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蛍鬼譚

●宵闇の唄
 鬼が来る
 蛍に誘われた先には鬼がいる
 子供たちよ、気をつけろ
 闇の中で光る赤い目は
 お前達を狙っているぞ

●蛍と鬼
「そろそろ蛍も終わりの季節だけれど……蛍がらみの、仕事」
『リンク・カレイド』真白 イヴ(nBNE000001)は静かに口を開いた。
「パッと見は普通の蛍だよ。でも配下エリューションだって事がわかったの。蛍はあくまで導き手。敵は、鬼の姿をしたエリューション」
 場所は山奥。地元ではちょっとした蛍の名所として知られているが蛍の季節になってから行方不明者が相次いでいるという。
 鬼は体長約三メートル。覇界闘士の初級スキルに似た技を使ってくるようだ。
 蛍の配下エリューションがいるが此方は戦闘に参加せず、鬼を倒せば消滅する。
「フェーズはまだ1だけど……人を襲って食べる鬼。季節が変われば紅葉狩りの人なんかも犠牲になるかもしれない。放っておくわけにはいかないよね?」
 その山は元々常世に繋がるという曰くがあったのだそうだ。
 蛍は死者の魂が戻って来るときの化身だ、とも。
 蛍のエリューションは一瞬だけ『エリューションをみた人が最も会いたいと思っている死者』に姿を変え、その後は蛍に戻って人を誘う。
 その特性を覚えておけば不通の蛍と間違って二度手間になる事はないだろう。
「鬼って言ったけれど、元は人間。民俗学系の研究者で常世に繋がるという山を調べている最中に覚醒して、フェイトを得られずエリューションとなってしまった。
 戦闘は夜になるから足元に気をつけて。
 ……昼間、山に近付くと苦しい、苦しいって声が聞こえるそうよ。
 それが犠牲になってしまった人のものなのか……かつてヒトだった鬼のものなのかは分からない。
 両方なのかもしれない。
 でも、救ってあげて欲しい」
 宜しく、とイヴは頭を下げて口を閉ざした。

 人に戻れなくなったエリューションは蛍に何を想い、何を見出すのか――……。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:秋月雅哉  
■難易度:EASY ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2012年08月17日(金)21:53
蛍に導かれてエリューションの元へ行くことになるので夜の山奥が戦闘場所になります。
時期が終わりに近いこともありまわりに人気はありません。
勝利条件は敵エリューション×1の撃破。
戦闘に参加する配下エリューションはいません。

よろしくお願いします。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
デュランダル
東雲 未明(BNE000340)
ホーリーメイガス
シエル・ハルモニア・若月(BNE000650)
ソードミラージュ
戦場ヶ原・ブリュンヒルデ・舞姫(BNE000932)
マグメイガス
宵咲 氷璃(BNE002401)
ソードミラージュ
津布理 瞑(BNE003104)
ソードミラージュ
災原・闇紅(BNE003436)
クリミナルスタア
藤倉 隆明(BNE003933)
デュランダル
芝原・花梨(BNE003998)

●朧に甦る死者
 夜の山道を八人の男女が歩く。
 曇った空には月も星もない。
「山はあの世の入り口。死者のいる所。怪しい事の起こる所。
 懐かしい。
 あたしが生まれ育った場所でも同じように言われてた。
 だから盆と正月には、山に入っちゃ駄目なんだと。
 ……視線を感じるのは気のせいかしら。
 それとも草や木葉の陰から、何かが此方を見ているのかしら」
『薄明』東雲 未明(BNE000340)が独り言のように呟く。
「魂と縁深き蛍……鬼となり果てし者。
 此の山…何か在るのかも?」
『節制なる癒し手』シエル・ハルモニア・若月(BNE000650)も視線を追うように、飛行状態を保ったまま静かに辺りを見回す。
『戦姫』戦場ヶ原・ブリュンヒルデ・舞姫(BNE000932)はぎゅっと己が手を握り締めた。
「もう一度、会えるの……?
 それは、ただの幻なのかもしれない。
 わたしの願望の投影にすぎないのかもしれない。
 たったひとりの親友。
 大切だった人。
 だけど……。
 それでも、会いたいよ……」
 呟いた名は闇に溶け。
 けれど察しがついたハルモニアが一瞬だけ目を閉じる。
 あの時、自分も其処にいたから。
「……蛍だわ」
 淡く光る蛍が近づいてくる。
 朧に移すは自らが今最も会いたい人の姿。
 かつて共に戦った仲間を見出したハルモニアとブリュンヒルデが胸に痛みを感じて立ち止まってしまう。
 笑ってくれるだろうか。
 幻と知りながら永遠のような刹那に言葉に出来ない思いを籠めるブリュンヒルデ。
「……全部、終わったら」
 その後に続く言葉は意図的に断ち切った。
 一度振り返ってブリュンヒルデの望みどおり笑った【彼女】が背を向けて歩き出す。
「……舞姫様……」
 ハルモニアが気遣わしげにブリュンヒルデを呼ぶ。
「……しっかりなさい。もう泣かないと誓ったはずよ。
 そして此処は……死者を悼むための場所でなくこれから戦場になる場所だわ。
 ありがとう、大丈夫よ。シエルさん」
 強張った表情で自分を律し歩き出すブリュンヒルデ。
 アークでも屈指の剣の使い手であるブリュンヒルデ。
 けれどその心はあたたかく、大和撫子と呼ぶに相応しいとハルモニアは思っていた。
「ねぇ、氷璃。貴女も私を怨んでいるのかしら?
 それとも、私が怨まれていると思っているだけ?
 どちらにしても、まだ名前を返す訳にはいかない
 この世界から崩界の危機そのものを滅ぼすまで、悪いけれど、貸して貰うわ。
貴女の地位も、名前も、家族も、何もかも――」
 自分が名前を奪った写真と人伝の話でしか知らない名前の本来の持ち主に『運命狂』宵咲 氷璃(BNE002401)は静かに語りかける。
 どうやら一匹の蛍でも人によってさまざまな幻覚が見えるらしい。
「いくらエリューションを倒す為と言っても、夜中に山奥って大変でしょう?
 というか、実は今回の隠れた大敵は山なのよ、山舐めんな」
『つぶつぶ』津布理 瞑(BNE003104)には幻影が見えずただ蛍が色を変えただけだったので周りを気配りする余裕があった。
「最も会いたい死者に会えるなんて贅沢だよね。
 でもね、うちに会いたい人なんて居ないよ」
 うちに出来るのは明るく振舞って皆の背中を叩くことだけ、と瞑はわざと明るく振舞う。
「芝原ちゃん可愛いし心配っ。うちが守ってあげるからね!」
「きゃっ!
 だ、抱きつかないでください……」
「緊張してるかと思って」
「緊張は……してますけど」
「死者の顔なんて一々覚えてないわ……何が来ても興味ない……。
 ……まぁ……どうせ一度死んだやつでしょ……?
 気にせずさっさと終わらせましょう……」
『深紅の眷狼』災原・闇紅も同様らしく足取りが変わることはなかった。
「蛍ねぇ……さて、誰の姿が見えるのかね……」
『ヤクザの用心棒』藤倉 隆明(BNE003933)も格別思い入れはないのかどこかのんびりと呟いた。
 芝原・花梨(BNE003998)は特に感想を漏らさず皆と歩調を合わせ進んでいく。
 それぞれの思い出を映し出した、或いは色を変えた蛍は静かに飛んで闇へと誘っていく。

●鬼の慟哭
――ウォォォン……。
「出た、みたいね」
 山に響く異形の者のうめき声。
 気の弱いものだったら気絶しそうなシチュエーションだ。
「気をつけろ」
 洞穴から鬼がやってくる。
 大きな身体はくすんだ赤。
 瞳孔のない目は爛々と輝く紅。
 白い蓬髪。
 額から突き出た黄味がかった白い角。
 乱ぐい歯がわななき、鬼はもう一度うめき声――雄たけびだろうか――をあげた。
 恐ろしいはずなのにどこか哀しげなその響き。
「本当にまた鬼なのね……元人間らしいけど……。
 元に戻る見込み無いんじゃしょうがないわよね……。
 まっ……今更道徳なんて興味ないしね……さっさと潰してあげましょ……。
 何時も通りにね……」
 それが闇紅なりの優しさなのかもしれない。
 此処で無意味に犠牲を出し続けるよりは、滅んだほうがきっと――……。
「……苦しい……苦しい……」
 事前情報の通りの台詞を鬼が呟く。
「今、終わらせてあげる。その苦しみから解放してあげる」
 蛍は消え、戦闘が始まる。
 鬼は身体に見合った大きさの、けれど錆びてぼろぼろの日本刀を振り回す。
「ねぇ、何が苦しいの?」
 人の意識はどれほど残っているのだろう。
 いっそ残っていないほうが救いになるのに、と思ってしまうのは、自分が神秘の業界に毒されてきただろうか。
 的確に攻撃をかわしながら未明は技を繰り出す。
 せめて出来るだけ痛い思いはしないように、と願いながら。
 ブリュンヒルデは感傷を断ち切って前衛で他のメンバーと鬼を囲みにかかる。
 回復役が攻撃されないように位置取りに気を配るのが彼女らしい。
「これ以上、絶対に犠牲者は出させない。
 ここで必ず、止めてみせる!」
 後衛で魔陣展開するのは氷璃。
 攻撃は魔曲・四重奏だ。
「もう苦しまなくても良いのよ?さぁ、眠りなさい」
 隆明と花梨のフォローをしながらソニックエッジを繰り出す瞑。
 ブリュンヒルデ同様後衛に害が及ばないように戦い、時に挑発する闇紅。
「あんた……そんな図体で弱い方狙わないと戦えないの?
 つまんないことしてないでこっちと殺りあいなさいよ……」
 前衛で回避をメインに時折攻撃を繰り出すのは隆明。
 花梨はオーララッシュで奮闘中だ。
「せめて……この数珠もて貴方様を彼岸へとお導き致しましょう……」
 後衛で回復を担当するハルモニアが天に祈る。
 鬼が振るう巨大な日本刀がますます刃こぼれしていく。
 何人。その手にかけたのだろう。
 何年。此処に一人でいたのだろう。
 蛍の幻影で人を呼んだのはどうして?
 瞑のソニックエッジが勝敗を決めた。

●月昇り鬼還る
 鬼の身体に傷が刻まれ、徐々に小さくなっていく。
 一瞬、眼鏡をかけた優しげな、長身痩躯の影がダブり、彼が振り返って仄かに笑うと同時に消えると辺りに静寂が戻った。
「……今の人が、鬼になってしまった人?」
 その人を鬼と呼ぶには表情があまりに優しすぎて。
「お名前、お伺いしたかったですね」
 彼の顔には安堵が、微笑があった。
 呪縛から解かれたことは彼にとって救いだったと信じられるだけの優しさがあった。
「蛍、もう消えたかしら。
 彼岸への道案内は頼んだわよ」
未明がそっと呟く。
「遺品などがあるかもしれません。アークを通じて遺族に届けることは出来ないでしょうか」
 鬼と、鬼が殺してきた魂、想いが開放され安らかな眠りにつくように……と願わずにいられないハルモニアだ。
「シエルさん、あの時も、傍にいてくれましたよね。
 ありがとう。
 ごめんなさい。
 だから、もう少しだけ泣いてもいいですか?」
 道標となった蛍が写した親友の姿を思い出し涙するブリュンヒルデをハルモニアはそっと抱きしめた。
「遺品、ありましたよ」
 花梨が拾い上げたのは錆びて開かなくなったロケット。
「古いな。
 ……一体いつから此処にいたんだ?」
 ロケットの鎖は触れれば千切れそうなほど痛んでいる。
「念のためD・ホール捜索をしておきましょう」
「行方不明者はいないかしら?」
「迷子になったらトラックで野宿の準備は万端!
 つーかアーク迎えにこい」
 愚痴った後ふとしんみりした口調になって瞑が空を仰ぎながら呟く。
「だけど死んでも会いたいなんて思われるなんて幸せな事なんでしょうね。
 その人の心に残っているなら、まだ貴方の心の中で生きているの。
今は寂しいかも知れないけど、きっといつかその人を感じる事が出来るわ」
 それは会いたい人を求めて山に迷い込み、鬼となって人を殺めてしまった青年に対する言葉なのか。
 それともかつての友を偲んで涙を流す戦友に向けての言葉なのか。
「芝原ちゃーん、お疲れ様!」
 テンションをハイに切り替えて花梨に抱きつく瞑。
 彼女が内心で願った願いは叶った。
 民俗学系の研究者の青年に会ってみたいと思ったのだ。
 誰からも忘れられたままでは寂しすぎるから、と。
 抱きついた花梨の温もりを感じながら今、自分が生きていることを実感する。
「D・ホールはなかったわ」
「残念ながら行方不明者や、その人たちの持ち物も…」
「仕方ねぇか……」
隆明が報告を聞いて目を伏せる。
「せめて次のめぐりが幸せでありますように……」
 闇紅は戦闘が終わったらさっさと帰るつもりでいたがタイミングを逃していた。
「……お人よしばっかり、ね」
 今年最後の一匹だろうか。
 寂しげに舞う蛍を眺めてみる。
 もう死者に姿を変えることも、色を変えることもない。
 配下エリューションも鬼と共に逝ったようだ。
 残ったのは錆びてぼろぼろになったロケットが一つ。
 開かないロケットの中にはどんな思い出が切り取られているのだろう。
「……もしかしたら、あの人とあの人が捜しに来たっていう人の写真かもしれないわね」
「えぇ、きっとそうだと思います」
「遺族に届けられるといいんだがな」
 生死不明のままの家族を待ち続けるのはきっと家族の心に大きな闇を落とす。
 今は夜でもいつか朝が来るように。
 その暗闇が払われることを望まずにはいられないのだった。

 時は戻せない。
 だから彼らは歩き出す。
 せめて新たな悲劇を生まないように。
 雲が立ち込めていた夜空に、月がかかった。
 今頃彼も常世で求める人に会えたのだろうか。
 そうであるといい。
 誰もが多かれ少なかれそう願ったのだった。
 最後の蛍が舞う。
 夏の湿った風に草木がそよぐ。
 虫の鳴き声がする。
 夏の山の夜。
 鬼はもう、哭かない。
 八人が去った後木々がざわめいた。
「――ありがとう」
「――ありがとう」
 注意して聞けばそんな言葉に聞こえそうなざわめき。
 お盆の山。
 魂はやがてあるべき場所へと帰っていくのだろう。
 彼らを縛る鎖はもうないのだから。
 最後の蛍は名残惜しむように暫く辺りを飛んだあと、やがて鬼が出てきた洞穴へと入っていきその姿を隠した。
「――ありがとう」
「――ありがとう」
 ふわり、と蛍より大きな球体があがる。
 ひとつ、ふたつ。
 魂だろうか、狐火だろうか。
 たくさんの光球が空へあがっていく。
 そのひどく幻想的な光景を、夏の植物と夏の虫と山の動物が見送っていた。
 それが魂であったなら。
 今夜戦った八人の若者達は実に多くの魂を開放したことになるのだろう。
 揺らめきながら空に上がっていく光球たちは木々のざわめきを借りて何度も繰り返す。
「――ありがとう」
「――ありがとう」

「……ん?」
「どうしたんですか?」
「なんか聞こえた気がした」
帰路に着く八人が一度立ち止まり耳を澄ます。
「風の音じゃないですか?」
「そうかもしれないな。木も多いし」
「芝原ちゃん、怖かったら抱きついていいんだよ?」
「歩きにくいですよ…」
 彼らの道はまだ続いていく。
 死者の道と交わるのは、まだ先のこと――。
「帰ったら今度こそ夏休み満喫しないとなぁ」
「ふふ……」
「宿題も片付けないとね」
「うわぁ、痛いところつくねぇ」
「学生の本分ですよ」
「あーそーびーたーいー」
「権利と義務は両方果たしてこそ、だろ?」
「ぅー……」
 今は笑おう。
 完全なハッピーエンドではなかったけれど、あの青年は笑ってくれたから。
「来年は観光できたいねぇ。名所なんだろう?」
「だったらもう少し早い時期に来ないといけませんね。蛍の見ごろは過ぎてしまいましたから」
 生きている自分たちは笑おう。
 志半ばで逝ってしまった人の分まで。
 八人はにぎやかに下山したのだった。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
ご依頼有り難うございました。
最後はちょっとでも救いが見えるように明るめに仕立ててみました。
少しでもお気に召して頂ければ幸いです。