●強制暗殺部隊・蘭下黒影衆 闇夜を走る男。 男は地元の市長であったが、彼の権力はそう多くには及ばなかった。その一つが自身の命である。 「ハァハァ……まだ、まだついてくるのか!」 愚かにも振り返った彼は、近隣の屋根を飛び石を跨ぐように軽々と伝って追いかけてくる影を見た。 爪先から頭までを黒い布で包んだ男である。あまりに人間離れしたその動きから、人影というより『黒影』と呼んだ方がふさわしい。 黒影から発せられる殺気に、男は膝を笑わせた。 「お、お前達! 追い払え! あいつを追い払え!」 腕を振り回し、両脇を固めていたスーツのSP達に命令する。 SPは懐から銃を取り出し、振り向いて発砲。 屋根を跳弾する弾丸。黒影が屋根から転げ落ちる。 「やった……!」 男が表情を明るくした、その刹那。 闇夜を切り裂いて二つの苦無が飛んだ。SPの心臓を寸分の狂いなく突き刺し、ただの一発でその場に崩れさせる。 SPたちの崩壊は、男の心の決壊でもあった。 がくりと膝をつく男。 「……そ、そんな。精鋭中の、精鋭だぞ……」 「これが精鋭か。笑わせる」 SPたちもE能力者であったのだろうが、死した今となってはただの死体だ。 黒影は死体の間を縫うように歩き、男の目の前で立ち止まった。 「俺など、下っ端に過ぎんと言うのに」 それが男の聞いた最後の言葉であった。 素早く弧を描いた苦無が男の頸動脈を切断。スプリンクラーのように血を吹き出し、男は自覚するまでもなく絶命した。 「…………」 暫し沈黙していた黒影だが、何かに気づいて素早く振り向く。 振り向いた時には既に苦無が放たれていた……が、しかし。 「おいおいテメェ……反応鈍ってんじゃあねえのかい」 相手は苦無の先端を人差指と親指で受け止めていた。 紋付き袴の男である。見た所丸腰だったが、袖の中に苦無が仕込まれていることを黒影は知っていた。 「苦膳さま。あなたが態々出向く御用が?」 「いや、無ぇ。丁度月がキレイなもんでよ、ちょいと散歩がしたくなったんだ」 彼の本拠地からこの場所まで数百キロの距離があったが、黒影は何も言わなかった。この程度、よくあることだと言うように。 瞬きを一度する。 それだけで、周囲からぞろりと黒い人影が現れた。 その数11。今の彼も合わせれば12で、苦膳を合わせて13である。 「十三番、お前も付き合えや。今からソコまで『散歩』するからよ」 「……御意」 歩き出す苦膳。殆ど均一の足音に、十三番と呼ばれた黒影が混じる。 これにて、彼らは十三人の影であり、一つの黒影となる。 「ホントウ、散歩にゃいい月夜だぜ」 ――散歩とは、リベリスタ潰しのことである。 ●『模倣桃弦郷』蘭下苦膳 ――拝啓、アークの皆さま。 夏の蝉どもがジージー五月蠅ぇ昨今如何ぶっ殺しあっておりますでしょうか。 五月の蠅と書いて蝉の有様たぁこれ如何にってなもんでございまして、 こちとら世界にその名も轟くリベリスタの最高峰ことアークの皆さまをちょいと散歩に誘いてぇもんでこうしてお筆を態々とってやりやがりましたよこの野郎。 御託はいいからコレコレこのトキこのトコロまでお越しくださりませ。 でなきゃその辺の木端リベリスタは首斬り川流しにします。 蘭下苦膳。 ――敬具。 『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)がデスクに広げた手紙にはそう書かれていた。折った料紙に墨汁で乱暴に書き殴ったものであるが、不思議と文字はしっかり読めた。 「強制暗殺部隊・蘭下黒影衆。剣林傘下組織『剣風組』の暗器使いです。様相と武器から忍者のようだと誤解されがちですが、全くの別物です。彼等は苦無を中心とした暗器を巧みに操りつつも、正面からの殴り込みや組織潰しを続けている集団です」 忍者とは別物。これをよく覚えていて頂きたい。 彼らは暗器を使い、スピードも速く、精密な射撃スキルや格闘体術に優れているが、忍ぶようなことはしない。 彼等は自己研鑽の一環として小規模のE能力者組織を潰して回っており、そのほとんどは正面玄関から堂々と名乗り上げての殴り込みであった。 「今回、襲撃されるであろう組織には事前に避難してもらってあります。皆さんは無人となった拠点――広い道場のようです――にて迎撃して頂きます」 無論、相手もアークが迎え撃つことは承知の上である。お誘いの手紙まで書いたくらいなのだ。 より強いチームを潰したい。そんな志向から生まれた戯れなのかもしれない。 だが、人の命がかかるとなれば話は別だ。 「敵の数は13名。スペックだけを見ればそこまで苦戦はしないと思いますが……リーダーの蘭下苦膳の伏せ札が気になります」 伏せ札。 その単語にリベリスタがぴくりと反応した。 「蘭下苦膳は過去、ラーニングによって何者かからEXスキルを模倣しています。その名も『桃弦郷』」 「……」 このスキルの詳細は不明である。 だが今回解明できれば、未来に何らかのメリットが生まれる可能性はある。 「正直に言って、勝負の行方がどうなるか分かりません。どうか、宜しくお願いします」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:八重紅友禅 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年08月22日(水)22:40 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●『苦』の影 強制暗殺部隊蘭下黒影衆。 暗殺と言う言葉から想像するに彼等はきっと、窓を静かに切断して侵入したり、天井や床下からぬらりと現れるものだろうと……思わなかったわけではない。 だからだろうか、彼らが道場の壁を『蹴り破って』突入してきた時には流石の『盆栽マスター』葛葉・颯(BNE000843)も咥え煙草を取り落したものである。 「御用だ無慙一心流道場、テメェら全員恨みは無いがたたっ殺して――うおォい全員アークかよ畜生卑怯だぞテメェ!」 正面切って突入してきたリーダー蘭下苦膳は全長45センチという特大苦無を袖から抜き出すと、とりあえずとばかりに颯へ繰り出す。 颯は逆手に持ったナイフで攻撃を打ち弾くと、すかさず周囲を囲んできた黒影衆たちへ向けて残影剣を繰り出した。 「おいアンタ、こりゃ暗殺じゃあなくないかい?」 「てやんでテメェ目撃者全員コロがしゃ暗殺だろがよ」 「んな乱暴ナ」 などと言いつつ顔がほころぶ颯である。 その後ろで身構える『忠義の瞳』アルバート・ディーツェル(BNE003460)と『人妻スナイパー』安西 篠(BNE002807)。 「安西様、スキャンは」 「任せて頂戴ね。ザコから行くわよ、私は右から、アルバートさんは左から。でもって弱い順から――」 仕込み杖を握り込みつつバウンティショットを発射する篠。 黒影衆十三番はこれを苦無で打ち弾き、更に袖や懐から小苦無を大量に抜き出した。 両手の指の間に握り込み、次々と投擲。 「『小太刀』打ち、させて頂きます」 対してアルバートは袖や胸ポケット、裾や襟などから大量の薄ナイフを抜き放ち、気糸と共に乱射。 空中でいくつかの苦無とナイフがすれ違い、気糸ごと相手に突き刺さる。 「ウラジミールさん、あとお願いっ」 「了解した。弱いものからやらせてもらう!」 人殺し用のごってりとしたナイフを握り、『T-34』ウラジミール・ヴォロシロフ(BNE000680)は黒影衆の首をすれ違いざまに切断。 その後ろから現れた苦膳の特大苦無と鍔迫り合いを起こした。 「蘭下苦膳か。問おう、蘭下鞭膳との関係は何だ」 「……ハァ?」 世にも露骨に呆れ顔をする苦膳。 片眉を上げてウラジミールを蹴飛ばす。 「なんでぇそのイイカゲンな訪ね方は。テメェはあれかい、『はいはいボクちんたち同一人物なんですよー』とか言ったら鵜呑みで信じるんかい」 「……いや、流石に顔の見分けはつくつもりだ」 「まァいいや面倒臭え。アンタの事は知ってるぜロシヤーネ、鞭膳に一杯食わされたんだって?」 「そんなところだ」 ニヤリと笑ってナイフを構えなおすウラジミール。 「そんな話、していていいんですか」 『幸せの青い鳥』天風・亘(BNE001105)が短刀の柄を膝でトスし、くるくる回してキャッチした。 「始めまして剣風組の皆さま、自分は天風亘と申します。さ、どうぞ?」 手招きをして見せる亘に、黒影衆が前傾姿勢で突撃。 逆手に持った苦無を上下中段より一斉に繰り出してきた。 「――っと!」 苦無が振り切られたと思った時には、既に亘は彼らの背後に立っていた。 手首や脇腹から血を吹き出す黒影衆。 「魅了するにはちょっと弱い……て所ですか。構いませんよ、物理的に切り刻めばすむことです」 「はいはーい、敵襲でござるー、であいであえーい!」 きゃっほーうと言いながら敵の頭上を飛び越えていく『Trompe-l'eil』歪 ぐるぐ(BNE000001)。 鈍いナイフを大げさに振りかざすと、独楽のようにくるくる回って黒影衆を弾き飛ばした。 「今日の運勢は芳しくないようですねー?」 「『常識破り』か。凌ぐぞ同志よ」 黒影衆はジグザグな陣形を組むと、複雑なパターンで味方を前後に入れ替えた。 大雑把に言えば、苦無を投げる者と回避に専念する者という二段構造である。近くの相手を叩き続けたいぐるぐたちには若干戦い辛い戦法だった。 「このまま覆い込まれたら危ないですね」 「ぐるぐさんなら全部当てる自信ありますけど?」 「全員がぐるぐさんじゃないんですよ」 「想像したらキモいですね? アマヤカシテー」 あばばーとおどけるぐるぐ。 彼女の背後で、『デストロイド・メイド』モニカ・アウステルハム・大御堂(BNE001150)が自動砲の安全装置を解除した。 「撃つので当たらないで下さいね」 「うわっと!?」 ハニーコムガトリングを乱射しながら、自身を軸にぐぅるりと回転するモニカ。 こうなってしまえば前も後ろも関係ない。黒影衆たちは一部弾を弾いたものの、射撃に専念していた者は残らず薙ぎ倒された。 「剣八戦を思い出しますね。なんでしたか……あの八九式高射砲の……」 「あなたもっと他人のこと覚えていたほうがいいですよ」 「覚えてますよ。とてもEX(とくべつ)で、良い戦いでした。今日の相手がパチもんでないことを願いますよ」 「パチモンかどうかは知らないが、少なくとも堂々とした相手だ。嘘をつくタイプではなさそうだな」 『ナイトビジョン』秋月・瞳(BNE001876)は周囲に天使の歌を展開。 先刻の射撃で削られた分をリカバーした。 「律儀に果たし状など出すくらいだ。時代が時代なら悪側には居なかったろうに」 眼鏡をそっと上げると、道場をちょうど二分する形になったリベリスタとフィクサードの軍団を見比べた。 瞳とモニカを最後衛とし、篠やアルバートの第二前衛、ウラジミールや颯の第一前衛に分けた二層式防御で固めたリベリスタ達。 厳密な話をするとこの二層含めて前衛層となり、黒影衆たちの侵攻を阻んでいる形である。前衛の位置に若干の差をつけているのは、ブロックの優先順位をつける意味がある。逆に言うとそれ以外の意味はないのだが。 対して相手は、良くも悪くも自由に動く蘭下苦膳と、複雑に前衛後衛をスイッチングする黒影衆という陣の組み方である。 黒影衆だけならウラジミールたちだけでブロックをかけられるし、回復しながら戦えるこちらに分があるのだが、黒影衆が時折トラップネストやアデプトアクションといった妨害技を織り交ぜてくるので侵攻を止め切れず、J・エクスプロージョンなどでフリーダムに陣を乱してくる苦膳のせいで度々陣形が崩される。 相手も打撃力よりも命中・回避に重きを置いているのでBS勝負では競り負ける。ぐるぐや颯が命中精度に気を配っているから対抗できているものの、彼女等の攻撃ですら時々よけてしまうのだからやりづらい。 一応ウラジミールがブレイクフィアーを備えているのでBS状態が長続きするわけではないが、速力的な問題でフォローしきれるのはモニカ、瞳、篠、アルバートの半数だけだ。 一番怖いのは回避性能の低いモニカが混乱することで、相手もそれを狙って浸透をかけようとしてくる。 モニカのハニーコムガトリングが味方目がけてぶっ放されたとしたら、二十秒程度で味方の半数は戦闘不能。一気に全滅コースへ雪崩れ込むことだろう。 この勝負はほぼ、『どれだけイニシアチブを握られないか』がキーになっていた。 ●『模倣桃弦郷』 ――さて。 「そっちへ行ったぞ。篠、アルバート!」 「任せて――仲間の義理は通させてもらうけぇのお!」 身体を丸めて滑り込んできた黒影衆。彼の苦無をマントでからめ取り、地面に叩き伏せる篠。 しかし、突如頭上に発生した気糸の網が覆いかぶさり篠の動きを封じた。 「と、トラップネスト――」 「危ない……避けろ瞳ィ!」 颯が振り返って叫ぶ。だが時既に遅し。黒影衆は一個の生物のように同じ仕草で苦無を取り出すと、気糸を絡めて瞳へと一斉投射したのである。 「くっ!」 瞳は防御を試みるが、大量の苦無はまるで蛇や鰻のように防御を掻い潜って瞳の身体に突き刺さった。 フェイトを削って持ち応える……が、その時瞳の目に映ったのは特大苦無をせーのと振りかぶる苦膳の姿だった。 「おめぇが立ってると色々マズいんだ。正々堂々卑怯に潰させてもらうぜ、お嬢ちゃん!」 心臓を正確に狙った苦無が気糸と共に叩き込まれる。 仰向けに倒れ、気を失う瞳。 「瞳っ!」 「マズイ流れになって来ましたね」 モニカは表情を変えずに自動砲を照準。避けそびれた黒影衆を何人か薙ぎ倒していく。 それに合わせてぐるぐが飛び込み、ノックダウンコンボで押し込んで行く。 「暗器は面白いよね、いひひ!」 「そういえば怪盗様、たしか技を盗みたいとおっしゃってましたね」 「んっんー、そりゃもうラーニンガーですから?」 「私は別に『あんよがじょーず』をしてあげるつもりはありませんよ。盗む前に殲滅してしまうかもしれません」 「かまいませんよー。世の中実力社会ですからねえ」 黒影衆の一人を組み伏せ、喉元をかき切って笑うぐるぐ。 ふと顔を上げると、苦膳が天井近くまで大きく跳躍していた。 「ほぅれそのまま動くなよ、っとお!」 懐から大量の糸を発射する苦膳。 ウラジミールが二人の間に割り込み、糸をタクティクスグローブで一斉に掴み取った。逆に引っ張って相手の態勢を崩しにかかる。 「弦の技。これが貴様の最大奥義『桃弦郷』というわけか」 「うん?」 顎を上げる苦膳。 その途端、黒影衆たちの目つきが変わった。 冷静な殺意で血走った目とは打って変わって、どこか清浄な、それでいて何も見ていないような澄んだ眼である。 「これは……」 アルバートはその目つきを知っていた。 狂信者の目であり、洗脳者の目であり、仮面の少女の目であった。 名付けるとすればこうだ。 『苦しみを知らない目』。 その時、集中していた亘と颯がアル・シャンパーニュと残影剣を繰り出す。 「どの道逆手にとっちまえばおなじだヨ」 「集団強化とは予想外でしたが、利用させてもらいますよ!」 「待って下さい皆さん、彼らは――!」 アルバートの直感が危ないと告げていた。 だが彼のエネミースキャンが完了したのは、楓と亘の攻撃が繰り出された後であった。 完全に入った攻撃だったのに。 魅了も混乱も確実に入った筈なのに。 彼らはものともせず、颯たちへと群がった。 まだ遅くはない。伝えるべきだ。 アルバートは掠れかけた喉で叫ぶ。 「桃弦郷は、『不苦(くるしまず)の集団教信』。味方全員に束縛のない魂を植え付ける技です!」 黒影衆のスキャン結果はこうだ。 これまでのスペックをほんの僅かに底上げするのに加えて、痛覚遮断・鉄心・絶対者の三つが加わっていた。 切り裂かれた腕を無視し、抉られた肉を無視し、黒影衆たちは苦無を捻じ込んでくる。 「それならそうと……!」 「早く言えっていうんだョ!」 ギリギリの所でフェイトを使い、黒影衆たちを切り捨てる楓と亘。 「暗器使いとして負けられんのョ!」 ナイフを握り直し、ぐるぐと背中をつけあう颯。 これまであえて触れなかったが、事前に組んでいた『死角を補うペア』は間合いや速力の違い過ぎるペアの場合互いの実力を制限し合うことになってしまい、かなり序盤に破棄していた。これが有効に活用されたのは篠とアルバートのペアくらいなものである。 「さぁてとお控えなすって」 スタン、と地面に降り立つ蘭下苦膳。 掌を上にして突き出すと、片眉を上げて見せた。 「こちとら死をも恐れぬ熱心者の集いでごぜえやす。目を付けられたがテメェの最後。三千世界の果ての果てまで追いかけて、喉笛千切ってやりやしょう。我等、強制暗殺集団・黒影衆! ――死ぬまで殺してご覧に入れる!」 ●死の舞 絶対者の群れを化した黒影衆。しかし元々足止めに頼っていなかったリベリスタ達にとっては、ただ突撃力の増しただけの軍勢である。 正面から戦えば充分に勝ち目は残っていた。 「格好良い子の前でねんねしてるわけにはいかないよねっ」 薙ぎ倒されたぐるぐが跳ね起き、両手に刃物を握りしめる。 同じく小苦無を両手に握る黒影衆。 二人は目にもとまらぬ速さで腕をしならせると、互いの腕を掻い潜り合い、心臓と腹を切り裂き合った。ついに競り負けて倒れる黒影衆。 大量の返り血と自分の血を混ぜ、ぐるぐは壮絶に笑って見せた。 「たーのしーい! ぎゃ!?」 ぐるぐのこめかみに突き刺さる苦無。人形のように崩れ落ちるぐるぐ。 「死中活有り、壺中天有り!」 額から血を流しつつ、ウラジミールは黒影衆の首を掴み取る。ナイフを首筋に突き立て、思い切り静脈をぶち切った。それでも腕を伸ばしてくる黒影衆。 噴き上がる鮮血を掻い潜り、亘が黒影衆に短剣を突き立てた。切り裂き、斬り捨てる。 一方で篠は腕に刺さった苦無を無視し、倒れた瞳を庇うようにバウンティショットを連射。突撃してくる黒影衆へ神秘弾を叩き込む。 弾は正確に黒影衆の顔面に命中。顎を吹き飛ばし頬から後頭部にかけてを盛大に抉ったが、黒影衆の走りは止まらなかった。 「あああああああああああああああああああああああ!」 狂者の如き叫びと共に大苦無を振り上げる黒影衆。 「安西様、伏せて下さい!」 アルバートはボタンを引きちぎらん勢いで上着を開くと、内側へ大量に仕込まれた薄ナイフを引っこ抜き、いっぺんに投擲した。 顔と胸に刺さる大量のナイフ。 が、死の寸前に黒影衆は大量の苦無を投擲。篠とアルバートへ襲い掛かる。 篠とアルバートが折り重なるように倒れ、黒影衆も仰向けに倒れた。 「残りはアンタだけだョ苦膳」 「どおやらそのよぉで!」 苦膳へと突撃していく颯。 翼でもあるかのように(途中までは光の翼があったのだが、時間切れで焼失した)飛び掛る楓に、苦膳は思い切り苦無を投擲。 かろうじて防御するが、楓はバランスを崩して床を転がる。 「うっ……痛う」 「悪ぃなお嬢ちゃん、俺ぁ退かせてもらうわ」 「三千世界のなんとかってぇのは?」 「ありゃ嘘だ」 苦膳はそう言うと、最初に蹴破って来た壁へと一目散に走りだす。 ……と思いきや。モニカの砲撃が苦膳の後頭部へ炸裂。もんどりうって顔から倒れた。 「ぐおお……お嬢ちゃんそこは空気読もうぜ……」 「フォント対応してないもので」 なおも連射しようとするモニカに手を翳し、苦膳が後ろ向きに走る。みっともないことこの上なかったが、逃げる姿勢としては正しかった。 「ええっとこういうときなんて言うんだっけか? ああそうだ、テメェら覚えてろよ!」 そんな言葉を残したかと思うと、苦膳は驚くほどの速さで飛び去り、逃げて行ったのだった。 ●桃弦郷の価値 意識を失っていた瞳が、ゆっくりと目を開ける。 「すまない。戦果は」 「任務達成だ」 開口一番そう述べる瞳に、ウラジミールは早口にそう返した。 誰もがボロボロの状態で道場の床に座り込んでいる。 黒影衆のフィクサード達もその場に転がっていたが、一部はもとが人間であったかすら分からない有様であった。 「桃弦郷……恐ろしいスキルね」 「一番恐ろしいのは、これを一般人の群集に使われた時です」 「……!?」 アルバートが憂鬱そうに呟くのを聞いて、篠は瞠目した。 「そん、な」 「ありえるでしょう。このスキルのラーニング元は宗教団体『弦の民』の教祖と聞いております。足止めようの無い狂信者の群を放たれたら、その時は……」 「………………」 ぐるぐは仰向けのままぱっちりと目を開け、もう一度閉じた。 想像するのを拒んだのかもしれない。 重々しい銃を床に下し、どっかりとあぐらをかくモニカ。 「また戦うことになりそうですね。蘭下………………」 「苦膳です」 「苦膳」 亘も満身創痍であったが、全員の無事を確かめてため息をついた。 颯と共に仲間の傷の手当てをする。 「どの道、次に戦う時は伏せ札無しです。勝てますよ」 「そーいうこと。また正々堂々迎え撃ってやるサ」 壊れた壁に視線を移す。 壁から覗く空には、朧な月が浮かんでいた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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