● 橋頭堡の防衛は、バイデンの猛攻によりボトム・チャンネルへの撤退という結果に終わった。 しかし、討議の結果は――取って返しての再進撃。 比較的優位である防衛戦での敗北。切り札のない状況での反撃。 二度目は勝てるという保障はない。不利であるとさえも言える。 それでも、と望むリベリスタに、時村沙織は笑った。 ならば、有利にする為の材料を加えよう。 万華鏡なしでも高精度の予知を可能とするフォーチュナを、護衛がなくとも己で自分の身を守れる戦闘力を持つフォーチュナを――即ち、『塔の魔女』アシュレイを。 本来ならばこの油断ならない相手には作るべきではない『借り』を代償として、沙織はリベリスタの背を後押しした。 そしてまた、その背を支えるのは、一人や二人ではなく――。 ● 「あは、すいません来ちゃいました。皆さんのお口の恋人断頭台ギロチンです」 ブリーフィングルームと同じ様に笑い、『スピーカー内臓』断頭台・ギロチン(nBNE000215)は無味乾燥な荒野に立ちひらり手を上げる。 「ほら、嫌じゃないですか待ってるだけって。戦闘での足手まといは重々承知、つまりこれはぼくの我侭で自己責任です。万華鏡がない以上、ぼくの力は本当に微力ではありますが……皆さんが横っ面を殴る手助けくらいはね」 リベリスタによるラ・ル・カーナ再進撃の報に、顔を見合わせたフォーチュナは少なくない。不確定に過ぎる異世界、例え『塔の魔女』が幾らハイスペックだとしても、リベリスタ全てをカバーする事は難しい。 戦線の後衛に位置する前提とは言え、『防衛』などという考えを持たないバイデン相手の戦いに戦闘能力を持たないフォーチュナが出る。明らかな危険ではあるが、それでも、と願うフォーチュナの無理を、沙織は止めはすれど咎めなかった。 故に。彼を含め、複数名のフォーチュナが志願しこの場にいる。 その一人、傍らに座す『老兵』陽立・逆貫(nBNE000208)に頷いて、ギロチンは口を開いた。 「早速ですが、ぼくと陽立さんが見たものをお伝えします。その性質は例えるならば……カメレオンですかね。周囲の風景と同化し己の身を隠す巨獣と、それに乗ったバイデンの部隊です」 荒野に角の映えたトカゲのようなものを描きながら、フォーチュナは持った枯れ枝を振る。 「言うならば光学迷彩。この巨獣が消すのは自身だけではありません。騎乗しているバイデンの姿も同様であった事から、現実のカメレオンの様に表皮の色を変化させるのではなく、一種のスキルのようなものだと推測されます。なのでペンキやカラーボール、布などで位置を補足しようとしても、それごと同化させてしまうかと」 立てられる枝。 「ですが、完全に見えない訳ではありません。射撃が届く距離からでも朧に輪郭は判別できますし、気配も音も消せる訳ではないです。……まあ、それはこの部隊のみを相手にする時の話で、他のバイデンとの戦闘中にこの部隊が割り込んできた時の危険性は言うまでもないでしょう」 リベリスタは視界だけに頼っている訳ではないにしても、咄嗟の把握が難しい相手に不利は否めない。 だから、とギロチンは話を続ける。 「断片的な予知を合わせた結果、進軍ルートが凡そですが繋がりました。その一箇所で、この部隊による奇襲を阻止して頂きます」 自分達は『見えない』と思っているバイデン達が別の戦闘場所へと仕掛ける直前。 そちらに意識を集中させている瞬間。 攻撃の好機を見定めているその時が、絶好のチャンスだとフォーチュナは告げる。 「数ではこちらが劣ります。真っ向戦闘となれば、その特性上不利も多い。ですから、混乱している間にどれだけの戦力を殺げるかが重要です」 求められるのは、速やかなる撃退。 「……ああ、簡単に言いましたが、実際に簡単だとは思っていません。この巨獣は厄介で、バイデンは強力です。予知の情報も万華鏡には遠く及ばない。ですが、『見えないものを見て、それを防ぐ』事に関しては、ぼくらに利がある。そうでしょう?」 ギロチンは枝を落とし、一礼する。 「ぼくからお伝えできる事は以上です。さあ、行きましょうか」 ● 荒野を駆ける、陽炎の如く揺れるもの。 その一つの上で、カロシスは口を開いた。 「疾く疾く往け。我らが命は戦である。戦が我らが生である」 巨獣と同化し、姿を消しながら、彼はその顔を笑みに変える。 「正面から姿を現し、真っ向挑むだけが戦ではなし――。期待するぞ、戦士よ」 小細工を嫌うバイデンの戦だからこそ目立たない、移動の音、敵意と高揚。 カロシスらにとって重要なのは、『姿を消す』事それ自体ではない。 戦闘が始まる前ならいざ知らず、戦闘中の不意の攻撃に敵がただうろたえるだけの凡愚であればそれまでの事、というだけだ。 カロシスはそう考えるが故に、この先に待ち受ける戦が楽しみでならない。 プリンスやイザークに、多大なる興味を抱かせる程の戦士。 果たして彼らは、どの様な方法で自身らを迎え撃つのかと。 期待に胸を躍らせて、彼は得物の柄を握った。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:黒歌鳥 | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年08月21日(火)23:43 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 砂が舞う。見渡す限りの荒野。 ラ・ル・カーナという異世界で、逆貫の用意した迷彩シートの内に身を潜めながらリベリスタはその時を待つ。 奇襲部隊への奇襲。フォーチュナ故に察知できたそれに感謝しながら、『騎士の末裔』ユーディス・エーレンフェルト(BNE003247)は目を細めた。 それだけと向き合うのならば対策も練れるが、別の部隊と戦っている時ならば確かに大損害……いや、もっと酷い壊滅状態に陥る事だってあるかも知れない。 ならば、それを易々と行わせてやる理由などありはしないのだ。 同様の事を、『ディフェンシブハーフ』エルヴィン・ガーネット(BNE002792)も考える。 一手先を読み、戦局をも変える力を持った予知能力者。戦闘の為の力ではなくとも、それは確かにアークの『力』であるのだと再認識する。 戦う力を持った自分達と、それを活用する術を知っているフォーチュナ。 揃えば、聖櫃であり箱舟であるアークは決して負けやしない。 すう、と乾いた空気を一息。 肌を刺激するような気さえするそれは、戦場に慣れた『百の獣』朱鷺島・雷音(BNE000003)でさえも心地良いものではない。いや、いっそ怖いと言ってもいいだろう。 戦う手段を持ち、抗うだけの力を持つ彼女でさえそうなのだから、いざという時に無力であるフォーチュナがこの地で恐れを抱かない訳もない。一枚隔てた『死』は、彼らにとっては雷音が感じるよりも更に薄くそこに存在しているはずだ。 彼らが恐れと不利益を乗り越えた理由は、この地へと再進撃を決めたリベリスタの助けになりたい、という至極単純なものに過ぎない。 けれど、だからこそ、彼らを守り勝利する事で報いねばならないのだ。 シートの下に、幾つもの決意を込めながら、リベリスタはその時を待つ。 息を殺して気配を殺して、どれだけ待ったか。 時間にしたら然程でもないのだろう。それでも気配を殺し続ける『紅玉の白鷲』蘭・羽音(BNE001477)や、熱を捉えるべく目を皿のようにして果てを見続ける『影なる刃』黒部 幸成(BNE002032)にとっては決して短くはなかったかも知れない。 だが、待ち合わせの時は訪れる。 始めに捉えたのは、『紅蓮の意思』焔 優希(BNE002561)の耳だった。 『……何か、違う音が』 遠くで聞こえる別の戦場の音とは違う。あれは色々な音が交じり合っている。今聞こえているのは、規則正しい足音だ。ほぼ同時に、幸成と『食堂の看板娘』衛守 凪沙(BNE001545)が頷いた。 『カロシスはどれか分かるか?』 幻想纏いで彼らに語りかけた『やる気のない男』上沢 翔太(BNE000943)に、声が返る。 『少々分かり辛くはあるが……一つだけ熱源が少ない。恐らくそこで御座ろう』 『三角形になってるね。多分真ん中にいるのがそうだよ』 囁きはすぐにリベリスタに共有され、各々が気を引き締めた。その時に向けて、絶好のチャンスに向けて。 近づいてくるのが、もはや熱感知を持たぬ者にも分かる。 『後三十秒』 凪沙のカウントが流れる。 朧な影。 夏の日のアスファルト、リベリスタの済む世界でよく見られるような、揺らぐ空気。 『後十秒』 それに似た奇妙な揺らぎが、荒野の一角をぐねぐねと乱していた。 「行くぞ」 雷音の声は、幻想纏い越しではなく直に耳を打つ音量で、放たれる。 ● 「……!?」 声を漏らしこそはしなかったものの、その出現は完全にバイデン達の不意を突いた。 それは当たり前であろう。彼らは『見えない』はずのものであったのだから。 左翼に位置する幻影竜に乗ったバイデンを、その熱を見る視界で捉えながら幸成の気糸が縛り上げた。 「なっ!」 視界に捉えられぬはずの己に絡む糸に、バイデンが驚愕の声を上げる。 組み付いた凪沙が、優希に手を振って場所を示す。彼の拳が打つのは、バイデンではなく幻影竜。 優希にその身ははっきりとは見えずとも、手応えが視覚以上にその存在を伝えてきた。 間髪入れず、振り返りもせず彼は叫ぶ。 「蘭、ぶちかませ!」 「了解っ……!」 唸る刃の音、羽音が振りかざしたラディカル・エンジンを、恐らくバイデンは避けようとしたのだろう。だが、組み付いた凪沙がその邪魔をする。 「吹っ飛んじゃえっ……!」 鳥の足で地を蹴った彼女は、渾身の力を込めてその巨躯を叩き落さんと得物を振り抜いた。 「くっ!?」 勢いに耐え切れず、幻影竜の背から落ちたバイデンが斧を抜く。 無様に転がったままではなく受身を取った辺りが流石バイデンと言った所か。 だが、そのまま攻撃に移るのを翔太が許さない。 「そこだな!」 叩き落したバイデンに向けて、閃く刃が無数に襲い掛かる。通常時ならばまだ何らかの反応もできたかも知れない。だが、不意打ちに重ねて練られた狙いはそれを許さなかった。 「……っ!」 冷静さを失い振り下ろされた斧を難なくかわし、ユーディスは翔太とちらりと目線を合わせる。 幻影竜は彼ら二人を合わせたよりも尚大きい。 見えているならばその先に回り込んで防ぎ切る事も可能だったかも知れないが、己より巨大な、しかもはっきり見える訳でもない敵を一人で押さえるには限度がある。 頼む、と翔太の唇が軽く動いたのを確認し、ユーディスは彼が抑える一匹の前に立ちはだかった。 掲げた手が呼んだのは十字の光。一瞬だけ影を地に映し出したそれは、ほぼ零距離で幻影竜を打つ。 「――バイデンの戦士達よ、私達と剣を交えずして此処を通る事は許しません」 剣を向けて凛と告げられたそれに、僅かだが空気がどよめいた。 この戦士達は、何らかの手段を持って己らの進攻を悟っていた――。 その驚愕から立ち直るよりも早く、二人目のバイデンが吹き飛ばされていた。 浮き足立ったバイデンの中で、最も早く冷静を取り戻したのは矢張り司令官であるカロシスである。 相手の戦力を見定める彼の前に、一人が立った。 「上手く隠れたつもりでは御座ろうが、自分にはわかるので御座るよ」 貫くその目は、明らかにカロシスを正確に捉え、見ている。 笑みが零れた。ああ、面白い。 「なるほど。その様子だ」 黒の青年は足元の影を揺らがせて、告げる。 「命がけの闘いの相手の顔がわからぬままというのは些か忍びないで御座るが……ともあれお相手仕る」 「……ほう?」 ああ、彼らは『見えて』いる訳ではないのか。どうやらこの獣の能力を無効化しているという訳ではなさそうだ。彼らの幾人かは仲間に口で指で場所を示している。傍らに立てば確かに輪郭程度は確認できようが、あれだけ確信を持って指示できるというのは目の前の青年も含め、何らかの力を持っているのだろう。 愉快だ。 それで己たちの襲撃をも悟ったというのか。 ますます愉快だ。 「消えて見えない状況でも此方にはよく見えるぞ」 後方で指を立てて部下へと語り掛けている小柄な影は、凍る水滴を降らせながらそう告げる。 「この状況で消えていても仕方あるまい、ボクらを倒さなければこの先にはいけないのだ!」 故に姿を現して見せろと、そう吼えるあれは恐らく目の前の青年ほどには把握していない。 でなければ彼らを臆病と挑発し、己に有利に持っていかせる必要はないのだから。 岩を使い影を使い巨獣を使い、襲撃を仕掛けるのの何が罪であるというのか。 バイデンは戦のみに生きる種族ではあるが、それは何も考えない事と同義ではない。 時に地中から空中から奇襲を掛け、後方部隊が肝と見ればそこを狙うだけの頭もある。 どこまでを己の力と見るか、それは個々人の判断が分かれども――少なくともカロシスやゲルウォード、彼らに付き従う者は、己の手で捕まえた巨獣を操るのも力であると断ずる。 見えぬと叫んで罵倒するだけならば、そもそも戦う価値もない相手だ。 「姿を消しての奇襲。ここは戦場だ、卑怯とか言う気もねぇよ」 カロシスの思考を読んだかのように、別の一人が告げた。 「その上で、あえて言うぜ。降りてきて真っ向勝負しないか?」 鍛えてはあるが、それでもバイデンに比べればいっそ華奢にも映るその体で、赤の瞳を輝かせ不敵に笑う。 微妙に距離を開けたその者の戦の手段は分からねど自信は相応にあるらしい。 だが、未だ乗ってやるには足りない。 「ならば我らが勝負する足る、と証明してみせよ。『目無し』は己の腕で示したぞ」 視界に頼らぬ事で己の力を引き上げた、戦狂いの仲間を挙げて――彼は槍を振り上げた。 ● リベリスタが序盤に得たイニシアチブは大きかった。 難点があったとすれば、幻影竜が思った以上に厄介であった事だろう。 司令塔であるバイデンを倒せば無力化が図れるだろう、というリベリスタの読みは大きく間違ってはいなかったのだが、その間の攻撃は決して生半可なものではなかったのだ。 その巨体から繰り出される攻撃は、一撃で大きく体力を削いでいく。 「羽音ちゃん、右っ……!?」 太い尾を振り回せば、羽音が、凪沙がその身を大きく弾き飛ばされる、嫌な予感を感じて身を逸らす間もなく、横合いから突っ込んできた幻影竜の一匹の角が腹を腕を抉った。 先程打たれた足も酷く痛む。確かに立ち上がったはずの凪沙は、視界が揺らいで映すのが空だけになったのを不思議な感覚で眺めていた。 背を打つ痛みさえも遠く、限界を超えた体が急停止する。 「かはっ……」 見える仲間の指示を受けてはいても、接近した瞬間の可視不可視の差は大きい。 どこまで避けるべきかの判断が付かず、マトモに食らう回数を重ねていく。 主を落とされた恨み――という訳ではないだろうが、鞠のように間を弾き飛ばされた羽音が爪で地面を掻いた。動くならば、動かなくとも、まだ戦いたい、戦える、戦わないと。 けれど既に一度運命を削った彼女の体は、鉛よりも尚重く、動かない。二度目の恩寵は訪れない。 「おい優希、倒れんなよ」 「翔太こそな!」 減った分を埋めるかの如く苛烈な拳を繰り出す優希の傍らに立つ翔太も、幾度抉られたか、叩き伏せられたか分からない。 巨獣とバイデン、火力に優れた彼らのコンボは容赦なく体力を削っていく。 翔太の回避力には目を見張るものがあるが――やはり、それでも全てを防ぎきる訳にはいかないのだ。 まだ行けるか、というほんの一瞬の判断が体力を削り、運命を削る。 「面白いな、戦士よ!」 「いや、俺は戦士なんて存在じゃねぇし」 獰猛に笑うバイデンに、翔太は気のない調子で返した。その声が多少血に塗れていても、いつも通りに。 「俺はリベリスタだ。本物の戦士なんて数が限られてるんだよ」 「『リベリスタ』は戦士ではないと言うか」 「……ああ、説明がめんどくせぇや。戦士じゃねぇが――リベリスタの意味なら、ちゃんと教えてやるよ」 すう、と細められた目と同時に、刃が煌く。 その刃がバイデンの一人を貫いた直後――翔太は己が抑えていた幻影竜の尾によって地に伏せた。 「翔太!」 戦友の体が地に沈むのをゆっくりとした感覚で捉えながら、優希が叫ぶ。 だが、その注意は一瞬にして敵に向ける闘志へと変換され、拳へと乗せて幻影竜へ。 倒れた幻影竜から確認する限り、蛇のような鱗があるのだろうか。 奇妙なその生き物の厚い皮を抜け、拳を叩き付けた。 「……俺の壁は抜けられないと思え!」 残る数人のバイデンに向け、赤の少年は吼える。 「未だ、通すとは言ってませんよ?」 その身に注意を引き付け、優希だけにその攻撃が向かないようにしながらユーディスが構えた。 エルヴィンの回復が少なかった訳ではない。ただ、バイデンと敵の勢いがそれに勝っただけだ。 「暴れるのはそこまでにするで御座るよ」 幸成の糸が、カロシスの幻影竜の足を絡めその場に留める。仲間の攻撃援護へとその力を傾けていた彼の動きがなければ、幻影竜による被害はこれだけに留まらなかっただろう。 だが、彼自身とて無傷で済んでいる訳ではない。 「闘う、と言った割には護りに徹しているように思えるが?」 「っ!」 見えていても、カロシスの槍の一撃は鋭く彼の素早さを持ってしても完全なる回避が叶わない。 「我の前に立ちはだかったのだ。見せよ、その刃を、力を!」 少し苛立った口調の司令官の槍は、深く深く幸成の胸を抉る。 確かに貫いたその感覚に、拍子抜けした様にカロシスは得物を引き掛けて、その目を見開いた。 「……ここを一歩も抜かせぬ事。それが自分の闘いに御座る!」 致命傷になりえる傷だったはずだ。外の世界の者の急所がどこかは知らぬが、体の中心を貫かれて無事な高等生物などそういない。なのに、この青年は、自分の槍に貫かれながらその穂先を握り未だ闘志に満ちた目で睨み付けて来る。 ああ。 なんてことだ。 なんて面白いのだろう! 「宜しい」 幸成の耳に、何かが落ちるような音が届くのと目の前に、巨躯のバイデンが現れるのは同時であった。 自身で幻影竜を下りたカロシスは、改めてその穂先を幸成に向ける。 「ならば我との闘いに勝ってみせよ、『リベリスタ』!」 彼の次ぐ攻撃の激しさに応える様に――氷の雨が降った。 ● 音を失う。 ほんの一瞬、意識が揺らぐ。 幸成の傷を癒し続けたエルヴィンが、その肩を叩いた。 拳を握り立ち尽くす優希に、雷音が微笑んで癒しを掛けた。 今立っているのは、五人。全てがリベリスタ。 ああ。でもまだだ。 戦う音は、聞こえてくる。 仲間の声が、叫びが、リベリスタを休ませはしない。 「……戦はまだ終わっては御座らん」 幸成が己の獲物を確認した。指先でなぞり、その感触を確かめて握り直す。 「はは、戻ってきたらすぐに治すからよ、ちょっとだけ待っててくれよな」 立ち上がれない仲間に、エルヴィンが笑いかける。拳が掌を打つ爽快な音が、荒野に響いた。 「何、すぐに帰ってくるのだ」 安心しろ、と雷音が笑む。ここで生き残って、あちらで倒れる等という事はしないと。 「怪我人は寝ておけ。……心配なら己のをしろ」 僅かな気遣いを含め、優希が拳を握り締める。倒れた戦友の分も背負う様に。 「未だ私達の剣は折れていなければ――いざ、参りましょう」 頬の埃を手の甲で拭い、ユーディスが一歩踏み出す。 頷き合った彼らは、傷付いた体で、血で汚れた顔で、それでも決して怯まぬ目付きで、駆け出した。 もう一方で戦う、仲間の元へと。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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