鎌ヶ谷は遮光眼鏡をかけ直して言った。 「『ホワイトマン』の研究は僕が引き継ぐ。松戸博士の成果も、技術も、運命を受け継いだ証もね。君達アークには散々煮え湯を飲まされたけど……多分もうこれまでなんじゃないかなあ? コピー素体ももう無いし、僕もさ、必死なんだよこれでも。あ、でも嬉しい事もあるんだ、君達と関わっていると本当にいい結果が出るね。快感だったなあ! 良心に目覚めた七号の手足を押さえつけてさ、無理矢理さ」 「黙れ」 乾いた音と共に、鎌ヶ谷の遮光眼鏡が吹き飛んだ。 銃口から煙をあげ、福松が彼を睨んでいた。 ひょこんと六実の中へ引っ込む鎌ヶ谷。 「じゃあ、またね!」 飛び去って行く六実。その背を、凛子は黙って見つめていた。 その後、残骸から回収された五香、豊四季の生態部分はそれぞれ心臓破裂、脳破壊によって完全に死亡していた。 仕方のないこととは言え、殺してしまったのは事実だ。 凛子たちは彼らを持ち帰り、埋葬することに決めた。 今日もまた、戦いで人が死ぬ。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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