『ラ・ル・カーナ橋頭堡』の防衛戦に敗れたリベリスタ達。バイデン達の威圧に屈した彼等はボトム・チャンネルまでの撤退を余儀なくされたが、仲間を囚われた彼等は黙ってそれで引き下がる程、大人しい者達では無かった。戦略司令室の判断を早期に大きく動かしたのはリベリスタ達の熱烈な意見――それは即座にラ・ル・カーナに進撃するべしという強硬論であった。 ボトム・チャンネルにおける防衛戦と比べると、不利な攻撃は否めない。バイデンに確実に勝てる要素は出ていないのだ。そこで、『戦略司令室長』時村・沙織(nBNE000500)時村沙織は一つの『追加戦力』の投下を決断する。 アークの通称の1つ、『神の目』の所以――フォーチュナ――の投入だ。 『万華鏡』によるバックアップの無いラ・ル・カーナにおいてアークのフォーチュナの能力は限定的なものに留まる。しかも、彼らに戦闘力は無い。最も危険に晒してはならない存在を最前線に投入するのはある意味でのギャンブルである。 『フォーチュナは戦闘能力を持たないが故に最前線に投入し難い』。しかし、『戦闘力のあるフォーチュナが居たならば』。そして、そのフォーチュナが『万華鏡に頼らずとも高精度の予知を可能とするならば』。全ての問題はクリアされるのだ。 そこで、沙織は本来ならば避けたい『借り』を代価として、『塔の魔女』アシュレイ・ヘーゼル・ブラックモア(nBNE001000)に作戦従事を了承させる。 そして黙っていられないのはアークのフォーチュナ達も一緒だった。苦笑いする沙織も、もう止めない。フォーチュナ達は己が『微力』を振り絞り、危険も厭わずに異世界の地を踏みしめる。剣を持たぬリベリスタ達の戦い、そして剣持つリベリスタ達の戦い。まさに今、憤怒と嘆きの荒野を血に染める復讐戦の幕は切って落とされようとしている……。 ● 「これで全員だな。それじゃ、説明を始めるか。あんたらにお願いしたいのは、バイデンの陣地への奇襲作戦だ」 いつも通りの口調、いつも通りの語り出しで『運命嫌いのフォーチュナ』高城・守生(nBNE000219)は集まったリベリスタ達に対して、作戦の説明を始めた。ただ、いつもと違うことは、ここがアークのブリーフィングルームではなく、『憤怒と嘆きの荒野』に設置された仮設陣地の最後方。 「連中は橋頭堡を利用する事無く、野戦で迎え撃ってくるみたいだ。話には聞いていたが、確かに攻撃的な奴らだぜ。そこで、あんたらにお願いしたいのは、敵陣地のかき乱しだ。これを見てくれ」 守生が地図を広げると、そこにはバイデンの陣地が描かれている。そして、その中にある1本のラインを示す。予知が示した道だ。 「ここがバイデンの防備が薄いポイントだ。あんた達にはこのラインを駆け抜けてもらう」 たしかに、このラインに敵が入ったとあれば、バイデンの陣地に混乱が起きるだろう。しかし、失敗した際のリスクも当然大きい作戦でもある。だからこそ、止まる事無く駆け抜け、脱出することが求められる作戦なのだ。 そこまで説明した所で、微妙に顔を曇らす守生。 「本音を言うと、万華鏡の支援もあれば、情報はもっと多いし安全な手段も取れるんだろうがな。さすがに、こっちじゃこれが精一杯だ」 普段口にはしないが、正義感云々よりもエリューションの脅威から自分の身を守るためにアークに入った少年だ。この度の作戦に対して思う所はあるのだろう。それでも先日、沙織に対して強く従軍を申し出たのも、守生自身である。そのことを突っつくと、いつも通りの仏頂面で「フォーチュナも従軍した方が勝率が高いからな」とクールぶって答えるわけだが。 「説明はこんな所だ。今すぐ向かってくれ。予知の性質上、普段よりも余裕は無いんだ」 守生の言葉を聞いて、準備に取り掛かるリベリスタ。 そして、彼らが出かけようとした時、守生は何かを思い出して呼び止める。 「そう言えば、捕虜にしたバイデンから、リベリスタへの言伝を頼まれていたんだ。まぁ、それほど重要な内容でもないんだが」 慌ててメモを取り出すと、守生はそれを読み上げる。 「『絶対に負けるなよ、お前達を倒すのはオレだからな』、だそうだ。ま、言うまでも無いことだけどな」 説明を終えた少年は、その鋭い瞳で睨むように、いつもの如くリベリスタ達に送り出しの声をかける。 「あんた達に任せる。無事に帰って来いよ」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:KSK | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 2人 |
■シナリオ終了日時 2012年08月19日(日)00:09 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■サポート参加者 2人■ | |||||
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● その2人のバイデンは腐っていた。 せっかく、『リベリスタ』と戦う機会を得たというのに、やる仕事は後方の警備。 重要性が分からない程愚かな訳ではない。だが、こんなつまらない役に回されたのは不満で仕方ない。聞こえてくる戦いの怒号に震える体を落ち着けるのに精いっぱいになる。 と、そんな時だった。 「お、おい。アレ見てみろよ」 「どうしたんだ? ひょっとして、巨獣でも来てくれたとか?」 仲間に促されて、目を凝らすバイデン。 すると、そこには空を駆けて迫ってくる10の影があった。 「あ、アレは『リベリスタ』!?」 「何でこんな所に!? 何だって良い、中に伝えるんだ!」 予想もしない奇襲に浮き足立つバイデン。 「偶然にも」この辺は防備が弱いのだ。しかも、飛行する相手に陣地を囲む柵など役には立たない。 そんなバイデンを見て、椎名・真(BNE003832)は同志からもらったアサルトライフルを構える。どちらかというと支援向きに調整されてはいるが、この状況にはこの上なく向いた武器だ。 「……前にバイデンと戦った時は同じ任務に就いていた仲間を捕虜にされた」 以前、バイデンと戦った時のことを思い返し、唇を噛む。あの悔しさは忘れられるものではない。 だからこそ、こうして戦場に立った。 「今度はこっちの番だ、リベンジだ! 覚悟しろ、バイデン!」 その銃声が戦端を開く号砲となった。 ● 時間はほんの数分前、リベリスタ達が攻撃を開始する直前にまで戻る。 バイデン陣地の後方に位置する岩場に隠れて、リベリスタ達は作戦の確認を行っていた。 『敵の陣地の中を駆け抜ける』、言葉にすると簡単だが、極めて危険な任務である。言うなれば役割は決死隊なのだから。しかし、リベリスタの顔には恐怖は微塵も浮かんでいない。 「空か。任務を前に不謹慎かもしれないけど、飛ぶのは楽しみだな。初めてだから」 『闘争アップリカート』須賀・義衛郎(BNE000465)などは、この状況にあって余裕の笑みを浮かべている。実際不謹慎な話かもしれないが、楽しむ余裕があるものは強い。 陣地の情報を確認していた『紅瞼明珠』銀咲・嶺(BNE002104)は、そんな義衛郎に微笑みを返す。 「ふむ……戦場の撹乱ですか。殿方を惑乱させる任務なら何度かしたことがあるのですけども、戦場の撹乱の任務は初めてですね。……そろそろ時間です」 そして、嶺は仲間達に、真面目な顔を向ける。作戦開始の時間だ。 既にアークとバイデンの本隊がぶつかっている戦場からは激しい戦闘音が聞こえてくる。 戦況は一進一退。どちらが優勢とも言えない所だ。だからこそ、自分達の役割は重要な意味合いを持つ。 「出張オペレーター、異世界出張手当のために参ります!」 翼を広げ、嶺は空中に浮かび上がる。 それに合わせて、同様に翼を持つリベリスタは空に浮かび上がる。さらに、一緒に来ていた支援役のリベリスタは、『翼の加護』を与える。 「撹乱は詭道が基本……俺が得意とする所ではあるな」 与えられた翼の力で浮かび上がった『Dr.Tricks』オーウェン・ロザイク(BNE000638)は、不敵な笑みを浮かべてバイデンの陣地を睨みつける。危険な役目である反面、自分にとっては慣れ親しんだ戦い方。不利なゲームとは思えない。 全員が空中に浮かび上がった所で、アゼル・ランカード(BNE001806)が突撃開始の音頭を取った。 「走り抜けてバイデン達を慌てさせるのですよー。がんばっていくのですよー!」 ● 「ひゃっほー! ひっかき回すぞー!」 『紺碧』月野木・晴(BNE003873)の元気良い声がバイデンの陣地内に響き渡る。 陣地の入り口を見張るバイデンとの戦いは極めて短時間で終わった。さすがに、頑丈なバイデンと言えども、自分達の5倍の数のリベリスタからの一斉攻撃を受けて耐えられる程に丈夫では無かった。 見張りを一蹴すると、リベリスタ達はそのまま敵陣の中に真っ直ぐ乗り込んでいく。 (バイデンらが悪意を持って暴力を振るってるわけじゃないことは理解したよ) 殿を務める『エンジェルナイト』セラフィーナ・ハーシェル(BNE003738)は、倒れたバイデンを見て心の中で呟く。 セラフィーナの姉は、アークと鬼道の決戦の中に散った。 最初、バイデンも鬼と同様の無軌道な暴力装置だと思っていた。人間に対して、無限の悪意を抱く存在だと思っていた。だが、実際に相対してみると、決してそんなことは無かった。 (彼らは鬼とは違う。厄介な敵には違いないけれど、分かり合える可能性があるんだ) その可能性を開いたのは、セラフィーナ自身の変化。 だからこそ、その未来を勝ち取るためにも負けられない。強い思いを込めて、翼を広げ、戦場を翔ける。 そして、目的ルートの1/3程を進んだ所で、新たなバイデンが現れる。侵入者の存在に気付き、止めに来たものだろう。しかし、リベリスタ達は止まらない。突撃あるのみだ。退路は前にしかないのだから。 「現状、時間の余裕はあります。確実に行きましょう」 アクセス・ファンタズムで時間を確認した嶺が仲間達を促す。 それを聞いて『大雪崩霧姫』鈴宮・慧架(BNE000666)は静かに構える。 バイデン達は慧架の姿を見た時に、見たことも無い雪崩が押し寄せてくる姿を幻視した。静かな構えとは裏腹に、全てを押し潰さんばかりの勢いを秘めている。それを悟ったのだ。 「バイデンの皆さん申し訳ありませんが……鈴宮慧架、推して参ります」 心に迷いは無く、敵への恐れも無い。 「お覚悟を」 ● 「陣地の中に入ってくるたぁ、良い度胸だ、『リベリスタ』! ここは通さねぇぞ!」 リベリスタの行く手を阻もうとするバイデン。 先陣をゆくオーウェンは、冷笑を浮かべると思考を一点に集中させる。 「炸裂弾頭の進行を阻むのならば、それなりのリスクは覚悟してもらわねばな」 そして、言葉と共にそのエネルギーを解き放つ。発生したエネルギーはバイデン達を吹き飛ばす。 だが、まだ全てが目の前から消えたわけではない。そこで、最愛の女性、『薄明』東雲・未明(BNE000340)に合図を飛ばす。 「ミメイ……頼んだぞ!」 未明は頷くと、手持ちの剣に力を込めて、思い切り振り抜く。 バキィッ! 陣地に積まれた武器の中に吹き飛ばされるバイデン。 「今日は顔見せよ、決着はまた今度ね」 未明は悪びれもせずに笑う。 「なにくそ!」 だが、バイデン達も諦めない。彼らにしてみても、陣地の中をかき乱されるというのは、我慢のならない屈辱であろう。ハンマーを両手で抱え持ち、上空にいるリベリスタ達に襲い掛かる。 しかし、その動きもセラフィーナにしてみれば予想の範囲内。素早く空を舞うと、バイデンの攻撃を迎え撃ちに行く。ただ真っ直ぐ飛ぶバイデンと、弧を描くように空を舞うセラフィーナの動き。普通に考えれば早いのはバイデンのはずだ。だが、結果は違った。 「ぐわっ」 「空での戦いなら、私は負けません!」 セラフィーナの刀が一閃すると、血飛沫を上げてバイデンは地に臥せる。 そして、地面に落ちたバイデン達へ、先ほどの大雪崩が現実のものとなって襲い掛かる。 「雪崩の如く……押し通ります!」 それは慧架本来の戦い方とは違う。彼女は元来、カウンタースタイルを得意としているのだ。だが、この戦場に合わせて、最小限の動きで確実に敵を撃つ動きを取っている。 原因はバイデン達にある。先の戦いで、彼らはアークに勝利した。しかし、そのことでリベリスタ達の本当の力を引き出してしまったのだ。ある意味で彼らにとっても本意であろうが、勝利のために自分の力をすべて引き出せる、それがリベリスタ達の強さなのだから。 そして、この戦いにあってはバイデンは極めて不利であった。 バイデン達の能力は「戦い続けること」だ。如何に傷つこうとも意に介さず戦い得る精強さこそ、彼らの強みと言っても良い。しかし、この場のリベリスタは、バイデンの殲滅ではなく、戦線の突破のために来ている。これでは、彼らの生命力も本来の威力を発揮することは叶わない。 ましてや。 「こっちの動きは封じたよ!」 気糸でバイデンの1体を縛り上げ、晴は仲間に合図を飛ばす。1つに固まったリベリスタ達の連携は強く、攪乱されるバイデンの側は組織立った行動を取れずにいた。敵陣の中にありながら、イニシアティブはリベリスタが確保するという奇妙な状態になっていたのである。 「ん? あっちの方ででかいのが動いてる。早く先行った方が良いかも」 「まぁ、ここまで踏み込まれれば、焦るよね。けど、これなら良い結果期待出来そう!」 晴が見たのは犀にも似た大きな巨獣。以前、どこかの報告書で見かけた気もする。あんなのに追い回されたらたまったものではない。そろそろ、頃合いだ。真もそれを察すると、受け答えをしながら冷静にバイデンを狙い撃つ。放たれた弾丸がバイデンの胸板を貫く。 どうと倒れるバイデン。 そこに突破する道が生まれる。 「この調子なら、楽になる人が一杯いますから、がんばるですよー!」 アゼルの合図と共に、再び飛び立つリベリスタ。 「はー、飛ぶのって、こんな感覚なんだな」 風を切る感覚に心が躍る義衛郎。 このまま遮るものがいなければよいのにとすら思う。 「現在、戦闘に使用した時間は30秒。翼の加護の残り時間も含めて、余裕は半分近くあります」 嶺が冷静に現在の経過時間を報告する。 残り時間に余裕はあり、ルート攻略も順調に進んでいる。 だが、リベリスタ達に油断は無い。道は9割進んだ所を以って、半ばとするものなのだから。 ● そして、最大の関門がリベリスタ達の前に現れた。 先ほどのように5人のバイデンが行く手を阻もうとしてきたのだ。加えて、先ほど倒したものとは別のバイデンが後ろから5人。形としては挟み撃ちになる。 「周り敵だらけじゃん……。怖いなー、もう!」 しかし、リベリスタ達の表情に慌てる様子は無い。そもそも敵陣の真っ只中に来ているのだ。挟み撃ちを受ける可能性など、最初から織り込み済みである。真の心にも恐怖が無いわけではない。 既に遭遇していきなりの攻撃で、真は倒れそうになったのだ。 むしろ、怖い。超怖い。叶うなら、このまま空を飛んで逃げ出したいレベル。 だが、あんな悔しさは二度とゴメンだ。 大事な仲間達が傷つくのも嫌だ。 それを思えば戦える。だから、引き金を引く。 「あと……少し。これ……で、いける……はず」 何のかんの言いながらも、リベリスタ達の表情には疲れが出ており、怪我も少なくない。それを見て取ったエリス・トワイニング(BNE002382)が体内を循環する魔力を活性化させ、癒しの息吹を顕現させる。気力に火が点くリベリスタ。ここまで来て倒れる等、あってはいけない。あり得ない。 そして、追い風を受けて勢いを取り戻した義衛郎は2振りの刃を握り、高速でバイデンに切りかかる。もはや目でとらえられる速さではない。バイデン達の目に映る残像から、無数の刃が乱れ飛ぶようにも見えた。 「我が身を犠牲に、なんてつもりはない。帰れなきゃ意味は無いしな」 「えぇ、皆で帰りましょう、ここで倒れる理由はないから」 慧架も頷くと、距離の離れた相手に打撃を放つ。その高速の一撃はかまいたちを生み、バイデンはたまらず倒れる。 しかし、バイデンは怯まない。油断していた最初の見張りや、とりあえずやって来た連中と違い、曲がりなりにもリベリスタ達と言う脅威を認識してやって来ているのだ。深く切り込んできたバイデンの一撃を受けて、アゼルとセラフィーナが地面に落ちそうになる。 「こ、この程度で!」 だが、落ちない。運命の加護の力を受けて、小さな翼を舞わせると、アゼルは立ち上がり体勢を立て直す。 「バイデンと話し合うためにも……まずは勝って彼らに認めてもらわなきゃね」 全身に激痛が走る。だが、こんな所で止まるわけにはいかない。ここは自分の領域なのだ。 「ハッ!」 刀を閃かせると、そこには一瞬にして無数の光条が生まれる。 それはリベリスタ達が進むべき、道を切り開く光。 「……解析終了。あの人の動きを封じて下さい! 一気にいけます!」 E能力でバイデンの状態を解析していた嶺が、倒すべき敵を見出す。 最も効率良くこの場を抜け出すための道筋は、ここにある。 「了解した。さて、暫しその場で止まっていたまえ」 オーウェンはおもむろに片目を瞑る。状況分析を行う際に見せる、彼の癖だ。 そして、その閉じられた眼にも成功のヴィジョンが映し出される。 紡がれた呪印がバイデンを拘束し、リベリスタを阻むものは無くなった。 「撤収ー!」 晴の合図の声。 後はまっすぐ駆け抜けるのみ。 向かう先は結末だ。 アークとバイデン。 完全世界に紛れ込んだ異分子と完全世界で戦う狂戦士。 その戦いのゴールへと向かって、リベリスタ達は翔け出していくのだった……。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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