● 二度目の戦争の気配が荒野に満ちる。 先の戦争はバイデン――我らに軍配が上がった。 ならば次の戦争は、誰が勝者だ。 心躍る戦いを得るのは誰だ。 五人のバイデンが本隊の外れに集い、がつ、がつと武器をぶつけ合った。 彼らが跨るのは粗雑な皮の鎧を付けた獣。 紫に変色した屈強な体躯が、強靭な男達を乗せて低く唸りを上げる。 節くれだった太い指が首の鬣を掴み御して居並ぶ。 有角の獣に跨った一人が、分厚く武骨な得物を天に掲げる。 空からは陽光が降り注ぐ。赤い肌に濃い影が差した。 その強い光の影になってなお、影の中で爛々と獰猛な双眼がぎらつく。 行く先には戦いがある。その高揚に猛らぬはバイデンに非ず。 『行くぞ! 行くぞ! 奴らの真っただ中だ! 足を止めるな!!』 短く低い雄叫びが空気を震わせ、獣の黒爪が地を抉った。 ――目指すは、敵本隊の横っ腹。 ● 可及的速やかにラ・ル・カーナへ再進撃すべし。 彼らのその決断を聞いたその時、胸中に安堵の念が降ったのは幼さゆえだろうか。 バイデンの前にラ・ル・カーナ橋頭堡は落ちた。 八人のリベリスタが敵の掌中に捕らわれ、アークはボトム・チャンネルへ後退。 その後、即座に決断は下された。 優位ではない。それどころか不利を否めない、総攻撃の復讐戦。 そこへ『塔の魔女』アシュレイ・ヘーゼル・ブラックモア(nBNE001000)が投じられる。 本来なら『借り』を作りたくはない存在だが、彼女は万華鏡なくして高精度の予知能力がある。 そして高い戦闘能力を誇る。 どちらもアークのフォーチュナにはない。 彼らが最前線に投じられない理由をクリアしているから、追加戦力として投じられるのだ。 だが、それを見送るばかりではいられない者がいる。 ――戦場に立つだけがリベリスタではないと、一緒にがんばろうと。そう励まされたことがある。 臆病で、いまだ血にも慣れていない、戦う力もない。 万華鏡のない異世界において、自身の予知能力は『微力』に過ぎない。 それでも――『灯心』西木 敦(nBNE000213)もまた決断をした。 お前もかと、苦笑を浮かべた戦略指令室長に向かって口を開く。 「俺も、行かせてください」 問答を経て、告げられる。 異世界に赴く全てのフォーチュナは、リベリスタ側戦力の最後方に位置する。 その言葉に背がひりりと、滲む熱を訴えた。 ● 「本体側面を狙うバイデン部隊、その迎撃をお願いします」 乾いた風が、渇いた土を撫でる。 「恐らく、バイデンの数は5。巨獣に乗って、来ます」 断片的な未来から情報を搾り取り、口にする言葉を選び託す。 対するバイデン達は騎兵。 全員の手に大振りの鉈や剣が握られていた。 バイデンの騎乗する巨獣、ガーナードウルフ。 なめし皮らしい物に覆われ、その隙間から紫の毛並みが覗く獣。 アンデッドに近い印象を受けたと言って、敦は零しきつく眉を顰め言葉を足す。 この巨獣の、高く跳ぶ姿、跳びかかるような姿が見えたと。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:彦葉 庵 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年08月20日(月)22:57 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 荒野に鬨の声が響く。 瞬きの間もなく、渇いた風に血と砂が混じり肺に流れ込む。 足裏から、腹の底へ、背筋へ伝わる振動が、心の臓を打ち揺らす。 身の内を焦がすのは――歓喜。焦燥。忌避。決意。 疾駆する狼の前に、立ちはだかるは五人。 疾駆する巨躯の視線に、焼け砂色の外套の下から身を晒した三人。 口角が上がる。それは決して、戦慄きではなく、驕りではなく。 箱舟の復讐戦、幕は上がった。 対するは餓狼の一隊。 奇襲迎撃、開戦。 ● 「行くぞバイデン! 奇襲は成功させやしない!!」 「バイデン!! 決着をつけよう!」 瞬間、目を剥いた。狼が浮足立った。 『正義の味方を目指す者』祭雅・疾風(BNE001656)が幻想纏いの輝きと共に装備を纏い、土を踏みしめ構えを取り。 光の影で瘴気を纏った大太刀が揺れる。 放たれた煽りで大太刀の主たる『骸』黄桜 魅零(BNE003845)の黒髪が靡いた。 「貴様ら……なぜ、ここにいる!!」 生命を代価にした力が一隊に降りかかり、一人のバイデンが牙を剥いて吼える。 「答えが貰えるだなんて思ってないでしょう」 間髪入れず、鉛玉は赤い巨躯に、紫の巨獣に降り注がれその身を穿つ。 反動で荒野の石を硬質な音を立てて転がし――『鋼足のマスケティア』ミュゼーヌ・三条寺(BNE000589)が息を吐いた。 まずぶち当たるのが本隊奇襲の予防線として張られた隊――それは有り得た。 だが眼前の隊は、想定されたそれとは違う。彼らは線ではなく、進路のただ一点に現れた。 彼らはフォーチュナの存在を知らない。そして、荒野千里を見通した疾風の目を知らないのだ。 ――生じた一瞬の混乱。 そして一瞬で思考を捨て去り、再び手綱と武器を繰る。 その姿を見咎めて、『水底乃蒼石』汐崎・沙希(BNE001579)が婉然と笑み語りかける。 ――ごきげんよう、誇り高きバイデンの戦士達。貴方達との闘いを所望するわ―― 直接、脳内に。 「………」 沙希は剣呑な眼差しに微塵も怖じず、流れる水色の髪を撫で小首を傾げて見せる。 『空泳ぐ金魚』水無瀬 流(BNE003780)がこくりと頷いた姿を横目に捉え、目を伏せた。 紅白模様の翼を広げた少女が荒れ地の空を泳ぐ。 持てる力の共有は果たした、その次は――息を吸い込んで、唇を開く。 「うちらが、相手です。通りたかったら『八人』のリベリスタを倒してみてください」 流が言う間に、疾風がガーナードウルフ達に切迫する。 魅零が続く。ミュゼーヌは再装填に手を掛けた。 バイデンの眼前に立つ『五人』のリベリスタが、次へ手を伸ばす。 沙希の指先から、緩慢に髪が離れた。 これからバイデンの彼らには、一瞬、コマ送りになって場面が見えるのだろう。 そう予期しながら、発声を厭う彼女の音に成らない声が『三人』の脳を揺らす。 ――どうぞ。時間よ。 リベリスタにとっては打ち合わせ通り。 バイデンには二重の、二度目の混乱が襲い掛かる。 黒いスーツを身に纏った青年と二人の少女が荒野の最中に現れる。 長髪の少女、小鳥遊・茉莉(BNE002647)が両翼で宙を打ち、舞い上がった。 容貌の成長が止まった茉莉の姿からは齢は窺えない。 衰えないその体の中では、今もしたたかに魔力が昂り力を増していく。 羽ばたきの風圧で風見 七花(BNE003013)の肩まである黒髪が頬を擽る。 七花はそれを払わず、雷光の魔力が集う感触にぎゅっと魔力鉄甲を握り込んだ。 内向的で弱気。そんな七花も尻込みしそうになる心を押さえつけて掌を翳す。 フォーチュナ達が覚悟を決めた。戦地に立つリベリスタとして、尻込みは出来ない。 「――この作戦、成功させないとです」 自らの背を押す決意の言葉は、声となっていただろうか。 それでは――少女達の一歩前へ進み出た雪白 万葉(BNE000195)の口が動く。 「第二撃を始めましょうか」 開かれた合間から、八重歯が覗いた。 幾本もの神秘の気糸がするりと伸び、彼の指揮に応じ空を裂いて進む。 放たれた一条の雷光が弾け絡む。 バイデン達の側面からの攻勢は、二組のバイデンと巨獣を捕らえた。 横から殴りつける重圧に、痺れる四肢に大きくよろめいて――二頭のうち一頭が踏み止まった。 殴られたままでいられはしない。 凶暴性も顕な赤眼が彼らの方を向き、彼らは中空にある少女の黒鎖を見る。 「行きますよ」 茉莉自身の血液が形を変えた黒鎖がじゃらりと音を立て、奔流の如く放たれる。 「ぐっぁああ……!!」 濁流が、呑み込んだ。 ● 轟、と。 「正面を忘れるな!」 硬質な神秘に重なり合って、声と音とが爆ぜる。 疾風の手に握られた片刃の大型コンバットナイフがその名に負けぬ速度で奔る。 雷撃を纏ったDCナイフ[龍牙]はガーナードウルフに見舞われた。 上向いた巨獣に乗ったバイデンが大きな鉈のような形状の得物を振り下ろす。 回避は間に合わない。咄嗟に十字に組んだ腕とナイフで受ければ、地に押し込まれる錯覚。 「なかなか重いなっ……!」 軋みを聞いて、歯を食い縛り――薄く笑みが浮かぶ。バイデンの足は今、止められた。 瘴気と銃弾の嵐の中から、はっきりと通る声がバイデンの名を呼んだ。 「貴方達が目指す先にいるのは、戦う力を持たない者達よ。その巨腕が振るわれれば、あっさりと命を落としてしまうような」 「なんだと……?」 告げられた戦場に置ける非力な者――それにバイデンの空気が変わる。 非戦闘員にあたるフォーチュナの参戦。 それは少なからず、リベリスタ達に情報に限らない何らかの影響を与えていた。 ミュゼーヌもその一人にあたる。彼女は凛然と声を張り、真正面からバイデンを見据える。 「それに比べて、此処にいるのは一人ひとりが掛け値なしの歴戦の猛者。私達なら、貴方達の昂りを満足させてあげる自信があるわ」 此処で自分たちが敗北を喫せば、それは未来を失う要因に至る。 通してはならない。絶対に通せない、不退転の意志がミュゼーヌの口元に乗る。 「そう。教えてあげる。私達、強いよ」 魅零がぎらついた双眸を睨み返し、がちがちと骨から削られた太刀に大太刀を弾かせた。 そう、と。 荒野に在する魔力を集めながら、沙希はバイデンに囁いた。 脳に響く声に迷わず、一人のバイデンが彼女を見遣る。 ――主菜の前に前菜を貪り喰らわば。 主菜はフォーチュナも控える本隊。前菜は自分達。 ――餓狼の闘志も上がりましょう? フォーチュナまでが覚悟を決めたことは、無謀の極みだ。 無謀であるに違いない。だが沙希は、それも悪くないと、そう思う。 勝っても、負けてもきっと『愉しめそう』だと感じるのだから。 「どちらの味方か分からんな」 ほのかな期待に似た感情を密やかに、彼女は妖艶に微笑んでみせる。 バイデンの言葉にも気だるげに、しかし笑みを深くするだけ。 「良いだろう! 馳走になるぞ! 我らを阻んで見せろ、リベリスタ!!」 その号令に――黒鎖から獣が跳ねた。 矛先は万葉の声で合流に向け動き出していた側面班、低空を飛ぶ茉莉に向かう。 頭脳が数多の道筋を想定し織り込んでいる。頭上を越える相手は、防ぎようがない。 だが、影が降ってくるのなら。その暴力は七花に到達する前に受け止められる。 仰いで、目を眇めた。危ういと覚悟して、それでも耐えきらねばならない。 「七花さん、お願いします」 「っ……はい!」 鈍く、重く、神経が一瞬の麻痺を訴えた。 狼の背から降るバイデンの刃のあまりの衝撃に、血の味がせり上がってくる。 それに七花が頭上に手を翳し、優しげに垂れた黒に赤い巨体を据える。 「行儀が悪いですねっ……」 濁流に欠けた目無しの狼の牙は、移動の甲斐もあり急所を捉えずに済んだ。 それでも脇腹の食い千切られんという痛みに汗が滲む。 痛みに顔をゆがめながら、七花と同様に茉莉も手を掲げ、その手に神秘の形作る得物を宿す。 マグメッシス――呪いの大鎌が少女の掌でぐるり、円を描き。 連続した太刀捌きで巨獣と狼の胴を抜いた。傷を抑え、走り出す。 合流を手助けするように、沙希の手が、ハイ・グリモワールを撫でる。 見えぬ存在に語り、呼び――読み取る。 茶の双眸が再び荒野とまみえたとき、聖神は彼女の意に報いる。 聖神の力の一端は荒野の風を上塗り、リベリスタの負った傷を塞ぎゆく。 バイデンの自己再生の力とは別の、癒しの力が命を繋ぐ。 対峙した者の目が、それへと動く。 「ちょっと、まさか怖気づいたの?」 ブロックは無為ではない。だが、彼らにはその壁を越える『脚』がまだ存在した。 辛うじて、息以外に血をも吐いて、それでもまだ呼吸をしている。 騎兵は嬉々としてそれを駆り、両名の生命線を断つために刃を振り上げた。 ――先に構えるのは、心身の回復を担う沙希と万葉。 (うちも、頑張らねば) 決意を新たにし直すこの瞬間も、剣戟も怒号も止まず痛いほど鼓膜を揺らす。 皆の意志を、フォーチュナの勇気を、決して無駄には出来ない。 そして今、彼らを攻撃の只中に晒してはならない。断たれれば、ままならない。 音を立てて、羽を打つ。 「うちらを倒せない貴方達が、本隊に敵うと思ってるんですか?」 流の声に、魅零の紅い隻眼を眇めた。ひやりとした何かが背筋を伝う。 眼前の血に濡れた牙や刃に対する感触とは、別のものが。 反してバイデン達からは、喜悦と憤怒の入り雑じった笑い声が上がる。 「いいや思わん!! だがそれも今は些細なことだ!」 噛み合っていたはずの、荒く削られた骨が離れた。 行く手を阻んだ狼が眼前から消えた。 「我らバイデンが貴様らを倒せないと言ったな、小娘ぇ!!」 怒声に空を仰ぎ見た。 止めようと狼の腹に風穴が開いた。それでも、止まらない。 挑発により獲物の役を請け負った少女の、華奢な体が宙で揺らいだ。 守りに長けた流が大型の盾で構え受け止めて尚、重い打撃が重なり腕の悲鳴が聞こえた。 狼の牙を突き立てられ、紅白模様の翼が血に濡れている。 巨獣に巨体とその力。それを一度に浴びた流が空から地へ引きずり落とされていく。 最中、赤と青い瞳の視線が交わった。 「流」 大切な、数少ない友人の名が零れた。 ほんの小さな声に、沙希の目が魅零に向かい――着物の袖で口元を隠した。 すでに、魅零は大地を蹴っていた。痛苦の代償を浴び、対価を払い、彼女は呪う。 「流に、手ェ出したな!!!」 痛みと怒りの呪いが――一閃、狗頭を刎ねた。 返しざまの刃が空を裂く。 「小さな鉛玉だからって甘くみないで」 即座にPDRC[顎門]、リボルバーマスケットが火を噴き、雷鳴がとどろく。 これだけ渡り合えば、彼らは自分たちを退けなければ、動かないだろう。だが、陣形は崩れた。 「此処からは乱戦か」 ――残る騎獣は一、バイデンが四。 「さあ、愉しむぞ。リベリスタ!」 穴開きの腕を横に薙ぎ血を振るうのを合図に、五体は猛然と大地を蹴った。 ● 剣戟、銃声、雷鳴――力が爆ぜ、命を削り合う。 片やその血が求める戦いの為に傷を塞ぎ、片や力と生命の枯渇に抗い癒す。 「残るはバイデン――!」 先陣を切り、陣の真っ只中に突っ込んだガーナードウルフは沈黙した。 名残の電流がぱしりと、乾いた音を立てた。 荒んだ風が血を乾かす。 ざらざらとした砂に赤い血片が混ざる。 「疾風さん、後ろへ跳んでください!」 幼さの残る声とともに、赤い巨体が魔炎に包まれた。 そして燃え盛るまま、再び疾風と打ち合い野獣の歯が覗く。 「お互いに意地だな」 「違いない!」 赤々と血を燃やし、掌を貫いたコンバットナイフを握り込んだ手を裂いた。 空かさず打込まれる腕を受けて溢れる血を吐き捨て、疾風もその運命を燃やす。 「負けはしない」 「お互い退かないんじゃ、負けようがないわよ」 バイデンの体を足場に、涼しげな表情でミュゼーヌが跳んだ。 大上段から鉄槌が降る。 「何……!!」 宙で体を捻り振り抜かれた長い脚が、バイデンの頭を捉え――意識を奪った。 消耗した血と体力にふらつく体を叱咤して、ミュゼーヌと疾風が立つ。 ぐらりとゆらぎ、沈む。巨体から火の粉が飛び、散った。 茉莉と沙希が超直観を駆使し、糸口を探れど芳しくない。 彼らは一隊の連携こそあったが、今は個々に本能のまま戦っている。掌握は叶わない。 ――左から。 それでも目を凝らし、聖神達を揺り起こす合間に念じる。 誰も彼も、戦場に休む間はない。 万葉の意識の同調によって枯渇した精神を分けられ、神秘の力を駆使し、その身を奮い立たせる。 「あと一押し、いきましょうか」 「サポートします!」 沙希達を庇う彼自身も、塞がり切らない傷に恩寵を掴み取り、命の脈動を取り戻す。 ぐいと汚れをスーツの袖で拭うと、彼の周囲で七花のもたらす微風が渦巻いた。 膝を土から上げた彼の全身から気糸が伸び、バイデンを貫き、生命の再生を断つ。 目に見えてバイデンの動きが鈍る。 最後の矜持か。膝は土に汚さず、 「おおぉぉおおおお!!」 「とどめ、いきますよ!」 茉莉の指先を赤に染めた血が、黒鎖となってバイデンの道を阻む。 バイデンが耐え――しかし一撃に飛び込んだ鮮やかな神速の光弾と迅雷の刃に、呼吸を終えた。 流の背丈ほどはある大刀が、砕かんとばかりに盾を削る。 バイデンの剛腕を、小柄な部類の流が懸命に凌ぐ。 彼女ともう一人に狙いを据えた敵は、他のバイデンと対峙する仲間に向かう隙を与えない。 「っ……魅零さん!」 半歩、足が摺り下がる。また一段、押し込まれた。 「貴方が倒れたら誰がバイデンに痛みをお返しするんです?」 盾の持ち手から血が滲み、つややかな白糸を重くする。 流の背に、彼女を庇い深手を負った魅零が額を荒野に落としていた。 「うちのことは気にせず、思いっきりやっちゃってください!」 「諦められないなら其処を退け! 首を刎ねてやる」 守ってくれた友の背を、今は身を盾に護り、少女は気丈に睨み返す。 いひひ――声に振り向かずとも、理解したのは少女。 眉を上げ、背筋を震わせたのは最後に立つバイデン。 「まだ、まだ戦える。戦えるよ」 反芻し、言い聞かせる。遠のく意識を、運命で、友の声で引き戻した。従えた。 「それでこそ――!」 倒れこむように、前へ――伸びた刃が煌めく。 下段に受けた盾が、歓喜したバイデンの武具を持ち上げる。 そこへ身を削る技巧の刀身の悲鳴を無視して、踏み込んだ。 「痛みを知れ、バイデン!!」 「痛みを忌む戦士がいるものか!」 剛腕が唸る。 逆袈裟に刃が奔る。 赤い腕は諸共に二人を薙ぎ払い――バイデンが笑う。 そして呪詛に抉れた身体を前へ、投げだした。 戦場の一角で、勝鬨の声が響く。 血に汗に濡れた姿で、リベリスタが視線を交わす。 「一戦、制しましたね」 「通さずに、すみました」 声を枯らす風に紛れて、清浄なる力の片鱗が彼らを祝い、リベリスタは本隊を振り返る。 ――箱舟の復讐戦の行方を探すかのように。 「愚かなバイデン。ね、楽しかった……?」 鼓動を絶やす瞬間にも戦いを望む鏡面に、魅零自身の姿が映り込む。 戦わない世界を求める骸が、その瞳の中で口角を上げた。 「――ああ、『面白かった』とも」 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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