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親愛なる少女へ

●私をお読み
 ――例えるなら、それはコーカス・レースだ。

 「アリス」
 
 唇から丁寧に音を紡ぐ。大切な彼女の名前。
 繋いだ掌の暖かさ。二歩だけ先を歩いて、それから振り返る。
 微笑む彼女の顔。視線を交差させる。
 自分の元へ引き寄せようと、その細い腕を引いてやる。
 まるで、運命みたいな引力。
 彼はどうしようもなく彼女を愛したし、彼女もまた、どうしようもなく彼を愛した。
 
 だからこれは、どうしようもなかったのだろう。

 トラックのクラクション。
 それが、コーカス・レースのスタートサイン。

●親愛なる少女へ
「コーカス・レースの終わらせ方、知ってる?」
『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)が小さく呟いた。
「……アリスという名前のある少女が、交通事故で亡くなったの」
 抑揚の薄い、幼い音色。言葉を選ぶように、彼女は慎重に唇を動かしていく。
「このアリス――の幻影を追い続けるフィクサードの対処をしてほしい。数はひとり。二十代後半の男性。ぼんやりしてて、ぱっと見は全然冴えない感じ」
 至って平坦に、努めて淀みなく。イヴは説明を続けていく。データを印字した資料。手元にあるそれへ視線を落とす。集まったリベリスタ達の視線を一身に受けながら、彼女は別の世界を見ている。
「男は恋人だった少女を、交通事故で失った。その現実を受け入れきれず、さまよい続けているの。"アリスは白うさぎにつれていかれた"、そう思い込んでる」
 イヴはうさぎの形をしたバッグを無意識に撫でる。リベリスタ達の瞳もまた、無意識にその仕草を追いかけた。やがてその指先も、資料をめくるために呆気無くうさぎから離れていく。彼女はそれに気付かない。ただ少しだけ、首を傾げただけだった。

「このフィクサードには奇妙な特徴がある。注意して聞いてほしい」
 イヴが顔をあげると、モニターが人工的な音を立てた。
 そこには、曰くフィクサードの奇妙な特徴が列挙されていた。
「もうわかったと思うけれど、こいつは"愛しのアリス"を見つけるために、"アリス"を名乗る女性を狙う。そして、"愛しのアリス"じゃない偽物と決めつけて、殺してしまう」
 彼に接近し、自分の名前が"アリス"であると告げれば、自ら人気の無い場所へと誘い出して来るだろう。ただし、二人以上が同時に宣言したところで、よほどうまく誘導しない限りは最初の"アリス"を狙い続けるらしい。
 だがこの性質をうまく利用すれば、戦いを有利に運ぶこともできるはず。
 イヴが目蓋を閉じると、モニターもやがて映像を消した。
 
「これはまるでコーカス・レース。
 いつの間にか始まって、いつまで経っても終わらない」

 ――ねぇ、あなたなら。
 ――どうやってレースを終わらせる?

 窓の外。三日月だけが、薄く笑っているようだった。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:箱屋  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2012年08月22日(水)22:22

お目にかかれまして光栄です。
箱屋と申します。

■成功条件
敵の討伐

■敵データ
フィクサード『ドードー』
 二十代後半のぼんやりした男性です。
 "アリス"を名乗る人物を集中的に狙いますが、男女は問いません。
 "アリス"役の途中交代は不可能ではありませんが、それらしいキーワードがない限り、難しいです。
 鳥の羽を実体化して戦います。
 →ワシの羽:鋭い羽を遠距離射出して攻撃します
 →オウムの羽:大きな羽を展開して身を守ります

■備考
目標との接触は夜間、イヴが指定した場所に行けば可能です。
人気は無く月明かりがあり、戦う広さも充分にあるため、環境に困ることはありません。
どのように接触するか、どのように戦うか、吟味くださいませ。


皆さまの物語を、楽しみにしております。

参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
マグメイガス
雪白 音羽(BNE000194)
ホーリーメイガス
天城 櫻子(BNE000438)
覇界闘士
加奈氏・さりあ(BNE001388)
ホーリーメイガス
如月・真人(BNE003358)
ホーリーメイガス
メイ・リィ・ルゥ(BNE003539)
クリミナルスタア
遠野 結唯(BNE003604)
ソードミラージュ
フラウ・リード(BNE003909)
ソードミラージュ
メリア・ノスワルト(BNE003979)

●私をお読み
 堂々巡りのコーカス・レース。
 始まりの合図は、私ではなかった。
 だから、終わりの合図を待っている。
 待っているんだ。
 ずっと。
 ――……ずっと。

●飢渇の為のレース
 三日月だ。
 宵闇を抉り取る角度。笑っているみたいな白さ。夜空から刳り貫かれた月が、このおぞましい世界を引きつった笑みで見下している。人であろうものが、人であらんとした物を、狩り取るための夜を監視している。
 だから今夜は、とても明るい。
「なんなんだろな~。 逆恨み……じゃないよね」
 物陰に身を潜め、『エターナル・ノービス』メイ・リィ・ルゥ(BNE003539)がぽつりと呟いた。息を殺しているのは、彼女だけではない。雪白 音羽(BNE000194)は気配ごと自身を殺して闇へと溶け込み、彼を始め他の者も皆それに倣った。月が見張る明るい夜において、少しでも自身の存在を殺さんとしてそれぞれが物陰へと身を寄せていた。
「……きっと、本物のアリスは先に時間が来て、ゴールしちゃったのにゃ」
『マッハにゃーにゃーにゃー!』加奈氏・さりあ(BNE001388)が、口の中だけで小さく言葉を零す。バラバラにスタートして、自分だけの意志で終わる無味乾燥で無意味なレース。ゴールさえすれば、誰もが賞品を貰えるという魅力的な競走。男はそれを否定したのだと。恋人のゴールを、認めたくないのだと。さりあにはそう感じられた。
「運が悪かった、と言えばそれまでだろうが……。
 私個人がドードーの気に入らない事は、別の部分だ」
 彼女の言葉を引き継ぎ、メリア・ノスワルト(BNE003979)が凛とした音色を響かせる。宵闇であってもなお光を射抜く瞳の奥。騎士然としたその姿に戦慄いて、星々が見を振るわせた。
 
 彼らの視線の先。
「こんばんは、お兄さん。今夜は月の綺麗な素敵な夜ね」
 柔らかい金髪と、白く細い両腕。
「私は、"アリス"」
 それはまるで、夢にまで見た。
「貴方は私を連れて行ってくれるのかしら?」
『LowGear』フラウ・リード(BNE003909)が、"男"に向かって囁いた。

●指貫の為のゴール
 笑う月夜だ。
 人気のない道を、2人で並んで歩く。穏やかな歩調。男の方が半歩だけ早い。触れそうで触れない手の感覚。肩越しに振り返る、冴えない微笑。
 "アリス"を見た男は、出会い頭にこう言った。
「少し、散歩をしませんか」
 無論断るはずもなく、フラウはそれを快諾した。
 深夜の通りを抜けて、路地裏へ。暗がりに連れ込まれるかと身構えたが、すぐにひらけた場所へと出た。雑居ビルの森を切り拓いたようなデッド・スペース。広さこそ充分にあるとはいえ、四方へ延びる狭い道以外、そこから抜け出すすべはない。
「――君は」
 その中心。自らの意志で歩みを止めた男は、やがてくるりと振り向いた。
 力なくフラウへ微笑み、肩を竦める。

「アリスではないね――?」
 
 たった一秒きりの出来事。
 茶けた翼が翻される。男は悲しそうに笑っていた。
 可哀想に。これから君は、私によって"アリス"になる。 
 射出された羽先がフラウへと降り注ぐ。回避は間に合わない。数枚の羽を見る。迷いのない軌道が、肩へ。舌打ちをする音と同時に、ソニックエッジによる連撃を打ち返す。男はわずかによろめいた。
「今から私が、貴方の"愛しのアリス"のもとに連れて行ってあげましょう」
 フラウの言葉を合図に、四方の路地からリベリスタが飛び出す。真っ先にさりあが戦場へと踊り出て、クローを男の脇腹へと叩き込んだ。『プリムヴェール』二階堂 櫻子(BNE000438)が祈るように加護を求めれば、場のリベリスタが翼による祝福を授かる。
 男の翼では空は飛べない。
 神の遣いを模した如きその姿に囲まれて、男はぼんやりと彼らを見渡した。
「それだけ聞くと悲劇の物語。
 けれど、実害は出してはいけないですよね?」
 流れるように如月・真人(BNE003358)が櫻子からスキルを繋ぎ、負傷した"アリス"の傷を癒す。男はそれを一瞥だけしたものの、しかしそれ以上の興味を持つことはなかった。
 戦場を広く眺め距離を保つ『アヴァルナ』遠野 結唯(BNE003604)のバウンティショットが、男の傷口をさらに抉り取る。苦痛に顔を歪む姿を見据え、なおも結唯が表情を変えることはなかった。必要だから、攻撃を与える。そこに罪悪の感情などない。彼女もまた、このレースを終わらせようとしているだけだ。命という万物に共通するエネルギーを奪うことで、潰えてしまえと思うだけだ。
「女は追いかけるより振り向かせるもんじゃねーか?」
 四つに織られた音を叩きつけ、音羽は言う。
 夢をみるのは、楽だろう?
 だが、そこで立ち止まっていては、彼女が安心できない。
 しかし、だからこそ男は笑う。
 ああ、とても、楽しいと。
 こうしている限り、彼女は死なない。
 続けている限り、彼女を求めている自分自身がいる限り、彼女は生きている。
「"アリス"は生きているんだ……!」
 掠れた絶叫。凝固した害意と、凍結したまま愛情。泥濘に浸り、澱み腐った在るべき渇望。もしも、言葉が刃となる、という台詞を信じるならば、正しく彼の喉は血に塗れているに違いない。
「……アリスと言う存在は、お前にとって――ただ、名前だけで、区別される物だったのか?」
 メリアの悲痛な声に、男は同じ色の笑みを浮かべた。
「ボク達じゃ悲しみ癒すどころか、こんなかたちでお話を終わらせるしかないんだね」
 メイの魔法陣から魔力で形成した矢が射出される。男の腕を射抜いた。それでも男はメイの方を見向きもしない。
 "アリス"へと踏み出す。掌を、上へ。
 まるで、ダンスへ誘うように。差し出して、頭を下げる。同時に、羽が舞い飛んだ。フラウへ目掛けて、幾十もの羽が舞う。それはナイフにも似た鋭利。運命を穿つ剣だ。物語を書き換えるための羽先。終止符ではない。男はそれを認めない。
 コーカス・レースは、終わらせない。
 男はフラウのみに翼の洗礼を与え続けた。
 他の者など、存在しない。世界は、初めから二人だけのためにあった。二人だけの世界に、足を踏み入れた贋作。
 否定しなければならない。これは"愛しのアリス"ではないから。
 否定しなければならない。"愛しのアリス"がこんなところにいるはずがないから。
 否定しなければならない。これはアリスの振りしたメリー・アン。
 否定しなければならない。――アリスはどこにいるのだろう。
「時間が来たことを認めたくなくって、ゴールしないで彷徨ってるみたいなのにゃ」
 男はオウムの羽で身を包む。光と音を覆う羽が、彼を現実から遮断する。だが、さりあが連続ねこぱんち、と名付けた連撃によって、それは打ち砕かれた。負傷は免れたものの、男の顔には疲労ばかりが浮かんでいる。
 誰もが賞品を貰えるレース。けれど、終わらない限り、それは永久に手に入らない。
 だからこそ、さりあは宣言する。
「さりあ達が、――ゴールさせてやるのにゃ!」
 フラウが傷付く度に、真人と櫻子が神の使いからの吐息を与えた。真人の人工的な両腕。そこから生み出される、有機的な吐息。怯えた様子は見せない。戦うべくして、ここに立っているのだから。決意はやがて優しい吐息となって、味方に対しての追い風となる。
「例え、それが受け入れがたい事実を孕む事であったにしても……彼女が、可哀想だろう」
 誇り高き騎士は、志を以て相手を斬る。諦めという言葉は、おおよそメリアには相応しくない。初めから誂えられたように、彼女にはそのような概念に屈さない。真っ直ぐと前だけを見る瞳には、きっと、運命さえもが跪く。
「そろそろそらしてる事実に目を向けろ」
 気付いた頃には、思い出さえも過去になる。手遅れになるのだ。音羽はそれを知っていた。夢の世界は優しすぎて、足元の泥沼にも気付かない。だからこそ、沈む前に目を覚ませ。彼の言葉に共鳴し、四つの音色が男を引き裂いた。
 音羽と入れ替わるように、結唯が男の脚を狙う。決して逃がさない、という意志。強い意志こそが、世界と繋がる楔となる。
 それを認めるために、メイの周囲に魔法陣が浮かびあがった。幾重と重なる陣の展開。
 悲劇を終わらせるには、惨劇くらいが、丁度良い。
「本当は、もう、気付いているのでしょう?」
 宝玉色をした瞳を細めて、櫻子は彼に問いかける。男は彼女を見ない。だが静かに、首を振った。聞こえない、のサインなのか、それとも、否定を表すジェスチャーなのか。或いは、何かを諦めている、という仕草だろうか。
「――そう、アリスと同じ場所に連れて行けばイイじゃねーっすか」
 "アリス"が誘う。同じ場所へ行こうと誘う。導くための白兎が夢と幻による御伽噺であるならば、導かれたアリスは血と泥による現実だ。フラウが疾く二刀のナイフを振るう。斬り裂かれた空気が悲鳴を上げる。僅かに遅れて、男からも血が吹き出した。
 白い薔薇を染めるには、少しばかり物足りない。
 
 "アリス"による断罪。
 それが、彼にとって最期の現実となった。

●勝者の為のエール
 月は笑っていないようだった。
 惨劇の夜に怯えた月は、さっさと逃げ出し眠ってしまった。代わりとばかりに地平線から顔を出した太陽は、バケツをひっくり返したような陽射しで、何事も無かったように街をオレンジ色に染め上げた。
 そう、誰だって。過ぎ去った悲劇は喜劇でしかない。
 これはそんな、静謐な夜明けだった。
「これでコーカス・レースもお仕舞いです」
 櫻子は息を吐く。長く深い呼吸。肺に酸素を取り込むことで、自分の身体を日常へと定着させることが出来るのではないか、と試してみたくなった。
 まるで、スタートさえしていないように。
「きっと、ドードーは全部わかってたんだにゃ」
 男はフラウに"アリスではない"と言った。
 過去に襲ってきた"アリス"にもそう言った。
 男は全部知っていた。
 "アリスではない"と認識するということ。
 それは――"愛しのアリス"がもうこの世にいないことを、頭の何処かでわかってたから。
 だが、他人によって始められたコーカス・レースは、他人ではないと終わらせることができなかった。自分自身の意志が介在しない、無味乾燥な木偶レース。
 彼は、何を殺していたのだろう。
「神秘の番人、終わりなき戦い……。
 アークがしている事も、この男とさして変わりはしないだろう」
 踵を返しながら結唯が呟く。
 そうきっと、自分たちにはゴールなんてあるはずがない。
 もしも終わるとするならば、それはレースを降りる時。
 即ち――戦いを、自らの意志で止める時だ。

 コーカス・レースは、終わらない。
 自分自身が、ゴールを認めない限り。


■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
ご参加頂き、ありがとうございました。
また、納品が若干遅くなりまして、失礼いたしました。
少しでもお気に召しましたら、幸いです。

ところで、皆さまのコーカス・レースには、
きちんとスタートとゴールはお有りでしょうか。
迷われないよう、お気をつけて。
私は途方に暮れてます。

それでは、またのご縁を心よりお待ち申し上げます。