●張り詰め、或いは燃え上がり ――敗北の味は、苦かった。 かつてはどれだけの痛手を負おうとも、最終的には勝利をその手にしてきたアーク。 それが今回は――完膚無きまでに、打ちのめされた。 善戦空しくラ・ル・カーナに設営された橋頭堡はバイデン等の手に堕ち、アークは仲間達を残したままボトムへと撤退を余儀なくされる結果となったのである。 しかし、其処までされて黙っているアークではなかった。 リベリスタ達は無謀は承知で、即座にラ・ル・カーナへと取って返し、雪辱を果たす事を選んだのだ。 理屈の上では、かなり危険な賭けだ。 ハイリスクハイリターン、正にその言葉の通り。 しかし彼等は――そんな理屈すら呑み込んで、今、勝利を掴むその為だけに、起たんとしている! ●箱舟打って出る時 尤も、アークの籠城を打ち破る兵力、何より戦力をバイデンは保持している。 優位な状況を覆されての、先の敗北であった。真っ向から立ち向かっても勝機は薄氷の如く、薄い。 『戦略司令室長』時村沙織(nBNE000500)とて、それは理解していた。 だからこそ、彼は決断した。『追加戦力』の投入を。 即ち、フォーチュナの投入を―― 「勿論、万華鏡の恩恵を得られない現状じゃあ機能の低下は必至だ。それに連中は戦闘能力を持たない。本来なら前線に投入すべきじゃあない。これは常識以前の問題だ。だが……」 我等が室長は、こう言って口元の笑みを深めたのだ。 「万華鏡に頼らずとも高精度の予知が可能、加えて、戦闘力のあるフォーチュナがいたとしたら――?」 それは即ち、『塔の魔女』の投入。 そして、僅かなりとも力になれればと、周囲の反対を押し切ったフォーチュナ達の出陣を意味していた。 ●奔流怒涛となりて 「……来たか、強き外の戦士達よ」 砂塵の中待ち受けるは屈強なる赤き戦士達。 対し、唯真っ直ぐに激突せんと猛るのは、箱舟の兵達。 彼等が向かい来るその光景に――バイデンの戦士達はニヤリとその笑みを深めて。 「――さあ来い猛者達よ、このバル・カランが相手になろうぞ!!」 闘争こそ悦び。勝利こそ幸い。 戦の申し子たる彼等に、しかしアークも臆さず果敢に立ち向かう。 退けない、譲れない、敗けられない。 理由も、覚悟も、十分だ。 「やられっ放しで、終わると思うなよ!」 「ああそうだ、アークの底力見せてやるぞッ!」 「それにアイツ等が、俺達を待ってるんだ!!」 領を犯した箱舟か。 友を捕えた戦士か。 それぞれに確固たる信念があるが為に、激突する。 裁かれるのは、裁かれるべきは、果たしてどっち? ――或いは、双方は双方であるが故に謂れは無く、その問いに答も意味も無いのだとしても。 此処でひとつの白黒は、確実に着けられる。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:西条智沙 | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 2人 |
■シナリオ終了日時 2012年08月15日(水)22:48 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■サポート参加者 2人■ | |||||
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●誇り高き者達 ――遂に、両者は相見えた。 逆襲を。或いは闘争を。求めるが故に、互いの願いは違えど、真っ向から、相対する。 「戦場で戦う為に捕虜を解放したか――それでこそ戦闘種族、それでこそ我が敵」 この場にあって歓喜の笑みすら浮かべて見せるは『戦闘狂』宵咲 美散(BNE002324)。純粋に力を、そのぶつかり合いを求める彼の性質は此処では最も敵の持つ行動理念のそれに近い。 だからこそ、敵対する。心身共に強き敵と全身全霊、命をも懸けて衝突する事こそ彼の望み! 「そう、その通りだ。さあ戦おうぞ強き者共よ!」 狂喜。正に内に潜む偽らざる闘争への本能が呼び覚ますそれを、敵の隊長――バル・カランは受け入れ、吼えた。 バル・カランは強大だ。逞しく屈強で、肌は燃え盛る炎の如く、或いは熱く滾る血の如く、赤い。そして纏うは、絶大なる威圧感を内包した気魄! 「バル・カラン! まずは俺の相手をして貰おう。安心しろ。一人だからって、退屈はさせないさ」 勇ましく宣し進み出、『九番目は風の客人』クルト・ノイン(BNE003299)は構えを取る。 言葉は要らぬ。理由等言うに及ばず。示すべきは唯ひとつ。 「人の意地とくと見せてやる」 「良いだろう、その勝負乗ったぞ!」 轟雷轟くが如き大笑の後、バル・カランはクルトへと、その重厚なる黒曜の大鎌を向ける。 それを合図に、各々武器を構えるバル・カラン配下のバイデン達。同時に、リベリスタ達も即座に臨戦態勢を取る。 「郷に入れば郷に従え、と申します。では、真っ向勝負と参りましょうか!」 完全世界に現れ荒野を我が物としたバイデンにとって、戦いは自己を示す手段であり、目的であった。更に言うなら、己と違う存在を理解する為の、儀式。 今までの彼等の行いから、『蛇巫の血統』三輪 大和(BNE002273)はそれを十分に理解していた。ならば彼等にアークがリベリスタ、その強さ、この戦いで示してやるのみだ! 「さぁ、心行くまで戦おう。バイデンの戦士よ――」 美散が携える紅月の色宿す深紅は破壊と創造を齎す突撃槍。立ちはだかる敵を破壊し戦場を創り上げるその切っ先は、既にこれから火蓋を切る戦場にしか向いてはおらず。 「――待ち侘びた戦場は今此処に!」 空をも劈く美散の咆哮は此処に立つ全ての者を震撼させ――戦いの幕を切って落とす! ●それは聖戦、或いは情熱 「敗北からの反撃……燃える展開よね」 身体能力の限界、その枷を外し奇跡の速度を得た『自堕落教師』ソラ・ヴァイスハイト(BNE000329)の瞳が、ゴーグルの奥で更なる光を帯びた。 恐れは無い。寧ろ昂揚すら覚える。それは手強い敵にか、心強い味方にか、或いは大仰なまでに荒れるであろうこの戦場にか。 「最終的に勝てればいいのよ。一度の敗北くらいでへこんでちゃダメよ。気持ちで負けてちゃどうにもならないもの」 だから、勝つ気で。結末は判らない、けれどもがむしゃらに――それではまだ、この場においては意志は弱い。だから、勝つ。勝てる。自らの意志で自らを極限の存在へと押し上げる! 「さ、勝って勝利の美酒といきましょうか」 ソラの翳した出席簿――学び舎でも戦場でも、それは相棒だ――から、勢い良く紫電の鎖がうねり、奔る。敵陣を駆け抜け貫き通す。荒くれ者共に対しそれは華麗奔放に、弄する。 「そうだ! 打って来い! 際限無くな! 我等全て受け止めて見せようぞ!」 「ならばまずはこの蹴撃、受けて貰おうか!」 クルトが振り上げた右脚は、横薙ぎにされるとバル・カランの配下数人ごと巻き込み空を斬り、薙ぎ払った。その斬撃とも呼べる風纏う一撃、その風圧で、バル・カランがその巨体を僅かに仰け反らせる。鮮血が迸った。 「ヌゥ……!」 「隊長!」 やられっ放しで敵も黙ってはいない。 隊の中では最も素早さに優れる、斬る事よりも殴る事に重きを置いた爪の使い手達が、前衛で殲滅と抑えに回るリベリスタ達を強襲する! 「全く、私は戦いを楽しんだりするタイプではないのですがねえ。正面からの殴り合いも余り得意とは言えないのですが」 僅かに苦笑を浮かべ、呑気に呟く『スウィートデス』鳳 黎子(BNE003921)。向かい来る敵は血気盛んで、此処に来た以上それを避けて通る事も出来ない。 ――それでも、彼女は言ったのだろうか。 (……あの子なら、戦乱を起こすバイデンは滅ぼす、とでも言ったのでしょうか) ゴーグル越しに見える黎子の黒き双眸は未だ記憶の中燃え上がる赤の少女を視る。自身と違う色を持ちながら瓜二つの顔をした、血で結ばれた彼女なら、眼前の脅威にその身を燃やして立ち向かっただろうか。 やがて黎子は記憶の中の少女では無く、現実に押し寄せる敵を見据える。 「まあ……泣き言は言ってられませんねえ。どっちが悪いとかいいとかは無しで良いでしょう。崩界を防ぐために私は戦うだけです」 自分にとっては理由等、それだけで、十分だ。 赤と黒の双子。その色を持つ双頭の刃が、剣呑な輝きを以て、煌めいた。 繰り出される爪撃を、ひらり、ひらりと往なして躱し――反撃に双鎌は瞬くように、閃いた。それは黎子の身をも傷付ける程に激しく、狂おしく舞い乱れる死の舞踏。 ついて行く事が叶わなければ無惨にもその身を裂かれる。哀れな先兵達は防御をも崩され為す術無くその身に流れる赤を弾けさせた。そして返す刃でもう一度、裂かれる。 ●戦士達の讃歌 大和もまた、向かい来た爪使いの攻撃を受け流し、代わりに後方へ抜けようとした斬馬刀使いを一人、抑えた。 「あら、何をしようというのですか。そんなに急くものではありませんよ?」 次に動くは恐らくは爪使い。ならばと大和は神秘の光を細き一条の糸として、爪使いに撃ち放った。それは的確に爪使いの身体に纏わりつくと拘束し、戒めた。 装甲さえも関係無く、締め上げる。敵は苦しげに顔を顰めた。 残る斬馬刀使い達は美散の側から抜けようとして――しかし美散とてみすみす彼等を素通りさせはしない。その一体の前に立ち塞がると、突撃槍を突き出して牽制、その動きを止めた。 「我が最大にして最強の一撃、その身で篤と味わえッ!」 美散は自らの生命力すら削り取り換算した力で以て、全てを打ち砕き木端微塵に破壊する爆発的な絶対破壊の力を、裂帛の気合と共に目の前に立つ戦士へと叩きつけた! 「ぐあああああああ!?」 予想外の痛恨の一撃を喰らい、地を揺るがすような絶叫を上げて敵は斬馬刀を取り落す。一度は膝を着くもよろめき立ち上がる。 しかし美散から笑みは消えない。この渾身の一撃を浴びせても、それだけでは倒れない――そう、それでこそ彼の望む、戦士! そして美散を抜けた斬馬刀使いは――『弓引く者』桐月院・七海(BNE001250)をも通り越して、最奥にいるエリス・トワイニング(BNE002382)へと脇目も振らずに駆け抜ける! どうやら見るからに身軽であるのに動きを見せない彼女に不信感を抱いたようだ。正に戦士の勘と言うべきか、フォーチュナ部隊が要である事をある程度看破したプリンスに劣らぬ観察眼。 だが――阻まれる。リベリスタとて敵味方の構成から、後衛、特に回復役のエリスは狙われる可能性と手考慮していた。彼女のすぐ前に控えていた、『抗いし騎士』レナーテ・イーゲル・廻間(BNE001523)が、その猛攻を押し留めた。 「ちょっとやそっとの攻撃じゃやられてやんないわよ。エリスちゃんはやらせない」 ゴーグルの奥に覗く黒眸に秘めた強き意志。 味方は護る。されど此処で斃れはしない。 (負けたら本格的に危ないってんならどうにかしないわけにもいかないよねえ。こっちに乗り込んでボトムに興味を持たせたのは、私達にも責任がある) 導火線に火を付けた始末はつける。それが遅かれ早かれの違いだったとしても、だ。 敵の勢い任せの、それ故に衝撃を伴い全てを打ち砕くような攻撃も、的確に勢いを殺しつつ防ぐ。全力で撃った攻撃にも然程ダメージを受けていない様子のレナーテに、流石のバイデンも驚愕を隠せない。 それを受けて、トマホークの使い手達が援護射撃を放つ。しかしそれ等によるダメージもレナーテは全て最小限に抑えてしまう。 (危なかった……あのバイデンから直接殴られるかも知れないと思いました) と言うか、今はエリスが狙われているがその内自分にも来るかも知れない。そう思うと流石に七海にも怖気が走る、が。 (正直やってらませんがそれは皆さん一緒なので泣き言言ってる場合じゃない。まあ敵前衛に斬られるとか、殴られるのは体験済みだ。さあ色んな意味で覚悟決めなきゃなあ……) 懸かっているのは自分の命だけではない。そう考えればやる気はふつふつと湧きあがる。誰も死なせない、死なせたくない。後味が悪いのはごめんだ。 事前に極限の集中状態に入っていた彼は、流れ込んでくる映像がコマ送りに見える程の動体視力を得ていた。完全なる狙撃を可能にした七海は、敵陣に烈火纏う矢の雨霰を降り注がせ、火の渦に呑み込んでゆく! 一見無差別にも見えるそれはしかし的確にバイデンだけを巻き込み、逃がさない。それは正に火炎の陣。 徐々にバイデン達の力は確実に削がれつつあった。 ●反攻の猛者に抗えば 「我等にご加護を、そして勝利を……さあ、祈りましょう」 『蒼き祈りの魔弾』リリ・シュヴァイヤー(BNE000742)が自らに齎した祈りは、流星の如く敵を穿つ感覚の研磨。それにより彼女が放った星の魔弾は美散の攻撃により大きく消耗した斬馬刀使いの肩口を穿ち突き抜けた。 その光景に、『無何有』ジョン・ドー(BNE002836)は静かに瞼を下ろす。思えば此処に至るまで、長かったような気もする。短かったような気もする。 (既にこの地での戦いにおいてはアークが一敗しておりますが、捲土重来を期しての再戦。この戦いに勝利せねば、私たちの世界に雪崩れ込むことは必定……) 負ける訳にはいかない。アークは此処で異世界の戦士達を打ち破らねばならない! (私も全力を以て戦いましょう) ゴーグルの奥のその双眸が再び開かれた時――既にその超頭脳で以てこの戦いにおける全ての可能性を演算し尽くしていたジョンは、手元寸分の狂いも無く全てのバイデン達を、正義の神気伴う閃光の乱舞で捉え上げた! 肝心のバル・カランの動きを制限する事こそ出来なかったが、全ての戦士達を満遍無く弱体化出来たと言えよう。 そしてリベリスタ側の疲弊が存外少ないと見て、エリスの放った魔力の矢が一条、一人のバイデンへと、真っ直ぐに伸びていった。 「っ、があっ!!」 その魔矢の前に、遂に美散と対峙していた斬馬刀使いが、力尽きどうと地に伏し、斃れた。 「やりました!」 「まずは漸く一人」 「でもまだ気は抜けないわね」 素直に歓喜の声を上げる大和と、しかし冷静に状況を分析するジョンとレナーテ。それでも、一人討つ事が出来たのだ。 ――だが、此処で遂にバル・カランが動いた。 「ふふ……流石だな! リベリスタと言ったか外の戦士達よ! 良いだろう、このバル・カラン、旭日昇天の勢いを以て相手になろうぞ!」 「!」 ――刹那、バル・カランの全身からその身を焼き尽くすような熱すら帯びた、湯気のような闘気が正に間欠泉の如き勢いで立ち昇る! リベリスタ達の力を認め、本気で相手をするつもりらしい。負けじとクルトがそれに併せてその身を流れる水のようにしなやかに強かに変幻自在の構えを取る。 しかし隊長の本気に、バイデン達の士気が更に高揚した。その勢いに応えたか、風が吹き荒れ砂塵が舞った。そんな中、バイデン達は全員が煩い程に鬨の声を上げ、勇ましく攻め立ててくる! 「……良いわ、あんた達バイデンと私達アークのリベリスタ、どちらが強いか決着をつけようじゃないの。気力尽き果てるまで撃ち続けてあげるわ。覚悟しなさいよ」 敵が多い。ならばそれだけ的も多い。ソラはあくまで柔軟で、冷静だ。敵が本格的に暴れ出す前に、再び雷鎖を解き放つ。砂塵が舞おうと神秘の鎖は標的を逃さない。 まだ戦いは終わらない――寧ろそう、此処からが本当の戦いだ! ●意地か誇りか 仲間を失った事で更なる闘志を燃やしたバイデンの進撃は凄まじいものがあった。 また、それまでにエリスを狙った所でレナーテに阻まれると知ったバイデン達は、ターゲットを他後衛へと変えていく。 「わ、やっぱり強いな。でも負けません」 「案ずるな、俺が相手だ!」 「あ、砂塵の向きが……右からも来ます」 欠けた穴を埋めるべく、一人のトマホーク使いが美散の前へと出て来るが、美散はその相手をしながら尚且つレナーテから反転し七海に向かってきた斬馬刀使いをも相手取る。そんな彼を七海はその動体視力で、砂塵の動きを読む事で逆にそれを活かし、サポートする。 「三輪さん、大丈夫です?」 「ええ……この程度!!」 同じく前衛にてバイデン達を引き付けていた大和が膝を着きかけるも、運命を天へと捧げ燃やして立ち上がる。その心、その魂、不屈。 黎子と共に回復を受け、勇猛果敢にバイデン達と剣戟を交わす! 「複数対一でありながら、小娘一人倒せないとは情けないですね……それでも己が武を誇るバイデンですか! 悔しければ、私に己が武を示してみなさい!」 挑発に乗り向かい来るバイデン達。回復はあれどこれだけの数に対するのは骨が折れる。だが、この奮闘が他の仲間の負担の軽減に繋がる。易々と倒れる訳にはいかない! 「前衛で敵を食い止めて下さる皆様の心意気に、私めも確りとお応え致しましょう」 砂塵が晴れたその時、ジョンは淡々と、しかし確実に疲弊の色濃い相手を見極め――未だ後方で援護を行うトマホークの操り手の下へと白く煌めく気糸を放つ。 援護射撃の対決は、ジョンに軍配が上がった。そのまま、ぐらりと傾ぎ倒れ伏す敵の身体。 リリもまた、彼に倣い消耗の激しい敵を狙って魔弾を浴びせ掛けてゆく。 「やりおる、やりおるな! 滾って来たわ!!」 リベリスタ達の戦いぶりに、再び空気震わす笑い声を上げ――バル・カランは、鎌を大きく振りかぶると、クルトを乱暴に打ち据えた! 「!!」 「クルト!!」 余りの勢い、そして威力に思わず悲鳴混じりにその名を呼ぶソラ。 めりめりと骨の軋むような音を立て、腹部から夥しい血を流し、数歩よろめいて、クルトはその場に倒れ――なかった。 「……退屈させないと言っただろう!」 そのまま、クルトは一挙にバル・カランの懐へと飛び込むと、反撃の内部破壊の掌打を叩き込んだ! 「ぐ……っ、全く以て、やりおるぞ!」 バル・カランの顔にも、悦び以外の表情が浮かぶ。 紛う事無き、苦悶だ。 既にリベリスタ側も大和が倒れ、黎子も一度倒れかけた所を喰いしばりやっと立っている状態で、後衛にも被害が出た結果、回復はあるものの此方の被害も少ないとは言い難い。 だが、皆の、特に一人で多数の敵を引き付けた大和の働きで、敵も相当にその数を減らしている! 「さあ、最後の大掃除と行きましょうか!」 「はい、頑張ります」 ソラが、七海が、気力を振り絞り雷と炎の饗宴を実現させた。残るバイデン達は身を護る事は出来ても逃れる術は無い。そして弱った彼等を、美散が、ジョンが、黎子が、リリが、蹴散らしてゆく。独りで打ち砕くのが困難な相手とて、皆で力を合わせれば、いずれは打ち砕ける。 クルトも幾度も幾度も大打撃を受けるも、敵の懐に回る事で長いリーチを持った大鎌の威力を僅かながら殺す事で、まだ持ち堪えていた。そればかりか、屈する事無く破壊の一撃を繰り返し重ねてゆく! やがてバル・カラン配下の最後の一人が倒れ――残るは、バル・カラン本人のみ。 「もう、ジョーカーが配られるのは貴方だけです。一方的な攻撃は不運と悪運に愛された私の数少ない取り柄……これで終わりにさせてもらいますよう」 黎子が死の宣告を示すカードをバル・カランへと向けるのを合図にリベリスタ達は彼に集中攻撃を浴びせ掛けた。 斬り、撃ち、蹴り、放ち――それでもバル・カランは倒れない。 寧ろ、嬉々として反撃に打って出ている! 「そうだ、来るが良い! 全てを打ち砕き呑み込んでくれる!!」 そして遂に――その一撃がクルトに決定的な破壊を齎した。 口からごぼりと大量の赤が零れる。意識は気を抜けばすぐに持って行かれてしまいそうだった。 だが、地に膝を着き手を着いた彼は――笑った。 「俺達の勝ちだ」 意にも介さずバル・カランが振り下ろしたトドメの一撃を――しかし、レナーテが庇った。 「あんたらと違って残念ながら私は殴るのは得意じゃなくてね。でも、殴りあうだけが戦いじゃあないのよ!」 信じる事。大和やクルトが味方に託したように。レナーテもまた、信じて護る! 応えて、進み出たのは美散だった。 「一度敗北を味わった後の雪辱戦と言うものも良いものだ」 戦いの中で死ぬのもまた一興。戦闘狂たる美散にもそれは理解出来る。 だが此処で死ねば――雪辱を果たす間際の心地良さは味わえぬまま。 死を乗り切り味わうその勝利は彼等戦士にとって、 「お前達にも是非味あわせたい程の美酒だぞ、バイデン!」 その至高を噛み締めながら踏み込んだ彼の一撃によって砕かれたバル・カランは――笑っていた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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