●スプラッタサマー 「夏だ!」 「海だ!」 「スイカ割りだぁ~っ」 夏だからハシャいだっていいじゃないか、夏だもの。 フィクサードだって、裏野部だって、暑さに浮かれたい時があるのだ。 夜のビーチ、四人の笑い声。 月に照らされ、地面の上の丸いモノ。 「おぉいどっちだ?」 「右だ、右だ、もっと右だ!」 「ちげーよソイツ嘘吐いてるって」 「マジ? どっちだコラァ!」 「真っ直ぐ真っ直ぐ、いい感じよ」 「ハイそこそこそこ!」 「潰せ! やれ! やっちまえ!!」 「うぉぉぉぉーい~くぞーー」 やんやと歓声。 振り上げる鈍器。 振り下ろす鈍器。 どちゅっ。 一面に、一面に、赤。 やめろ、助けて、いやだ、そんな悲鳴は、押しては返す波と笑い声と堅くて鈍い音に紛れて消える。 ●スプラッタ様 「サテ、夏の風物詩には『スイカ割り』が御座いますね――目隠しをして棒を持って、スイカを割るというモノですが」 事務椅子をくるんと回し、『歪曲芸師』名古屋・T・メルクリィ(nBNE000209)が一同へ見返り。 「『裏野部式』はそうはいかないようです」 言下、モニターに映るのは広い砂浜だった。 そこは真っ赤に染まっていた。 スイカの中身をぶちまけたかの様に――スイカ――良く見たら、砂浜にポツリポツリ、何か、丸いモノ。 なんだあれは? 怪訝に思って注視する。 ……人の頭だ。 砂に埋められ、頭だけが外に出た人間の頭だ。 砂浜に点在するそれらは、或いは恐怖に泣き叫び、或いは――『スイカ割り』宛ら、砕かれ中身をぶちまけて。 その犯人もまた、モニターに映っている。楽しげに笑う4人の男。 上手く割れなかった『スイカ』に、何度も何度も手にした鈍器を振り下ろす。 ひたすらに嫌悪感、不快感が胃袋の底を撫でる光景。 「恐らく、魔眼か何かで無抵抗にさせ埋めたのでしょうか」 冷静な眼差しでそれらを見、リベリスタへと視線を移した機械男は足の上に指を組む。 「……兎角、裏野部のフィクサード4人が一般人を『スイカ割り』に見立てて殺戮しています。 皆々様に課せられたオーダーは、一般人半数以上の生存・救出と、フィクサード達の撃退で御座いますぞ。 フィクサード達は何れも相応の実力者で、思考も破滅的です。やっかいな道具(アーティファクト)も持っている為、一筋縄ではいかないでしょうな。 ただ彼等にとっては『命をかけてでも』という話ではないので、不利や劣勢を感じれば自ずと撤退するでしょう」 一方で、と一般人達を指し。 「彼等、埋められている一般人の数は15。……残念ながら、内5名は皆々様が辿り着いた頃には絶命しているでしょう。助かりません。どう足掻いても」 だが、まだ助けられる命はある。しかしモタモタしていたらあっと言う間にフィクサード達に皆殺されてしまうだろう。躊躇している暇は無い。表情を引き締める。 その様子を見、メルクリィは「私からの説明は以上です」と締め括り。 「夏の砂浜に似合うのは惨劇でも悲劇でもありません。 ……皆々様ならきっと大丈夫ですぞ! どうかお気を付けて、どうかご無事で、行ってらっしゃいませ」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:ガンマ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年08月09日(木)23:07 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●果汁100% 夜のビーチ。波の音。遠くから聞こえてくる馬鹿笑い。 「人をスイカに見立ててスイカ割りとは、何とも血生臭い話ですのう。個人的に、スイカ割りにも少し思う所はあるのですが……」 まあ、それは戦いでぶつける事にしますかな。なんて言う、スイカ頭の人間らしき何かがショットガンを手に駆けている。胡乱な気配満載だが、『スイカ魔道』百舌鳥 九十九(BNE001407)は列記としたリベリスタ。 助けられる命は助ける為に、直走る。 10人――全て助けてみせる。無事に帰してやる。『機械鹿』腕押 暖簾(BNE003400)はそういう心積もりで、ブラックマリアの拳を堅く握り締めた。 「ああ、やってやるさァ」 その為に自分達が居るのだから。それは『不機嫌な振り子時計』柚木 キリエ(BNE002649)にとっても同じ事であった。 「スイカ割り。ボクもやりたいなぁ。フィクサード達の頭をパーンって」 埋まってなくて動くスイカだから難易度ハード。怯えて動けないスイカよりも割がいがあるよね、なんて仄笑むのは『偽りの天使』兎登 都斗(BNE001673)。飛行して一般人巻き込まないようにして戦鬼烈風陣、とか考えるが今回の役は回復係。天使モード。悪魔モードは封印。 「いやぁ……本当残念だね。スイカ割りしたかったなぁ」 暴れたかったなぁ。そう呟く都斗の傍ら、『偽悪守護者』雪城 紗夜(BNE001622)は何処か皮肉気な溜息一つ。 「裏野部にも、季節を楽しむ人達が居るものだね……と思ったら。大人しくスイカを割っていれば文句は無いんだけどね。 まぁ、向こうがその気なら、私達も彼らを相手にスイカ割に興じようじゃないか」 実力差的に、私にとっては肝試しも兼ねれそうだけどね。呟きは独り言。 「あぁ、それともう一つ。この夏、私の予定っていえば、エアコンの効いた室内でネトゲ三昧くらいなんだよね。恋人どころか、友人と遊びに行く予定すら無いんだよね」 遠い目をして一息に。リア充共爆発しろ。あぁ、いや、これだと語弊がある。こうだ。 「……リア充共爆散させる」 きっと睨ね付けた視線の先――嗤うフィクサード、泣き喚く一般人、『スイカ』で赤く染まった砂浜。 「おい、何か来やがったぜ!」 「あっホントだ、走って来る」 「ん? あのピンク羊……アークか!」 「ンだよリベリスタかよ面白ェ! 殺せ殺せぇえ!」 こちらに気付いたフィクサード達が一斉に飛び掛かって来たのと、リベリスタ達が躍り掛かったのは、斯くして同時。 ●フルーティ頭蓋骨 月を見上げる砂の天鵞絨 染める真紅は人のいのち 震える小鳥の囀りは 箱舟の手で救いましょう 「いい夜ね。ルカと遊ばない? ニヘイ」 舌先の刹那には零の距離、身体のギアを上げニヘイに肉薄する『シュレディンガーの羊』ルカルカ・アンダーテイカー(BNE002495)が三高平公園前バス停を振り上げた。 「アンダーテイカーか……面白ェ!!」 同じく、迎え撃つニヘイも身体のギアを上げFeスプラッターを振り上げる。 互いが同時に繰り出したのは、光が飛び散る様な速撃の嵐。 激しくぶつかりあう音速が火花を散らせる。花火の如く夜に煌めく。 獲物は互いに似た者同士、かち割ることに特化した鈍器。 「それいい武器ね。ルカにはまけるけど。ぶち折ってあげる」 「じゃあ御駄賃はテメェの脳味噌だッ!」 振り払う一閃、ルカルカが構えたバス停の防御ごと力尽くで押しやった。羊は力のベクトルを往なしつつ大きく1歩2歩、飛び退き。くるんと回す標識。 「スイカわりより、羊わり、るかも天使わりしてみたいのよ。あとカチワリ氷すきよ。あとで一緒に食べにいかない?」 もちろん生きていたら、だけど。跳び下がった距離を助走に砂を強く踏み蹴って、超速。スピードスター。 ジャリ、と砂を踏み締める音。 「太陽の眩しい爽やかな季節だっていうのに、随分と不健全な遊びをしてるんだね。 か弱い一般人を無抵抗にして埋めて叩き殺して……」 月光をきらり、武骨な金属大爪:鋼とその持ち主である『本屋』六・七(BNE003009)の眼鏡が跳ね返した。 「それ……楽しい?」 静かな声――されどその静けさは、宛ら『嵐の前』のそれ。視線の先にはサンダ、ラジカルミラクルの切っ先からボトボトと血潮を垂らしている。その背後には頭を粉砕され既に絶命した一般人。赤い。赤い。 ――半数なんて言わず生きてる皆、絶対に助けるから。 怖いの少しだけ我慢して、待っててね。想いを胸に、表情は冷静。刃は冷徹。足元より影の従者を呼び出だす。 「初めまして、七だよ。暫くわたしと遊んでくれる?」 「あー、僕の遊び相手に相応しいなら考えてみるけど?」 「君の戦闘スタイルはわたしの目指すところでもあるし。今は未だ力不足だけど是非とも相手をして欲しいなあ」 「……謙虚だね。気に入った。その顔、ズッタズタに泣かせてみたくなった!!」 口角を吊り上げるサンダが使用するのもまたシャドウサーヴァント、踏み込む。七も間合いを詰める。切っ先に乗せるのは死の接吻。刻み付ける。が、直撃には至らず。彼女の目前でバールに破滅的な殺意が纏われる。しまった。瞬間。頭部に凄まじい衝撃。猛直撃。視界が漂泊。そして赤。 「――ッ!」 蹌踉めく、ふらつく、されど一歩、踏み止まって。未だ。始まったばかりだ。踏み止まれる。倒れている暇は無い。 「……うん、それで?」 顔に伝う血々の滑りを感じつつ、ふらつきながらも上体を起こした七はもう一度鋼を振るった。空を切る音。刻み付けるは死の刻印。 「ごほッ!?」 全身を貫いた猛毒の接吻にサンダが口から血潮を吹く。運命の女神は今度は七の味方をしたらしい――クリティカル。互いにたった一撃、されど致命的な一撃。 次、あとたった一撃でも喰らえば自分は運命を対価にして戦闘を続ける事になるだろう。だが、七は一歩も引かず――寧ろ前進。一般人を護る為。自分に気を向けさせる為。 作戦名は『ガンガン行こうぜ!』 一般人を背に庇うよう、一人の怪人が立ちはだかる。 「金属バット……貴方がイチノセですかのぅ?」 「うおっ変な人だ」 「くっくっく、今日の私は一味違いますぞ。何しろ、スイカの面をつけていますからな! 数多の砂浜に散っていったスイカの魂が、この仮面を通して力を与えてくれる……気がします」 「変な人だ!」 「まあ、どちらにしても動かないスイカしか相手にしないような方にはこの仮面を砕く事は不可能でしょうけどなー」 「ンだとコラァ! かっ飛ばすぞ!!」 九十九の挑発に乗ったイチノセが戦気を纏い吶喊してくる――さて、楽しい遊びの時間はこれで終わり。ここからは、互いに傷つく戦いの時間。 プロストライカー。コマ送りの視界、向ける銃口。落ちる硬貨すら撃ち抜く精密さでその頭を狙い、撃った。それでも踏み込むイチノセがエネルギーを溜めたバットで一閃する。しかし、化物じみた柔軟さでぬるりと躱した九十九は全く怯まずもう一度その頭へと撃った。 頭から血を流すイチノセのホームランヒーローが強烈に九十九を殴り付ける。 それでも直撃を紙一重で回避した九十九が更にイチノセの頭部へ弾丸を放つ。 顔を血で赤くしたイチノセがメガクラッシュを放つ。 踏み止まった足元を赤く染めながら九十九が1$シュートで頭部を部位狙いする。 メガクラッシュ。 頭部へ1$シュート。 「これで五発――」 銃口から立ち上る煙。 「……頭を割られる苦しみが、少しは分かりましたかな?」 言い放つ九十九は再度、銃口をイチノセへ向けた。 じゃかましいわ、そんな咆哮。元気だなァと思いつつ、都斗は皆の為に癒しの祝詞を謳い上げる。 「ボクが攻撃しないぶんみんなには頑張ってもらわないとねぇ。ちゃーんと癒してあげるから頑張ってね」 今回は天使らしく、癒す事に注力。回復係は重要。 擡げた口角、紗夜が手に持つのはウサギの縫いぐるみ。仮面の奥からヨツバを見据え、 「やぁ、こんばんは。お楽しみのところ悪いけど、私達も混ぜてもらえないかな? ……あぁ、スイカはキミらで良いよね?」 AFであるウサギの後頭部に手を突っ込み――ズルリと取り出したのはダークな装飾が施されたデスサイズ。戦気を纏いつ突き付ける切っ先。その横から飛び出したのは暖簾、勢いの儘に拳を堅く振り被って。 「それ以上させっかよ!!」 踏み込み、鉄拳制裁。無頼の拳。殴り付ける。 「んだァてめぇら! ぶっ殺すぞ!」 吐き捨てる暴言と共にヨツバが放つのは壱式迅雷、圧倒的な武舞が暖簾と紗夜に襲い掛かるも――一歩も引かない。間合いが開く事は許さない。踏み込む。一般人どころじゃないぐらいに仕掛けてやる。目の前に立ちはだかる。 「キミら自身を、叩いて砕いて押し潰させてもらうよ」 ヨツバの電撃に負けない位、紗夜は激しい稲妻を刃に纏わせる。ヨツバと自身の電撃が彼女の肌を激しく焼き、痛みが脳を突く。しかし偽悪守護者は余裕の笑みを崩さず、大鎌を高く高く掲げてから力の限り振り下ろした。 その隙に守護結界の印を結び、暖簾は紗夜と激しい打ち合いを繰り広げるフィクサードを睨ね付ける。 「術士無頼、機械鹿。お見知り置きを――さて、一丁やってやろうぜェ」 言葉と共に撃ち込むのは術符の烏。怒りを催すその羽音に、ヨツバの睥睨が暖簾へ向いた。 「ブッコロ!!」 「やってみやがれ!」 振り回される業炎撃を交差した腕で何とか凌ぎつつ、下がる。出来るだけ一般人の居ない方へ。怒りによる猛攻と拳の炎に蝕まれつつもブラックマリアの銃指を向けた。 「お前さんのスイカっての、ブチまけて見せてくれよ!」 発砲音、銃火、執拗不可視のヘッドショットキル。仰け反るヨツバの頭部。しかし耐久型とフォーチュナが告げた通り、堅い。その足と拳は止まる気配を見せない。それどころか、徐々に攻撃の威力が増しているのは――仲間が奮闘している証拠だろう。嬉しい反面、中々に辛い。 「いってぇなコラ!」 「良かったね、生きてる証だよ」 暖簾が引き付けたその背後より、紗夜は反動にも恐れず稲妻の鎌を振るった。呻き声を漏らしたヨツバが森羅行によって傷を回復する。睨み付ける。 「よっしゃ、ならこっちだって回復だ。まだまだこれからだぜェ!」 「悪魔はね、不死身なんだよ」 暖簾の傷癒術に傷を癒されつつ 、紗夜は鎌を振り上げる。何度でも。 ●れすq 「ははあ、裏野部式かあ。まあ何かっていうと人の頭はスイカに例えられたりするけどね」 四つの激闘、その戦闘音楽を聞きつつアーベル・B・クラッセン(BNE003878)はスコップを手に地面と戦っていた。取り敢えず仁義上等で見得も切っておいた。埋まっている人を救出すべく。 「砂浜の砂って掘りにくいんだよなあ……」 寧ろそれを15人分埋める作業をした君達も君達だね?なんて思いを胸に、フィクサード付近の者から掘り起こす。まかり間違ってスコップで刺したりしないように丁寧に、しかし迅速に、周りの気配にも気を配りつつ。 その背後にはキリエが立ち、自らを壁としてアーベル達が敵の視界に入らぬよう立ちまわる。 「よっし、もう大丈夫だよ」 出来るだけ声は顰め、手が出るまで掘り起こした一般人に腕を回して抱え上げる様に引っ込抜く。普段使ってる武器よか何倍も軽い。 さて、次だー―そう思った所で、しがみ付かれる。助けた女は腰を抜かし、泣きじゃくっていた。極度の恐怖。酷く震えて声にならぬ声を漏らしている。 このままではロクに作業が出来ない、が、そこでキリエが彼女の口に手を当てて。 「静かに、必ず助けるから。家族や大切な人の事を思い出して、頑張って」 「あ、あ、あぁあ……」 それでも彼女は今にも泣き喚きそうだ。その目をじっと見、キリエは両掌で彼女の頬を包み、ハッキリと言い聞かせる。 「……私が貴方の盾になる、落ち着いて。大丈夫、私達は貴方よりもはるかに頑丈だから」 その言葉、眼差しに、少しだけ落ち着きを取り戻したか。震えながらも、彼女は息を飲んで頷いた。そのまま彼女を庇い伴い、キリエは迅速に安全圏へと。 今の所フィクサードが一般人を一切狙っていないのは皆の尽力のお陰か――イチノセは九十九の五発の頭部狙いに薄らと恐怖を覚え、ニヘイとサンダは似た者同士の相手に嬉々として戦いを繰り広げ、ヨツバにも暖簾と紗夜が死に物狂いでしがみ付き、気を逸らせる事を赦さない。 「さあて一人頭何秒かかるか……何だか変なタイムアタックみたいだね」 一人、また一人と救出する。 ●渚の激戦 「てばさきがね。説明するとき悲しそうな顔してたの。ルカはね。そんなてばさきの顔みるの嫌なの」 だから一般人を助ける。ニヘイへ立ち向かう。徹底的に自分へと引き付ける。 殴られ垂れた鼻血を手の甲で拭い、ルカルカはバス停を手にニヘイへ躍り掛かった。速度の世界。常人の二倍動く。叩き込むのは渾身のアル・シャンパーニュ――無数の刺突にはどれも同じ手は無い。横薙ぎ、低身長を生かした下からの振り上げ、多彩に攻める。興味を持たせるように。 「ねえ、ルカと戦うのって破壊的で面白いのよ。ルカも貴方と、その武器を破壊したくてしかたないもの」 「チッ……未だだッ」 同じくニヘイが刺突を繰り出すも、それは全力防御を取ったルカルカには掠りもしなかった。くそ。苛立ちが募る。もう一度。今度は僅かに捉えた。伝わる鈍い衝撃に口角がつり上がる。これだけヒット数が重なって来たのだ、相当な一撃となっただろう。 だが。 「……傷つけば傷つくほど、痛みがルカを奮い立たせるのよ」 今日の戦いは面白いの――そう呟いたルカルカの姿が消えた。 ニヘイはその姿を捜すも、『遅い』。それは幻惑の武技。羊は死角より牙を剥く。 「羊はね、獰猛なのよ」 次の瞬間、バス停で頭部を強烈に殴られたニヘイは砂浜に頽れていた。 「クソ、もうやってられっかよォオ!!」 イチノセが奔らせた声は半ば悲鳴に近かった。彼は力任せにバットを振るった。されど怪人は、その高い回避力と俄かに射手とは思えぬ頑丈さで立ち向かってくる。銃口が向けられる。脳裏に過ぎるのは、『頭へぶちこまれた五発の弾丸』。その精度に、怖ろしさを覚え。そのしぶとさに、不気味さを覚え。その痛みに、恐怖を覚え。イチノセは走り去る。 「バールは本当に厄介だねえ」 外してくれれば助かるんだけど。なんて、運命を対価に立ちあがりつつ七は鋼を構える。まあ痛かろうと何だろうと最後まで立ってないと。 「皆を助けるまでは倒れる訳にはいかないなあ……さて、ロマンチストの怖さを身を持って教えて欲しいところだね」 踏み込んだ。先手はサンダ、ブラックジャックが襲い掛かる。しかしそれは鮮やかに回避されてしまった。瞠目。そこへ容赦なく狂い無く叩き込まれたのは、メルティーキス。死の接吻。 「コノヤロ、まだやンのか! こっち向けクソガキがァアア!!」 何が何でも喰らい付く。暖簾の烏がヨツバを襲った。紗夜も血だらけになった手でデスサイズを振り上げ、叩き込む轟撃。例え力量差があったとしても、最後まで諦めず、意識が切れるまでは喰らいつこうじゃないか。 「私は悪魔だからね……キミらみたいなのの楽しみを妨害する、世界を護る悪魔だよ」 笑顔は崩さない。追い詰める。運命を対価にしてでも。 そこへ、 「そんな見た目も悪い飾りだけの頭、邪魔で見苦しいだけ。無くなった方がいっそスッキリするよね? ……重さは変わらないだろうけれど」 静かな声。放たれた気糸がサンダとヨツバの頭部を穿った。蹌踉めいた二人が振り返ったそこには、一般人の救出を終えたキリエとアーベル。更に気付く。半分やられた。敗色濃厚。後ずさる。 「まだやる? そろそろお互いに見飽きて、興ざめだよね?」 キリエの声。舌打ちを擦るフィクサードがさらに後退、もう一歩後退、そして、 「くそ、覚えてやがれ!!」 逸散に撤退。倒れたニヘイを担ぎ上げ、一目散。リベリスタはそれを追いはしない。 「今は、この場を収める事の方が大事ですしな」 「あぁ、仏さんをゆっくり掘り出してあげようか……」 九十九の言葉に頷くアーベル。 そして、掘り起こされた五人――既に息絶えた者を横たえ。 暖簾は『然るべき場所』に連絡を、七は五人を出来るだけ奇麗な状態にとその傍にしゃがみ込んでいる。 「うん、痛かったし怖かったよね……」 ごめんね。ハンカチでその顔の血を拭う。 「砂に汚れて食べて貰えなかったスイカの無念。死んでいった方々の無念。……晴らせましたかのう」 空を見上げ呟いた九十九の声は、寄せては返す波の中へと静かに消えていった。 晴らせたかどうかは分からない。ただ、救える可能性のあった命は全て救えた――夜風が静かに、吹き抜ける。 『了』 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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