● ぼんやりと灯るキャンドルの火に、一組の男女の姿が薄闇の中で浮かび上がる。 ――ねえ、アタシのこと好きだっていったでしょう? 荒れ果てたホテルの一室。 豪奢に見せかけただけの安っぽい内装はいたるところが剥がれ落ち、空虚さをさらけ出している。 大型のベッドには、荒く胸を上下させる男の身体が横たわる。 女は、その傍らで男の首筋を愛しげに撫で上げた。 赤い唇が淫靡な笑みの形を作る。 ――ねえ、アタシのこと愛してくれる? 耳元で甘い声が囁かれるたび、男は短い吐息を漏らしながらがくりと痙攣する。 その表情にも飽き足らず、男の顔を撫でる女の指は虫のように這い進む。 ――ねえ、だから、アタシだけを見て? 女は、男の眼球を舐めるように愛撫する。 その白い指が、ずぶりと眼窩に潜り込み、薄い骨の奥、柔らかな塊を淫らに掻き回す。 男の身体が、壊れた玩具のようにびくびくと跳ねる。 ――アア、アイシテルヨ…… 微かに空気を振るわせた無機質な声音は、誰の口からこぼれたのか。 ――ねえ、アタシを愛して ――恋人のように愛して ――伴侶のように愛して ――親友のように愛して ――慈母のように愛して ――愛娘のように愛して ――ねえ…… ● 「フィクサードをひとり、始末してほしい」 そう呟いた『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)の表情には、珍しく嫌悪感が滲み出ていた。 「美馬坂純奈。殺人狂の異常者よ。もう犠牲者がたくさん出てる」 イヴがカレイドで感知した映像を映し出すと、ブリーフィングルームに集まったリベリスタたちの表情も堅く強ばった。 「純奈自身はそこそこの手練れだけど、みんなが全員でかかれば制圧は難しくない。 厄介なのは、彼女が所有するアーティファクト」 純奈の持つ破界器『リリスの唇』は、魅了の効果を増幅させるという。ある程度の同士討ちは不可避であり、消耗は必至だろう。 「アーティファクトの力に囚われた人は、強制的に彼女を愛することになるの。彼女のために、身を捨ててでも心から尽くすことになるわ」 ずいぶんと悪趣味な趣向に、リベリスタたちも露骨に顔をしかめる。 「純奈は、彼女が気に入った相手を優先で誘惑する傾向がある。……相手の性別にはこだわりは無いみたいだから、利用できるかもしれない。 いろんな意味でイヤな敵だけど、お願い。倒してきて」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:七草 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年08月08日(水)22:21 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 荒れ果てた郊外の一角。周囲に民家の明かりも街灯も無い中、そのホテルはあった。 お城じみた奇妙な外観を望むと、一室の窓からぼんやりと灯りが漏れている。 そこが、目指すフィクサード、美馬坂純奈の根城であることは間違いない。 『閃拳』義桜 葛葉(BNE003637)は、これから打ち倒すべき相手の素性に思いをはせる。 (愛に飢えた異常者か。さて、彼女は元々そうだったのだろうか……、それとも) 葛葉の脳裏に、様々な憶測がよぎる。 それは、純奈を単に異常者として排除する以外の道を、心の内で模索する彼の優しさ故かもしれない。 止めどなく浮かぶ考えを、葛葉はかぶりを振って払う。 悪い癖だ。今は、純奈の前に立つことこそが先決。 「……行くとしようか、終わらせにな」 純奈の欲する愛とは何だろう? 『Trompe-l'œil』歪 ぐるぐ(BNE000001)は考える。 (幾多詰みあがった男達は違うのかな、足りないのかな? まやかしの愛で満たされるのかな?) どの問いにも、ぐるぐは答えを出せないでいる。 純奈の求める愛が何なのかはわからない。ならば、純奈に愛してもらえば、それがわかるかもしれない。 愛され方なんて知らない。 愛することしかできない。 ぐるぐは、純奈に愛を注ごう。ありったけの愛を。 (アーティファクトの能力と美馬坂さんの能力の組み合わせは厄介ですね) 毒蜘蛛の巣穴へと歩を進めながらも、アルフォンソ・フェルナンテ(BNE003943)は戦術の構築に余念が無い。 強力な魅了に加え、その魅了からの回復を阻むアーティファクト。 「正しく異常者の愛を体現した技ですね」 嘆息と共に、思わず声がこぼれる。 その刹那、彼を捕らえたのは、甘く匂い立つように絡まる視線。 見られている……。 そう、リベリスタたちは純奈という蜘蛛の巣に、既に脚を踏み込んでいたのだ。 縦横に張り巡らされた蜘蛛糸のごとき千里眼に捕らえられた者は、無遠慮に心の内までもねぶられる。 決戦を前に、己の戦術を心中に再確認しないでいられる者がどれほどいようか。 手の内を読まれた上での、厄介な戦いになる。だが、ここで引き返すことなど出来ない。 埃まみれの廊下を進み、目的の部屋が近づいてくる。 「気に入らねぇ、気に入らねーぜ」 『デンジャラス・ラビット』ヘキサ・ティリテス(BNE003891)は、赤い瞳を少年らしい真っ直ぐな怒りに燃やす。 ただひたすらに求めるだけの貪欲。そんなものはただ自分が愛されたいだけの自己満足だ。 そんなものは蹴ッ飛ばすッ! 感情の高ぶりに比例するかの如く全身のギアがトップへと切り替わる。 いざ、戦いの時は満ちた。 ● 「……美馬坂純奈に間違いないな? お前を、止めに来た」 部屋の奥に悠然と佇む女を視界に定め、葛葉は拳を構える。 「先に問おう。非道を悔い改め、罪を償うつもりは無いか?」 にぃと笑みで応える純奈の様を、葛葉は説得不能と断ずる。ならば是非も無し。 地を踏みしめる両の足から、発勁の要領で爆発的な跳躍力を生み出し、一気に距離を詰める。 凍気を纏った拳が、アンデッドの一体に叩き込まれる。 「義桜葛葉、推して参る!」 突入前にドクトリンを叩き込んだアルフォンソは、続けて戦場を俯瞰する眼力を顕現させる。 蜘蛛の巣の内であろうと、ここは彼の戦場だ。彼が支配する闘争だ。 いつもの柔和な表情はそのまま。サングラスの端から覗く銀の瞳に、鋭い輝きが灯る。 フラッシュバンを構えていたアルフォンソだが、勢いを付けて突入した前衛たちが既に敵と交錯している状況に、範囲攻撃は不適と判断。 即座にスキルの発動を切り替え、アンデッドへと真空刃を撃ち込む。 刻々と移りゆく戦況を冷静に分析し、強固な敵陣の最も脆い場所へ、最適な一打を放つ。 そして、ポニーテールに結んだブラウンの髪をなびかせ、『狂気と混沌を秘めし黒翼』波多野 のぞみ(BNE003834)が戦場を睥睨する。 後方支援回復型指揮官を自任する彼女のバックアップは、チームの総合力を底上げする心強い要だ。 「どんな凶悪な攻撃も、当たらなければ無意味です!」 のぞみの口から、高らかに戦闘教義が宣言される。 「……そうですよね、純奈さん」 薄く歪んだ笑みを浮かべながら、敵陣へと歩み寄るのぞみ。 リベリスタたちの手の内は、戦端が開くまでの間、舐るように監視されていた。 のぞみは純奈に狙われていたのだ。彼女自身が常々自覚していたように。 「さあ、純奈さんをお守りしましょう?」 ● 「ああようやく、漸く喪失感が埋まり始めて、あの人の言葉を信じようと思い始めていたのに」 蜘蛛のビーストハーフ、女フィクサード。 純奈という存在は、『弓引く者』桐月院・七海(BNE001250)の傷を容赦なく抉っていた。 「やってくれる……」 七海は、『彼女』の遺したチョーカーをそっと握りしめて呟く。 目の前に居る純奈の姿に、『彼女』の姿が重なる。 七海と同じ名前だったフィクサード。譲れぬ道のために、殺し合うしかなかった人。 ――畜生! 重ねたくなどない。吹っ切れたはずだった。それを……、半端に思い出させやがって。 殺す。純奈を殺す。 七海の脳裏を染め上げるのは、ただひたすらの殺意だった。 ああ、この狂気。 それが、それこそが愛なのだろうか。 おびただしい烈火が紅蓮の矢となってアンデッドたちを焼き散らす。 「お前の髪に肌も愛を魂を全部全部ぜんぶ全部燃やしやる」 前髪の奥で、七海の瞳が狂気の色にギラギラと光る。 焼き尽くす、そして。 「そして灰だけになったら好きになれます」 一体誰を、何を好きになれるのだろうか。そんな疑問すら、今の七海には浮かぶことは無い。 ぞろりと脳の襞をなぶられるような悪寒が、七海を激情から一瞬呼び覚ます。 「……七海君、私は貴方の事、好きよ?」 純奈の口から発せられたのは、七海が永遠に忘れることの出来ない、あの口調。 そんなわけは無い。そんなことがあってはならない。 「私の事、わからない?」 純奈が浮かべた笑みは、薄っぺらく、にたりと、張り付いたような、あの。 喉がひりつく。心臓が自分の物では無いように打ち鳴らされる。 「ねえ、だから、アタシを愛して? うふふ……、あはははっはははははははははははは」 甘ったるい口調に戻った純奈が堪えきれないといった風に哄笑する。 手に入らぬ愛ならば、無残に踏みにじればいい。その悦楽もまた愛しい。 呆然とした刹那、七海の脳裏を真っ赤に染める怒り。 ああ、呪いの弾丸で貫こう。 あらゆる所にザクザクと執拗に一切の容赦なく。 まだ生きてる。息をしている。見たくない、寄りたくない。堪えられない。 激高する七海と、純奈の間に割入ったのは『名無し』氏名 姓(BNE002967)だ。 ダメージディーラーたる七海を、このまま暴走させるわけにはいかない。その判断だった。 「ねえ僕を見てよ」 ねえお嬢さん。 其の唇で一体何人虜にしたの? 容易く手に入る愛なんて虚ろでしょ。 だからいつも飢えている。 「……良ければ僕を誘って御覧」 どこか陰のある三白眼で、純奈に挑発的な視線を送る。 「虚ろじゃない愛なんてあるのかしら?」 逆に純奈は姓に問いかける。 「真の愛は簡単には捧げられない。僕の愛が欲しければ僕の心を掴んで、僕を君の唯一にして」 「欲張りね、アタシを独り占めしたいの?」 「僕は君の心が欲しいの」 愛の言葉を囁きながらも、姓はアンデットを撃ち抜いてゆく。 「邪魔な男達だね。純奈には、近づけさせない。僕が純奈の唯一だから」 満を持して登場した『ディフェンシブハーフ』エルヴィン・ガーネット(BNE002792)は、仲間たちが蹴り破ったドアを軽やかにノック。 ナンパが趣味と公言して憚らないエルヴィンだけあって、死線上であろうとその態度は変わりない。 「ごきげんようお嬢さん、突然の訪問で悪いね。ノックは間に合わなかったみたいだ」 キザに気取りながら、エルヴィンは純奈の元へと歩を進める。 ここが爆炎の荒れ狂う戦場であることを、忘れさせるような飄々とした姿だ。 ホーリーメイガスとは思えない強靱さを誇る、彼ならではの所行であろう。 彼にとって口説くべき女性さえいれば、響き渡る葬送曲すら、小粋なBGMだ。 「俺はエルヴィン、君の名前は?」 わざとらしく尋ねる声に、純奈も楽しげに返す。 「知ってるくせに。でもいいわ。乗ってあげる。アタシは純奈よ、エルヴィン」 「純奈さんか、良い名前だね」 爽やかに笑みを投げかけるエルヴィンの歩みは止まらない。 「君を落としに来た、覚悟してもらうよ」 とびっきりキザなウィンクとキメ顔に、リベリスタたちは声を失った。ずきゅーん! ● アンデッドに守られた純奈は、葬操曲を絶え間なく轟かせる。 己が紡ぎ出す糸であるかのように、その黒鎖を自在に操り、リベリスタたちを呑み込んでゆく。 幸運なことに、魅了の罠に落ちた者は少なかった。 魅了に耐性のあるエルヴィンと姓が、純奈の注意を引き付けるという作戦は功を奏したのだ。 決して楽観できる状況ではないが、戦線が崩壊するまでの被害が出るには到っていない。 混乱の中も、最前線でひたすらに剛拳を振るい続ける葛葉。 その拳が今、一体のアンデッドを打ち倒す。 純奈という蜘蛛に、死の安息すら貪り搾取された哀れな亡骸。 「蜘蛛とは、愛する者を最後には食べねばならぬという習性がある。最も、お前がそれに該当するかは解らんが……」 どこか憐れむような視線を純奈に向け、葛葉は呟く。 「ええ、そうなの。アタシのせいじゃないの。習性なのよ? ねえ、可哀想でしょう? だからアタシを愛して」 上目遣いに媚びた声を上げる純奈。 「済まんが、俺は嘘でも『愛している』と言う言葉は吐き出したくない。虚しいだけだ」 「言葉に『真実』なんて無いのよ? みんな嘘……」 葛葉の瞳に複雑な感情の色が浮かぶ。それは、憐憫だったのかもしれない。 「言葉が嘘で塗り固められていると言うのであれば、行動で示そう」 語るべき言葉は、もう無い。 「我が拳、存分に浴びられよ!」 ヘキサの放つ紅き鋼の脚が、音速の刃と化してアンデッドの側頭部に叩き込まれる。 鮮やかな弧を描く一撃は、妄執に囚われた男の意識を刈り取り、その自由を奪う。 取り巻きの危機にも、純奈は一瞥すらしない。己のために全てを捧げる奉仕が当然であるかのように。 その態度がヘキサの怒りを逆なでする。 「色んな男をとっかえひっかえ……テメェは今まで殺したヤツの中で、一度でも本気で愛したことがあったのかよ!」 「いつだって、アタシは本気よ? 本気だから殺すの。アタシだけのものにするの。アタシだけが愛してもらうの」 純奈という存在は、少年の理解の埒外にあった。 「……直接あの世まで蹴っ飛ばしてやる、殺したヤツらに謝ってきやがれ!」 数の力を減じたアンデッドたちが、純奈を守るために後退して密集した隙を、アルフォンソの眼が見逃すはずも無い。 彼我の前衛が距離を取ったとみるや、待ち構えていたフラッシュバンを即座に炸裂させる。 「良いわね。頭の良い男の人って素敵よ。ねえ、アタシを愛してよ?」 轟く閃光も一向に意に介する様子も無く、純奈が甘えた声を上げる。 「ご遠慮いたしましょう。美馬坂さん」 しかし、アルフォンソの返答は、老成した素振りと同様に素っ気ない。 いや、純奈の異常性に誰よりも警戒する彼だからこそ、彼女の狂気に踏み込むことを避けたのであろう。 エルヴィンの必死のブレイクフィアーで、のぞみもようやく自分を取り戻した。 「しっかりしてください、まだこれからですよ」 自分自身をも奮い立たせるように、仲間を鼓舞しながら、癒しの微風を呼び起こす。 しかし、生体鎧にも体力を奪われていたのぞみは、純奈の奏でる葬送曲に縛られ、ついに膝を屈した。 そして、葛葉の拳が、最後のアンデッドを薙ぎ払う。 死を奏でる葬送曲の衝撃をものともせず、純奈に肉薄する精悍な影。 「出来れば、別の形で出会いたかった物だ」 「アタシも、もっとロマンティックに出会いたかったわ」 「その言葉も嘘なのか?」 「ええ、嘘よ」 ● ダメージの回復が追いつかず、一端後衛に下がりはしたが、ヘキサの闘志は尚も燃えさかる。 庇い手がいなくなった純奈に、真空の刃が容赦なく叩き付けられた。 「いやーワリィ、一回り御歳を召されたババァは圏外なんでなー」 「アタシは男の子も愛してるわ。その細くて白い手足を引き千切って、いたいいたいって泣かせてあげたい」 尚もさらけ出される歪んだ欲情。自身がその対象になることのおぞましさに、ヘキサは唾を吐く。 ぐるぐもまた、この機を逃さず純奈の懐に飛び込んだ。 「しゅきしゅきー♪」 ぐるぐのあまりに直接的な好意に、さしもの純奈も面食らう。 「ボクじゃダメ? 純奈さんの好きは貰えない?」 純奈さんのことが知りたいの。何もかもが知りたいの。 純奈さんの求める愛は何? 純奈さんと一緒になれば、わかるはず。 ちょうだい、ちょうだい。 純奈さんをちょうだい。 「アタシもあなたが好きよ。だから、もっと愛して?」 にぃと、純奈が微笑む。ぐるぐの瞳に映るのは、彼女の真っ赤な唇。 「欲しいのはラヴ・ミーじゃない。コレは愛じゃない。貴女が見えなくなっちゃう」 ボクは貴女のルージュになりたい。ぐるぐは、そう願う。 その言葉に、純奈はほんの少しだけ顔を歪ませた。 「アタシには、この愛しか無いの。何も無いの。だから、アタシを愛して、ね」 アーティファクトに意思を奪われる前に、ぐるぐが最後に見た純奈は、寂しそうな顔をしていた。 それは、初めて垣間見せた、純奈の本心だったのかもしれない。 「愛されたい、誰もが願う素敵な想いだ」 エルヴィンが純奈に囁く。 もちろん俺だって、愛されたい。ただやっぱりさ、愛されるなら自分だけがいい。 愛するなら、ひとりだけがいい。 「……君は今、皆に愛されてるけど、それで本当に良いのかい?」 純奈は熱く甘い視線で応える。 「あなたが、アタシだけを愛してくれるなら、それでいいわ。エルヴィン」 ――君の好きな言葉は? ――愛してるって言って ――君の好きな触れられ方は? ――あなたの手で触って ――君は、本当は誰から愛されたかったの? ――あなたよ、エルヴィン 「君が求める本当の愛の、ほんのひとかけらでも贈る事ができたなら。このまま最後まで抱きしめたい」 エルヴィンの愛の言葉。 彼の言葉に嘘は無いだろう。いつだって、エルヴィンは本気だ。 だから、この愛も本物だ。 「けどね、エルヴィン。あなたには、アタシの愛<ラヴ・ミー>が届かないの」 エルヴィンの耳元で囁く純奈。 その刹那に、エルヴィンの臓腑を抉ったのは、ぐるぐの拳だった。 「嘘つきだけど、エルヴィン。アタシはあなたを愛していたわ」 ● メメタア的な擬音で叩き込まれた洗脳ぐるぐの容赦ないクリティカル腹パン連撃を、フェイトを燃やして耐え抜いたエルヴィンだが、マーベラスな激痛には、ただのたうち回るしかない。 そこに、止めとばかりに放たれたのは、姓のトラップネストだ。 麻痺には耐性のあるエルヴィンだが、だんだんぐったりしてきたので、演技の必要は無いだろう。 「恋敵は片付けたよ、純奈」 姓は純奈に魅了されることはない。よって、エルヴィンへの攻撃も、純奈を謀るためのフェイクだ。 だが、純奈が覗き見る姓は、確かに純奈の虜と化していた。 姓の秘策、ペルソナが純奈のハイリーディングを謀ったのだ。 無論、単に事実を隠蔽するに留まらぬ、姓の言葉が純奈を捕らえたのだと言えよう。 アンデッドの盾を失った純奈を守る騎士として、最愛の女性を崇めるかのように、姓は純奈へと歩み寄る。 「あは、僕だけを見てくれるかい? ……あいしてるよ純奈。守ってあげる」 それは、誓いの言葉として、純奈は受け入れたのだろうか。 愛を奉じられた純奈は満足げに微笑む。 彼女にはそれしかない。それだけしかない。だから。 「ええ、アタシを愛して……」 姓は純奈を抱きしめる腕に力を込める。 「君は誰にも渡さない。死ぬまで一緒にいてあげる」 誓い合った二人を包むのは、ゼロ距離から姓の放った気糸。姓という蜘蛛の放った糸だ。 純奈を麻痺させるには到らないものの、姓の胸に顔を埋めた純奈を固定し、完全に彼女の視界を奪う。 「あなたも、あなたもアタシを騙したのね!」 絶叫と共に放たれた呪いの大鎌が、漆黒の刃で姓の全身を切り裂く。 「ねえ、みんな私ごと殺して……」 純奈の刃を享受するかのように、彼女を抱きしめる手に力を込めた姓が呟く。 その言葉を噛みしめたように、純奈の抵抗が止まる。 「しょうがないわね……。じゃあ、あなたと死んであげる。だから、アタシだけを愛して?」 そして、一匹の蜘蛛が死んだ。 ● ぐるぐは、純奈と拳を交わしながらも必死に探していた。純奈が本当に欲しかったものを。 仕草でもいい、言葉でもいい。 だが、何も見つからなかった。 純奈には、何も無かった。 「ずっと、一緒にいようね」 ようやく、絞り出した言葉は、ぐるぐの優しさが紡いだものだ。 純奈の空虚を、それが満たすことが出来たのか、知る術は無い。 だから、ぐるぐは純奈の頬に静かに口づけだけを残した。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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