●イントロダクション的な、あれ 梅雨明けの勢い冷めやらず、盛夏へとシフトし始めた昨今。 衛生状態が刻一刻と悪化するのは、三高平とて例外ではなかった。尤も、エリューションの発生が抑止される同市内では余りそれらしい被害は無いのだが、世界全体を考えるにそれは稀有な例だ。 衛生状態の悪化が、ソレにともなってエリューションを増産するのは当然といえば当然で。 三高平は、今年も『三高平防疫強化施策』――通称されるところの『三防強』へと乗り出すこととなるのである。 ●『泡』神話という盲信 洗浄剤をより泡立てる、或いは泡立てるに足る分量の洗浄剤を用いることで汚れをより効率良く落とす、という(一種の妄信的な)信望は、工業化時代に始まり、現在でも一定量の信望を得ていることは明らかだ。 決して信憑性がゼロではない、というか、泡の性質を考えれば汚れに作用するというメカニズム自体は正しいものであるといえるのだが、泡を発生させんがために過剰に洗浄剤を使う人間が居ることも、また事実である。 結果として、それが河川の富栄養化を引き起こす引鉄となったことは歴史上疑いようのないことで、結局のところ、多少の齟齬があったところで人は一度信じたものをうたがうということは、なかなか出来ないものである。 その点、下水に棲むネズミなどは異常というものに敏感である。 下水の水面に湧いた僅かな泡が、ほんの僅か蠢いたのに反応して一斉に身を翻し……うち何体かは、『泡』に包まれ消えていく。骨も残さず。形も残さず。 ――いや。その直後沸き上がった、『ネズミの形をした』泡の塊ぐらいは、その存在の残滓を顕にしていたのだろうか。 ●過剰洗浄・浄化戦線 「泡が汚れを落とすっていうのは、バブル期のパブリックイメージですよね。実際、食器洗うのに洗剤なんて余りいりませんし。寧ろため水すすぎにしろと。水が勿体無い」 随分と所帯染みたことを呟く『無貌の予見士』月ヶ瀬 夜倉(nBNE000202)はさておき、モニターに映されたのは泡が生物を蹂躙し、そのコピーを泡によって創りだす……という、何とも形容しがたい光景だった。 「エレメントか? 泡……っていうか、洗剤?」 「まあ、そんなところです。フェーズ1、識別名『バブルペースト』。フェーズ1なのですが、小動物などを捕縛、捕食した上でそれのコピーを作ることができるらしく。既に、ネズミ型の泡コピーが数体、周囲に存在します」 「それって、つまり数の暴力に対抗することになるのか? 実態も無い相手に」 「ああ、いえ。制約らしいものがあるのは確かで。どうやら、取り込んだ以上の数のコピーは出せないので、ニ体で打ち止めのようです。本体自体も余り強くはないので、そう心配しなくてもいいです、が……現場が下水で、泡自体も相当量の汚れを内包しています。こちらでもある程度の事後処理の準備はしますが、まあ……着替えは忘れずに」 唯でさえ不快な夏が、更に不快になりそうだった。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:風見鶏 | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年08月01日(水)22:35 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●地下は世知辛い ちょっと下水行ってこいよ(要約)。 こんな扱いを受けて、正直なところ防疫だの何だのの建前がなかったらリベリスタの多くは首を横に振っただろう。俺もそうする。 「オー! これがイワユル社会科見学ネ! ワクワクするヨ!」 かと思ったら、艶蕗 伊丹(BNE003976)が普通にノリノリだったんだけど何だこれ。すげえ前向きだぞ。ハーフってすげえな。 「おぬしが居れば、この国の自然を穢すゴミ問題を解決出来たかもしれないな……」 などと、下水に入る前から物思いに浸っている『破壊の魔女』シェリー・D・モーガン(BNE003862)だったが、よく考えてみて欲しい。溶けちゃまずかろう。仮にプラスチックとか科学物質とかまとめてでろっと溶けて下水に流れたら、それこそ防疫以前の問題だぞ。 原油が流れこむようなもんだぞ、川。いいのか。土用丑の日が二度とやってこなくなるぞ。落ち着け。 「おぉふ! 暑いわ、くさいわマジでげろ以下の臭いが△※#○~(自主規制)!!」 で、『白詰草の花冠』月杜・とら(BNE002285)の格好がいつになくエキセントリックで既にこの時点でコイツがナンバーワンだみたいなノリだけどなんだろう。 「これぞ、夜倉式処世術(?)合法モザイク包帯まきまき! いいでしょォ☆」 どうやら、ブレインインラバー全開らしい。そして、全身包帯の真実は装備保護の観点から、らしい。だが残念ながら包帯は皮膚の上に巻くのが普通なのでちょっと ちょっと。 「スポンジの除菌とか言って消費者の不安を煽ってる洗剤メーカーのCMが日常的に流れている昨今だもの、洗剤の多用をするななんて今更言われても、ほとんどの人は戸惑うばかりだろうね」 他方、社会派の意見をぽつりと漏らすのは『不機嫌な振り子時計』柚木 キリエ(BNE002649)である。実際のところ、洗浄剤で泡まみれなイメージは文字通りバブル時代の産物なわけだが、一般人は基本的にそんなもん知ったこっちゃない。 泡が微粒子を吸着するのは事実だが、薬剤がまじるとまた結果が変わってくるわけで……まあ、そこは良し悪しというか、過ぎたるはなんとやら、である。 「うへぇ……、このドブドロに足を突っ込むのは激しく厭ッスね……」 下水の蓋を開け、あからさまに嫌悪の表情を浮かべるのは『レッツゴー!インヤンマスター』九曜 計都(BNE003026)である。翼の加護による直接侵入・落下阻止という重大任務を背負った彼女だが、今回のにおい対策ほどエキセントリックなものはあるまい。 「ぱぱぱぱっかぱ~ん♪ 猟犬~!」 ダミ声で告げた彼女にドン引きする周囲だが、実際のところ、猟犬があろうが集音装置があろうが、轟音や悪臭で死ぬほど辛い、ということはない。 「毒を以て毒を制す……、嗅覚のお困りごとから最終解脱ッス! オザキ的に言うと、このニオイからの卒業! うひゃー、あたしってばマジ策士! やばいッスよ、孔明超えたかもしんない!?」 ありがとう、そこまで流暢にフラグを多重建築してくれる君が俺は大好きだ。 あと解脱とか言うな。仏教徒に謝れ。 「下水道っていかにも神秘が潜んでそうな場所なの。普通の生活に必要な場所なのにね」 目を背けることが、意識の外に置くことが『神秘』ということではないか、という観点のもと、『Unlucky Seven』七斜 菜々那(BNE003412)は悠然と下水に降りていく。 下水という環境を厭わない彼女の精神性は、ある意味リベリスタが見習うべきところだろうか。 「ちょっと臭くてたまにゲロっちゃうところ以外は結構快適なの。うふうふ」 待って、ゲロっちゃう辺りは快適っていわないよ! 絶対ブレーキ壊れてる証拠だよ! 「わーい、たのしいげすいたんけんのはじまりだー」 ハイライトの乏しい目で『闘争アップリカート』須賀 義衛郎(BNE000465)が下水を前進する。よりにもよって料理人の彼が最前列だ。 そして、更に驚くべきはそれはぶっちゃけ、彼の希望だ。周囲の強制ではない。彼がやるっていいました!(小学生並みの証言) (汚水を跳ねながら歩かなくて良いのは、気が楽だなあ) ……とか。そんな感じで若干気楽になっているんだろう。あと、最近の下水は都市整備計画的なアレで一昔前よりはだいぶ快適に活動できるらしい。 臭いことには代わりはないが、取り敢えず菜々那が素でゲロっちゃうほどの悪臭はない。 脈絡もなくゲロっちゃうのなんてどこぞのフォーチュナで十分だよ! 「やっぱくせぇな、それに暗いし嫌な感じだぜ……」 『ヤクザの用心棒』藤倉 隆明(ID:BNE003933)がガスマスクの奥でしゅこーしゅこー言わせながら顔をしかめているが、正直なところ彼の好奇心は服が溶ける場面らしい。 服どころか皮膚も溶けるっつってんだろ! いい加減にしろ!(迫真) まあ、彼の前後を移動するとら、計都辺りが既に彼に対してアタリをつけていたりするわけなので、もうこればっかりはどうしようもないと思う。 「底辺世界の小さな生き物蹂躙しながら、ゴーマンなヒューマンライフを行きますか☆」 スタイリッシュ包帯(とら)の神気閃光が、あたり構わず撒き散らされる。これぞまさに、蹂躙(不殺)。 「妾の雨具も鼠のキャラクターなのだが、やはり此方の方が可愛いな。ネ」 わかった、シェリーはそれ以上しゃべるな。危ないから。マジ危ないから。具体的に俺のST人生以上にBNEが危険で危ないから。 「着替えもイッパイ用意シてきたケド、汚れてもイイ服って言ったらヤッパリ体操服ダヨネ!」 伊丹の装備は体操服だった。もう一度いう。 体 操 服 。 ありがとうございます! ありがとうございます! 体操服での下水行脚たのしいです! 「ふっ、余裕の深呼吸でも……ぐぼばっ! 鼻の奥から脳にしみてくるッス!! 鋭すぎる以前に素で臭いのはノーカンッスか!?」 くろくてかわいいはねのはえたむがいなねこたんは「良すぎて悪影響はない」とは言った。 だが、「他人より早くそれを嗅ぎ分けてしまう」事実に関しては言及していない。 つまり何が言いたいかって、計都はエリューションの存在を匂いで感知したわけだけど、他の人が影響を受けない位置で影響を受けてしまう程度には猟犬だったよねとか、そういうことなのです。 ……わかるな? いや、わかれ。 「がっでむ!!」 ●たたかいはしれつをきわめた(棒読み) 「できるだけ、俺で終わらせたいもんだぜ……!」 義衛郎が真っ先にバブルペーストへと肉薄し、両手に構えた刃で押さえつける。 くさい。すごく、くさい。 攻撃に精細を欠く、などという可愛いレベルではない。幾らなんでも、これはくさすぎる。 「暗い場所だと、心なしか力が増してるような気がするの」 そんなことを口にしつつ、菜々那が闇を纏い、構える。ところで、口の端からうっすらと伝うそれはなんでしょうか。吐くなよ、まだ吐くなよ、絶対に吐くなよ! 「当たるトカ当たらないトカじゃナインダヨ! 撃つことに意義がアルッテ、誰かが言ってタ!」 「嫌気性細菌っぽい何かごと、氏ねぇえ!!」 散開し、接近してくる泡ネズミに対して伊丹はマジックアローを放つ。とらの神気閃光でころっと転がったそれに絶妙なタイミングで突き刺さったりしたものの、何故かそれでもネズミ達は倒れない。 倒れないが、接近してくる間もしきりに可愛さアピールをかかさないところが、コピーユニットのくせにやたらあざとい。エリューションってこんなんばっかかようぜぇ。 「別に裸を見られてもいいのだがな。ブリッジとか変なポーズをとらなければ」 何故かブリッジの体勢をとったシェリーの奇怪な行動により、泡ネズミが溶かした部位は隠れ、傘が見事に隠してくれました! 「BNEは小さなお子様も読める安心クオリティですから」 そうな、安心して読めないとまずいよな。 「ここで取り逃がして、また下水に潜るハメになるのだけはカンベンッス……」 計都の心からの叫びは、なんというか切実だった。けどまあ、再度下水に潜ってもらう時はホント重宝するよな猟犬って。役に立つわー、ホント頼りになるわー。 「くせぇんだよ! 近づくんじゃねぇ! 消えろや!!」 叫びながら銃を乱射する隆明であるが、その銃弾はことごとくが壁面にぶち当たり、跳弾と化して消えていく。 だがちょっと待って欲しい。彼、確か先日の夏テロでも隅っこに居なかったか。Gに群がられて意気消沈として帰らなかったか。 もしかして彼って……マゾヒストじゃない……!? まあ、グダグダの匂いはするが、義衛郎の必死なブロックでリベリスタの多くは無事だった。倫理的な辺りで。 僅かに防具が溶けてしまったものも居るようだが、着替えは持ってきているらしいから何ら問題ないわけで、泡ネズミはほら、複数とか全体で最早虫の息だ。 相手の最期と見てとったか、菜々那がショテルの柄頭を繋ぎ、射撃体勢に移行したところで……泡ネズミ、最期の抵抗に出る。 菜々那に跳びかかる、二体の泡ネズミ。 「危なーいっ☆」 何というか、あざとさとわざとらしさ漂うとらの声。 「おぶぁっ!?」 背中を押され、泡ネズミの前に転がり出る隆明。 悲鳴、断末魔、溶ける音、据えた匂い。 あ、吐いた。 「大丈夫よォ、ちゃんと回復するからァ~♪ のほほほほ☆」 「デモキット、みんな最終的にはボロボロよネ」 そんな光景にも怖気づかない伊丹、マジ半端ない。 ●いつだってじゃくしゃはひがいしゃ(棒読み) (臭い……きつい……帰りたい……! だが、皆の装備がボロボロになっては困る……!) 匂いにその理性を脅かされつつも、義衛郎は全力でバブルペーストの攻撃を避けつづけた。 そりゃまあ、当たらないってことも無いのでアーク支給の作業着がちょいちょい破けたりはするが、そこはバブルペーストも空気を読むらしく、KENZENな範囲内でしか溶けていない。 泡ネズミが撃破されたことも相まって、リベリスタたちの猛攻は更に苛烈になっていく。折り悪く計都の翼の加護が切れかけて全員ヒヤっとしたとか、そんなことはなく。 でも半数くらいがいい感じに溶けてたりしてサービスシーンどころじゃなかったりとか。 先程、とらの機転で何とか難を逃れた菜々那が何故か口惜しそうな表情をしていたとか。 ブリッジの姿勢のまま腰を痛めて動けないシェリーとか。 こう、なんて言うかこう、義衛郎の活躍が別ベクトルで作用しているような気がしないでもないけれど、大丈夫なのだろうかっていうか。 (大丈夫だ、こういう時の為にシェリーさんに倣って……香水を……) 義衛郎、手首にそっと鼻を近づける。バブルペーストの匂いが鼻腔をつき、次いで手首からフローラルな香水の香りが鼻孔をくすぐる。 何があったって、化学反応がおきるよそりゃぁ。鼻から喉へ。喉を突き抜けた匂いは――必然、喉にも存在すると言われる味蕾を衝く。 喉越し最悪。灰が穢れる。 「いろいろ混ざってなんか台無し! ダメだこれ、もう何か色々ダメだ!」 心が折れそうになりながら、義衛郎が一撃を放つ。が、それが決定的な一打だったのか、バブルペーストが不自然に泡立つ。 「ah、体力少なくナッタラ殺られる前に自爆ってのがセオリーね!」 伊丹が防御姿勢を取る。 「泡を吹かせてやるぞ」 うまいこと言ったが、シェリーはその姿勢では全く説得力がない。 「全力で早期決着を目指したいからね、全年齢的に」 或いはよかったんじゃないか、と呟きながら(全年齢用の)上着が影響下に出ないよう、キリエが上着を放り投げる。 ぶくぶくぶくっ、と泡が溢れ、嫌な音が炸裂する。 死なば諸共、下水道いっぱいに泡が炸裂し―― \あ゛っー!/ 「ぺあーーーッッッ!!?!? ブブゥブbbbbbbrrrrrrr! what!? オーーー何か口に入っタ!!! あーんヒッドイ味! 何て言うかニガイかマズイかで言ったらクサイってカンジ!」 伊丹、錯乱状態に突入。全力防御でも防げないものは、ある。 「これはこれでたのしいの、うふふ」 「…………」 楽しげに溶けた部位を眺める菜々那に、キリエは黙って放り投げていた上着をかぶせる。性別不明の紳士ってなんかイイですね。いいのか? 「HAHAHA! TAKA☆AKI! お待ちかねのラッキースケベタイムだ! 大胸筋の世界にウェルカム、アッー!!」 「そんなもんが見たかったんじゃねえええええ!?」 服を溶かされてもなんのその。計都に至ってはスタイルチェンジで性別すら凌駕してしまった。 隆明の虚しい悲鳴がこだまするが、もうこうなってしまってはどうでもいいんじゃないかと。 「神気閃光で目を灼いて欲しいかしらァ? マウントから、記憶失くすほど頭を殴られるのがご希望かしらァ? 凍ったペットボトルなら、ちゃあんと用意してあるんだからァ☆」 ……とら、その前に聖神の息吹を! 皆割合、不快感で虫の息だよ! 「あ、ワタシね、一つ賢クなった!」 最後に、伊丹の教訓をひとつリベリスタに贈ろう。 「コウイウお仕事の時は、マスクは必須」 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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