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<箱舟の復讐>Panzerjäger

●乾坤一擲の作戦
 ラ・ル・カーナ橋頭堡の防衛戦に敗れたアークは、ボトム・チャンネルまでの撤退を余儀なくされた。
 橋頭堡はバイデンに奪われ、幾人かのリベリスタが捕虜として連れ去られたのである。
 もっとも、敗北したとはいえリベリスタたちの戦意は全く減じていなかった。
 寧ろ仲間が囚われた事により高まったとすら言える。
 今まで異世界の出来事に干渉するべきではないとの意見を発してきた幾人かが意見を変更するほどに。
 戦略司令室の判断を早期に大きく動かしたのは、リベリスタ達の熱烈な意見――即座にラ・ル・カーナに進撃するべしという強硬論だった。
 とはいえ、確実な勝機など無い。
 優位が確実な防衛戦に比べると、今回の攻撃は確実に不利だった。
 前回の防衛戦では、橋頭堡で敵を迎え撃ったリベリスタたちの半数以上が、バイデンたちの撃破撃退に成功している。
 対して、橋頭堡から出撃したリベリスタたちの戦績は芳しくなかった。
 今回の戦いでは、すべての戦いがそのようになる可能性を持っていた。
 そのままであれば、同じような結果を迎える可能性が……高いと言えたのである。

 その局面を打破するために、時村沙織は一つの『戦力』の追加を決断した。
 万華鏡によるバックアップの無いラ・ル・カーナにおいてアークのフォーチュナの能力は従来と比べて大きく低下する。
 だが『万華鏡に頼らずとも高精度の予知を可能とするフォーチュナ』ならば、問題はクリアされるのだ。
 フォーチュナは戦闘能力を持たないが故に最前線に投入し難い。
 だが『戦闘能力を持つフォーチュナ』であれば、ラ・ル・カーナであろうとも問題なく活動できる。
 彼はリベリスタたちの生命をチップとする戦いという名のギャンブルを、別の賭事へと変更するという道を選んだ。
『塔の魔女』アシュレイに『借り』を作る等という先の読めないギャンブルは、本来の彼であれば、決して行わなかったことだろう。
 つまりはアークとは『そういう組織』でるかもしれないという事である。
 そして、そういう者が幾人も所属する組織が大きな規模を誇っているという事は……つまりは世の中、まだまだ捨てたものではないという証かも知れなかった。
 だが、そんな沙織にしても……読み切れなかった事態もあった。
 或いは予測していた上で、仕方ないと諦めたのかも知れない。
 それもまた、アークという組織の……短所であるかも知れないが、特徴である事は間違いないのだから。

●フォーチュナの戦い
 その話を聞いて、最初に浮かんだのは安堵だった。
 アシュレイさんが行くのであれば大丈夫だ、と。
 けれど、続いて浮かんだのは羞恥心だった。
 現実というものを考えれば、そうなのかも知れない……だが、それでは安心するというのは堕落ではないだろうか?
 自分より遥かに優れた人が行ってくれるのだから、全てをその人に任してしまえば問題ない。
 そんな風に考えた自分が……悔しくて、情けなかった。
 命をかけて戦おうという人達がいるのに、自分は安全な所で心配して応援するだけなのか?
 橋頭堡で大きな戦いが起こったと聞いた時の、敗北を知った時の、撤退をしてきた皆の中に、知り合いの顔を見出せなかった時の……あの気持ちを忘れたのか?
 鬼道との戦いの時だってそうだったのに……それらの気持ちは、誤魔化しか?
無力な自分を呪わない為の偽善か?
 そもそも冷静に考えれば、どれだけ優れていると言っても……たった一人のフォーチュナだけで、多くの事象を予見し切れるのか?
 そんなささやかな疑問が、たった1つの希望になった。
 別の意味で、安心できた。
 カレイドシステムの力を借りられない自分の力は……きっと、1にも満たない。
 でも、0.1でも0.01でも良いのだ。
 ゼロでなければ、いい。
 何でもいい、少しでも力に為れれば……恐怖を感じながらも、そう思える自分がいる事が嬉しかった。
 お子ちゃまなのかもしれない、ただの意地っ張りなのかも知れない。
 でも、思ったのだ。
 今回だけだっていいから……『僕にも、仲間の為に命を賭けさせて下さい』って。
 結局戦うのは皆で、私はそれを離れて見守るしかできないのだけど……
 ……自分で境界線を引いて膝を抱えるような真似は、したくなかったから。

 気持ちはそれぞれ違うのだろうけど、同じように行動を起こした先輩たちがいたのも心強かった。
 もしかしたら……ううん、多分、きっと、解っていたのだろう。
 いいよ、とでも言うように……司令は苦笑いして見せた。
 だから……色々思った事はあるけど、唯、ありがとうございますとお礼を言った。
 大人になるなら、この人のような大人になりたい。
 ……司令だけじゃない、そう思える人が……この組織には、アークには沢山いる。
 だから、私も戦いたいのだ。アークの一員として。

●Panzerjäger
 彼方には、戦いの激しさを色濃く残す橋頭堡が見える。
 一部が破壊されたままのそれを眺めていたマルガレーテ・マクスウェル(nBNE000216)は、緊張した面持ちで深呼吸した。
 ラ・ル・カーナへと再侵攻してきたアークの戦力と、橋頭堡から迎え撃つように出撃してきたバイデンの軍勢は、睨み合うように陣形を整えつつある。
 昼間である事も手伝って、その陣容は離れていても充分に確認できた。
 さして間をおかず、彼らは前進を開始するに違いない。
 戦いは間もなく始まるのだ。
「……万華鏡を使用した時と比べると、得られたものは少ないですが……」
 湧き上がってくる恐怖を押さえて、フォーチュナの少女はノートパソコンのディスプレイへと纏めた情報を表示させた。
 怯えはできるだけ、内に押し込む。
 ただ敵を遠くに見ただけで恐れを為すなど、実際に戦う皆への侮辱でしかない……そう思うから。
(自己嫌悪などという贅沢は、あとで存分に楽しめ)
 今は唯、戦場へと赴く人達へ、自分にできる最大限の支援を。そう自分に言い聞かせて。
「今回の敵の攻撃の一部が確認できたんです。巨獣を伴った、バイデンの突撃が」
 電源が無い為に節電モードなのか、薄暗いディスプレイに簡素な敵陣容が表示され、一部に指し示すカーソルが表示された。
「ここで、4頭の巨獣が突撃準備を整えています」
 外見は黒いトリケラトプスのようで、巨獣と呼ぶに相応しい大きさを持っている。
「この巨獣達が突撃を行えば、アークの前線の一部が破られる可能性があります」
 その前に、巨獣たちを突撃の行えない状態にしてほしいんですとマルガレーテは説明した。
「少し大周りで距離はありますが、このルートならその巨獣達にある程度近付くまで、バイデンたちに発見される可能性は低くできます」
 そう言ってキーボードを叩くと、地図の上にルートらしきものが表示される。
「4頭の巨獣の近くには、その騎手である4人のバイデンしかいません」
 もちろん戦いが発生すれば他のバイデンたちが押し寄せるだろうが、気付き、近付いてくるまでに数分は掛かる。
 その数分の間に、すべての巨獣たちを突撃できない状態にする。
「困難な任務ではありますが……」
 そう言いながら少女は、入手できた断片的な情報をリベリスタたちに説明した。
 4頭の巨獣はその外見に相応しい体力を持っているようである。
 凶暴ではあるが騎手たちには従順に従うようだ。
 そして騎手である4人のバイデンは、巨獣たちを操る能力に優れているらしい。
 もちろん個々人も優れた戦士であり、全員が巨獣の骨で作られた武器で武装している。
「危険な相手ですが、この突撃を阻止できれば中央で戦う皆さんへの大きな支援になります」
 マルガレーテはそう言って、リベリスタたちを見回した。
 言葉が、上手く出てこない。
 それでも、何とか振り絞って。
「……どうか、お気を付けて……」
 一言に、上手く形にできない沢山のものを籠めて。
 フォーチュナは、リベリスタたちを送りだした。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:メロス  
■難易度:HARD ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2012年08月20日(月)00:09
このシナリオはフェイトの残量に関わりなく死亡する可能性があります。
参加の際は御自身の胸に手をあて、今までを……大切な方々を、想い浮べ、御熟慮ください。


オープニングを読んで頂きありがとうございます。
メロスと申します。

●重要な備考
『<箱舟の復讐>』はその全てのシナリオの成否状況により総合的な勝敗判定が行われます。
 予め御了承の上、御参加下さるようにお願いします。


■巨獣
全部で4頭。
トリケラトプスの角を大きく長くし、全体的に巨大化させたような巨獣です。
身体は黒色をしています。
突撃してこそ本領を発揮しますが、角のある頭を振り回したり足で踏みつけるだけでも充分な脅威と言えるでしょう。

■バイデン
全員で4名。全員が巨獣の骨で作った大剣を武器として装備しています。
全員が巨獣の近くにいるようです。
騎手としての能力に優れていますが、黒い巨獣を従えるに足る実力の持ち主でもあります。


示されたルート通りに向かえば、数十秒で戦いを仕掛けられるくらいの距離までは接近できます。
突撃に勢いを付ける為なのか、前方にいるバイデンたちが避ける時間を作るためなのかは分かりませんが、4頭と4人は陣容のやや後方に位置しています。
その為、他のバイデンたちが気付き近付いてくるまでに少々の時間が掛かる形になります。
(数分ですが、ある程度の戦闘等を行うには充分な時間です)

4頭の巨獣を突撃できない状態にできれば任務成功となります。
それでは、御縁ありましたら……宜しくお願いします。

参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
クロスイージス
アラストール・ロード・ナイトオブライエン(BNE000024)
覇界闘士
ティセ・パルミエ(BNE000151)
デュランダル
雪白 桐(BNE000185)
ナイトクリーク
源 カイ(BNE000446)
ホーリーメイガス
翡翠 あひる(BNE002166)
覇界闘士
浅倉 貴志(BNE002656)
クリミナルスタア
晦 烏(BNE002858)
ホーリーメイガス
氷河・凛子(BNE003330)


●静寂に、意志を秘めて
「全力を越えてぶつかります」
『境界の戦女医』氷河・凛子(BNE003330)は静かに口にした。
(戦いは常に負けられるものではないのですが、背水の陣に近いこの状況は尚の事)
 これが戦争であることは解ってはいても……
「力を示さないといけない時もあるのです」
 何としても、巨獣のたちの突撃を阻止しなければならない。
「前回の敗北も巨獣を伴ったバイデンの進撃が原因でした」
 彼女の言に、雪白 桐(BNE000185)も同意を示す。
(私達は巨獣の危なさを身をもって体験しています)
「知ってるからこそ、この巨獣部隊は止めなければいけません」
「負けられぬ戦いだからこそ、その力量が試されます」
 熱感知等の能力を使用しての敵位置特定、周囲への警戒等をしている浅倉 貴志(BNE002656)も、今回の任務について考えながら呟いた。
 バイデンたちと真っ向勝負。
(前衛としての力の見せ所というべきでしょうか?)
 後衛で控える仲間のため、自身の全力を以て。
「唯、眼前の敵と戦うのみです」
「みんな一緒に戦ってるんだよ」
(それが例え裏方だったとしても……)
『おこたから出ると死んじゃう』ティセ・パルミエ(BNE000151)は周囲の、荒野の色に似た外套を纏い、隠密性を重視しながらフォーチュナから告げられたルートを進む。
「彼女達の勇気に、必ず応えなければならないのです」
 イーグルアイを使用してバイデン達の様子を確認する源 カイ(BNE000446)も、自身に言い聞かすように小さく口にした。
(今回はマルガレーテさんを始めフォーチュナの方々も参戦してます)
 心配していた捕虜となった皆は、無事に全員が帰還した。
 後はバイデンの侵攻をここで食い止めるだけだ。
(まさか、あっさり戻ってくるとは思わなかったが)
「こうなりゃやる事サクッとやって引き上げますか」
『足らずの』晦 烏(BNE002858)もそれだけ言って、フード付きのコートを押さえる。
やがて8人は、バイデンの中央主力からやや離れた後方に位置する巨獣を、その騎手らしきバイデンたちを確認した。
「負けたままでは済まさない、しつこいのが我々です」
『祈りに応じるもの』アラストール・ロード・ナイトオブライエン(BNE000024)は慎重に距離を詰めつつ巨獣の姿を確認し、攻撃を行う者たちと小声で意見を交わし合う。
 起伏などを利用しながら8人はバイデンと巨獣へと近付いていく。
「さて、上手く落とし所を作らねぇとな」
 烏が誰に言うでもなく呟き、カイはバイデンらと巨獣の位置を比べ、どのように割って入るか等の当たりを付けた。
「誰一人死なせない」
 小さな消え入りそうな声で、でも……とても強い想いを抱いて。
『みにくいあひるのこ』翡翠 あひる(BNE002166)は呟いた。
 難しいし……あんな大きな相手は、とても怖い。
(でも、それでも一緒に戦っているみんなが居るから、大丈夫)
 マルガレーテも、一緒に戦ってくれている。
 仲間を信じ、今できることを精一杯頑張る姿みたら……
「……あひるも、もっと頑張らないとね」
(信じて待っている人のためにも……必ず、成功へ導くわ……!)
 強い想いを籠めて、小声で。
 あひるは皆に呼びかけた。
「みんな揃って、早く仲間の元へ帰りましょう!!」

●それぞれの役割
 突然現れたリベリスタたちに驚きの表情を浮かべはしたものの、バイデンたちに動揺は全くなかった。
 武器を手に、歓声にも咆哮にも聞こえる叫びを発し巨獣の骨で出来た武器を手にリベリスタたちへと向き直る。
 完全な奇襲は不可能だったが、それでも迷彩のマント等によって発見される事を遅らせる事には成功した。
 そのまま8人は自身の役割を果たすように二手に分かれる。
 できるだけ唐突に、かつ迅速に。
 一気に間合いを詰めたティセは、そのままバイデンと巨獣の間に割り込んだ。
 彼女の役目はバイデンの足止めである。
 巨獣への進路を妨害するように位置を取ると、ティセは拳を振りかぶった。
 凍てつく冷気を纏った一撃はバイデンを捉えはしたものの、戦鬼は機敏な動きで直撃を回避する。
 カイもバイデンの一人をブロックするように立ち塞がると、自身の戦闘を援護させる意志持つ影を創りだした。
「一つ手合わせ願いましょうか? まさか断るなんて言いませんよね?」
 問いかければ言うまでもないという様子でバイデンは猛獣のような笑みを浮かべ武器を構える。
 それらを確認しながら、凛子は魔方陣を展開し魔力の矢で巨獣の1体を攻撃した。
 貴志も巨獣へと駆け寄りながら、流れる水のように、攻防自在の構えを取る。
「やり合いましょうか? 巨獣に乗りたいのでしたら私を倒してからどうぞ」
 桐はバイデンの一人に駆け寄ると、そう呼び掛けながら自身のリミッターを解除した。
 烏は射程内に補足した全ての対象へと、厳然たる意志を秘めた聖なる光を放つ。
 アラストールは全身のエネルギーを防御に特化させ完全な防御態勢を整えた。
 あひるは低く飛びながら距離を詰め、マナコントロールを発動させる。
 周囲の魔力を取り込み自身の力を高めた彼女の視線の先で、バイデンたちと4人がぶつかり合った。
 バイデンたちは巨獣の骨で作られた大剣を軽々と振り回し、リベリスタたちに叩きつける。
 重く激しい斬撃を浴びながらも怯むことなくティセは拳を振るい続けた。
「巨獣に乗らないあなた達には負けないよ!」
 そう言って挑発しながら巨獣の位置を流し見して、バイデンが巨獣へと近付き難いような、巨獣に近付き過ぎて攻撃を受けないような確認する。
 今の所は距離を詰めない限り巨獣から狙われる心配はなさそうだった。
 対峙するバイデンの方は、動きを封じることはできていないものの、挑発に乗っているのか今のところ巨獣への騎乗は考えていないようである。
 もっとも、だからと言って油断はできない。
 ティセは精度を数で補うべく拳に、金属のクローに、冷気を籠める。
 同じくバイデン一人と対峙したカイは、全身から放った気の糸で対象を幾重にも縛りあげ動きを封じ込んだ。
 凛子は皆に翼の加護を与え、貴志は巨獣の足元へ到着すると掌打を放ち、破壊の気を叩きこむ事で対象を内側から破壊しようとする。
 桐は全身の闘気を爆発させ、向かい合うバイデンへと強烈な一撃を叩きこんだ。
 限界を超えた力が籠められた巨大な剣はその力を余すことなく発揮し、バイデンを引き裂き、その一部を爆裂させる。
 一人でも倒せれば、全体の負担を減らすことができる。
 そう考えた桐は、能力を使用して巨獣の動向に注意を払いつつも、目の前の敵に意識を集中した。
 強烈な一撃を受けながらも、目の前の戦鬼は衰える様子を見せない。
 戦意を喪失しないのは言わずもがな、寧ろ桐の攻撃に興奮した、喜びに満ちた表情すら見せる。
 始まった戦いに、歓喜するように。
 そう、戦いは始まったばかりだった。
 けれど、残された時間は……短い。
 8人はその間に、結果を出さねばならないのだ。

●戦獣を、駆逐する者
 トリケラトプスに似た黒い巨獣は大きく頭を振り、自分を攻撃した貴志へとその巨大な角を叩き付けた。
 先刻までは自分たちの出番を待ちでもするかのようだった巨獣たちは、周囲の戦いの気に感化されたのか興奮した様子で足を地面に叩きつけ、咆哮を発し始める。
 残りの3頭も暴れ出す前に。
 烏は射界を確保するために体勢を崩さない限界の高度近くまで上昇した。
 一見無造作な連続射撃によって次々と放たれた散弾は、信じられない精度を以てバイデンの腕を、巨獣たちの眼球へと、直撃する。
 攻撃に成功しつつも、煙草を燻らすその表情は決して良いものとはいえなかった。
 本来ならガソリンを用意し最初に火を付ける事で牽制するのが狙いだったのである。
 車でもあれば抜き取れたかもしれないが、生憎持ち合せがなかったのだ。
 とは言え気に病んでも仕方ない。
 出来る事をするだけだ。
「行きたければ私達を倒して行け……それとも巨獣が無ければ戦えんか?」
 アラストールもバイデンに話しかけつつ、十字の光を放つ事で、二重に敵を挑発した。
 後衛で皆が確認できる位置を取りつつ、あひるは魔方陣を展開し魔力の矢を作り出す。
 幸いな事にまだ、皆の傷は彼女の想定には達していない。
「その足……動けないように、させてもらうわ……!」
(あひるだって、力になれるもん……!!)
 貴志が対峙しているのとは別の一体を狙って、マジックアローが放たれる。
 なるべくという感じで足元を狙った魔力矢は、何とか巨獣の足へ命中した。
 直撃はしなかった為に威力は半減したものの、元々の彼女の魔力の高さも手伝って威力の方は充分である。
 巨獣は痛みに咆哮をあげ、あひるへと怒りの視線を向ける。
 足止め班とバイデンたちの戦いも激化していた。
 巨獣への攻撃も考えたティセは慎重に距離を詰めると、バイデンと巨獣を巻き込むようにして雷を纏った拳を、鉤爪を、蹴りを、高速で両者に叩き込む。
 直撃を避けるように動きつつ、彼女と対峙するバイデンは大剣で彼女を薙ぎ払う。
 カイも気の糸によって動きを封じた瞬間を利用して、合間を縫うようにして、精確な射撃で巨獣の後ろ脚を狙撃した。
 もっとも、手数の方はどうしても減少する。
 呪縛によって確率は減少しているのだろうが、バイデンは彼の放つ気の糸の効果を幾度も振りほどき、攻撃を行ってきた。
 とはいえ敵の耐久力を考えると……倒す事と、牽制しつつ攻撃を行う事のどちらが正しいのか……判断は難しい。
 凛子は詠唱によって高位存在の力の一端を癒しの息吹として具現化させた。
 回復を受けながら貴志は只管、土砕掌による攻撃を続けていく。
 巨獣の硬い外皮に影響されない攻撃は、確実に巨獣の足を傷つけていった。
 もっとも、相手は動きまわる存在である。
 巨大とはいえその一部を狙えば、簡単に命中させられる訳ではない。
 攻撃しつつ彼は敵の動きを確認し、適度に集中を挟みながら確実な直撃を狙えるように戦っていく。
 周囲の音を察知する能力を使用しながら桐もバイデンへの攻撃を続けていた。
 幸いと言うべきかバイデンは巨獣へ合図などをする様子もなく、巨獣の足音や唸り声もある程度以上は近付いてくる様子もない。
 一刻も早く倒し、他の戦線へと向かう為に。
 桐は消耗を厭わず、全身の闘気を爆発させた。
 一方、猛り狂った巨獣たちは周囲にいるバイデン以外の存在へと攻撃を開始した。
 貴志やティセを足で踏みつけ、めちゃくちゃに振り回した角で烏を叩き落とそうとする。
 射撃の精度を重視して低空飛行している烏は攻撃を受けつつも、それを利用する形でわざと引き巨獣をバイデンから引き離せないかと試みた。
 冷静に戦況を判断しながら、彼は再び聖なる光を掌へと作り出す。
 バイデンたちは勿論だが、巨獣たちも異常からの立ち直りが早い。
 もっとも、一時的であれ動きを鈍らせることができれば、彼の後に攻撃を行うものにとってその効果は大きかった。
 バイデンと巨獣を合流させぬようにと意識しながら、リベリスタたちは攻撃を蓄積させていく。

●限界、刹那
 リベリスタたちの狙いが巨獣だとバイデンたちが気付いたのは、貴志の攻撃によって一頭が足を破壊され転倒した後らしかった。
 彼らは巨獣達へと指示を出すように大声を発する。
「まさか巨獣に頼らなくては戦えませんか? 少しがっかりですね」
 それを妨害するように、彼らを逆なでするように、カイは対峙するバイデンを挑発した。
「乗っていないと私一人とやりあう実力もないということですか?」
 桐もバイデンを挑発しながら、全力の斬撃を叩き込む。
 凛子も指示を邪魔するようにメガフォン等を使用して大声でバイデンの声を遮ったり、巨獣の動きを妨害しようと試みていた。
 もっとも、巨獣をブロックできるとは流石に考えていない。
 攻撃を行う事で注意を引いたり、相手が目障りに思うように移動したり位置を取る事で、巨獣がバイデンへと意識を向け難いようにと行動していたのである。
 烏は二四式・改を振るって神業のような抜き撃ちを繰り返し、巨獣の目を傷付けた後に狙いを足へと変更し射撃を続けていた。
 アラストールはブロードソードへと破邪の輝きを宿らせ、曇りの消えた刀身でバイデンへと斬りつける。
「油断をするな、そっ首落とすぞ?」
 落ち着いた口調のその物言いは、本人の意図は兎角、対峙するバイデンを挑発し引き付けるという点では大きな効果を発揮していた。
 力強い攻撃と、万全の防御。
 一方が一方を大きく上回る事はなく、両者の戦いは膠着状態へと陥っていく。
「気をしっかり、あひる達は負けないよ……!」
 あひるもまた、癒しの息吹を具現化させる事で皆の傷を癒していた。
 彼女と凛子の力によって、リベリスタたちは重い傷を負う事無く戦い続けていたのである。
 勿論、各人の奮闘もあってこそ。
 ティセは回避力を活かして直撃を避け耐え凌ぎ、カイも回復を受け何とか凌ぎながら精度の高い攻撃でダメージを蓄積させていく。
 桐は自身の再生能力も活かしながら、圧倒的な破壊の力を叩きこむ。
 アラストールは防御力を活かし、同時に的確な攻撃で敵へのダメージも蓄積させていた。
 囮役の4人が簡単に破られる事はないだろう
 継戦能力という点での8人に不足はなかった。
 問題はだから、もうひとつの……時間の方、である。
 攻撃力が……厳しい。
 戦いを察知し接近してくるバイデンらの姿は、既に皆が確認していた。
 ティセはバイデンと巨獣の両方を同時に攻撃し続けたが、直撃を避けられる事もあり本来の攻撃力を発揮できていない。
 カイもバイデンを押さえつつ巨獣への攻撃を行っていたが、どうしても手数は減少してしまう。
 凛子は多くの場合、回復に専念する形になっていた。
 彼女だけでは回復が足りないと判断した場合、あひるも癒しの力を揮っていたのである。
 巨獣への攻撃に専念していたのは、貴志と烏の2人だった。
 タイムリミットが近付いていると判断した烏は巨獣狙いに専念し、射撃とリロードを繰り返しながら巨獣達の脚部へと銃撃を叩きこむ。
 この状況下で桐が対峙していたバイデンを打ち倒し、巨獣への攻撃に加わった。
 アラストールは敵を留めつつ、十字の光で別のバイデンにも牽制を行っていく。
 強力な力を使う仲間たちへと、あひるは回復の合間を縫うようにして力を賦与していった。
 意識を素早く同調させ、自身の力の一部を相手へと分け与える。
 それによって皆が消耗を気にせずに最大のポテンシャルを発揮し、戦闘を続行する。
 ティセは舞うような動きで雷を籠めた攻撃を繰り返し、貴志は全力で注ぎ込んだ気を爆発させた。
 桐も再び破壊の闘気を爆発させ、巨獣の足を狙って爆裂する一撃を叩きこむ。
 傷付いた巨獣の足へと降り注いだ散弾の雨が目的を果たした。
 耳をつんざく咆哮と共に異様な音を立てて巨獣の足がありえない形に曲がり、その体が地響きを立てて地面に付く。
 狂ったように振り回された角が、貴志とティセを傷付ける。
 それを癒すために凛子が詠唱によって稀有なる高位存在へと呼び掛けた。
もう少し。
 誰もが力を振り絞り、全力でそれぞれの責務を果たしていた。
 あと1分、いや数十秒あれば……
 だが、その前に……時は、無情に訪れた。
 イーグルアイを使う必要もなかった。
 このまま戦い続ければ、例え巨獣たちの突撃を不可能にしても……脱出も、不可能になる。
 桐が振るった一撃で、もう一体の巨獣の足を折った。
 それが、限界だった。
 いや、あるいはもう……限界を超えてしまったかも知れない。
 足音は、怒号は、すぐそこまで迫っていた。

●唯、ひとつを抱いて
「みんなっ!!」
 仲間たちへと発された、あひるの声には……弱さを知る者だからこそ抱くことができる強さが籠っていた。
 幾人かの胸に刹那浮かんだ危険な選択肢を、打ち消す力が宿っていた。
 頷いた烏はバイデンたちを牽制するために、意志を籠めた聖光を作り出す。
 彼がその閃光を放つのに合わせるようにして、リベリスタたちは素早く後退した。
 バイデンたちの反応が遅れた一瞬を利用し、一気に距離を取る。
 我に返り追撃しようとするバイデンたちを牽制するように、烏は再び創りだした光を周囲へと撒き散らす。
 そして8人は、走り出した。
 バイデンたちは追撃しようとするが、完全には追い付けない。
 だが、彼らは諦めようとしなかった。
 逃がすのも、逃げるのも同じ事だ。
 かつてプリンスが口にした言葉を証明するかのように彼らはリベリスタたちを追撃する。
 他のバイデンたちも一行に迫った。
 8人は残った力を使用し、振りしぼり、全力で駆ける。
 目的は、果たせなかった。
 それでもせめて……
(みんなで、生きて帰るの!)
 懸命に駆け続け、8人はバイデンらを引き離す事に成功する。
 だが、何とか振り切った安堵も彼ら彼女らの歩みを遅くはしなかった。
 傷や痛みではない何かが、一行へと重く圧し掛かる。
 それでも8人は、全力で駆け続けた。
 この事を、仲間たちへと急ぎ伝える為に。

 戦いは未だ終らない。
 ……必ず。
 想いを抱いてリベリスタたちは……憤怒と渇きの荒野を、駆け続けた。


■シナリオ結果■
失敗
■あとがき■

依頼の方、お疲れさまでした。
普通に倒そうとすれば絶対に間に合わないレベルの耐久力を巨獣達は持っていました。
ですので、様々な手段を講じる事……特に足を攻撃するという方法は極めて有効だったと思います。
戦闘方法も、回復と敵への足止めが確りとした作戦でした。
参戦したリベリスタたちが大きな傷を負わなかった事が、その確かな証です。
ただ……残念ながら時間の方が足りなくなる、という結果となりました。

御参加、ありがとうございました。
今は唯、次の為に。
御身と御心を、お休め下さい。