● ――何故、そんなに強いの? ギルギよ、それはバイデンが強者だからだ。 あるバイデンが、巨獣の骨を棒に括りつけながらそう語った。 ●再戦 戦略司令室。ここで一つの結論がまとまろうとしていた。 先の敗戦によってボトム・チャンネルにまで撤退したリベリスタ達は、傷を癒しつつこれからの方針を協議していた。 体制が整い次第リベンジに向かうか、引き込んで迎え撃つか、はたまた見捨てて専念するか……。 「猪武者宜しく突撃すんのは懸命に戦った連中としても嬉しくは無いだろ」 「このまま再突撃して、勝てる目が見えないのであります」 ボトム・チャンネルに誘い込み、地の利を生かしたカウンター戦術という提案もあった。それが決して悪いとは言わず、むしろ疲弊した現状にとって有効だったかもしれない。 「捕虜の皆を……友達を見捨てるなんてアタシにはできないよ」 それでも、人質に取られたリベリスタ8名の安否はこの場において大きな決定要因となったのは間違いない。 知人や親友、様々な感情を以て捕虜となった者たちを心配するリベリスタ。彼らはこうして悩む間にも異邦の地で苦渋を強いられている。 「魅力的な環境であるラ・ル・カーナを捨てるだけの利点に対し見合わない」 「主導権を相手に渡すことにもなる、吉とは言えんな」 アークの役目は世界を守ること。 されど、守ることを取れば彼らを見捨てることにもなる。 その、あまりに大きな選択を迫られ――ようやくリベリスタ達は決意を固める。 「……お前達って、本当にお前達だよな」 時村沙織は笑った。呆れながらも笑って、彼らの意思を尊重した。 結局どこまで行っても、仲間の命を見捨てることなどできなかった。 再び返り討ちに遭おうと、彼らは再び戦うことを望む。 敗戦の場において赤き蛮族との再戦。 先の防衛で果たせなかった雪辱を果たす戦いとなるだろう。 ●未来を掴むために 幾人のフォーチュナが戦地に行きたいと志願し、今も揉めている。 ラ・ル・カーナの地においては、フォーチュナの持つ力は大きく減衰する。そのもっともたる原因は『万華鏡』を使えないことにある。 これまで彼らが異邦の地に向かわせてもらえなかった理由もそこにある。最も危険に晒してはならない存在を送り出すほど愚かしいことはない。 だが、今回に至っては『追加戦力』としてフォーチュナの投入もせざるを得ない状況である。その為のリスクヘッジも当然ながら考えている。 『戦闘力のあるフォーチュナがいたならば』。そしてそのフォーチュナが『万華鏡に頼らずとも高精度の予知を可能とするならば』――全ての問題はクリアされる。 そのリスクヘッジを『塔の魔女』アシュレイ・ヘーゼル・ブラックモア (nBNE001000)が一手に引き受けることになる。 最も借りを作りたくない相手へ助力を求めるまでにアークの状況は逼迫している。 そして、アシュレイもまた『借り』を対価にラ・ル・カーナでの作戦従事を了承する。Win-Winとは到底言いがたいが、今はこうする他にない。 ――そんなギリギリな状況下で、幾人のフォーチュナが引っ込んでいろと言われて大人しくしている訳がなかった。 アシュレイに協力を仰ぎ、貴重なフォーチュナの戦地投入を決断した『戦略司令室長』時村沙織 (nBNE000500)は自嘲めいた笑みを浮かべる他になく、止めることさえしない。 ただ一言、「死ぬなよ」と言って彼らを送り出す他になかった。 フォーチュナ達は己が『微力』を振り絞り、危険も厭わずに異世界の地を踏みしめる。 剣を持たないリベリスタ達の戦い、そして剣持つリベリスタ達の戦い。 憤怒と嘆きの荒野を血に染める復讐戦の幕は、まさに今、切って落とされようとしている。 ●強者、荒ぶる。 バイデンも異邦者の再襲撃に備え、動きが慌ただしくなる。 「奴らが来る」 バイデンにとって落とした橋頭堡は単なる休息の場でしか無い。 守ろうという気もなければ、捨て置こうという気でもない。使えるものは使って向かい撃つ、それだけのシロモノだ。 バイデンの一雄、ガルバルガは巨獣の骨でできた禍々しい大剣に改良を加えている。 それが今、完成しようとしていた。 「これでアイツらを倒すの?」 「そうだギルギよ。奴らは強く、そして命を奪い合うに値する」 傍で見守るバイデン『ギルギ』の前で心臓を叩き、腕を伸ばす。 『心臓を差し出せ』という意味と認識したこのジェスチャーは、ある異邦人が彼に対して行ったものだが、そいつも今や牢の中だ。 負けても尚戦うのは、仲間を取り返す為なのか。それともバイデンと同じく、勝利を求めたいが為か。 いずれにせよ、向かうのなら叩き潰すまで。 「ついて来いギルギ。あとは待っていろ」 武器を掲げ、数人のバイデンに加えてギルギもついていく。 彼、ギルギはガルバルガを慕うバイデンの一人。実力こそはまだ低いが、叩けば伸びるからこそ、この戦地に送り出すにふさわしい。そうガルバルガは踏んだのだ。 勝たねば、攻めねばバイデンにあらず。 ガルバルバは常に勝ち続け、その上にはさらなる強者が。 下には、虐げるべき弱者が存在する事をガルバルガは知っている。 「逃げることは許さない」 向かうべき相手は弱者だ。一度蹂躙し、逃げ戻った相手に過ぎない。 しかし、それでも強かった。故に――。 「全員、この荒野で死ね!!」 彼らは死兵となって戦う。死に等しい恥を負わない為にも。 この戦いは心臓を奪い合う。命を、そして誇りをかけた者達の戦い。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:カッツェ | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 2人 |
■シナリオ終了日時 2012年08月20日(月)23:04 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■サポート参加者 2人■ | |||||
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●立ちはだかる体 乾いた大地に死の香り。 遠くに見えるは荒れ果てた橋頭堡。 再び訪れたこのラ・ル・カーナの地で、リベリスタは雪辱戦に挑む。 「前回は不覚を取りましたが、今回はそうはいきませんぞ」 『怪人Q』百舌鳥 九十九(BNE001407)が盾を持ち、怪しげに笑う。失敗のリスクは甚大。仮面の下に在る心の表情はうかがい知れない。 「きつい任務ですががんばって完遂しますか」 『混沌を愛する黒翼指揮官』波多野 のぞみ(BNE003834)が大きく伸び、呟く。捕まった仲間は解放され、それでも挑むのは何故か。 「今度こそ勝ちます」 雪待 辜月(BNE003382)の強い意志が、彼を前へと向かわせる。以前のように仲間をさらわれての敗走も味わいたく無ければ、命を差し出す気も無い。 「正義か、悪かの枠を超え、歴史は常に勝者のもの。次の未来、渡すわけにはいかない」 『破壊の魔女』シェリー・D・モーガン(BNE003862)は戦友を連れ去ったガルバルガの姿を一瞥し、再戦の意思に感服する。 「しかしよ、一度負けたくらいでその相手を格下だと思うなんてどんなもんだ?」 『士別れて三日なれば、即ち更に刮目して相俟つべし』古代中国に実在した将の躍進を示した古典を呟き、『酔いどれ獣戦車』ディートリッヒ・ファーレンハイト(BNE002610)が構える。 「ルメの友達の分まで、ここでルメ達が止めてみせるのっ」 彼らは敗北を期し、元の世界に撤退してもなお立ち向かう。 『なのなのお嬢様なの』ルーメリア・ブラン・リュミエール(BNE001611)の明朗な言葉は、不屈の意思を示すかのようにバイデンに向けて告げられる。 「あと、ヘクスちゃんから伝言あるんだよ『その程度で死なないでください』だって」 その言葉が届いたかはわからない。だが、ルーメリアが彼女の言葉を代弁して告げた瞬間、その厳つい視線は確かにルーメリアへと向けられた。 「世界を害する要因となるもの全てを、我が槍をもって排除する」 何1つ、例外は無い。どの世界だろうと『銀騎士』ノエル・ファイニング(BNE003301)の持つ白銀槍『Convictio』は害を貫き、払う。 『戦闘狂』宵咲 美散(BNE002324)をふと見据え、彼女は害なす赤き蛮族を再び見据える。 前衛8人後衛2人。 前衛7人後衛1人。 戦を渇望するこの地に立ちはだかる者共は、引かず、逃げず、立ち向かう。 この憤怒と乾きの荒野で、全ての者が万全の体制となったその時――。 グオォォォーーーーーッ!!!! ガルバルガの咆哮が天地を裂かん勢いで鳴り響く。 足がすくみ、戦意が根こそぎ奪われる。 それでも、彼らは向かい撃つ。 「心行くまで戦おう、バイデンの戦士よ!」 「慎重にして大胆にいきましょう♪」 のぞみとアルフォンソ・フェルナンテ(BNE003792)の繰りなす攻守のノウハウが共有され、リベリスタも手札が揃った。 再戦は、決着は、今この地で果たされる。 どれ程の屍が転がるか、今はまだ判らない。 ●奮い立つ心 「俺の護りと癒し、打ち砕けるなら砕いてみやがれ!」 初撃の大咆哮はリベリスタにとって不利となり得る一撃だが、その為の対策はしっかり練られている。『ディフェンシブハーフ』エルヴィン・ガーネット(BNE002792)の放つブレイクフィアーを以て血腥い雰囲気と恐怖は瞬く間に消えていく。 ――進撃だ! 潰せ! 叩き潰せ!! 口々に告げられるバイデンの言葉は、リベリスタにも理解出来る。 それでも考え方が通じるはずも無く、一団はひたすら前に躍り出ては棍棒を振るう。 まさに朱の濁流、全てを押し流す暴力。 「流石だ、妾達の戦いより奴らは遥かに激しい」 ひたすら回復に専念するルーメリア。 シェリーは、そんなルーメリアに害が及ぶのであれば、それらを全てかばうつもりでいた。 だが、このまま前衛が後ろに押し戻されてしまおうものなら話は違ってくる。 「アイツを仕留めれば!」 加えて、その回復に専念する姿をギルギが見逃すはずも無い。 細身だが鍛えあげられた腕で引き絞る弦。その張りが極みに達した時、矢は放たれる。 その狙いはルーメリアだが、彼女に当たることは無い。 「大丈夫!? 血が……」 「この程度、おぬしは前衛の回復に専念するんだ」 矢はシェリーの腹部に深く突き刺さり、血が吹き出す。 ヒーラーであるルーメリアの陥落は絶対阻止しなければならず、体を張ることも厭わない。ルーメリアへのカバーとバイデンへの攻撃を両立させる余力が無いことが欠点だが、シェリーは彼女を守ることに専念した。 「でも、まずくなったら回復するの」 絶え間無く響かせる天使の歌がリベリスタの傷を癒すも、次第に追いつかなくなり、より回復力の高い聖神の息吹を戦場に切り替える。 回復とダメージの差は現地点でほぼ等しく、この戦場に安全地帯は無い。油断すれば、やられる。 「さて、ぶち倒してやろうと言いますが、どうしましょうか」 ぬるりとかわしながらも、当たる攻撃は最低限に抑える九十九。握る魔力銃は理智の証、バイデンには無い近代兵器。スキルで極限まで高められた反射神経が彼を後押しする。 「おっと忘れるところでした」 棍棒を振り抜いたバイデンの腕を組みひしぎ、撃鉄を起こす。悲鳴じみた咆哮を聞き捨て、狙うはサイド。ガルバルガの側頭部。 「ちゃんと彼にも銃の凄さを見て頂きませんとのう」 大薙ぎの攻撃が何度も前衛を打ち据え、前衛の体力を奪いながらも陣列を乱していく。 「このまま穿ちます」 「1体でも早く仕留めなければな!」 「とはいえ、この勢いはいささか厄介ですのう」 吹き飛ばされた衝撃で、仮面が欠ける九十九。そのままバイデンの足を撃っては先を譲る。 バイデンの攻撃力は彼らに比べると劣りはするが、それは数を考慮しなければの話。 「叩け、休む暇を与えるな」 全てを砕く朱の濁流は、数に任せて彼らの陣列を崩して追い詰め、集中攻撃を加える。 「穿くぞ、ファイニング」 美散が瞬く間に追い込まれ、隣接するノエルも傷が深いが、それでも躊躇していられない。 「えぇ!」 傷を意ともせず、ノエルと美散の連携が集中攻撃を終えたバイデンを二度貫いては爆砕。下半身だけとなったバイデンが大地の一部となる。 「退け!」 抜けた穴を埋めるかのようにガルバルガが飛び出し、巨塊を振りかぶる。 「アンタの相手は俺だ!」 ガルバルガを止めるのはディートリッヒ。体躯なら彼も負けていない。 バスタードソード『Naglering』がエネルギー球を纏い、唸りを上げてガルバルガの巨塊と激しくぶつかり合い、殺気と衝撃を散らす! 「見事、だが止められぬ」 「なら、もっと戦って確かめてみろ!」 再度打ち込む。彼の一撃はガルバルガを数歩引かせるも、まだまだ余裕が見られる。 「ディート、リッヒ。獲物に名を刻む程の腕か、確かめてやろう」 刀身に浮き彫りにした名が、日差しに映える。 ●喰らいあう命 現状を語れば、ガルバルガの目論見通りに進んでいる。 さらなるノックバックは、次第にリベリスタの陣列をひと塊にし、徐々に後列に控えるルーメリアとシェリーに肉薄する。 「来ないで!」 「やはり、手数を減らさないとまずいぞ!」 ルーメリアが回復とともに後退し、シェリーも同じく下がる。 これもバイデンの戦術なれば、リベリスタ達はこの暴力に飲まれて沈むのが必然。 戦局の天秤は徐々にバイデンへと傾いていく。 「まだだ、歯ァ食いしばってやるぜ!」 「そうだ、出し惜しむな!」 ディートリッヒがフェイトを燃やし、立ち上がる。バイデンの押し込みから逃れながらも、ガルバルガのブロックに注視し、一矢に攻撃を受けていた彼の傷は深い。 「ディートリッヒさんの回復が間に合ってないです!」 「戦況はここらが正念場よ、持ちこたえて」 フェイトによって立ち上がるだけが精一杯のディートリッヒに天使の息を施し、のぞみもインスタントチャージによる共鳴は仲間の気力を満たしていく。 「この連撃、受けよ!」 その期待に応えるかのように、戦闘に特化した面々は奮闘する。 一突き、二突き。オーラを纏った美散の連撃によってバイデンがまた1体こと切れる。 続けてもう一体、眉間を光の矢を顔に受けてもんどり打つ。放ったのは辜月だ。 「九十九さん、今です!」 「これはどうも」 そのままゼロ距離射撃。バイデンの眉間を芯に赤い花が弾ける。 「――!!」 一方でバイデンの士気は冷めることを知らない。攻撃の隙を突いた棍棒の一撃が、辜月の頭に叩き込まれる。 「ま、まだ……」 前に踏み込み、ハイ・グリモアールで受け流す辜月。衝撃が腕を襲い、身体まで砕けそうになる状況を寸で立て直す。 「私1人だけのうのうと倒れてられない」 通せばその分穴が出来、後衛が危機に晒される。他のメンバーと比べると非力かもしれなくとも、辜月にも意地があり、そして守りたいものがある。 (回復役から潰しにかかっているとしたら――まずいわね) 続けてのぞみにもバイデンは襲いかかる。先ほどとは打って変わっての戦略変更に、レイザータクトである彼女も、彼らの戦略変更を察知する。 「剛弓、来ますよ!」 後方では、ギルギが腰を溜めて更に弓を引き絞る。より強い矢を放つつもりだ。 「打たせませんよ」 アルフォンソの手の中にフラッシュバンが生まれ、炸裂。ギルギを中心に周囲を白く染め上げ、ギルギの目を焼く。 「うぐ……まだだ!」 目を抑えたばかりに発射は不発に終わるが、改めて放つ弓は前衛を的確に狙っていく。アルフォンソの妨害も効きはまちまち。飛んでくる矢が減るのはありがたいが、油断は出来ない。 「これで前方には3体。遠慮無くガルバルガを狙え!」 「ルメも頑張るのー!」 ギルギの攻撃が減ったことで、後衛でルーメリアをかばっていたシェリーにも余裕が出始めた。それを示すかのような雷撃は、弱りきっていたバイデン1体を痙攣させ、地に伏す。 ルーメリアも美散に大天使の息吹を与え、倒れる寸前の体力は見る間に戻っていく。 「面白い、戦士たちを尽く打ち破る貴様らは面白い」 突如武器を地に立て、胸を叩くガルバルガ。かつて共に戦った戦友が、このようにバイデンを挑発したという。その真似――では無いことは彼から漂う殺気から明らかだ。 「ノエルさん、危ないです!」 「来るか!」 ガルバルガの右手が伸び、辜月の叫びがノエルの耳に響く。構えて回避の体制をとるが、早い。ノエルの胸に浅く刺さる爪は、容赦無く胸中へと喰い込み、臓腑をえぐる。 まさに『心臓を握られるような』という例えを現実に示したおぞましい攻撃。 「……わたくしの心臓、そう容易く差し出せると思わないことですね」 更に深く突きこもうとするガルバルガに対し、ノエルは槍で突き返す。 「逃れたか」 槍の反動を利用し、軽くバックステップを踏んで態勢を直す。焦りと共にフェイトが確かに燃え上がり、起こるべき痛みが静まり返る。 仮にフェイトが無ければ、あるいは尽きていれば、間違い無く彼女の心臓は握られた後、果物のように潰されていたことだろう。 「いい加減、眠ったらどう?」 頭から血を流しながらも、のぞみは小太刀をバイデンの心臓に突き立てる。 シードによって必殺の力を得た武装はバイデンの命脈を断つ。彼女もまた攻撃の応酬を示すかのように防具の損傷は大きい。 「もう少し、まだ耐えてないと」 「ルメもそろそろきついの」 「アイツらも俺達を狙ってきてる。どこまで護れるかだな」 ありとあらゆる回復スキルを駆使して保つ戦力差は、バイデンの数が減るほど有利になっていく。 それでもまだ大将は倒れない。このガルバルガを抑えて、初めて戦いが終わるのだ。 ●燃え盛る魂 ぶつかり合う槍と巨塊。 「フン!」 ガルバルガの一薙ぎに砂煙が舞い、巨大な質量がガルバルガの周囲にいた者を激しく打ち据える。 エルヴィンがフェイトを燃やして踏みとどまり、アルフォンソも持ち直す。 「…………」 「余裕が、抜けてるぜ?」 威力は衰えること無く、その一撃が今のリベリスタにとって致命傷となる。だが、ガルバルガの顔からも余裕が消えていた。 「!」 魔力盾の防御を見計らった横殴りの一撃。九十九のマスクが大きくひび割れ、勢いのまま大地に吸い込まれる。 「これでは、ますます怪人っぽく見られてしまいますな」 酷く冷静に魔力銃を構え、倒れながら撃つ。フェイトの摩耗が、意識を繋ぎ留める。 「グ、ガ……」 下顎から脳天にかけて銃弾が抜け、少し遅れてバイデンも大地に転がった。 これで、場に残るのはギルギとガルバルガのみ。 「ガルバルガは強い、ここからお前たちを叩きのめす」 弓を強く引き、後衛を狙うギルギ。 「お願いフェルナンテさ――」 「させん」 巨塊が2度、彼女の体を打ち据えて地に叩きつける。 その行為そのものがギルギをかばうかのような振る舞いにも見えたが、それ以上に仲間が惨たらしく倒れる姿に動揺が広がる。 「大丈夫です、あともう少しです!」 それでも、形勢は未だ有利。バイデンの数が減り、体力も限界が近い。辜月はトドメを仲間に託して後ろに下がる。 「その身で篤と味わえ、我が最大にして最強の一撃をッ!」 「その心臓を、命を。差し出して頂きましょうか」 デッドオアアライブ。命運を分ける朱と銀の二重螺旋がガルバルガを深く貫き、闘気が体内で炸裂する! 「グゥゥゥッ!?」 「まだ終わりませんぞ」 攻撃の隙間、常人であれば誤射すらあり得る一瞬を狙って銃弾を撃ちこむ九十九。大ぶりでは無く、精密かつ確実な一撃。 「喰らえ!」 「まずい、後ろだ!?」 ギルギの狙いは前衛では無く、ルーメリア。放たれた剛弓は前衛を無視して後衛に飛び――。 「何があっても守ると、言ったはずだ」 ルーメリアを突き飛ばし、射線上に出たシェリーの体を矢が再び深く貫いた。 「今度は、抜く手間が省けたな」 それでもシェリーが立ち上がれるのは、フェイトあってのことだ。 「流石はプリンス様が認めた者達の仲間だ」 「こいつが俺達の力だ」 『Naglering』の一閃は、ガルバルガの体制を崩すもまだ倒れない。 体力よりもスキルを繰り出す力が尽きかけている。ヒーラーもルーメリアのみとギリギリだ。 仕留めそこねたがまだ動ける。この期を逃してはならない。 「何度だって立ち上がって、徹底的に戦いあう」 一撃、二撃。武器が競り合い――。 力と力、魂と魂のぶつかり合う戦いは、やっぱり楽しいぜ!」 三撃目! ディートリッヒの一撃がガルバルガの腹部に命中し、そのまま吹き飛ばす。 「これで格下とは言えないな」 ガルバルガの巨塊が手から離れ、地を滑り、止まった。 ――それでもなお、奴は立ち上がろうとしていた。 「……ギルギ、逃げずに見よ」 ガルバルガは渾身の力で立ち上がり、武器を地に立てる。そこには攻撃の意思は見られない。 誇りを保つかのような目。胸に突き立てようと振り上げる腕。 自らの胸に牙を立てる行為はすなわち――。 「あのバイデンの戦士、やはり!」 自決。その2文字が美散の脳裏を掠め、次の瞬間矢の如く飛び出す。 槍を振り抜く美散。止まらぬガルバルガの朱腕。 2つは交錯し、流れる鮮血がガルバルガを染めた。 ●崩れる志 「…………」 朱い腕に、禍月穿つ深紅の槍が刺さる。 命を奪う獲物は地に突き立ち、命を繋ぎ留める。 腕は心臓を捉えていない。鍛えあげられた四肢が、この場においては仇となったのだろう。 「常に攻め続け、勝ち続ける者がバイデン、その矜持や良し。 バイデンと言う種にとって敗北とは死に等しい恥なのだろう」 だが、それではつまらん。と銘打った自らの獲物を引き、美散は強引にガルバルガの腕を胸から抜く。 「生き恥を、晒せというのか」 「晒すといい! 敗者の生殺与奪は勝者の権利だ」 かつて戦友は捕虜として連れ去られ、皆が創り上げた橋頭堡は無残に陥落した。 悔しさが、そして仲間を助けたいと願う気持ちが無かったなら、態勢もままならない状態での再突撃など出来るはずが無かった。生き死にを決めるのもまた、勝者の特権。 「あのね、ルメはヘクスちゃんの言いたいのもわかる気がするの」 止めないと思う反面、また戦って、今度は勝てたらという願い。 殺すことを許さないルーメリアの心に、迷いが走りながらも、彼女は思いを告げる。ただ、今は自分達の話を聞いて欲しいと。 「ギルギだけでなく、俺も逃がすというのか」 槍が引き抜かれ、崩れた体を支えるように武器を掴むガルバルガ。 「俺達に二言は無い。これで痛み分けだ」 「あの戦闘の時、貴方達はヘクスさんを殺さなかった。そのお返しですよ」 「借りだと!? バイデンにそんなものなど無い!」 「なら無くても構わん。ただし、生と死だけが勝敗をわけるのでは無いことは覚えておけ」 ギルギの反論を宥めるようにシェリーが言葉を返し、黙らせる。 ガルバルガも、ギルギもそうだ。戦いにおいて両極を行き過ぎているのだ。 「言えた義理じゃあないですけど……子供を戦場に連れて来るんじゃないよ」 「ギルギは儀を果たした戦士。だが、未熟だ」 未来の戦士を育てる為に、古き戦士は躍り出る。死を以て敗者の理を刻みこむ筈だったガルバルガの思惑は、リベリスタによって防がれてしまった。 憤怒と乾きの荒野に、無数の屍が転がる。 その中を、若きバイデンに肩を貸されて戦場を去る古きバイデン。 リベリスタは彼らを追うこと無く、その背を見送った。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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