●恐怖、ハリネズミ怪人の少年少女誘拐作戦! 野山を奔る小さな足。 少年少女は息を切らせ、木々の間を走っていた。 露出した根につまづき転倒する少女。 「大丈夫か!」 「だいじょう……痛っ!」 「足をくじいてる、早く!」 別の少年に肩を貸され、よたよたと歩き出す少女。 しかし悔しいかな、『追手』はその隙を見逃すことなくぐるりと円状に囲んでしまった。 逃げ場を失って立ち竦む少年少女。 「な、なんだよこいつら……!」 非力な少年少女は身を寄せ合い、じりじりと円を狭めてくる謎の男達に怯えた。 謎の男達……。 そう、この表現で間違いない。 彼らは全身を覆う黒いボディスーツと、獣がデザインされた揃いのフルフェイスヘルメットを付けていた。 もはや言うまでもないだろう、彼らはフィクサード……ストーン教団の手下たちである! 「ククク、随分長く逃げ惑ったではないか。凡人の子供にしてはよくやったと誉めてやろう……」 途端、円の内側で土が盛り上がった。 ぼこんと膨らんだ2m程の土瘤を割り、一人の怪人が現れる。 怪人……。 そう、怪人だ。 まさにその表現が正しい。 「自己紹介が必要かな? 吾輩の名はマーモン。ストーン教の栄えある『怪人』が一人である!」 両腕を広げる男。 彼は針鼠のようなずんぐりむっくりとした鎧に身を包み、頭部はまさにハリネズミのそれであった。 ハリネズミ怪人・マーモン。 彼は重々しく右足を前に出すと、にちゃりと笑った。 「怯えることはなァい。我等ストーン教はお前達のような凡俗でも大事に使ってやるぞ。労働力兼人質としてなァ!」 「そっ、そうは……そうはさせるか!」 怯えるばかりの子供達……かと思いきや。たった一人だけ、足を踏み出した少年がいた。 何かのヒーローをかたどった人形を握りしめ、ポケットに入れる。 「誰かに危機が訪れたら、助けてあげる……約束したんだ、僕は、約束したんだ!」 ただの木の棒を振り上げ、少年はハリネズミ怪人へと飛び掛る! だが所詮は非力な少年。いかな勇気を振り絞ろうと、強い心を持っていようと、強力なフィクサードを前にしては全くの無力! 「フン、生意気な!」 ハリネズミ怪人は腹から突き出た大量の棘を晒して体当たりをかける。 少年に大量の棘が突き刺さり、悲鳴が上がる。 「う、うわあああああああああ!」 「ヒロくん!」 吹き上がる鮮血。 その場にゴミのように投げ捨てられる少年。 こうしてまた一つの命が失われた……。 だが……。 ●少年少女を守る為、誰かの夢を守る為。 アイワ・ナビ子(nBNE000228)はなんだかごつごつとしたベルトを腰に巻いていた。 「変身ッッ!」 腕をぐるんと回し、ベルトバックルのスイッチを押す。風車が回って発光。 ナビ子はそれを眺めてけらけらと笑った。 「やっはー、押し入れ片付けてたらこんなの出てきましてー。懐かしいなあ、近所の男の子が引越しするからあげるとか言ってプレゼントしてきて、私別にこういうの興味なかったから『なんだこのヘンテコベルトは』って押し入れにスローイングしたんですよ」 ある山中、遠足からはぐれた小学生児童5人がフィクサードにさらわれると言う事件が起きようとしていた。 それもフィクサード組織ストーン教団という、裏野部参加の非常に暴虐な組織である。 「でもね、他の友達が凄いベルトだからくれって言いだして。そんなこと言われたら逆に惜しくなっちゃうじゃないですか。だからコレは私んだって絶対手放さなかったんですよね。ンまあ押し入れの奥底にしまったまま在処すら忘れてたたけですけども」 彼等は戦闘力の低いビーストハーフ10名と、強力なネズミフィーストハーフ1名で構成されている。 特にハリネズミのような容姿をしたフィクサード『マーモン』は、体内にアーティファクトを埋め込まれると言う特殊な手術を受けており、自らの命と引き換えに怪獣へと変化する技を持っている。 それもなんと、全長3mの針鼠型怪獣である。 「でもね、あの時なんで手放さなかったのかって考えてみて、ちょっと分かったことあったんですよ。多分ですけど、当時の私ってこう思ったんじゃないかな……」 現場に割り込み、フィクサードを倒し、子供たちを救ってほしい! それができるのは、君だけだ! 「『誰かの気持ち』は、無駄にしたくないなって」 ●HEROの条件 結論を言う。 全身を棘で突き刺された少年は死ななかった。 一般人がこんなことをされて生きている筈はない。 そうだ。 少年は……。 「あ……れ……生きてる……?」 「ほう。貴様、リベリスタに革醒していたのか。丁度いい、教団に持って帰ればいい手土産になる。だがフィクサードだったらもっと良かったなァ。なぜなら……」 目を青白く光らせるハリネズミ怪人。 「強くなれば、この吾輩のように『怪人』になれたのだからなあ!」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:八重紅友禅 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年08月03日(金)22:19 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●HEROの条件 ある日、ある街のある森の中で、一つの英雄譚が終わろうとしていた。 産まれたばかりの雛鳥を啄むように、無慈悲で無情な、どこにでもある悲劇である。 「う……」 「哀れだな、脆弱な人間よ。死によって我が足跡となるがいい」 ハリネズミ怪人・マーモンが鋭利な鉤爪手甲を腕に嵌め、一歩ずつ近寄って行く。 絶望の足音にして、死のカウントダウンだった。 だが、少年は。 「そこまでだ」 森のどこかから、そんな声が聞こえた。 「誰だ!」 マーモンと部下達が顔を上げる。 それと、天空より『正義の味方を目指す者』祭雅・疾風(BNE001656)が飛来したのは全く同じタイミングだった。 「変身――!」 戦闘員たちの中心へと勢いよく飛び込むと、疾風は閃光と共にブルーのスーツへと転身した。 片膝と拳を地面につけた態勢からゆっくりと立ち上がる疾風。 彼の左右には、マーモンをびしりと指差した『暗黒魔法少女ブラック☆レイン』神埼・礼子(BNE003458)とマントを颯爽と翻した『スーパーサトミ』御剣・カーラ・慧美(BNE001056)がいつの間にか立っていた。 「暗黒魔法少女ブラック☆レイン参上!」 「同じくスーパーサトミ参上!」 「また現れたなストーン教団! 子供達の平和は、ボク達が護る!」 鼠そのものという顔をしたマーモンは、哺乳類独特の目をキュウと細めた。 「知っているぞ、近々名前の売れ始めたヒーロー、ブラックレインにスーパーサトミ、そして……祭雅疾風!」 「うおっ、知っとるのか……!?」 「そうそう広い業界ではない。ここで邪魔をすると言うことは、死にに来たと見ていいのだな?」 ニヤリと笑うマーモン。 ヒロ少年が不安げに首をめぐらす。 疾風はそっと手を翳し、ヒロを後ろへ下がらせた。 「よく頑張ったね。誰かのために立ち上がると言うのは大事なことだ。だけど、勇気と無謀は違う」 「でもっ……!」 「まーまーここは先輩たちに任せときなさいってェ」 いつの間にやら紛れていた『フォートプリンセス』セルマ・アルメイア(BNE003886)がヒロや子供達を戦闘員から遮るように立ち塞がった。 「くっそういいな変身。セルマちゃんも戦闘形態とかになれないかなァ!? UCみたいにさ!」 「貴様等……!」 「はい待った、あんたらの相手はこっちだ」 戦闘員たちが襲い掛かろうとすると、『バトルアジテーター』朱鴉・詩人(BNE003814)たちが手を翳して間へ割り込む。 「ヘイ少年、ヒーローに大事なことはカッコつけることだ。さっきの心意気、ちょーカッコよかったぜ」 「まっ、私なんかは真逆なカンジだけどね」 デスサイズを首の後ろで抱え、『偽悪守護者』雪城 紗夜(BNE001622)が悠々が身構える。 「強いて言うならダークヒーローってやつかな。そっち方面には興味あるかい、少年?」 「私は、どっちでもないけど。ヒーローってガラじゃ、ないし」 爪先で地面を叩く『無軌道の戦鬼(ゼログラヴィティ』星川・天乃(BNE000016)。 「楽しく闘争する、だけ」 「フンッ、余裕ぶっていられるのも今の内だぞ」 完全に戦闘態勢という彼等の様子に、マーモンは鼻息を荒くした。 「ひぃふぅみぃ……七人か。この程度マーモン様の相手には」 「待てぇーい!」 このタイミングを待っていたとばかりに『疾風怒濤フルメタルセイヴァー』鋼・剛毅(BNE003594)がカスタムバイクで割り込んできた。 「うむ、一度言ってみたかったこのセリフ!」 剛毅は小さくガッツポーズをとると、堂々とバイクから降り立って見せた。 「リベリスタに覚醒した少年。子供達を狙う怪人。なら助けねばなるまい」 「小癪な……やれぃ!」 腕を掲げるマーモン。 一斉に飛び掛る戦闘員たち。 ヘルメットの奥で目を光らせ、鞘から剣を抜き放つ剛毅……いや。 「疾風怒濤フルメタルセイヴァー、参る!!」 ●誰かの為に強くなれ 戦闘員の空中回し蹴りが外れ、その足と頭を階段のように駆けあがる少女の姿があった。それが天乃である。 「さあ、踊って……くれる?」 お決まりのセリフを吐いて木の枝に上下反転したまま面接着。気糸を戦闘員の首に括り付け、枝から飛び降りると戦闘員の首を滑車の要領で吊り上げた。 足をばたつかせる戦闘員。 気糸から手を離した天乃を襲ったのは両サイドからのローキックだった。 四つん這い姿勢でギリギリまで低くした身体の上を相手の足が掠る。その時には既に気糸が放たれ、片側の戦闘員の足首は真上の木の枝から吊り上げられた。 「何ッ!?」 驚きに顔を上げた戦闘員の顎をピン、と人差し指で弾く天乃。その途端謎の爆発が起こり戦闘員は仰向けにぶっ倒れた。 「くう、強い! 流石はアークか……!」 「ほら、よそ見してちゃダメだよ」 逆さづりになった戦闘員の首に紗夜のデスサイズが引っかけられた。まるで農作物を狩るように撫で切りにする紗夜。 「お前は……」 「キミらの野望を叩いて砕いて押し潰す。世界を護る悪魔だよ」 「悪魔が正義の味方だと? 冗談も大概にしろ」 別の戦闘員が繰り出すナイフをデスサイズの柄をくるくると回すことで弾く紗夜。足取りにも身こなしにも焦りは無い。晴の日に傘を持って歩くような、優雅でどこか気取った様子で戦闘員の相手をしていた。 「悪魔が世界平和を謳っちゃおかしいかい? そんなの、誰が決めたのさ」 相手の腰にデスサイズの刃を回すと、社交ダンスで男性が女性をリードする時のように優しく、しかし強引に背中を引き裂く。 目の周りと額を覆う仮面を、中指で軽く押す。 「こう見えても昔はね、セイギノミカタもいいかなって思ってたんだよ」 ハリネズミ怪人マーモンと戦闘を開始したリベリスタ達。彼等が何より優先したのは子供達の安全確保だった。 誘拐目的とは言えマーモンたちが子供に手を出すとも限らない。流れ弾の危険は勿論のこと、人質にされる可能性だってある。 子供達を後ろに下げ、自らが壁となるため、彼らは戦闘員へと直接ぶつかって行ったのである。 「これがヒーローの戦い方です、少年! 良い子の皆に悪さして、天が許してもこのスーパーサトミが許しません!」 戦闘員が繰り出したボディーブローを両手で受け止め、サトミはお腹にぐっと力を入れた。 「戦闘員ごときにこのスーパーサトミが倒せるとお思いですか!」 片手は相手の拳を抑えたまま、大きく振りかぶってパンチを繰り出すサトミ。 「スーパーサトミぱぁんち! からのっ――」 相手がのけ反った瞬間、両肩に手を置いて軽くジャンプ。そのまま顔面を両足でスタンピングするように蹴り飛ばした。 「スーパーサトミきーっく!」 「ぐおっ!?」 ごろごろ転がり、後ろの戦闘員たちにぶつかる。 その隙に疾風は独特な形状をしたブルパップカービン銃を両手で構えると、人間工学に基づいて配置されたモード切替レバーを操作。 「アギト・気弾モード――伏せろサトミ!」 腰を大きく捻り、横凪に電撃を帯びた気弾を連射。近距離のみではあったが、彼らに群がった戦闘員を薙ぎ払うには丁度良い。 「ほう、なかなかやりおる。だがこれは避けられまい!」 マーモンは爪をガシガシと打合せると、身体を丸めるようにして体当たりを仕掛けてくる。 思わず弾き飛ばされ、地面を転がるサトミと疾風。 「大丈夫か二人とも!」 「ここは任せて!」 入れ替わるようにブラックレインとブルメタルセイヴァーが前へ出る。 二人は武器をアシンメトリーに構えると、同時に暗黒の瘴気が発生、津波のようにマーモンもろとも戦闘員を押し流した。 「ブラック☆スター!」 「セイヴァーダークネスバースト!」 激しくぶつかり合うリベリスタとフィクサード。 その様子を、ヒロ少年は悔しげに見つめていた。 衝動的に飛び出そうとする彼を、詩人が肩を押さえて押しとどめる。 何故止めるのかと睨んでくるヒロに、詩人は前を見たまま語りかけた。 「『敵を倒す』っていうのは、君が思ってるよりずっと楽なことですよ。前だけを見ていればいい。『死んでもいいから相手を殺してやる』って思えばいい」 「それの何がいけないんだ? 皆を守るために戦うんだからそれくらい……」 「いいえ」 小さく首を振る詩人。 「『誰かを守る』のは難しいんです。君の体一つで、友達全員に飛んで来る棘やナイフを払い落とせますか? 君の近所に住む人達や、家族や、仲間や、色んな人達全部を同時に守れますか? そんなのは不可能だ」 「でも、それでもっ……!」 「『それでも守りたいから頑張る』だろ? ヒーローっていうのは、敵をやっつけるからヒーローなんじゃあない。万難排す盾ってのも、サイッコーに格好良いんだぜ?」 「ばん……な、なんだって?」 「ちょっと難し過ぎたか。気合入れて友達護れってことだ」 白衣の裾をぱたぱたとはたくと、詩人は懐からメスを抜いた。 「その手伝いは、してやんよ」 「おうともさ、大船に乗ったつもりでドーンとだな」 セルマが子供達を小脇に抱えたまま安全な場所まで下がって行く。背丈がほぼ同じなので非常に奇妙な図ではあるが。 「……」 子供達が不安げに彼女を見る。 「お、どうした。セルマちゃんが連中に負けそうなボディに見えるか?」 コンコンと自らの胸を叩いて見せるセルマ。 球体関節に水色の髪。さらに銀色の目。明らかに人間ではないが、子供達からすればどこか親しみのある温かさがあった。 「もっと言うと、セルマちゃんが危害を加える系の幼女に見えるか!?」 「幼女言うな。まあそいつの言う通りさ。私らは強くて、頼りになる奴等だ。こういう時は、ちゃんと頼っていいんだぜ?」 肩越しに振り返ってウィンクする詩人。 肩ををぐるぐると回して『おっしゃーやるぞー』と勝鬨をあげるセルマ。 子供達はそんな背中に、ヒーローを見た。 ●ハリネズミ怪人・マーモン! アーク・リベリスタたちの猛攻はマーモン達が押し潰せるようなものではなかった。10人近く用意した戦闘員は次々と蹴散らされ、マーモンにトドメが刺さるまでそう時間はかからなかった。 トゲだらけの鎧は無残に砕け、身体からはとめどなく血が溢れていた。 「ばかな……『怪人』に選ばれたこの吾輩が、こんなにも簡単に……」 「正義は勝つのだ。どんな時でもな!」 マーモンの鎧を剣で貫き、フルメタルセイヴァーはクールにキメた。 ちらりと肩越しに振り返る。 「子供達よ、見たかこの勇姿……って居ない!?」 「あの子らは安全圏まで逃がした。こっからはマジで危ないからな」 手伝うぜ、と言って横に並ぶセルマと詩人。 マーモンは首を振り、頭を抑える。 「認めん! 認められん! こうなれば、こうなれば、我が黄泉路の道連れとなれ――ヒーローたちよ!」 バキン、と鎧が内側からはじけ飛ぶ。 代わりに青白い燐光が彼を包み込み、奇妙な外殻へと変質していく。 そう、ストーン教団の秘蔵する禁断の技術。怪人化である。 「第弐ラウンド。まだまだ、つきあってもらう」 天乃が樹幹を蹴って飛び掛る。 だが次の瞬間仲間たちが見たのは、天乃がマーモンを締め上げる光景ではなかった。 「ぁぅ……!」 巨大な鉄の棘が撃ち出され、天乃の腹を貫通。樹幹へ標本のように磔にした光景であった。 「星川!」 四方から囲んで一斉に飛び掛る紗夜たち。 鋭く繰り出された紗夜のデスサイズが、フルメタルセイヴァーの剣が、ブラックレインの鎌が、疾風のモーニングスターが、マーモンの特殊装甲に悉く弾かれる。 それどころではない。全身から生えた棘が彼等を貫き、防ぎようのないダメージを叩き返してくるのだ。 「だめだ、固すぎる!」 「なら叩き壊せば……!」 同時に突撃し、パンチを繰り出すサトミとセルマ。しかしインパクトの直前に巨大棘が撃ち出され、彼女達の胸を貫通。拳が届く間もなく撃退されてしまった。 「痛ァ!? くっそなんだコレ、巨大ウニ饅頭みたいな恰好してるクセに!」 「マズいですね……」 詩人が白衣をなびかせつつ呻いた。 「怪獣マーモンの装甲は鉄壁。攻撃すればするほどこちらが痛手を負うので、彼はただ防御しているだけでいい。防御に転じようとしたら棘ガトリングを撃ってくる。策も無く突っ込むのは危険かもしれないな……」 「危険ン? 違うな、貴様等は絶望するべきなのだ」 ずんぐりむっくりした怪獣マーモンは顔を覗かせて言った。 「もはや今の私に敵は無い。貴様等は死ぬのだ、今からな!」 身体をボール状に丸め、ローリングアタックを仕掛けてくるマーモン。 味方は満身創痍。 敵は無敵の特殊装甲。 本来なら回れ右をして逃げるべき時、彼らのとった行動は、こうだった。 「スーパーサトミ・パワージャスティス・スマッシュ(SPS)!」 巨大な鈍器をゴルフクラブのように振りかぶり、サトミはマーモンへと叩きつけた。 無論マーモンの棘はサトミに突き刺さり、体の各所を貫いた。 鮮血が吹き上がり、命の折れる音がした。 だがしかし、その一瞬だけはマーモンの動きが止まった。 「負けない、子供たちの……ためにもぉ!」 本来なら身体が引きちぎれる所を、サトミはフェイトの力で無理矢理維持。そうして抉じ開けられた一瞬の隙を、天乃が的確についたのだった。 「こっちだって、まだやれる。もっと、やろう?」 大量に出現させた気糸をマーモンに巻きつける。 動きは封じられるが、せいぜい数秒が限度だろう。 数秒。 それだけあれば、充分だ。 「行くよ」 紗夜は身体に紫電を纏うと、デスサイズを無理矢理マーモンへと叩きつけた。近づく分だけ棘が身体に突き刺さるが、紗夜はその痛みを無視する。 いや、紗夜だけではない。 「そこで見て居ろ少年、先輩の……セルマちゃんの底力を見せてやる!」 セルマは助走をつけてほっぷすてっぷ、両足で踏み込んでジャンプ。そのまま足を揃えてドロップキックを叩き込んだ。 「セルマちゃんミサイルゥゥゥゥうわ痛ぁぁぁぁぁぁぁ!? いや嘘痛くない、大丈夫ぅ!」 「こんな棘怪獣に体当たりかますヤツがあるか!」 「せめてもっとカッコよくキメましょうよ」 詩人は両手の指の間に無数のメスを握ると、マーモン目がけて連続で投擲。棘の間を縫ってメスが装甲にヒビを作った。 「フィナーレです、トドメを!」 「了解!」 疾風が武器をモーニングスター形態に変形。大きく遠心力を付けてマーモンへと叩きつけた。 「ぐお、何だ!?」 特殊装甲にべきりと穴が開き、マーモンの顔が覗く。 素早く武器を構えるフルメタルセイヴァーとブラックレイン。 「今だ、同志レインよ、打ち合わせ通り頼むぜ!」 「え、してたっけ? ま、まあいいや、合体技だよ!」 同時にジャンプ。 空中でアシンメトリーに身体を捻り。 「「魂を砕く死の十字架(ソウル・クラッシャー・クロス)!!」」 ソウルバーンと奪命剣が十字に炸裂。 マーモンの顔面を上下左右に分割した。 「ばっ、ばかなぁ……!」 最後に彼らが見たのは、驚きに目を開くマーモンの顔と、爆発四散する特殊装甲体であった。 ●小さなヒーロー 満身創痍のリベリスタ達へ、少年は近づいていく。 寝そべる者。土を払って立ち去る者。様々ではあったが、彼らは皆無事だった。 「ありがとう、こっちの皆は……無事だった」 「そっか」 ブラックレイン……いや、礼子は変身を解除して樹幹によりかかっていた。 「人間には大きい力に目覚めても、キミはまだ未熟。ソレは、使い方を間違えれば大悪党にだってなれる力だよ」 「……」 「その力の使い方を勉強する場所がある。ボク達の所へ、来るかい?」 軽く差し出された手を、ヒロ少年はじっと見つめた。 そして、小さく首を振る。 「ごめん、俺は……」 「無理強いはしないさ。でもその心、自分の正しさを忘れないようにね」 ヒロの頭をぽんぽんと叩いて、紗夜が通り過ぎていく。 礼子は苦笑いをして、空になった手を振った。 「……うん」 ヒロが強く頷いたから、それでいいと思った。 ●『ヒーローチャンネル』 古いパソコンディスプレイに、ノイズ混じりの映像が映っていた。 巨大なハリネズミ怪獣と化した化物を相手に八人のヒーローが挑みかかり、大怪我を負いながらも撃ち倒すという映像である。 映像と一緒に女性リポーターらしき声が流れてくる。 『ご覧いただけましたか? 現代のヒーローの戦いを。彼らは以前千葉県上空に現れた謎のヒーロー達と関係があるのでしょうか。我々ヒーローチャンネルは、この謎を徹底的に追いかけたいと思いまァすっ!』 激しくなるノイズ。 『次回放送日は未定! 文句言わずに画面にかじりついてろよヒーローマニアども! シーユーネクスッ!』 プツン、と映像は消えた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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