● 大切なのは、世界ではなく人であった、 何も知らぬ家族の為、共に戦う仲間の為、例え自分が傷付き死したとしても構わないと、その覚悟はできていた。 けれど。 「ハーイ、目ぇかっ開いてね」 寒気は、流血や体の下に広がるコンクリートから伝わる冷気によるものではない。 重石をつけて巨大な水槽に投げ込まれた母の姿に、全身が冷えていく。 「アンタがさぁ、ウチの可愛い可愛い家族ドーゼンのヤツら殺しちゃったからさあ、ほら、お返しは等価じゃないとね?」 嘘だ。弱い連中を真っ先に切り捨てて、特攻同然に死なせたのは、今自分の背を踏みつけて白々しく嘆くこの男だ。 水槽を叩く母に、自分は見えているのか。 目を抉ろうとした手は、革靴に踏み付けられる。 やがて、母は動かなくなった。髪が、ゆらゆら水草の様に揺れている。魚の様に目を見開いたまま、死んだ。 ククッという笑い声と共に、耳元に一つ囁きが落とされる。 「ああそうだ、一個イイ事教えたげる。アンタのカノジョもまだ生きてるよ。瀕死だけどね」 うまく動かない指に力が入り、白くなったのが分かった。 「どうする? 次はカノジョ連れて来る? 目の前でナニして欲しい? それとも最初はお姉ちゃんにしようか? 割と美人だったねーえ、嫌いじゃないよ、ショートカットも」 周囲からは、男に遠慮しているのか控えめな、それでも嘲りに満ちた笑いが響く。 何が望みなのか。 ロクに声も出ない状況でも、視線で問いを察したらしい。 男が、嗤う。 「そうだね、3倍返しって言うじゃん? アンタが殺したウチの連中が6人。ああそうそう、アンタに仕事邪魔されたせいで責任取った10人分もプラス。合計で……48人殺したらチャラって事で」 革靴が、退けられた。 男が覗き込む。細い体に所狭しと彫られたタトゥーまでも、嗤っている。 「どうする? ちなみに『ハイ』以外だったらとりあえずあの死体膾にするけど」 その後は誰にしようか。そうだ一人羽持ってんのいたよね、千切る? 仲間の一人を指す楽しげな声に殺意を覚えても、実力差は埋まりはしない。 打ち据えられて実際に血を吐いた喉が、掠れた声で返答を紡いだ。 笑みが深くなったのが、気配だけで分かる。 「安心しなよ。この『嗤笑』様は裏野部の中じゃマトモに約束守る方だって評判なんだから、さ」 けけけけけけ。 ● 『すみません。緊急です。ああはいそうです皆さんのお口の恋人断頭台ギロチンです』 唐突に繋がった幻想纏い。零れた『スピーカー内臓』断頭台・ギロチン(nBNE000215)の声は晴れない。 『これから、とあるリベリスタ……現状だと元リベリスタ。新井・昴という少年が、駅前で裏野部フィクサードを伴い周辺の一般人を殺します』 何故。問うより早く言葉は続いた。 『彼は裏野部の一味に、家族と、仲間を囚われています。解放の代償が、一般人の命。……『ノルマ』と呼ばれる数を達成するため、彼はひたすら一般人を殺すつもりです』 硬い声。 その状況でリベリスタに要求される事は、一つしかない。 彼の家族は、今はどうなっているのか。 いっそ、『既に殺されている』のならば、説得のしようも――。 誰かの胸に一瞬だけ過ぎってしまった思いを、ギロチンは溜息と共に否定した。 『……彼らはまだ、生きています。もし、昴が『ノルマ』を達成したならば、この殺戮と家族や仲間の身柄をネタに部下に引き込むつもりなのでしょう』 彼は、優秀だから。心を折り砕いて、生かさず殺さず使い潰すつもりだ。 だが、もし自分達が彼を止めたらどうなるのか、という問いを誰かが発する。 続いた僅かな沈黙が、何より雄弁に答えを語っていた。 『……殺されます。ごめんなさい。ぼくらには彼らがどこにいるかまでは分かりませんでした。昴が凶行を起こす場所よりも、離れた場所であるとしか。……ごめんなさい。……間に合いません……』 昴の為に、一般人の大量殺戮を見逃す訳にはいかない。 数で言えば圧倒的に、彼によって殺される方が多い。 だから、昴を止めないとならない。 それが、彼の大切な人を殺す行為だとしても。 『無理ならば、切って下さい。……受けて下さる人は、このままで』 沈黙。 呼吸三つ分程待ってから、幻想纏いの向こうでフォーチュナは口を開いた。 『状況説明を、始めます――』 ● こちらに背を向ける親子連れ。 父と母に挟まれた子供。 何も警戒していない、日常。 抜き放った刃が、その背を、首を、切り裂いた。 「ワンツースリー! っはあ、スバルちゃん飛ばしてるぅ」 「後45、頑張れよ!」 悲鳴も、野次も聞こえない。 赤だけが、視界を埋めていた。 実感の湧かない『世界』なんて巨大なものを守りたかったんじゃ、なかった。 簡単に揺らぐ『正義』なんて大層なものを掲げたかったんじゃ、なかった。 傍で親しい人が、ずっと笑っていられればと。 それだけを。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:黒歌鳥 | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年08月18日(土)22:33 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 「……中々、多いですね」 公園が近付くにつれ明らかになっていく喧騒に、『戦士』水無瀬・佳恋(BNE003740) が僅か眉を寄せた。 フォーチュナが語った新井・昴の『ノルマ』は四十八。 それを達成するのに十分なだけの人数を、この公園は抱え込んでいるのだろう。 夏休みのイベントは、面倒な事に盛況だ。思った以上に。 楽しげな家族の声が、一層『禍を斬る剣の道』絢堂・霧香(BNE000618)を憂鬱にさせる。 「もしも、大事な人が」 その先は紡がない。考えたくはない。大切な人の命が、自分の行動一つに掛かっているとしたら、恐らく自分も何でもしてしまうのだろう。けれど、それは許されない。 「どのような事情であれ、一般人を害するなら討つしかありません。それが私達の仕事、なのですから」 「ええ。例えそれが、どういう経緯であったとしても」 そんな霧香をちらりと見ながら告げた佳恋に、『銀騎士』ノエル・ファイニング(BNE003301)が髪を靡かせながら眉も動かさず同意した。 根源を辿れば裏野部だ。だが、行動を起こすのは昴だ。ならば倒す。簡潔だ。 「ま、世界を守りたいと言うは容易くも、人の世界など案外狭いものよ」 お主らは分からんがな、と笑いながら、『陰陽狂』宵咲 瑠琵(BNE000129)が式符を取り出す。 人を構成するのは目に見える範囲、手の届く距離、親しい者。 それらの日常は、間違いなく『世界』だ。 「それ自体は、悪くはないがの」 守りたいものを守る。それは良い事だろう。 方法と結果の善悪は別として。 「同情の余地と、手加減はまた別です」 手甲をなぞりながら、『蛇巫の血統』三輪 大和(BNE002273)が呟いた。 大切な人を奪われた。それ自体は同情できるかも知れない。 けれど、大和にも、そしてあの場所にいる多くの人にも昴と同じく大切なものがある。 それを奪うというのならば、彼も結果として裏野部となんら変わりはない。 そう、もしかしたら、今向かう自分達さえも。 それでも。 「あたしが無理って言うと思ったのかしら、あの子は全く」 『蒙昧主義のケファ』エレオノーラ・カムィシンスキー(BNE002203)は首を振る。 本当を嘘にして下さい。ぼくを嘘吐きにして下さい。 フォーチュナが吐き出す言葉は、倍以上の時を重ねて嘘と真実を等しく織り交ぜた彼にとってはそれこそ児戯にも似て。呆れた調子の吐息さえも嘘に塗れ、ただ只管に、目的に。 「突っ込むぞ――!」 動物を模ったベニヤ板。人垣が途切れたそこに向けて、『硝子色の幻想』アイリ・クレンス(BNE003000)の剣が振るわれた。 ● いきなり破壊された壁に、起きたのはどよめき。 『ナイトビジョン』秋月・瞳(BNE001876)が下ろした翼、それはリベリスタと対角線上に位置する新井・昴が、行動を起こす合図ともなった。 闖入者がリベリスタであったならば、手早く数を殺さねばならない。 『嗤笑』が寄越したフィクサードであったならば、人がどよめいた今『殺れ』という事。 無言で駆け出し一閃した彼の前で、夫婦の体が別たれた 突如自分の腕にかかった重みが、左右の手を引いていた両親の腕の重量だと気付く前に、その間にいた幼子の胸にも刃を突き立てる。 上がる悲鳴。 いきなり飛び込んできたリベリスタと悲鳴に困惑した人々が、それでも惨劇が人波に泥んだが故に不安を含めど危機感薄く囁き合う。 なんだ。何が起きたんだ。 どうしたの。え、何。 「これはイベントではありません! 繰り返します! これは、イベントではありません!」 その人々に、大和が必死で声を掛ける。 するりと紛れ込んだ佳恋が、奥――本来ならば入り口であるはずのそちらへ目を向けた。 家族連れの多いこのイベントには明らかにそぐわない、柄の悪い男達。 彼らが、一斉に散開して行く。 「そなたらを狙っている! 逃げよ!」 アイリの叫びもそれに加わるが、舞台衣装のようなものを纏った高校生程度の少女の、些か芝居がかった言葉に更に困惑を深めるばかり。 だが。 「……人殺し!!!」 一人の母親が叫んだ直接的な言葉に、一斉に人々がざわめきだす。 出口に殺到しそうな流れに、瑠琵が人ごみの中で声を上げた。 「壁に開いた穴からも逃げられるのじゃ!」 その手に握っていた符は影となり、別の壁を突き崩す。 転んで泣き出した子供を、白い手が掬い上げた。 「戻ってきちゃ駄目よ」 ぐい、とその手を引いて人の少ない出口に追いやりつつ、エレオノーラが駆ける。 「出口はあっちです!」 右往左往する人の間を縫って叫びながら並走するのは、霧香。 その目線は、先程赤が散った場所――昴の居場所へと、真っ直ぐ向けられていた。 一方、フィクサードの抑えを目的としていた四人はその視線を交し合う。 厄介さを鑑み優先順位を定めてはいたが、エネミースキャンも持たぬ彼らが『最初の目標』を絞る手段は限られる。即ち距離か、勘。 昴を除いたその数は七。構成は不明。後ろにいるのは回復役か、それとも昴の周りで一般人を足止めするつもりの麻痺部隊か。 迷っている暇もなく、大和の気糸は子供に手を伸ばそうとしていたその内の一人を縛り上げた。 同じように、家族連れの前に立ちはだかった佳恋はその真っ白な長剣を抜き放ち、人の少ない場所へと叩き込む。瞳によって施された加護により、とん、と一息で飛んだノエルが、弾き飛ばされた男へと放つのは必滅の一撃。 恐ろしい程の威力を持ちながら狙いさえも鋭いその槍だが、男はぎりぎりで耐え凌いだ。 「速攻で潰すぞ!」 アイリの咆哮は、ハッタリではない。 優れたダメージディーラーであるデュランダルやソードミラージュの多いこの陣営でリベリスタが立てた作戦は、最大火力を用い、裏野部の取り巻きをまずある程度打ち払う事。 それは、ある程度うまく行っているようであった。 ――この時は。 未だ人は引き切らない。 子供とはぐれた親が、親とはぐれた子供が、人波を逆走し列を乱した。 周囲に注意は払いながらも、瞳は公園を飛び越えた遠くの景色を見る。 伝え聞いた露原の性格からして、こんな『出し物』を見ないで済ますとは思えない。 だとしたら、どこかで直接『観賞』しているのではないか。 そんな推測の元、視線を動かしていた瞳は気付く。裏野部のフィクサードの手や体に、それぞれカメラの様なものが付いている事に。 「……ライブ中継か。良い身分だな」 そうだ。フォーチュナは言っていた。『離れた場所』であると。間に合わないと。 彼の大事な人は、助けられないのだ。 どうしても。 ● 「昴さん。ダメだよ」 噛みしめた唇を離して、霧香が前に立つ少年に告げる。 茶色の髪を血に濡らした、同じ年頃の少年。風を纏わせた桜の刃が、その体へと向けられた。 「仲間を、大切な人を助ける為だって言うのは知ってる。けど、ダメだよ……!」 「…………」 彼は答えない。 「あたしが、もし助けられる立場だったらこんな事で助けられても嬉しくない」 彼女は冷酷ではない。割り切れない。けれど情に流されるほどに幼くもない。 「あなたの手が取り返しの付かない程汚れてしまったら、嬉しくない!」 失われる命と、目の前の少年の葛藤とを天秤に掛け、より禍となる方を切り捨てる為に。 喋らぬ当事者よりも悲痛な声で叫ぶ少女に、昴が刃を下ろさぬまま口を開いた。 「じゃあ」 声は硬い。冷め切っている。 「あんたが『俺』だったら、どうする。嬉しがらないだろうから、そのまま殺された方がいいと思うか? ……『俺はお前らの為にも手を汚したくない、だから死ね』と思えるか!?」 「……っ」 荒くなる口調と内容に、霧香は即答できない。 真っ直ぐな少女の心からの叫びだったからこそ、昴も堪え切れなかったのだろう。 溢れた言葉を押し戻すかのように、少年は刃を顔の前に構えた。 「ねえ。貴方が奪う命にも、貴方と同じ様に大切な人がいる。裏野部と同等に堕ちて奪う覚悟はあるの?」 詰まった霧香の横合いで煌いたのは、エレオノーラの刃。 掌に光るラインは実用性を突き詰めたが故に美しく、冷たい。 放たれた一撃は、無言の肯定。 小柄な体を後退させた剣の一閃は、続けざまに霧香と――横をすり抜けて逃げようとしていた父子を切り裂いた。 更にぐちゃぐちゃになる人の流れを少しでも緩和させるべく、琵琶が新たな影人を呼び起こす。 「そんな方法で親しい者が笑顔でいると思うなら。おぬしは立派なフィクサードじゃ。裏野部と同じ、な」 諭すような瑠琵の口調にも、昴は揺らがない。 幼い姿のまま年を重ねた二人を前に、少年は口を開く。 「……構わない。生きていてくれるなら」 そう。 彼は最早何百も何千も自問していたのだ。 裏野部に糸を引かれた殺戮劇の結果助かったとして、仲間がどんな顔をするか。 何も知らない家族とて、自分たちを助ける為に多くの人の命が失われたと知ったら、どんな顔をするか。 けれど、目の前で家族が息絶えるのを見た昴にとって『人質はそんな事を望まない』というのは、既にあまりに都合の良い妄想でしかなかったのだ。 もう、結果が笑顔でなくても構わない。侮蔑であっても構わない。 死んだら終わり。 生きていて欲しい。 だから殺す、関係のない人々を。 矛盾と身勝手。 親しい人の為、罪を全て一人で被る事を『勝手に』決めて手を汚す彼は、顔を歪めた。 耳から引き抜いたイヤホン。放り投げた携帯電話。 『――けけけけ。さっきから聞いてりゃ酷いね?』 漏れた声は、悪意だった。 ● 悲鳴が上がる。 リベリスタにとっては打ち合うに十分な時間でも、混乱した大多数が逃げ切るには足りない。 昴に直接向かった二人――霧香が、優先順位の後方であった一人の気糸に絡め取られたその間隙。別のフィクサードを縛り上げたばかりであった大和がフォローに入るには、間に合わない。 エレオノーラの体を弾き飛ばした昴は、間髪入れずに駆けて追い、彼と瞳ごと人々巻き込み鋭い烈風を引き起こす。飛び散った大人の、子供の血が、エレオノーラの髪を、服を汚した。 『宵咲に蛇の巫女、フィクサード殺しの騎士様か。良かったね昴、アークだ、大歓迎じゃん!』 けたけたけた。 合間に入る笑い声。どこかでカメラ越しにこれを見ている悪意の囁き。 だが、リベリスタにそれを構っている暇はない。 不快な害虫の羽音のように耳元にまとわりつくそれを無視し、各々の覚悟と刃を振るう。 瑠琵とエレオノーラが当たりをつけたアーティファクト。昴の手元に見える腕輪。 シルバー基調のそれは、少年が好んでつけるには仰々しいデザイン。 一度は狙ったものの、脆いものならばまだしも、どれだけで壊せるかが分からない。破壊に掛かる時間というデメリット、昴の行動を減じられるというメリットが現状では釣り合わない。ましてやエレオノーラの一撃はともかく、瑠琵の鴉はあまり細かい場所を狙えるようにはできていない。 リベリスタが最も後回しにしたフィクサード――即ち、動きを止めることに長けたもの達が、しばしばその腕を、足を止める。次の攻撃の時には振り切れていたとしても、速攻を求める作戦では一手が痛い。懸命にリベリスタは刃を振るう。刃の前に身を晒す。 「……このフィクサードよりは、単純に人を襲うエリューションのほうが幾倍もマシ、ですね」 佳恋の長剣「白鳥乃羽々」が、回復の歌を唱えていた一人を切り伏せた。 『あーあー、また倒れちゃった。昴、三人追加』 「…………!」 だが、追い詰められていくのは昴も同様。リベリスタが一人倒すごとに増えていく『ノルマ』に、汚す赤とは対照的に顔が青褪めていく。 幾度目か。 裏野部の一人がその足を引っ掛けた子供と、それを守るように抱いた母親に向けて、彼が刃を振り下ろそうとした時――赤に塗れながら、銀色が割り込んだ。 「わたくしは、同情も憐憫も致しません」 信念の名を冠したノエルの槍が、彼の刃を受け止める。 結果的に裏野部の四人までを叩き伏せたリベリスタが、一斉にその矛先を昴へと変えた。 「どういう形であれ、己の想いを貫こうとする意志は敬服いたします。であればこそ、その報いは受けていただきましょう」 他の誰を奪っても、親しい人を救いたい。 それが昴の信念だというのなら、ノエルの『正義』に反する。 ならば止めよう。その想いを彼女の想いで貫き止めよう。 自分の決断は、常に自分に返って来るものなのだから。 ノエルの言葉に、暗い目の彼は、自嘲を含めながら初めてほんの少しだけ笑って――声を出さず、彼女に向けて震える唇で言葉を紡ぐ。 ……ありがとう。 昴が告げた、最初で最後の感謝。 そこに何が篭っていたのか、最早尋ねる事はできない。 ● 瞳が倒れ、霧香がその運命を代償とし立ち上がった後にまた打たれた。 だが、ノエルと同等以上の威力を持った昴の一撃でも、数を増やしたリベリスタの壁を突破できない。 回復役が回ってきた瑠琵は、影人に避難を続行させながら皆を立たせ続ける。 昴が焦っているのは、最早誰の目にも明らかであった。 けれど。 『――可哀想にね昴。まだまだ足りないよ。まだ四十も行ってない』 携帯電話から漏れた笑い声が、リベリスタの顔を曇らせる。 奪われた命は、決して少なくはないのだ。 裏野部の連中を討つ間、昴の刃にまとめて薙ぎ払われた人々は、もう微動だにしていない。 追い詰められた昴の、体の限界を超えた動きにも佳恋は倒れない。 リベリスタの数は六。対する裏野部は、昴を含めて四名。 まして、昴を除く三人はサポートはすれど致命的になる程の攻撃力を持ってはいない。 溢れる血に、倒れる人に、既に公園は閑散としている。 泣き喚く子供に向かおうとした昴を、ノエルの槍が押し返した。 腹を貫いたそれに、昴が血を吐きながら叫ぶ。 「露原ァ!!」 「……いかん」 その手に握った刃に不穏な動きを感じ、瑠琵が影人を動かそうとする。 けれど。 「俺で、……俺の分、プラスだ」 真っ直ぐ胸に向けられた刃を止める術など、一体誰が持とうか。 止める言葉も手段もなく、少年の刃は己の胸を貫いた。 『――あーあー。駄目でしょ昴。無駄殺しの無駄死にじゃん』 笑い声。この期に及んでまだ笑う声。 『まー割合面白かったからちょっとは考えたげるよ。半分くらいは返してあげる。俺優しいじゃない?』 「嗤笑さん、次はその顔を見せて欲しいものだわ」 白々しい声を、エレオノーラの声が遮った。殴れないもの。 昴の手から腕輪を奪い逃走に転じた裏野部を、薄い笑いを乗せて一瞥する。 「いつか切り伏せてやる。首を洗って待っていろ、外道どもめ……!」 アイリの苦々しい声。 刃も服も青から赤に変わって、それでも尚凛々しく彼女は己の剣を振った。 「……『嗤笑』露原ルイ」 倒れたまま、意識を戻した霧香が、血に塗れた手で地面を掻く。 「……あたしは、お前を絶対許さない。何があっても、絶対に。……絶対に!」 ● 後日。 昴の所属していたリベリスタ組織に、四肢を落とされた人質が『返されて』きた。 虫の息だった彼らは、結局誰も彼も死んでしまった。 十八歳の少年が突発的に起こした通り魔事件として処理されたそれの真実を知るのは、一握り。 昴が奪ったものはあまりに多く、救えたものは無に等しく。 リベリスタが取り零した命を、その双眸に決意を込め叫んだ少女を『嗤笑』は嘲笑う。 けけけけけけけ。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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