●剣林仮面フィクサードマン! 『剣林仮面フィクサードマン』本郷 隼人は、剣林のフィクサードである。 かつて、裏野部の末端が行った暴走行為が、彼から左腕を奪い去り、妻子を奪い去り、彼に革醒をもたらしたのである。 リベリスタになる道もあったが、自身の正義が許さなかった。 復讐に生きる道は修羅の道、茨の道。 "正義"とは、それらと無縁で高潔であるべきものなのだ。そして妻子の無い世界が崩界しようとも、微塵も気にならない。ならば相応しくない。 この故に、隼人は剣林へと下り、剣林もまた憎悪燻る隼人を快く受け入れたのであった。 昔日の傷心から五年。 隼人が切磋した人脈と強さは相応のものだった。 先日、黄泉ヶ辻の大物が私事(プライベート)で大暴れをした事件を聞き、ならば俺も私事でと、人脈を手繰り寄せたのだった。 隼人は、鉄の扉を蹴破った。 「如月博士ッ! ついに完成したのかッ!?」 むわりと、異臭が跳ね返ってきた。部屋の主からの応答はない。 ヤニ臭く腐敗臭ともいえるねっとりとしたものが絡みつき、これを振り払うように奥へ進む。周囲はブラウン色に染まっていた。書類が散乱したデスク。卓上ライトがジジジと音を立てている。 「如月博士?」 周囲に視線を泳がせた時、隼人は恐ろしいものを見た。 八つのチェーンソーを、熊手の如くに合体させた様な異形が横たわる。 ぬらりとした油の光沢が、卓上ライトの光で鈍い輝きを放っている。 「『八基連結連装獄殺チェーンソー』だ、もぎょもご」 『秘密兵器請負人』如月・ノーム・チェロスキーが、ヤニ色に染まった周囲を保護色にして現れた。 パスタがのった灰皿を片手に持っている。口から灰だらけになったスパゲッティが垂れている。 隼人は興奮のあまり、絡みつく悪臭を意識の外に跳ね除けた。 「これがそうなのか!?」 「そうだとも、じゅるじゅる。んめぇ。"辻の巡"に納品したヤツのマイナーチェンジ版だ。12基使ったし」 「辻のめぐり?」 「気にするな。最近『ゴホウ』でもマトモに動く様になってきた。君なら、ま、大丈夫じゃね?」 「どういうシロモノなんだ?」 待ってました、とばかりに、チェロスキーの両頬の肉が醜くつり上がった。 「八基のチェーンソーがギュイーンと轟き叫んで、爆熱してスクリューしながら大乱舞だぁ! どぅふふはふひふへへぇ! 相手は死ぬぅ!」 「凄い! 何が凄いのかよく分からんが、とにかく凄い! 殺す、殺す、殺し尽くしてやる!」 隼人の復讐心が狂気に同調して燃え上がる。 同時に理性が、最後の警鐘を鳴らす。 計画を実行すれば、ジャック・ザ・リッパー戦で背中を預けた彼ら――アークのリベリスタ達が現れるだろう。 「……彼らと歩む道もあったが――いや、よそう。この日を逃せば、言い訳が苦しくなるばかりだ」 「ぐふふ、諸事情で、私も同行させてもらうね」 秘密兵器請負人は何者かに電報を飛ばすと、すぐに支度を始めた。 : : : 「どけどけぇ轢き殺すぞぉ」「ヒャッハー!!」「パネェ!」 モヒカン頭で前衛的な衣装を纏った男たちが、暴走行為をしていた。 裏野部の末端、数にも数えられていない一味であった。 この暴走は、彼らと懇意であった『ナックルさん三人組』の壊滅を偲んでの弔い暴走であった。 彼らが駆るバギーは、一般人が運転する車を踏み潰して暴走する。 この様子を、隼人は漆黒の衣装に身を包み、対面で仁王立ちして眺めていた。 隼人――フィクサードマンは怒りを込めて呟く。 「蒸着!」 失った左腕に鉄塊を蒸着してバギーへと迫る。 八基のチェーンソーが、熊手の形からリボルバーの輪胴型の様に整列して、ドリルのように高速回転する。 赤熱したチェーンソーを存分に回転させて、バギーへ突進する。 「お命頂戴! とう!」 「なんだぁ? てめぇぶぎゃあああぼぎゃああっごごご」 衝突。 同時に運転席と後部座席にいたモヒカンが微塵となる。 バギーは、完熟トマトを詰めた箱の如き有様となってスクラップになる。 「粛清ッ!」 助手席とその後部に居たモヒカンが咄嗟にバギーから降りる。 「す、ストレートさんとゼットさんがミンチになっちまったァ!」 「な、なんだぁ!? てめぇは!?」 挽肉には毛や内臓、骨、灰色の脂質に目玉は混ざらない。 ミンチより酷い有様に、モヒカン二人は戦慄した。 「私は、剣林仮面フィクサードマン!」 フィクサードマンは、左腕に同化した得物を仇敵に向けた。 「ぶひゃひゃひゃ! 流石! いや、ゴホウを極めた私が天才なだけかぁ!」 サイドカーの後ろに隠れていたチェロスキーが小躍りしながら出てくる。 「祈れ、『ストレートさん四人組』!」 ●こんなもの3号 「また"こんなもの"を……変態め」 片腕を欠いた女が部屋の隅にいた。 『運命オペレーター』天原 和泉(nBNE000024)曰く、参考人との事だった。 和泉が礼と共に話を切り出す。 「剣林と、裏野部のフィクサードで小競り合いといった所です」 未来視であるという。 「今から向かえば、一般人が少ない道路で、裏野部側に割り込めると思います」 まず第一に、裏野部に追いついてどうにかする事が必要か。乗り物が必要になる。 「皆さんが裏野部側と交戦した場合、剣林のフィクサードは仇を奪ったとして皆さんに襲いかかるようです。また、もし復讐を遂げさせた場合、やがて自暴自棄になって暴れ出す様です」 成る程。変態兵器を持っている剣林の方が厄介そうだ。 裏野部が起こす一般人の被害に目を瞑れば、復讐を遂げさせるのも有りか……。 続いて変態兵器に関しては、参考人が応じた。 「『秘密兵器請負人』は"六道くずれ"だ。上との意見違いで六道を抜けた、な」 剣林、裏野部、抜けたとはいえ六道。豪気な事件だ。 「アレには別のアーティファクト――"箱"が内蔵されている。単品でも強力で無差別な呪物らしい。これを兵器化した者がチェロスキーだ。箱の作者は別だろう。私は知らないが」 Black Box。 それを搭載した『八基連結連装獄殺チェーンソー』。極めて危険で変態である。 「使い手は同情の余地が有りそうだが、君達がどう動くのか見せてもらおう。せいぜい頑張るがいい、リベリスタ」 素っ気なく静かに言い切った後、参考人は職員に連行されていった。 「よろしくお願いします」 最後に和泉は、やわらかく頭を下げた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:Celloskii | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年08月05日(日)23:08 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●見えている切り札 -Nice Joke- バギーの後輪がぼかんと爆ぜて車体が沈む。 ここへリベリスタ達が駆る4WDがぶつかると、バギーは火花を引き摺りながら壁へと突っ込んだ。 「あ~、当たってしもうたか」 『人生博徒』坂東・仁太(BNE002354)は呑気な調子で硝煙を一吹きすると、4WDから飛び降りた。 仁太が先ず以て周囲を見れば、周囲に一般人の車は少ない。良い場所である。 4WDがドリフトしながら停車すると、リベリスタ達が躍り出る。 雪待 辜月(BNE003382)が強結界を張り、一般人対応を粛々と行う。 バギーを注視すると、早速モヒカン達が這いずり出ていた。 「俺たちは泣く子もぶっ殺す裏野部幹部の!」 「高梁・テスタロッサ・邦子さんの子分!」 「ストレートさん四人組だぁ!」 「ぶっころしてやるぅぅぅ!」 説明的な言葉を順繰りに並べると、チンピラ特有の"首をカクカクさせた動き"で威嚇してきた。 「ふふふ、大先生と会える! 魂の高ぶりが私を強くする! あぁなんて素晴らしき夜だろうか♪」 『ヴァイオレット・クラウン』烏頭森・ハガル・エーデルワイス(BNE002939)の眼中にモヒカン達は映っていなかった。四人組のバギーに備え付けられていた重火器は、既に蜂の巣となっている。嗤いながらリロードする。 「極めて因果応報の理に適った行動だ。だが……」 髪の毛を弄りながら『Dr.Tricks』オーウェン・ロザイク(BNE000638)が前に出た。 口にした言葉は、まだ姿を見せぬ隼人を考えてのものだった。 隼人が受け入れればの話だが、助力しても良いとさえ考えている。 オーウェンが、「だが……」と言葉を切れば、『無何有』ジョン・ドー(BNE002836)が続く言葉を胸裏に響かせる。 ――成し遂げたとしても、その空白は埋められるものでは無し。 この裏野部も剣林も、抗争ではなく己が復讐のため。 なんと虚しい事だろうか。 オーウェンが脚甲を纏った踵をゆるく上げる。ジョンは踵を返して一般人対応に走る。 敵意を向けた瞬間、モヒカンは怒りに身を任せて襲いかかってきた。 ここへ『気焔万丈』ソウル・ゴッド・ローゼス(BNE000220)が割って入る。 「通行止めや一般人の避難がいるな」 ソウルは生身で攻撃を受け止めながらも、巨大なパイルバンカー引き絞る。 「時間稼ぎもだな」 ソウルに応じる様に『立ち塞がる学徒』白崎・晃(BNE003937)も壁となる。 「復讐させて、暴走を止めて、変態兵器を狙い撃つ。全部纏めてやらなきゃいけないのがアークのリベリスタの辛い所だな」 二人のクロスイージスに、モヒカン達の攻撃はかほども効かなかった。 「ハッヒャー!?」「かてえ」 弱者には凶悪になれるが、一気に狼狽の様子を見せる。 隼人の願いを遂げさせる為には、モヒカン達を殺さず生かさず、抑えこまねばならない。 「好みじゃないかな」 クロスイージス二人の間をゆるっとすり抜けてきた『狂獣』シャルラッハ・グルート(BNE003971)は、得物のチェーンソーを振りかぶってオーララッシュを放った。一人が瀕死へ至る。 「よわっ、やっぱり好みじゃない。どうせ死ぬ運命なら想われ人に殺された方が幸せだよね♪」 「ヒャ!?」「こ、こいつら強ぇっすよ!」 直ぐ様、モヒカンは立ち上がると、自身の血を見て顔が青くなる。 「……問題無さそうですね」 辜月は戦闘指揮の観点から隙を探す様に眺めていたが、今は心配は無かった。 リベリスタ達は一般人対応を合間に挟みながら、モヒカン達を生かさず殺さずで時間を稼ぐ。 ここまでは問題無い。ここまでは―― 強結界を突破して、サイドカー付きのバイクが高速で接近した。 運転する男は、バイクを捨てて跳躍し、宙返りをしながら降り立つ。 「何者だ……貴様ら」 声は怒りが滲む。背負った変態兵器がぬらりと光る。 サイドカー付きのバイクは、サイドカーにもう一人を乗せながら壁に激突した。 ●冗談と本気の境界線 -Silent Line- 「剣林仮面フィクサードマン!」 何やらポーズをとった。 「この此処! この場は! 私の復讐の場だ! 名乗れ!」 対してオーウェンが静かに応答した。 「俺達はアークだ。お前を待っていた」 「アークだと、どういう事だ!」 フィクサードマンは、ポーズを解除して警戒した様子を見せた。 すかさず、仁太が飄々とした調子で、言葉を継ぐ。 「一般人への被害さえ防げれば復讐を遂げてもらってもええんやけどね。失った過去のために戦うんは悪くはないよ」 仮面で顔は見えないが、驚愕したように一歩あとずさった。 「アークの万華鏡か。お見通しという訳か……蒸着ッ!」 フィクサードマンは背中にあった変態兵器を左腕に蒸着した。 「話を最後まで聞かんかい。過去に囚われて未来が見えとらんようや。復讐を遂げた後のこと考えとらんけん、そこで心が死んでまうぜよ」 熊手の形をした八基のチェーンソーが咆哮のような音を立てる。 「――助言に感謝する。しかし、奴らの顔を見た途端! 俺は浅ましくも復讐したいと心の底から願っているッッ! 揺るがない、微塵も!」 「おい、まだわしの話は終わ――」 「粛清ッ!」 弱っていたモヒカンの一人が、汚い花火になった。 「ぜ、ゼットさああん!!?」「も、もう勘弁してくれえ!」 恐るべき変態兵器は、しかし止まる気配を微塵も見せずに、唸り続けている。 「あちゃー……復讐を終えたあと、お前の心にいる家族はなんて言う?」 「終えてから尋ねるッッ!」 二人目のモヒカンの悲鳴が響き八等分になる。残る二人は道路を濡らしている。 ソウルがフィクサードマンの肩を叩いた。 「ただ一人で復讐の道を歩むのはつれえだろ。また、背中預けてみねえか?」 「……。嬉しい申し出だが、リベリスタ。私はこれから戦意を喪失した者を粛々と殺す。リベリスタは、そうあって欲しくないのだ」 敵対は無いが、共闘の拒絶であった。 ならばとモヒカン達をくれてやり、一般人対応へとリベリスタ達は動くと、モヒカンの一人がべそをかきながら携帯電話を操作していた。 それが隼人の目に入った途端、変態兵器で文字通り八つ裂きとなる。 「俺には、女房と食いざかりのガキ――あろっ!?」 最後のモヒカンが千切れた。 : : : 復讐を終えたフィクサードマンは項垂れていた。 「貴方の心の空白は埋まりましたか?」 「隼人ちゃんや。心のなかの家族は、いま何ていうとる?」 ジョンと仁太の言葉に、ゆっくりとフィクサードマンは立ち上がる。 「埋まらないな……何も答えてくれないな……何も」 ジョンは頷いた。 空しき復讐、虚しく吹き抜ける激情の、その先は空虚と相場が決まっている。 「――くッ、ウアァァァァァ!!!!」 突如、フィクサードマンは変態兵器を唸らせた。そのまま道路を八つ裂きにする。 「こんな雑魚に、豊子もッ! 隼子もッッ!」 コンクリートの道が衝撃で隆起する。 「済まないリベリスタ。私は、浅ましいフィクサードだ。怒りの矛先を見失い、狂ってしまったらしい!」 理性で分かっていても抑え切れない激情。 敵対する理由など皆無であったが、暴走は止めなければならない。リベリスタとして。 「致し方ないでしょう。……では参りましょう、ロザイク様」 ジョンは距離をとりながら、消耗した者にインスタントチャージを施した。 「自らその苦しみを味わって尚……自分と同じ苦しみを味わう者を生み出そうと言うのかね?」 オーウェンがジョンに頷き、インスタントチャージを放てば、モヒカン戦での消耗が消え去る。 「あえて本郷隼人と呼んだ方がいいか? 何処まで耐えられるか知らないが、付き合ってもらうぜ」 晃が壁となれば、フィクサードマン――隼人が応じる様に八基のリーガルブレードを振り下ろした。 晃はメタルガントレットで止める。 散る火花。一撃で持っていかれる程の衝撃が、上から下へ走り抜けた。 「この威力、悪い冗談だな」 皆が説得をしていた際、晃は沈黙を保っていた。 偶然続きで不幸も知らずにリべリスタになった学生が言葉並べても仕方ない、と胸裏に秘める。 「……受けきるとは、なんたる見事」 「俺はアークに尽くす志を他人に強制する気はない。今はただ信じて仲間を守るだけだ」 横からソウルがパイルバンカーが放った。 「満足は――してねぇみたいだな。ああ、ぶん殴って目ぇ覚ましてやる!」 電撃を纏ったものが盛大に隼人を貫く。しかし隼人もクロスイージス故か、手応えは硬い。 「理想的な正義ってのは、確かに高潔なもんだ。けどよ、人が人である以上、そんな正義なんてものは存在しねえのさ」 ソウルが葉巻に火をつける。 続いて、接合部に銃弾が注がれた。銃弾というには大きすぎる鉄の塊の如き鉛玉。 「超デカイ拳銃、イカスやろ? 相手になっちゃる。全部吐き出せ。想いは受け止めちゃる」 仁太は膝を着け、近接された時に見切る姿勢。下段で守りを固める。 「ふわ~、復讐を果たした時点で生きてる意味がなくなっちゃった感じ?」 一連の様子を黙して観察していたシャルラッハが、再びチェーンソーを唸らせた。大雑把に振り下ろす。 ギガクラッシュが隼人の右鎖骨を砕く。 「生を感じない殺し合いなんてつまんない」 胸中には殺意しかない。とっとと死なせてあげる、と声のトーンは冷たい。 「私は今、貴様に嫉妬している!」 エーデルワイスは茶番に飽きがきていた。銃口が狙いを定める。 「お前が先生の作品を装備しているからだ! 遠慮なくミンチになって下水で死ね! クソ野郎」 B-SSに次ぐB-SSがは隼人左腕へと問答無用で注がれる。 「翼の加護」 辜月が翼の加護を施すと、ここに第二局面が始まった。 オーウェンは、事故っていたサイドカーから抜け出す影を見た。 「ぶひゃひゃひゃうひふへへ! アーク。成程、成程! アークか!」 如月・ノーム・チェロスキーは、ずんぐりとした身体を不気味に揺らせて小躍りした。 「どおりで欠陥秘密兵器を放置しても被害が少ない訳だ、にーげよ」 小躍りするチェロスキーに、オーウェンは粛々とスキャンを施す。 作り手ゆえか本郷隼人よりは弱い。――とはいえ、変態兵器で力は増大している。 武器は――分からない。 ●対空火炎放射器HUGEバーナー -Bad Joke- 目標はBlack Box。 オーウェンがその位置を周知する。自らも気糸を用いて貫く。 「全くもって理解に苦しむ」 箱は、機械的なものではなかった。 性質は、賢者の石等のように神秘だった。しかしどこか黒い怨念がチラチラする。鬼魅の悪い箱だった。 辜月の熱感知が捉えたところも箱の場所と一致する。 「皆さん、天使の歌です」 思索する余裕はなくなりつつある。 前衛の損傷が著しい。しかし隼人もまた、一斉攻撃に次ぐ一斉攻撃によろめいた。 「正義は別に高潔でもないです。身を焦がしても、ご自身でまだ抑えられてるなら立派です。……出来ればこれから私達と一緒に戦って頂けませんか?」 重なる説得の末に、攻撃の手が止んだ。 「そうだな……それも悪くはない。だが、吐き出させてほしい」 突如、変態兵器が変形する。 熊手型だった八基のチェーンソーが、整列する。 ――グラインドブレイド。 未来視でモヒカンを車両ごとミンチにした技。 赤熱。甲高い悲鳴。行き場の無い怒りが、炎となってゆらぐ。 「ところで変態仮面のおじさん、そのチェーンソー超カッコイイね! それ、シャルに頂戴♪」 シャルラッハの問いに対して返答はない。 「だったら……殺してでも奪い取るよ!」 血と火薬に満ちた世界の中で生き抜いてきたシャルラッハにとって、眼前の変態兵器は懐かしい祭を彷彿させる。 散る火花に花火。機械の嘶きは喧騒。戦火。戦争-パレード-そのものだった。 八基のチェーンソーに、一本のチェーンソーがぶつかる。 ガキリと噛み合う様な音がした瞬間、回転するチェーンソーに巻き込まれて全身が持っていかれる。 すごい兵器だ、笑いが止まらない。 空中へ放り出されながら、全身の所々を抉られながら、切られ、生を実感する。 葉巻から煙を立ち上らせたソウルが、パイルバンカーを引き絞ってグラインドブレイドに向かう。 ど真ん中、真っ向から電撃を伴ったパイルバンカーを放つ。同時に変態チェーンソーの一基をつかむ。 腕がねじ切られる程の衝撃が伝わる。 「ォォォォオオオ!!」 辜月の手厚い回復も、自身の鍛えた肉体もメタルフレームの強靭さも貫く。 後衛が受けたら。フェイトが無い者が受けたら。即あの世行きだと実感した。 ソウルごと、晃に叩きつけられる。 「だからこそ――」 これを受けきれば、最初に掲げた全てが達される。晃が全力防御で応じる。 「――身命を賭けるに値するんだけどな」 重圧が全身を襲う。手甲が削られる。ソがれる。ソがれる。 「本郷、いい加減死――っと、あら、あの影は?」 エーデルワイスはB-SSの射程に隼人を捉えながら駆け出した。 「しかしえらいカッコええ武器やな。けどわっしのも負けとらんよ」 仁太の銃が蒸着部を狙う。 エーデルワイスと共に集中的狙い続けて重ねてきたものが成就する。 左腕、結合部位が砕け、晃にかかっていた重圧が緩む。 シャルラッハに右鎖骨砕かれ、右手が不自由となっていた隼人は、変態兵器を支え切れない。 「その武器では……小回りは効かないと判断した。たとえ最高速が高くともな」 オーウェンが脇から飛び出した。 「あとは時間。時間の他、ございますまい」 ジョンが構える。 二人の気糸が変態兵器の決定的な所を貫いた瞬間、狂ったように回転していた物は、晃の頭上で動きを止めた。 エーデルワイスは形勢が圧倒的有利と見るや、一人飛び出していた。 狙いは変態兵器の製作者、チェロスキー。 「先生のファンなんです。受け取って♪」 「追手だと思って焦ったわぁ。ぶひゃひゃふひへ! 何かね、これは」 チェロスキーの身体からは犬のような臭いがしたが意識の外である。真心を込めてしたためたレターセットを差し出しながら、ハイリーディングをする。 「む」 「チェロスキー大先生のお考えが知りたくてぇん♪」 「そうかそうか、ぶひゃふひゃ!!!」 エーデルワイスの脳裏に、様々な情報が流入した。 チェロスキーのアジトの位置。 テスト協力者を募る窓口『商事』。 BlackBoxの製作者『辻の巡』。 そして最後に鮮明に浮かんだものは―― こ ん な も の 『対空火炎放射器HUGEバーナー』 「……対……空?」 焼却炉の様な形状で、煙突が砲口の様に火を出している。 「そう! 『対空火炎放射器HUGEバーナー』だ!」 流入した物が、眼前に現れる。 「あは、フェニックス放射器といい、本当に火がお好きなのですね」 「汚物は消毒ダァと叫んで飛び出せば、後には戦火が広がるのみよぉ!」 チェロスキーはニチャリと口を鳴らす。 「でふ☆こん! ふぁいぶ!」 ぼかん、と音がして全体が明るくなった。全員の視線が光源に注がれる。 車線一杯に広がる炎が、火砕流のように押し寄せてくる。 エーデルワイスが最初に飲まれた。 対向車線との境にある木を焼く。コンクリートを焼く。車を焼く。 最後にリベリスタ達を焼かんと眼前に迫り来る。 「皆さん、車の側へ!」 異変に対して真っ先に動けた辜月が天使の歌を施しながら前衛の元へと走る。 辛うじて動けた晃は、ソウルとシャルラッハを伴ってバギーの下へ行く。 「本郷さん、避難を」 「いい。……俺の器はここまでだ」 辜月が肩を貸そうとすると、本郷は払いのけた。 「君たちは何とも眩しい。心から感謝している……ありがとう」 左腕の変態兵器を路面に突き刺して、一人分の陰を作り、辜月を入れた。 同時に、炎の濁流が飲み込んだ。 戦火の如き有様が眼前に広がる。 「……てめえのツラァ、覚えたからな」 ソウルは炎の向こう側、嗤うチェロスキー睨みつけていた。 ●フィクサードマン月下に死す! -to be Continued- 結果的に十分な収穫があった。 これまで、妙な兵器で事件を起こし続けてきた『秘密兵器請負人』のアジトは大きい。 協力者『商事』、BlackBoxを渡した『辻の巡』――帰って調べれば関連した事件があるかもしれない。 秘密兵器請負人との決戦は、そう遠くはない事を胸裏に忍ばせる。 傷ついた身体を引き摺りながら、リベリスタ達は撤収した。 誰ともなく空を見上げれば、月がただ呑気に光を注ぐのみである。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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