● 明るく照らす太陽の下、もう一度その地面を踏みしめる。 先の戦いでは敗退した。苦い味がする。『ラ・ル・カーナ橋頭堡』の防衛戦では負けたのだ。あの、赤き蛮族に。初の敗北。その代償は自らが創り上げた防衛機構の破壊と、ボトム・チャンネルへの撤退。 ――敗北の代償は大きい。 「助けに行くしか、ないだろう」 其れが、アークのリベリスタだ。まるでそう言う様な多数の熱烈な意見。行くしかない、止まれない。 ――その手を差し伸べずにはいられない。 優位が確実なのは自らの世界へと攻め込む赤き蛮族を迎え撃つ事。防衛戦より不利になる総攻撃。確実なる勝利は用意されていない。 決断の時だった。戦闘に対して今までアークは如何戦ってきた? フォーチュナ、予知者。未来を見通すための力を持つ者たち。彼らのバックアップを得て優位に戦っていた。ならば『予知』があるならば――? だが『フォーチュナは戦闘能力を持たない』、だからこそ危険に晒してはならない。特別な力を得て運命に愛されし未来を覗く者たち。彼らを派遣する事は賭けだ。戦闘能力を持たないからこそ、彼らの派遣は危険極まる。 ――なら戦闘能力があればいい。ソレを可能にする女がいる。人好きする笑みを浮かべた猫の様な女。戦闘能力を持ち、万華鏡に頼らずとも高精度の予知を可能とする女。『借り』は作りたくない、だが、この場合は協力を求めざるを得なかった。 何時もの如く笑みを浮かべた『塔の魔女』。彼女の協力を得られるならば、失われた勝機を手繰り寄せられる可能性がある。 戦場へとただ、仲間を、友人を、送り出すだけの未来予知者達は其れに手を伸ばす。沙織だって止めやしなかった。止められなかった。フォーチュナ達の『微力』。危険など考えなかった。その身に宿す力が敵を穿つものでなくとも、やるべき事があるならばフォーチュナは戦場へと足を踏み出した。 その身に剣を、力を得たリベリスタ。その身に未来を見通す力を得たリベリスタ。彼らは共に戦場に立つ。 さあ、復讐をはじめようか――? ● あちらからまた戦士がやってくるという。下位の住民も懲りぬ事だ。 戦おう、そのためには準備も必要だ。最高の戦いを。最高の、戦士と言う奴を見せてやろう。 士気を高めよ、戦闘を行うための、その想いを、振り絞れ。 遣る事は決まっていた。士気を上げる為には必要な行為であった。其れこそが『我らの戦い』である。 そこにある『誇り』がどのようなものなのか、楽しみで、たまらない。 ――我らが行うのは誇りの為のもの。我が士気を高めるソレ。暫し待たれよ、下位世界の住民よ。 ● 「砂を噛み締める、そんな事はしたくはないでしょう」 『恋色エストント』月鍵・世恋(nBNE000234)はリベリスタ戦線の後列で目を伏せる。 広い荒野。靄が掛った様な情報。ぐっと拳を固める。フォーチュナだから、送り出すだけは真っ平御免だった。少しでも従事できるなら。この優しい仲間達の力になれるなら。手をとられ、行くなと言われても。 ――私は、見通す。この場所で。戦況を、伝える。悪い夢なら、醒ましてあげる。 「戦力は此方と同等かそれ以上。皆は戦った事があるから分かると思う。 まだ、此方には攻め入ってこないわ。だから先手を打つ。危険が伴うけれど……、けれど、上手くいけば」 此方に運命の女神が微笑む可能性が大きい。フォーチュナはまっすぐにリベリスタ達を見つめた。 「今から行けば一手先手を取れる。彼らは『儀式』を行っているわ。それは誇り高い行動のようなの。 バイデン一小隊と強大な一つ目の巨獣達。此方がうまく攻めれば優位に転がるわ」 不意をつけ、という訳ではない。戦士の誇り。其れはあちらの赤き蛮族にも、此方にも或る。 その『誇り』を傷つけるかもしれないと、そうはもう言ってられなかった。勝たねばならない、そういう時もある。其れがリベリスタの『誇り』を傷つけてしまうかも、しれないけれど―― 「何を想い、何をしているか、気にはなるけれど、攻め込まなければならない。 ……大丈夫、上手くいくわ。あとは力で―― 皆の想いで打ち勝って」 リベリスタは運命に愛されし者だ。その運命、『誇り』にさえも打ち勝つ強固な力を見せつければいい。 「さあ、今度はこちらからよ? 見せて、魅せましょう?」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:椿しいな | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年08月15日(水)22:51 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 砂を噛み締める。二度目の敗北は必要ではなかった。 思いを馳せるのは本隊の後方で不安げに予知を行った彼女の言葉。『戦奏者』ミリィ・トムソン(BNE003772)は杖を握りしめる。 ――『儀式』。 其れが何を表すかなんて『空中楼閣』緋桐 芙蓉(BNE003782)には理解し兼ねるところだった。 異世界での『鬼』退治。彼らの住まうボトム・チャンネルでも行ったことのある其れ。自身らの戦うべき力、フォーチュナという未来を見る力。箱舟、彼らの所属する特務機関『アーク』の真の力を振り絞り、鬼退治を成功へと導けば良い。 彼女らはさながら童話の桃太郎とでも言ったところであろうか。 鬼ヶ島に――ラ・ル・カーナに訪れて『鬼』、否、赤き体躯をした蛮族らを退治する。 「頑張りましょう……」 ぎゅっと臥龍桜花「宵霞」を握りしめる。半透明な刀身は三つ月を隠した真昼の太陽に照らされて、澄んだ水面の様に光を反射させていた。 ――敗戦は苦しいものだった。戦場を彩るは血色。此れは『戦争』であった。 『リベリスタ見習い』高橋 禅次郎(BNE003527)は銃剣を構える。 「負けて、気付いたよ」 一度戦った相手、何よりも誇りを想い、その『儀式』たる行為を尊重した。例えその誇りを傷つけてでも攻め込まねばならない。負けるわけにはいかないのだ。此れ以上は、自らの世界へ。守るべき世界へと侵略させることになってしまう。 そう、此れはリベンジ戦なのだ。 「リベンジ、か」 負ける事は嫌いではなかった。一度で戦いは終わらなかった。もう一度、もう一度。その負けは次の勝負を、そのあとに待つ勝利を彩り、良いものにするから。 『無軌道の戦鬼(ゼログラヴィティ』星川・天乃(BNE000016)はまとめ上げた黒い髪を揺らす。表情は変わらないが何処となく楽しそうな雰囲気をかもしながら彼女は往く場所へと一歩踏み出す。 「……リベンジ? 手伝うよ」 こてんと首を傾げる。虚ろな目は仲間達をじっと見た。『Lost Ray』椎名 影時(BNE003088)はアークだ。アークのリベリスタだ。アークの敵であるならば、其れはアークのリベリスタたる彼女の敵でもある。 「さ、行こう」 握るナイフは太陽に煌めく。二回負けるなんて、ご免だね。 彼女の黒髪は歩みで揺れる。まるで影法師。彼女の連れる影は其の侭戦場へと、ただ、歩んでいる。 その影法師を追う様に『節制なる癒し手』シエル・ハルモニア・若月(BNE000650)は往く。 誇り高く強き者が誇りの為に行う儀式。其れの邪魔をするという事が如何に罪深き事なのか。数珠を握りしめる。どんな謗りを受けたとて、其れを受け入れる覚悟はある。 ――仲間を支える事が誇りだから。 リベンジ。苦杯をなめてまでも挫けぬ仲間達が居る。危険である事を理解してまで異界へと踏み入れたフォーチュナがいる。 その覚悟を、裏切ることなどできない。 「私は皆様を支える『杖』であり、癒しの『衣』」 我が身全てをかけて、出来うる限りの力を使い、只、癒せばいい。その仲間達の覚悟を、挫けぬ思いを誇りに変えて。 「――さあ、見せて、魅せましょう?」 ミリィはフォーチュナの言葉を紡ぐ。戦場で最高の戦いを『見』せればいい、その闘いで『魅』せればいい。彼女の、リベリスタの勝利への足掻き。此れは復讐劇だ。負けすらを恐れずに、上へ、上へ。気まぐれな女神の微笑みを手に入れるために。 気まぐれな女神の御心は揺れ動く、嗚呼、猛る戦士たちよ。その誇りを傷つけるのかもしれない。其れは彼女らとて同じだった。戦士としての誇り。それは戦場で取り戻せばいい。 望め、勝利を。彼女はすぅ、と息を吸い込む。宣言するのは常の言葉。 「任務開始。さぁ、戦場を奏でましょう」 乾いた荒野の風に金の髪は静かに揺れた。見据えるは赤き蛮族。さあ、戦場を奏で、その五線譜に勝利の音色を刻もうではないか。 ● 猛々しい雄叫び。戦士の儀。円陣を組み、目を伏せる。中心に位置するダヤマは一つ目百足の上に乗り、配下達を見降ろしていた。 「さあ、また異界の戦士がくるぞ!」 油断はするな、そう言う様に。彼らは此れから来るであろう戦いに昂りを隠せなかった。此れは『戦士の誇り』を掛けた儀式だ。士気を高めるもの。己らの気持ちを一つにする。只、其れがボトムの人間のソレと一致するかと聞かれれば答えは否だった。交わらぬ想いの果て。其れを理解する事は出来ないだろう。只、其れが誇りの為の行為であるという事はリベリスタらにも理解できるだろう。 ダヤマは嗤う。先の戦いで目にした幼い黒き少女。淡き紫苑の瞳の少女。彼女の様な戦士がまたこの荒野に訪れて自身と剣を交える。嗚呼、なんて楽しいのだろうか。 ――ヒュン。 彼らの周囲を不可視の刃が飛び交う。触れる者も動く者も全てを切り裂くその鋭さは術者の想いを具現化させるかの如く強く強くバイデンらの身体へを傷を負わせていく。 儀式は途中だった。ばっと顔を上げたダヤマに金の少女は微笑む。 「何処を向いているのですか、貴方達の相手は此処に居ますよ?」 戦場を見通し指示を飛ばす、戦場を奏でる者の声を合図にリベリスタらは一斉に攻撃を仕掛ける。 『九番目は風の客人』クルト・ノイン(BNE003299)の放つ蹴撃は虚空をも切り裂き、飛翔し貫通する。強襲する目にもとまらぬ蹴りは蠢く緑の蟲を巻き込み、その場を荒らす。 「儀式を仕掛ければ高められない程度のものを、バイデンは誇りと呼ぶのか?」 ――笑わせてくれるなよ。彼の頭に浮かぶのは彼ら赤き蛮族の王たる戦士。誇りの為の儀式を是とし、其れを求めるなど弱さでしかないだろう。彼らの王は、プリンス・バイデンはその儀式を行わなくとも遥かに強く、そして誇りに満ち溢れていた。 その言葉にダヤマは嗤う。彼らにとっての子の儀式は誇りの延長。 「笑わせるな、人間。誇りを更に高め最高の戦場を作り上げることこそが我らの戦いだ」 つき従うバイデンらが一斉に彼への元へと雪崩れ込む。何と言われたってよかった。誰に何を言われても、所詮はこの世界では『異分子』である自分達。ボトム・チャンネルの、アークのリベリスタとして呼ばれる『正義の味方』ではない。正々堂々と拳を交えようとも言えない。奇襲なのだ。 ふわり、近寄るのは破滅的な黒きオーラ。百足の目を狙うそれは、一度は的を外す。 「ねえ、バイデン、アークだよ。宣戦布告します、受理していただけますよね?」 こてん、と首を傾げる。返事などは望んでなかった。言われなくとも分かっていた。バイデンたる種が何であるか。この後に及んで分からないとは言わなかった。 バイデン、戦うために生まれた――戦うという文字が形を為した様な種族。 影時はにたりと笑う。嗚呼、それでも。 「僕達の方が強い」 にんまり、浮かんだ笑み。其れでも瞳はただ、虚ろなままに、空であった。 一度は是とした儀式。其れでも形振り構っては居られなかった。魔力鉄甲を嵌めたその手を固めて、天乃は走る。一度負けた、後がなかった。 目指すのはただ一人だった。大きな百足の上に位置する赤きバイデン。その顔を、忘れたわけがない。 「お久しぶり。さあ、踊ろう?」 影時の攻撃に揺らいだ百足の身体を彼女は駆けあがる。何処でも足場に出来る彼女が目指すのはダヤマと言う名前のバイデン。 引き摺りおろそうとするその手は少し届かない。にたりと笑ったバイデンを見つめツァイン・ウォーレス(BNE001520)は唇をかみしめた。儀式を妨害する。全身から漲るエネルギーは確かに戦いを望んできた。 ――奇襲が卑怯だとは思わない、其れは何度も何度も、行ってきた手段であった。ただ、この戦いは許さざる誇りがあった。 名を心の中で呼ぶ。ダヤマ。彼の、誇り、彼の、想い。彼が討ち合った赤き蛮族。 バイデンはその討ち合いの最中に、生へと執着し死を恐れない蒼く揺らめく炎を見た。その紫苑の瞳に宿るは生。死にたくないと命乞いをするではなく『生こそが誇りだ』と堂々たる思いを告げた少女。もしも此れが人間同士であれば一目惚れとでも言えたのだろうか。その想いは違う。只、彼女の誇りに、生への執着に、戦士の想いに彼は彼女を戦士とみた。 ――其れが赤き蛮族の想いであれど、討ち合ったツァインにとっては屈辱であった。後ろの小娘に、名を聞いた。自身ではなく、背後の少女に。 戦士を名乗り、誇りを謳い、敵ではなく一人の戦士として刃を交えたこの赤き蛮族。此れは侮辱だ。そう思う、ソレを決して許すわけにはいかなかった。 彼は剣を突き出す。その眸は爛々と揺れた。 「俺は儀式で確認しなくても良い。これは、俺達の誇りだ」 禅次郎の放つ暗闇が緑の虫を包み込む。その黒き瘴気は蟲らの未来を閉ざす様に、包み込んでいく。 そこに放たれるのは真空刃であった。普段であれば茶を飲んで、のんびりとしている芙蓉だが戦闘となると普段よりやや気持ちが高ぶっている。彼女の背後に居る癒し手のシエルの顔を見つめた。 彼女を護る、そう決めた。芙蓉はバイデンに向き直り、一礼する。 「奇襲をかけてすみません…これはハンデということでどうでしょうか?」 その言葉にバイデンは面白そうに笑う。ハンデ。この外の戦士は自身らと討ち合う実力を持ちながらもまだ卑下するのか。その姿は幼い。年齢はその倍あろうとも、彼らが目にする芙蓉はまだ年若き少女であった。其れはバイデンらも同じだろう。まだ両の手で数える程度しか生を受けてから立っていない彼ら。芙蓉からすると孫の世代と同じかそれ以下の年齢の赤い蛮族ら。 「奇襲――其れを恥じるのか、リベリスタよ」 「ええ、貴方達は儀式をなさっていたようですが」 其れは一体何? そう聞いた芙蓉にバイデンは笑った。俺に勝てば教えてやろう、まるでそう言う様に。 「我が名はネマヤ。貴様は」 「芙蓉、と」 バイデン、ネマヤが芙蓉と呼ぶ。彼らの目の前が白く光る。癒しての少女の放つ閃光は聖なる光を込めて周囲を焼き払う。 「さあ、一緒に、踊ろうよ?」 天乃の囁きとツァインの意思。其れに笑い、ダヤマは巨獣からゆっくりと降りた。 ● 戦況は、乱戦と一言で表せるだろう。 刃で持って切り開かれた道。それが勝利への道筋に為る事をミリィは信じていた。 戦場の流れを読みとり、唯一の勝利を掴みこむ。戦場を指示する司令官。 放たれた聖なる光が芙蓉に近づくネマヤ諸共包み込んでしまう。 彼女はすぅ、と息を吸い込んだ、仲間に与えるは効率動作。攻撃と防御の支援。彼女はミリィと同じく司令官だ。 「……絶対に、勝って見せましょう」 ギィ、と百足が鳴く。其の体を大きく揺らすのを見て影時は微笑んだ。百足の瞳へと放たれる黒き力。 「あはは、一つしか目がないって大変ですね」 にんまりと微笑んだ彼女の目。虚ろに笑う人形の様な少女は邂逅する。ああ、この言葉、鬼にも投げかけた事がある。 此方へと向かう百足へと彼女は立ちはだかる。その小さな体躯。けれど、彼女はリベリスタだ。 「小さな身体だからって舐めないでッ!」 百足の瞳を更に潰す様に天乃は鮮やかに死の刻印を刻む。影時の肩を足場に、ひょいと飛んだ彼女が刻む死に百足が暴れる。 嗚呼、なんて可哀想。目が二つあればいいのにね。 影時の目はただ、笑っていた。 「ねえ、儀式しないと確認し合えないの? その誇りって」 彼女の虚ろな瞳が笑う。楽しげに。 戦闘の誇り。そんなものは儀式がなくてもわかる。信じて戦える仲間が居る、其れこそが誇り。其れが『アーク』だ。 儀式がなければ確認できない誇り。影時はゆらりと揺れる。放つ黒きオーラ。 「そんなの、僕等の敵じゃない!」 攻撃で痛むからだ。癒しが与えられても何度も傷つけられる。痛くても、辛くても抗おう。 彼女は少女だ。まだ、年若い幼い少女。けれど、『何もできない少女』ではない。彼女はアークのリベリスタなのだ。 「今日は、俺が悪で良い。此れが、お前らの『誇り』を踏み躙る俺の『覚悟』だ!」 ダヤマの指示がなくとも個々のバイデンらの力は強い。彼の放つ破壊的な衝撃にバイデンの身体が揺らぐ。 禅次郎は嗤った。彼の挑発にバイデンは乗る。走り寄るその蛮族らにシエルは仲間達へと叫ぶ。連携の乱れは致命的な戦場での仇となる。 「あの敵、弱ってます」 今こそが好機。そう言う彼女の言葉にクルトが放つ破壊の一撃。ミリィの眩い閃光が包み込む。 小さなワーム達がその動きを止めて行く。先手を取れば光を掴めると禅次郎は思う。 ――ギィンッ。 そこには理解も弁解も謝罪もいらなかった。死を持って償え、赤子のごとき戦士よ。思い知ればよい、三千年紡がれた、戦士達の狂奔を。 言葉はいらなかった、彼は刃を振り下ろす。目の前の赤き蛮族のは嗤う。放つのはベロナール・エラー。その威力は強大であった。 「――ッ!」 癒しの手が間に合わない。シエルの瞳が揺らぐ。 膝をつく。運命を燃やす。嗚呼、此れは誇りを取り戻す戦いなのだ。誇りを貶める訳にはいかないのだ。其れを為したら、二度と前には進めない。自身の戦士としての道を閉ざしてしまうだろう。 ――ギィン。戦士が誇りをかけ、武器を何度も何度も討ち合った。 ネマヤの拳が天乃へと向けられる。 「……爆ぜろ」 絡まる気糸。哀れな操り人形の様にその身を拘束されるバイデンへと彼女が放つのは死の爆弾。 「芙蓉よ、我らの誇りを確かめる、その行為、確かにお前の心に刻むが良いッ」 ネマヤは芙蓉へと告げる。彼女はその声を聞き、小さく礼を言った。有難う、戦士よ。 振り下ろされる衝撃波は味方をも巻き込む。傷を負いながらも、仲間を癒すシエルの表情にも焦りが浮かんでいた。 「……何か、御用ですか?」 ふと、ダヤマの目がシエルへと向けられる。一人の癒し手。翼を持った、癒し手。 興味を持ったのだろうか。彼は彼女を見つめて、笑う。嗚呼、勝ったら彼女を貰おうか。なんて冗談のように紡いだ言葉。 「後衛には、行かせない!」 禅次郎が彼の前に走り込む。ダークナイト。自身の痛みを力に代えて、彼はおぞましき呪いを刻みつける。 彼の体へは何度も何度も傷つけられる。膝をつく、運命が燃え上る。 ダヤマが嗤う。リベリスタ、戦士たちよ。何と強く、そして何と愚かなのか。癒し手を庇い、自らの意思で何度も討ち合いを望む。 「戦いが好きでしょう。奇遇だよね、僕も好きだよ」 配下のバイデンとの討ち合いの最中、影時が空の瞳を向けた。 愚かしいのはどちらなのか、この赤き蛮族か、それとも最下層の住民か。 「気が済むまでやり尽くそう」 彼女は微笑む。スカートのフリルがふわりと揺れた。二度と戦闘を愛しいと思えなくなるくらいに叩きつぶしてやろう。 彼女の放つ黒きオーラがバイデンの身体を地へと沈める。こてん、首を傾げて少女は嗤う。 「汚く喘ぐといいよ、赤豚」 その言葉は、侮辱ではない。彼女の想う、全て。 残るバイデンらが猛攻する。放たれる蹴りがバイデンらを攻撃する。大百足はその身体を揺らし、彼らを蝕んだ。 シエルが詠唱を行い、癒しの息吹を具現化させる。彼女の回復が間に合わずに百足を足場にしふわりと飛んでいた天乃が一度は地に伏せる。だが、彼女の口元は楽しげに歪む。 「いい、ね……まだ、付き、合って?」 放たれる死の刻印。其れがムカデへの餞別、大百足へと彼女が放った攻撃に加えクルトは電撃を纏った武舞を見せる。 鮮やかな赤。揺れる、色。その身に宿す自己再生も間に合わぬバイデン達が続々と地に伏せる。 「この程度か……?」 その言葉にバイデンは彼へと襲いかかる。彼は嗤った。何度だってその攻撃を繰り出そう。此処で負けるわけにはいかないから。 悪に為るのは楽ではない、けれど、彼らの為に今日は悪になろう。 「嗚呼! 楽しいぞ、外の戦士よ!」 ダヤマの放つベロナール・エラーが膝をついた禅次郎の肩を通り越し、ミリィへと飛んで行く。彼女の膝が震えた。 「何でも構わない、立つ為なら、何だって、何でも」 ぐっと拳を固める。涙がジワリと滲んだ。震える膝を抑え付ける。脳裏に浮かぶ友人らの姿。 私は、と零れた声は震えていた。 「私は、……私達は、これ以上負けられないの」 運命を燃やす。唇を噛み締める。悪い夢を醒まそうと、予知者は言った。そうだ、この夢に終止符を打とう。 さあ、今こそ、悪い夢を、終わらせよう。 「貴方の相手は、私ですッ!」 負けられない、彼女の放つ神秘の投擲。輝きの中から、誇り高き戦士が走り込む。言葉等要らなかった。戦士としての誇りがあった。 彼が振り下ろす刃はダヤマの身体へと到達し、その肩を裂く。バイデンはにやりと笑った。 ――嗚呼、嗚呼、面白いぞ人間。其の体が荒野へ沈む。広がる生臭い鉄の臭い。彼の脳裏に浮かぶ黒き戦士、そしてこの鎧を纏う緑の瞳をした男と、司令官の金の少女。 零れ出た笑み。高く、雄々しく、戦士は嗤う。その声が止んだあと、彼はぱたりと手を下ろし絶命していた。 ただ、その戦場に吹く風は乾いていた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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