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<黄泉ヶ辻>ギャル戦争 ~弱者の復讐~

●『セブンスコード』ドゥーベ
 パイプ椅子がひとつ。
 ロープがひとつ。
 プラスチックのバケツがひとつ。
 これだけで人を絶望させられると言ったら、あなたは信じるだろうか?
「懐かしいね、ね? こんなふうにされたよね。私、何度もされたよね、ずっとずっと、ずっと、ね?」
 少女ドゥーベは『それ』にゆっくりと顔を近づけた。
 顔を真白く塗り、右目から右頬にかけて奇妙なラインが引かれている。昨今街を騒がせている『シロヌリ』とは文字通り一線を画した存在であることが、彼女のメイクと状況から分かった。
 なぜなら、彼女の周囲には何人もの『シロヌリ』の少女達が円陣を組むようにして立っていたからだ。
 彼女を囲んで。
 いや、正確にはもう一人だ。
 パイプ椅子にロープで縛り付けられ、プラスチックバケツを頭にかぶせられた少女が、そこには居たのだ。
「どんな気分になるか知ってる? 知ってるわけないよね、だって知ってたら、あんなことできないもんね、ね?」
 頭にバケツを被せられているという、一見して不格好な状況だが、内側にいる身としてこれほど恐ろしい事も無かった。
 ぐわんぐわんとバケツに反響して、相手の声が反響して聞こえてくる。
 自分の息遣いが荒いのが分かる。
 そして。
 指を逆方向に折られた時の悲鳴が良く分かる。
「いっ、いぎゃああああああああああ!」
 身体を揺すって痛みに悶える。しかしきつく巧妙に縛られたロープによってろくな動きはできなかった。いっそ椅子でも倒れてくれればいいものを、相手はがっしりとその背もたれを掴んでいるのだ。
 愛しそうに、恍惚な目をして、頬を寄せるシロヌリの彼女、ドゥーベ。
「死んじゃおうって思ったよ。そうしなきゃ逃げられないって、だから、ね? 死んじゃったんだよ。夜の屋上から飛び降りて、ね? でもね、死ななかったの、死ななかったから、こうしてるんだよ。分かるよね、ね?」
 ごきり、ともう一本の指を逆方向に折り曲げる。
 少女は意味不明の絶叫をあげ、そして自分で自分の鼓膜を破った。
 首筋に血の筋が降り、近隣の高校のものとみられる制服へじっとりとしみこんで行く。
「私じゃない、私がやろうって言ったんじゃない! 赦して、違うの、違うのお!」
「いいんだよ、分かってる。『みんながやることは正しいこと』だから、あなたのやったんだよね、原崎さん、ね? 『いっしょにやらないことは悪いこと』だから参加したんだよね、ね?」
 叫び過ぎて口の中を切ったのか、唇からも小さな血の筋ができている。
 少女ドゥーベは、バケツの側面にそっとサブマシンガンの銃口を当てた。
「これが何かなんて、分からないよね。でも、恐いよね、ね? 見えなくて、痛くて、聞こえなくて、恐いよね、ね?」
 バケツを取り外す。
 涙と涎と血でぐちゃぐちゃになった女子高生の顔が露わになった。
 肩越しに顔を近づけるドゥーベ。
 少女の携帯電話を操作すると、何者かに電話をかけた。
 『宮野衿子』と画面に表示されている。
 通話が繋がった瞬間、少女は半狂乱に叫んだ。
「た、助けて! あいつが、助けて、たす――だずげでぇ!」
『え、何? キモいんだけど。チエリなの?』
「そうだよ、だずけ――」
 少女の後ろで銃のトリガーを引く。
 顔が半分削り取れ、当然のように喋らなくなる。
 血塗れになった携帯電話を耳に当てて、ドゥーベはゆっくりと囁きかけた。
「次はあなたの所に行くね、ね?」

●苛められっ子の復讐
 『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)の説明を聞いたリベリスタ達は、じっと黙って顔を伏せていた。
 集団イジメを受けていた少女が自殺するというどこにでもある不幸の、その続きである。
 少女は死に切ることができず、その感情からフィクサードと化したという。
 より死ににくくなったが故、絶望した少女。
 そんな彼女に手を差し伸べたのが新興宗教団体『弦の民』だった。
 『弦の民』は黄泉ヶ辻に所属するフィクサード組織で、社会淘汰された少女達から信仰を受け、昨今その規模を拡大している。
 以前集団テロを計画していた所をアークに鎮圧され一時は壊滅状態に陥ったがその集会から逃げ延びた、もしくは参加していなかった幹部たちがついに独自の行動を起こしたのだった。
 これは、その内の一件である。
「ドゥーベ。『弦の民』幹部。通称セブンスコードの一人とされ、似た境遇の少女達を積極的に救済、復讐を代行してきた人間です」
 こうして沢山のシンパを集めたドゥーベは、ついにその力を自分の為に使い始めたのだ。
 彼女は独自シンパのフィクサード少女たちを連れ、自分を死に追いやった人間たちへの復讐活動を始めたのである。
「彼女を死に追いやったイジメグループは、28人」
「「…………」」
 28人。
 ほぼ一クラスの人数である。
 彼らは積極的に、かつ自発的に一人の少女を追い詰め、最終的には殺したのだ。
「そして、既に復讐が完了している人数が、27人です。最後はリーダー格の女子生徒だそうです」
「もう、そんなに……」
 この手際の良さ。
 アークが関知した時には既に、復讐を果たす一歩手前まで来ていたということになる。
「状況はどうあれ、『神秘を行使しての一般人殺害』を黙認することはできません。現場に強制介入し、ドゥーベを初めとするフィクサードを撃退して下さい。お願いします」


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:八重紅友禅  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2012年08月08日(水)22:22
八重紅友禅でございます
――『誰が悪い』で片付けば、世界に秩序は必要ない。

●ドゥーベ
『弦の民』幹部で多数のシンパを抱えています。
彼女自身が既に強力なフィクサードですが、行動を共にしているフィクサードが7名程度おり、非情に厄介な相手になるでしょう。
全員サブマシンガンとナイフを装備しており、状況に合わせて戦闘スタイルを変えられます。

状況としては、既にドゥーベ達が最終ターゲットである『宮野衿子』の家に押し入っている所からスタートになります。
電話回線は勿論あらゆる通信手段を断絶してあり、両親も長期外出中。結界等や魔眼等を利用して緩やかに近隣住民も立ち退いています。
あなたが踏み込まなければ、助かる余地は無いでしょう。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
ホーリーメイガス
救慈 冥真(BNE002380)
デュランダル
蜂須賀 冴(BNE002536)
クリミナルスタア
晦 烏(BNE002858)
ダークナイト
クリスティナ・スタッカート・ワイズマン(BNE003507)
クリミナルスタア
禍原 福松(BNE003517)
ダークナイト
鋼・剛毅(BNE003594)
レイザータクト
恋宮寺 ゐろは(BNE003809)
プロアデプト
ヤマ・ヤガ(BNE003943)

●弱者の復讐、その1。
 一般人を27人殺害し、ついに28人目を殺害しようとしているフィクサードがいる。これを阻止することは世界的にも社会的にも善であり、正義的行いと見て間違いない。
 だが、これが集団イジメによる被害者が復讐を果たすためだとしたら?
「いじめられっこの一撃必殺ねぇ。これが一般人同士のハナシだってんなら珍しくないんだけども」
 『機械仕掛けの戦乙女』クリスティナ・スタッカート・ワイズマン(BNE003507)は唇を親指で軽く押しつつ、世にも苦々しい顔をした。
 僅かに目を閉じる『必要悪』ヤマ・ヤガ(BNE003943)。
「一皮むけば人は夜叉か。時代と場所と離れれば、私刑もようみるが……」
「やられたらやり返す。ソコは間違ってはいない。だが、これは仕事何でな」
 『糾える縄』禍原 福松(BNE003517)は懐から銃を抜き、『斬人斬魔』蜂須賀 冴(BNE002536)は刀の鍔に指をかけた。
「確かに『彼女』は被害者で、教師と学友と、そして加害者にしか正せなかったのでしょう。死なせた責任は確かにある……されど、神秘で力無き者を殺めるならば、悪として斬る」
 これは、そう言う話なのだと、皆は心を沈めた。

 時は流れて移動中、車内でのことである。
「最近のいじめはおっかないねえ……っと」
 『足らずの』晦 烏(BNE002858)が不慣れなのだか手馴れてるのか判別しない手つきでタブレット端末を操作していた。
 横から顔を覗かせる『Le blanc diable』恋宮寺 ゐろは(BNE003809)。
「何してんのオッサン」
「せめておじさんって言おうや。ホレ、自殺者合わせて28人も死んだんなら大事件だ。本名辺り割り出せねえかなって」
「馬鹿言ってんなオッサン」
 『塵喰憎器』救慈 冥真(BNE002380)が烏の咥え煙草を引っこ抜く。
「E能力者の事件がググって出てきたら今頃日本中大騒ぎだろうが」
「オッサン言うなっての。表層じゃともかくアングラ掲示板なら奇特な晒し屋くらいいるだろうがよ」
「E能力者が面白半分に個人情報晒してるってコト? それはチョットありないかな……あ、でも、そう言えばヘンだなって思うとこあったかもしんない」
「…………?」
 話について行けないのでじっと黙っていた『疾風怒濤フルメタルセイヴァー』鋼・剛毅(BNE003594)が、鎧越しの視線でゐろはを見た。
「27人も一般人殺しといて、なんでバレてないワケ?」
「あ、引っかかった」
「嘘だろ!?」
 烏の端末に冥真とゐろはが顔を寄せる。
「おい邪魔だ見えねえ! えーとなんだ……女子高生が女子高生を殺す犯罪が一地区内に連続して27件。関係性も死因も動機もバラバラで個別の犯罪とされている。しかし被害者は過去同じクラスの人間だった。陰謀厨乙……ねえ」
「こうやって載るってことは一般人による殺害だぞ。で、『死んでない人間』の名前は?」
「まあ待て、過去の自殺者探ればいいんだろ。過去の……駄目だこりゃ、生き残ってる二人のクラスメイトしか載ってねえ。死体が復讐しにくるワケねえって思ってんだなこいつら。悪ぃ悪ぃ、やっぱダメだったわコレ」
 ディスプレイに表示された名前は二つ。
 ミヤノ・エリコ、アラシノ・レイ。
 車が二階建ての家屋前へと停まる。
 烏は端末の電源を切ってドアを開けた。

●宮野家突入作戦
 宮野家は閑静な住宅街に佇む二階建て一軒家である。突入前に感情探査と集音装置を働かせたが、これによって関知できたのは『大量の殺気に囲まれた恐怖』と『無数の悲鳴と断末魔』であった。
 一般人被害者は一名しか居ないことを知っている彼らは訝しみつつ、一階と二階からの同時突入を提案。二班に分かれての突入作戦となった。

 まずは、二階突入チームの様子から語ることとする。
 四人一塊になって翼の加護で飛翔。二階の窓に陰が落ちないよう慎重に窓脇へと張り付いた。突入態勢としては福松が先頭に立ち、冥真と冴が両脇を固め、その後ろからクリスティナが続く形である。
 カーテンの淵を超直観で見る冥真。
「夏場だってのに窓もカーテンは閉め切ってやがる。クーラー効かせてるわりにはカーテンのひだが動いてねぇ……目張りでぴったり遮光してんな」
「千里眼あればラクかった?」
「ある意味あっても一緒だ。殴り込んで蹴散らすぞ。ガキの遊びにゃ程度が過ぎたってことを教えてやる」
 冥真と冴、そして福松は同時に勢いをつけると窓へ肩から体当たりをかける。
 窓ガラスを粉砕。カーテンを引きちぎって内部へ突入。冴は超直観で周囲の状況を即座に把握。
 把握して……絶句した。
 いや、彼女だけではない。普通に周囲を見回したクリスティナでさえ、言葉を失った。
 部屋は薄暗いが、灯りに困る様子はない。
 白い壁や布の即席スクリーンで覆われ、小型プロジェクタ投射機によって数種類の映像が繰り返し同時再生されていた。
 投射機に内蔵されたスピーカーから立体感のあるリアルな音声と共に流れてくる『ソレ』に、冴は大きく顔をゆがめた。
『やめて殺さないで』『悪かったから』『ごめんなさい』『いやああああああ』『死にたくない』『嫌だ嫌だ』『私が何したっていうの』『来ないで』『死にたく、死にたく――!』
 一般人によって惨殺された27人の映像が、室内に投射されていた。
 部屋の中心では、自動でぐるぐるとまわる椅子に縛り付けられ、猿轡をした少女が涙を流して呻いている。事前に写真で渡されていた宮野衿子の顔写真と一致。
「遅かったね、ね? もうこんなに楽しんじゃったよ、ね?」
 そして、新興宗教団体弦の民幹部・ドゥーベ。
 彼女が今まさに、宮野衿子とみられる人物に銃の照準を合わせた。
「でももう終わりにしないとね、ね?」
「保護だ急げ!」
「――ッ!」
 宮野衿子を挟むようにして冥真と冴が滑り込む。ドゥーベの銃撃を身体で受け止め、冴は刀の柄に手をかけた。
「いかなる理由があろうと悪として斬る。蜂須賀示現流、蜂須賀・冴。参りま――」
 ぬっ、と背後から手が伸びる。
 違和感を感じて振り返る冴。
 刀の柄が握り込まれ、背後で飛び出しナイフの臭いがした。
 歯噛みするクリスティナ。宮野衿子の顔が、目の前で全く別人のものに変容する。
 誰のものか?
 そんなものは決まっている。
 弦の民教徒『シロヌリ』の顔である!
「伏せてろ蜂須賀ぁ!」
 途端、シロヌリの顔が大きく歪む。横合いから全力で繰り出された蒼穹の拳が、シロヌリの顔面に炸裂したのだ。
「ルアーでリベリスタ釣るたぁ、良い度胸じゃねえか。ええ!?」
 前髪に隠れていた左目(幻想殺し)をギラリと光らせ、福松はタンカを切った。
「千里眼を使って俺達の接近を事前に察知したか。事前に一帯の人払いをしたのもそのためだな? でもって散々恐慌状態にした宮野衿子を何処かへ監禁。ステルスと百面相で作ったルアーで俺達を釣ろうとしたわけか。だが俺には通用しなかった……残念だったな」
「……当たりだよ」
 ドゥーベはにへらと笑うと、その場で銃を乱射した。

 時を遡ること数十秒。
 一階突入チームはドアのカギを銃撃で破壊していた。
「近くで感情がごちゃまぜ過ぎてこれ以上は探れないから、まずはシロヌリを潰しまくって。そしたら宮野衿子を感情で探せる筈だから」
「了解! そういうことならば任せておけ! 勧善懲悪、疾風怒濤フルメタルセイヴァー発進!」
 剛毅が勢いよく剣を抜いた……その時。
 背後の影から這い出るように、二人のシロヌリが出現した。
 更に廊下の壁をすり抜けて二人。
 玄関の下駄箱から関節をぐにゃぐにゃに曲げたシロヌリが二人。
「ぬぅ、待ち伏せとは卑怯な!」
「なんつぅ囲み方だ、妖怪か何かか」
 シロヌリは細い廊下の前後を挟み、更に仲間たち分断するように中心を陣取っている。この状態で完全にブロックをかけ、弱い順に潰す作戦である。
 烏の肩を小突くゐろは。
「アンタは集音してて、こういう出方するってことは他にも一人二人潜んでる筈だから。奇襲に向くって言ったら超柔軟な超幻影だけど、呼吸音なら誤魔化せない筈だか――」
 途端、室内のあらゆるところに簡易設置されたワイヤレススピーカーから大量の断末魔が流れてきた。マックボリュームの全包囲反響である。
 思わず耳を塞ぐヤマ。
「中国の古い戦術だ。人の断末魔を聞かせて戦意を乱す……そこか!」
 殺気に気づいて顔をあげるヤマ。剛毅が剣を振り上げて襲い掛かってくる。
「頭どけろっ!」
 烏が射線をギリギリ通して発砲。剛毅に見せかけた超幻影が解け、シロヌリが床を転がった。
 そのすぐ脇では剛毅が必死にシロヌリのグルカナイフを鍔迫り合いをしている。
「一旦広い所へ出るぞ、ここで戦うのは不利過ぎる!」
 ヤマと烏は玄関方面のシロヌリへ照準を合わせると、必死の無防備射撃を敢行したのだった。

●地獄主義者の宴
 閑静な住宅街は宮野家を中心に禍々しい正気に溢れていた。
 嵐のように渦巻く断末魔。
 飛び交う銃声。
 引違い窓の枠を盛大に歪ませ、ドゥーベが空中へ躍り出た。
 リベリスタ達が乗って来たであろうワンボックスカーのルーフに背中から落ちると、即座に両足を突き上げる。
 そろえた靴底に冴の刀が挟み込まれ、彼女の体重を一瞬だけ空中に留めた。
 冴は振り払う力に抗って空中回転。ボンネットをバウンドするようにアスファルト上へ転げ落ちる。
 直後、窓から飛び立った冥真がマジックアローを発射。
 転がって避けるドゥーベの脇へ次々と魔力矢が突き刺さった。
「あんまナメたこと吹いてんじゃねーぞクソガキ。結局やってることは弱い者イジメか、クソみてーな大義名分吹いてるうちは救われねーぞ」
「あなたが救慈冥真だよね。『ドリームボックス』の救慈冥真だね、ね?」
「……ハァ?」
 一旦遅れてカールーフへ着地した冥真に、ドゥーベが寝そべったまま二丁のサブマシンガンを乱射。モロに喰らった冥真は距離を取りながら自分へ回復をかけた。
 にへらと笑うドゥーベ。
「毒舌家で有名な『ドリームボックス』がただの『罵倒』しか吐けないなんておかしいね、ね?」
「……なんだと」
「相手の事が分からなきゃ、相手の気持ちになれなきゃ、優しくなくちゃ、毒は吐けないんだよね、ね? あなたは私が分からない、分からないから毒が吐けない。私達はあなたの天敵なんだよね、ね?」
「…………ガキが」
「そこまでだドゥーベ。それとも本名で呼んでやろうか?」
 玄関のドアから転がり出てきた烏がアーリースナイプを発砲。ドゥーベの銃身に当たり、軽く照準をブレさせる。この程度で武器を跳ねさせないのがE能力者と一般人の違いであった。
 烏の後ろから助走をつけて跳躍する剛毅。
「苛められた復讐か、だからどいって情状酌量の余地はないぜ! 俺が行使するのはアークの正義! この程度で揺らぐ信念なぞ掲げておらんわ!」
 大上段から繰り出される奪命剣が、アスファルトを盛大にえぐる。
 飛び退いたドゥーベが今度は大きく広げた二丁拳銃で水平撃ちをかけて来た。
 咄嗟に剣でガードする剛毅。
 後ろから滑り出たヤマがピンポイント・スペシャリティを連続で叩き込む。
「ヤガは縁がのうて分からぬが、ひょっとしてぬしゃあ、自分が正しいと思っちゃおらんか?」
「正しィ?」
 その時のドゥーベの表情を、なんと表現すべきだろうか。
 嬉しさと、悲しさと、憎しみと、怒りと、興奮と、欲情と、歓喜と、そして何より深い絶望と希望が混ざり合った、複雑怪奇な表情であった。
「『正しい』し、『悪い』よ。でもそれは……あなたも同じだよね、ね?」
 小声で囁くドゥーベ。
 集音装置をパッシブしていた烏にだけは、それが聞こえた。
 『ひとごろし』と、彼女は言ったのだ。

 一階の混戦状態と比べ、二階は比較的落ち着いていた。
 クリスティナの暗黒と福松のB-SSでシロヌリを薙ぎ払い、その足で一階へと駆け下りる。
 隠密系スキルを多く備えていたからか、彼女達はさほどの脅威ではなかった。幻想殺しを持つ福松にとってみれば、『見えてさえいれば』隠密スキルは通用しない。物陰での気配遮断やクローゼットに潜んでのステルスなどにさえ警戒していれば良い。
「恋宮寺、そっちは無事か!」
「マジ死ぬ」
「無事だな!」
 リビングのソファにだらしなく寝そべったゐろはが、傘型の仕込み銃をぼてっとその場に放り投げていた。体勢はともかく、身体中に銃弾を受けた跡がある。
「感情操作がラクんなってきた。外で殺気出してるドゥーベと、恐慌状態の宮野っぽい誰かと、あとアタシらの仲間って感じ」
「宮野衿子の場所は分かるか」
「キッチンの床下収納……ぽい。ワナだったらイヤだからまだ見てないけど」
「そこは俺が見るから大丈夫だ。クリスティナ、警戒しながら付いて来てくれ」
「OK。でも外の方はいいのか?」
 サーベルを構えて振り返るクリスティナに、福松は小さく首を振った。
「あっちもそろそろ、終わりだろう」

 崩れたブロック塀に赤い液体が放射状に広がっていた。
 額をぐちゃりとへこませて、顔を赤く染めたドゥーベが寄りかかっている。
 銃を構えたまま無言で近づいていく烏たち。
 冴が刀をドゥーベに首に添えた。
「貴方が何を言おうと、どのような事情を持とうと、貴方の行為が悪であることに変わりはありません」
「知ってるよ。お互い様だよね、ね?」
「……」
「それにね、もう遅いよ。ずっと前から始まってる。皆もう動き出してる。運命が、捻じれ始めてるんだよ。ぜんぶ、ぜんぶ……」
 言葉の最後を待つまでもなく、冴はドゥーベの首を切り離した。
 唇から洩れた最後の一言は、風にかすれて消える。
 誰にも聞こえることはない。
 烏の耳を除いて。
「『れいのせい』……?」

●被害者・宮野衿子
 キッチンの床下収納には、場合によっては人ひとりをしまっておくだけのスペースがある。
 福松は幻想殺しでのチェックをかけつつ慎重に蓋を開け、猿轡と目隠し、そしてヘッドホンを強制装着された宮野衿子を引きずり出していた。
「うん……うん。セブンスコードっていう、幹部格だと思う。ドゥーベっていう……そうそう。え? 助かるけど、いいの?」
 ゐろはは暫く携帯で誰かと会話をし、通話終了ボタンを押した。
 チラ見するクリスティナ。
「どこに電話してたんだ?」
「ノエル。ケー番交換してたし……今度セブンスコードの動き掴んだら情報くれるって」
「エッ、良いのかそれ? フィクサード情報だろ?」
「分かんないけど、リベりかけてるらしくて、迂闊に行動しにくいみたい。フィクサード退治やり過ぎたんじゃない?」
「リベりかけって……」
 見ると、ドゥーベと戦っていた冥真たちが続々と戻ってくる。
 一方の福松も宮野衿子から猿轡を外していた。
 引きちぎれたカーテンの隙間から、ブロック塀によりかかるドゥーベの死体が見えた。
「助かった……助かったんだよね、アタシ。ざまぁ! 紗苗の分際で仕返しとかするからじゃん! 死んで当然――」
「黙れブス」
 クリスティナの平手が宮野の頬を打った。
 更にゐろはが髪を掴んで手榴弾を取り出した所で冥真がその手首をとった。
「そりゃやり過ぎだ。平手打ちで我慢しとけ」
「……」
 動揺に目を泳がせる宮野に、クリスティナが吐き捨てるように言う。
「まあ任務だから助けただけだ。お前が殺されるのは因果応報だからな?」
「それと、俺の話を聞け」
 視線の高さを合わせるように腰をおろす福松。左目をぱちんと瞬きした。
「『警察にいって、クラスメイトをイジメで自殺に追い込みましたと自供しろ』」
「や……やだよ! こんなの犯罪じゃないじゃん! アタシ殺されかけたんだよ!? 家踏み込まれて、こっちの方が犯罪じゃないの!?」
「……」
「だいたいクラスの殆どからイジメられるまでヘコヘコしてたアイツが悪いんじゃん! 誰にも相談しないで最後にあてつけみたいに自殺してさ、ホント空気悪かったんだから。あの後学級会なんか開いたんだよ、高校生が! ひとりずつ作文書かされて、『小河さんの気持ちに気づけなかったことが悔しいです』なんてさ、馬鹿じゃないの!? 自分でツケを溜めまくって、最後に勝手に破産して、自爆しただけでしょ!? 世渡りヘタクソなのを人の所為にして死んだだけでしょ!? アタシは悪くない! 絶対悪くない!」
「五月蠅え、さっさと行け」
 福松が、額を掴んで睨みつける。
 宮野は震える声で『はい』と呟き、ふらつきながら家を出て行った。

 宮野衿子が然るべき場所で訴えたとしても、恐らく取り合ってもらえずに返されることだろう。
 しかし彼女の根底に焼きついた復讐への恐怖は、彼女の人生を最悪の形で歪めることになるに違いない。
 もしかしたらそれが、ドゥーベが一番やりたかったことだったのかも、しれない。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
お疲れ様でした
今回の結果により、初富ノエルが『弦の民』関係の動きを嗅ぎつけた際アークへタレコミが入ることになります。場合によっては協力体制をとれるかもしれません。