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<箱舟の復讐>死は、天より来たる

●ラ・ル・カーナ再侵攻作戦
 ラ・ル・カーナ橋頭堡の防衛戦はバイデンらの勝利で幕を閉じた。
 敗れたリベリスタ達たちは、ボトム・チャンネルまでの撤退を余儀なくされたのである。
 橋頭堡はバイデンに奪われ、リベリスタの幾人かは捕虜として連れ去られた。
 だが、リベリスタたちの戦意は全く損なわれていなかった。
 戦略司令室の判断を早期に大きく動かしたのは、リベリスタ達の熱烈な意見――速やかにラ・ル・カーナに再侵攻すべしという強硬論だったのである。
 とはいえ、事はそう簡単なものではない。
 防衛戦とは防御側が確実に有利な戦いである。
 その防衛戦で、防御する側でアークは破れたのだ。
 攻防が逆になると考えれば、明らかに不利な戦いだった。
 確実な勝機などありはしない。
 だからこそ、時村沙織はこの局面に一つの『追加戦力』の投下を決断した。
 それがフォーチュナの作戦投入である。
『万華鏡』によるバックアップの無いラ・ル・カーナにおいてアークのフォーチュナ の能力は限定的なものに留まる。
 戦闘力に乏しく、人数の方も決して多くはない。
 これを最前線に投入するのはギャンブル的要素が大きかった。
 リターンがあるのは事実だが、万華鏡の力を得られない以上、予見の力そのものが低下する。
 その分、予見を行うフォーチュナへの被害も増大する可能性があるのだ。
 だが、自衛ができるだけの戦闘能力を持ったフォーチュナであれば?
 そしてそのフォーチュナが、万華鏡に頼らずとも高精度の予知を可能とするならば?
 全ての問題はクリアされるのである。
 本来ならば避けたい『借り』を代価に『塔の魔女』アシュレイはラ・ル・カーナでの作戦従事を了承した。
 だが、事はそれだけでは終わらなかった。
 話を聞いたアークのフォーチュナたちの中からも、作戦への参加を望む声が挙がったのである。
 自身の微力を振り絞るため、危険を厭わず異世界へと向かおうとする彼ら彼女らを……苦笑いした沙織は、もう止めようとはしなかった。

 憤怒と嘆きの荒野を血に染めるアークとバイデンの戦いは、こうして第二幕を迎えたのである。

●戦を生涯とする者たち
「如何しました、プリンス?」
 戦場へと興味深げに視線を向ける、最もバイデンである者へと、バイデンの一人が問いかけた。
 プリンスに比べれば劣りはするものの、問いかけたバイデンもガッシリとした逞しい体躯を誇っている。
「どうも、『リベリスタ』の動きが良過ぎるのが気にかかる」
 プリンスと呼ばれた彼のバイデンは、戦いに高揚した瞳の中に何か別の色を浮かべながら……戦場を、リベリスタたちとバイデンの戦いの様子を眺め口にした。
 彼は、リベリスタたちの動きを訝しんでいた。
 バイデン側の戦闘に対しての効率的な対処と迎撃、攻撃。
「フフ、連中とて必死……奮戦に疑問は無いがな。しかし……」
 ならば何故、前回はそうしなかったのか?
 戦っていた者たちを見る限り、手を抜いているようには見えなかった。ならば……
「妙なのはあの部隊だ」
 彼の眼は、リベリスタ側の陣の後方で動かずに固まったままの部隊の存在を看破した。
 一方が支援部隊である事は分かるが、もう一方が分からない。
「後方で待機したまま全く動く気配が無い。他部隊の支援を行っている様子も見られない。妙だとは思わんか? 少なくとも前の戦いに『ああいう連中』が見えなかったのは確かだ」
「……なるほど」
 言われたバイデンはその方角へと、リベリスタたちの部隊へと視線を向けた。
 彼らは知らない。
 その部隊こそが今回アークが戦線へと投入した、フォーチュナが所属する部隊である事を。
 だが彼は……プリンスは、直観的にその部隊こそがリベリスタたちの生命線ではないかと察していた。
「これは勘だがな。あれが今回『リベリスタ』達の切り札になっているのかも知れん。突いてみる価値はあるのではないかな!? 勇敢なバイデンの戦士達よ!」
 その言葉に、後ろに控えていた幾人ものバイデンたちが歓声を上げ、一人のバイデンが恭しく頭を垂れた。
「感謝致します、プリンス」
 自分たちを素晴らしい戦いへと導いてくれる、偉大なる王に。
 内なる炎を滾らせながらもバイデンにしては落ち着いた態度でそう感謝を述べると、彼は部下たるバイデンらに呼びかけた。
「プリンスが我らに素晴らしき戦場を与えて下さった! 出撃する!」

●死は、天より来たる
「バイデンたちの部隊が、この陣地を襲撃してきます」
 マルガレーテ・マクスウェル(nBNE000216)の言葉に、リベリスタたちは一瞬耳を疑った。
 バイデンの本隊とはアークの本隊が向かい合っている。
 敵の奇襲部隊も、フォーチュナたちの予見によって迎撃部隊を送る事ができた。
 この状態でリベリスタたちの陣地を襲撃する方法など……そこで幾人かが、察したという表情を浮かべる。
「……敵は、空から来ます」
 マルガレーテはそう言って世界樹の側を、橋頭堡の堀へと水を引きこんだ源泉の側へと視線を向けた。
「空を飛ぶ巨獣で襲撃を仕掛けてくるバイデンたちがいるようなんです」
 自分の力ではすべては確認できなかったけれど……少女は一瞬悔しげな表情を浮かべたものの、すぐに頭をふって顔を引き締めた。
「私が察知できたのは、襲撃してくる部隊の前の援護を行ってくる部隊です」
 陣地の後方を襲撃するバイデン達が降下してくる前に、陣地へと援護の為の攻撃を行ってくるバイデンたちがいる。
 それを迎撃して欲しいんですとマルガレーテは説明した。
「彼らは巨獣に沢山の石や岩を積んでいて、それで此処を……上手く言えませんが、爆撃してくるっていうんでしょうか……」
 他のバイデンの隊が降下する前に、積んできた岩や石を上空からばら撒く事で陣地を攻撃しようと考えているようだ。
 落とす岩石の大小にもよるが、それらは決して無視できない破壊力をもっていることだろう。
 もちろん彼らや巨獣の直接攻撃と比べれば威力には劣るだろうが、広い範囲を一方的に攻撃できると考えれば。
 その後に他のバイデンの隊が降下してくると考えれば、戦術面という視点であれば、ただ戦うより遥かに効果は大きいと言える。

 考えてみれば、橋頭堡を攻める為に様々な巨獣を用意してくるという判断も……彼らのこれまでを考えれば、卓越していた。
 フュリエたちがああいった物を造らないのであれば、彼らにとっては初めての攻城戦だった筈なのだ。
 にも関わらず、投石や突撃によって壁を攻撃し堀を越え、同時に……飛行する巨獣があるとはいえ、上空からのヘリボーンとでも言うべき作戦。
 そして今度は降下部隊を援護する為の事前爆撃である。
 リベリスタたちと戦う事で、彼らは急速に思考というものを成長させているのだろうか?
 すべては推測でしかない。
 だが、こと戦闘に関しては……彼らは何も考えずに戦う凶獣ではないのだ。

「とにかく、この部隊を放っておく訳にはいきません」
 皆さんには今から出撃してもらい、彼らが上空に辿り着く前に迎撃に入って欲しいんです。
 マルガレーテはそう説明した。
 敵がそれなりの高度を飛行しているようで、こちらも飛行しなければ攻撃は届かない。
 幸いな事に翼の加護を持つホーリーメイガスもこの陣地に残っている……が、戦いとなる事を考えれば……可能なら自分たちで用意した方が確実といえるだろう。
「空を飛んでいますし、発見は容易だと思います」
 バイデンたちもリベリスタたちを発見すれば、すぐに戦闘態勢を取るだろう。
「ただ、彼らは今回は陣地への攻撃を優先的に考えてるみたいです」
 迎撃はしてくるだろうが、戦いながらも出来る限り陣地を目指し攻撃を加えようとするようだ。
「爆撃ができなくても巨獣と本人達で襲撃を行うつもりのようです」
 つまりは爆撃を阻止するだけでは足りないという事である。
 敵戦力をすべて撃破しなければ、陣地は攻撃を受ける事になる。
 そうなれば他の迎撃にも支障をきたす事になるかもしれない。
「それでも、爆撃さえ阻止する事ができれば被害はかなり軽減されると思います」
 準備を整えると、リベリスタたちは急ぎ出発した。
 彼らに襲撃を許してはならない。
 この陣地を破壊される事……それは、此の世界で戦うフォーチュナたちを失う事を意味しているのだ。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:メロス  
■難易度:HARD ■ ノーマルシナリオ EXタイプ
■参加人数制限: 10人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2012年08月21日(火)23:44
このシナリオはフェイトの残量に関わりなく死亡する可能性があります。
参加の際は充分に御考慮下さい。


オープニングを読んで頂きありがとうございます。
メロスと申します。
今回はアーク陣地後方を攻撃しようとするバイデンたちを迎撃するという依頼になります。

●重要な備考
『<箱舟の復讐>』はその全てのシナリオの成否状況により総合的な勝敗判定が行われます。
 予め御了承の上、御参加下さるようにお願いします。


■巨獣
全部で4体。
そのうちの1体が一回り以上大きな体躯を持っています。
巨大な翼竜のような外見をしており、頭部にバイデンが騎乗して操っているようです。
背に大きな皮袋のようなものを載せており、その中に岩石などが積まれています。
バイデンたちは陣地上空でその皮袋を破る事で、それらを陣地に降らせ攻撃しようとしているようです。
(略して爆撃等書いて下さって結構です)
3体は背に1袋ずつ、巨大な1頭は背に3袋を載せています。

■バイデン
全員で4人。
全員が巨獣の骨や牙を利用した武器を装備し、巨獣の頭部に騎乗して陣地へと向かわせています。
最も大きな巨獣に乗っている1人が並外れて逞しく、一行の長を務めているようです。
リベリスタたちを確認次第戦闘態勢に入りますが、陣地への攻撃を優先するようです。
岩石を降らせることが出来なくなったとしても陣地へと突入し、出来る限りの攻撃を行おうと考えています。


今回、翼の加護が使用不可の場合、アークのリベリスタが戦列に加わります。
フライエンジェのホーリーメイガスで翼の加護を複数回使用可能です。
但し、能力の方は皆さまに比べて大きく劣っています。
(戦場付近に留まろうとする場合、重傷、死亡する可能性があります)
また、敵が陣地に到達し攻撃を開始した場合、マルガレーテも攻撃を受ける可能性があります。
(指示等を受けた場合は出来る範囲で実行に移しておりますし、無くても身を潜めてじっとはしています)


陣地に一定の被害が出る前に全ての敵を撃破できれば依頼成功となります。
それでは、御縁ありましたら宜しくお願いします。

参加NPC
マルガレーテ・マクスウェル (nBNE000216)
 


■メイン参加者 10人■
ホーリーメイガス
カルナ・ラレンティーナ(BNE000562)
デュランダル
新城・拓真(BNE000644)
ソードミラージュ
リュミエール・ノルティア・ユーティライネン(BNE000659)
デュランダル
ランディ・益母(BNE001403)
マグメイガス
風宮 悠月(BNE001450)
覇界闘士
設楽 悠里(BNE001610)
クロスイージス
ラインハルト・フォン・クリストフ(BNE001635)
スターサジタリー
劉・星龍(BNE002481)
デュランダル
羽柴 壱也(BNE002639)
ソードミラージュ
リンシード・フラックス(BNE002684)

●誓い
「わたしは誓った、必ず戦い抜くと」
(このバイデンとの戦い、お互いの誇りにかけて)
「この足が地を踏み、この手が剣を握っている限り、わたしは戦う」
『すもーる くらっしゃー』羽柴 壱也(BNE002639)は、静かに宣言した。
「わたしの全部で、止めて見せるよ!」
 その姿に『鏡操り人形』リンシード・フラックス(BNE002684)は、ほんの少し前の事を、バイデンたちの拠点での事を、彼らの姿を思い出した。
「やはりバイデン……ただの戦馬鹿ではありませんね……」
(フォーチュナを狙い打ってくるとは……素晴らしい勘です)
 そんな思いを抱いた後、少女は微かに頭を振り気持ちを切り替えた。
「……感心している場合じゃないですね」
 自分たちが捕まってしまった事が、幾人かの選択肢を狭めてしまったのである。
 目の前にいるフォーチュナの少女も、他の皆も……今回の事が無ければ、別の選択肢を選んでいた可能性もあるのではないだろうか?
 つまりは自分が引っ張り出してしまったようなもの……
「必ず、お守りします……マルガレーテさん、ご安心ください」
「そんな……私こそ、すみません。守られてばかりで……」
 申し訳なさそうにする彼女に、『イージスの盾』ラインハルト・フォン・クリストフ(BNE001635)が声をかけた。
 時間に余裕はない。
 急ぎ出発しなければ、それだけバイデン達は陣地へと近付いてきてしまう。
 だが、その前にやるべき事がある。
「遠目から見難くはなるのでありますよ」
 彼女は素早く、マルガレーテ・マクスウェル(nBNE000216)が発見され難いようにするための手段を説明した。
 砂の迷彩を施し、極力伏せ身動きしない様にとの言葉に、フォーチュナの少女は真剣な顔で頷いてみせる。
 それを確認すると、ラインハルトは踏み出した。
(私達は世界を護る。それがボーダーライン)
「私が決めた境界線、誰にも決して跨がせはしない」
 10人は急ぎ出発した。
 そして……然程進まぬうちに、空高くを飛行してくる4頭の、翼竜のような巨獣を発見する。
「参りましょう」
『シスター』カルナ・ラレンティーナ(BNE000562)は仲間たちに語りかけると、全員に翼の加護を施した。
(フォーチュナは──いえ、)
「私達の仲間であるマルガレーテさんは、何があろうと護らなければなりません」
 そう、言い直す。
 翼を与えられるのと同時にリベリスタたちは、其々戦闘態勢を整えていく。
 自身のギアをトップスピードへと切り換え、反応速度を含む身体能力を大きく向上させる者。
 気の制御によって肉体の柔軟性を保ったまま硬度を上昇させる者。
 全身に破壊の闘気を漲らせる者。
 自身を中心に複数の魔方陣を展開する事で、己の魔力を爆発的に高める者。
 極限なまでの集中によって、光景がコマ送りに見える域に動体視力を引き上げる者。
 準備を終えたリベリスタたちは、翼を羽ばたかせ上昇を開始した。
「全く、かっこ悪いったらないよね」
 離れていく地表にちらと目を向けてから、『ガントレット』設楽 悠里(BNE001610)は小さく呟いた。
 負けた上に捕虜になるだなんて。
(そんな僕達の為にこんなとこまで来てくれた……みんなに報いたい)
 掌の中にある小さな何かを、そっと握りしめるようにして……青年は、拳をつくる。
(マルガレーテちゃん、フォーチュナのみんな、アークのみんな、ありがとう)
 君達は死なせない! 絶対にだ!
 決意を籠めて視線を空へ、バイデンたちへと向けると、悠里は頼もしい仲間たちへと呼び掛けた。
「行こう! みんなで帰る為に!」

●バイデン
「あいつらは!」「隊長!」「戦士ゴルベリウス!」
「分かっている」
 ゴルベリウスと呼ばれたバイデンは、3人を率いる長は、凄惨な笑みを浮かべながら頷いてみせた。
 発見した『リベリスタ』達の中に、彼らは知った顔を見出したのである。
 自分たちへと向かってくるリベリスタたちの幾人かは、『戦士の儀』を越えた者たちだった。
 バイデンでなく、戦士の儀を越えた者たち。
 恐らくは共にいる者も……その者たちに匹敵する戦士に違いない。
(それだけ、我々の為そうとしている事を阻みたいということか?)
「……プリンス、感謝致します」
 滾る闘志を胸に、偉大なる王へと一層の敬意を抱き、感謝を述べ……バイデンは鋭い視線を、近付いてくるリベリスタたちへと向けた。
 このまま死力を以て戦うという道も、確かに素晴らしいものではある。
 だが彼は、彼というバイデンもまた……自分とは異なろうとも、或いは異なるからこそ……リベリスタたちの戦いという物に対する想いについて、考えを巡らせていた。
 理解しつつあったと言えるかもしれない。
 もちろんそれはリベリスタたちが勇敢な戦士であるからこそ、である。
(奴等が死力を振り絞るのは、自分たちを阻みたいからこそ)
 リベリスタとは、自分ではない別の何かの為にこそ最高の力を発揮する戦士ではないか?
 彼はそのように考え始めていた。
 ならば、このまま敵の後方陣地を攻撃しようとする事こそ……死に物狂いのリベリスタたちと戦う、最高の道ではないだろうか?
「分かっているな? お前たち」
 殺気の籠った声に、力強い3つの声が応える。
 これから始まるであろう死闘を予感し、彼らは歓喜し、闘志を燃え上がらせた。
 バイデンたちは雄叫びをあげ、それに応えるように翼竜達は大きく翼を羽ばたかせる。
 陣地を目指し飛行を続ける巨獣達と、高度を上げるリベリスタたちの距離が……詰まっていく。
 陣地からほど近い空の上で……ひとつの戦いが始まろうとしていた。

●戦雲、高まりて
「連中が文明を持たなくて良かったのかも知れん」
 バイデンと巨獣、背の皮袋を眺めながら、『赤い墓堀』ランディ・益母(BNE001403)は呟いた。
「分不相応な力は身を滅ぼす……こいつらが爆弾だの使い始めたらゾっとするぜ」
 その言葉に『デモンスリンガー』劉・星龍(BNE002481)は首を僅かに縦に振ることで同意を示す。
「爆撃の上、ヘリボーンでの降下作戦とは厄介ですね」
(まずは翼竜を撃破し、バイデンたちも倒すとは難儀なことです)
 もっとも、困難だとは考えていても……不可能等とは、彼はカケラも考えていなかった。
 狙撃手としての意地と誇りで叩き落すのみ。
 それが彼の矜持である。
「サテト……バイデン相手ダコッチモマジメニヤラネートナ」
『光狐』リュミエール・ノルティア・ユーティライネン(BNE000659)は呟いた。
「前回参加したの敗北シチマッタシ……流石にヤッテミセルサ」
 突出しないように注意しつつ、彼女は翼を羽ばたかせ速度をあげる。
「後方部隊を直接狙って来るとは、な」
「敵の急所を突くは戦の常道」
 未来視が戦場に出た以上、この流れは予想されて然るべきもの。
『誰が為の力』新城・拓真(BNE000644)の言葉に、『星の銀輪』風宮 悠月(BNE001450)はそう応えた後、続けた。
「もっとも……バイデンが全体での勝利を掴む為の采配をしてくるとは意外でしたが」
 その言葉に拓真は首肯する。
(こと戦となれば、バイデンの嗅覚は凄まじいか)
「だが、俺達の仲間であるフォーチュナ達の予測はさらに鋭い」
 その言葉に、今度は悠月が頷いてみせた。
 同時に、自分たちの責務を実感する。
(此処で防ぎきらなければ、マルガレーテさん達を失う事になる事実に変わりは無い)
 経緯は如何あれこうして戦場に臨む以上、
「――必ず、護りきってみせましょう」
 彼女もまた、誓うように言葉を紡ぐ。
「フォーチュナと俺達リベリスタ、これが揃ってアークだ」
 拓真も両手に武器を抱き、戦鬼達へと言い放った。
「俺達の全力、受けて見ろ! バイデンよ!」

●進む者、阻む者
(三次元は今回は空中戦だから微妙だけど速度はカワラネー)
 ムシロ上がるはずだから一気に撹乱してやる。
「私の仕事は狩る事だ早く倒す速く動くソレダケダナ」
 色々ありはするものの、リュミエールはそう結論を出した。
「単純だからこそ全力デアタルッキャネーナ」
 翼を大きく広げ風を含ませ、一気に速度を上げ距離を詰める。
 体勢を安定させる為に片足を巨獣に触れさせたのと同時に面接着を利用して、足を支点に回転するようにバイデンの死角へと潜り込む。
 地上のようにとまでは行かないが飛行するのに比べれば格段に安定しているその状態で、彼女は両手に握った刃を振るった。
 彼女の動きをそのまま伝えられた弐つの刃は、静かに翼竜の身を切り裂く。
 一瞬間を置いて血が噴き出し、巨獣は喧しい鳴声を上げた。
(ここはバイデン流に則りましょうか……)
 翼竜の一体へと距離を詰めると、リンシードは神秘の力によって強化された剣を構えながら名乗りを上げた。
「戦士リンシード、です……お相手、よろしくお願いします」
 相手の動きに意識を集中し、攻撃の狙いを慎重に定める。
「ピルロウと戦った『リベリスタ』だな。戦士グラゴルン。俺がお前を殺してやる」
 待ち切れぬという様子で、バイデンの戦士は武器を構えた。
 カルナは後衛に位置を取ると、周囲の魔力を取り込む事で自身の力を高めていく。
「まさか君達は僕達を倒してから進む自信のない臆病者、なんてことはないよね?」
 陣地へと向かわせない為に、悠里は挑発するようにバイデンらへと言葉をかけた。
「このまま進もうとした方が、貴様らは死に物狂いで戦いそうだ。そうだろう?」
 戦士イゾルゲと戦い、生き延びた者よ。
「シタラユウリと言ったか?」
 最も巨大な翼竜に跨ったバイデンが、殺気と闘気を滾らせた笑顔で言葉を返した。
「そういえば貴様は戦士の儀の時も、後に続く別の者の為にと叫んでいたか」
 思い出すかのように呟いてから、バイデンは言い放った。
「阻止したければ、死に物狂いで掛かってこい!」
 その言葉に応じるように、ランディが一気に距離を詰める。
「お互い戦士だ、余計な言葉は要らねぇよな」
 血錆が、無数の小さな傷が付いたブロードアックス、グレイヴディガーが唸りをあげ高速で旋回する。
 それに応じるようにして彼の周囲に烈風が吹き荒れた。
 嵐はバイデンとその乗騎である巨獣を傷付け、その背に積まれていた皮袋の1つを引き裂き中身をまき散らす。
 幾人かが懸念したように、巨獣の動きがやや機敏になったように見受けられた。
 とはいえ残しておけば万一という事もある。
 先ずは確実に敵の爆撃を阻止する事がリベリスタたちの方針だった。
「――Limes egretta」
 慎重に、味方を巻き込まないようにと注意しながら……悠月は冷気に満たされた領域を創り出す。
 白い羽を想わせる氷の刃が次々と姿を現すと、バイデンと翼竜に襲いかかった。
 直撃した氷刃から侵食するように冷気が放たれ、傷口を凍結させながら抵抗する力を奪っていく。
(初めての実戦使用ですが……なかなか使い方が難しいものですね)
 とはいえ直撃させる事ができたのだから、上々といえる。
 防御態勢で上昇していた星龍も、やや後方……長射程のスキルを活かせる距離を取ると、ライフルの照準を翼竜に合わせた。
 最も巨大な翼竜と2体の翼竜にそれぞれ抑えを配置し、残りの1体から順に仕留めていくというのがリベリスタたちの作戦である。
 ワン・オブ・サウザンド。
 千丁に一丁の割合で偶然製造されるという、異常に命中精度の高いライフル。
 その担い手は翼竜の動きを完全に見切ると、ライフルのトリガーを引いた。
 不安定な空中とは思えぬ精度で放たれた一撃は、本来の威力以上の破壊力を発揮して翼竜を傷つける。
 その翼竜に向かって、壱也も距離を詰めた。
(ここは絶対に通さない。仲間のところには、行かせないから!)
 大きく振りかぶったバスタードソードに雷気へと変換したオーラを纏わせる。
(さあ、行くよバイデン!)
「わたしと一緒に落ちてもらうよ!」
 繰り出された斬撃は巨獣を直撃し、翼竜は痛みと流し込まれた電撃に怒りの咆哮を発した。
「護国の趨勢この一戦に有り。御武運を!」
 味方全員に十字の加護を施したラインハルトは、集中によって脳の伝達処理速度を向上させる。
 味方の攻撃を確認しながら待機していた拓真は、一頭の翼竜の眼前へと舞い、名乗りを上げた。
「リベリスタ、新城拓真……バイデンの戦士よ、お相手願おう!」
 名乗り終えると同時にブレイドラインを、魔力によって強化された自動拳銃を流れるような動作で構え……
 次の瞬間、空の一角に銃弾の嵐が吹き荒れた。
 嵐は拓真と向き合ったバイデンや翼竜だけでなく、近くを飛んでいたもう一組の巨獣とバイデンをも傷付ける。
 銃撃によって破れた皮袋から岩や石が散り散りに舞い、速度を増しながら地表へと落下していく。
「流石だな、リベリスタ! だが、俺とて負けん!!」
 銃撃に寧ろ笑みを浮かべ、バイデンは己の武器を振りかぶった。
「戦士ファルクラム、相手をしよう!」
 翼竜の前進に合わせるようにようにして牙で出来た大剣が振るわれ、拓真の身体を衝撃が貫く。
 様子を窺っていた他のバイデンたちも、翼竜を操って相互に距離を取るように移動した。
 大翼竜を中心に2頭が左右に分かれるように広がり、1頭は羽ばたき高度を上げる。
 リベリスタたちの広範囲への攻撃を警戒しての事だろう。
 もっとも、警戒はしていても彼らは闘気を滾らせていた。
 阻むのであれば、切り拓きながら。
 巨獣を羽ばたかせつつ、彼らは攻撃を仕掛けてきたのである。

 少しずつではあっても確実に。
 陣地までの距離は縮まりつつあった。

●攻撃集中
 悠月の攻撃を受けたバイデンが、氷刃を振り払い構えを取る。
 だが、翼竜の方は体の一部が凍りつき、抵抗力も減少した状態だった。
 そこへ、一気に畳み掛けるようにリュミエールが動く。
 速度も然るものながら、その攻撃には芸術的なまでの技の冴えがあった。
 無駄のない流れるような動きから無数の刺突が繰り出され、刃の軌跡が光の飛沫のように空間を彩る。
 刃によって傷付きはしたものの、背負っていた荷を失った事で本来の動きを取り戻していた翼竜は、彼女の剣舞に幻惑されること無く敵意の籠った咆哮を発した。
 もっともリュミエールとて期待は寄せていない。
 斬撃はあくまで攻撃の手段。
 相手の判断力は狂わせられれば儲け、程度の考えでしかない。
 翼はある程度ダメージを与えてから攻撃するべきか?
 落ちた後も暴れられたら面倒だ。
(出来るなら落ちる前に脚の筋切っておけばいいか?)
 攻撃を行いながら彼女は次の一手について考える。
 その彼女に向かって、バイデンの戦士が巨獣の骨で作られた巨大な斧を振るう。
 翼竜の方は首を曲げ、壱也へと牙を剥き出しにした。
 重さで引き裂くような斬撃が、無数の牙が、ふたりを傷つける。
 真白き両篭手に雷撃を纏わせながら、悠里も一気に距離を詰めた。
 空間内を満たすように、無数の拳が、蹴りが、放たれる。
 攻撃はバイデンと翼竜だけでなく、その背にある皮袋にも叩き込まれた。
 破壊された袋から零れた岩石が、次々と地表へと落下していく。
「突破などさせません、全て此処で墜とします」
 悠月は創り出した雷を、可能な限り多くの敵を狙い撃てるようにと拡散させた。
 敵も警戒し拡散した為に多数とは行かないが、それでも2組、2体のバイデンと2頭の翼竜を攻撃する事に成功する。
 星龍は的確な射撃で皆と同じ翼竜を攻撃し続け、壱也も雷撃を纏わせた破斬剣を叩きつけた。
「袋が延焼して下さると良いのでありますが……」
 仲間を巻き込まぬようにと注意を払いつつ、ラインハルトは召喚した魔炎を炸裂させる。
 攻撃を集中させつつ、敵の爆撃能力を奪う。
 順調にも思えるが、戦いは始まったばかりだった。
 失敗は、絶対に許されない。

●対峙する者
 自身の役割を果たすべく、リンシードは魔力によって強化された剣を構え、更に距離を詰めた。
 華麗な動きで翼竜の周囲を舞うように移動する少女から、高速の刺突が次々と放たれる。
 巨獣を観察し動きを読みきった上での攻撃は、安定しない飛行状態であっても直撃するのに充分な精度を持っていた。
 もっとも、彼女の対峙した翼竜がまだ爆撃の為の岩石を背負っていた事も大きいと言えるだろう。
 光の飛沫を見た巨獣は幻惑でもされたように主であるバイデンに咆哮を向ける。
 もっとも、バイデンは気にもしない様子でリンシードへと大剣を振りかぶった。
 攻撃を受けながらも少女はハイバランサーを使用して翼竜の背に着地し体勢を立て直す。
 そのままリンシードは、皮袋へと狙いを定めた。
 数十キロ、或いはそれ以上はあろうかという岩石を翼竜の背に固定している、やはり巨獣の皮を使用して造られているらしいそれを……ちらと、下に誰もいない事を確認し、刃で切り裂く。
 皮袋は包んでいた岩石の重みによって更に裂け、破片となって岩石と共に散っていく。
「先ずは厄介な、お前達の足を奪わせて貰う!」
 翼竜同士の間隔が拡がり同時攻撃は難しいと判断した拓真は、敵を目前のバイデンたちに定めた。
 気合と共に爆発させた全身の闘気を二式天舞へと注ぎ込み、圧倒的な破壊の斬撃を翼竜へと叩き込む。
 刃は巨獣を引き裂き大きく傷付けはしたものの、翼竜は怯みもせず鋭い牙で拓真を襲う。
 そして跨ったバイデンも、容赦なく斬撃を繰り出してきた。
 機敏な動きで牙の直撃は避けたものの大剣までは避け切れず、拓真の身体を押し潰すような斬撃が襲う。
 もっとも、怯みもしないのは彼とて同じだ。
 巨大な翼竜と、その騎手であるバイデンと対峙したランディも、危険な戦いを繰り広げていた。
 翼竜に乗ったバイデンが巨大な斧槍を振り回し、凶悪な一撃を彼へと放つ。
 青年を丸呑みにしかねない翼竜の口が開かれ、杭のような牙が続くように襲いかかる。
 攻撃を受け、時に直撃を避けるようにいなしながら、ランディは傷付いたグレイヴディガーを振るい、生み出した嵐で両者を叩きのめした。
 威力も然ることながら、特筆すべきはその技術かもしれない。
 バイデンを、巨大翼竜を襲う烈風は、荒々しくありながらも対象を逃さず捕える、絶妙の精度でコントロールされていたのである。
 翼竜は強烈な風によって体勢を崩し、一時的に動きを封じられる事もあった。
 動けない状態でも滑空することで即座に墜落するような事はなかったが、敵の手数が減少したのは事実である。
 その事は回復を一手に担う形となっていたカルナに取っての幸いだったと言えるかもしれない。
 彼女は自身の役割に差し支えない範囲で、可能な限り高度を含めた立ち位置の変更を行っていた。
 敵に近付き過ぎないようにと注意しつつ、常に仲間全体を範囲に収められるようにと苦心していたのである。
 仲間たちが深く傷付いたと思えば、彼女は躊躇いなく詠唱によって高位存在へと呼び掛け、癒しの息吹を具現化させた。
 だが……彼女の癒しを以てしても、バイデンと巨大翼竜双方からの攻撃が直撃したランディを癒し切る事はできなかったのである。
 癒しの微風、天使の息であれば可能だったが、それでは今度は他の仲間たちへの回復が行えない。
 もちろん双方からの攻撃を受け簡単に倒されるランディではなかったが、強力な敵を単独で抑える彼のリスクの上昇は、作戦失敗の可能性も大きく上昇させる事になる。
 そんな危険を孕みつつ、ランディは、そしてリンシードも拓真も、対峙するバイデンたちを抑える事に成功していた。
 カルナは休むことなく位置を微調整しながら、仲間たちを癒し続ける。
 その間に、戦いは第一の段階を突破した。

●二頭、撃墜
 一体目の翼竜への止めたとなったのは、雷を纏った壱也の斬撃だった。
 翼竜は力を失い、地表へと向きを変えながら速度を上げる。
 その身にバイデンを乗せたまま。
 ラインハルトは目標を次の翼竜へと変え、リュミエールはバイデンを追うように視線を向けた。
 羽ばたきながら降りるのでは、遅い。
 彼女はそのまま、加護によって生えた翼をたたみ、速度をあげた。
 万有引力の法則と同じなのかは分からないが、少なくともラ・ル・カーナには引力や重力と似た何かがあるのは間違いないだろう。
 落下制御があるから一気に自由落下しても問題はない。
 最初はそんなだったリュミエールの思考は、一瞬でその先へと進んだ。
(むしろ落下した分の落下衝撃をそのまま相手にぶつけてやろう)
 余りに危険な結論を表情も変えずに決定すると、彼女はそのままナイフと髪伐を構え微かに目を細める。
 それを追いかけるように、壱也も高度を落とす。
 一方でリンシードは、突出させた平衡感覚と優れた回避能力を揮ってバイデンと翼竜の攻撃に耐えていた。
 直撃を受ければ数撃で、少女の身体は呆気なく限界を迎える事だろう。
 だが、彼女は直撃どころか掠らせる事すら許さぬほどの類稀なる機敏さによって1人と1頭を相手に奮戦していた。
 敵の動きを先読みし、間に合わぬ時は反射神経に頼って……残像を残すほどの高速で翼竜の背の上を移動する。
 攻撃の方はそうはいかなかったものの、結果的にそれは幸いとなった。
 翼竜は幻惑されると、移動せずにその場で羽ばたきながら、或いは旋回するようにしてバイデンへと攻撃する。
 一方で拓真やランディが抑えている翼竜たちは対峙されながらも徐々に前進していた。
 リュミエールが攻撃を仕掛けた翼竜も同じだったが、そちらは早々に撃破されバイデンは地上へと落ちている。
 空中と地上に分かれていた戦場が、更に2つ分かれかけていたのだ。
 前進する2頭と、前進と停止を繰り返す1頭という形で。
 それでも、カルナが移動しながら回復を行う事で空戦の均衡は保たれていた。
 大翼竜の荷を全て破壊したランディは相手の上を取るように縦旋回で移動し、翼竜の進路上に向かって真空波を放つ事で移動を牽制するという戦い方にシフトしている。
 気を練り魔力を取り込む事で消耗を押さえながら、カルナは聖神の息吹で一帯を満たす。
 互いに正面からぶつかり合う戦いに比べれば消耗も少なく、回復は充分に間に合っていた。
 だが、降下して地上で戦う仲間を癒すほどの余裕はなかった。
 地上でバイデンと戦っている2人の姿は確認していたしアクセスファンタズムを通して状況も理解していたが、空中で戦う仲間たちへの回復は何より優先されなければならない。
 しっかりとした防御態勢を取れない空中では、受ける負傷も地上と比べて大きいのだ。
 分断された戦場を出来るだけ早期に統合しなければならない。
 拓真は消耗を厭わず自身の最強の一太刀を翼竜へと放ち、悠里は掌打を直撃させるのと同時に破壊の気を送りこむ事で、翼竜を内側からも攻撃した。
 続くように悠月の雷が、星龍の狙撃が、ライハルトの魔炎が、翼竜を打ちのめす。
 巨獣は猛り狂いバイデンと共に拓真を、悠里を攻撃するが、5人の攻撃を耐え続けることはできなかった。
 二式天舞の斬撃と共に炸裂した破壊のオーラによって、ついに力尽き地上へと落下を開始する。
 それを追いかけるように悠里も地上へと加速を開始した。
 第二段階が終了した状況……だが10人が出発した後方陣地は更に近付いている。
 戦況は決して予断を許さなかった。

●地上の戦い
 始まりは、落下するバイデンを追ってリュミエールが降下を開始した時と考えるべきかもしれない。
 彼女の降下は、攻撃の為の前動作だった訳だから。
 地面への激突直前で翼竜を蹴るようにして跳躍したバイデンが、痛みに表情を歪めながら吐き捨てた後、天を……リベリスタたちを見上げ、降下してくるリュミエールに気付いた。
 驚きに見開かれた両眼はしかしすぐに、歓喜に燃え上がる。
 笑みを浮かべ、バイデンは己の獲物である戦斧を大きく振りかぶった。
 落下速度と彼女自身の重みが加わった斬撃が、彼女本来の斬撃に上乗せして放たれ……バイデンの全身を切り裂き、深々と胴を抉る。
 直後、バイデンの振るった刃が彼女の身を両断する勢いで叩き込まれた。
 吹き飛んだ両者は素早く立ちあがり、再び武器を構え直す。
 与えたダメージで言えば、明らかにリュミエールの方が大きかった。
 だが、耐久力という点で言えばバイデンの方に軍配があがる。
 翼竜が攻撃を受ける間、彼自身は殆んど攻撃を受けていなかったのである。
 序盤に巻き込まれるようにして受けた傷も、その再生能力によってほぼ完治していた。

「うん、やっぱこっちの方がなじむ!」
 そんな2人を追いかけるようにして、壱也が翼を羽ばたかせ着陸する。
「さあ、戦おうバイデン。あなたもこっちの方が、性にあってるでしょっ」
「ああ、その通りだ」
 今日は、死ぬには好い日だ。
 そんな言葉は発さず、だがそんな雰囲気を漂わせて……バイデンは壱也にも凄惨な笑みを向けた。
 滾らせたオーラを雷気へと変換し再びバスタードソードに纏わせると、壱也は距離を詰めながら己の武器をバイデンへと振りかぶる。
 それに続くようにリュミエールも動いた。
 高速で距離を詰め、超低姿勢から足元を狙うかと思えば、ばねの様に跳躍し頭上から攻撃を仕掛けてくる。
 前かと思えば直前で跳躍し、後ろかと思えば背を蹴って、或いは武器を支点に反対に回る。
 すべてがフェイントで同時に全てが攻撃でもある、そんな無数の高速斬撃、刺突に気を取られ過ぎれば……
 どこまでも単純で真っ直ぐで、飾り気のない、壱也の渾身の一撃が襲いかかる。
 それらの攻撃を受け、再生能力を上回るほどの傷を受けながらも、バイデンの戦士の顔には殺気の籠った笑みが浮かび続けていた。
 バイデンだからこそというのもあるだろう。
 とはいえそれは、勝敗には直結しない。
 2対1と考えれば、リベリスタたちの側に分があるように見えるかも知れない。
 だが、壱也はともかくリュミエールの身は限界近くまで傷付いていた。
 ましてふたりともこれまでの戦いで能力を使い続け、消耗しているのである。
 戦いながら両者を観察していたバイデンは、壱也が斬撃を放った反動や攻撃によって傷付きながらも、自身の能力で傷を癒し肉体を再生させるのを確認した。
 そして、攻撃をリュミエールへと集中させる。
 それでもリュミエールは怯むことなく攻撃を続行した。
 バイデンの振るった巨大斧によって限界を超えながらも、運命を手繰り寄せることで踏み止まり、速度を落とすことなく連続攻撃を繰り出し続ける。

 音を立てて別の翼竜が離れた場所へと墜落したのは、そんな時だった。
 着地の瞬間翼竜を蹴って跳び、衝撃を殺すように地面を転がったバイデンが不服そうな声を上げ立ちあがる。
 それを追いかけるようにして落下してきた悠里が、バイデンへと掌打を叩きこんだ。
 破壊の気を送りこむ悠里に対するように、とっさにバイデンが大剣の柄で殴りつける。
 両者はもんどり打ったように倒れたものの、すぐに弾かれたように起き上がり向かい合った。
 それを確認しながら、リュミエールは自身の最高速度で斬撃を繰り出した。
 バイデンを限界ギリギリまで追い詰めた彼女の連続攻撃は、しかし、皮一枚ほどに及ばす……
 耐え切ったバイデンの巨大斧を受け……限界を迎えた体が、憤怒と渇きの荒野に崩れ落ちる。
 その直後、壱也の渾身の一撃がバイデンの命を駆り取った。
 笑みを浮かべたまま、巨獣の骨によって造られた巨大な戦斧を握ったまま、バイデンも荒野にどうと倒れる。
 ひとつの戦いに決着が訪れた。
 だが、すでに別の戦いが始まっている。
 壱也は破斬剣を手に次の戦場へ駆けだした。
 それこそが自分にできる、たったひとつの事だから。

●撃滅へ向けて
「それでは私が参ります」
 悠里からの連絡を受けたラインハルトは、皆にそう告げると降下を開始する。
 彼女が地上へと到着する前にバイデンの一人が倒れ地上の戦いは二対一とはなってはいたが、それが必ずしも有利とはいえない事はこれまでの戦いが物語っていた。
 地上では厳しい戦いが続いているが、空中でも危険な、際どい状況が続いていた。
 大翼竜を駆るバイデンが、一気にリベリスタたちを突破して陣地に向かおうとしたのである。
 ランディが突進し烈風陣で薙ぎ払う事で敵の動きは阻止されたが、それによって戦いは再び激しい消耗戦に移行していた。
 リンシードが抑えている翼竜との距離も、更に広がる形になってしまっている。
 後方陣地も既に見えていた。
 このまま少しずつでも進まれれば、数分と掛からず敵は陣地上空まで到達してしまう。
 巨大翼竜を押さえるランディと回復に専念するカルナ、そして途中から力を消耗した皆へと自身の力を分け与える悠月の3人以外、上空で戦う全員の攻撃が、一体の翼竜に集中する。
 リンシードからの攻撃を受け続けていた巨獣は限界に近付いたものの、それでも墜落する事無く少女へと攻撃を繰り返した。
 グラゴルンと名乗ったバイデンの戦士も、周囲に複数のリベリスタたちを確認しながら臆することなくリンシードへと大剣を振るう。
 だが、翼竜の攻撃を少女は機敏に回避し、バイデンの斬撃に対しても身を引くことで直撃を避けた。
 更に続いた総攻撃によって、ついに巨獣の生命力も尽きる。
 急所を貫く精密な射撃が、闘気を爆発させた斬撃が、超高速の刺突が、巨獣の動きを完全に止め……最後の翼竜も地表へと加速し始めた。
 それを最後まで確認せず、皆がひとつの方角へと視線を向ける。
 最後の、そして最も強大な敵が残っているのだ。
 ここで悠月が、地上班の消耗回復の為にと高度を下げた。
 そしてカルナ以外の全員が、巨大な翼竜へと攻撃を開始する。
 消耗を厭わぬ全力攻撃を受けて傷付きながらも、翼竜はバイデンに操られ、じりじりと前進する。
 それを阻止すべくリンシードと拓真が刃を振るい、ランディが烈風を叩きつけ、星龍が急所を狙い撃つ。
 バイデンが斧槍を振るい、翼竜が頭から体当たりする。
 それぞれの全力を正面からぶつけあう戦いが続き……翼竜はその巨大な身体をぐらつかせた。
 バイデンに操られ、滑空しながら少しずつ高度を落とし始める。
 更に続いた全員の総攻撃によって翼を広げたまま動きを鈍らせ、高度を下げていく。
 その背から武器を手にバイデンが跳躍するのをランディは確認した。
 グレイヴディガーを叩き込み完全に絶命しているのを確認すると、即座に彼は身を翻す。
 逡巡する者もいたが、こうなるとバイデンを追撃するしかなかった。
 巨大な翼竜はそのまま……滑空するようにして。
 アークの後方陣地に墜落し、動きを止めた。


●戦士の生と、死
「此処から先は通さないよ!」
 悠里は演武のような無駄のない動きで、雷を纏わせた篭手を、蹴りをバイデンへと叩きこむ。
 同じバイデンへと壱也も雷気を纏わせたバスタードソードの斬撃を見舞った。
 突破しようとすればオーラを雷気には変換せずエネルギーのまま武器に籠め、一閃する。
 ふたりが猛攻を仕掛けるその間、ラインハルトはもう一体のバイデンを足止めしていた。
 バイデンの実力は彼女を上回っている。
 守りを固めていても追い詰められていくのを理解しつつ、ラインハルトは冷静に自分と味方の状況を確認し、一瞬の判断で照明弾を使用した。
「増援を呼びました。まだ続けるでありますか」
 そう言われれば、バイデンの戦士は笑みを浮かべる。
「ちょうどいい。なら、お前を倒して次はそいつらだ」
 更に殺気を高め、巨獣の牙で造られた大剣を振るう。
 両手持ちの大盾でその攻撃を懸命に防ぎながら、ラインハルトは問いかけた。
「戦士とは戦いの内に生きる者。決して、死ぬ為に戦う者では無いのではありませんか?」
「死ぬ為ではない」
 だが、死ぬまで戦う。
「戦わぬ戦士は戦士ではない!」
 そう言い放って、バイデンは途切れる事のない重い斬撃を繰り返す。
 敵わぬなどと言うのは、とうに分かりきっている。
 だからこそ、ラインハルトは只管守りを固め、唯、時を稼いだ。
 血を吐いても、骨が折れても。
 意志の力で運命の加護を手繰り寄せ、立ち上がる。
 その間に、悠里と壱也と対峙していたバイデン戦士が地に倒れる。
 これで、三対一……だが、リベリスタ側にも余裕はなかった。
 悠里は消耗し切り、ラインハルトも満身創痍。
 再生能力を持つ壱也もバイデンからの攻撃を完全に回復する事は不可能だったし、能力を行使する力の方も消耗限界が近付いていた。
 悠里は壱式迅雷を諦め、ヴァンパイアとしての能力を使用して消耗の軽減を試みる。
 その状態で降下し駆け付けた悠月は、即座に悠里に、続いて壱也にも、意識を同調させる事で自身の力を分け与えた。
 3人は再び全力での攻撃を再開する。
 決して余裕はなかったが、空で戦う者たちの消耗もギリギリだった。
 悠月は翼を羽ばたかせ、再び高度を上げる。
 3人の攻撃を受けながらバイデンも大剣を振るい、リベリスタたちを傷付ける。
 強烈な斬撃を受けて揺らいだ壱也は、運命の加護でそれを耐え切るとバスタードソードを振りかぶった。
「この心が折れない限り、何度だって立ってやる!」
 雷を纏った刃がバイデンを激しく打ち据える。
 そんな時だった。
 大きな音が響き、地面が揺れる。
 素早く距離を取り、能力を利用して一瞬だけ其方を見た悠里の瞳に……後方陣地へと墜落した巨大翼竜の姿が映った。
 壱也の耳には、皆やバイデンたちの声の後、何かが吹き飛ばされたり薙ぎ倒される音に混じって……聞き覚えのある、少女の声が聞こえた……ような気がした。
 長く感じられる一瞬の、のち……

「ここは僕が引き受けるから」
 マルガレーテちゃんの事、お願いしても良いかな?
 悠里の言葉にふたりは一瞬、顔を見合わせた。
 迷う時間は、無かった。
「御武運、お祈りいたします!」
「……うん! それじゃ!」
 また、後で。
 頷いて二人を見送ると、悠里は向かい合うバイデンへと語りかけた。
「二人減って、不足かも知れないけど……侮るなら、後悔する事になる」
「戦士イゾルゲと戦い生き延びた者との戦いに、不足等あるか!」
 怒号に微かに苦笑すると、悠里は表情を引き締めた。
「戦士、設楽悠里」
「戦士、グラゴルン」
 命と力、すべてを懸けて。容赦なく、躊躇なく。
 牙の大剣と一対の篭手が……互いの命を奪う為に、ぶつかりあった。


●死闘の辿り着く場所
 着地したバイデンを視界に捉えながら、拓真は二式天舞を構えた。
 速力を維持しつつ降下しながら、全身の闘気を爆発させる。
 上空から迫る彼を察知したバイデンも、巨獣の骨と牙を利用して造られたハルバードを構えた。
「残念だが、此処は通さん!」
「やってみせるがいい! ただし、力尽くでな!」
 振るわれた刃はバイデンを切り裂きながらその箇所を破壊し、バイデンの振るった斧槍が拓真の体を引き裂き、抉る。
 カルナや星龍も降下し、リンシードも距離を詰めた。
「俺達の世界は弱っちい奴等も多いが既にそいつらですら自分達の世界を滅ぼしかねない力を持っている」
 傷付いたグレイヴディガーを振るいながら、ランディはバイデンへと語りかけた。
「だから強い奴ってのは力に責任をもって生きる 力の使い方を見失わない為に、それを正す為にだ」
 刃がぶつかり合う距離で、鋭い斬撃により真空波を生じさせ切りつける。
「何が言いたい? リベリスタよ!」
「戦士ってのは戦いに責を持った者の称号だ、お前はその力で何を成すよ!」
「戦いに責を持つとお前は言ったな! ならば戦い続ける事ことが戦士の成すべき責ではないのか?」
 斧槍でランディを薙ぎ払いながら、バイデンの戦士は応えた。
「戦いによって更なる高みを目指す、更なる強さを目指す。戦い続け、その戦いによって、生と死の狭間を越え力を手に入れる。つかみ損ねれば死ぬ。それこそが戦士の責ではないのか?」
 何を求め、何を果たすのか。
 牙と骨で切り拓いた、血に塗れた道には……一欠片の偽りすら、ない。
 すべてが残酷なまでの現実で、真実。
 それこそがゴルベリウスと呼ばれた戦士の矜持なのだろうか?
「興醒めさせてくれるな、リベリスタっ!!!」
 繰り出されたハルバードが青年を貫く。
 内臓に達しかけた傷を歯を食いしばり堪えると、ランディはグレイヴディガーを握る腕に力を籠めた。
「俺にはまだ果たす責がある、負けるかよ」
 戦斧によって巻き起こされた烈風が、バイデンの戦士へと襲いかかる。
 直撃によって動きを鈍らせたバイデンを、ワン・オブ・サウザンドから放たれた銃弾が貫いた。
 続くようにリンシードが近距離から流れるような無駄のない動きで高速の刺突を連撃で繰り出す。
 耐え切ったバイデンが、振りかぶった斧槍を叩きつける。
 翼竜の上で戦った時と比べると、その動きは機敏で力強かった。
 だが、空で本来の力を発揮できなかったのはリベリスタたちとて同じである。
 何より今は、ひとつの懸念が払拭されていた。
 自分たちが倒されない限り、後方陣地を狙われる事はない。
 翼竜の墜落による不安は、皆の胸にあった。
 だからこそ、これ以上の被害は許されない。
 永遠に続くかのような激しい戦いは……だが実際は、刹那と呼ぶほどに短い時間で決着を見た。
 ただ、相手を倒すために全力を尽くし、力尽きた一方……バイデンの戦士が、武器を握りしめたまま憤怒と渇きの荒野に横たわる。

 少なくとも、此の場での戦いは幕を閉じたのだ。
 だが、それはリベリスタたちに安堵を直ちにもたらしはしなかった。
 マルガレーテちゃんは必ず守る。
 絶対に傷つけさせない!
(……そう誓ったのに)
 壱也は翼竜の墜落した箇所に辿り着くと、聴覚を研ぎ澄ました状態のまま周囲を見回した。
 ラインハルトも名を呼びながらフォーチュナの姿を探す。
 倒れている少女の姿を見つけた壱也は、流れる血に一瞬凍りつくような思いを味わったものの……聞こえてくる鼓動と吐息に、胸を撫で下ろした。
 駆け寄ってきたラインハルトに説明すれば、彼女も安堵の息をこぼす。
 アクセスファンタズムを通して連絡を入れ……息を吐いた直後、忘れていた傷の痛みがふたりを襲う。
 けれど同時に、ようやく……実感のようなものが、湧いてきた。

 何かに区切りが付いたかといえば、そんな事はないのかも知れない。
 それでも、ひとつの戦いは終ったのだ。
 そして、ひとりのフォーチュナ……仲間の命を、守る事もできた。
(皆が到着したら、もっと安全な場所に運ばないと)
 そんなことを思いながら、ふたりは少しだけ肩の力を抜いて……こみあげてきた何かを、かみしめた。


■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
依頼の方、お疲れさまでした。
すべてはリプレイの方に、全力で籠めさせて頂きました。
ですので此場では一言、御礼のみに留めさせて頂こうと思います。

御参加、ありがとうございました。