● 吹き出した血液が地面に落ちるより先に、男は白目を剥いて転がった。息は途切れていなかったが、このまま放っておけばやがてはその僅かさえ消えてしまいそうなほどに弱々しい。 「つまんねえ……錆びにもなりゃしねえ」 銀が悪態を吐くように言う最中、身体を清浄する風が男を包む。すると呼吸は整い、顔色も正常になった。 「もう、やりすぎないでよ。回復させるのも大変なんだから」 「悪いな。だが、こうも弱いと加減が難しくてな」 刀をしまう銀に、瀬奈はやれやれと言うような態度を取る。 「加減が出来ないんじゃ、首領越えなんて遠い話だよなあ」 薫に痛いところをつかれ、銀は思わず頭をかく。 「だが、超える。そう決めた」 「はい、はい。心意気だけは一人前ね」 瀬奈は尻についた砂をパッパと払う。薫は銀に近付きながら、言った。 「瀬奈に言われてる内は、まだまだだよ」 「あら私、薫の事もまだまだだと思ってるけど?」 まいったな、と薫は頭をかきながら、銀を向いて苦笑する。溜め息を吐きながら、銀は今しがた自分たちの倒したリベリスタたちを見る。瀬奈は銀の顔を覗き込んで、訊いた。 「それで、次はどこに行く? それとも、帰る?」 「ああ、どうしようか。物足りねえな、この人数とやったってのに」 瀬奈は周囲を見回す。薫、そして銀と戦った九人が、無様に地に伏している。気を失っただけの者もいれば、死の淵に追いやられたのを瀬奈が引き戻し、まだ目を覚ましていない者もいる。対して薫と銀についた傷は数えるほどで、そのどれも浅い。それは戦い足りないだろうと瀬奈も思う。 「じゃあ、ちょっと休んでから、行くか。ここからだとどこが近い?」 「そうだね……ここ、かな」 瀬奈は地図を取り出して、幾つも書き込んであるバツ印や丸印の一つを指差した。 「次の相手は、そこそこだといいねえ」 気の抜けた声で言う薫を先頭に、彼らはその場を去った。 ● 「実害が出てないから何とも言えないんだけど……多くのフリーのリベリスタが彼の餌食になるのも気の毒だし、彼を満足させてあげて欲しい」 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)の声はそれほど深刻そうではなかった。イヴが言うには、対象のフィクサードはリベリスタに対して『決闘』を挑んでいるのだという。 「空条薫と、神楽銀。剣林所属の男性フィクサードで戦いが大好き。最近はアークに所属していないフリーのリベリスタ組織に乗り込むのが趣味らしい。フィクサード組織は……面倒くさそうだから相手にする気はないって話。 で、彼らと一緒に行動しているのが加々美瀬奈って女性フィクサード。見張り役兼回復役って感じみたい」 「回復役?」 「そう。彼らは別にリベリスタを倒そうとか、持ってるアーティファクトとかを奪おうとかって意図はなくて、あくまでやりたいのは決闘。別に殺しもしないし強奪もしない。おまけに無料回復サービス付き。謝礼は流石にないらしいけど。 とまあここまで言っといてなんだけど、彼らはリベリスタに対しては何の実害も出してない。フィクサードとしてはえらく良心的。だけど相手の了承もなく乗り込むこともあるし、嫌がる相手でも無理矢理ってことも少なくないらしくて。かといって彼ら、この決闘でリベリスタに対してこれまで無敗らしくて手に負えない。まあ、一部の戦闘狂とか、それほど戦うのが嫌いじゃない人たちには評判悪くないみたいだし、特に大きな事件も起こしていないフィクサードを躍起になって追いつめる必要もないんだけど、このままやってたらリベリスタのフェイト尽きちゃうよ」 力で拮抗していなければ交渉の一手を打つこととて難しいだろう。止めさせるにしてもまずは同じ土俵に立たなければなるまい。 とはいえ、大人数で彼らと戦ったとしても、恐らく彼らはこの『決闘』を止める事は無いだろう。彼らのしている決闘は個人の力のぶつかり合いだ。彼らの試す強さは一人で戦った上でのものになる。もちろんチームを組み、連携をもって相手を倒すのも一つの強さであろう。かといって、現在の彼らがそうやって敗北したとして、リベリスタの強さを認めるには至らないだろう。彼らに意見を通すならば、やはり個人での勝利を彼に叩き付けるしかない。 それに彼らとてこの決闘を楽しんでいる。自分たちと対等な、あるいは自分たちより強い敵と戦う事が出来れば、きっと満足するだろう。それはリベリスタの被害の縮小にも繋がることだ。フィクサードの道楽ではあるが、メリットがあるのなら付き合うのも一つの手であろう。 「今から行ったら彼らがリベリスタと戦っている所に丁度乗り込めると思うんだけど……多分、既に倒されてると思う。回復役がいるから多分皆万全な状態の彼らとやることになる。分かりやすいタイマン勝負だね。手加減無くやって欲しい。 皆なら楽勝だよね?」 イヴの期待は、はてさて。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:天夜 薄 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年08月10日(金)23:30 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●戦前 「──来るぞ。手の抜けない奴らが」 「……ああ」 空条薫と神楽銀は同時に一点に目を向ける。そこにいた八人を、彼らは静かに出迎えた。 「ようこそ、アークの皆さん」 薫はゆっくりと礼をした。 「何の用か、と聞くまでもねえな」 銀が柄に手をかける。薫はそれをそっと制した。 「倒しにきた、ってわけでもなさそうだ。何の用かな?」 「あなたがたと、決闘に参りました」 先ず言ったのは『騎士の末裔』ユーディス・エーレンフェルト(BNE003247)。一片の偽りも感じさせぬしっかりとした口調は、薫を即座に納得させる。 「して、利益は?」 「これ以上の好き勝手は、止めて貰おう。俺たちが相手になる」 薫の問いに、『誰が為の力』新城・拓真(BNE000644)は答える。 「俺たちが勝てば言う事を聞いて貰う」 「どうよ、対戦相手は多い方が楽しいだろう?」 拓真に続き、『トランシェ』十凪・創太(BNE000002)も提案する。 「異論は?」 「無いよ。十分だ」 拓真が訊くと、満足そうに了承する。 「骨のありそうなのとやれるんだ。そっちにもメリットがなきゃあね。 じゃあ銀、そういうこった。よろしくね」 「全く、勝手に話を進めるよな、あんたは」 言いながらも、銀は決して嫌がってなどいない。 「じゃあ瀬奈、そっちはよろしくね」 「はいはい」 生返事をする瀬奈を余所に、決闘は幕を開ける。 ●カルラvs銀 初めてだろうか、こんな敵は。 全力で殴れ、しかし憎悪を込める必要もない。 やる事は変わらない。互いの目指す先はかけ離れている。 ならば踏み台にし合うのが精々だ。 倒れている者たちがどかされるのを待って、『逆襲者』カルラ・シュトロゼック(BNE003655)は銀と対峙した。 「ダークナイトのシュトロゼックだ」 「神楽銀。デュランダルだ」 名乗りつつ、カルラが掲げるは己が得物、螺旋暴君【鮮血旋渦】。それを銀に突きつけて言い放つ。 「こいつで、真っ直ぐ。俺の手はそれだけだ……先鋒の特攻役くらい、越えてみせろよ?」 「望む所!」 銀は抜いた刀から真空刃を飛ばす。カルラは腕を切り裂いたそれの末路を見ず、銀に突進し得物を突き出した。銀の体中に黒色の魔力が広がり、彼の体と精神を切り裂いた。 「結構やるじゃねえか!」 一旦ランスの軌道から身を逸らした銀だったが、すぐさま踏み込みカルラに刀を振り下ろす。強烈さにカルラは怯むが、すぐさま銀に向け得物を突き出した。 銀はランスに刀を合わせた。それが顔の横を通り過ぎたのを見、合わせていた刀に気合いと闘気を込め、そのままカルラを一閃した。カルラは肩を切り裂かれながらも素早くランスを引き、もう一度銀を突き刺した。 互いの間に血液がポツポツと散っている。 「全力の潰し合いといこうか」 「そうだな!」 瞬間、銀の身体から凄まじい圧力が放たれる。カルラは一気に距離を詰め、銀の腹を抉った。だが怯む事はなかった。 爆発した全力がカルラに真一文字の斬撃を与える。鎧の内側まで響く衝撃がカルラを襲う。吹いた風が軽くなった彼の身体を押すが、運命は彼が倒れるのを許さない。 「神狩ってな未完成か? 俺一人狩りきれんとか」 瞬間的に加速し、カルラは銀に接近し、ランスを突き刺した。 「首領を狩れなきゃ、こいつは完成しねえよ」 銀の身体から血が噴き出す。立っているのもやっとな状態から、銀はカルラに刀を振るった。 「だが、楽しかったぜ」 銀は倒れるカルラにそう言った。 ●ユーディスvs薫 より強くあるために、より強い相手と。 その願いは理解できないものではない。 だが今がどうであれ必ず『その時』は訪れる。 だから見過ごす事は、出来ない。 「ユーディス・エーレンフェルト。お相手願いましょうか」 「空条薫。よろしくね」 「止めろとは言いません。けれど、貴方たちに『それ』は起こさせない。その為にも空条薫──貴方を倒させていただきます」 「……強いものが弱いものに指図できる。それが世の中の、ある種の理だ」 薫は静かに、ユーディスに告げる。 「勝ってみせなよ、ユーディスちゃん」 「もちろんです」 言った瞬間、ユーディスの身体が淡く光る。下がる薫を彼女は追った。互いの視線が合うと薫は鋭い眼光を彼女に向ける。 「楽しみだねえ」 身体を刺すような殺意。それに耐えながら振り上げた剣が輝いた。ユーディスは薫の身体に光の軌跡を描く。 「……退屈はさせませんよ」 一転、接近を試みる薫に、ユーディスは吸血を試みる。拳を食らうが、薫の身体からも血が流れ出す。 「持久戦ねえ。得意じゃないなあ、そういうの」 吐いた言葉の弱さは、眼光の鋭さにかき消される。 薫は兎に角ユーディスに近接し、彼女は回復を図りながら、徐々に剣戟へと転じた。次第に削られていく体力の減りは、薫の方が速かった。 距離をおく薫に対し、ユーディスは接近する。薫は下がりながらも狙いを定め、極大の魔弾を彼女に向け、放った。 高速で両者の間を駆ける魔弾が彼女の足に当たり、弾けた。彼女は転びそうになるが、その動きは止まらない。 飛び上がり、薫の首めがけて剣を振るう。防ぐ事も出来ず、その軌道を見守る他なかった。 それは、薫の首をはねようかという直前、静止した。 「私の勝ちです」 薫は気の抜けたような顔をし、やがて苦笑した。 「まいったねえ、こりゃ」 ●創太vs銀 創太は薫とユーディスの闘いを見ていた。その肩をトントンと叩かれる。 「出番だ」 傷だらけのカルラに呼ばれ、創太はゆっくり銀の方へ向かう。瀬奈による回復の済んだ彼は既に万全だ。 「次は、お前だな?」 「さあやろうぜ、同じデュランダルとして、テメェらが何を目的としようとやることは一つだよな。 言葉なんざ少なくていい」 「違いねえ」 互いに闘気を漲らせながら、得物に手をやった。 「この剣で後は語ろうか!」 「語る前にぶっ倒れんじゃねえぞ!」 銀の放った真空刃を軽く避けながら、オーラを電撃に変換して武器に纏わせる。 「殴って壊す! 今はタイマンだ、最大火力でやるのが礼儀ってモンだよな!」 叩き付けたそれが雷光を散らす。受け止めた銀の体中を電撃が駆け巡る。 衝撃を興奮に変え、銀は叫んだ。 「礼儀には答えなきゃなあ!」 全身の力を、刀に集束させ、創太に叩き付けた。流れる電流に打震えながら、創太は笑み、剣を振り上げる。 二度、三度、剣戟は交わされていく。小細工などない、殴り、避け、防がれを繰り返し、銀と創太はただ、全力の闘いを、純粋に楽しんでいる。 勝ち負けなど、単なる結末に過ぎない。 互いの身体が悲鳴をあげる。想いを、力の全てを、それぞれの得物に、込めた。 「あるんだろ? 見せてみろ、テメェの最高の技をよ!」 創太は捨て身で銀に向かって突進し、剣を掲げる。その心意気に合わせるように、銀もまた叫んだ。 「いいぜ、お前もぶつけてこい!」 爆発したような風が辺りを吹き抜け、やがて静寂が訪れた。そこには二人の男がいた。立ち尽くすがやがて、片方が倒れた。 銀は倒れる創太を見ながら、静かに笑んだ。 ●霧香vs銀 銀の手当が終わるのを、『禍を斬る剣の道』絢堂・霧香(BNE000618)は待っている。 剣士との、一対一での決闘。事情や目的はあれど、彼女は一人の剣士として、この闘いに臨む覚悟だ。 自分の剣がどこまで通用するか。そして純粋に、剣を交わすために。 「よし、じゃあやろうか」 銀が立ち上がる。霧香は彼を見ながらゆっくりと立ち上がる。。 「禍を斬る剣の道、絢堂霧香。一手御相手仕る」 「神楽銀だ、よろしくな」 銀の闘気の昂りを感じながら、霧香は銀を睨み、そして急接近する。 「挨拶代わりだよ」 繰り出される連撃を銀は刀で受けようとするが、止めきれず、動きを止めざるを得なくなる。 怯んだ銀が目を向けると、見えたのは数多の霧香の幻影。 「これはどうかな?」 鋭く繰り出されたそれを銀は防ぐ事なく受けた。だが間髪を入れず、銀は強引に踏み込んで強烈な一撃を霧香に加えた。霧香は攻撃による衝撃で距離を調節しつつ、妖刀・櫻嵐を掲げた。 「閃桜散華」 無数の刺突が見せた光の飛沫が、桜花のように飛び散った。散りざまを見ながら、霧香は銀に剣を向け、言った。 「これがあたしの奥の手。さあ、神楽銀。あなたの本気の剣もあたしに見せて!」 俯きながら、銀はニヤリと笑った。 「焦るなよ、闘いはこれからじゃねえか!」 銀は素早く剣を振り上げ、旋回させる。吹き荒れる烈風が弾けた頃、霧香は銀を刺突した。軽やかに避けた銀は踏込みと共に霧香に刀を突き出すが、霧香はそれを避けて、刺突を繰り返した。 銀が息をあげる。乱れた呼吸が銀の体力の減りを感じさせる。霧香は一旦踏みとどまり、集中しつつ銀の様子を見た。 「来ねえのか。なら行くぜ!」 銀が体中の全ての力を込め、霧香に振り下ろす。闘気が爆発し、吹いた風をかき分けるように、霧香は飛び上がった。 「これが、全力!」 激しい刺突の全てが銀を襲う。体を支える力さえ失せた銀は、仰向けに倒れた。 霧香は銀の側に寄り、手を差し出した。 「ありがとう。良い仕合だった」 銀は微笑みながら、その手を取った。 ●凪沙vs薫 「次の相手は君かい?」 薫は自分の前に出てきた『食堂の看板娘』衛守 凪沙(BNE001545)を見て言う。 「そうだよ」 凪沙はしっかりと答える。腕試しのフィクサード。一般人に被害がないならまだ良心的だが、変な目的がないならいっそアークにくればいいのに、とも彼女は思う。兎に角敵には困らないのだから。 「じゃあ、始めようか」 「うん」 数秒睨み合った後、凪沙と薫はほぼ同時に地を蹴った。だが攻撃までの動作は凪沙の方が早い。 「押忍!」 鋭く突き出した肘が炎を纏って薫の腹に直撃する。薫は凪沙に向け拳を突き出した。体に走る痛みに堪えながら、凪沙は間合いを詰めた。 「意気がいいねえ、油断してらんないや」 繰り出された炎の拳を避けながら、薫は狂ったような攻撃を仕掛ける。痺れて動きを止めた凪沙に、続けざま薫が拳を振るう。 転倒した凪沙だったが、痺れの取れると同時に勢いよく起き、一気に間合いを詰めた。薫の突き出した拳を払いつつ凪沙は身を屈め、渾身の力で薫にローキックを喰らわせた。 避けられず、薫はまともにそれを受ける。舌打ちしながら距離を取ろうとする薫を、凪沙は追撃した。 「逃がさないよ!」 すかさず叩き込まれた拳は、薫の体内にまで影響を及ぼした。口の中に微かに広がる鉄の味を感じつつ凪沙を見つつ、薫はフッと笑った。 「全く、強い女の子たちだ、ね!」 言葉尻に興奮を混じらせながら彼は狂ったような攻撃を繰り出した。攻撃が止み、若干の動きづらさを感じながら、凪沙は薫を見る。彼は魔弾を生成し、凪沙を狙っていた。 鋭く放たれた魔弾が凪沙に炸裂した。フッと、彼女の足から力が抜ける。だが彼女も、その運命も、倒れる事を認めない。 「つまんないでしょ、この程度で終わっちゃうの」 凪沙は地を蹴り、近接する。彼女の言葉に、薫は思わずフッと笑った。 「ああ、違いないね」 炎を纏った蹴撃が、薫の足を打撃した。薫は僅かに顔を歪めるが、冷静に、凪沙を魔弾で狙っていた。炸裂した魔弾が、凪沙を倒れさせる。汗と血を滲ませながら、薫もまた、安堵するように息を漏らして、膝をついた。 ●ユーキvs銀 リベリスタには若干迷惑ではあろう。けれどこういうフィクサードばかりならすっきり仕事ができるのだがとユーキ・R・ブランド(BNE003416)は思う。 「さて、存分にお相手致しましょうか」 視線の先には銀。三戦を終えた彼にも疲れは見える。だが彼から溢れ出る闘志が消える気配はなかった。 「神楽銀だ」 「ユーキ・R・ブランドと申します」 ユーキは生み出した漆黒の闇を、無形の武具として身に纏う。 「なんだ、来ねえのか?」 前に出る気配のないユーキに、銀は問うた。 「いやあ、デュランダル相手に真っ向勝負は致しませんよ。勝てませんしね!」 「勝つ気がないんなら退くぞ」 言いながらも、銀は刀を抜き打ち、真空刃を飛ばした。ユーキはそれを盾で受け止める。 「その代わり、タチの悪いダークナイトのやり方をお見せしましょう」 「なるほどな」 銀は笑みながら一気に距離を詰め、気合と闘気を爆裂させた。刀を引くと同時、銀は頬を刺す緊張を感じた。ユーキと銀を中心に漆黒の霧が吹いている。それはやがて銀の元に集まり、黒色の箱を形成した。あらゆる痛みを内包したそれは、銀の身体に数多の異常を引き起こす。 怪しく光る剣を、ユーキは銀に振り下ろした。苦痛に苦痛を重ねられた銀の顔は、酷く歪んでいた。 「何、こちらは貴方の打撃を受け損ねれば負ける。貴方は私の檻から逃れられなければ負ける。単純な勝負じゃあないですか。 お好みでしょう?」 「……違いねえ」 苦痛を引き剥がし、銀は刀を振り回して前に出た。 「ぜってえぶっ倒す!」 爆裂する烈風。漆黒の箱。告死の斬撃。爆発的な一撃。繰り返される異常と攻撃の駆け引き。銀が異常に縛られる時間の方が長くはあったが、ユーキの体力もまた、じわじわと減っていた。 銀をユーキは斬り続ける。甚振りに似たそれはやがて、銀を後少しまで追いつめる。 そこで漸く、銀は痺れから抜け出した。息をあげながらも、ユーキに接近した。 「一気に決める!」 銀は、全力を刀に込める。受けた苦痛の全てを返すかのごとく迫真に、思いきり打ち込んだ。 弾けるような音がする。二人の周りを風が吹き受けた。ユーキが静かに膝を折る。彼女を見る銀の表情に、余裕などなかった。 ●七花vs薫 自分はまだまだ未熟な魔術師だと風見 七花(BNE003013)は思う。故に胸を借りるつもりで望む。 「たまには勝つことに執着してみてもよいですよね?」 それは疑問ではなく覚悟に近い。 「今日はそういう日じゃないのかな」 薫は七花に言う。七花は無言で同意する。 薫には既に一勝している。だが薫は戦う気だ。ならば拒む理由もない。 「お願いします」 「こちらこそ」 薫が動くより先、七花が動く。呼び出した黒色の大鎌が、薫を刈取らんと振るわれる。 「おっかないねえ」 ぼやきつつ薫はその軌道から退けた。すかさず殺意の波動で七花を狙撃した。感じた痛みを振りほどきながら、七花は大鎌を振るう。大鎌は鋭く、薫の脇腹をかすめた。 「もう少し!」 「危ないなあ」 薫は驚きつつ七花と距離を置く。七花はよく狙い、薫に大鎌を幾度と振り下ろす。 「飽きたよ、それ」 大鎌を避けながら薫は言った。そして断罪の魔弾で七花を撃つ。 魔弾が七花に当たると同時、背中を一閃する痛みに薫は気付く。苦笑しつつ、薫は七花と距離を詰める。 薫は狂ったように攻撃を始め、七花は思わず距離を置いた。 「まだ、やろうってかい!」 放つは等身大にも至る極大の魔弾。七花はそれを全力で防ぐ。倒れそうになるも、運命が彼女を立たせている。 「これで……終わらせない」 微風が彼女自身を癒していく。 「勝つのは、私です……!」 間髪入れず突き出された拳を避け、七花は大鎌で、薫の背を縦断させる。血が噴き出し、彼は呟きながら地に伏した。 「厄介だねえ、リベリスタって奴は」 ●拓真vs銀 彼は剣林百虎を超えようとしている。 拓真にもまた、超えるべき者はいる。 その想い、強さが如何程の物か。誇りも想いも全て乗せ、相対する価値はあるだろう。 「リベリスタ、新城拓真。俺と戦え、神楽銀」 「ああ、もちろんだ」 拓真の挑発に、銀は乗る。拓真は二式天舞の切っ先を銀に向け、告げる。 「剣林百虎を越えるとする者の力を、俺に見せてくれ」 銀の闘気が増幅する。その顔は不敵に笑んでいた。 「焼き付けろよ、しっかりとな!」 銀が地を蹴ると同時、拓真も勢いよく踏込んだ。強烈な打ち込みが銀の身体を強打し、爆裂する衝撃が拓真を襲った。剣戟に継ぐ剣戟、鉄の鳴く音が幾度となく響いた。 「俺はお前が羨ましい」 最中、拓真は静かに呟いた。 銀の眼前には確りと、追い抜くべき背中が見えている。 拓真にはそれがない。その強さなど、知るべくもない。 だから誰よりも強くなるしかない。 「一騎打ちでは、負けられない。特に、刀を扱うお前にはな!」 打ち込んだ一撃が銀の体中に響く。 「俺にとって、あの人は剣林の首領よりも強い男だ! だから俺は、こんな所で負けられない!」 全身の闘気を滾らせる。気迫はその背中から見える程に、強い。 「最強は首領だ。だからこそ、この刀は、首領を狩るためにある!」 風が吹く程の闘気の放出。その風を斬るように、銀は駆けた。 「俺は新城弦真の孫、新城拓真だ! 誰よりも正しく、誰よりも強くあろうとした男の剣を継ぐ者だ!」 爆風とも思える闘気が噴出する。やがて止み、二人を露にする。空気は緊張していた。 拓真が血を吐いた。鉄の味を感じながら、彼は銀を見た。 「安心しろ」 拓真を見ながら、銀は静かに言った。 「お前の勝ちだ」 その言葉を最後に、ゆっくりと倒れた。 ●戦後 「今後はアークにでも、挑戦状を出せ。こういった事は嫌いではない者が多い」 拓真の提案に、薫は静かに頷いた。 「負けたんだ、素直に従う事にするよ」 「修行目的ならそれがいいでしょう」 それにね、とユーディスの言葉を遮って霧香は言った。 「貴方とはまた戦ってみたいから。神楽銀」 「おうよ」 銀は嬉しそうに、言葉を返した。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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