●一夜のドラマ ラ・ル・カーナ橋頭堡陥落、ボトム・チャンネルまでの撤退。 そして捕虜となった仲間達、まさに大敗といっても過言ではない結果だ。 偵察部隊、スカイウォーカーも命辛々逃げ出してきたようなものだ。 今後の行動、その意見はあまりにも熱気に溢れている。 即座にラ・ル・カーナに進撃するべしという強硬論、攻めを失った戦いは敗北と決まっているのも間違いは無いが、勝利を裏付ける要素が無い。 この局面に一つの危険な作戦が取られた。 それはフォーチュナーの前線投入である。 確かに先読みが出来る戦いはさぞ有利であろう、しかし、リスクは大きい。 戦闘能力を持たぬフォーチュナーが狙われれば、重要な存在を失うことにもなる。 『塔の魔女』アシュレイの力でデメリットを最小限まで抑え込み、且つ、フォーチュナーの能力を万華鏡無しでも大きく機能させられる様にする事で、実用性を確立させたのだ。 しかし、フォーチュナーの一人、『なちゅらる・ぷろふぇっと』ノエル・S・アテニャン(nBNE000223)は戦列に並んでいなかった。 作戦の前日、ノエルは兄といた。 「ノエルも行く! みんなのおてつだいするの!」 「駄目だ」 紳護は首を振って即答する。 皆が、そして大好きなイヴが行くと言うのに自分がいけないことが納得いかず、ノエルは強い視線で兄を見上げていた。 「何で!? ノエルは……みんなのおてつだいの為の、ふぉーちゅなーだよっ!」 正論だろう、それでも紳護は頷かない。 「俺は……ノエルが危険に晒されない為に、ノエルを手助けする為に、ここに来た。ノエルがここに来る事を了承したのも、ノエルの傍に俺がいる事を約束させたからだ」 常にはいられない事もあるが、その時は信頼した人物にノエルを任せている。 彼がここにいるのはノエルの安全を守る為、死地に向かう事を容認できなかった。 「やだよぉ……ノエルも……みんなのおてつだい……したぃよぉ……」 頑なに否定する兄の態度に悲しさ溢れ、嗚咽を零すノエル。 苦笑いを浮かべると、紳護は小さな体を腕の中に包み込む。 「代わりに……俺達がその分、頑張ってくる。ノエルの分、働いて、手助けしてくる」 「……うぅ……」 しぶしぶと言う様に頷くノエルを、紳護は優しく撫でていく。 「でも、ちゃんとおにいちゃんも帰ってこなきゃダメだよ?」 「分かった、約束だ」 ●背負った希望 『HQ、こちらスカイウォーカー。目標ポイントに到達、作戦準備に入る』 『HQ了解、今日は天気予報は無しだ。慎重に頼む』 戦場は荒野。 あちらこちらで戦いが始まる最中、斥候たる彼等は配置に着いていた。 『各自、状況報告を』 部隊長、EEの通信は散開した仲間達へと届く。 『HEだ、準備OK』 『OwlE、いつでもいけるぜぇ? マヌケ面が良く見えらぁ』 『SwaEよ、いつでもどうぞ?』 各自持ち場で得物を構え、敵の動向を窺う。 至近距離でのナイフ戦を得意とする紅一点、SwaEも今日ばかりはナイフと共に消音器付きのマシンピストルを握っていた。 HEはアサルトライフルを、OwlEはセミオートライフルを、変わらぬ装備だが彼らも消音器付きである。 今回の戦いは不利な状況下でのスタートだ、それを覆すのは戦術。バイデン達が持たぬ知性の武器。 どうにか優勢となる足掛かりを手にしようと、静かに敵の様子を窺っていた。 『こちらOwlE。むこうさん、あれで突撃するんじゃないか?』 象というと伝わりやすいだろうか? リベリスタ達の世界にある象と比べればかなり大きいが、OwlEのレンズに似た様な4足歩行生物が2体眠っているのが見える。 『こちらEE、確認した。だが……乗り手がいないな』 『SwaEよ、敵の会話を聞き取ったわ。彼等はこちらの動きに合わせて突撃する遊撃役みたいね、今はまだ合図が無いみたい。合図は前線から伝言役がくるそうよ』 それほどのんびりとはしていられない、EEは直ぐに作戦プランを考えると、HQへ回線を繋げる。 『HQ、EEだ。早急にヒーローをよこしてくれ、時間が無い。到着と同時に直ぐにプラン説明に移る』 『HQ了解、双方の健闘を祈る』 回線が切れると同時にEEは指示を飛ばし、仲間達の配置調整を行っていく。 間もなくしてリベリスタ達が到着すると大きな岩陰に身を潜め、手招きでこちらに呼び寄せる。 「到着早々すまないが、早速説明に入る」 遊撃部隊の事、そして馬らしき生物を使い、今にも突撃しそうなバイデン達の事。 情報を手短に説明すると、AFから小さなホワイトボードとペンを取り出す。 「この大岩から20m進行すると、小岩の群れがある。そこを抜けると北東寄りに象が2体並んでいる、そいつらに無力化してくれ」 簡単な見取り図を書き出し、目標へのルートをボード上に示す。 所々にバイデン達がいるポイントに印を入れていき、現状把握済みの情報を目で伝えていく。 「象を完全に殺してしまえればベストだが、奴等を直ぐに使えない状態に追い込むだけでもいい。そうすれば向こうの考える遊撃部隊の戦力が大きく下がり、前線は楽になるはずだ」 殺すにしても派手に動けばこちらが殺される、静かに無力化するには何か手立てを考える必要がありそうだ。 「バイデン達は特にこちらを警戒している様子は無いが、そこら辺で立ち話やら得物を振り回して血の気の発散やら、何かしている。不意に視線が向くこともあるだろうから気をつけてくれ」 無意識な分、行動が詠みづらいという点もあるが、上手く立ち回れば気付かれずすり抜ける事も出来るだろう。 周辺へ展開したスカイウォーカーのメンバーが目となり、リベリスタの進行を手助けする旨も伝える。 「もし、敵を倒す場合は静かに素早く倒してくれ。他の仲間に知られたら、ほぼアウトだ。それと……この枯れ地にあわせた迷彩装備の予備二つを渡しておく、上手く使ってくれ。だが、遠目から見れば気付かれづらいと思うが、近いと意味が無い。過信しないでくれ」 枯れ地に合わせたポンチョ風の装備をリベリスタ達へと渡す。 『説明中失礼。向こうの伝令役っぽいのが走ってくるのを見つけたよ、あの速度だと……2~3分でここに着くね』 HEの通信を耳にしたEEは渋い顔を浮かべ、リベリスタ達を見やる。 「時間が決まった、2~3分で伝令が来るらしい。奴等に見せ付けてくれ、戦術の強さを……人間の底力を」 静かな戦いは、今幕を開ける。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:常陸岐路 | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年08月21日(火)23:26 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●静かに 『こちらB班、3のバイデン2体確認したぜ』 『輝く蜜色の毛並』虎 牙緑(BNE002333)の通信がAFを通し、仲間達に届く。 共通化したマップで各々の移動ポイント、指示、情報共有を円滑にしたおかげで、情報と言う何よりも勝る武器で優勢を保つ。 幾ら強かろうとも見つける事が出来なければ、攻撃出来ないのだから。 『こちらはA班、こちらも9で2体確認しました』 離宮院 三郎太(BNE003381)からも通信が入る。 彼の傍には『第28話:あつはなつい』宮部・香夏子(BNE003035)も、身を伏せていた。 二人は迷彩柄のポンチョを被り、荒地の景色に溶け込みつつ、敵の様子を探る。 (「上手くいってるようだな」) 『てるてる坊主』焦燥院 フツ(BNE001054)はファミリアーで操る鳥と、スカイウォーカーの偵察を交互に行いつつ、バイデン達の現在位置を全て把握していた。 元々の報告では3と9のポイントには敵はいなかったが、こうして事前に察知できたことは大きい。 しかし、既に問題も生じている。 B班は敵の気を逸らす小道具を所持しているが、A班にはない。 つまり、ここを突破する手段は限られる。 仕掛けるには難しいとバイデン達の様子を見ていると、一人が奥へと移動していった。 『同時にいきましょう』 『分かりました』 小声でAF越しにB班はタイミングを合わせる、真正面から飛び出しても奇襲にはならない。 視線が逸れた一瞬を狙う、得物を握る手に汗が滲み、心音は高鳴る。 ……瞳が右に向く。 『今です!』 三郎太の合図と共に香夏子も飛び出す。 景色の一部から飛び出した一瞬にバイデンが気付くのが遅れる。 そのコンマ数秒の遅れが命取りだ。 オーラの糸が収束し、槍の様に放たれ、死をもたらす破壊のカードが空を舞う。 弱点を貫かれ、そして道化のカードが首筋へ深々と突き刺されば、バイデンは膝から崩れ、地面に倒れていく。 『A班、9を制圧です。作戦通りここで待機します』 来る時まで、二人は地面へと再び溶け込んでいった。 ●陽動と奇襲 B班は3の岩へと取り付くと、牙緑がラジコンの準備を始める。 その間、『アリスを護る白兎の騎士』ミルフィ・リア・ラヴィット(BNE000132)が彼の目も補う。 彼がラジコンの操作に集中している間は、彼女の目視だけが頼りだ。 (「さしずめ、バイデン相手のスニーキングミッション。何か……本国での訓練を思い出しますわね」) 訓練とは違い、失敗は許されない。 オフロード仕様のラジコンカーがバイデン達の方へ向かうと、フルスピードからドリフトをキメつつ、派手に動き回る。 今まで見たこともない無機質な動体に、バイデン達は頭部からは疑問符が飛び出そうな表情を浮かべている。 (「珍しいだろ? ラジコンて言うんだぜ。速いだろ、捕まえてみろよ」) 心の中で挑発を囁きながら、牙緑はバイデン達を誘う。 やはり気になるらしく、ラジコンは捕まえようとするバイデン達の手をすり抜けながら西へ西へと走り始めた。 そのまま吊られていくバイデン達、しかしまだまだラジコンには働いてもらわないといけない。 ミルフィは牙緑から少し離れると、岩陰に身を潜める。 戻ってきたラジコンを回収すると、すぐさま彼の元へと戻っていく。 音を立てながら走る以上、耳で追跡も出来よう。 だが音が消え、そのポイントから消えれば……バイデン達は狐につままれる様な思いをするだろう。 『B班、3のバイデンは除去完了ですわ』 直ぐに2人は2のポイントへと走る、フツの翼の加護のおかげで足音もなく進める為、危険要素は大きく減っている。 2のポイントにいるバイデン1体も、同じ手段で除去に成功すると待機していた本隊が動き始めるのであった。 (「俺はコードネーム・ドラゴントゥース。竜の牙、略してDTさ」) 脳内妄想を爆発させる『合縁奇縁』結城 竜一(BNE000210)だが、今のセリフには問題がある。 DTは、別の略語を彷彿とさせるのだが本人は気付いているのだろうか。 「んふふ、隠密って楽しい」 隠密行動に楽しそうな声を零す『ヴァルプルギスの魔女』桐生 千歳(BNE000090)だが、ふいに仲間達の視線が自分に集まるのに気付く。 「あ、ごめんなさ黙ります……むふふ」 最後にこぼれた声、やはり楽しそうだ。 B班からの通信が入ると、4人のチームが前進する。 3を抜け、2へ到達。北西の端、1のポイントへ辿り着きたいのだが……そこにもバイデンの姿がある。 だが、数は1体。 「俺とお前で……アイツを倒そう」 竜一は『勇者を目指す少女』真雁 光(BNE002532)へ小声で促すも、光の方は慌てて振り返った。 「ボク達は象の対処が目的なので、途中のバイデンと交戦はダメなのですよ?」 尤もな事だろう、本命の部隊が捕捉されてしまっては作戦は水の泡だ。 「向こうは1体だぜ、通り過ぎるのを待つかフッさんの鳥で惹き付けるのもいいけど、鳥はまだ使いたくないだろ?」 大切な目であり、囮のカードを早々と使うのはもったいない。 竜一は更に言葉を続ける。 「それに、一人なら声をあげる前に倒せば誰にも気付かれない」 「なるほどなのです」 捕捉されないも重要だが、臨機応変に立ち回り、素早く進むのも重要だ。 意見の相違をかみ合わせると、改めて二人はバイデンへと静かに迫った。 岩から岩へと近づくと竜一のハンドシグナルでタイミングを合わせる。 3,2,1……0と共に飛び出した二人は同時に刃を振るい、背後から切り裂く。 背中に深々と×の字が描かれ、不意打ちの破壊力は絶大だ。 意識を失ったバイデンを岩陰に隠すと、更に4人は進む。 ●綻び 「こんなところにもいるとはな」 フツの鳥が見つけたのは進行予定先にいるバイデン達だ。 真北にあたる4のポイントには、4体ものバイデンが潜んでいる。 『ファミリアーを囮に使う、索敵に穴が空くから気をつけてくれ』 交互の索敵はここからは使用できない、フツは鳥を低空飛行させ、バイデン達の気を惹きつける。 この地で見たことのない動物に、彼らの興味もビンビンに反応していた。 無論、それがリベリスタ達が差し向けた『何か』という事も、少しは考えているのだろう。 バイデン達は一言二言交わすと、3人で鳥を追いかけ始めた。 残ったバイデンは辺りを見渡し、敵の姿を探っているようにも見える。 「ちーちゃんがタイミングを計るから、二人は不意打ちをして」 千歳にタイミングを一任し、竜一と光は身長にバイデンへ忍び寄っていく。 先ほどと違い、何かを気にしている敵の視線は四方八方に散らされ、視線の散弾を潜り抜けるようなものだ。 鋭い直感を研ぎ澄ませ、目に映る全てを逃さんと意識を集中する千歳。 『そろそろ行けそうだよ……ゴーッ!』 小声の通信にあわせ、二人が視野に映らぬ一瞬に飛び出す。 背後から迫る殺意にバイデンが反応しようとしても遅い、平行に斜めへ振りぬいた竜一の和洋の刃が体力を殺ぎ、全身の力を込めた光の突きがバイデンを貫く。 強靭な防御力も、防御を意識して初めて力を成す。 意識し、反応する間もなくバイデンは意識を失っていった。 一方、こちらはA班。 北東中腹の8へと進んだバイデンも始末し、待機している。 『本命班だ、4に着いたぜ』 竜一の報告が届くと二人は北東奥、7へと向かう。 『分かりました、では次の作戦行きます』 三郎太が返信し、バイデン達の姿を確かめる。 得物を握ったバイデン達は雄叫びを上げ、得物を振り回し、戦いの知らせをまだかまだかと渇望していた。 二人は手合図でタイミングを合わせると、同時に攻撃をけしかける。 香夏子は全身のオーラを一気に解き放ち、赤い月明かりにも似た呪の力を放つ。 その光を一気に浴び、不意打ちに体力をすり減らすバイデン達は奇襲攻撃に浮き足立っている。 更に三郎太のオーラの糸がこちらへ意識をひきつけ、敵の狙いは二人へと絞られた。 香夏子を先頭に、三郎太が支援を行い、攻撃をしつつも後退を始めるが問題が生じる。 そもそも、バイデン達は面と向き合った戦いには強い。血に飢えた狂戦士らしい、破壊に満ちた力が暴れれば、リベリスタ達とてぶつかり合うのは危険だ。 そんな相手を4人相手にし、戦闘で気をひきつけて下がると言うのは一歩間違えれば一瞬で総崩れとなろう。 「くぁ……っ!?」 飛び交う槍、斧、それに柔肌を引き裂かれる香夏子の悲鳴が響く。 「香夏子さんっ!」 回避力で被弾率を下げれても、手数の回転数が回避力を上回る。 三郎太も負けじとオーラの糸をやりの如く収束させては叩きつけるも、よい手応えはない。 (「せめて攻撃の狙いをこっちにも逸らすことができれば……っ!」) 手数が多いなら分散させれば良い、そうすることで回避力は再び息を吹き返す。 だが、中々こちらを狙おうとしないバイデン達に冷静な三郎太にも焦りが生じていく。 「っぁ……」 槍を避け、斧を避け、回避した先に待ち受けていたのは大槌の一撃。 ゴッ! と鈍い響が少女の小さな頭を叩きつけ、内容物をぶちまけようとする。 「まだですっ」 沈みかかった意識、運命の力に頼らずとも自力で意識保ったものの、容赦ない攻撃が彼女を嘲笑う。 踏みとどまった彼女の背中に槍が迫り、地面に押し付けるように貫いたのだ。 荒地の土が真紅に彩られ、ぽたぽたと槍の切っ先から命の雫が伝う。 香夏子が翻弄される姿に、一瞬の隙が生まれた三郎太へ、怒りの矛先を向けるバイデンの投擲が迫った。 「うぁっっ!」 肩へ食い込んだ斧は、小さな体を枯葉の様に後ろへ流す。 更にもう一体、三郎太へと鎌状の武器が投げつけられる。 「……っ」 ジャキリと嫌な音を響かせ、肉を引き裂いた鎌が腹部へ突き刺さる。 高い破壊力で残っていた体力を一気に失い、三郎太の意識が沈んでいった。 「このぉっ!」 一方、香夏子は運命の力を砕いて起き上がれば力任せにバイデンを押しやり、全身からオーラを放って反撃に移る。 たった数十秒の時間稼ぎは、まるで何時間かの様にも思えていた。 ●結い直す力 「巨獣に乗ってなきゃお前なんて大したことねえ。オレ1人で十分だ。来いよ!」 北東に残ったバイデンへ、正面から啖呵を切ったのはフツだ。 男らしい宣戦布告の姿に、バイデンはにやりと笑みを浮かべる。 「良い度胸だリベリスタ、貴様も戦いを求める戦士と言うことか!」 骨と石で作られたメイスを握るバイデンは、嬉々として決闘を受け入れ、フツへと走る。 フツは鴉の式紙を放って牽制し、バイデンの体へと一気に飛翔した。 肩へ直撃するもバイデンの動きは止まらない。愚直にまっすぐ振り下ろされるメイスは、飛び退いたフツの太股に掠めていく。 「どうした、その程度かっ!」 横薙ぎの追撃を再び避け、距離を保ちながらも式神での攻撃を続ける。 (「時間を稼げりゃいいんだ、時間を……っ」) 悟られぬ様に戦いを繰り広げ、その隙に残った3人はバイデンの裏を通り抜けて象へと向かうのであった。 早速3人は象へとの攻撃準備に入る、いまだ眠っている象へ多大なダメージを与えるには少し時間が掛かる。 千歳が詠唱を続け呪力を高める最中、竜一と光もしっかりと狙いを定めていく。 「奏でるよ、葬送の歌がどうか勝利を呼びますよーにッ!」 自らの血液を鎖の様に編んだ呪力が宙に舞い、濁流の如く象たちへ迫る。 強力な魔法の目覚ましに、象たちの悲鳴が響いた。 手応えは十分だが、まだ一押したりない。 「うらぁっ!」 「全力でいくのですよっ!」 竜一の破裂しそうなほど闘気が刃が象の足を吹き飛ばし、力任せの破壊力で足を穿つ。 光の闘気の篭った剣は刃と一体となって集中し、切れ味を増し、鋭く研ぎ澄まされた刃は象を転ばせながら足を深く抉る。 それでも象は諦めず、立ち上がろうとしていた。 「撃つよ!あとで謝るから、許して!」 味方を巻き込む覚悟で放たれる炎が爆ぜ、一帯を焼きつくさんと燃え盛る。 炎に体力をすり減らしながらも、竜一と光は攻撃の手を止めない。 もう一撃、鋭い攻撃を足に叩き込めば象が地面に転がっていく。 起き上がろうとすれば足の痛みに倒れ、起き上がろうとしては倒れと繰り返すのを見れば、光はAFで通信を入れる。 『やったのですよ! 皆さん撤退なのです!』 目的達成、後は逃げるのみだ。 ● 時は少し遡る、フツがバイデンと決闘を始めた頃の事だ。 「虎様、あれは……」 B班、牙緑とミルフィに想定外の自体が発生していた。 作戦通り、5と6のバイデンを西に追いやり、後は逃げるだけと思っていたのだが……何と戻ってきたのである。 その理由は簡単なこと、一方向に敵を追い遣りすぎたことに起因する。 西へ移動した彼らが顔を合わせた時、その理由を問うだろう。 同じ手段で何人もの意識をひきつけ、同じ場所に集めたことを理解すれば、彼らとて何かあると分かってしまう。 こうして二人は7人の群れとなって戻ってきたバイデン達の様子を窺っていた。 「マズいぜ、ラジコンに吊られてくれない」 慎重にラジコンの動きを観察する7人、勿論西への誘導に掛かるはずもない。 このまま戻られては退路を塞がれる。 「どうしましょう……? ぁ、ラジコンがっ」 次の手を考えるミルフィの視線の先で、牙緑のラジコンが捕まってしまう。 離せとタイヤを空回転させてもがくラジコンを繁々と眺めるバイデン達、これ自体でも僅かばかりの足止めにはなりそうだが、根本的な解決ではない。 この間にと二人は顔を合わせ、次の手を纏める。 「姿をチラつかせて誘導するしかねぇな、バレたら先制攻撃して逃げるってのでどうだ?」 「そうですわね、まだ目標達成までは時間が掛かりそうですし」 カバーを外したりして中身を確かめるバイデン達だが、構造など分からずポイっと捨ててしまう。 攻撃してこないのであれば害はないということか。 「いきましょう」 着かず離れず、程ほどの距離を取り合いながら岩の陰に二人は身を潜める。 わざと姿の一部を岩陰から晒し、視線を惹き付けながら西側へと移動していく。 「いたぞっ!!」 何度目かの餌を見破られ、一気にバイデン達に緊張が走る。 ならばと姿を現した二人は攻撃に転じていく。 「見つかっては仕方ないですわね!」 十字の光がバイデンに直撃すれば、光に込められた力に憤りが沸き上がっていく。 可愛らしいミルフィへ視線が集まる中、別の場所からも牙緑が仕掛ける。 「こっちだバイデン共っ! 馬鹿面揃えて騙されやがってよぉっ!!」 言葉の中に混じった力が精神的なダメージとして体にも蓄積し、体力を奪う。 明らかな挑発行為に怒りを覚えてないバイデン達は誰もいない。 殺してやる と、本能を剥き出しに襲い掛かるバイデン達は牙緑へ殺到した。 「ほらほら鬼さん、獲物の白いウサギはこちらですわよ♪」 その脇を狙って、ミルフィが取り付くと高速で動き回り、残像を生み出す。 それに翻弄されるバイデン達は二刀流の刀に切り裂かれ、体力を奪われ、体制を崩す。 攻撃の矛先は変わらず牙緑のまま、追いつこうとするも牙緑は全力で下がり、とにかく引き剥がす。 ミルフィも牙緑の方へと下がり、飛び道具の嵐の中、体力をすり減らしながらも退路を探していた。 ●最高の撤退 「よしっ!」 バイデンと接戦を繰り返したフツの耳に目標達成の知らせが届く。 バイデンから飛び退くと、戻ってきた3人と合流し本命班は撤退を開始。 「さ、逃げろーッ! バイデンざまー!」 振り替えて指差し、挑発の言葉を浴びせる千歳。 全力疾走で逃げる本命班は振り切れずにいた、B班を見つける。 三郎太を引き摺りながら撤退する香夏子が、いまだ倒れていなかったのは奇跡に近い。 『闇の世界使います!』 とはいったものの、この時間稼ぎで何処まで逃げ切れるか分からない。 香夏子の合図に各々対策道具を手にしたところで真っ暗闇が広がっていく。 『まずいな、俺が殿をつとめ』 『皆で帰らなきゃ意味が無いって、解って欲しいの!!』 竜一の首もとを掴む千歳、逃げる為に誰かの犠牲は欲しくないのだろう。 『三郎太さんは連れ帰りますから、撤退です』 逃げるだけならばと、彼を背負う香夏子は残った体力を振り絞って走り始める。 『こちらB班、二人で大岩のほうへ逃げてますわ』 どうやら牙緑もミルフィも無事のようだ、一人も掛けずの撤退。 闇が晴れる頃、バイデン達はリベリスタの姿を見失っているのだろう。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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