●(現実的な意味で)亡い女を想う、少年 「――秀太? 秀太! いい加減に降りてきなさい。晩ご飯冷めちゃうわよ!」 「っせーな! 黙ってろよババァ!」 下の階から自分を呼ぶ母へ怒声を吐き出した少年は、すぐさまドアを堅く閉める。 ガチャリ、とカギをかけた後、カーペットに散らかるゴミを避けながら、空間の奥へ、奥へ。 真っ暗な自室の中、眩く光る画面と向かい合わせで座って――母に『秀太』と呼ばれた少年は舌打ちを一つ。 (……あのクソババァめ。これだから現実の女は。醜くて汚くて、野蛮で身勝手だ) そう苛立ちながら頭を掻くと、そこから塵のようにチラチラと舞ういくつもの小さな白は――うわあ、フケである。現実から逃避する前にまず頭皮を治せよ。 醜い、汚い、野蛮、身勝手。自分の事など棚に上げつつ、秀太は自室の隅へ視線を流した。 分厚い眼鏡のその真下、荒んだ両頬の間に引かれたガサガサの唇が開いてニヤリと歯が見える。 「ごめんねえ、ライちゃん。余計な邪魔が入っちゃってさあ」 さっきの怒鳴りとは打って変わった猫なで声。彼が話しかけたその相手は、桃髪と二岳の山を揺らして駆け寄ってくる。 「ううん、気にしないで♪ あたしは秀太と一緒に居られるだけで嬉しいものっ」 澄み切った愛らしい返事と共に、ぴょんと跳んで秀太を抱きしめる。 ふわりと感じる甘い香り。体に押しつけられる柔らかな山。目の前には、話しかけた相手――ライの顔。 ばちん、ばちん。 彼が忌み嫌う現実の女らしさの無い、大きな両目が瞬く。現実どころか人間じゃないような気もするが、一応は人間の形を成している。 然し、明らかに普通で無いのは確か。表現するならば――そう、現実にあらわれた『二次元の美少女』だ。 彼が求める、完璧な理想の女の子。自らが開発したペイントツールで生み出した、奇跡の存在。 「ふっふふ……生まれてきてくれて感謝するよ、ライちゃん。これで僕は、幸せ者だ……!」 秀太はライの身体を離さぬように、腕をまわす。 気味の悪い笑みを零す少年を訝しむ事無く、奇跡の存在は彼を受け入れた。 暗い自室の隅。乱雑に横たわるのは、一、二、三……七体の『二次元の美少女』たち。 その姿はさながら、遊び飽きられて散らかったままの人形のようで。 ●高嶺の秀才……? 「才能の無駄遣い」 バッサリと言い切ったのはお馴染み、アークのマスコット的存在『リンク・カレイド』真白 イヴ(nBNE000001)。 モニター内でブサイクに笑う少年をジト目で睨んだ後、集まってきてくれたリベリスタ達へ説明を始める。 「アーティファクト……名は『レインボーメーカー』。この画面の中で笑ってる彼、高嶺 秀太が一から自作したペイントツールのディスクね」 起動しただけでは普通のペイントツールと大差無いが、キャラクターのイラストを描いて保存すると、その人物が画面から現実へ這い出るという、一部の人間にとっては夢のようなアーティファクトである。 「大層な名前の割りに残念だよね。引きこもり、ネガティブ思考、不潔、処女厨。そんな人間の傍にこんなアーティファクトがあると、大変なことになる」 待ってイヴちゃん、いまサラッとイケナイ単語言わなかった!? ――と、彼女を影で心配するリベリスタがちらほらいる中、それをよそにイヴは続ける。 「一筋縄ではいかないだろうけれど、皆にはそれを回収してきて欲しい。彼を気絶させる、脅す……方法は沢山あるけれどその前に、既に生み出されている『二次元の美少女』たちが立ちはだかるよ」 数は八体。秀太にとって完璧な理想の女の子達である。全員やたら目と胸が大きい。 その姿にならって、魅了の効果を持つ攻撃を仕掛けてくる。 「『二次元の美少女』たちは、結局は高嶺 秀太の脳内だけの存在。彼や、美少女たちに揺さぶりをかければ、弱体化も不可能じゃないはず」 揺さぶりが無くとも、リベリスタの実力ならば一対一でも勝てることだろう。 「高嶺 秀太の母親が外出している時がチャンスだよ。皆、頑張ってきてね。……ところで」 ――――しょじょちゅー、ってなに? 穢れ無き双異色の瞳を向け、リベリスタ達に問いかけた。 どうやら資料の説明を読んだだけであった様子。ですよね! 一部のリベリスタは安堵の息を漏らした。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:明合ナオタロウ | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年08月08日(水)22:18 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●高嶺母「ふう、ただい……玄関が、壊れてる……!?」 此処は、閑静な住宅街。 人通りも無く、聞こえてくるのはこの真夏だとよくある蝉の鳴き声くらいだ。 それでも閑静な住宅街とは、衝撃的な事件の現場としてニュース中継される機会が多い場所なわけで。 強結界補正でお茶の間には流れないにしろ、此処でも確りと、事件は起きたのだ――――…… 「うおおおおお! 高嶺秀太ああああ!!」 『てるてる坊主』焦燥院 フツ(BNE001054)の雄々しき声と共に、チャイム無しに扉がこじ開けられる。 今は外出中の高嶺母に心の中で御免なさいしつつ……高嶺家へお邪魔したのは八人のリベリスタ達。 「な、なんだお前等ー!?」 突然の物音に気づいてさすがに確認しに来たのか。階段の天辺には、ギョッと目を見開いて腰を抜かしている秀太の姿があった。 「お前が変なアーティファクト作るから、イヴの嬢ちゃんが変な言葉覚えちまったじゃねーか!」 「アーティファクトて!? イヴて!? っていうかお前等なんだ、泥棒か!?」 「ょぅι゛ょのピュアを奪いかけたお前にそう呼ばれる筋合いはねえ!」 純粋無垢な幼女に如何わしい影響を与えた罪は重いのだ。フツさんの怒りは治まらない。 このバカヤロウ! くらえ! と、そのまま秀太の元へと突撃しようとした、その時。 「ちょっと泥棒! 秀太くんに何してるのよー!!」 「ぐはっ!」 ぞろぞろと、リベリスタ達の行く手を阻むように階段前に集合したのは一、二、三……八体の美少女達。 美少女の一人から繰り出されたらぶパワーアタックがさっそくフツへと直撃する。 しかしラッキー、混乱は免れた! けど痛い。 「おおー、これが現実になったキャラ? すごいなー。美少女戦士とか戦隊ヒーローとかも出てこれるのかな?」 「ふ、ふはは勿論! 朝アニメのダンスEDよりもハイクオリティだ! キュアキュアでぬるぬるだぞ!」 任務は忘れていないものの、現れた美少女達を見て純粋な感想を漏らす『エターナル・ノービス』メイ・リィ・ルゥ(BNE003539)。秀太の例えはよく分からないが。 ぎろり。ぎろり。 美少女達はキラッキラしたでっかい目で、リベリスタ達を睨みつけた。髪色や服は様々だというのに、顔立ちや背や胸の大きさはほとんど共通している。 世間ではこれを、『ハンコ絵』と呼ぶ。 (……こいつら全員、何がどう違うんだ?) この手のモノにはあまり縁の無い『燻る灰』御津代 鉅(BNE001657)はやれやれと呆れた。 けど秀太とってはどれも全て最高なんだとか。やはり分からない。 「泥棒だろうと誰だろうと、彼女達なら絶対何とかしてくれる! 僕の理想通りなんだから!」 「日本語は正しくね。理想と空想と幻想と妄想は全部別物だから」 「なぬうっ……!?」 サラッと秀太の持論をぶった切ったのは『息抜きの合間に人生を』文珠四郎 寿々貴(BNE003936)。 へらりとした笑顔に反し、言葉の刃はまさに日本刀の斬れ味。揺さぶりを超えて確実に精神へダメージを与えてる。なんという神遠単版アッパーユアハート(非スキル)。 「目やおっぱいが大きくて且つ自分に従順な女の子が、それも複数なんてあるわけないよ――って、目が大きくてゴスロリの超絶美少女な私が言ってみる!」 「ぐぐぐっ……!」 チャームポイントであるアホ毛を揺らしてにっこりと。『いつも元気な』ウェスティア・ウォルカニス(BNE000360)が秀太へさらに追い討ちをかけた。 さすがアークのリベリスタ女子達。普通の現実の女の子と比べてかなり洗練されている。 色んな意味で。おそろしい。 「てっ、てーかお前らの目的何なんだ! まさか僕のディスクを盗みに来たとかじゃないだろうな!?」 「ああ……察されたのなら話は早いですね。盗みというか、回収ですが」 きっとリベリスタ達の中では常識人枠である『無銘の剣』神威 千夜(BNE003946)の肯定を受け、秀太は顔を真っ青にさせてゆく。 そして急に背を向け、ドタドタと二階の奥へ逃げていった。 ガチャリ、と鍵がかかる音。彼は自室へ篭ったのだ。 「み、皆! 泥棒達をゼッタイ僕の部屋に入らせないでよね! ディスクは渡さないぞ!!」 少々聞き取りづらくはなったが、自室からでも少年の声は一階まで届いてくる。 彼の命令に、分かったわ秀太君! と美少女達は従い、それぞれ身構えていった。 そんな中、『黒太子』カイン・ブラッドストーン(BNE003445)は目を閉じ、フッと余裕たっぷりに微笑む。 きっと彼も千夜同様に常識人枠なのであろう。だってほら、こんなにも黒装束が似合っていて凛としたハンサムな―― 「フッ。処女厨が何をもっとも嫌うかは、同じく処女厨である我が一番良く分かっている」 ハンサム……な……。あれ……? 「我にとっては好都合な相手であるな。さあ、始めようか――――NTRを!!」 「最悪だああああっ!?!?」 引きこもった秀太少年も叫ぶほどビックリな、格上の処女厨であった。 ……訂正しよう、おそろしいのは女子だけでない。 此処に集いし、アークのリベリスタ全体なのだと! 敵にまわしたが最期。存在し得ない美少女達をぶち壊す、略して『そびぶ』事件の幕開けであった。 ●高嶺母「やだわ、家の中も散らかってるし……」 「二次元でもおっぱいがいいのか……」 「だってあたし達、秀太君の趣味でできているんだものー」 「二次元でもそんなに! おっぱいが!! いいのか!!!」 「『ひんにう』より最高だと思うわよ!」 「うわああああああん!!」 叫びと同時、バチバチィ!! 『胸に哀……失礼、『赤猫』斎藤・なずな(BNE003076)による怒りのチェインライトニングが炸裂した。 容赦無く美少女達が劈かれてゆく。彼女の滾る憤怒がそのままフレアバーストになってしまえば――きっと高嶺家は火の海と化していたであろう。 ただ今回の場合、なずなの役目は灰を生むことではない。 「ふぅ……き、気を取り直して私は行ってくるぞ!」 や、やめろー! 来るなぁ!? と上から秀太の悲痛な声が。然し、なずなは隙をついて階段を上がっていったのだ。 向かうは、なるべく声が届きやすい位置――秀太の自室の扉の前が妥当か。 「あ、待ちなさい!」 そんな彼女を追おうと美少女達は振り向くが、リベリスタ達はそれ等を確りとブロックしていく。 美少女達を阻みながらも、二階に篭る秀太へと向けてフツは宣言する。 「いいか! オレの代わりにリアルの美少女達が、殴ったり焼いたり葬送曲を奏でたり神気が閃光したりするだろう!」 「後半どういうこと!? ていうか僕を殺す気かー!?」 そして木霊する秀太の叫び。きっと彼、今回の数少ないツッコミ要員。 けれど神気が閃光するならば、ちゃっかりと不殺が効くからどれだけ痛みを感じても死なないのだ。 だから大丈夫。たぶん。 まあつまりはリアルの痛みを知れ! ということであろう。――あれ? ある種、ご褒美だ。 然し、美少女達もブロックされたまま動かない訳では無い。でっかい両目から放たれる魅了の光線が、リベリスタ達を襲った。 意志を持つ影によって鉅は回避に成功したが―― 「待っていたぞ、魅了よ!」 なんてこったい、むしろバッドステータスを望んでいたのかカイン殿!? という訳で魅了状態一人。 けれどあまり変わっていないような? それもそのはず。 だって彼の目的は元から、二次元美少女とのイチャイチャちゅっちゅなのだ! 美少女をNTRすることで、秀太は彼女等を途端に見放すであろうからだ。ディスクを割り、本を破り、それらの画像をうpしてきっと自滅! 処女厨の性質をここまで良く理解できているのは、カイン自身もそれに当てはまるからか。 貴族でありながら、処女厨でありシスコン……カイン・ブラッドストーン、なんとハイスペックなのであろうか。 「なに、女遊びも貴族の嗜み。二次元の美少女たちは我がかわいがってやろう」 「やめてええええええ!?」 だからこそ、秀太は恐れた! 戦闘開始して数十分と経っていないが、彼の精神的HPは残り少ない。 秀太が豆腐メンタルなのか? 否、 リ ベ リ ス タ が 容 赦 無 い の だ 。 「さあ、人の形をとった妄想など完膚無きまでに……って、思ったより弱い?」 闘気とエネルギーを込めた得物を振るい、千夜が美少女の一人へメガクラッシュを叩き込む。 耐久力は高い為か一撃でノックアウト、とはいかなかったが、手応えはかなり確かなものだった。 それもそのはず。秀太の心の有り様によって、美少女達は弱体化も有り得るのだ。 「やはり、所詮はまやかしの存在か……」 「な、なんですって――ぎゃふっ!?」 スパッと軽やかな音を出し、さっきまで甲高く喋っていた美少女が切り裂かれ、消滅した。 トドメを刺したのは鉅だ。ちなみに血は出ない。健全(?)な二次元だもの。まあ彼は元から美少女を吸血するつもりは無かったけれど! 「しかし、現実より魅力的、な……高嶺とやら、お前はこいつ等に今までどういうことをしてやってるんだ?」 「ガタッ やっと語らせてくれるのか!」 数々の精神的瀕死状態な彼は、天に縋る想いで鉅へ妄想を垂れ流す。 当の彼は無表情でそれをテキトーに聞き流しながら、美少女へ向けてダガーを投げつつ携帯を弄っていた。なんというスタイリッシュ戦闘。 程なくして携帯を閉じる。 「予想どおり、作品のエピソードをなぞったものだったか……。つまり、お前はそこそこの金を払えば擬似的に手に入る程度の幸せしか提供できない訳だ」 ――フっ、安いな。 「なあああっ!?」 クリティカルヒット! 秀太のプライドに大ダメージ。 どうやら秀太の妄想エピソードをわざわざ携帯で検索し、元ネタの作品をズバリ見つけたのだ。 ペイントツールを一から作る才能はあっても、創作方面は実はサッパリだったなんて。 けれどまだまだ、秀太少年への揺さぶりは止まらない。 リアル超絶美少女、ウェスティアのターン! 「これ秀太さんが『描いた絵』が実体化したんだよね。って考えると絵は凄く上手いんだね!」 「そ、そうでしょ! 一人一人、僕が数時間かけて作ったさいこうけっ……」 ある程度持ち上げてー……、 「まあ、ちょっと趣味が偏りすぎてる気がするけど妄想上の産物だから仕方ないよね!」 「がーん!?」 ドーンと落とす!! 可愛い顔してやりおるでぇ……。 ちなみにこの時、ゴスロリ服を翻しながら超爽やかなアイドル的笑顔で葬操曲・黒を美少女達へぶっ放している。 つまり今、ウェスティアはこの場ですごく輝いているのだ……二次元美少女よりも、遥かに美しく! 「そもそもこんなソフト作れるなんて凄いね! やればできるんじゃないの?」 「は、ははは……」 さらに持ち上げた――――この後の展開はお察しの通りである。 ●高嶺母「いやああああ窓がああああああ!?」 フツによる破邪の光が一階を照らしながら危険を滅しながらも、まだまだ美少女達は魅了のビームやアタックを続ける。 戦いは激しさを増しているが、リベリスタ達の力(主に揺さぶり)で姦しい美少女達も段々と撃退できていた。 一方、その頃。 「お、おい! 聞いているか!」 所変わって二階付近。なずなは高嶺の声がハッキリと聞き取れる、自室前まで辿りついたのだ。 リベリスタ達の揺さぶりについには耐え切れなくなったのか、秀太はもう黙りを決め込んでしまっていたのだ。 ぐぬぬ……と少し唸りながらも、なずなは秀太へ話しかける。 「なあ、高嶺お前、現実の女としっかり向き合ったことがあるのか?」 「…………無い」 「そうか。辛い時は二次元に逃げるのも良いが、10割二次元なのは感心しないな! いきなり外に出てナンパしろとは言わないが、せめて三食きちんと親とご飯を食べろ!!」 孝行のしたい時分に親は無し――彼がいつか、この言葉どおりの結末を辿ってしまわぬよう、そして後悔してしまわぬように。 「あ、あと! まず風呂に入って歯磨きして外に散歩にでも行って、背筋を伸ばしてしゃんとしろ! 甘いお菓子だけじゃ人は成長出来ないのだ!」 「け、けどいきなりそんな……」 「ほら、そうやって悪い部分に目を向けるな! 現実には、お前の力になってくれる優しい人もいっぱいいるのだぞ! だから――私は信じてるぞ! 高嶺の可能性を!」 「…………」 扉の向こうから投げかけられる叱咤。強気な口調だが、秀太は苛立ちは感じず……むしろどこか、暖かさを感じた。 そんな長い沈黙の後、なずなはハッと我に返る。 あっ、べ、別に立ち直って欲しいなんて思ってないんだからな! と改めてツンツンしたが、もしやこれは照れ隠しなのだろうか。 (……現実の女も、良いものなのかもしれないな) 可愛らしいなんて、ちょっぴり思ってしまったのか。ドアの鍵を外そうと一歩を踏み出した――――その時、 ばきっ! 「……な、なんだ?」 なんというか、不気味な音が、密室の中に響き渡った。思わず歩みを止める。 それはそう。固いものをぶつけて『ガラス』にヒビが入ったような……背筋がぶるりと震え、あまりにも嫌な予感のする音。 今、高嶺 秀太の自室の中に在る『ガラス』とは――――恐る恐る、窓へ視線を向けた。 「……!?」 息を呑んだ。密閉された窓はガムテープの裏面がびっしりと貼られており、ガラス自体にはヒビがいくつも入ってしまっている。 さらにまた、躊躇いなど感じさせない激しい殴打音が続く。 ばん! ばん! ばきぃっ!! そして幾度目かの音の後、 がしゃーん! と窓はついに破壊された。 空いたそこから現れたのは、小さな羽を背中に携え、右手に金づちを持った小柄な女性……。 いつもの調子で、彼女はぼやく。 「いやぁ二次元さんの追撃がしつこかったけど、お仕事の目的はさっさと進めないとね」 さっきと同様、へらりとした柔和な笑み――そう、ディスクを回収する為、寿々貴さんがやってきたのだ。 「さあ。戦わなきゃ、現実(リアル女子)と。でないと理想()は砕け散るのです。ガラスのように」 「うわああああああああ!?!?」 ●高嶺母「ほっ。良かった、秀太は無事なのね……」 またまた所変わって、一階。 その上でも色んな意味で激しさを増している訳だが、此方は逆に美少女達の数もあと僅かであった。 「ふ~ん……確かにみんな美人さんだけど、誰が一番の美少女で、秀太ちゃんの一番好きな人って誰なのかな?」 その時、純粋且つ素朴な疑問をメイは投げかけた。すると美少女達の動きはぴたっと止まり、全員顔を見合わせて、一人がまず口を開く。 「ふふふ。そりゃあ、私に決まってるでしょ!」 「いいえ、あたしよ!」 「違うわっ。秀太君の一番はわたしだもん!」 「「……なぁーんですってー!?」」 ぎろり。ぎろり。ぎろり。 美少女達はお互い睨み合い、距離を取る。現実の女同士ならば緊迫したムードとなるのだろうが、二次元となるとどこか間が抜けているというか、傍から見てあまり恐怖は感じない。 そしてそのまま取っ組み合いの喧嘩が勃発した! 殴る蹴る、そして目からビーム! リベリスタ達そっちのけで、美少女達は激しく争う。 「……これってもしかして、チャンスかな?」 チャンスどころか、トドメの一手なような気がするよメイちゃん。やったね! お手柄だ! 一気にリベリスタ達が畳み掛け――美少女達は一体残らず、三次元から姿を消していった。 「そっちも片付いたかな? お疲れ様。ディスクは回収しといたよ」 二階からトントンっと階段を降り、ケースに入ったディスクをリベリスタ達へ見せる寿々貴。 どうやら侵入した後、秀太は気絶してしまったらしい。美少女達も追ってこないので、早々にディスクを見つけて部屋を出たのだとか。 「本人気絶してる状態でPC壊しても特に面白くないしねー。部屋も臭かったからやることだけやってきたかな」 反応が楽しみだっただけに少し残念に思いつつ。団扇のように手をパタパタと扇ぎながら、寿々貴はまたへらりと笑うのだった。 「それにしても――なんともまあ、世の中には奇怪な人物がいるものであるな」 明後日の方向を見やりながらキリっとカインが呟く。はい、この台詞こそ今回のあなたが言うな大賞である。 「だねえ。ところで、『しょじょちゅー』じゃなくて『しょうじょちゅー』だよね? イヴちゃんも間違えてたけど」 愛らしく首を傾げ、メイがもう一つの素朴な疑問を口にする。――その目はキラキラと、純粋な……そう、かの天才的フォーチュナと似たそれである。 「ああ、オレも少し気になりました。『しょじょちゅー』ってなんでしょう?」 ダメだ、メイちゃん、そして千夜さん! 知ってはいけない、知ってはいけないのだ。というか誰も教えてはならない。 「高嶺、(精神的に)痛みを知ったお前なら、その手でリアルを掴めると信じているぞ……!」 彼の自室にて。気絶した秀太に『記憶操作』を掛けながら、フツはグッと拳を握る。 ――まあ全部夢だがな! そんな様子を後ろで見やりながら――なずなは一人、溜め息をついた。 「あのディスク、欲しがる奴とかいっぱいいるんだろーな……不毛だ……」 頑張れ。負けるな、なずな。君の魅力を知ってくれた少年は、確かにいたのだ! ――夢で片付いちゃったけど! |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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