● 『ラ・ル・カーナ橋頭堡』の防衛戦線。負けたのだ。彼らは、撤退してくるしかなかった。 戦略司令室の判断を早期に動かすのはリベリスタ達の熱烈な意見、上へ、ラ・ル・カーナへと進撃すべしという強硬論。 優位なのは『万華鏡』の、フォーチュナの予知と言う支援を受ける事の出来る防衛戦。それよりもずっと不利で、勝機のない総攻撃。 「万華鏡がなければ、あまり情報を見通せない」 それはわかるね、と事実上の司令官は告げる。戦闘能力を持たない、未来を予知する者。戦場に居るには危険で、その危険に晒してはならない運命の寵愛を受ける者。 その言葉にフォーチュナ達は頷く。分かって居る。戦闘能力を持たないから最前線には出向けない運命を見通す者たち。 ――ならば、その『戦闘能力』があるフォーチュナが居れば? ――万華鏡に左右されない予知能力があれば? 猫の様に目を細め、何処かそこの知れない笑みを浮かべた『塔の魔女』アシュレイ。常の様に人好きする笑顔を浮かべた彼女が是としたのはラ・ル・カーナでの作戦従事。 だが、アークのリベリスタたるフォーチュナ達も黙ってはいなかった。彼らは己が微力である事は重々承知していた。危険が伴う事も分かっていた。それすら厭わず彼らは仲間達と共に異界へと足を踏み入れる。 戦闘能力をもたないものと、もつもの。リベリスタにとっては二度目となる場所へ、あの荒んだ野へ。 さあ、自らを守るための、自らの望む未来の為に復讐を、はじめよう。 ● バイデン――赤き蛮族らは元より血の気が多い。 其れは一度でも剣を交えたリベリスタ達からすると共通の認識であった。 籠城戦をする事もなくその身を武器に最高の戦いを、何より戦場を魅せる様な戦いを行う彼らはリベリスタ達の前に立ちはだかる。 「やるか」 ただ、その一言だけだった。戦うしかない。目の前で笑う赤き蛮族。此れは小細工なしの勝負だった。 アークのリベリスタとして従事してきた彼らと上位の世界に生まれ落ちた戦いを欲する赤き蛮族。 「リベリスタよ! さあ、最高の戦いを見せようではないか!」 武器を握り、バイデンは笑う。その口元に湛えた余裕。何よりも、戦闘を喜ぶかの様なその表情。 唯、目の前の敵を倒す、異界の戦士。血に飢えた彼らからすれば何と良い獲物だろうか。まっすぐに見据えたまま彼らは笑った。その手に馴染む武器。戦士としての誇りがある。戦場を魅せよう。最高の戦いを。戦いこそが生き様。其れこそが、確固たる自身の証明。 剣士としての誇り、それはリベリスタもバイデンもどちらも持っている。アークのリベリスタ陣営の本陣へ向けて彼らは歩みを止めやしない。此れから起こるであろう激戦に生唾をごくり、と飲んだ。嗚呼、戦だ。 「我が名はエートス! さあ、剣を交えようではないか、リベリスタ!」 「私はシェヘラザード! さあ、始めようか、戦を! この命を掛けて!」 ――答えはいらなかった、この場を護り切る其れだけが彼ら『アークのリベリスタ』の使命であるから。 かちり、かちり、戦への歯車が回り出す。噛み合って、今、赤い血を――華を散らす。 「さあ、リベリスタよ!」 互いの望む『未来』の為に最高の戦いをはじめようではないか。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:椿しいな | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年08月15日(水)22:48 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● ――さあ、最高の戦いを。 広がる荒野。先の戦いに破れたリベリスタらは再度進軍を決めた。今度は此方の手番。まっすぐと向けた視線のその先。にたりと笑った赤き蛮族の姿。 嗚呼、バイデンって全く愉快だ。揃いも揃ってこのお出迎え。戻ってきた所を此処まで厚い歓迎をしてくれるのであれば有り難く受け取らなければならない。 名乗り上げ、此方を見据えたバイデンに『銀の盾』ユーニア・ヘイスティングズ(BNE003499)は笑う。 「ああ、望むところだ。その死闘、買ってやんよ」 握りしめた棘。芽吹くは死闘の花。止められない円舞。煩悩を断じ、絶対的な静寂に達する理想の境地――ニルヴァーナ。其処に彩る花は何色だろうか。 愛を知れば、赤く染まるのだろうか。ならば、目の前の赤き体躯の蛮族らは愛を知っているのか。愛はあるのだろうか。問うても、世界を隔てた彼ら『アザーバイド』には通じないだろう。その概念は人間の物差しでは測れないとはよく言ったもの。理解出来ないし、しようとも思わない。唯の、独り言だ。 シェヘラザード、とアラビアンナイトに語り手とし登場する女性の名を冠したバイデンへと『女好き』李 腕鍛(BNE002775)は語りかける。 「拙者は、役割がある」 安心して、戦わせる。仲間達が彼の背をじっと見た。斧を手にした小柄なバイデンと愛を得た青年。交わらぬ筈の線画、緩やかに交差した。 少女の目の前に立つバイデンが笑う。ふわり、揺れた黒いゴスロリワンピース。『愛を求める少女』アンジェリカ・ミスティオラ(BNE000759)はブラックコードを構え、背後に居るユーニアを庇える位置に立っていた。 相手の土俵。自分達の上の世界。そこで戦うと言う事は無謀でしかない。無謀であれど、戦うと言うならば、自身の持てる全てを出しきればいい。 此方の本体へとその身を向けるバイデン。正面からぶつかる戦闘では基本的にはバイデンに分があるだろう。戦闘力の差。戦場の華。赤き蛮族の戦闘力そのものが決定的な差ではない。 其れを教えてやろう――リオン・リーベン(BNE003779)は仲間達へと効率動作を与える。戦術的な付与を与えながらもその鮮やかな紫陽花を想わす両の目はバイデンらを見つめている。どの配下がどのような攻撃を行うか。その特徴を見分けるだけでも変わるのではないか。青年はすぅ、と目を細める。 「見えるか……? いや、見分ける」 リオンの目線の先、リベリスタらよりも数の多い赤き蛮族の瞳が爛々と燃ゆる。回復役とし戦線の要となる『子煩悩パパ』高木・京一(BNE003179)は杖を握りしめた。 倒れるわけにはいかない。彼の住む世界に居る愛おしい者たちの為に。この戦いには勝たねばならない。――アークの一員として、それよりも父として。 「勝たねば、為りませんね」 ――その身は、誰の物か。彼女の身は御心、そして箱舟たる彼女らの還る場所と共に。 シスターたる『蒼き祈りの魔弾』リリ・シュヴァイヤー(BNE000742)は祈る。その望みは、自身らの未来、大切な仲間、何より直ぐ目の前で戦う大切な人の為。 「さあ、『お祈り』を始めましょう」 彼女は「十戒」を構える。其処から放たれるのは蒼い軌跡を描く祈りの魔弾。其れを放ち、全力で応えよう。その、戦いを求める心に。目を開ける。驚異的な集中力が彼女の感性を研ぎ澄ませた。 何を求めるか、何が見えるのか。互いの望む未来を。手を伸ばし、届く筈の彼らの明るい未来の果てへ。 「未来か……。貴様らが未来を語るのか」 嘲る様な視線を向けた『Friedhof』シビリズ・ジークベルト(BNE003364)はヘビースピアを握りしめる。目の前に居るバイデンらの望む未来の果ては『闘争』だろう。血に染まり、その手に握りしめた武器で相手を倒す。闘争への欲求。 ――だが、アークのリベリスタの望むものはバイデンの望むものとは違う。望むのは闘争の、彼らが望むよりも『その先』だ。 「命を掛けると言ったか……? ――ほざくなよバイデンッ!」 全身の膂力を爆発させ、叩きつける。配下のバイデンのその身に吸収された衝撃。にたりと笑った彼らの背後でその中でも一番大きな体躯のバイデンが微笑んだ。 彼へ向けて走り込む『仁狼』武蔵・吾郎(BNE002461)の手に握られた魔力剣。望むのは最高の戦いだ。此方とて、負け戦の為に戦う訳ではない。元から負けるつもりなんてない。 「始めよう! 最高の戦いをな!」 宣言す、その想い。互いが望む最高の『未来』――死闘を。刃をぶつけ、火花を散らせ、互いに見つめあう。吾朗の獰猛な野獣の瞳がバイデンの瞳とかち合った。 「さあ、リベリスタ諸君、戦の華を散らせようッ!」 ● 研ぎ澄まされた感性は相手を見極めるが如く、鋭い。様々な能力を持つと予測されていたバイデンら。どのバイデンがどれであるか。其れをしっかりと見極められるかは分からない。 「あんたら達、良い獲物持ってんな。俺の棘ほどじゃないけど」 その声に一人のバイデンが反応した。斧を携えた者だ。詳細は分からない。元より予知者ではない彼にははっきりとした状況の解析は予知できない。ただ、彼がユーニアの望む行動を不能とする能力の持ち主でない事だけは分かった。 「シェヘラザード殿、お相手頼もう」 ぐっと固めた拳。前方へと飛び出した腕鍛に斧を抱えた小柄なシェヘラザードは其の顔に浮かべたのは嘲り。愛は、と問う青年。 愛があれば、何を愛するのか。勿論決まっている。只、戦乱を愛そうではないか―― 凍て付く衝撃が放たれる。その攻撃にもシェヘラザードは焦りを浮かべなかった。仇を――徒を斬り、霧散する物をも滅さんその斬撃が振り下ろされる。其れに伴う混乱は腕鍛には聞かなかった。 彼は、仲間の為に此処に立つ。賢いバイデンは其れに気付いているのだろうか。ちらり、と目線を送る。彼の望む一人の女の方へと。 「ッ――」 背筋が粟立つ。ロザリオが首元で小さく揺れた。嗚呼、我らに御加護を、そして勝利を。目前に迫る敵の血も、流れる我が血も、全て主の元へ。 手にした銃から放たれる蒼い軌跡。彼女の魔弾は神の魔弾。研ぎ澄ませ、見極めよ、攻め滅ぼせばいい。目の前で笑うバイデンをも全て、滅せ、滅せよ。 「――Amen!」 神の御加護よ、どうぞあれ。 元よりその名前は倫理的な態度を示しているという。全身のギアが軋む。エートスの持ち得る蛇腹剣を魔力剣で抑えた吾朗が笑った。 「バイデンの戦士エートスだな、俺は武蔵吾朗、俺と戦って貰うぜ」 「嗚呼、戦士吾朗。噂に聞いたリベリスタよ!」 『外』の戦士へ喜びの咆哮を上げる。飢える獣の瞳にバイデンは嗤った。散るは赤き戦の華。振り下ろされた蛇腹剣が砕くのは今は空にない三つ月。明るい陽光は今は戦士達を嘲笑うかのように橙の陽を灯し、移ろっていた。 ユーニアが目を開く。分かった、と彼が視線を送ったのはリオンであった。 「――狙うのはあいつだ!」 超直観があるわけでもない、観察の目。大まかなことしか分からなかったが、それでも少しは見えるものがあった。リオンが指し示す方向へとシビリズは走る。 その体へと振り下ろされる刃が、多い。8体ものバイデンら。身体からすぅ、と血の気が引く。流れ出る血に、燃え滾る様な痛み。 「大丈夫ですか」 「ああ――楽しいかバイデン? なあ、私は楽しいよ」 齎される癒し。流れ出る血が沸騰するように熱い。叩きつけるのはその強き思い。目の前で戦を好み血に酔う蛮族ら。 明日を見ぬ闘争狂い。その命は砂粒よりも軽い。ただ、明日を望む彼はこの赤き蛮族らとは同類ではないと宣言する。 「私達の強さを知るが良い!」 「嗚呼、良く思い知らされよう、リベリスタ!」 バイデンが笑う、振るわれる斧。麻痺を持つバイデン。彼の元へとアンジェリカは滑り込み、笑った。 「ねえ、ボクの接吻、受けてみる……?」 優しげな笑み。刻み込むは死の刻印。バイデンのその身は強い。一体が止まればもう一体が動く。連携の取れる8体の配下達。 マントをはためかせ京一の前に立ったリオンはアンジェリカへと戦いに使うその消費する力を蓄える。 敵は莫迦だ。癒し手を狙うことはしなかった。何より戦いを望む者たち。何度も癒され、立ち上がるその姿。非常に楽しめるではないか。 「ッ――、戦場を維持できる!」 本能から最適なる行動をとれるバイデン。その姿には驚嘆する。戦うために生まれた種族。最適行動を行う戦闘狂。 此方には相手に匹敵する戦闘力も総合力もなかった。軍師たる彼のもとへと飛び火するスカーレットベル。赤く、鳴る鐘。目の前に立っていた腕鍛の瞳が揺れる。一人では抑えきれぬその強大な力。 「――リオン殿ッ!」 リオンは癒し手たる京一を庇う。莫迦の中にも数人は居るのだ、莫迦なりに賢いモノが。送られる癒しに彼は息をつく。 その力と真っ向からぶつかるには此方は分が悪かった。ならば何が必要になる? 的確な戦場把握と、その本能の戦闘行動にすら打ち勝つ戦場指揮。軍師たる彼はだからこそこの場所に立っている。彼は、立っていた。 本能に負ける訳にはいかないからだ。 「どうした、来いよ……ッ! 俺の闇が怖いのか?」 暗闇が、バイデンらを包み込む。その力は一個体にしても強大であった。尤もエートスやシェヘラザードなどに比べれば弱く、その力も足りていないが、その数が多い事もあり十分に手は足りていない。限った能力のモノを選んでも、リーダー格を抑える者たちが耐えきれる間に全てを倒し切る事は難しいかもしれない。 ユーニアは嗤う。嗚呼、バイデンにも恐れる物があるのかと。ひょっとしてお前らは卑怯者だと忌む面白みもないフュリエなのではないか、と。 彼へと咆哮を上げたバイデンが彼へと武器を振り下ろす。その剣を交わし、彼はその身に宿る力全てをバイデンへとぶつける。 ユーニアは棘を握りしめる。その赤く染まる装備が、血を啜る。 アンジェリカが、シビリズが、リリが、攻撃を放つ。倒れたバイデンを通り越し、次の対象を狙う。四人を先に倒せばいい。猛攻せよ。只、その攻撃は一手及ばない――彼らの目の前で、エートスとシェヘラザードを喰いとめる二人には荷が重過ぎた。 強き戦士を目の前にリリは早く愛しい人のもとへと駆けつけたいと願う。届かない。まだ、届かない。 「ッ――Amen」 大切な人が危険な場所で戦っている。早く、貴方の為に。 癒しを歌う京一へとリオンはその力を補佐する。バイデンへとシビリズはヘビースピアを振るった。 戦場の華が揺れる。花弁はひらひらと戦場を舞う。魅せるその戦いで。咲かせる戦場に、鮮血の華を。 「さあ、強さを思い知れッ!」 彼の声、バイデンが地へとその身を伏せる。 「俺らは、生きて帰らなきゃいけないんだ――!」 先の戦いがある。終らない戦い。守るべきものがある。残る6体のバイデン。彼の運命が燃える。だが、彼は止まらない。 負けるわけにはいかないからだ。齎された癒し。暗闇が彼を狙うバイデンらを包み込む。己すら削り、与えるのは黒き瘴気。 夜空の如く其れに打ち込まれる青き閃光の祈り。舞う、少女の死の刻印が口付けの如く刻み込まれて行った。 二体のバイデンは地に伏せる。彼らの目はシェヘラザードとエートスへと向けられた。 爛々と光るその目を向ける配下らの姿を置き去りにして―― 勝利への執念、戦場に漂う生への執着。其処に放たれたのは劇的な程の激しさであった。 ● 「シェヘラザード、よぉく聞け……!」 ふらり、揺れる身体。燃え上る運命が、彼を翻弄する。後がない。運命を使用した自分の足が震える事に気付いた。 バイデン、フュリエ。その二対は両方一つのモノから生まれた。世界樹。司るモノから生まれ出でたもの。だが、腕鍛は、彼らは違う。二人の男女が愛しあい、その愛を分け合ったモノが新たな命となる。 拳を固める。肩で息をした。嗚呼、愛する人が居るのだ。この背の後ろに。 「此処で倒れたら――」 彼女に危険が及ぶ。彼女の笑顔が曇ってしまう。仲間も大切だ、だが、一人の女好き――否、一人の女『を』好きになった、一人の恋人として、この背の後ろには抜かせたくはなかった。 「仲間を……リリ殿を傷つけさせはしない」 構えた拳を振るう。燃える拳が唸る。 「貴様に敗因があるならば――女を知らなかった事。愛を知らなかった事でござるッ!」 その拳がぶち当たる。嗚呼、だが彼の力も一歩及ばない。癒しの手も届かない。ぐらり、と彼の体が揺れて、地へと伏せる。望むもの、歪めるための力、一歩及ばない其れ。 「腕鍛様!」 シスターの胸元でロザリオが揺れた。直ぐに駆け寄りたい、その衝動に駆られる。 だが、シスターは――リリは、リベリスタであった。倒れた恋人の姿を見てもなお、その指先は銃を離さない。彼女の蒼い魔弾は敵を貫く。 腕を一本持っていかれたら、残りの一本で叩けばいい。目前の敵からは目を離さない、目を逸らさない。一瞬一瞬を目に焼き付ける。その網膜に鮮明に。 ――さあ、次はどう来る? 私はどう動く? 「ッ、私は神の魔弾」 其れは敵を滅するまでは止まらない。その弾丸は敵陣を穿つ。その一撃に秘めたる力は強い。夜を隔てる通り名を持つバイデンへと彼女の魔弾が貫かれる。交わす事も出来ない様な鋭さが、彼の体を貫いた。 「躱せますか?――いえ、躱させやしない」 エートスが唸り声を上げる。まるで戦場を揺らせるその咆哮。 「此処で、決着をつけてやるよ!」 本隊の目前に迫るもの。この後方には未来を予知する者たちが――フォーチュナが待機している。そこには絶対に攻め込ませない。例え何であれば、危険になんて晒したくない。見知った予知者達の依頼へと送り出す顔が次々と脳裏に浮かんだ。 寂しげに手を振った者も、いってらっしゃいと声を掛ける者も、危険は承知でついてきてくれた彼ら、共闘できる事は本当に嬉しかった。だからこそ、互いに笑いあえるように、お疲れさまと微笑めるように、近づけさせるわけにはいかない。 彼の放つ暗闇がバイデンらを巻き込む。走り込んだその先、笑うシェヘラザードが其処にはいた。 「此処で、君達を止めてみせる、もう、負けられないッ!」 鮮やかに少女は間合いを詰める。刻み込む死の刻印は、優しい口付けの様に訪れる。 エートスは叫ぶ、叫ぶ。戦場をその声が駆け廻る。デュオニソス・アジタート。まるでそれは舞台上の出来事。激しく、劇場的に揺れる波動がリベリスタらを蝕む。 絶対者――其れでも蓄積するものがあった。その効力は大きい。ユーニアの身体が震える。 アンジェリカの赤い瞳が揺れる。彼女を襲うのは残った四体のバイデンであった。 「ッ、止める……!」 その決意は固い。何度攻撃を喰らおうと、京一の癒しで賄えない其れがあろうと、彼女は死の爆弾を炸裂させる。自らを削ることなど恐れない。あの時に負けた。仲間を、騎乗兵に連れ去られた。届かない思いが、悔しかった。 ――誰かの為に?嗚呼、そうじゃない。自分自身の誇りの為に。 自らを削る、其処に振り下ろされる月をも砕く鮮やかな赤。鮮血が飛び散る。嗚呼、彼女の瞳と同じ色。目を見開く。運命を燃やす。倒れかけたその姿勢を踏みとどまり、彼女は空を仰ぐ。 吾朗は雄叫びをあげる。その獰猛な瞳に、力を宿し。幻影を纏うその剣戟。 「今こそ、全力だ!!」 その斬撃は重い。エートスたるバイデンの肉体もリベリスタらの猛攻の結果、もはや機能しない境地に達していた。彼は嗤う。嗚呼、外の戦士よ。戦の歯車がカラカラと廻る。巨大な蛇腹剣が振り下ろされる。吾朗の剣と絡み合うソレ。 赤き戦士の胸へと突き刺さるその剣。獣は、只、前を見据える。ぐらり、揺れた身体が地に伏せる。 「――戦士よ」 よそ見することなく、只、見事なる戦士。危険を冒してまでも倒した其れ。 だが戦場は混沌としていた。倒しきれぬ配下らの攻撃。京一がが耐えず送る癒しも足りない。元より彼は脆い。エートスが放っていたデュオニソス・アジタート。シェヘラザードのスカーレットベルが彼の体を蝕み、運命をも喰らった。 「俺が立っている意味があるッ」 神頼みは嫌いだった。その願いを叶えるにはまだ、足りないソレ。軍師たる男の瞳は悔しげに歪む。 「負けられないんだよ……ッ」 背後に居る守るべきもの、守るべき場所。その背には大きすぎたのだろうか。伸ばされたユーニアの指先は届かない。 ただ、其処に芽吹き狂い咲いた華は花弁を散らす。赤く、淡く、荒野に落ちる。 絶対的な静寂は、只、バイデンらの雄叫びにかき消された。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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