●きっと美しい花が咲く それは種子を蒔く。それこそが存在意義。 それは種子を蒔く。命を繋げ次世代へと。 それがいた世界は何もない。豊穣な土も、涼やかな風も、暖かな日差しも、清らかな水も。 種子が芽吹くことは稀。芽が育つことは稀。命が繋がれることは稀。 それでもそれは種子を蒔く。 それは生物の本能。生命の本能。 それは異変に困惑しなかった。 突如見知らぬ世界にあっても、命を繋げる本能以外それには存在しないから。 自分を見てうるさくさえずる小さな何か。自分以外に動くものは初めて見た。 それは思う。これに種子を蒔いてみたらどうだろうか。 元気に動き回るこれに種子を蒔けば、元気な芽が育つのではないだろうか。 つるを伸ばし獲物を捕獲せんとすれば、一回り大きな動くものが飛び出してきた。 似た形のこれらの中で、これだけが一回り大きい。ではきっとこれが親で、これらがその育った種子なのだろう。 その瞬間それに感情が芽生えた。 それはきっと嫉妬の心。 自分は蒔いても蒔いても芽が育たないのに……! つるを巻き付けると勢い良く地面に叩きつける。 たったそれだけでこれは動かなくなった。なんて脆い存在だろう。 勢い良く吹き出す赤い液体が、これには沢山の栄養が詰まっていると思わせた。 まずはこれに種子を蒔こう。その次に、小さなこれらに。 予感がする。今度はきっと上手くいく。 それは種子を蒔く。柔らかな『土』に埋まってく。 それは種子を蒔く。きっと美しい花が咲くだろう。 ●花狩人 「この5mくらいの植物に似たモノ……アザーバイドデースが、これは現在小学校の体育館に居座っていマース」 根はないので自由に動きマースねと『廃テンション↑↑Girl』ロイヤー・東谷山(nBNE000227)は説明する。 「部活動で居残っていた生徒が10人、体育館の奥の舞台で固まって怯えていマースね。体育館の中央には『土』……生徒をかばい殺害された勇敢な男性教師の遺体が存在していマース」 到着した時点でここまでは確定された未来。それでも―― 「ここからは変えられるフューチャーデース。ヒーローであるMiss.Mrリベリスタの活躍次第デースね」 教師の身体に埋め込まれた種子が芽吹くことの阻止も、生徒が殺されることの阻止もまだ間に合うのだ。 「アザーバイドは強力デース。かなりの生命力を持っており持久戦は間違いないでショーが……一番の問題はやはり種子でショーね」 種子は人間の身体と相性がいいらしい。到着して数分足らずで、教師の身体の中の種子は芽吹き、瞬く間に成体へと成長する。 そうなれば強力なアザーバイドが二体。かなり厳しい戦いになるだろう。 「小さな種子は肉体の中に埋め込まれてイマース、肉体を切り刻んだとしても破壊は無理デショー。芽吹いた時点で阻止も出来ナイ。種子を取り除くことは不可能――たった一つを除いては」 一呼吸置いて、ロイヤーは続けた。 「このアザーバイトは火に弱いデース。成体への効果も勿論デースが、種子ならば成体になる前に燃やし尽くすことも出来るデショー」 種子を燃やすとは、すなわち―― 「種子を埋め込まれた『土』……教師の遺体を燃やすということデース」 種子が芽吹くまでの時間はわずか。暴れる強力なアザーバイドを抑え、怯える生徒を10人も逃がすのは間に合うだろうか。 時間はわずか。遺体を燃やすなら急がなければ。けれど―― 自分達をかばって命を落とした大好きな先生。子供達の目の前でその遺体を燃やすなら――果たして生徒は平常でいられるだろうか。 「……時間がありまセーン。護るために命を失った先生の為にも、子供達を救ってくださいヒーロー」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:麻子 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年08月22日(水)22:20 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 8人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
● 怯えた泣き声が、聞こえた。逃げよう、でも先生が、と。震えた声が聞こえた。 その全てを、救う為に。 「ほらこっちだぜ、燃えろ!」 燃え盛る焔のライン。駆け込んだ勢いそのままに振り抜かれた脚が、愛し子を見守る様に立っていた異形を蹴り飛ばす。 白い耳が跳ねる。『デンジャラス・ラビット』ヘキサ・ティリテス(BNE003891)は微かに傍らの遺体に目を落として、小さく、溜息を漏らした。 身を挺して生徒を守るだなんて、教師にも良い奴が居たものだ。出来るなら、未だ彼が無事な内に、言葉をかけてやりたかった。 けれど。こうなってしまった以上、最終的には燃やすしか、無い。今この時も脈打ち続けているであろう種子を思い、少年は首を振る。 「……ゴメンな」 ぽつり。微かに漏れたその声の反対から突き込まれたのは、火炎燻る騎士の槍。その驚異的な貫通力全てを、異形を跳ね飛ばす事に注いで、『アウィスラパクス』天城・櫻霞(BNE000469)は不敵に笑みを浮かべた。 前に立って殴る等、正直性に合わないが。この際文句は如何でも良かった。 「貴様の為に新調してやったんだ、存分に味わえアザーバイド!」 為すべきは至極シンプル。悩む必要等、欠片も無い。偶然にも二度動いた身体で既に集中を高め切った彼の攻撃に、異形はすすり泣く様に身体を震わせた。 ――否、怒りに震えていたのかも、知れない。 一気に高まる、殺意とも言うべき張り詰めた空気。それを物ともせずするりと、敵の足元に入り込んだ『燻る灰』御津代 鉅(BNE001657)の手から伸びた幾重もの気糸が、敵を死に至らしめんと締め上げる。 桜の花の下には、死体が埋まっている等と言う怪談もあるが、それを実践されても涼しくすらならない。 「肝試しなら自分の世界でやっていろ」 まぁ、そもそもこの異形の存在自体が、怪談染みていると言えばその通りなのだが。その彼の横。同じく前衛として立ちはだかったのは、 「オィイイ!! 外来種は禁止です!!!」 『Gloria』霧島 俊介(BNE000082)。本来ならば強力な癒し手として後方に回る筈の彼だが、今日は違った。 突き立てた曇り無き白金が、血を啜る。この世界に根付かれれば、生態系がなんとやら。幾ら不運な世界に生まれつき、深い事情があろうとも、それは看過出来る事ではない。 既に手にかけた命の重さは、その身を地獄に堕とす事で償ってもらおうじゃないか。 「生憎、治外法権は認めないから、こっちの理由で裁かれろ!!」 そんな、頼もしい前衛を全て跳ね飛ばさんとでも言うように。その長大な弦が震える。来る、と思った瞬間には、唸りを上げたそれが前衛全てを薙ぎ払っていた。 鈍い音が聞こえる。前衛に居る大切な相手の身を案じながらも『プリムヴェール』二階堂 櫻子(BNE000438)は急ぎ、始まった戦闘に酷く怯えた子供達の下へと駆け寄った。 隣には、『百の獣』朱鷺島・雷音(BNE000003)。声を張り、ゆっくりと語りかける少女を横目に見ながら、櫻子もまた優しく微笑んで見せる。 「怪我はありませんか? 貴方達を助けに来ました」 もう怖くはない、守るから、と語りかけてやりながら、櫻子は微かに、色違いの瞳を曇らせた。 生命の繁殖。本能とは時に、何より恐ろしいものだ。それは、自分達も何ら変わりは無いのかもしれないけれど。 それでも、こんな好き勝手を許す訳にはいかないのだ。 「……ヒーローなんてモノになる気はありませんけれどね」 せめて。この手の届く子供達だけでも守れるように。避難に全力を尽くすと決めた彼女はぐずる子供達に再度、優しく声をかけていく。 ● 「なかなくていい、もう君たちは助かるからボクのいうことを聞いて欲しい」 出来る限り優しくゆっくり。声をかけ続けた雷音は、漸く自身の手を取ってくれた子供を撫でてやりながら、一生懸命笑みを浮かべた。 種子を蒔き未来へ繋ぐ。それは、生命として正当な行動だ。けれど、此処はあの異形の世界ではない。この世界で命を繋げられる訳には、行かないのだ。 手を引く。けれど、歩き出してくれない顔を覗き込めば、泣き濡れた瞳が此方を真っ直ぐに、見上げていた。 「お姉ちゃん、先生が、先生も連れてかないと!」 ぐい、と逆に手を引かれる。戦う仲間の傍ら。血に塗れ、人ではない何かに変わっていこうとするそれを一瞬、見て。 込み上げて来る何かを飲み込んだ。口角を上げて、目を細めた。笑顔を作った。笑えているのかなんて分からない。 けれどそれでも、雷音は、わらう。 「大丈夫、先生も助けるのだ。行くぞ、転ばないように押さない駆けないしゃべらない、避難訓練を思い出すのだ」 真実を知れば、子供達はきっと自分を恨むだろう。罵るだろう。でも。 今はそれでも、やるしかないのだ。 漸く、少しずつだが動き出した子供達を背に感じながら。『祈りに応じるもの』アラストール・ロード・ナイトオブライエン(BNE000024)は飛んできた弦を受け止める。 一人の教員が、文字通り命を賭して守った十の命。その最後の願いや祈りは守りたいという気持ちなのだと、思った。 ならば、自分も必ず、其の子供達を守りたい。そう。 「心も、体も、絶対に」 それが、祈りに応える自身の役目だ。そんな騎士を含めて、前衛で異形を押さえつける面々の負った傷を癒すのは、少し後方に立つ如月・真人(BNE003358)。 本能に忠実なだけなのだ。それは分かっている。けれど、倒さざるを得ない。 「本当にごめんなさい」 小さな声。福音が響き渡る。其の目前では、ヘキサの真空の鎌鼬が、鉅の死を齎す気糸が、敵の体力を削らんと叩きつけられる。 敵を吹き飛ばす力も、燃やし尽くす力も、自分は持っていない。ならば、自身の持つ手で最も有効なものを。 敵を縛り上げる其れが、動きを止める。負わせた傷が癒えても、拘束すれば手数を減らせるのだ。一進一退。全力を尽くしながら、戦闘は続いていく。 戦闘が激化する中。足元に転がる教師の死体の中では、確実に『何か』が芽吹いていた。 萌芽の前兆。それにいち早く気付いたのは、回復の合間に警戒を続けていた真人だった。 目覚めが近い。それを悟った瞳が、一瞬子供を振り返る。未だ、外に出た子供は半分に満たない。けれど、やらねばならなかった。 「子供達を外に出してください、早く!」 其の手に握るのは、固形燃料とライター。其の意図に気付いた櫻霞の、ヘキサの止める声も届かない。 最初は、僅かに。服に引火したのか、徐々に勢いを増し始めた火の手が、子供達の大切な先生を包んでいく。 悲鳴が、絶叫が響いた気がした。怯えた泣き声。雷音の手が、反射的にドアの前の子供の手を引く。 扉の閉まる音。其の判断は的確だった。外に出された子供達の罵る声が、微かに聞こえてくる。 最も恐れるべき事態だったのかもしれない。幾らリベリスタでも、其の両腕で抱えられる以上の子供を連れ出す事は出来ない。 子供は生き物だ。素直に従うかも分からない。先生に何かありそうならば尚の事。その身を動かすものを一度に何人も連れ出すのは、不可能に等しい。 避難が済んだのは未だ半数。けれど、櫻子一人で残りを避難させる事は、既に至難と言うべき状況だった。泣き叫ぶ子供は、言う事を聞かない。 先生に近寄ろうとする子供が居た。泣き叫び逃げようとする子供が居た。それら全てを一人で押さえるなど不可能。 雷音もまた、外から動けない。子供達は、最悪の形でその身の自由を得たのだ。 そして。大事な『子供』を燃やされた異形の怒りもまた、限界を突破したようだった。 つる叩き落し。狙う先は、愛し子を奪った憎き生き物。長大なつるの範囲攻撃は、先生に駆け寄ろうとした子供すらも、巻き込もうとする。 鈍い音。一気に削られた体力に、真人の運命ががりがりと削れる。ふらつき立ち上がる彼の横では、迷い無くその身を盾にする事で、アラストールが子供の命を救っていた。 「子が欲しいという生命の本能。――私には判らないが、だが、この世界でこれ以上の勝手は許さん」 自分の手が届く限り。必ず子供を守る。騎士の剣が、鈍く煌いた。 ● 感情に素直、と言うのは時に恐ろしい事である。 「嘘吐き! 先生大丈夫って言ったのに、嘘吐き……!」 涙交じり。小さな身体から怒りと怨嗟を吐き出して。泣き叫ぶ少女が雷音の胸を叩く。 其の背が押さえるのは、中へ続く扉。開ける訳には行かなかった。何を言われても。扉を開けて無用な犠牲を増やすくらいなら、自分が此処で耐えれば良い。 泣き縋る子供が居た。罵る子供が居た。呆然と座り込む子供が居た。 其の瞳が全部、全部、雷音を見ている。其処にあるいろはなんだろうか。恨みだろうか。憎しみだろうか。それとも、もう何も無いのだろうか。 眩暈がした。胸が痛い。でもこれも全部、覚悟の上だ。 飲み込んだ。大丈夫だ、と繰り返す言葉は、果たして子供に向けたものだったのだろうか。 未だ幼い其の瞳が、微かに揺らいだ。 一方、体育館内の戦闘は、消耗戦の様相を呈していた。度重なる攻撃は異形の傷を広げてはいるものの、致命打になりきらない。 隅へと追いやる事に成功し、徹底的にその気糸で敵を痛めつけていた櫻霞の眉が、寄る。 子供達にこそ攻撃は及んでいないものの、戦況は好転しない。 寧ろ、度重なる反射や回復によって、此方の消耗ばかりが際立ち始めていた。 俊介と真人の尽力で辛うじて戦線を保っているものの、回復に寄れば手数は必然的に減る。余り芳しくない状況に、歯噛みした。 敵が、動く。叩き落すように振り下ろされたつるが、既に運命を削った俊介を、真人を強引に地へと伏せさせる。 そして、もう一度。其の巨体が動いた。怒りに任せてがむしゃらに振るわれたつるが捕らえるのは、幼子達。 悲鳴を飲み込んだ。櫻子が身を挺すも、一人では到底庇い切れない。アラストールの、ヘキサの手が、手の届くところに居た子供を引き寄せる。 けれど。声すら上げる間も無く。振り抜かれたつるが、庇い切れなかった子供の身体を、容赦無く打ち据えた。 ぐちゃり、と湿った何かが潰れる音。つるの過ぎた場所にはもう何も残っていない。あるのは、大量の血液と、ひとだったもの。 それでも。 「貴様の相手は俺だろう?」 表情ひとつ変えなかった櫻霞の振るった槍が、突き込まれる。 燻る音。一気に灼熱した傷口に、声無き声が上がる。悶える。口角が、微かに上がった。冷笑。 「弱点を逃すような失策はしない、焼かれる気分はどうだ?」 恨めしげな瞳。驚異的な回復を失ったソレに続いて向けられたのは、無数の気糸。 縛り上げた者を哀れな操り人形へとかえるそれ。どろりと濁った体液が噴出す。失われてしまった命は、もう戻らない。けれど。 これ以上を生まない為に。終わりを齎さんと、リベリスタは動き出した。 ● 其処からは、あっという間だった。 これ以上の犠牲は出せない。出さない。そう心に固く決めて。半ば強引に子供を引きずり出し終えた櫻子が後衛につく。 「お待たせ致しましたっ……援護致します!」 吹き荒れる、聖なる神の息吹。強大な癒しの一端を戦場で振るった彼女によって、一気に傷が癒えていく。 煌く紅。軽やかに踏み込んだヘキサの足が、淀み無く敵を蹴り上げる。 「テメェにも事情があんだろーけどな……こっちも見過ごすワケには行かねーんだよ!」 守るべきものの違いだ。幾ら同じ本能を持とうと、相反すれば此処では異端。異形に立て直す暇を与えない様に、騎士の握る刃が鮮烈に煌く。 守れなかった。守り切れなかった。言葉は無い。ただ只管に、込めるのは祈り。 其の祈りに応じきる事は出来なかったけれど。せめて、これ以上を止める為に。振り下ろされた破邪の刃に、遂に巨体が揺らいだ。 そして。 「――櫻霞様!」 「分かっている。これで最期だ、アザーバイド!」 敵の隙を叩く、鋭利な一撃。この日の為に得た槍が、その身を突き破る。体液が迸った。 嗚呼、羨ましい。羨ましい。 自分は何も残せず此処で潰えるのに。こんなにも沢山に増えているこれが恨めしい。 嗚呼。 ――なんと、恨めしい。 声なき声が、聞こえた気がした。鈍い音共に巨体が倒れて。 残ったのは、燃えた人だったものと、枯れ朽ちた生物だったもの。 泣き叫ぶ声が、未だ聞こえた。 残った子供達が体育館の中を見ないで済む様に、半ば強引に職員室へ行く様に告げる。 燃え尽きた、偉大な教師の遺骸。潰れてしまった幼子の遺体。始末は、アークが付けてくれるだろう。 そう、思いながらも。櫻霞は微かに、溜息を漏らす。疲れた頭が休息を求める。 其の色違いの瞳が、僅かに、燃え殻へと視線を落とす。 身体を張って子供を守り抜いた、教師の想い。結果として全てを救う事は叶わなかったけれど。それでも、其の想いが子供に届いていれば良いと、彼は思う。 だって、そうでなければ。 「――余りに報われない」 声のトーンは変わらない。けれど、何処か疲れ切った色を滲ませて。 リベリスタ達は静かに、体育館を後にした。 ● 何処かの誰かの携帯が、ちかちか。 何かを受信した事を告げていた。 ――新着メールがあります。 ボクは、嘘つきです。 |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|