● 『赤き牛達よ、翼を授けよ! イエェァア!』 高らかに響く声と共に、男たちは浜辺へ降り立つ。 その手には一本の青い缶。彼らの野望が詰まった夢の缶。 ぷしゅり、弾ける炭酸のサウンド。踊る心臓のビート。 一気に飲み干す。喉を駆ける、爽快感。嗚呼、これこれ。 「ぷはぁっ……!」 思わず漏らす、快感の溜め息。この一瞬のためになんとやら。 湧き上がるエネルギー、迸るアジリティー。 活力の流れは、男たちの背中へ。 肌から溢れたそれは、みるみるうちに紅く大きな翼を成す。 この世界の天使達が持つものより逞しく、力強い羽ばたき。 「さぁ、いくぜ。あの太陽まで、駆けあがってやるんだ!!」 一つふたつ翼を振ると、男の一人が夏空に高々と叫ぶ。 身体を縛る重力さえも、振り切って。男たちは大空へ飛び立った。 「高いの怖いよぉぉおお!」 只一人、少年を地へと残して。 ● 「……この暑苦しい人たちをなんとかして」 はふり。深いため息と共に、『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)はリベリスタ達に唐突に告げる。 続いてカレイドシステムに映し出されたのは、"暑苦しい"を体現したような、男たちの姿。 首元には赤いマフラー。上半身に衣服は纏っておらず、眩しい程の笑顔に、迸る汗。なるほど、これは暑い。加えて、今は夏だ。 「フィクサード集団、『牛ヶ焚』。構成員は8名。全員血縁者。目指すは七派入りみたいだけど……まぁ、多分無理。 出来る限り関わりたくはないのだけど……。彼らは特殊なアーティファクトを所持しているの」 危険なものなのか、と周囲がざわめく。 「識別名『紅き牛の血潮』。ドリンク型アーティファクト。摂取することで、効果を発揮するみたい。効果は2種類。 まず、翼を与えてくれる。気分が高揚して、回避力が高まる上に、飛んでいても自在に動ける。ただ、一定時間以内にアーティファクトを再度摂取しないと消えるの。 あと、回復だね。飲んだだけで、体力が即座に回復するし、受けている脅威も払われるみたい。 この二つは、一度ドリンクを飲めば同時に発生するから気を付けて。……それで、このアーティファクトには代償があるんだけど」 一度言葉を切る。 「これ、強い神秘を帯びてるから、飲み過ぎるとエネルギーが暴発するの。一言で言うと、全身から火が噴きだす。相手は死ぬ」 リベリスタの一人が、我慢できず吹き出すのを小さな咳払いで制すと、イヴは黒いファイルを手に取り、差し出した。 「詳しい内容はこの中にまとめてあるから。気を付けて」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:ぐれん | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年08月11日(土)22:55 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 「こんなくっそ暑い中で更に暑苦しい牛ども! 聞け、アークだ!!」 太陽が燦々と照る浜辺に、不意に『骸』黄桜 魅零(BNE003845)の声が響いた。 魅零がびしりとキメる指先の向こうには、フィクサード集団『牛ヶ焚』の一団。彼らも負けじと向き直ると、空高く言い放った。 「何だ何だぁ、テメェらはぁ!?」 何だ何だと聞かれれば、答えてやるのがなんとやら。リベリスタ達は各々にサングラスを掛け、横一列に並び、そして。 「貴方の骸、作ります! 名は魅零、姓は黄桜! ヨロシクどーも、この野郎!」 「名乗るほどの者でもありませんが…巫女をしながら色々バイトしている神谷です。よろしくお願いします」 魅零が抜き放った大太刀を掲げ、その隣、流れを読んだ『局地戦支援用狐巫女型ドジっ娘』神谷 小夜(BNE001462)が頭を下げる。 彼女が身に付けるは彼女なりの戦闘服、巫女の衣。夏も冬も、雨の日も風の日も、難なく過ごしてきた彼女に、浜辺の暑さ等ぬるま湯の如きものである。 「私が……私がアークのカトンボメイガス、ウェスティアだよ…!」 \ ババーンッ / 続く言葉と共に起こる爆音。天へと広げた両手。その声の主は『いつも元気な』ウェスティア・ウォルカニス(BNE000360)。 自ら紙装甲と名乗り、その上目立ってしまうその雄姿。自虐である。清々しい程に自虐である。 「牛ヶ焚の皆さ~ん、アークがお相手に来ましたよ~」 その傍ら。悪戯な目線と共に身体を余さず披露するのは、ユーフォリア・エアリテーゼ(BNE002672)。 スリングショットを引き延ばした形状の紐、否。水着を身に付け、牛ヶ焚一団の目線を釘付けにしてみせる。彼女もある意味『ばばーん』である。 「えっ……私も名乗るんですか? ええと、イスタルテといいます。 ふつつかものですがよろしくお願いしますね」 やーん、と困りながらもそう返す『のんびりや』イスタルテ・セイジ(BNE002937)。 今日は眼鏡じゃなくサングラスだから絶対メガネビームじゃないですからね、と付け加える彼女も、その恰好はビキニな水着。ぽぽりと染まる頬の恥じらいも評価致しますよ、はい。 巫女さんを除きみんな水着。嗚呼、真夏のあばんちゅーる。寧ろ、浜辺の巫女さんなんかも悪くないのかもしれない、と喜ぶ息子達。否、牛ヶ焚一家の息子が喜ぶんですよ。 「アークとやらの野郎共! 聞きやがれ、俺達はいずれ主流七派に至る凄腕フィクサード集団!」 ノリノリで名乗るリベリスタ達に、何処か楽しげに道真は叫ぶ。 「牛ヶ焚一族その党首、父ちゃんでトーちゃんこと、道真だ!」 それに続いて、残ったフィクサード達も己が武器を手に立ち上がった。 「はじめちゃんこと、一!」 「ジロちゃんこと、次郎!」 「サブこと、三郎だぁっ!」 「あ、えと……四朗」 「ゴロちゃんこと、五郎です。 あ、あともう少しですよ」 「りりりりり、六だよっ!」 「ミッチーこと、道雄じゃ、宜しくのう」 「さぁさぁ、残ったテメェらも名乗らねぇか!」 先程の魅零を真似るような動き。びしりと指差した先には、残った女性陣。 突然のフリにも動じず、ぺこりと会釈とを返すのは『戦士』水無瀬・佳恋(BNE003740)。 凛とした表情と共に背から引き抜かれた長剣、『白鳥乃羽々』。 余りに巨大な剣は握り掲げると、名乗りの返事だと地を蹴り、言い放った。 「私はただのリベリスタ。神秘を悪用する人を討つ、この世の防人です」 佳恋の突貫を引き金に、真夏の暑いアツイ闘争は始まりを告げた。 ● ――荒ぶる女性陣から一歩引いた位置。彼女らを生温かな目線で見守っていたのは只二人の男たち。 夏の浜辺には不似合いなアルビノの肌。濃い色のサングラスを深く掛け直すのはアルフォンソ・フェルナンテ(BNE003792)。 厄介な代物なのは事実。それにしても、暑い。気温も、日差しも、彼らも。 「暑苦しいフィクサード達ですね……。とっとと退場してもらいましょうか」 溶けそうな程に強い日差しに眉を寄せて、アルフォンソは駆け出した。同時に、リベリスタの動きを統率する様に調を奏でる。 その後ろ、駆け出すアルフォンソに続く男が一人。名乗ってもいないのに忍べていない男が一人。 その名は、『T-34』ウラジミール・ヴォロシロフ(BNE000680)。 神秘は秘匿すべし。彼が握るナイフはその節度を守り抜く為に存在するのだ。 敵軍はアーティファクトの影響もあり熱狂状態にある。此方はそれに付き合ってやる必要もない。冷静に対処し、迅速に事態を収束させる。 身に付けたサングラスの奥で、彼はそう繰り返す。ぎりりと結んだ唇と、煌めく銀糸を後ろへ撫で付けて。その風格は完全に首領そのものてあった。しかしその風貌以上に、彼が忍べない問題が下半身にあった。 極限まで鍛え上げられ、引き締まった筋肉。戦闘の為だけに練り上げられた、機能美的な体躯。彼が纏うは紅蓮の褌一丁。その前面には、輝く金字で『露西亜・魂』。 更に腰回りに携えた可愛らしい浮き輪がアクセントに……なる筈もない。 「任務を開始する」 とか言っちゃってる真面目な表情とのギャップに、何故この恰好を選んだのか彼を小一時間問い詰めたい。 元の威圧感も相まって、このロシヤーネ、ウラジミール・ヴォロシロフは戦場で圧倒的な存在感を発していた。 「いくぜ、野郎共ォ!」 動き出す戦況、『牛ヶ焚』の一団は各々に青い缶をぷしゅり。一気に飲み干すと空へと飛び立った。 小夜の放つ神秘が翼の加護をリベリスタ達に与えるも、道真達が持つそれはより強靭で、高高度の飛行さえもものともしない。 空中戦闘に特化した彼らの機動力に翻弄され始めるのに、大した時間は掛からなかった。 「ふむぅ、お嬢さん、御退散願えますかのう」 連なるような兄弟の連携攻撃の直後、突如頭上から降り注ぐ多数の光弾。その標的は、明らかに小夜を捉えていた。 戦場を支えるのは食料と士気と衛生兵。いつの時代どの戦場であっても、その本質は変わらない。老兵である道雄の嗅覚は、最も有効な標的を選択したのだった。 放たれた光弾が着弾する寸前、アルフォンソはその身を挺して小夜を庇う。その背を、容赦なく光弾が繰り返し焦がしていく。呆気なく、その膝ががくりと折れかかるが、其処は運命を削って立ち上がる。 アルフォンソの援護に礼を述べる暇もなく、巫女は神秘の力を練り上げ天使の息吹を放った。回復役の乏しい戦線。彼女が倒れるわけにはいかないのだ。 「ち、近寄らないでくださいっ!」 激化していく戦場の傍らで、魅零は『牛ヶ焚』の党首、道真と肉薄する。 洒落た衣服の狭間から吹き出す、不吉を纏った瘴気。それを真っ直ぐに道真へと放ちながら叫ぶ魅零。その甲斐虚しく、 「暑苦、ぎゃーっ!!」 腐ってもむさくても、フィクサード集団の党首。練り上げた気を纏う拳は、一瞬で魅零の意識を身に付けたサングラスと共に虚空の彼方へと吹き飛ばした。 既に運命を差出し駆り立てていた魅零の華奢な身体は、ぐしゃりと浜辺へと打ち付けられる。 「逃がしませんっ!」 「ちぃっ……!」 凛と結んだ唇と、焔を宿す瞳。地を揺るがす程の佳恋の斬撃が、魅零へ拳を振り抜いた道真の背を襲う。 不意の一撃に対処が遅れ、道真は深々と背を抉られた。 「と、道真っ!」 「父さん!」 息子の危険を悟ったのか、道雄は長銃を構え再び光弾を佳恋へと放つ。息子達もそれに続く。しかし。 「衰えか。随分と視界が狭くなったのではいか、老兵殿」 気付かぬ内に下がっていた道雄の高度。それを見逃さずにウラジミールは一挙に肉薄した。握ったナイフが煌めき、サングラスの奥の蒼い瞳を映し出す。 貰った。そう告げる手応えと共に、道雄の紅い翼は溶け落ち、海面へと真っ逆さまにその身体は叩き付けられる。 「それでは、今度は私たちの番ですよ~」 道雄の光弾が巻き上げた砂煙に紛れて紡がれる間延びした声。突如兄弟達の眼前に現れたユーフォリアは、間髪を入れず斬撃を繰り出す。 振るわれた剣の軌跡が新たな剣の幻影となって、接近して浮遊していた兄弟たちの多数を襲った。 「装甲はカトンボだって、火力は大魔道士級だよっ!」 空中で舞うユーフォリアに続いて、ウェスティアの声が響いた。彼女の周りに展開した魔法陣の数々が、異界の神秘を現世へ引き寄せる。 ウェスティアの流した血液の全てが、黒鎖となって放たれた。狙うは、ユーフォリアが乱した兄弟達の隊列。 射線上の全てを貫いて進む呪いの鎖が、標的の幾つかを縛り上げ、その動きを止める。 高高度の空中戦闘では機動力が敵わないと割り切っての攪乱行動。傾きかけていた戦況を、二人の一撃が間違いなく手繰り寄せた。 「お、おい大丈夫かよ次郎っ!」 動きを封じられる兄弟に、『牛ヶ焚』一団の戦況は不意に崩れ始めた。 ● 攪乱と集中攻撃を織り交ぜたリベリスタの作戦は功を奏し、気付けば戦いの趨勢はほぼリベリスタへと傾いていた。 既に敵の数も疎ら。息子3人と父親のみになったその戦場でイスタルテのサングラス……否、武器が煌めく。放たれたのは、魔を打ち払う厳然たる閃光。 「うわっ、メガネビーム!!」 「メガネビームだ、あの姉ちゃん!」 「やーん、メガネビームじゃないですようー」 そもそも、自分で先に否定したら言ってくれと言っているようなものだと言うのは、気のせいなのだろうか。 抜き放たれた居合の一撃を躱して、佳恋は全身の闘気を研ぎ澄ませ、握り締めた純白の大剣へと注ぎ込む。荒れ狂う気配。そのまま、勢い任せに叩き付ける。 悲鳴を上げる余裕も無い。致命傷を避けた一撃のお陰で気を失うだけで砂浜へ落ちた息子の一人を見遣り、佳恋は剣を構え直す。 「熱意があるのは良いことでしょうが……使い方を誤りましたね」 戦闘は長引いていた。色を失い始めた翼に気付いたのだろう、恐らくは長男らしい少年が、その手を振る。 視線の先には、父親。彼が取り出した、見覚えのある缶に、それまでずっと機を窺っていたアルフォンソが動いた。 放られる缶。高め切った集中で、それだけに狙いを定める。対象を追う、真空の刃。見極め切って放ったそれが、放物線を描いていた缶を、あらぬ方向に弾き飛ばした。 そして。 「来ると思っていたよ」 その缶を受け止めたのは、ウラジミール。機を窺っていたのは彼も同じだったのだ。がっちりと受け止めたそれの、栓を開ける。 やめろ、と声がした気がするが、気にも留めなかった。そのまま、一気に。青き缶の中身はウラジミールの胃の中へと消えた。 「飛ぶ時に下を見るから恐いんだよ」 ある意味熱さを増す一方の戦場だが、その片隅では何処か微笑ましい光景が繰り広げられていた。 飛べない牛は只の牛。そう言われ、明らかに落ち込んでいた六へと。ウェスティアは何故か、飛行法のレクチャーを行っていた。 ぎこちなく、その足が宙に浮く。それでも明らかに怯えた様子の少年の気を引くように、ウェスティアは再度口を開いた。 「上を見て、高いところを見て、そこを目指して手を伸ばすんだよ」 そうしたら大丈夫。そんな優しい声に、ぎこちなく浮き上がった身体が、高度を引き上げる。 嗚呼よかった。思わず漏れた優しい笑みを自覚して、彼女は慌てて首を振る。 別に、あの子の為とかじゃなくて。射線を開くためだ……何て言うのは、本当のところ建前に過ぎないのだろう。 「や、やった、飛べたああああ!」 殺伐としていた筈の戦場には明らかに不似合いな歓声が、響いた。 「どうした、結局はそんなものか?」 「ハッ、此れから本気を出す処だぜ。慌てんな、リベリスタの軍用犬さんよ」 六が飛び立つ視線の遥か先。紅い翼を携えた道真とウラジミールは睨み合っていた。 身体を活性化させ、神秘により飛行能力を与えるドリンク型のアーティファクト。此処まで自由に空を駆け巡ることが可能になるとは、面白い。 若きの初めての夜にも似た興奮が背筋を掛ける。身体が躍動する。けれど、頭の中はは冷たいまま研ぎ澄まされていく。 酒は飲んでも呑まれるな。伊達に年がら年中身体を熱くしているわけではないとウラジミールは誰に言うでもなく小さく零す。 まさにハートビート、ヘッドクール。けれど見た目はクレイジー。勢い付いた軍用犬の渾身の牙、受けてみろ。その喉笛を食いちぎってくれようぞ。 きしり、道真の手甲が軋む音と共に、二人の距離は一瞬で縮まった。互いの必殺を、叩き込んで。 二つの影は、風を切って、落ちていく。自身の全力を振り切った二人は、同時に海面に叩き付けられる。 「任務完了だ」 一瞬の静寂、その後にざばりと海面から頭を、否。上半身を立ち上がらせるウラジミール。脚が海底につかない? 大丈夫だ、問題ない。彼の腰には浮き輪が装備されているのだから。終始クレイジーなロシヤーネ。本当にありがとうございました。 「すす、すいませんでしたーっ!」 快晴の浜辺、縛り上げられ並べられた家族の姿に、残された三人の息子たちは降伏を示し土下座する。 彼ら曰く、このアーティファクトは量産化を目標に日々改良が重ねられているのだという。言語道断だ。我らがリベリスタが回収してくれようぞ。 意識を取り戻す道真と道雄、子供たちへ声を掛けるウェスティア。 何故、彼らは七派へ入ることを望んだのか、最近話題のアークに来てみるのはどうか。野放しにするよりはずっといい。 その傍らで、小夜とユーフォリアは回収したアーティファクトの品定めを始める。 「へぇ……これってやっぱりアレの模造品なんでしょうか」 いえいえ、偶然偶然。 「空中戦の多い私にはすっごく魅力的なんだけど~、でもでも、任務は全回収だし~」 でも姉さん、使うななんて言われてませんよ。一本くらいなら……。 ――気付けば傾き始めた浜の夕日。綺麗な橙色の光に照らされて、リベリスタ達は帰路へと着いた 往路より賑やかな復路。根は悪い連中ではないのだろうが、彼ら一族がアークに一騒動起こしてしまわないことを、心から願おう。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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