● 敗北。 それがラ・ル・カーナ防衛線の結果だ。 八人の仲間を捕らえられ、それ以外のリベリスタは全てボトム・チャンネルへと逃げねばならなかった。 これ以上ない程の敗北だ。其れほどにバイデンは強敵であった。 だが、ボトム・チャンネルへ帰還したリベリスタの多くが司令部へと一つの意見へと投げつけた。 再び、上へ。リベリスタはバイデンの強さを目の当たりにして猶其れを選んだ。 だが、気合だけで結果が変わるほどこの世界は甘くない。敗れた側が数日の間をおいただけで勝利を得ようというのは些か無理のある話だ。 だが決断した以上其れを成さねばならない。その為アークの司令官を担う沙織は一つの決断をする。 『塔の魔女』アシュレイ・ヘーゼル・ブラックモアの投入。 貸しを作ることを差し引いても異世界で高性能の予知を可能とし、尚且つ高い戦闘能力を有する彼女の存在は大きい。 其れだけではない。 リベイスタ達が引き下がる事が出来なかったように、フォーチュナ達も気持ちは同じであった。 ラ・ル・カーナには『万華鏡』の力が届かないため高精度の予知は出来ない。戦闘能力も有しては居ない。 だが、それでも危険を顧みず彼らは決意と共にリンク・チャンネルを超える。 かくて、箱舟の総力を掛けた復讐が始まる。 ● 幾日か前に戦った強き者達が再び挑んで来た。 そんな事実を歓喜でもってバイデンの戦士であるレンドは受け止める。 自らをリベリスタだと名乗った外の者達は今まで戦ってきた巨獣や甚振ってきた長耳共などとは比べ物にならぬほど甘美な闘争を齎してくれる相手だった。 そんな相手と再び戦えるということは戦いを至上とするバイデンにとって喜びなのだ。 レンドは戦いの前の空気を楽しみながら己が最も扱いなれた武器を取る。 恐らく、彼らとなら自分の望む最高の戦いが出来るに違いない。 「行くぜ!」 声をかければ、応! と部下達から頼もしい返事。 準備は整った、この先に誇りを持って戦える戦士がいることを願い、巨獣を駆って打って出る。 「さぁ、楽しませてくれよ。リベリスタぁ!」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:吉都 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年08月22日(水)23:44 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 「楽しませてくれ、ですか」 『夜翔け鳩』犬束・うさぎ(BNE000189)が渇いた荒野の彼方、かつてリベリスタが建てそして奪われた橋頭保からやって来るバイデン達を常と変らぬ三白眼で睨みながら呟く。 これから此処にやって来るのは最高の戦いを求める生粋の戦闘狂。 そんな彼らの期待通りに正面から戦いを挑むのか、はたまた戦場にそのような浪漫を求めることは無粋なのだと遠距離からの攻撃を叩きつけるのか。 二者択一の決定権はバイデンではなく、その赤き蛮族と戦うリベリスタにある。 計らずして突きつけられる形になったバイデンからの問い。 ――どう戦うのか? 「そんなの決まっているわ」 言葉を紡ぐのは『紡唄』葛葉 祈(BNE003735)。 彼女が周りを見渡せば、同じ決意を秘めた14の瞳。 「真っ向から挑んで打ち破る、そうでしょ?」 「あぁ、最高の殺し合いをしてやろうじゃないか」 『罪ト罰』安羅上・廻斗(BNE003739)を始め、全員が頷く。 全員が覚悟を決めた今この戦いは復讐戦であり、そして誇りを掛けた戦いとなった。 ● 人よりもはるかにペースの速い足音、そして土煙り。 此方へと向かうバイデンの姿がはっきりと見え始める。 ――30メートル、20メートル。 不用心に、無警戒に、無造作に。 簡単に此方の攻撃が届く範囲へと足を踏み入れてくる。 それに手を出さず、戦いが始まる前であると分かるならば基本として行うエンチャントも行わない。 彼我の距離は、10メートル。 目を凝らせば武装で個体の判別が出来る程まで近づいたところでうさぎが声を張り上げる。 「一戦、勝負願います!」 この一言だけで敵が止まる保証がない、という懸念もリベリスタ達の中にはあったがそれは杞憂だったようだ。 集団の先頭に立つバイデンが手綱を引くとそれに倣うように他の五体のバイデンも騎獣の歩みを止めさせる。 「良い度胸だな、リベリスタ!」 その言葉は此方を下に見たようなものではあるが、その顔は遠目にも分かるほどに笑っている。 「俺の名はバイデンの戦士、レンド! ――貴様らはただ突っ立っている貴様らに俺達がこのまま突っ込むと。 そう考えはしなかったのか?」 未だに笑いを保ったままのその問いに雪白 音羽(BNE000194)もまた笑いを浮かべて答える。 「戦いってのは誇りを持って小細工なしの殴り合いをするもんだろ?」 「違いない」 その答えはレンド達バイデンのお気に召したようで、レンドが一度部下達に視線を送ると全員が騎獣からひらりと降りる。 「余裕だなぁ、アイツら」 『デンジャラス・ラビット』ヘキサ・ティリテス(BNE003891)が体に風を纏いながら仲間にだけ聞こえる声で言う。 「余程自分達の力に自信があるので御座いましょうな」 『超重型魔法少女』黒金 (BNE003106)が己の中の魔力をゆっくりと高めながらそれに答える。 恐らく彼のバイデン達は多少の数の差等ひっくり返す自信とそれを裏付ける力があると考えている豪蔵に油断はない。 「真正面からの殴り合いはあまり得意じゃないんですけどね……」 『スウィートデス』鳳 黎子(BNE003921)はどこか達観した感すら漂わせて集中を高める。 「此処まで来たらもう戦うしかないさ」 「廻斗、無茶をしすぎては駄目よ?」 付与も行わずただ二本の剣を抜いているだけの廻斗に祈が声をかける。 いつだって無茶をする彼への窘めも 「大丈夫さ、俺の後ろにお前がいるんだからな」 こう返されてしまえばどうしようもない。 「本当に廻斗はしょうがないわね……」 癒してとしての信頼はうれしいのだけれど、などと思いながら魔力を高める。 「悪いな」 そう思っているのなら少し抑えてくれれば良いのにと苦笑する。 「廻斗」 でも、彼の性格を考えるとそれは多分無理だろうから敢えてそれは言わずに別の言葉を告げる。 「勝ちましょう、勝って全員で。――全員で、無事に帰りましょう」 だからこそ、祈は仲間が傷を受けても全てを治しきろうと、支え切ろうと考える。 それが、彼女の矜持だ。 祈が最後にマナサイクルを終えたと同時。 リベリスタが準備を整え終えたのを見てとったのかレンドが背負った大剣を抜き、剣先をリベリスタ達に向ける。 「来い、リベリスタ。俺達と最高の戦いをしてもらうぞ!」 後ろに控える部下のバイデン達が咆哮をあげた。 ● 「リベリスタ、<危険なウサギ>のヘキサだ! その余裕を後悔させてやるぜ!」 「同じく、リベリスタ。神城・涼! 正々堂々行かせてもらう!」 ヘキサと涼の二人が名乗りを上げて、纏った風に押されながら腰に短剣を下げたバイデンへと肉薄し、それぞれの獲物を彼らの体へと突き立てる。 彼らが最初に狙ったのは五体のバイデンの中で遠距離攻撃を行える短剣のバイデン。 それは単純に遠距離攻撃への警戒であったのだが自らを素通りされて、そして楽しそうに戦う同胞を見て滾らずにいられるバイデンではない。 レンドと、大剣を持ったバイデンの二体がそれぞれの獲物を振り上げる。 「おいおい、俺を無視してくれるなよっ!」 「俺達だって戦うために来てんだぞ!」 大剣による重量を生かした一撃がヘキサと涼に向けて振り下ろされる。 だが、その攻撃にそれぞれ割り込む人物が現れ、狙われた二人に攻撃が届くことはない。 「大丈夫ですよ」 「お前らの相手は、こっちにもちゃんといるからよ」 大剣をはじいて逸らす、またはクロスさせた剣で受け止めたのは、うさぎと廻斗。二人は仲間が最初の標的を倒すまでの間一対一の戦いを引き受けようとする。 それは一人一人が熟達した戦士であるバイデンが相手であるためかなり分の悪い戦いだ。しかし、うさぎと廻斗は己の運命を燃やしてでもこの役目を達成すると決めていた。 「良いな、お前。名は?」 自らの一撃をいなしたうさぎにレンドは心底嬉しくてたまらないといった様子でうさぎに名を問う。 「『夜翔け鳩』犬束うさぎ!」 「うさぎか、その名前は例えこの戦いで貴様が死しても覚えておこう!」 「それはこちらのセリフですよ」 まるでタンバリンの様な獲物を翻して反撃していくうさぎ。 レンドとうさぎが離れて戦い始めたのを横目で見た後、大剣を振るったバイデンは自らの剣を受け止めた廻斗を見下ろす。 「貴様は俺の相手をしてくれるという考えでいいんだな?」 「貴様じゃない、俺の名は俺の名は安羅上・廻斗だ」 受け止めて猶強大な膂力で押し込まれようとする大剣とせめぎ合いながら廻斗が返答する。 「ハハハ! カイトか。簡単に潰れてくれるなよ!」 「当たり前だ、俺はお前達と真っ向からの斬り合いをするために此処にいるのだから」 二本の剣と一本の大剣が描く斬線が絡み合う。それは戦いの中で描かれる絵画。 「こちらも、始めましょうぞ」 己の筋肉を誇示しながら豪蔵ともう一体の短剣を持ったバイデンが睨み合う。 「黒金 豪蔵、いや正義の魔法少女ジャスティスレイン、まいりますぞ!」 猛る筋肉から光線が迸る。 「ガハ! いいぜぇ!」 バイデンの持つ強靭な肉体の前にダメージ以上の効果を及ぼすことはなかったが、直撃したそれは確かにバイデンの気を引く。 「貴方から、倒させていただきます」 黎子は仲間が他のバイデンの相手をしている間に、先程ヘキサと涼が攻撃した短剣バイデンへと追撃を仕掛ける。 仲間が近くにいるため、範囲攻撃は使えないが騎獣が戦闘に参加していない今、それは十分な一撃だ。 「さぁ、作戦通りに行きますよ」 3人の攻撃を集中させられたバイデンは倒れこそしてはいないがその出血量はおびただしい。 作戦は順調な滑り出しと思われた。 ● 「へへ、きついねぇ」 音羽がどこか焦ったように笑う。 彼の目の前にいるのは斧を持ったバイデン。 ブロックを宣言したのが3人。集中攻撃先に攻撃しているのが3人。 手が足りない。斧を持った二体のバイデンが抑えきれなかった。 その内一体は短剣のバイデンを倒された後、自分のブロック相手が集中攻撃先になったことで動けるようになった豪蔵が立ちはだかることに成功したが、どうしても残りの一体がフリーになってしまった。 戦いの相手を求めるバイデンは、必然まだ相手が居ない後衛の二人へ向かった。 結果として、癒し手と全体攻撃役の二人も周りの前衛と同じように戦うことを余儀なくされている。 そして、回復役の祈を護る最後の砦となった音羽は攻撃すら捨てて祈を庇う。 バイデンの鍛え上げられた体で振るう斧は何度か当たっただけで音羽に大きなダメージを与えていた。 「きちぃな……」 「ごめんなさい、今回復を!」 祈は戦う仲間それぞれ全てに届く歌を紡ぐ。 「小賢しいっ!」 だが、幾ら回復しても元々のHPの最大量の少ない音羽はバイデンの攻撃に膝をつく。 地面に倒れることをフェイトを燃やすことで留めた音羽は斧を押しのけ、血を失いながらも自らの前に立つバイデンを睨み続ける。 「面白ぇ……、戦いってのはこうじゃないとなぁ」 傷全てが埋まるわけではないがこれでまた少しの間耐えることができるはず。 垂れてきた血を舌で掬い上げながら音羽は仲間の援護を待つ。 「脆いぜぇ! リベリスタうさぎ!」 「ぐっ」 劣勢に立たされているのはうさぎもであった。 小隊の中でもっとも攻撃力のあるレンドの相手、しかも彼の持つ武器は傷口をえぐり、治癒の術が届き難くなる。 「応急手当を飛ばしますぞ!」 ブロックしながら豪蔵が必死にブレイクフィアーを飛ばすが、それで抉られた部分が治らなければ次に飛ぶ祈の回復も用を為さない。 傷口をえぐるという能力が彼の攻撃スキルによるものであればまだ何とかなったかもしれないが、武器の固有能力であるそれは只打ち合っているだけでうさぎに付く傷口を引き攣れたものにする。 だが、そこでうさぎは防御を行うこともブロックを変わろうとすることもなくレンドと撃ち合い続けた。 (最初にこの戦いを申し込んだのは私です……その私が、この戦いをつまらないものにしていいわけがない!) 闘争心を燃やして、傷口から飛び散る血液を渇いた大地に吸い込ませながらうさぎは動き続ける。 動き続けて、上段からの渾身の一撃に捕まるのだけは避けようとする。 「オオオオオ!!」 レンドの咆哮、持ち上げられた大剣。 うさぎ自らの反射神経に任せて横にステップを踏む。その瞬間、レンドの顔は笑っているよう気がした。 「そう何度も避けさせるものかぁっ!!」 剣の軌跡は、縦ではなく、横。大剣が着地直後のうさぎを捕えて切り裂く。 不安定な状態から攻撃を受けたせいでうさぎ土煙りを上げながら地面に叩きつけられる。 「……死んだか」 その様子を見たレンドは大剣を肩に担ぎ上げ、他のリベリスタに目を向ける。 しかし、運命の加護を受けたリベリスタは、このようなことで倒れはしない。 「貴方の相手は私だ! 余所を向いてんじゃない!」 恐怖の代わりに、フェイトを燃料にしてうさぎは体を賦活して、土煙りの中から飛び出す。 レンドは驚きながらも大剣で防御をしようとしたがそれよりもうさぎの一撃が早い。 「リベリスタうさぎ、貴様は確かに俺の最高の相手のようだ」 自分が大剣でつけるものと同じように抉られた傷をレンドは撫でる。 「まだまだ楽しませてやりますよ、最高に!」 満身創痍の中うさぎが無表情を歪める。それは凄絶な、確かな笑顔。 ● 集中攻撃で順序どおりに二体目の短剣バイデンが倒れる。 「やっと二体目か……! やっぱり強いな」 何度も攻撃を撃ちつけたヘキサはダメージ量こそ少ないが疲労の色が濃い。 「早く次に向かわなければいけませんね」 敵の数も減っているがこちらも危うい。 特に音羽は復活の後も祈りを庇い続けたが先ほどクリーンヒットを受けてしまい吹き飛ばされて地面に伏したまま立てなくなっている。 レンドを抑えるうさぎもこれ以上時間をかけてしまったら倒れるだろう。 だが、一対一を挑み続けた彼らの戦いは無駄にはならない。 「貴様の全てを奪い取る……!」 それは特に廻斗が顕著だ、彼は敵のHPを奪い、かつ高火力のソウルバーンを連発することで大剣を持ったバイデンをかなり追いつめている。 「先にカイト! お前を倒すだけだ!」 骨で出来た大剣が廻斗を潰す。 だが、彼もまた運命を燃やす。死の運命を自分の前に立つ敵ごと両断する。 「いや、お前は俺が殺す! どんなに貴様が強くあろうとも!」 剣も、身に纏うコートもボロボロになっていたが、廻斗は確かにバイデンを倒して見せた。 「祈、大丈夫か!」 「えぇ、大丈夫。 あなたの方が酷いくらいよ」 倒した後の余韻にも浸らず廻斗は祈の方を向く、幸い彼女は音羽にかばわれ続け、その後は仲間が集中攻撃に向かったこともあり無事のようだ。 「そうか、良かった」 祈が施す全体回復の恩恵を受けながら廻斗は残りのバイデンを見る。 「行くぜぇ!」 「穿つぜ、何よりも早く!」 涼とヘキサがちょうど斧のバイデンを一体倒し、残りの一体も豪蔵と黎子が相手をしている。 決着の時が近づいていることを廻斗は悟った。 ● 「これで終わりです、満足できましたか?」 黎子が取り巻きのバイデンに最後のとどめを刺す。 廻斗が自力で大剣のバイデンを倒した御蔭で残っているのはレンドだけだ。 部下を殺し、やってきたリベリスタにもレンドは臆せず、寧ろ一掃のチャンスだと言わんばかりに大剣を薙ぐ。 孤軍奮闘するレンドに、祈は問う。 「ねぇ、レンド……私達は貴方の、貴方達の最高の相手足り得たかしら」 「此処まで全力で戦って満足せぬバイデンが居るものか!」 終わりが近づいているのを一番分かっているのはほかならぬレンドだ、しかしそれでもレンドは笑う。 自らの望んで望んで望み続けた戦いが此処にあったのだ、最後まで戦わねばもったいない。 「お前は、俺達の誰よりも強かった」 「俺達の強さを刻んでいきやがれ!」 廻斗とヘキサが同時に攻撃する。 高い生命力を持つレンドはそれでも倒れない。 バイデンとして、戦士として戦い続けたレンドにうさぎがゆっくりと近づく 「さぁ、そろそろ終わりにしましょう」 「リベリスタうさぎよ。戦いの相手がお前達でよかった」 レンドが満足の笑みを浮かべる中、うさぎが武器を振り下ろす。 こうして、戦いは終わりを告げた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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