●誰だよこんなヤツ雇ったの 字白 翼(あざしろ つばさ)は、逆凪きっての――まあ、平たく言えば「アイドル的な」フィクサードである。 整った目鼻立ちや雰囲気の明るさもあるだろうが、規模の大きい彼らをして埋没しない個性と実力を兼ね備えていることも理由の一つだ。 何より、機械と化した喉が発するこの世ならざる響きの声に魅了された者達も多く、自らのファンクラブすら組織行動に利用する意図で擁すほど。 彼らが組織だって動くこと自体、決して多いわけではないが、規模が規模だ。 「みんなーっ! 今日は目一杯騒いで……そして暴れようねぇ!」 頭のネジが緩そうな発言をした翼に、ファンクラブの連中が一斉に視線を向ける。その先で、翼があざといポージングと共に対象も捉えずチェインライトニングなんぞぶっぱなしており。 直後、彼女の脇を鉄製のロッカーが吹っ飛んでいき、背後のショーケースに突き刺さった。 「今日も電撃絶好調☆ これぞ正に恋のダブルフレミングだねっ!」 わけが分からなかった。 ●誰だよこんなもん作ったの 「キメ顔ダブルフレミングです」 「……は? フレミングって左手とか右手とか、あの?」 「です。因みにどっちもあります」 モニターを呆然と眺めるリベリスタに対し、『無貌の予見士』月ヶ瀬 夜倉(nBNE000202)は大仰に頷いた。それから、翼がポーズをとった場面まで巻き戻し、腕のあたりをズーム。 「腕輪型アーティファクト『ハンドリングコイラ』。エリューション能力、広義では革醒者の電撃系スキルに反応し、強力な磁場を発生させるもののようです。幸い、メタルフレームのそれは神秘的なあれやこれやで磁場干渉にはかからないようですが、周囲の、そうですね……重量にして六十キログラム弱の物体を動かすことが出来るようです。動かすと言うよりは引きつける、ですが」 「え、何。この場合チェインライトニングに付随してそんなもん発動すんの? 面倒ってレベルじゃなくねえ?」 「ですねー。彼女はどうやらスキル発動においてクセがあるようで、一応その飛来する軌道は読めなくはないのですが……まあ、色々と問題がありまして」 「……キメ顔か」 「ええ。『フレミングの法則』そのまま、ではありませんが。彼女がポーズを取った時の人差し指の方向に力が作用するようです」 「ダブルフレミングか」 「です。同時二対象とか冗談じゃありませんね」 「どうすんだよこれ」 「取り敢えずブティック街を襲撃するんで撤退させてください。撃破ではなく撤退が成功条件です。一応、馬鹿ですがそれなりに強いので」 「うわぁ」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:風見鶏 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年07月31日(火)23:18 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●夏だしな 夏、アイドル、ライブ。 この三要素が纏められるものといえば、大規模な音楽イベントの類が挙げられる。 少なくとも、単独ライブなどではないことは明らかだ。 なので、 「ゴホン……いぇーい! 翼サイコー! 電撃強ぇー! ダブルフレミング超イカスぜー!」 (……アホくさ、意味わかんねー) 『デンジャラス・ラビット』ヘキサ・ティリテス(BNE003891)が納得行かない心中を押し込めて翼にラブコールなんぞ送っても。 (アイドルといっても最終的にやる事は破壊活動なんですね……) 『蒼銀』リセリア・フォルン(BNE002511)が釈然としない表情で(変装を行った上で)フィクサード字白 翼の取り巻きに混じっていたとしても。 (色々と……面倒そうな……人) 更に言うなれば、エリス・トワイニング(BNE002382)も変装をして紛れ込んでいたりしても、 まあ、その狂乱の中にあっては多少の変装を簡単に見破る人間というのは居ない。寧ろ、彼女ら自身がみつしりと密集したフィクサードの群れにあってはマトモには動けないのだが。 っていうかなんだこのフィクサードの量。明らかに野外ライブの体じゃねえか。翼なんて何かお立ち台作ってんぞ。ブティック街のど真ん中でなにやってんだこの人ら。 結界でも使ってるんだろうか。 「いいよいいよー! いっぺん行くよー? 私達ってー?」 \ホント馬鹿ー/ (人が多いから統制が取れにく……いや、それにしても多すぎであるな) 人が多ければああ、少なければこう、としょっぱなから全力で考えていた『Dr.Tricks』オーウェン・ロザイク(BNE000638)は速攻で出端をくじかれた。 いや、別に作戦の全てがおじゃんになったわけではないのだが、想定外どころの話ではないのだ。多すぎるのだ。 『ライトニングフール』字白 翼――彼女の所属が何処かと問われ、最大派閥『逆凪』であったことが、ひとつ。 「いいよいいよー! どんどん馬鹿になっちゃってー! からの、ドヤァ☆」 ばりっ、ひゅっ、ぐわんっ! と流れるように紫電が舞い、キメ顔が向けられ、指先が無造作に群集に向く。 「ありがとうございます! ありがとうございます!」 「ポーズがあざといのもどうかと思います、のッ!?」 ぐわぁん、と小鳥遊 悠乃(BNE003977)の頭部にぶち当たる業務用ロッカー(二,三八〇グラム)。 普通なら、キレる。斯くいう彼女も流石に反論しようと頭を起こした。フェイトで。 だが周囲はどうだろう。受け止めたであろうもう一人と、二人の余波を受けた連中の「ありがとうございます」具合。 この時点で、オーウェンの思考がロッカーと一緒にふっとばされた。ファンすら攻撃しやがるぞこのフィクサードアイドル。 「フィクサードって色んな人がいるんだねぇ……」 『魔法少女マジカルハシバ』羽柴 双葉(BNE003837)……彼女のリベリスタになった経緯とその後の動向を考えるとそれは見事なまでにブーメランなのだが、その言葉は割とその通りで、なんていうかもうどうでも良い気すらした。 ここで重要なのは、まあフィクサードの数が尋常無く多く、翼までの密度がパなく、でもって取り巻きの皆さんは大体翼本人含めて割とノリが馬鹿であるということである。 あ、因みにこれはリベリスタにも言えることで。 「キ、キメ顔wwwフレwwミングwwwww」 「「あァ……!?」」 で、まあそんな中でも一切の妥協無く他人を煽り始めたのは誰あろう『Trompe-l'?il』歪 ぐるぐ(BNE000001)だ。相当な変装を施してはいるが、正直なところ、ぶっとんだ名声を誇る彼女がどの辺りまで有名なのか、という点がある。 ……まあ、こいつら馬鹿だし分からないよねって考えは間違っちゃ居ないけど、曲がりなりにも最大派閥だからな! 「っていうか、何?L・O・V・Eとかやるの?やってみせてよww」 「 」 周囲のフィクサードが一様に構え……ようとして、それぞれの装備がぶつかって罵り合う中で更に煽りに行くぐるぐに、しかし翼は無言だった。無言で、フレミングのポーズをキメたままの指、その両中指でハートを描いてみせた。 プロ根性だった。いらねえよそんなもん。 「俺たちの中にスパイが紛れ込んでいるかも知れんぞ!」 「っぷゥぁ……!? いや、今お前何かしただろうが! 範囲攻撃しただろうが! お前じゃねえか!」 何とか紛れ込んでもこの始末である。もう、好きに戦えよ……と、言いたいのだが。 リベリスタ達は、別に紛れ込んで近づいて翼を倒すとか、その程度の策ではなかったわけで。 「オレはSHOGO……黒の先導者と呼ばれる男さ!」 じゃあすいません、称号それにしましょうか、『SHOGO』靖邦・Z・翔護(BNE003820)さん(以下SHOGO)。突然腕を交差させてアレに近似したアレなポーズをはじめる彼に、皆視線が釘付けだ!(悪い意味で) 「みんなに夢を与えるアイドル(的存在)が世間様に暴行傷害その他を振るうなんて間違ってる! オレの歌で優しさを取り戻すんだー!」 「SHOGO黒のテーゼ」歌:SHOGO 突然ですが オレSHOGO 君に出会えて うれSHOGO Wow マジSHOGO(Justice!) ※以下鼻歌 「……目立ちすぎよアーク」 「パニッシュ!?」 パニッシュされたのはむしろSHOGOさん自身でした。 「走って……跳んでぇ……! 蹴ッ飛ば「させるかぁ」!!」 ヘキサが、全力で翼へと踏み込もうとしたが、やっぱり人ごみがパない。翼へ向けて放とうとしても、やはりファンは肉の壁であるわけで。 そもそも、人ごみを何とかしないと身動き取るのもままならないのだ。 「吹き飛んじゃえ―!」 ……というわけで、誰が一番真っ当かって、リベリスタ間では双葉ちゃんなんですよ。双葉ちゃんマジ救世主。 ●※ここまで大体5ターンです 先ず、戦況を端的に言うと「芳しくなかった」。 自爆覚悟で双葉が自らの動線を作ったはいいものの、他のメンバーはそもそも接近戦を挑むには人口密度からいって接近しがたい。 隠す事が既に難しいと踏んだ以上、オーウェンは辺り構わずJ・エクスプロージョンをぶっ放すが、実際のところ、そんな目立ってたらチェインライトニングぶっ放すと思う。狙われると思う。 無論、そんな状況に敢えて突っ込まなかったSHOGOは完全フリーとは行かないまでも、確実に動線を確保できては居た。 「キャッシュ、からの~……パニッシュ!」 「愉快だねー☆ アークはカタブツが多いらしいからウケないだろうけど☆」 翼を直接狙おうと放った彼の銃弾は、しかし結果的に仲間(とその周囲)に落下する金属物をことごとく叩き落す結果になっていた。翼の何があざといって、遠距離戦闘を狙ってくる面子と自らの射線を塞ぐようにそれらを辺り構わず飛ばすのだ。 無論、精度なんて気にしていないように見える。何かフィクサードの数も減ったりしてるけど、まあ、死なないから大丈夫よねっていう体。最大派閥はやることが大雑把である。 「……喉の声の力は確かなのだから、勿体無い物です」 何とか集団から抜けだしたリセリアが、彼らの身体をも踏み台に動きまわる。既に翼に幾度となく一撃を見舞った筈だが、その尽くを庇われている。攻撃した事実を作る、ということは間違いではないし、彼女自身はかなりフリーな状況を作れている以上、何とか踏みとどまっては、いる。 「……攻撃よりも……回復しか……出来ない。でも……だからこそ……エリスは……頑張る」 数の暴力が全員を襲う状況は、ともすれば数十秒で危機的状況に追い込まれるのは間違い無い。だが、エリスの言葉通り――多少の麻痺、混乱などが彼女を襲ったことを加味しても――最低限の被害で状況を維持することを可能としているのは、彼女の意地があってこそだったのだろう。 「金魚の糞が寄って来ないでもらえます?」 近付いて来たフィクサードの一人を足払いで転がし、次いで接近した一人を連続打撃によって一瞬で沈黙させ、ぐるぐが前進する。 密集しているだけに、彼らの攻撃がお互いを傷つけることも少なくはない。流れ弾がフレンドリー・ファイアになる事も当然のように起こっている状況下、フィクサード側もまともに動けているとは言いがたい。 立て板に水で次々と罵倒を散らすぐるぐの思考がどうなっているのかは少し……いや、全然わからないわけだが、彼女なりの全力であることは間違いない。 「あんなアイドルもう古いよ! そこのSHOGOさんとか私達トリオが最先端! 悪い事するより皆に感謝されておまけにアイドルから褒めてもらえる方がいいと思わない?」 「「「誰と誰と誰とがトリオだって?」」」 「……あ」 「あとほら、俺ら逆凪だし。長いものにまかれるのおいしいです」 「……ええー……も、もういいや吹き飛んじゃえ!」 双葉、ぐるぐと悠乃を指してトリオと言いたかったようだが、残念ながら悠乃は目を回して久しく、ぐるぐはそもそも性別不詳で、加えて言うなら三人は連携を取ることを想定していなかったわけで。 正直な話、ならその三人もSHOGOと同じように動けば目立ったんじゃないかとか、対抗するならうまいやり方あったんじゃないかとか、言ってみたいもので。 「行くぜ、『電撃バカ』! 息つく暇もやらねーよ!」 「「お前が息をつけると思うなぁァァァ!」」 ヘキサ、繰り返し接近しようとするが、フィクサードの数が多いことを想定せず馬鹿正直に突っ込んで、近接攻撃が出来るわけがなかった。 ブロックされる。庇われる。数で勝る側からすれば、それが近接攻撃を防ぐのに有効であることは容易に理解できる。だが、彼は本気であるがゆえに、視野が狭くなっていたのだろう。 ソニックエッジのために踏み込んでも、ブロックに入る相手を切り倒すだけ。ブロックの上から直接狙おうとするならどうすればいいか、など。興奮していなければ彼とて理解は出来た筈なのだ。 「つーかフレミングの法則が何か解ってんのか? 解ってるなら左手と右手、どっちが何の向きを示すのか言ってみやがれ!」 「なァに、聞きたい? 答えは……どっちも人差し指は『磁界の方向』よっ☆」 苦し紛れに叫んだヘキサに、翼は流暢に応じてみせる。『電撃バカ』を自ら名乗る以上、それくらいわかってるということだろうか。 ずがァん、と、ヘキサの左右から金属が叩きつけられる……直前、SHOGOの銃弾が軌道をそらす。 「フゥ。またオレの魅力が猛威振るっちゃったよ……」 「さっきから本当に邪魔ね、貴方……!」 チラッチラッと周囲に魅力アピールを繰り返すSHOGOだが、ある意味名うてのリベリスタ以上に翼を苛立たせているのは、何というか気合入ってるよなぁこの我道邁進ぶり。 余談ですが、磁界の方向は兎も角、推力は親指です。オーウェンさんとか親指に向ける視線の真剣さが半端ないです。 ……ところで。 ここまでリベリスタが範囲攻撃をあたりかまわずぶちかまして、フィクサードは減らないのかといえばなんていうか、相当数の減少は見せている。 数が減っている以上はリベリスタが押しきれるか、と思われたが――ダメ押しにと踏み込んだリベリスタ達の足元を、チェインライトニングが迸る。 「好き勝手やるじゃない、本当にもう! もう! せっかくのライブが台無しよ!」 (ライブだったのか……) そんな一部のリベリスタの呆れた心中はつゆ知らず、相当量の被害を被った状況の翼は涙目だ。ダメ押しにオーウェンとヘキサの足元に突き刺さった鉄板が、小さいながらも異常な威圧感を感じさせる。 「コアなアイドルファンはメジャーよりマイナーってお姉ちゃん言ってた! 売れて距離の遠くなった子より距離の近い地下アイドルとかに目が向くんでしょ?」 「いや……魔法少女はちょっとノーサンキューっていうか……」 「翼様は十分マイナーだし……」 双葉、身(と人生とプライド)を呈した必死の説得も、フィクサード達にはなんていうか通じない。残念すぎる。 「いーわよ! これ以上アークと喧嘩したって疲れるし面倒だし楽しくないのよ! ばーかばーか(検閲削除)!」 「これは……ひどい、罵倒……」 余りの口汚い言葉の暴力に、エリスは思わず口をついてそんなことを述べてしまう。 「逃さないですよ!」 彼女の号令下、水を引くようにフィクサードたちが撤退陣形を整える。倒れた面々を抱えられるものは抱え、或いは見捨てざるをえない相手を悔しげにみやりながら逃げる彼ら――むしろ翼の手首へ向けて、ぐるぐが最後の一射を叩きつける。甲高い音を立てた『ハンドリングコイラ』だが、しかし破壊するにはやや、足りない。 僅かにヒビが入り、破片が地面に落ちる。去り際、双葉に向けて向けられた翼の視線は何というか、対抗心ニ割哀れみ三割、困惑五割だったのは……。 「なんかやっちゃった気がする……」 ですよねー。 後ろのほうで未だ魅力アピールしてるSHOGOさん、二十八歳無職、兼リベリスタ。 皆さん、人生パニッシュしてますか? 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■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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