● 水平線で二分された空と海。 青が支配する世界の中に―――タコがいた。 水面の上に膨らんだ部分を覗かせた馬鹿でかい真っ赤なタコだ。 もしこの光景を見る人が居れば腰を抜かすだろうがタコはそんなこと知らぬと言わんばかりに海の中で優雅にその八本の脚を揺らしていた。 ● 「タコが出た」 「タコ?」 「タコ」 今日も『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)さんの予知は絶好調だ。ただ、これだけではいまいち中身が掴めないのでさらに説明してもらおう。 「今は人が殆ど寄り付かないビーチなエリューションのタコが現れたから討伐してきて」 実に簡潔だ。 「このタコは、弱いから討伐は楽」 一般的なリベリスタが数人で事にかかれば余裕らしい。でも一般人は勝てない。世界って世知辛い。 「放っておいても被害は出ないんだけど増殖性革醒現象や進行性革醒現象があるから黙って見ているわけにもいかない」 そこでアークの出番というわけだ。 「面倒かもしれないけど手早く任務を終えたら海で遊べるからそれで我慢して」 ちなみに人が来ないので戦闘の隠蔽や幻視は必要ないらしい。 「交通費はアークから出るから、お願いね。いってらっしゃい」 そう言ってイヴはリベリスタを送り出した。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:吉都 | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年08月16日(木)22:09 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●たこ。 「碧玉の夏 遠い海の呼び声が 悪魔の魚を呼び覚ます 白露の砂粒幾億紡ぎ 深海より来たれりは 真実不虚なるは大過の夏日 今日もせかいはひとみしり だから、タコ退治なの。」 by『シュレディンガーの羊』ルカルカ・アンダーテイカー(BNE002495)。 うん、全くわからない。彼女の詩から辛うじて理解出来るのはルカルカを含めたこの場にいるメンバーがタコ退治に来たということだけだ。 タコ退治。本来タコは獲るとはいっても退治と言う言葉を使うことはない。 しかし、この場にいるタコはただのタコじゃない。エリューションに革醒したタコなのだ。 リベリスタに誘われてきたのか海中から砂浜に上がってきたその体は見上げる程に大きい。 体と一緒に相対的に太く、大きくなった八本の足がうねうねと動いていることも相まってまるでB級映画でに出てくる怪物のようだ。 「わー、おっきー」 『おこたから出ると死んじゃう』ティセ・パルミエ(BNE000151)の歓声。 見る者が見れば嫌悪感を催すであろう異様も歴戦のリベリスタにとっては大したことではないということだろうか。 「さっさとぼこって楽しく遊んじゃおうよ」 「早いとこタコをやっつけて海を満喫だな!」 「今日は一杯遊びまくりですっ!」 『愛を求める少女』アンジェリカ・ミスティオラ(BNE000759)、『銀狼のオクルス』草臥 木蓮(BNE002229)、『エンジェルナイト』セラフィーナ・ハーシェル(BNE003738)の女性陣三人はタコよりも海に注目しているし、 「たこ焼きは鉄板だな……」 『Dual identity』小鳥遊 京(BNE000880)に至ってはタコの食べ方を考えている始末である。 「楽な仕事もあったものだな……」 その様子を見ている『八咫烏』雑賀 龍治(BNE002797)が呟く。 彼がそう言うのも、そしてほかのメンバーが何所か余裕を漂わせているのも無理はない。 敵はただ巨大化しただけの敵、ぶっちゃけてしまうと此方のメンバーは戦力過多なのだ。負ける方が難しい。 そのメンバーが早く海で遊ぶためとは言えタコとの戦闘にやる気を出している時点でタコが哀れである。 そんなタコに生きる道を示そうとするのは『合縁奇縁』結城 竜一(BNE000210)。 「タコ! お前に残された道はその触手で女性陣に色々してみることだけだ!」 セリフのところどころに煩悩が漏れている気がしないでもないが確かにこのタコにそんな能力がアレばイージーからノーマル位にはなっていたに違いない。 しかし、この世界はこのタコに巨大化以上の能力を与えはしなかったのだ。本当にこの世って世知辛い。 「出来ないならば、貴様は此処で倒す!」 走り出す竜一。戦闘が、始まる。 ●タコに字数を裂くよりももっと大事なことがある 「タッッコォォォォンーーーー!!!」 そして終わった。タコの断末魔を残して。 戦闘の様子をダイジェストでお送りしてみよう。 走り出した竜一の剣が煌めいてタコの足を一本吹き飛ばす。アンジェリカが近づきライヤークラウンでボコボコにする。 この時点でタコはかなりのグロッキーだ。 そんなことは気にせずルカルカとセラフィーナが高速の斬撃によって足をそれぞれ細切れに。 ティセと京が強烈なパンチでタコを叩き、ぐらついたところを最後に控えていた木蓮と龍治の射撃が狙い打つ。 そして最初に戻る。 「本当に、楽な仕事だったな……」 龍治がもう一度呟く。まさか彼も戦闘がダイジェストになるほどとは思わなかったのだろう。 「ギューっと締めても締まらない~・・・♪」 「おいひいわね、こにょタコのあし」 ちなみに倒されたタコはアンジェリカに鉢巻きを巻かれたりルカルカに足を食べられたりといった状態だ おおよそ戦闘をこなした後とは思えないが、これで任務は完了。後は遊ぶだけだ。 ● 「おおおおおおお!! 夏だああああ!! 来て良かったあああああ!!!」 ブーメランパンツで夏に感謝する竜一。周りに人目があれば通報されかねないがそれもむべなるかな。 彼の目の前には五人の水着美女と一人のゴスロリ少女。 「ティセたんのビキニから溢れる健康的なエロス! アンジェたんの黒ワンピースの愛らしさ! 京たんのアンバランスさ! ルカルカの奔放に出された肌! セラフたんの明るい色気! 全てが! 最高だああああっ!!」 神は此処にいると言わんばかりのその様子と言葉に 「竜一君、君は俺の性別を理解しているのか……?」 京は若干引きながら指摘したが可愛いは正義! な竜一にとってそれは些細な問題だ。 「よし、俺が日焼け止めオイルを塗ってやろう!」 両手にオイルを取って手をワキワキと動かす竜一。 「変なところを触ったら腹パンするからね?」 「あぁ! 俺のゴッドハンドに任せてくれよ!」 可愛い女の子の中に男が一人の竜一、まさに役得だ。 一方、もう一人の男性である龍治は何もしていないかと言われればそうではない。 「背中だけでいいんだ! 流石に自分で塗るのは難しくて……」 自分で塗ればいいじゃないか、という彼もそう言われてしまってはこれ以上の逃げ場はない。 「む……し、仕方ないな」 「! 宜しく!」 了承の言葉を受け取るや否や背中の紐を解いて寝そべる木蓮。 龍治の前に晒される真っ白な背中。 「本当に俺がやらねばならんのか……?」 木蓮からすれば日焼けの跡を作りたくないし、相手も信頼できるのでこのように背中全面を晒す行動は至極当たり前の行動なのだが、それに焦るったのは龍治。 「龍治だからいいんだよ!」 即座に力説する木蓮。 「ぬ……ぐ」 そう言われて勝てないのは男の道理。 時折体温より冷たいオイルを塗られてむず痒く動く木蓮を窘めながら慣れない手つきでオイルを塗っていく。 「ほら、終わったぞ」 その言葉に水着をしっかりと着直して立ち上がる木蓮。 その際水着を着た木蓮の全身が間近で目に入るがそっと目をそらす。 「ありがとう、龍治!」 そんな龍治の様子を知ってから知らずか、木蓮は顔を逸らしたままの龍治の頬に口付けを落とす。 「俺様は向こうに行ってくるけど何かあったら呼んでくれよ!」 満足げに微笑む木蓮。 「あ、ああ、行ってこい」 駆けていく木蓮を見送って、龍治は熱くなった頬を冷ますため冷えたビールの缶を開けた。 ● 「行くよー! そーれっ」 セラフィーナがボールをアンダーサーブで打ち出す。 綺麗な放物線を描いたそれは張られたネットを越えて相手側の陣地へ落ちようとする。 「させないよっ」 ボールが砂地に落ちる直前。あきらめずにボールを追ったアンジェリカがボールの下へ手を滑り込ませる。 「お願い!」 無理やりはね上げさせたボールがふらふらと向かった行方はネットの上。相手のコートには落ちないだろう。 「まかせて、あたーっく!」 しかし、高速で走りこんできたティセが飛びあがってボールを叩く。 今度はセラフィーナ側に落ちようとしたボールを追うのは木蓮だが僅かに間に合わない。 「わぶっ!」 ボールが地面に落ちて、同時に転んだ木蓮のメガネも宙を舞う。 「むぅ、リベンジ!」 メガネを拾い上げる木蓮を声を掛けながらセラフィーナはボールをアンジェリカに渡す。 すぐにアンジェリカから先ほどのセラフィーナと同じようにサーブが放たれる。 そんな和気藹々とした様子を何故か睨み付けるルカルカ。 「なんだおっぱいがはねまわってんぞ」 彼女の眼に映っているのは四人の女性陣が動きまわることでたゆんと弾んでいるソレ。 実際は四人の内二人、半数には特徴欄にひんにうが入っていたりするのだがそんなことはルカルカには関係ない。 「なにくったらそんな膨らむんだ」 怒りに我を忘れて口調が崩壊するルカルカ。 「ルカルカ! 落ち着くんだ!」 キシャーと噛み付くような様子を見せ始めたルカルカを慌てて止める竜一。 「まぁでも気持ちは分かるよ! 眼福!」 どうやら彼はサングラスで視線の先が隠せるのを良いことに女性陣をじっくりと見ていたようだ。 鼻の下を伸ばしながらサムズアップする竜一の顔面に叩きつけられるボール。 視線を隠していたサングラスにひびを入れたのはセラフィーナだ。 「竜一さん! ちゃんと審判をしてくださいっ!」 彼女のごもっともな怒りの声が砂浜に響いた。 ● 「ご飯が出来たのよー!」 パラソルの下から聞こえてくるのは京の声。 彼女(?)が主に腕を振るって作ったのは新鮮なタコを生かしたカルパッチョやお刺身だ。 食べれるかどうか心配していたタコはただ巨大化しただけで毒もないようなので普通に料理されている。 それに各人が持ち込んだバーベキューセットや食材も京が下準備をしてバーベキューパーティーの用意が出来ていた。 熱された鉄板を見てルカルカが 「私はジンギスカンじゃないわよ」 と鉄板から少し距離を置いていた。曰く結界が張ってあるらしい。 そんな様子に疑問符を浮かべながらも、 「たくさん食べてねっ」 首を軽く傾げて料理を奨める京。 その姿はどこから見ても非の打ちどころのないまさに美少女。世界は本当に何所か間違っていると思わせるような光景。 「おいしー! 京ちゃんすごいっ!」 「ありがとうなの」 見た目でおいしいと分かる料理、味はもちろん満点だ。特にタコが大好きなティセなどは刺身を山葵醤油で食べて幸せ一杯。 「京さん、お疲れ様」 パラソルの陰に入りながらアンジェリカが冷えたお茶を京に渡す。 「ありがとうなのー」 「こちらこそ、ご飯を作ってくれてありがとうだよ。おいしいね、コレ」 そういうアンジェリカの手にはタコのカルパッチョが盛りつけられた皿。 そうして全員が京の料理に手を伸ばす。 特にルカルカの食べっぷりは一線を画している。 先ほど自分でぶつ切りにしたタコの足を食べていたのにどこにそれだけの量が入るのかという勢いだ。 それもおいしいのだから仕方がない。京の料理を食べた全員が舌鼓を打った。 だが、大人数で行うバーベキューは食べるのも楽しいがそれだけではない。 「ふんふーん♪」 ジャッジャッと小気味のいい音、それにソースの焦げるいい香りの発生源はセラフィーナだ。 彼女がヘラを使って鉄板の上で躍らせるのは焼きそばだ。 まさにバーベキューと言えば、という焼きそばは作るのも楽しい。 「前から一度やってみたかったんだ」 野菜だけではなくタコも入った海鮮焼きそば。きっとおいしいはずだ。 「焼きそばできましたよ!」 ワッと上がった声にセラフィーナは嬉しくなる。 焼きそばを焼くセラフィーナの隣の鉄板の前に陣取るのは竜一だ。 「此処で俺はオリーブオイル!」 何処かで聞いたようなセリフを叫びながら次々と肉や野菜を焼きあげていく。 その姿はまさに【RYU's kitchen】! 「あ、竜一、そのコーン取って」 「はいよ!」 「あ、俺様もトウモロコシ貰っていいかな?」 「おまち!」 こうして彼は時折自分も摘みながら食材が零になるまで焼き係を続けた。 ● バーベキューが終わった後も今度は海で泳いだり、スイカ割りをしたりと大凡海でのイベントを全て満喫した面々。 最初は東の方に傾いていた太陽も中空を過ぎ、赤く染まりながら水平線の向こうへと沈もうとしている。 全員で後片付けをした後、自由な時間はあと少し。 「京ちゃん一緒にシャワー浴びるー?」 「何度も言うが俺は男だからな……?」 「わかってるよー、京ちゃん可愛いから平気平気」 「いや、そういう問題じゃないと思うんだが……」 にゃはは、と笑いながら京をからかうティセ。今日一日で何度か女の子扱いされ続けた京は少しぐったりとしていた。 その様子を見ていたセラフィーナやトランペットを構えているアンジェリカも釣られて笑う。 「そっか……今日も終わりなんだなぁ」 パラソルやネットが片付けられた砂浜は朝と同じように伽藍としている。 今日は珍しくたくさん笑った、と一日を思い返しながら和やかな笑い声を背景にしてトランペットを吹き鳴らす。 笑い声と混じりながら海へ向かって広がるその音色は美しいが同時に何所か悲しく聞こえる。 楽しくあった今日という日の終わりが近づいているのにアンジェリカ自身が哀愁を感じているからだ。 多分それはこの場にいる全員に共通していることで、砂浜に腰をおろしている木蓮も同じだ。 「楽しかったな、龍治」 傍らに座る恋人を少し見上げながら問う。 「あぁ」 「また来年も来たいな、此処に」 「……考えておこう」 来年は自分が、自分達が、アークが何をしているか今は見通せない。 そして、確実なのはアークに帰れば明日からはまた忙しい日々が待つということだ。 でも、だからこそ。この一日は永遠だ。皆と笑い合ったこの一日だけは――。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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