●『セブンスコード』ドゥーベ パイプ椅子がひとつ。 ロープがひとつ。 プラスチックのバケツがひとつ。 これだけで人を絶望させられると言ったら、あなたは信じるだろうか? 「懐かしいね、ね? こんなふうにされたよね。私、何度もされたよね、ずっとずっと、ずっと、ね?」 少女ドゥーベは『それ』にゆっくりと顔を近づけた。 顔を真白く塗り、右目から右頬にかけて奇妙なラインが引かれている。昨今街を騒がせている『シロヌリ』とは文字通り一線を画した存在であることが、彼女のメイクと状況から分かった。 なぜなら、彼女の周囲には何人もの『シロヌリ』の少女達が円陣を組むようにして立っていたからだ。 彼女を囲んで。 いや、正確にはもう一人だ。 パイプ椅子にロープで縛り付けられ、プラスチックバケツを頭にかぶせられた少女が、そこには居たのだ。 「どんな気分になるか知ってる? 知ってるわけないよね、だって知ってたら、あんなことできないもんね、ね?」 頭にバケツを被せられているという、一見して不格好な状況だが、内側にいる身としてこれほど恐ろしい事も無かった。 ぐわんぐわんとバケツに反響して、相手の声が反響して聞こえてくる。 自分の息遣いが荒いのが分かる。 そして。 指を逆方向に折られた時の悲鳴が良く分かる。 「いっ、いぎゃああああああああああ!」 身体を揺すって痛みに悶える。しかしきつく巧妙に縛られたロープによってろくな動きはできなかった。いっそ椅子でも倒れてくれればいいものを、相手はがっしりとその背もたれを掴んでいるのだ。 愛しそうに、恍惚な目をして、頬を寄せるシロヌリの彼女、ドゥーベ。 「死んじゃおうって思ったよ。そうしなきゃ逃げられないって、だから、ね? 死んじゃったんだよ。夜の屋上から飛び降りて、ね? でもね、死ななかったの、死ななかったから、こうしてるんだよ。分かるよね、ね?」 ごきり、ともう一本の指を逆方向に折り曲げる。 少女は意味不明の絶叫をあげ、そして自分で自分の鼓膜を破った。 首筋に血の筋が降り、近隣の高校のものとみられる制服へじっとりとしみこんで行く。 「私じゃない、私がやろうって言ったんじゃない! 赦して、違うの、違うのお!」 「いいんだよ、分かってる。『みんながやることは正しいこと』だから、あなたのやったんだよね、原崎さん、ね? 『いっしょにやらないことは悪いこと』だから参加したんだよね、ね?」 叫び過ぎて口の中を切ったのか、唇からも小さな血の筋ができている。 少女ドゥーベは、バケツの側面にそっとサブマシンガンの銃口を当てた。 「これが何かなんて、分からないよね。でも、恐いよね、ね? 見えなくて、痛くて、聞こえなくて、恐いよね、ね?」 バケツを取り外す。 涙と涎と血でぐちゃぐちゃになった女子高生の顔が露わになった。 肩越しに顔を近づけるドゥーベ。 少女の携帯電話を操作すると、何者かに電話をかけた。 『宮野衿子』と画面に表示されている。 通話が繋がった瞬間、少女は半狂乱に叫んだ。 「た、助けて! あいつが、助けて、たす――だずげでぇ!」 『え、何? キモいんだけど。チエリなの?』 「そうだよ、だずけ――」 少女の後ろで銃のトリガーを引く。 顔が半分削り取れ、当然のように喋らなくなる。 血塗れになった携帯電話を耳に当てて、ドゥーベはゆっくりと囁きかけた。 「次はあなたの所に行くね、ね?」 ●苛められっ子の復讐 『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)の説明を聞いたリベリスタ達は、じっと黙って顔を伏せていた。 集団イジメを受けていた少女が自殺するというどこにでもある不幸の、その続きである。 少女は死に切ることができず、その感情からフィクサードと化したという。 より死ににくくなったが故、絶望した少女。 そんな彼女に手を差し伸べたのが新興宗教団体『弦の民』だった。 『弦の民』は黄泉ヶ辻に所属するフィクサード組織で、社会淘汰された少女達から信仰を受け、昨今その規模を拡大している。 以前集団テロを計画していた所をアークに鎮圧され一時は壊滅状態に陥ったがその集会から逃げ延びた、もしくは参加していなかった幹部たちがついに独自の行動を起こしたのだった。 これは、その内の一件である。 「ドゥーベ。『弦の民』幹部。通称セブンスコードの一人とされ、似た境遇の少女達を積極的に救済、復讐を代行してきた人間です」 こうして沢山のシンパを集めたドゥーベは、ついにその力を自分の為に使い始めたのだ。 彼女は独自シンパのフィクサード少女たちを連れ、自分を死に追いやった人間たちへの復讐活動を始めたのである。 「彼女を死に追いやったイジメグループは、28人」 「「…………」」 28人。 ほぼ一クラスの人数である。 彼らは積極的に、かつ自発的に一人の少女を追い詰め、最終的には殺したのだ。 「そして、既に復讐が完了している人数が、27人です。最後はリーダー格の女子生徒だそうです」 「もう、そんなに……」 この手際の良さ。 アークが関知した時には既に、復讐を果たす一歩手前まで来ていたということになる。 「状況はどうあれ、『神秘を行使しての一般人殺害』を黙認することはできません。現場に強制介入し、ドゥーベを初めとするフィクサードを撃退して下さい。お願いします」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:八重紅友禅 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年08月08日(水)22:22 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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