● 恋ってきれいなんでしょ? ふわふわで、きらきらで、甘ったるい。 ――何故、私は、それができないのかしら。 ぐちゃり、その脈動を止めた。頬に伝ったのは飛び散った赤い液体。 きれいな涙なんかじゃない。だって、きれいな感情なんて私にはないのだから。 愛しい人と絡めた指を離す。また、明日、と少女は照れたように微笑んだ。 一人になった帰り道。 「―――?」 背後から声が聞こえる。 え、と振りかえった少女の表情が怯えに変わる。あら、酷い。 恋を知る表情。嗚呼、羨ましい、それなら。 その気持ちを下さいな。 脈打つものが、ぐちゃりと手の中で潰れた。嗚呼、心ってもらえないのね。 ● 「恋、素敵な言葉ね。甘ったるくてそして苦い、そんなもの」 うっとりとした様に『恋色エストント』月鍵・世恋(nBNE000234)は呟く。 その様子に踵を返しかけたリベリスタにフォーチュナが慌てて依頼よ、と手を伸ばした。 「恋に恋したアザーバイド。欲しいのは、あなたの心、なんてね」 恋のお味なんて、分からないでしょう。心なんて物理的にはもらえないでしょう。 ただ、恋がしたいだけならば一晩の過ちを――などと言う可愛い話ではない。 「心を貰いたいんですって。物理的にね。こう、胸に手を入れて、そこにあるのは何かしら?」 存在しているのはただ血液を循環させるべく働く臓器。なくてはならぬもの。 「彼女は、何故ここに心があると思ったのかしら――恋するその気持ちに触れれば分かるとでも、思ったのかしら」 とん、と自身の胸に触れる。とくん、とくんと規則正しい心音。 「アザーバイドの名前は『蔦女』。顔半分が蔦に覆われたそんな女よ」 お帰り下さいと言って簡単には帰らないだろう。欲しいのだ、恋する思いが、恋する気持ちが。 フォーチュナの桃色の瞳が伏せられる。紡がれる言葉は唯一つ。 「倒してきて、くれないかしら」 今日、一人の少女が狙われる。サヤという高校生の少女。 その胸に抱いた恋心はまだ実りはしないけれど、しあわせに近づく淡い想い。 このままではきっと、その気持ちに触れさせて、と心臓へと手を伸ばす――その先は死しかない。 「これ以上犠牲者を出すわけにはいかないわ。……よろしく、ね」 さあ、目を開けて、幸せの夢の続きを。 「心の中で恋慕うことをね、心恋う――うらこう、というのよ」 淡い、素敵な思いね。フォーチュナは優しげに笑った。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:椿しいな | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年08月10日(金)23:31 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 想う、愛しい人を。その手の届く範囲に居て、笑ってくれる愛おしい人。 『紅玉の白鷲』蘭・羽音(BNE001477)は愛しい人の名前を呼ぶ。彼に恋するまでは恋に恋をしていた。そう思う。 だから、少しでも力に為りたい。自分が感じた事のある、味わったことのある気持ち。 ――この気持ちを伝えて、少しでも満足してもらえるなら。 彼女はラディカル・エンジンを稼働させる。ぎゅいん、人斬りチェーンソーが唸りを上げる。 彼女の腕で小さくラピスラズリの腕輪が煌めいた。あたしはいつでも、彼と共に。 「ねえ、恋のこと、知りたいんでしょ?」 あたしで良ければ、教えてあげる。 目の前で蔦に覆われた手が彼女に伸びる。嗚呼、なんて羨ましいのかしら―― ● 恋に焦がれる。まるで少女の様なその想い。 ――あなたの心に触れたくて。ソレを直訳するなれば、どうなるだろう? 心に触れる。心。其れはきっとこの脈打つ臓器ではない。 「どちらかと言えば脳の方が」 そういう問題でもないか、とリオン・リーベン(BNE003779)は呟きながらも座り込んだ女子高生の前へと滑り込む。サヤは涙を瞳に溜めてじっと彼を見つめた。蔦女が伸ばすその手から彼女を護る様に彼は立ちはだかる。伸ばされた指先はまだ、遠い。 「――!」 この世界の住民ではない女は突如現れた青年に目を見開く。 あなたは、そう問うたサヤの手をリオンはとった。仲間達の背と彼の体で隠れた視界の先、蔦女がそこに居る。だが、彼女はまだ其れを見てはいない。 逃げるぞ、と手を引く彼が纏う空気にサヤは圧倒される。如何してかは分からなかった。だが気圧されるままに頷く彼女を立たせ、戦場から離れる間際、彼の近くでブバルディアの花が舞った。 ひゅん、と淡い色のブバルディアが手裏剣の様に飛び交う。頬を掠めようと杖を握る『戦奏者』ミリィ・トムソン(BNE003772)は臆さない。彼女が奏でるのは戦場ではない。恋だ。 「リオンさん、彼女をお願いします。その間、私が皆を支えて見せますから」 同職の、支援に特化した信頼する男へと見せるのは赤いマントで覆われた華奢な背中。彼は仲間を支えることこそが自分だという。今、サヤを庇い、戦線を一度離脱しなければならない彼へ、少女は向ける。大丈夫です、そう言う様に。 彼らのやり取りを役目に、彼もまた自身の役目へと目を向ける『闘争アップリカート』須賀 義衛郎(BNE000465)は愛用の剣を振るう。舞う花弁がまるで蝶々のように可憐に彼の周りを飛んだ。 回復能力を持つ花。そんな能力は無駄な足掻きだと思い知らせてやろう。体内のギアが加速する。青年は、笑った。 広がる結界。神秘の秘匿を行う『節制なる癒し手』シエル・ハルモニア・若月(BNE000650)の翼は幻視によって隠される。 ――嗚呼、あの方に在りし日の自分を重ねてしまいそう。 語り聞かされる恋愛小説。拙い語り口調から伝わる愛おしい物語。憧れの姉の幸せそうな表情が恋が尊いものだと思わせてくれていた。正に、恋へ恋する。その想い。 「此処は通しません……」 少女の目が『下策士』門真 螢衣(BNE001036)へと向く。同じ中衛位置に居る彼女の腕をブバルディアは切り裂いた。 目の前の蔦に顔半分を覆われた女を恐ろしい、そう思う。恋に恋する。恋に興味を持つ。其れはとても素晴らしく、尊いものだ。その想いの為に次々と心臓を握りつぶすなんて―― 「恐ろしい存在であり、驚異でもあります」 只、その行為は実験動物を殺す人々の真理への追及とどのあたりが違うのか。その結論は出ない。だからと言ってモルモットに為るわけではない。彼らに、否、全ての生物に『抵抗』の権利がある。 「ですから、わたしは全力で抵抗するだけ」 腰のランプが揺れる。『みにくいあひるのこ』翡翠 あひる(BNE002166)の想いも揺れる。彼女は翼を隠す。サヤの視界に蔦女が入らぬようにと配慮した場所。周囲に存在する魔的な力が彼女の身体へと集まる。強力に高まる力。 抱きかかえた絵本。その裏表紙、ピンクのペンで描かれた相合傘。愛おしい人の顔が脳裏によぎる。放つ魔力の矢に乗せて。舞う花を散らし、揺らす。 踏み込む、結界に重ねられる強結界。深く、行われる神秘の秘匿。『破壊の魔女』シェリー・D・モーガン(BNE003862)の放つ雷撃は花を撃つ。 「花も恥じらう妾に向かってくるとは、無礼な花だな」 ――だなんて、冗談。巻き込め、その荒ぶる雷撃に。貫かれるその花。義衛郎が放つ剣戟が生み出す幻惑。翻弄される花が揺れる。 心は何処にあるのか、何故この心の臓器を『心』だと思いこんだのか、誰かが教えたのだろうか―― 「任務開始、さぁ、命がけの恋の教授を始めましょう」 戦場を奏でる少女の命がけの恋。恋の気持ちを教える。其れが彼女らリベリスタの出来る最大限の事なのだろう。 自分の、自分達のやり方で。蔦に身体を覆われたアザーバイドの姿を確認しながら彼女は攻撃の効率動作を瞬時に共有する。 仲間を支える戦線。淡い瞳は、一心におんなを見つめた。 「我が符より、六つ出でて穿て鴉」 生み出される式神。鴉はまるで花を啄ばむ様に其の嘴で襲う。螢衣の長い黒髪が静かに揺れる。 ――だが、そこに女の放つ凍てつく雨が彼らを蝕んだ。全てを凍らせてしまうその勢い。ぶるり、身震いしたシエルはぎゅっと数珠を握りしめる。想いは此処にある、忘れられない思いを、感じる。 「っ――」 此れが彼女の思いなのか、こんなにも凍てつく冷たい雨が女の思いなのか。胸に湧き上がる愛おしい人の事。目線が追い、心を満たす特別な存在の事。 負けれない、そう思う。 「蔦女……! 恋を知れるなら、元の世界へ帰って欲しい……!」 その目はしっかりと異世界の女へと向けられる。開いた絵本から飛び出す『みにくいあひる』。淡い空色の瞳に浮かぶのは薄い涙。 「帰れるなら、居るべき世界で……貴女が素敵な恋を出来るよう、願ってる」 少女の声に、女は顔を上げて、首を振った。帰る場所などない、という様に。 ならば、――居たくない様にお相手しよう。心優しい、平穏を望む少女の魔力の矢が花を散らした。 「さあ、どうも、お待たせしました」 笑った義衛郎の剣はアザーバイドの女へと向けられた。 「おい、お前」 びくり、肩を揺らした少女の肩を叩いたリオンは右手を手で多い左目で魔眼を掛ける。此処から何事もなく帰宅させてやる選択肢もあった。 だが、アフターフォローも必要になるか、と彼女をその場に置く。此処なら安全だ、と彼は一息ついた後、戦場へと駆けだした。 恋に関して、彼女へ言う事はない。戦場を共にする女子達の方が遥かに雄弁だろう。その言葉は彼女らの確固たる証なのだろう。 ――ならば自分ができるのは戦場の維持だ。 送り出してくれた信頼する仲間の華奢な背中が浮かぶ。早く戻らなければ、戦線を支える事が『自分』なのだから。 ● 「好きな彼を想うと切なくて、胸が締め付けられる。切ないけれど、同時に満たされる」 ミリィは胸に手を添える。切なくて、泣き出しそうになる位に締め付けられる胸。その想いが胸を満たす。空っぽな水差しに少しずつ沸き上がる想い。切なくて、けれど何処か暖かい想いが溢れだす。 ――其れを教えてやりたいと思う。まだ、恋をしたことない私では、教えられないかもしれないけれど。 素敵で、切なくて、優しい思いを、自分が無理でも恋を知る優しい仲間たちならきっと。 「恋する女の子は強くて、綺麗で」 ――そして、しあわせの魔法を紡ぐのだから。 ラディカル・エンジンが唸る。涙雨が降る。恋を知る羽音へ襲いかかるその攻撃は痛みを増す。蔦女の攻撃が激しくなると共に羽音の与える攻撃もまた彼女を深く傷つける。 「恋を知るには、自分で恋をするしかないんだよ!」 放たれる破壊の力。全身の闘気が爆発する。彼女の愛おしい人が脳裏に浮かぶ。ルビーの石籠ネックレスが首元でしゃんと揺れた。 「貴女は既に、恋を知ってるんじゃないかな……?」 「ねえ、蔦女、貴女は、恋をしたい相手がいるのかしら……?」 羽音の言葉にあひるは重ねる。恋を知りたい、その願いが恋の気持ちの始まり。恋しい、愛しいとそう思う事がスタート地点なのだ。女の子は誰だって恋心を持っている。 あひるだって、羽音だって、蔦女だって――それを、教えてあげられれば、そう思う。 恋がしたい? 否、恋を知りたい。其れは相手がいなくては生まれない感情だとシェリーは思う。炸裂する赤黒い炎が蔦女を巻き込む。だが、その炎に巻かれても彼女は止まらない。 「――!!」 「おぬし、自分の世界に気に為る相手でもいるのか?」 シェリーの問いに蔦女は攻撃で返した。どす黒く歪んだ感情。まるで其れを表すかのような暗黒の瘴気。じわりとリベリスタ達を傷つける其れをシエルは癒しの微風を送り出す。 「……恋とはなんだと思いますか」 彼女は、目を伏せる。蔦女の動きがぴたりと止まった。シエルの頭に浮かぶ大切な人の姿。仲間の想いを尊重したいと、そう思う。けれど、自分の想いを伝える事もしたいから―― 「恋は相手を想う心から生まれるのではないでしょうか……」 彼女の胸を締め付ける切なさ。その切ない想いが強まるほどに、胸は痛む。その痛みこそが相手に思いを寄せる事。其れこそが恋なのではないか。 恋を求めて、恋を幻視する。天使は優しく笑った。恋を求めるのは、悪いことではないと。 「よしんば誰かの心に触れたとて、所詮は他人の恋心」 そうだろう? 義衛郎は剣を振る。言っても仕方ない事であろうとも、ただ、そう思うから。繰り出す残像が蔦女を翻弄する。 惚れた相手は居る。その愛おしい人を、彼女を想えば想うほど、自分のものにしたいという気持ちが膨らむ。独占欲、そんな言葉で表せるほど甘くはないかもしれない。きっとそういう恋もあるのだ。 ――まあ、オレが男だからかね? なんて、小さく笑う。口元がにやついた気もする。そんな甘い思い、そんな優しい思い。 「他人の心では、意味がないよ」 そうでしょう、彼の剣は容赦なく女を切り刻んだ。 女を覆う不吉の影。忍びよるは不運。占いの結果が現実に及ぼす影。 「ねえ、知ってますか? ボトムチャンネルには意中の相手と恋が叶うか予測するための占いがあります」 アメノコヤネを纏う手をぎゅっと固める。恋占い。その想いを委ねる占い。螢衣は小さく笑う。 貴女の方法では、占わなくたって恋の成就は出来ないと。蔦女の淡い瞳が怒りを湛える。だが、彼女はつづけた。 「あなたが恋を五感で感じることができると想っているうちは」 ――貴女の上に星が瞬く事は一切ありません。 想いを、抱くのが心で有れば、感じるのはなんだろう? 愛おしい人の笑顔、匂い、感触、声、様々な事がある。其れを感じる事に五感を使う事は良いだろう。だが、それが恋となるには胸に抱かねばならない。 積もり積もる恋心が淵となりぬるまで、そこに至るには五感で感じる事は出来ない。 「イァアア!!」 女の声に為らぬ声が、生み出す自らの痛みの呪い。螢衣はその痛みに眼を伏せる。あひるは癒しを与える。彼女の羽が揺れた。 「恋って言うのは形ないもので……表すのはとっても難しい……」 一緒に美味しいものを食べたり、一緒に綺麗なものを見て感動したり――あっくん、そう名前を読んでくれる愛おしい人。 共有する、想いを。気持ちを。それが幸せだな、そう想って泣きだしたくなるほど幸せで。それがきっと『恋』だとそう思う。 「あひるも恋してる」 彼女は胸に手を当てる。とくん、彼女の心臓は脈打った。 この心臓は彼と共に刻む。時を、ゆっくりと。愛おしい人を想って。 「でも、あひるの心臓をとっても、それには恋心はないんだよ」 大好きで堪らない人を目の前にした時、恋する気持ちを、自分の全部を使って―― 「あひるは、恋する気持ちを……あひるの全部を使って、形に出来る……って思う!」 彼女に降り注ぐ涙雨が、其れを認めないと凍てつく。少女は、普通に青春を送って、優しい毎日を望む。 ――恋だって、したい。 少女は大きな空色の瞳にしあわせを湛えて笑う。 「恋は一人じゃ出来ない。蔦女も女の子だもん……あなたも、恋する乙女の一人よ」 一緒に居てしあわせと思える人と、『しあわせ』に為って欲しい。 蔦女は認められないと、その手を伸ばす。あひるの胸へと。 「心が胸にあるというのはよく聞く話だ」 息を切らし、戦場へと戻ったリオンは声を張り上げ、蔦女へと伝える。その言葉を。その、考えを。 胸が暖かくなる、胸が詰まる――感情は胸に近いものがある。だが其れはこの胸で脈打ち血液を循環させるだけの臓器ではない。 「……何故『胸』と言うかは分からないがな」 「心は、恋って言うのはね、自らの胸の内に宿るものなの」 少女の金の髪が揺れる。彼女の瞳に湛えるのは優しさ。ぎゅっと両手で胸を抑え、彼女は微笑む。 自らに宿った思いは、きっと自分だけの物。自分の目で見たことも、自分の感じた事も、自分の思ったことも全て、ミリィという少女のもの。 「だから、ココを貴女に渡すわけにはいかないの」 彼女の呼びかけに女は目を覆う。 ――ギュィン 「恋ってね、確かにふわふわできらきらで甘ったるいよ」 彼女は振り被る。纏う電撃。強烈なその一撃に乗せた思いは恋心。羽音、羽音と愛おしそうに呼ぶ婚約者の姿が浮かぶ。 「でもね、泣きたくなるくらいに、切ない時もあるの……ッ!」 欲しくて堪らないのに、手に入らない。手を伸ばしても届かなくて、目を覆って涙を流す。悔しいほどに胸を刺すその想い。 もどかしくて、指先が宙を踊る。 「そんな―――そんなもどかしい気持ちも、恋のひとつ」 「――ッ」 女の告死の呪いが羽音の腕を切り裂く。溢れだす血に彼女は構わない。彼女は優しく笑う。愛おしい。愛おしい。 恋の対象は何だっていい、人でも、物でなくてもいい。 何にだって恋は出来る、愛おしいと、そう思える。 「だから、貴女は『恋する気持ち』に恋してる」 羽音が振り被る。周囲を囲った仲間達が蔦女に与える攻撃。 ――ね、だから、貴女はもう恋を知っている。 その言葉と共に彼女は想う。此れが貴女の納得いく答えで有ればいいのにと。 女の手が伸びる。そのもどかしさ、その気持ち。恋に恋する、そんな淡い優しい気持ちが彼女には見えなかったのだろうか。 蔦で覆われた片側の目が寂しげに光を灯す。肩で息をし、もう戻る場所がない一人のアザーバイドは死に物狂いで『恋』を求める。 泣きたくて、辛くて、手を伸ばしても届かない、そんな思い。 嗚呼、なんて恋心はかなしくて、やさしいのだろう。 愛であって、哀であって、逢いになり、合となれ。 「本当はもっと話したかった……ごめんね」 雷撃を纏う一撃が女の体を切り裂く。この世界を護るため、彼女の不安定な存在は、此処に在っては為らないものであった。 せめてもの恋心を乗せて、彼女は想う、恋慕う彼を。 「次は君だけを想ってくれる人をお探し。きっとその人が恋を教えてくれる」 手を伸ばす。蔦に覆われたその先、見開かれた淡い緑の瞳が、優しく微笑んだ。 ――優しさが、心臓を突き刺す。 ぽろりと涙が零れた。抱きしめたその体躯は細く、そしてだらりと力なく義衛郎の腕の中で息絶えていた。 ● bouvardia――その言葉は幸福な愛、空想。同居するその言葉。嗚呼、なんて不安定なのだろう。 「――妾は恋など知らないが」 シェリーの鮮やかな赤と深い黒はすぅ、と細められる。他人の命を自身の欲求の為に平気で奪おうとする者には思いやりや愛情が芽生えるとは思えない。 「もし彼女が次に生まれ変わる事があるなら、自らの想いを胸に、素敵な相手と、恋ができるといいですよね……?」 「うん。次は……恋する気持ちを持てる女の子になって欲しい、な」 ミリィの言葉にあひるは優しく笑った。彼女達の想いは優しくて、きっと次に彼女が恋をする時が来るなら、その時は幸せな想いを胸に抱いてくれればと。 きゅ、っと数珠を握りしめる、目を伏せてシエルは願う。 ――嗚呼、如何か来世では素敵な恋ができます様に。 「気付いたか? もう怖い事はない、大丈夫だぞ」 ぽん、と頭を撫でたリオンにサヤの脳裏に浮かんだ様子。知らぬ女が襲いかかろうとするその様。 彼女の手の少しのかすり傷に気付き羽音はシエルへと治療を頼む。 「……まあ、大丈夫ですか?」 「あ、はい」 これ位、そういう彼女に羽音は目線を合わせ微笑んだ。 「ねえ、サヤ、サヤはさっきの人のこと、好き?」 其れは先ほど別れた片思いの相手の事だろうか――少女らしく頬を紅潮させ視線をうろうろとさせる可愛らしい様子に羽音は嗤った。 「その気持ち……大切に、してね……♪」 にこりと微笑み彼女の手をとる。恋する乙女には、皆、幸せになって欲しい。 その想いは義衛郎も一緒なのだろう、優しく微笑みサヤに帰ろうと声を掛けた。 心恋う君に浸るまで。願わくば、この想いがどうぞ届きます様に―― |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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