●赤の巨人 『外の者(リベリスタ)』がを攻めてきた。 バイデン達の反応はそれぞれだが、アムデと呼ばれるバイデンの反応は喜びだった。あの血の滾る戦いが再度味わえるのか。憤怒ではなく歓喜をもって武器を持つ。巨獣の肩甲骨を削って作った巨大な剣のようなそれは、無数の傷と血を受けて汚れていた。それは誇り。戦歴という彼の生き様。 先の戦いで武勲を挙げ、自らに従うバイデンも増えた。地位には興味はないが、それが強さを示す証というのならそれも受け入れよう。四十を超えるバイデンと、彼らが扱う巨獣。それがアムデの命令を待つように待機している。 剣を敵のほうに向ける。ただそれだけでバイデンたちは意を理解し、各々の武器を振り上げ,雄たけびを上げた。 「遠慮はいらぬ。荒野は我らの生きる場所。思う存分暴れようぞ!」 まさに赤の巨人の群れ。破壊の波。乾いた砂を巻き上げながら、バイデンたちはリベリスタたちの陣営に迫る。 ●砂上の楼閣 「第八観察所より報告。左翼、バイデン確認。数は四十……いや、五十! 巨獣に乗って突っ込んでくるぞ!」 「拙いな。あっちは薄手だぞ。下手をすると突破されかねない。戦力を回せ!」 「もう回してるが、間に合わん!」 「なら――」 見捨てるか、という声をかろうじて飲み込んだ。この戦いは仲間を助けるための戦い。そのために味方を見捨てては何の意味もない。 だがどうする? 援軍はまわせる。だけど時間がない。時間さえ稼げればいいのだが、巨獣に乗った五十近くのバイデンの足を止めるなんて不可能だ。 「あの――」 細い声がかかる。青ざめた顔で一人のリベリスタが意見していた。メガネをかけた一人の女性。 「時間は、私が稼ぎます。どれぐらい稼げばいいですか?」 砂小原アキナ。砂を操るアーティファクトを持つ元フィクサード。 「……五分。いや三分弱。だが、あなたのアーティファクトはこの世界では」 「はい。砂の組成が違うのか異世界であることが原因なのかわかりませんが、うまく効果を発揮しません。 でも、普段より力を込めれば、何とか」 元々戦いを好む性格ではない彼女が、バイデンの矢面に立つと言っている。彼女にとってはかなりの勇気なのだろう。その心意気を、無碍に断る気にはなれなかった。 何よりも、他に案がない。 「……護衛をつける。援軍が来たら撤退する。それが条件だ」 「はい。ではいってきます」 アンタレス。砂小原アキナの心臓に癒着し、砂を操るアーティファクトである。生体癒着型のアーティファクトは、使用者の身体に負担を強いるものも多い。このアーティファクトもその例に漏れない物だった。 基本的に操る砂の量が多ければ、生体にかかる負担も大きい。ましてやラ・ル・カーナの荒野の砂は、理由は不明だが元の砂よりも操りにくい。その負担は元の世界に比べて激しいものとなった。 呼吸の乱れは、けして緊張から来るものだけではない。膝をつき荒野に手をついているのは、力を伝えるポーズだけではない。 (は……っ、息が、苦しい……! 、体中に、痛みが……っ!) それでも彼女は護衛のリベリスタ達に微笑んで、砂を操るアーティファクトを起動し続ける。 アーティ炊くとの奇跡により砂が隆起し、バイデンの進行を阻む壁が出来上がった。 アーティファクトで生み出された即席の砂の壁。巨大な壁がバイデンたちの行く手を阻む。巨獣の体躯を持っても超えられない壁は、回り道と足止めを強要される。 しかしバイデンたちの足は完全には止まらない。面に接着して壁を昇る巨獣や、空を飛ぶ獣も彼らは保有していたのだ。 そして砂を超えたバイデンの一人が、リベリスタに賞賛を送る。巨獣の肩甲骨を削って大きな剣として扱うバイデン。アムデと呼ばれる赤の巨躯は、湧き上がる闘争の衝動を隠すことなく笑みを浮かべた。 「楽しませてくれるな、リベリスタ」 ボトムチャンネルの言葉でバイデンは喋る。 羽根の生えた巨獣が翻す。壁の向こうにいるバイデンを運ぶ為に。 空を飛ぶ相手に砂の破界器は無力だ。また、赤の巨人に対し砂小原アキナというリベリスタもまた無力。 だが、彼女は諦めない。 「私は、砂を維持します。皆さんはバイデンを」 信頼に満ちた瞳で、護衛のリベリスタ達を見た。 その信頼にこたえるように、あなたたちは破界器をダウンロードし―― |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:どくどく | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ EXタイプ | |||
■参加人数制限: 10人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年08月20日(月)23:08 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 10人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
●幕前――荒野を歩く壱拾人 「進むも地獄、引くも地獄。てめぇら十万億土を踏みやがれ!」 ――ハイスピード。 精神を集中させ、鬼影兼久を抜く。聞きなれた刃走りの音が 『自称・雷音の夫』鬼蔭 虎鐵(BNE000034)の体内のギアを上げていく。いつもの御座る口調は消えうせ、フィクサード時代の口調に戻っている。 「攻めに対して守りっか。実に俺達らしくていいんじゃねぇか? 守り通すぞ」 ――トップスピード。 とん、とんと軽くジャンプして『やる気のない男』上沢 翔太(BNE000943)は体内のリズムを調節していく。心臓の音、呼吸、筋肉の動き、思考の速度。全てを統一し、戦いのために最適化していく。 「そうだな。まだ賽の河原に行く気はないぜ。もちろん、皆を行かせる気もな」 ――翼の加護。 『てるてる坊主』焦燥院 フツ(BNE001054)が体内でエネルギーを回転させ、解き放つ。リベリスタ達に伝わる浮遊の力。バイデンの攻撃を少しでも避けやすくする加護。 「はっ! 心配いらねぇよ。勝つまで殴り合えばいいんだ!」 ――金剛陣。 鼻から呼吸を吸い、口から吐く。一連の呼吸動作により、筋肉を柔軟かつ硬化する『消せない炎』宮部乃宮 火車(BNE001845)。荒野の土を踏みしめながら、不退転の意思を込めてバイデンたちを睨みつける。 「そうだよー。守るとか気分が乗らないよー」 ――爆砕戦気。 体内の気を爆発させ、エンジンを加速させる。『世紀末ハルバードマスター』小崎・岬(BNE002119)は禍々しい斧槍を振るいながら、乾いた風を頬で受けていた。口調こそ軽いが、肌で感じる空気の重さは理解している。 「バイデン自体に恨みはないのですが」 ――爆砕戦気。 抜刀。右手に鬼丸と呼ばれる刀。左手に鞘。構えを取ると同時に爆ぜる気。『斬人斬魔』蜂須賀 冴(BNE002536)は言葉とは裏腹にここは通さぬと態度で示していた。 「アムデ……。今度こそは遅れをとったりはしない」 ――超頭脳演算。 心は熱く、しかし頭脳はクールに。戦場と敵を思い描き、味方の動きを想像する。無限の未来の中から、味方を勝利に導く為の答えを『ピンポイント』廬原 碧衣(BNE002820)は演算する。 「しかし楽な任務ではありませんな」 ――ハイディフェンサー。 『俺は人のために死ねるか』犬吠埼 守(BNE003268)が透明な素材の『02式軽量強化防弾盾・改』と呼ばれる盾越しにバイデンを見る。オーラが身を包む鎧となり、その守りを強化する。 「闇よ、我が身を包む鎧となれ」 ――漆黒解放。 黒のオーラがアルトリア・ロード・バルトロメイ(BNE003425)を包む。闇はアルトリアの剣となり、たてとなり、身を護る鎧になる。黒衣を翻し、バイデンのほうに足を進める。 「全力で癒すわ。皆頑張って」 『ソリッドガール』アンナ・クロストン(BNE001816)は胸に填めてあるマジェスティックコアを指で撫でる。癒すことは彼女の本懐。バイデン達が破壊の種族なら、破壊した分だけ癒してやると気合を入れる。 ザク、ザクと歩を進める十人のリベリスタ達。 虎鐵、翔太、フツ、火車、岬、冴、守、アルトリアが前に。それぞれの破界器を構えて、バイデンたちに突きつける。 アンナ、碧衣がその後ろに。こちらはそれぞれの破界器を構え、冷静にバイデンたちと戦場を見る。戦場コントロール。前衛がいかに戦いやすくするか。それが彼らの戦い。 そして―― 「待ち構えていたか、リベリスタ!」 巨獣の大腿骨を削って作った剣を手に、アムデと呼ばれる赤の巨人が歩を進める。その表情は、歓喜に満ちていた。大軍で押しつぶすのも悪くない。だが、敵陣で多数を相手にするほうが、俺の好みだ。そう無言で語っていた。 斧を持ったバイデンと、トカゲ型の巨獣も前に進む。バイデンは撤退しない。降参しない。死を恐れない。闘争のみが彼らの信念。 咆哮はどちらが上げたのが先か。その音を合図に、両者は各々の武器を構えて突撃していた。 ●開戦――ぶつかり合う力 「行くぜ。ここは遠さねぇ」 フツがトカゲ型の巨獣に向かって走る。歩を進めながら胸元で印を切ってリベリスタ全てに防御の加護を重ねていく。この戦いは長期戦。わずかなダメージでも防げるなら防ぎたい。バイデン相手に3分という時間を耐える。その厳しさをフツは前の戦いで刻んでいる。 皆生きて帰る。もちろんバイデンも止める。そのためにできることは何でもやっておこう。巨獣を押さえながら、もう一匹の巨獣を抑えるリベリスタの名を呼んだ。 「小崎!」 「よっしゃいくよー」 気の抜けた返事と共に疾駆する岬。その手にあるのは自分よりも大きなハルバード。炎をイメージするような赤い宝玉と、炎を思わせる刃の形。その名はアンタレス。大火を現す破壊の武器。それは奇しくも、この砂の壁を作るアーティファクトと同名だった。 「アキナちゃんともお久だねー」 後ろで砂の壁を維持しているアキナを見ながら、岬は風の刃をバイデンに放つ。風の刃を斧で受け止めるその動きは、少なくともアムデに比べれば反応が遅い。肌を刻まれ荒野が血に染まる。 「戦士アムデよ! 俺は、貴方の眼鏡に叶いましょうか。 いえ! 叶わずとも、我が身は戦士」 透明の盾を手に、守がアムデの前に躍り出る。破界器化したニューナンブを手に、ひときわ巨躯な巨人に挑発を行なった。 「であれば、眼前に一番近いこれを喰らわずに、如何するのか。かかって来い!」 「戦士と吼えるかリベリスタ。察するに我が一撃に耐える構え。盾の使い手か」 『戦士の儀』にも、相手の攻撃に耐えるリベリスタはいた。その構えを見て守のスタンスを理解するアムデ。巨人はそのまま巨大な剣を振りかぶり、 「よかろう。その挑発に乗ってやる。耐えてみせよ、我が剣を!」 振りかぶる一閃。足を踏ん張り、その一撃を受け止める守。 「今回は前回とは違う。それをみせてやろう」 碧衣は心の中で前回の悔しさを噛み締めながら、冷静にバイデンたちを見た。視覚情報と聴覚情報、そして彼らが一秒後動動くを想像する。イメージは深く、思考は素早く。掌から放たれる神気はバイデンと巨獣を打ち、その動きを阻害する。 「堪える堪える。だがそれではバイデンは止まらぬぞ!」 「止まらずともよい。私の仕事はあくまで戦場コントロール。止めるのは彼らの仕事だ」 「そういうことだ。いくぞ、バイデン」 虎鐵が刀を振りかぶり、バイデンの一人に切りかかる。名匠に鍛えられた鋼と、ラ・ル・カーナの厳しい環境を生き抜いた骨の斧がぶつかり合う。虎鐵とバイデンは互いの武器越しに視線を交わし、互いの闘志をぶつけあう。 「さて、まずは攻めだ。前回は失態を晒したが今回はそうはいかねぇぞ?」 「今回も失態だ。このまま我等の部隊に飲み込まれるがいい」 「そうは問屋がおろさねぇのさ!」 キン、ギィン、ガギン! 縦に斜めに横に、打ち鳴らされる刀と斧の打ち合い。重量で勝る斧を、虎鐵は気迫と技量で受け流す。 「そうだな。悪いが倒させてもらうぞ」 打ち合うバイデンに攻撃をかぶせるように翔太が動く。虎鐵の邪魔にならないように、しかし攻撃を途切れさせないように。滑り込むように繰り出される刃は、こちらの動きをも封じるような動き。 「言っておくが俺は戦士じゃねぇ、リベリスタだ。リベリスタと戦士を一緒にするな」 「言葉の違いだ。戦場にいる以上、貴様等は戦士と同じだ」 「そもそもてめぇらも戦士じゃねぇ。殺戮と破壊しか出来ない奴らを戦士と呼ぶのは本物の戦士に失礼すぎる、野蛮なだけだろ」 「蛮勇であることを攻めるか。腰抜けだな、リベリスタは」 「てめぇらとは戦う理由が違うのさ。教えてやるよ、リベリスタの意味を」 「その通り。貴様等に刻んでくれよう。我等の戦う意味を」 アルトリアが剣を抜いて、小野を持ったバイデンを切っ先で指す。真っ直ぐにバイデンを見ながら朗々と口上をあげた。 「さあ、貴様の相手はこの私だ。かつてボトムチャンネルでイザークらをも苦しめた私を抜けられるものなら抜けてみよ!」 「なに、あのイサークを!」 過剰な挑発か、とアルトリアは思ったが効果は充分だった。斧を持ったバイデンはアルトリアのほうに向かい突撃し、執拗に斧を繰り出してくる。 「ははははは! 貴様を倒せばイサークの鼻を明かせるということか!」 「倒せるものなら、な」 繰り出される斧を盾でいなしながら、アルトリアは闇のオーラを放って斧のバイデンを少しでも弱めておく。かつては失望したダークナイトの力が、守るために役に立とうとは。アルトリアな内心苦笑しながら、バイデンと攻防を繰り広げていた。 「はっはー。年下が吼えてくれるな! 負けられねぇぜ」 ぐるぐると腕を回して、火車が虎鐵の押さえているバイデンに近づいていく。拳を握れば、そこに生まれる灼熱の炎。その炎をぶつけるように火車はバイデンに拳を叩きつけた。お返しとばかりに振り下ろされる斧の一撃。その痛みに火車は、ニィと笑みを浮かべた。 「いいねぇ。てめぇらのそういうところは気に入ってるんだぜ。 ま、意思疎通なんざとれちまったら、気楽に潰し合いなんてできねーって思ってたけどな」 情が移れば拳も鈍る。気に入ってしまえば迂闊に殺しあうこともできない。火車はそう思っていた。だが、 「考えてみりゃ、人間同士でも気に入ろうが敵になれば容赦はしねぇもんな。かわらねぇか。 なら結局、勝つまでやるだけの事だよなぁ!」 互いに足を止め、互いの武器を振るっていた。炎の拳がバイデンの肌を焼き、骨の斧が火車の肉を裂く。 「再びアークが敗れれば、バイデン達がボトムに侵入するのは確実です」 冴は虎鐵や翔太が相手してているバイデンに足のつま先を向ける。そのつま先から稲妻が走り、右手に持つ刀に伝わっていく。示現流を基にした剣術の構えをとり、真っ直ぐにバイデンに向かって歩を進めた。 「この戦い、敗れる事は許されません。私の正義において彼らを悪と断じ、これを斬る!」 刀が振り下ろされるまで、一呼吸の八千分の一の時間。その一閃はまさに稲妻の如く。大上段から振り下ろされる稲妻の刀は、落雷の如くバイデンを縦に打ち据えた。 「正義……? はっ、戦いに理由など要らぬ。破壊さえあればそれでいい!」 「連中の得手が壊す事だとしたら。こっちの得手は治す事よ」 アンナは精神を集中させて、体内のマナを解き放つ。上位存在の精神に接触し、その膨大な情報と意識の奔流の中から癒しに必要な情報だけを頭の中に召還させて、息吹を放つ。息吹は風となり、リベリスタを優しく包んで癒していく。傷が塞がれば、生き残る為の希望も繋がる。 「皆、最後まで癒し続けるからガンガンやっちゃって!」 特殊な呼吸法でラ・ル・カーナの空気からマナを取り入れながら、アンナはリベリスタに活を入れる。彼女の癒しがリベリスタの生命線。他の人たちが安心して前を向けるように、アンナは全力で癒し続ける。 「なるほど。そこのが回復の要か。そうなると、そこで膝をついているのが……」 アムデはリベリスタの布陣から後衛を厚く守っていることを理解する。そしてアンナの隣にいる砂小原の重要性も。この砂の壁を作っていることまで理解したわけではないだろうが、要の一つであるぐらいの認識はした。 だが、後衛には行かせない。 そんなリベリスタ達の気迫が、バイデンたちの思考を戦場に戻す。 戦いはまだ、始まったばかりだ。 ●攻防――リベリスタの戦い 再生能力を持つバイデンでも、それ以上の火力で攻められればいずれは力尽きる。 岬の風の刃と虎鐵や冴の刃、火車の拳や翔太の一閃などで押されるバイデンは、苦々しい顔をしていた。限界が近い。だが、助けを求めるつもりはない。 「まだまだぁ!」 死地にあってなお進む。蛮勇なれどそれがバイデン。傷だらけの体を押して斧を振りかぶる。 このまま攻めればいける。しかしその思考は、砂の壁を越えてきた巨獣と大きな傷の入ったバイデンにより打ち破られる。 「アムデ、今来たぞ」 「おうよ、戦士リダルザ。戦いは始まったばかりだ!」 アムデが守を剣で打ち据えながら叫ぶ。守のほうはアムデの剣戟に耐えながら、戦場全てに弾丸を撃ちはなっていた。戦場全てに放つ故に命中精度は劣るが、わずかでも傷を与えるほうが重要なのだ。 「どうしました、アムデ。私はまだ倒れていませんよ?」 「判ってる。だが長くは持つまい?」 「どうでしょうね?」 事実を指摘されて、しかしそれでも笑みを崩さない守。アンナの回復もあるが、長くはもちそうにない。 「いよぉ不覚傷! テメェの相手はオレ一人で十分だそうだ」 リダルザの前に首の骨を鳴らしながら歩いてくる火車。自分の肩を薙ぐのは、リダルザの傷を意識させるためか。 「言ったなリベリスタ。言葉に偽りがないか、試させてもらおう」 指の間に牙のような骨を挟むリダルザ。突けば刺し傷、薙げば切り傷。動物の爪を思わせる赤の巨人は、火車の挑発に乗るように向き直った。 「精々てこずらせてくれよぉ!?」 「そちらこそ失望させてくれるな!」 炎の拳と牙の拳が交錯する。ストレート、パリィ、フック、スウェー、ボディ、ブロック、そして近距離からの乱打戦―― 「そんじゃ、こいつの相手は俺がするぜ」 翔太がリダルザの乗ってきた巨獣のほうに刃を向ける。だが視線はあくまでバイデン達のほうに。巨獣の攻撃をかわしながら、バイデン達の集中砲火に参加するつもりだ。今はまだブロックの数が足りている。問題は、これからだ。 「余裕ねぇな、畜生!」 フツは巨獣を牽制しながらの回復で手一杯だった。彼自身も巨獣の牙で傷つきながら、しかしアムデを押さえている守に与えられる変調を治すのに手一杯だった。 「……くそっ! 厄介だせあの剣」 肩甲骨で作られた剣の作りか、あるいはアムデの技量か。その一撃で受けた傷は簡単に治らない。そしてその痛みは気力で復活する精神力を削っていた。フツは邪悪をはらう光でその傷を治しやすくして、守の気力を保っていた。 「助かります、焦燥院さん!」 「今アンタに倒られると戦線崩壊だからな! アンナ!」 「判ってるわ!」 それを待っていたアンナが回復の息吹を解き放つ。他リベリスタの傷も一斉にその風が癒していく。戦線を支えるアンナの回復力。現段階のアークにおいて、彼女以上の癒し手はそういないだろう。それほどの回復をもってなお、 (あのアムデとか言うバイデンの一撃の方が強い……!) 冷静にそれを認める。守一人ではそう長く持たない事実を。 だが、もう一つの事実がある。 「そろそろ限界のようだな。よく守ったが、コレで終わりだ」 「そうはさせない。その腕もらった」 リベリスタは一人ではない。その事実が。 碧衣がアムデの振り上げた腕に絡み付けるように糸を放つ。攻撃の瞬間に生まれた小さな隙。その一瞬を逃さず――否、その一瞬を予測していたがゆえの精密な攻撃。絡みついた糸はアムデの動きを拘束する。その一瞬でアンナとフツは一斉に回復を行い、守の体力を一気に差し戻す。 「やるな。だが些細なことだ」 勝算の言葉を送るアムデ。だがそれはわずか一瞬耐えたに過ぎない。決定的な瞬間を一瞬前倒しにした程度。 「ああ、だがそれで充分だ」 その態度に、アムデは疑問符を浮かべる。 (壁の向こうには五十の軍勢。砂の壁を越え始めれば、彼らの劣勢は確実。歴戦の勇士たるリベリスタにそれが理解できないとは思えない) 思えば、彼らの戦い方は長期的な防衛戦の動きではなく、短距離を走るような攻撃的なものだ。 (何かある。この状況を覆す策が) アムデはそれを察する。戦士としての思考。リベリスタにはまだ奥の手がある。何かの、策が。 「どうやら、この砂の壁は思ったよりも早く取り除かないといけないようだな」 「聡明ですね戦士アムデ。ですが、させませんよ」 守の言葉に笑みを浮かべるアムデ。如何にリベリスタが急いで援軍を整えようと、距離的にはバイデンの方が近い。その事実はゆるぎないのだ。 ●方舟――戦場にはリベリスタだけではなく 「はあああぁ!」 横なぎの一閃がバイデンの胸を裂く。オーラの残滓を残して、虎鐵の刀がバイデンの一人を地に伏した。 「次はそちらです」 「いくよー」 冴と岬の目標が、アルトリアの抑えているバイデンに向かう。闇のオーラで弱体化したバイデンだが、体力的にはまだ余裕がある。再生能力を促しながら、やってくるリベリスタに斧を振るう。 一進一退。少しずつ戦況が揺れ始める。 「ぐあっ……!」 数度にわたる攻撃で、防御の隙を見出したのか。一瞬の隙を突いて振るわれた剣は盾ごと守を吹き飛ばす。その剣戟で守は荒野に膝をついた。運命を燃やして意識を留めるが、膝がまだ震えている。 「今の一撃に耐えたか? だが同じ事――ぬ!」 「チェェストォォ!」 振り上げられた肩甲骨の剣を打ち払うように、真横から剣閃が走る。オーラを纏った一撃はアムデの気をひき、その隙に守は冴が抑えていたバイデンに向かって走る。 「蜂須賀示現流、蜂須賀 冴。戦士アムデ、参ります!」 「巨獣エルスマシャの右肩、アムデ! その挑戦に応じよう!」 その一撃でアムデの『戦士』の部分に火がついたのか、冴に向かって剣を振り下ろすアムデ。 戦局が揺れる。その音が聞こえる。荒野に響く鳥の羽音。そこから飛び降りる二体のバイデン。これでバイデン側にリベリスタの前衛と同数の八体の相手。絶望に見えるこの状況で、 「皆さん、行きますよ!」 碧衣がバイデンを運んできた空飛ぶ巨獣に気の糸を放つ。もとより戦闘能力に長けていない巨獣なのだろう。糸は巨獣の頭に当たり、怒りのままに碧衣のほうに突っ込んでくる。 「なにをしている、イルミール! オマエの役目は壁の向こうのバイデンを運ぶことだと!」 「……まて、リダルザ。問題はそこではない」 アムデはリベリスタ達の一糸乱れぬ行動を見て、事態の重大さに気付く。 「これでどーだー」 「てめぇはここで落とす!」 岬が怒りで碧衣に攻撃を仕掛ける鳥の巨獣に向けて真空刃を放てば、虎鐵が一気に近づいて斬激を放つ。そして、 「今だ……漆黒の枷をその身に受けよ!」 アルトリアの漆黒が巨獣を包む多面体の枷となり、その動きを完全に封じる。枷はその身を苛み、じわりじわりと体力を奪い取っていく。もがけど足掻けど、その拘束を解くことはできない。 ――まるでリベリスタは、 「あなたの相手は私です。役者不足ですが、仕方ありませんね」 「なんだと!」 アルトリアと虎鐵が相手していたバイデンに、入れ替わるように守が立ちふさがる。言葉は本心ではないが、そう挑発することで自分に攻撃させるのが狙い。 「一人じゃ俺を倒すことなんて出来やしねぇだろ、何人でもかかってきていいぜ」 「おいソコの弱そうな奴! 遊んでやるからこっち来いよ!」 翔太と火車がやってきたばかりのバイデンを挑発し、怒りを自分に向けさせる。それぞれ、他に相手をする者がいて二対一では捌ききれるかどうかわからないのに。 「逃げるのか? 俺を倒すことが出来なくて、何が戦士だか」 「逃げるだと? はッ! 戦士の一撃見せてくれよう!」 翔太の挑発にバイデンが向き直り、 「この程度なら二対一でも余裕だぜ? 文句があるなら圧し通せよ。常識だろうが!」 「貴様ぁ!」 火車の挑発にリダルザと増援のバイデンが斧を振り上げる。 「無茶するなよ! まだ終わりじゃないんだ!」 「ここからが正念場よ! 傷は癒すから、しっかり戦って」 フツとアンナが傷を癒す。常に全体を見て、最善手を打つ。思考と神秘の複合。薄氷を踏むような戦いでも、その足場を少しでも厚くするのが自分達の務めと理解していた。 ――まるでリベリスタは、こうなることが判っていたようだ。我等の増援も。我等の性質も。全て読まれてるような、動き。 「クハハハハハハハハ!」 その奇異さにアムデは、笑った。 判る。これが本来の『リベリスタ』なのだと。前の戦いのときにはなかった、欠けていた『何か』が存在する。未知なる強敵。真なる彼らの実力に、豪快な笑みを浮かべた。 見知らぬフォーチュナの存在に感謝する。ただ力で押すだけの巨獣では味わえない。バイデン同士でも味わえない。全く別感覚の戦いに。 「クハハハハハハハ! 素晴らしいぞ、リベリスタ! だがバイデンはその全てを凌駕する!」 鳥の巨獣はもはや飛べないだろう。ならばその上で押し勝つのみ。それがバイデンだと高笑いをするアムデ。 「それを防ぎきるのがリベリスタだ」 翔太の言葉はここにいる全てのリベリスタの言葉だ。闘志を燃やし、バイデンたちに立ち向かう。 ●三分――ぶつかり合う闘志の末。 「チェストォォォ!」 冴は刃にオーラを乗せてアムデと切り結んでいる。肩甲骨の剣を鞘で弾いて反らしながら、刃にオーラを乗せて赤の肌を傷つけていく。 しかし捌ききるのも限界がある。碧衣の糸による援護やアンナの回復があれども、一撃を避け損ねれば倒れかねないほどの一撃なのだ。少しずつその一撃が皮膚に、肉に、骨に近づいてくる。そして、 「うぁっ! ……まだ、です!」 まともに剣を受けて倒れる冴。運命を削って起き上がる。その刀も正義も、まだ折れてはいない。 「リャアアアアアア!」 リダルザの両手が十字に交差する。縦に横に。振るわれるたびに火車の胸に同じ軌跡の傷が走った。動きを止めたところに、バイデンの斧が叩き込まれる。二対一ゆえの回復の隙を与えない連携攻撃。 「口だけか? 炎の」 「そっちこそ口だけか? そんな温い攻撃じゃあ、こっちの火が点かねぇぞぉ!」 倒れそうになるその一撃に、運命を燃やして耐える火車。 「年下連中の前で無様晒す訳には絶対にいかんわなぁ?」 「意地で立ち上がったか。だが無様晒すのは変わるまい……何!?」 先ほどは易々と動きを捕らえていたリダルザの爪は、瀕死のはずの火車にかすりもしない。先ほどよりも動きが鋭く、無駄のないものになっている。 「んじゃま 始めますかねぇ!」 ここからが本番、とばかりに火車は拳に宿った炎を次々と繰り出していく。鋭くなった動きは二対一でも遜色ない。追い詰められれば火車はそれだけ激しく燃え上がっていく。 「どうした。その程度か」 翔太がバイデンの斧と巨獣の牙を避けながら眼前のバイデンに言葉を放つ。そのまま離れた別のバイデンに攻撃を仕掛けるのだから、目の前のバイデンはおちょくられてるとしか思えない。 最も翔太のほうからすれば、危ういバランスであった。細かいダメージはアンナが癒してくれるし、よほどのことがない限りまともに攻撃を受けない自信はある。だが物事に絶対はない。 「……ちっ!」 簡単に当たらないと判れば、バイデンも翔太の動きに集中して斧を振るってくる。汗を浮かべながら、翔太は斧を避ける。少しずつ、余裕がなくなってきた。 「キルマーク一つげっとー」 ハルバードでトカゲ型の巨獣を牽制しながら、岬は風の刃をバイデンに放つ。柄の部分で牙と尻尾の攻撃を捌きながら、身体を軸としてハルバードを回転させて刃を放つ。ハルバードについている赤の宝玉が、ラ・ル・カーナのつきの光を受けて淡く輝く。 「ぐあっ!」 虎鐵、アルトリア、守が相手をしていたバイデンがその刃で力尽きる。守は冴と交代するようにアムデの押さえにはいる。守の体力はアンナの回復もあり、ある程度は回復していた。冴はそのまま入れ替わるように―― 「来ました」 「相手にとって不足なし」 「はっはぁ! 次から次に湧き出やがって!」 壁を乗り越えてきたバイデン二人とトカゲ型の巨獣に向き直る。アルトリアと冴が新たな二体のバイデンに、虎鐵が巨獣に向かって突撃する。アルトリアが闇を打ち出してバイデンと巨獣の体力を奪うと同時に、一撃必殺の冴の振り下ろしと、一刀両断の虎鐵の横なぎの一閃がそれぞれのオーラを乗せて放たれる。闇の洗礼と刃の闘舞がバイデンたちを襲う。 「まだまだ、倒れてやれねぇな!」 元々前に立つタイプではないフツが、巨獣の牙に膝をつく。運命を削り意識を留める。ここを通せば後衛に敵を通すことになる。意地でも通すわけにはいかない。幻想纏いを握り締め、荒野の土を踏みしめる。 「どうした? 私はまだ倒れていないぞ」 耐久力に劣るアルトリアが、バイデンの斧を受けて意識を失いそうになる。闇騎士はここで倒れるにあらず。運命を削り意識を留めて相手を睨む。漆黒のラージシールドとレイピアが、アルトリアのオーラを受けて淡く輝いた。 「っしゃあああああ! オチやがれ!」 「馬鹿な、こんな死に体に……!」 火車の拳が、リダルザの胸を突く。芯を捕らえた感覚が伝わってくる。熱された拳の跡を胸に残し、リダルザは崩れ落ちる。とす、と拳に填めていた牙が荒野に落ちた。 最も、火車とて無事ではない。度重なるリダルザの爪の攻撃に出血し、満身創痍であった。援軍が来るまであと少し。防御に徹するか―― 「来いよ、そこの。俺はまだまだやれるぜぇ」 指先をまげて相対していたバイデンを挑発する。いわれるまでもない、とばかりにバイデンは斧を振りかぶった。 「リダルザ!」 アムデは倒れた戦友に向けて声をかける。地に伏したリダルザから返事はない。油断したとは思えないし、本当に相手を死に体と侮ったわけでもないだろう。つまり、純粋にリベリスタの実力がリダルザを上回ったということだ。 「……ぐっ! すみません、ここまでのようです」 アムデと相対していた守がその剣の前に力尽きる。口惜しくはあるが、それでも盾役としての役目は果たした。守の顔には、誇らしげな笑みが浮かんでいる。 「アムデのブロックが!」 「私が行きます。あのバイデンを自由にさせるわけにはいきません」 バイデン一体を足止めしていた冴が、アムデの押さえに向かう。彼女もけして元気とはいえないが、アムデを自由にさせておくわけにはいかない。 冴が相手していたバイデンは前衛を通過して回復を行なっているアンナと砂の壁を維持している砂小原のほうに向かう。が、 「悪いがここまでだ。通しはしないよ」 この事態を予測していた碧衣がそのバイデンを足止めする。バイデンの攻撃を受けきるだけの体力があるかといわれれば不安だが、しばしの間足止めできればいい。 「うわー背中まで赤いんだねー。背中見せてどこ行くのー? おうちー?」 岬がそのバイデンを背後から風の刃で撃ち貫く。ハルバードを振りかぶった格好のまま、挑発の言葉を忘れない。 「さて、もうそろそろだな。ここが踏ん張り所って奴だな」 虎鐵が鬼影兼久を水平より下に構える。相手の動きに合わせて刀を動かす防御の構え。 「馬鹿な! 相手を打ち負かすことを放棄するというのか。貴様等、それでも戦士か!」 「本物の戦士というのは、殺戮者から命を差し出してでも守った人達のことを言うんだ」 防御的になったリベリスタの行為を前に、バイデンの一人が憤る。そのバイデンと相対していた翔太が言葉を返す。 脳裏に浮かぶ『本物の戦士』たちの顔。彼らの行為、行動、そして交わした言葉。それを思えば言葉は自然と口からこぼれた。 「俺が戦士と認めているのはアイツ等だけだ! 相手を殺すだけが戦士じゃねぇ。そいつを身をもって知りやがれ!」 防御に徹した翔太の動きは、バイデンでは捉えきれない。空を切る斧と、怒りに歪むバイデンの表情。 「そういうこった! おまえ達を倒すことは叶わないが、この勝負は俺達の勝ちだ!」 「来るわよ!」 全体を注視していたフツとアンナが叫ぶと同時に、威嚇するように銃弾が戦場に降り注ぐ。そして遠くから仲間の雄たけびが響き渡る。振り返るまでもない。彼らの勝利を告げる鐘の音。 ――リベリスタの、援軍。 ●終幕――そしてリベリスタ達は…… 援軍到着と同時に、砂の壁自重で押しつぶされるように崩れ去る。壁を作っていた砂小原も力尽きて荒野に倒れこんだ。 壁の向こうにいるバイデン軍は、障害がなくなりそれぞれの武器を構えて突撃を開始する。援軍のリベリスタ達と激突し、戦場は一気に乱戦となった。 倒れていた守と砂小原を回収し、今まで戦っていたリベリスタ達は一時離脱する。これ以上の連戦は厳しいと思うものもいれば、まだやれると血気盛んなものもいた。 背後を振り返る。そこに自分達を睨む一人のバイデンがいた。巨獣の肩甲骨を剣とした一人のバイデンの姿。 乱戦の中、声は届かない。だけど彼がなにを言っているかは、なぜか理解できた。命を削りあった仲ゆえか。あるいは彼ならそういうだろうという推測か。 ――リベリスタ。次は負けない。生きていれば、また戦場で。 アムデはそのまま踵を反し、戦場に身を躍らせた。 「耐え切ったな。まだ安心はできないが、これで本陣への強襲はなくなったな」 アルトリアが回復部隊から回復を受けながら戦況を見る。失敗するとは思ってなかった。持久戦は比較的得意分野でもあったし、頼れる仲間もいる。その仲間達と綿密に作戦も練ったのだ。負けるはずがない。 「やれやれ。ここまでやってまだ勝利というわけではないのが辛いところですな」 傷口を押さえながら守が身を起こす。今はあくまで一時凌いだだけなのだ。この戦争全体から見れば、突撃部隊の一部をかろうじて食い止めただけ。バイデン軍はまだ侵攻してくる。 「負けてなければ勝つ希望もある。反撃はここからだ」 碧衣はアムデが去っていったほうを見ながら、拳を握る。またあのバイデンと相対することがあるのだろうか。そのときは勝てるのだろうか。静かに熱く、そんな未来を試算していた。 「そうですね。戦いはこれからです。バイデンを私達の世界に行かせる訳には行きません」 冴は刀を鞘に収め、幻想纏いにしまう。とりあえずの脅威は去った。だがこれでこの戦争が終わったわけではない。とりあえず凌いだだけなのだ。自らの世界を守るという彼女の『正義』はまだ果たされたわけではない。 「ま、今のところは勝ちでいいんじゃないのかなー。守りきったんだしー」 暴れたりなーい、という顔で岬はアンタレスを振るう。彼女はゲーム感覚で戦っていたが、深く気負わないぶん肩の力を抜いて戦えたともいえる。岬の的確な射撃は、確かに戦況に大きく影響していた。 「良いねぇ砂小原。立派にやったんじゃねぇか?」 火車は荒野に伏した砂小原に激励の言葉を送る。リダルザの攻撃で傷だらけの身体に応急処置を施しながら、バイデンとリベリスタの乱戦に目をやった。まだ暴れたりねぇなぁ。その瞳がそう語っている。 「……しかし、アキナさんはホント毎度のっぴきならない所で仕事やってるわよね」 アンナはため息をついて肩をすくめる。最ものっぴきならないのは私もそうだけど、と心の中で追加する。事が一段落すれば、愚痴を言う余裕も出てくるというものだ。無事に帰ったら骨休めをしよう。そう心に誓った。 「お前さんには助けられたよ。俺たちがお前さんを守ったのはそのお返しだ。お疲れさま」 フツは傷だらけの袈裟のホコリと汚れを落としながら砂小原に優しく言葉を投げかける。力の抜けた自然な笑み。アルカイック・スマイルと呼ばれる仏像的な何かを想起させる微笑み。 砂小原は三人の言葉に、荒い呼吸のままで微笑みを返した。弱弱しく拳を突き出して、三人に合わせる。こつんと三度、拳はノックされた。 「しかしまぁ、これで終わりにしたいのは確かだな」 翔太は戦闘中の表情から、普段の気だるそうな表情に戻る。やる気のなさそうな顔で近くの岩に腰掛けて伸びをする。戦闘の傷が所々痛い。それでも何とかなったのは、アンナの回復もあるが翔太の地力も大きい。 「なに、皆で頑張ればすぐに終わるでござるよ。次こそはアークの凱旋でござる!」 鬼影兼久を納刀し、虎鐵も普段のござる口調に戻る。バイデンに捕われた者たちは戻ってきた。もはや心配することはない。あとは勝つだけ。たったそれだけだ。 激戦を切り抜けたリベリスタ達は、互いのポーズをとってそれぞれの戦場に散っていく。あるものは傷を癒すために後ろに下がり、あるものは滾る血を抑えることなく戦場へ、あるものは戦況を確認する為に本隊のほうに戻っていく。 戦いはまだ、終わらない。 憤怒と渇きの荒野に風が吹く。 戦いという風が。強く、激しく。 その風はいずれ収まり、荒野はいつもの静けさを取り戻すだろう。 そのとき立っているのは、果たして方舟か赤の巨人か。 今はただ、自らの勝利を信じて戦うのみ―― |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|