●イントロダクション 夏である。 さわやかな風を寄越せと全国が悲鳴を上げる中、不快指数を上げるのはなにも自然現象だけではない。 エリューションやアーティファクト、果てはフィクサードといった神秘界隈のあれこれも、不快指数をガチ上げするに難くない。 故に、三高平の夏は『三高平防疫強化施策』、略するところの『三防強』に駆り出されるわけだ。 これは、そんな英雄たちを待ちわびるひとつの事例である。 ●神秘がこい 野っ原のド真ん中に置かれた、形容するなら某RPGにおける最弱モンスターのような形状をした容器。 突起部分は穴になっており、内部にはキューブ状のジェルが敷いてある……所謂、コバエ用の駆除具である。 「なんだこのサイズ。縮尺おかしくねえか」 「いえ、これくらいです。マジで、全高三メートル、穴の直径が五十センチはあります」 マジで、とかのたまう程度には『無貌の予見士』月ヶ瀬 夜倉(nBNE000202)の表情は曇りに曇っていた。 こんなにでかい駆除容器がコバエに効くのかとか、そんな話はさておき。ジェルに張り付いていた数多のコバエが、一箇所に集まろうとしているようにも見える。 「……簡潔に」 「テラーナイト・コックローチ謹製のアーティファクトです。 コバエ駆除具と同じような効果がありますが、集まったコバエは一箇所に集中します 最終的に革醒を誘発して危険なのでブチ壊してください」 「やっぱりかよ……」 そう、『やっぱり』である。 テラーナイト・コックローチ――元害虫駆除系薬剤会社の研究員にして、現フィクサード。 その突拍子もない案の数々でアークのリベリスタを何度も、何人も不快感のどん底に叩き落としてきた男である。 困ったことに、本人自らが手を下さないことに定評がある。 そんな彼の新手の嫌がらせ、だそうだ。 「既にエリューションが数体完成していますが、破壊すればこれ以上の被害はなくなります。可及的速やかに、破壊をお願いします」 「耐久力は?」 「割と」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:風見鶏 | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 2人 |
■シナリオ終了日時 2012年08月15日(水)00:08 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■サポート参加者 2人■ | |||||
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●晴天がにくい ブゥゥーン……ブゥゥーン……(※羽音) 意外と知られていないことだが、『コバエ』と呼ばれる個体は存在しない。 正確にはショウジョウバエを始めとする六種ほどの蝿をそう呼ぶのであり、実際のところは大きければそれはただの、ハエだ。 だが、造形的に小さいなりの扱いで作られているのだからそれは確かにコバエだったものであり、それを招き寄せるものは確かにコバエ用のメカニズムを踏襲しており、つまり、つまり。 「うわキモっ」 『スウィートデス』鳳 黎子(BNE003921)の反応に代表されるように、今回の『テラーナイト・コックローチ』の習作は最低なものだったのだ。 うん、今に始まったことじゃなかったね。 「特大ゼリーと聞いて! 甘党の俺が! ……おかしいな」 荒ぶる甘党のポーズ(今考えた)で現れた『紺碧』月野木・晴(BNE003873)の一瞬の硬直は、正直なところどうでもよかったのかもしれない。 だが、天真爛漫なかれをして目の前の情景は絶句するに値する惨状であり、この上ない「やっちまった感」を演出するには丁度よかったのかもしれない。 「その中に入ったものをエリューション化するアーティファクト、ただそれだけを聞いたらシリアスな展開を想定するのですが……」 アーティファクト『コバエールZX』に視線を向けた源 カイ(ID:BNE000446)の表情は暗澹たるものだった。まあ、そうだろう。 エリューション化させるアーティファクト、というのは往々にして埒外であり、危険性の高い存在である。破壊することを第一義とする程には、リベリスタにとって厄介極まりないものなのだ。 それなのに、そのはずなのに、目の前のアレはなんなんだ。ハエが飛んで、あれに入って、結構大きなエリューションとして這い出てくる様。 あれが異常と言わず何というのか。何か気を張って出てきた自分が馬鹿みたいじゃねえのか。 ……まあ、彼ってほら、テラーナイトがアークにちょっかい出し始めた頃からの縁だし、しょうがなくね? 「ま た テラーナイト・コックローチですか……」 ええ、また、です。 既に目が死んでいる『局地戦支援用狐巫女型ドジっ娘』神谷 小夜(BNE001462)に対して、何をかいってやりたい気がするけどなんていうかどうだろう。 「さすがコックローチさん、節足の素晴らしさとか理解してるんじゃないでしょうか」 普通じゃない側の嗜好代表、『純情可憐フルメタルエンジェル』鋼・輪(BNE003899)の表情はいきいきしていた。いきいき? 違うな、これはちょっとズレた笑いだ。 彼女の精神構造がどうなっているのかは分からないが、趣味嗜好は割と人それぞれである。 他者にとって酷く不快なものが別の個人にとって異常に好ましいものである例は、決して少なくはないのだ。 ……いや、ぶっちゃけ彼女に関してはもうどこまでも突き抜けていいんじゃないでしょうか。この子はほら、結論から言えば倒れる。 「うわ、でけぇ、なんだこれ、ホントあのフィクサードは碌なことしねぇな……」 お前もホント、汚物好きだよな、と『ヤクザの用心棒』藤倉 隆明(BNE003933)の経歴を見て思うこと然り。 しかも彼、大抵エライ目にしか遭っていないのだ。何か「ちゃっちゃと終わらせるか」って言ってるんだけど、大体終わらされるのは彼の常識的嗜好だったりする。 まあ、みなまで言う気はないが、彼も何も出来ず倒れる方。 「あのフィクサードを倒したい気分なんだけど、傍観は出来ないしね」 名実共にすっかり目指していた境地に到達した『正義の味方を目指す者』祭雅・疾風(BNE001656)にとって、かの存在はそれなりに傷跡を刻んできた存在だ。 ぶっちゃけ面倒くさい相手である。勘弁して欲しいと心底思う。だが、残念ながら『正義の味方(リベリスタ)』に善行の選り好みというものは許されない。 ブリーフィングルームに足を踏み入れた時点で、彼は既に覚悟していたのだろう。だからこそ、その姿に宿る熱情が輝きを増すのだろう。 ……こんなところで輝いてしまう彼の熱情にどこまでも五体投地をカマしたい。 「この猛暑に……」 全くな。本州は酷暑だってのにな。虫がな。 「まんず、オラの畑さ荒らすもんは、許せねっぺさ! そっだらごどさしだら許しでおげねってよ! 一揆だ、一揆するだ!!」 ……報告書の要諦間違ったかな。何か変な人が居る。もとい、『レッツゴー!インヤンマスター』九曜 計都(BNE003026)の魂の叫び(と書いて方言)か。 「え、やだなあ、あたしは生まれも育ちも東京青山の、ナウなヤングッスよ!」 都内出身らしい。多分、青山じゃなくて八王子辺りなのだろう。酷い偏見である。 彼女の乗り付けたトラックの中身は、ブルーシートを始めとする荷物一式。 ……見てはいけないものを見てしまったことは考えないようにしよう。 兎に角、事実として頑然と存在するのは、彼らの目の前に現れた大型の……そう、あまりにウザい、ショウジョウバエっぽい何かだった。 ●この心はいつでも豪雨さ!(勢い 「環境を守る為だ。変身!」 「そんだば、やるッスよー」 幻想纏を構え、装備を整えた疾風とは対局に、お国言葉(笑)を隠そうともしない計都。大丈夫なのか、この子。 「足のはえてるあたりとか顔とかはっきり見えて気持ち悪いのに、動かれたら気持ち悪さ倍増です……」 守護結界を展開する『蒼輝翠月』石 瑛(BNE002528)にとって、ここまで酷い相手に対する対策などあっただろうか。いや、あんまりない。まあ、彼女サポートだからな。頑張ってるよな。 爆破シーンはできてもグロキモは控えめのほうがいいよな。 「ハエの細部の身体構造とか別に知りたくなかったよ!」 気にすんな、晴。 自由研究だと思えば大丈夫だろ。 中学生なんだから少しくらい大丈夫だろ。寧ろほめられるぞ。 さあ、じっくりと観察するんだ、さあ! ときに、小夜の方だが。 「きゃぁぁぁぁぁぁ!?」 「グワーッ」 彼女が用意したコバエ用の罠(めんつゆ+水+洗剤)に、何故か『コ?バエ』が突っ込んできました。 彼女の悲鳴に反応し、隆明が謎ジャンプしました。コバエをブロックしました。 数秒後、そこには益体もなく無様極まりない晒し上げを食らう隆明の姿が! アレだよな、これきっと何かの勢いで拳が出た小夜とかそのあたりが介入しないとなかなか無い光景じゃないかなって。 とりあえずキミ、戦線離脱したから酒なんて飲めないからな。 「……コックローチめ、いっそ貴様の息の根を止めてやろうか……」 「「「怖っ……」」」 「独り言だよ、ひとりごと」 テラーナイトに限らず、不快な出来事に数多く関わってきたからこそ『不機嫌な振り子時計』柚木 キリエ(BNE002649)の言葉に重みが生まれる。 だからこそ、なんて言うかこう、リベリスタ達のキリエに対するこう、底知れぬ怖さが浮き彫りになったような気がしないでもない。 ほら、あるだろそういうの。 そんな冗談みたいな状況でも、素直なキモさに毒を吐いてしまっても、黎子は冷静だった。 アーティファクトを狙わぬようにしつつも放たれたカードの乱舞は、エリューションの一体を軽々と撃ち落とす。だが、錐揉みして落下したそれは、しぶといことにまだ生きている。 何だコイツやっべえ。生命力やべぇ。 そして、それにかこつけて接近を果たした輪が止めをさ……さ、ない。 「じっくり観察しちゃいますよー」 すごい反復横跳びで観察してる。銃を片手にすっげえ動きまわってる。この子本当に好きなんだなあ。 だが、そんな彼女の観察を中断させたのは疾風による一撃だった。がんっ、と叩きこまれた拳に電撃が乗っていることから見れば、割と本気で叩き込んだのだろうということが伺えるが……輪の表情の残念さが際立つ。パネェ。 その向こう側では、殺虫剤を吹き付けるような繊細さで狙い撃ち、処理を始めたカイの姿があったが、彼の目は死んでいた。 頑張れ、負けるな。キミの魂が犠牲になる分、そのお店の安全が保たれるのだ! で。 その頃、計都は何をしていたかというとまあ、そんなよくわからない戦況に於いて密やかにコバエールに接近していたことである。 全くこの子は何をしているのかしら。 「未革醒の小バエは……ジェノサイドさせてもらうッス!」 エリューションになりかけのハエが大量に潜むコバエールに、ひたすらに殺虫剤を噴霧してジェノサイドを続ける。何故か撃ち放った筈の鴉が彼女の肩で首を傾げているが、式符仕事しろ。 「メルティーキスってキスするわけじゃないんだけど、何となくイヤだよね……気分、大事」 「だから注視はしたくないんですってば!」 晴がげんなりした表情で刻印を打ち込みながらぺちぺちしてる傍ら、近づきたくないし直視もしたくない黎子はそんな語感などどうでも良い感じにメルティーキスをぶっ放す。 ……ナイトクリークさんたちにも色々あるんですね。 で、この状況のグダっぷりの後ろで、反復横跳びで観察を続けて近付き過ぎた輪はエリューションに一蹴されてました。 無理するなっつったろうがァ! 「ゼリーの味どうだった?」 『いやヤベェ、ゼリーマジヤベェ、マジぺろぺろ』 でも、晴は心あたたまるハートフル交流をコバエにしてやがるんだぜ。 名前さえつけようとしてるんだぜ。すげえな。 「でもしね!」 これはひどい。 ●事後処理(青) 「土壌を汚す訳にはいかないしね」 変身を解除し、ブルーシートを広げる疾風。手際の良さが半端ない。 小夜が包むに際してえらい勢いで周囲に消臭剤を置き、スプレー型の消臭剤を構える彼女の目は死んでいた。 目の前であんなこと起こっちゃったからだよ! 間髪入れずにテラーナイトにかかわりすぎるからだよ! 落ち着こうよ! そして、瑛の顔辺りを見ていただこう。フル防護である。ゴーグルつけてる。凄い、厳重な装備だ。 揮発性のものだったら危ないもんな。正しい判断よな。 「田舎のベンツこと、愛車の軽トラに積むっぺさ!」 おい計都、おい。 全員が全力で持ち上げようとしたコバエールだが、思いの外軽かった。 まあ、ほら元の素材が素材だから軽いよね。結構軽い。 数十分後の、アーク駐車場。 何故かブリーフィングルームに駆け込むリベリスタたちが目撃されたり、死ぬ気で隠れてる包帯の姿が目撃されたが気にしてはいけない。 彼らが最も頑張るべきはコバエールの撃破であって、包帯を巻き込んで混乱させることではない。 お前らどんだけ包帯にヘイト傾けてるんだよ。 「た、食べる気は無いけど、こう、何か気にならない!?」 破壊される直前のコバエールに鼻先を近づける晴は、周囲のリベリスタに言い訳のように叫んでいた。 だが、全員黙って首を振った。食っちゃ駄目だからな! 「いいかげん、あのゴキ男の尻尾を掴まないと、やってられねッス……」 よろよろと、晴の傍らに歩を進めた計都が、静かにコバエールに指を伸ばす。テラーナイトの深淵に指を這わせ、そのアーティファクトの真価とテラーナイトの思念を読み取ろうとし……膝を屈した。 ぶんぶんと首を振って目が死んで上半身の震えが止まりそうにない。手にしたスコップがカタカタカタカタと音を立てて震えている。やばい。 変なスイッチをいれてしまった系。 小夜も一歩どころか射界最大限まで離れた状態で弓を構えているが、指先がすごくプルプル震えている。やばい、この子本気で怒ってる。凄い怖い。 義手を構えたカイなど合図も何もなく既に声もなく弾丸を吐き出し続けているが、勢いが本当に凄い。 ごりごりごりごりと端から削れていくコバエールが、虫を誘引するゼリーをまき散らしながら吹き飛んでいく。 疾風、離れて戦えばいいのに接近戦で破壊している。 「ヒャッハー! 畑を荒らされた恨み、思いしらせてやるだべっちゃ!」 そして計都はこれである。スコップで乱打してる。……っておいちょっと待て。スコップそれ、お前それスコップ。 すくったり集めたりするスコップじゃなくてぶっ壊すためのスコップじゃねえか。渇きまくってる荒野で作られたアレじゃねえか。 「不快ですよね、本当に……!」 で、黎子は目を細めて次々と攻撃を叩き込んでいて、もうこれはどんな状況なんだろうか。 戦闘可能なリベリスタ全員の猛攻を前に、破壊されない道理はないが……やはり、こう、色々と飛び散っちゃってるわけですよ。 ブルーシート全体に広がった黄色のゼリー状の何かをスコップでざくざくとかき集める最中、彼らに絶え間なく近付くハエ。発生するハエ。エリューション化するまえに殺虫剤で殺されるハエ。 酷い匂い……は、幸いにしてしないものの、彼らの全身はすべからくベトベトに汚れ、ハエに集られて排除する作業を続けざるを得ない状況だった。 「お風呂に入りたい……」 誰の口から出たものかはわからないが、その言葉に首を横に振らないリベリスタは居なかった。まあ、当然だよね! 後日談として、であるが。 この日、三高平で殺されたハエの数は全国規模からしてもとんでもない量だったとか言われているが、天下の三高平でエリューション化はないのでした。 ブゥゥーン……ブゥゥーン……(※羽音) |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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