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夜を統べる者


 もう助からない、助かる気がしない。
 優しい言葉に惑わされて屋敷の中に招き入れられたのが間違いだった。
 あの男の気品ある見てくれに騙されて、気を許したのが失敗だった。
 必至に逃走してはいるけれど、すぐに追いつかれてしまうだろう。
 額に、背中に、脇に嫌な汗が滲む。振り向くたび、奴の姿が近付くのが分かる。
 足音は聞こえない。聞かせる必要がないのだから。
 どういうわけか、あの男は宙に浮いて移動している。
 あんなモノが人間であるはずがない。あってたまるものか。
 再度振り返ってみる。でも、姿は見当たらない。
 まさか、上手く切り抜けられた?
 いや、万に一つもその可能性はありえない。
 現に気配が――真正面にあった。

「小娘よ、お前は晩餐の前菜だ。逃げ出すことなど出来ない」
 赤く輝く虹彩。やけに青白い肌。真っ白に近い頭髪。
 光源は月明かりだけ。それでも、それらの異様な特徴は見て取れた。
 凄みの利いた瞳に睨まれ、思わず後ずさる。
 その瞬間、かかとに何かが当たった。
 ふと足元を見やる。そこには想い人の亡骸が転がっていた。
 引きつり愕然とした顔で、視線はあらぬ方向を向いている。
 あまりの出来事に胃液が込み上げる。膝の力が抜け、思わず倒れ伏しそうになる。

「安心するがいい、哀れな小娘よ。今夜味わった一切の恐怖も苦悩も、全て吸い出してやろう」
 床を踏みしめ、傾いた体を立ち直らせる。そして、強く睨み返す。
 何をするつもりかは知らないけれど、こいつの言いなりになんてならない。
 出口は近い。屋敷を抜け、森を下れば村はすぐそこだ。
 自分一人だけでも絶対に生き延びてやる。
 意を決し、大声を張り上げ、男の隣を走り過ぎようとする。
 邪魔する素振りさえ見せず、看過されたように思えた。
 だけど、そう上手くはいかなかった。
 必死に走り抜け、大扉が目前に迫ったその時、激痛が走る。
 どこに? そして、なぜ? そんなの分からない。とにかく、酷く痛い。
 足首に視線を向ける。すると、巨大なコウモリが張り付いていた。
 一匹、また一匹と矢継ぎ早に両足へと群がってくる。その度に痛みが増す。
 ふいに両足から力が抜ける。力が入らなくなる。立っていられず、這いつくばる。
 再び脚の方へと目を向ける。へばりついていたコウモリはどこかへと消えていた。
 飛び去った後に残っていたのは、白骨と汚らわしい食べカス。
 食べ終えたフライドチキンが膝から下にくっついていたのだ。
 こりゃ立てないわけだ。それを見抜いてか、コツコツと余裕ある足音が聞こえてくる。
 そう、例の男がやってきた。気配を消す必要などないと言わんがばかりに地を歩いている。

「余興は終わりだ、愚かな小娘よ。お前はこの時をもって今生を終える」
 なにを言っているのかわからない。痛みのせいか、体中に汗をかいている。
 寝転ぶ私に男は覆いかぶさるように四つん這いになる。
 ひどく滑稽な姿だった。思い切り笑ってやりたくなった。
 そして、彼は私の首筋に接吻する。とても激しく、狂おしい口づけ。
 犬歯を立てたのか、チクリとした痛みが走る。
 その瞬間、スーッと血の気が引いていく。なぜだか恍惚とした感情が湧き上がる。
 もう腕は上がらない。足は上がらない。そして、首も上がらない。
 意識が遠のいていく。なにかを考えるのもままならない。

「さあ、『グリゼリディス』よ。こいつの魂を喰らうがいい」
 グリゼリディスとは一体なんだろう。
 私の辞書のどのページにも、そんな言葉はない。
 だけど、もうどうでもよかった。
 必死に抵抗したところで、報われることはない。
 おぞましい伝承の残る小村に興味本位で立ち入るべきじゃなかった。
 誰も近寄らないこの森に立ち寄ったことこそ全ての過ちだった。
 でも、今となっては全てが遅い。気付くのが遅すぎた。
 もう助からない、助かる気がしない。

「……やはり痩せぎすの人間の血はあまり美味いものではないな。
 愛しき『グリゼリディス』よ、次は主菜だ。二人で存分に味わおうではないか」



「これが今回の事件の経緯。フィクサードがアーティファクトを使って好き勝手しているわ」
 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は淡々と告げる。そして、言葉を続ける。
「被害者は男性一人と女性二人。女性の内一人は細身、もう一人はふくよか。
 奴らからしてみれば人間は血肉のたっぷり詰まったソーセージのようなものだから、
 肉付きのいい方をメインディッシュに選ぶのは当然ね。男性の血は不味いから論外だろうし」
 しれっと失礼千万なことを呟きつつ、モニターに情報を映し出す。
「ここからが重要なポイント。敵対するフィクサードについて」
 集まったリベリスタたちはゴクリと息を飲む。
「名前はドナティアン・フェーブル。種族はヴァンパイア。
 能力自体は大したことないわ。むしろ普通よりも劣っているくらい。
 問題なのは彼の持つアーティファクト。本人はグリゼリディスと呼んでいるようね」
 パッと画像が切り替わり、モニターに指輪が表示される。
 その表面にはなにやら不思議な文字が隙間なく刻まれていた。
「この指輪はコウモリのようなアザーバイド使役するの。
 人を襲撃させるもよし、乗って宙に浮くもよし。正に自由自在に操れるわ。
 あ、今後便宜的にキロプテルと呼ぶことにするわね」
 再びモニターが更新され、今度は醜悪な巨大コウモリ――キロプテルの姿が映る。
「こいつらは人間の肉を喰らうわ。その食欲は非常に旺盛。
 一度かじりついたら骨になるまで放さないでしょうね。
 幸い衝撃には弱いみたいだから、近づいてきたら即両断してやるといいわ」
 簡単に言ってくれるが、見た感じキロプテルの大きさはせいぜい片手を伸ばした程度。
 空も飛んでいるとなると即両断は難しい気もする。でも、やるしかないか。
「グリゼリディスを『何らかの方法』で取り上げてしまえばその効力は失われるわ。
 多分、だれかれ構わず襲い始めるでしょうね。もちろん、ドナティアン自身にも。
 さっきも言ったとおり、彼は貧弱。きっとパニックに陥るんじゃないかしら。楽しみね」
 『何らかの方法』とはどんな方法だろうか。率直にイヴに聞いてみる。
「そうね、腕や指を切り離すとか。残酷だと思うなら、単純に指輪を壊してしまうとか。
 破壊するには的が小さいから細心の注意が必要になるけれど、試してみる価値はあるわ」
 これまた難しそうだが、自分たちにしかできないことなんだ。絶対にやってやるさ。
 あらかたの情報は聞いた。心に燃える火を灯し、この場を立ち去ろうとする。
 するとイヴが急に思い出したように素っ頓狂な声を上げた。
「あ! ちょっと待って、一つ言い忘れてたわ。
 彼は元々リベリスタだったらしいの。指輪の魔力で性格が捻じ曲がっちゃったみたいだけど。
 指輪を破壊した上で説得すれば改心してくれるかもしれないから、それを心に留めておいて。
 ただ、倒してしまっても良心を痛めることはないわ。彼はこれまで数多くの人を殺めてる。
 いわば自業自得。世の中そういう風にできてるのよ。気にする必要はないわ」
 そして、最後に付け加える。
「……頑張ってね。みんなが無事で戻ってきてくれること、祈ってるわ」
 相変わらず抑揚のない口調だが、自分たちを心配してくれていることは読み取れた。
 イヴの期待に答えるためにも全力を尽くそう。そして生きて帰ってこよう。
 熱いハートを胸に、リベリスタたちはブリーフィングルームを後にした。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:オルレアン  
■難易度:EASY ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2012年08月15日(水)00:16
 皆さん初めまして。オルレアンと申します。今後ともよろしくお願いします。
 誰もが理解しやすい吸血鬼もの、といった感じの依頼です。
 大切そうな事柄はOP中にイヴが説明してくれているので、こちらでは簡単なまとめを。

●成功条件
・フィクサード『ドナティアン・フェーブル』の討伐、あるいは説得
・アザーバイド『キロプテル』の殲滅
 双方を満たして初めて成功となります。

●敵戦力
・フィクサード『ドナティアン・フェーブル』(ヴァンパイアxソードミラージュ)
 ソードミラージュ初級スキルの一部を使用します。また、吸血スキルを好みます。
 武器はレイピア『ユニコルヌ』。過度の装飾が施されていますが、殺傷力は低いです。
 元来は卑屈な性格のリベリスタでしたが、強力な下僕を得た万能感から傲慢な性格に変貌。
 現在は吸血鬼伝説の残る小村に付随する森に住んでいます。身を隠すのに都合がいいからです。
 ヘタレな人物ですので、グリゼリディスさえ取り上げてしまえば大人しくなります。
 そうなればこちらのもの。説得も討伐も思いのままです。

・アーティファクト『グリゼリディス』
 指輪型のアーティファクトです。アザーバイド『キロプテル』を使役し、自在に操れます。
 息絶えた人間に残留する魂を糧とします。元気な人間からは魂を得られません。
 また、最近あまり魂を食べられていないせいか、耐久性は低いです。破壊が可能です。
 ドナティアンはグリゼリディスに過度の愛情を抱いているようです。

・アザーバイド『キロプテル』
 コウモリ型アザーバイドです。グリゼリディスにより、30匹ほどが使役されています。
 大きさは70cm~1mほど。飛行しています。そのため、少々狙いが定めにくいかも知れません。
 攻撃手段は強靭な顎を駆使してのスキル『喰らいつき』(物近単・状態異常:[出血])。
 ドナティアンはキロプテルを輿代わりに移動しています。
 グリゼリディスのコントロールを失うと、人間であれば見境無しに襲い始めます。

●戦場
・豪華な佇まいの平屋です。数百年前に貴族の別荘として建築されたと言われています。
 以降、修繕に修繕を重ねてきましたが、数十年ほど前に持ち主が管理を放置し始めました。
 それ以来、掃除なんてまともにされていません。そんな頃、ドナティアンが住み着きました。
 彼は客人を招くため、通路と客室と食堂だけは綺麗にしています。

 以上が情報のまとめです。
 それでは、皆さんの素敵なプレイングをお待ちしております。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
マグメイガス
アレクサンドル・ヴェルバ(BNE000125)
ソードミラージュ
富永・喜平(BNE000939)
ホーリーメイガス
汐崎・沙希(BNE001579)
ダークナイト
レイチェル・ブラッドストーン(BNE003442)
ダークナイト
カイン・ブラッドストーン(BNE003445)
ダークナイト
★MVP
カルラ・シュトロゼック(BNE003655)
レイザータクト
ラケシア・プリムローズ(BNE003965)
デュランダル
シャルラッハ・グルート(BNE003971)

●古の洋館
 吸血鬼伝承の残る小村。その村の郊外にある鬱そうとした小さな森。
 その森にはある館があった。誰も近寄らない恐るべき館があった。
 主が吸血鬼、そんなもの誰もが根も葉もない噂だと思っていた。興味本位で立ち入る者もあった。
 だが、噂を真実と裏付けるように、古の洋館では今、生死を巡る激闘が繰り広げられようとしていた。
 ビロードの外套に妖しく輝く赤い瞳、正に吸血鬼然とした人影に対峙する八人の戦士たち。
 館の主たるドナティアン・フェーブルは彼らを見るなり口を開いた。
 蝙蝠に近い姿をしたアザーバイド、キロプテルの背に乗って浮遊し、一同を見下ろしながら。
「貴様ら、アークの飼い犬か。これは面白い。以前は私も連中にこき使われていたよ。だが、今は違う。
 指輪の――グリゼリディスの力を得た私を打ち破ることができると言うのなら、かかって来るがいい」
 彼は薬指に身に着けたアーティファクト『グリゼリディス』に口づけし、大勢のキロプテルに指示を与える。
 今日の獲物は奴らだ、思う存分貪るがいい――と。かつて同じくアークに所属していた仲間であるとは考えもしない。
 対するは特務機関『アーク』から派遣されたリベリスタたち。彼らはこの世に蔓延する黒い影を打ち砕かんとする光明だった。
 その内の一人、『終極粉砕機構』富永・喜平(BNE000939)は吸血鬼に向かって言い捨てた。
「正に魅入られたって感じだね。リベリスタとしての矜持も奴自身も、何もかも喰われちまったか」
 彼の言葉には怒りと、哀れみの念さえ込められていた。
 そしてアーティファクトの魔力に堕ちたこいつには生きている価値なんてない、そう思った。
 喜平は『水底乃蒼石』汐崎・沙希(BNE001579)を庇うように陣取り、彼女に耳打ちする。
「相手は大群だ。そして、あんたは回復の要。俺があんたの盾になるよ」
 ま、あまり防御には自信がないがね――そう付け加えて喜平はウィンクを送る。
 喜平の言葉に沙希はふと微笑んだ。ただし、傍目にはあまり変化が感じられないが。
 仲間の期待に答えるように、沙希は気を集中させた。すると白い燐光が彼女の体を包む。
 激化する戦いに備えて魔力を蓄えているのだ。そして目を開けると、彼女は残忍な笑みを見せた。
 開いた目は吸血鬼ドナティアンを睨み付ける。その瞳には、ターゲットの姿が映し出されていた。
「罪には罰を、罰には慈悲を。それが我が貴族の矜持、だが……」
 『黒太子』カイン・ブラッドストーン(BNE003445)は独り言を呟いていた。
 善を勧め、悪を懲らしめる気高き精神を持ち合わせる彼は、複雑な心境だったのだ。
 この者が改心するというのであれば、慈悲を与えるのもやぶさかではない。
 だが、多くを殺してきた罪もまた、償わねばならぬ。果たして、この者は討伐されるべきか否か。
「指輪の魔力で性格の曲がった元リベリスタ。確かに同情の余地はある。
 けれど、そんなもの免罪符になりはしない。生きるも死ぬも運命の導き次第――そうでしょ、兄様?」
 カインに言葉を投げかけるのは彼の双子の妹、『黒姫』レイチェル・ブラッドストーン(BNE003442)。
「そうか……そうだな。審判を下すのは我らではなく、天の導き。お前の言うとおりだ、妹よ」
 カインは肯定した。そして熱い眼差しをレイチェルに向ける。その熱さはさながら真夏日の熱射の如し。
 彼は誇り高く、清く正しい。だが、若干シスコン気味なところが玉にキズだった。
 いつものことだと視線を軽く受け流し、レイチェルはカインの注意をキロプテルへと促す。
「ほら兄様、連中が迫ってきているわ。兄様の華麗なる美技の数々でさっさと片付けてしまいましょう」
「ああ、キロプテルどもの処理こそ我が役目。空の覇者が誰であるのか、彼奴らに思い知らせてくれよう」
 カインはふわりと浮遊すると、手の内から漆黒の瘴気を放った。瘴気は徐々に巨大化し、中空を漂う。
 そして、瘴気に巻き込まれたキロプテル数匹が玩具のようにバラバラに引き裂かれた。
 その光景を横目に、レイチェルは精神統一を始めた。先ほどの沙希と同じように。
 一つ違うのは、レイチェルの体に纏わりつくのは闇に溶け込む黒いオーラだったことだ。
「兄様の眼と私の耳があれば連中を逃がすようなことはなさそうね。なら、手加減抜きで行くわよ」
 自信に満ちた表情で反芻するレイチェル。飛び回る蝙蝠を標的に定め、彼女は一歩を踏み出した。
 その一方では一匹のキロプテルがリベリスタの一人に迫っていた。
 姿こそ蝙蝠に似ていれど、やはりアザーバイド。その速度たるや、簡単に反応しきれるものではない。
 普通は怯む素振りを見せるだろう。だが、『狂獣』シャルラッハ・グルート(BNE003971)は違った。
「来た来た♪ コウモリを使役してるなんていかにも吸血鬼って感じだよね!」
 シャルラッハはチェインソー――バルバロッサをキロプテルに叩きつける。もちろん、真っ二つだ。
 嬉々とした様子の彼女は、命の取り合いが大好きだった。向かってくれば切り刻む。それが彼女のスタイルだ。
 はあ、とこれ見よがしに、残念そうにため息をつくシャルラッハ。矛先をドナティアンに向け、言い放つ。
「ペットと戯れてるだけじゃつまんない……こういうのってやっぱ、人間同士で殺り合いたいよね♪」
 鋭く光るシャルラッハの瞳は、まるで獲物に狙いを定めた猛獣のようだった。
「陳腐にして愚かしく、そして醜い。全く、美学の足りん小童じゃ」
 呟くのは、ほとほとあきれ果てた様子の『火炎の魔人<イフリート>』アレクサンドル・ヴェルバ(BNE000125)。
 ドナティアンの取る小物臭い行動は魔人たる彼の美学に一々反する。彼は憤りを感じていた。
 アレクサンドルにとっての悪とは華々しく、揺るがず、苛烈で、そして庇護する者のことを言う。
 己の欲望の命ずるままに他者を殺し、貪り尽くし、飽きれば捨てるなど言語道断だ。
「貴様に、本当の悪を教授してやろう」
 凄みを利かせ、ドナティアンに向かって片手をかざすアレクサンドル。そして彼は詠唱を始めた。
『鉄のゆびわ、王のひとみ、四十の軍団を率いる侯爵よ――』
 唱え終わるなり、彼が定めた地点から爆炎が噴き出した。
 燃え盛り、地に落ちる数匹のキロプテル。その内にはドナティアンの輿となっているものも含んだ。
 ふいに苦い顔をするドナティアン。その様子を見るやアレクサンドルはにやりと笑った。
 その傍ら、彼に続くラケシア・プリムローズ(BNE003965)は、淡々とした様子だった。
「私達が為さねばならないのは凶行を止め、神秘による被害を防ぐ事。ただこれに尽きるわ」
 だから、ドナティアンが生きようが死のうが、どうでもいい。どちらにせよ、価値などないのだから。
 月光に照らされたツギハギだらけの屋敷の内装を見るなり、ラケシアは嘲笑の笑みを浮かべた。
「手入れの行き届いていないお屋敷ね。住んでいる人となりが知れるわね……フフッ」
 クスクスと笑いながら、彼女は行動を開始した。
 ラケシアは後衛に陣取っている。支援と援護を担当するためだ。
 神秘の力により生成される閃光弾を手に取り、キロプテル集団の中心に投げ込む。
 闇に生きる連中は、その激しい光に思わず動きをかき乱される。もちろん、ドナティアン自身も怯んでいた。
 絶好のチャンスを作り出したラケシア。追い風は彼女たちに吹いている。
「元々リベリスタだったやつがアーティファクトを得てフィクサードになる。
 逆ならまだ許容するんだがな……こいつはダメだ」
 後続である『逆襲者』カルラ・シュトロゼック(BNE003655)は思わず唾棄する。
 胸くその悪い、下らないヤツだ――カルラは心底そう考えていた。
 闇を纏う彼は積極的な攻撃を連中に仕掛ける。彼もまた、漆黒の瘴気を手の内から繰り出した。
 そして、巻き込まれたキロプテルがバラバラに引き裂かれる。ここまでは通常通りだった。
 だが、一匹、また一匹とキロプテルを巻き込んでいく。タイミングが、良い結果を生み出している。
 罪を犯した奴には天罰が降り注ぐものなんだよ――そう言いたげな目でカルラはドナティアンを見つめていた。
 一方のドナティアンも黙っているつもりはない。ただ、色々と言われてしまって面食らっている様だが。
「キロプテルたちよ、私を守れ! 早くしろ! ……ふん、なかなかやるようだが、私にはかなうまい」
 連中もなかなか面白い手を見せてくれる。ならばこちらも少し本気を出してやろう。
 ピンチになればその時はその時、いざとなれば逃げるのみだ。


●激闘の果てに
 矢継ぎ早に攻撃を仕掛ける沙希。魔法の矢をつがえ、手近なキロプテルへと向かって放つ。
 矢が当たるや否や、キロプテルはさも当然のように地に落ち、動きを止める。
 こんな脆弱なモノを従えて、何故そこまで傲慢でいられるの? ――沙希は疑問に感じた。
 続くレイチェル。兄と同様、手の内から漆黒の瘴気を放ち、キロプテルを潰しにかかる。
「闇よ、喰らえ!」
 瘴気は広がり、キロプテルどもを包む。単調な行動しか取らない連中は、格好のカモだった。
 ドナティアンの指示通りに動くキロプテル連中には、圧倒的に戦略力が欠けていたのだ。
 ふと笑いを漏らすレイチェル。勝ち誇るその笑みは、自信に満ちていた。
 一方、ラケシアは視野を広め、逃げ出すものを許さぬ姿勢を取る。
「どうやっても私たちからは逃げられない。そろそろ降伏してはいかが?」
 ラケシアはドナティアンの神経を逆なでする。そして、怒りをあらわにするドナティアン。
 それが狙いだとも知らずに……。ラケシアは予想通りの行動に思わずほくそ笑んだ。
「おのれ、おのれ! リベリスタ共、私を誰と心得ている!? 私は、私は――!」
 そんなの知ったこっちゃない。ラケシアは続きを聞かず顔を背ける。所詮は取るに足らないことだ。
 先ほどに続き、炎を放つアレクサンドル。無慈悲な攻撃は、ドナティアンを困らせる。
「くそ、キロプテルを守りに回さないと私自身が倒されてしまう……くそ、くそっ!」
 キロプテル連中をいとも簡単に焼き払われ、守る手立てを失いつつあるドナティアンは地上に降り立った。
 焦燥するドナティアン。全く、美学が足りぬ。アレクサンドルは見下した目で彼を見つめた。
 相変わらず漆黒の瘴気を駆使し、キロプテルを討伐し続けるカイン。
 一匹、また一匹と数を減らし、やがてカインの周りからはキロプテルが消え去っていた。
 沙希と連絡をとり、傷付いた体を癒してもらえるよう願い出るカイン。沙希は視線でその申し出に応じた。
 治療を施してもらい万全を期した彼は低空を飛び、キロプテルを殲滅するべく攻撃を続ける。
 地に降り、防戦一方の姿勢をとるドナティアンにシャルラッハは肉薄していた。
「こんばんは、カッコいいお兄さん♪ 戦いはペットに任せて自分は高みの見物なんて、いい身分だね?」
 ドナティアンの操るキロプテルを切り刻みながら、シャルラッハは容赦ない罵声を浴びせた。
 次々とバルバロッサの餌食になっていくキロプテル。その光景に、ドナティアンは恐怖を感じた。
「早いとこ、その邪魔な指輪を取っちゃわないとね。腕ごと切り落とすのが効率的かな?
 それとも、指一本の方が苦しい? あ、肩からザックリっていうのもいいかも? 楽しみだな、ゾクゾクしちゃうよね♪」
 声を上擦らせ、舌なめずりをし、鋭い眼光でドナティアンを見据えるシャルラッハ。
 当初は余裕ある態度だったドナティアンも、徐々に焦燥感を募らせていた。だが、焦燥感を感じるのが遅すぎた。
 まもなくキロプテルは全て失われてしまうだろう。そうなれば、奴らリベリスタの攻撃は自分の身に容赦なく浴びせられる。
 だが、この指輪が、グリゼリディスがあればなんとかなるはずだ。指輪から湧き上がる虚勢が彼をその場に留まらせた。
 しかし、その根拠ない自信の発生源たる指輪は、ほどなくその効力を失った。
 闇を纏うナイトランス――螺旋暴君【鮮血旋渦】がドナティアンの腕を吹き飛ばす。飛び散る鮮血。
 カルラの放った一撃は、この戦いの明暗を決した。もしかすると、戦う前から決まっていたのかもしれない。
「いつまでも持つと思ってたわけじゃねーだろ? 潮時ってやつだ」
 悪人必滅。それはこの世界の理。ことに小物ともあれば、それは確実だ。
 指輪の支配を失ったキロプテルは、本能に身を任せた。それはドナティアンが指輪を手にした時から感じていた不安の一つだった。
 側で彼を守っていたキロプテルすらも身を翻し、ドナティアンに追い討ちをかけた。片腕と胴体の肉を削がれ、彼は無様な声を上げる。
「や、やめろ! 喰らうべきは私ではない! あいつらだ、あいつらを殺せ!」
 尊大に構える者の泣き言というのはなんと見苦しいものか。シャルラッハは見果てた様子で辛らつな言葉を浴びせる。
「指輪を失くしてパニックになるなんて、お兄さんって見かけ倒しの単なるヘタレだね。
 ……シャル、ちょっとガッカリしちゃったな」
 周囲のキロプテルを一掃し、ドナティアンの元へと向かっていたアレクサンドルも言葉を重ねる。
「貴様を護るものはもう何も無い。どうじゃ、己の身ひとつ放り出された気持ちは」
 魔人然とした、悪のカリスマを強く感じさせるその態度は、強い威圧感をドナティアンに与えた。
「き、貴様ら……私にこの様な真似をしてタダで済むと思うなよ! 指輪さえ、私のグリゼリディスさえこの手にあれば……!」
 死が隣り合わせに潜んでいるこの期に及んでまだそんな戯言を。アレクサンドルは彼を完全に見捨てた。
 その一方で指輪を失ったドナティアンに止めを刺すため、喜平は猛スピードで迫っていた。その速度はまさに神速。
「コイツはお前の余興に付き合わされた奴らからの礼だ、受け取れよ!」
 そのスピードを破壊力に転じ、一撃必殺の散弾を躊躇なく浴びせる。
 ドナティアンはキロプテルを巻き添えにその銃弾を喰らった後、総身の全ての動きを止めた。
 横たわった体は、血の気が引き青ざめている。驚愕に支配された顔は、引きつり強張っている。
 一人のフィクサードの最期を見届けたラケシアは、思わず憐憫の情を抱く。
 これが力に酔い、他を踏みにじった者の末路――なんと醜いのだろう。
 ふとラケシアが沙希の方に視線を向けると、手でサインを取り、目配せしてきた。
 キロプテルは全て退治した、という合図だろうか? 何にせよ、発話を嫌う彼女らしい行動だ。
 ラケシアはそのサインに同じくサインで答えると、事後処理を行うべく周囲のメンバーに声をかけた。


●夜を統べる者
 犠牲者たちの遺体はレイチェルの手によって丁重に布で包まれていた。
「いいわよ、アレクサンドル」
 うむ、と短い返事をし、拳に炎を灯すアレクサンドル。
 赤い炎が彼の手から遺体へと燃え移る。そう、彼らは火葬を行っているのだ。
 ある者は十字を切り、ある者は黙祷を捧げる。
 死者に敬意を払い、それぞれ思い思いの方法で哀悼の意を表していた。
 ほどなく遺体は燃え尽き、灰燼と帰する。
「ゆっくりお眠り。最早、誰もお前達を穢しはしない」
 しばし間を置き、アレクサンドルはそう呟いた。
 沈黙が続く中、喜平が話題を切り出す。アーティファクトの処理についてだ。
「指輪は粉々に砕いておいたよ。あんな奴がまた出てこないとは限らないからね。
 いや、怖いね本当。過度な力なんて持つもんじゃないよ」
 その台詞を聞いた沙希は、肩の荷が下りたようにほっと一息付いた。
「この程度の血じゃ、まだまだ物足りないね」
 言葉を続けるシャルラッハ。飄々とした態度を崩さず、そう言った。
「全く、気分の悪い奴じゃったの。何か穴埋めになる良い暇つぶしはないものかのぅ」
 アレクサンドルは顎に手を当て、退屈そうに呟く。
「なら、家庭菜園を作ってみるなんてのはどうだい? 命が芽吹くってのは感慨深いもんだぜ」
 園芸を趣味とするカルラは彼にそう提案する。
「あら、それは素敵ですわね。」
 同意するラケシア。さりげなく桜草――プリムローズなど植えてみてはいかが、と勧めてみる。
「ふむ、それはなかなか面白そうじゃ。桜草も綺麗じゃしの」
 時間ならば悠久とも言えるほどに持ち合わせている。
 平穏な趣味に身を置くのも悪くはないかもしれんな、アレクサンドルはそう思った。
 その言葉を聞いたラケシアは少し照れくさそうだったが、何故だろうか。
「では兄様、そろそろ帰るとしましょうか」
「ああ、そうしよう。ところで妹よ、怪我はなかったか? どこか擦りむいてないか? あと腹は減ってないか?――」
 過保護な兄はレイチェルを質問責めにする。だが彼女はそんなカインを無視し、帰路へと就く。
 こうして短い一夜の戦いは幕を閉じた。

■シナリオ結果■
大成功
■あとがき■
この度はご参加お疲れ様でした。
ドナティアンを容赦なく殺してしまうプレイングが多かったのが印象的です。
パンにはパンを、血には血を、といいます。
彼は死を以って償うのが最善だったのだろうと思います。

皆さま、素敵なプレイングをありがとうございました。

===================
レアドロップ:『虚飾細剣【ユニコルヌ】』
カテゴリ:アームズ
取得者:カルラ・シュトロゼック(BNE003655)