●毛玉 それは毛玉であった。 ふわふわもこもこ。 もっふもふ。 そんな表現が適切と思えるような透き通るような白さの毛玉。 きっと触れば、柔らかくも弾力のある感触に我を忘れるに違いない。 誰もがそう思ってしまいかねないような魔力を秘めた塊であった。 どこからか現れた毛玉はくりっとした瞳を潤ませ、道行く人達に愛想を振りまいている。 最初、人々はそれを何かの催しだと思っていた。当然だ。ただの毛玉が動くはずもない。逆にきぐるみか何かであれば、どんな形状のものが動いていても不思議ではないのだから。 ●好きと嫌いのハザマのふわもこ 「貴方はふわもこは好き?」 集まったリベリスタ達に真白イヴは無表情のままで問いかけた。 「好きなら興味を引かれるかもしれないけど、できれば嫌いなほうが苦労はしないかも……」 そう言ってから語り始めた今回の事件のエリューションはふわもこ。 外見は毛玉。白くてふわふわで思わず抱きつかずに入られない外見と……その魅力を増幅するのかその視線には『魅了』の……周りの人が思わず抱きつきたくなるような特殊能力を有しているらしい。 「直接的な攻撃能力はほとんどないみたいだけど、エリューションを放っておくと周囲に新たな革醒を促すから……」 個体としては放置しても害はないかもしれないが、新たに覚醒するエリューションが無害であるとも限らない以上、放置するわけにはいかない。ちなみにその現象を『増殖性革醒現象』と呼んだりする。 「だから、一般の人達を巻き込まないように気をつけて、きっちりトドメをさしてほしいの」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:草根胡丹 | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年06月05日(日)23:33 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●ふわもこ見物中 「飛魚、人魚に続いて未知の味が現れた!」 現場に辿り着いたホワン・リン(BNE001978)は声高らかに言い放った。 「ふわもこは――大好きなのじゃ」 遠くを……遥か昔の記憶を思い出すように空を見上げた後、宵咲 瑠琵(BNE000129)は対象を見据える。その視線の先にいたのはふわもこな物体。白い毛並みは陽光を反射し眩しく……しかし、透明感を損なうことなく輝いていた。 「ふわふわもこもこ……真っ白でくりっとした瞳ですか……」 そして、その瞳もまた水晶の様に透き通っており、美しい。その目を見たクライア・エクルース(BNE002407)は吸い込まれてしまいそうな印象を受けていた。 「ふわもこかぁ。いいよねぇ」 「毛玉。ふわふわもこもこ、か。手触りが良さそうではあります」 それに惹かれる気持ちは龍音寺・陽子(BNE001870)や阿野 弐升(BNE001158)にも理解できる、が……。 「ふわもこ……見た目はどうあれエリューションなのですから排除しなければ」 レイチェル・ガーネット(BNE002439)の言うように外見はどうあれ、エリューションである以上は排除すべき対象である。このまま成長しても無害であるとは限らないし、実際に間接的には有害となると判断を下されたからこそ、真白イヴ(nBNE000001)も呼びかけたのだろうから。 「エリューション化する前も、きっと罪も無く真っ白な存在であったことでしょう」 クライアの脳裏に描かれるのは大草原にぽつんと佇む純白の小さなおうちで無邪気に駆け回る白い毛玉の姿。この毛玉がどこから来たものなのか知らないので、もちろん妄想である。 しかし、そんな印象を見るものに与え、守ってあげたいと思わせる何かが目の前の毛玉にはあった。敵意を削ぎ落とし、庇護を得ることを自らの武器とするのがこのエリューションの特徴。事前に話を聞いていなければ、その影響を受け、気付かぬうちに魅了……という名の洗脳を受けていたかもしれない。 そんなもふもふな存在ではあるが、道行く人達の視線は今はそれ以外に対しても注がれていた。 「もる?」 「もるもる♪」 周囲の視線を感じ取り、桜月 零音(BNE000244)は小首を傾げ、その隣ではアゼル ランカード(BNE001806)が楽しそうにもるもると意味不明な会話に勤しんでいる。 二人の姿はどこか目の前のふわもこと似ていた。 「……無性に毟りたい」 弐升の危険な発言はともかく、その外見を見たものが抱く印象はわふわふな標的に抱く感情と大差ない。ほとんど同じと言っても過言ではないだろう。 「ふっわふわのもっこもなのじゃー♪」 現に瑠琵は自重することなく二人の間でもっふもふと堪能していた。件のふわもこに対してそれをしていないのは自重してのことではなく、単に通行人が邪魔で実行できないからに他ならない。 そう、最初の問題は一般の人達を如何にして遠ざけるか、なのであった。 ●ふわもこ誘導術 「増殖性革醒現象を防ぐ為には仕方ないとはいえ、罪の無いものを屠る……忌まわしい過去が蘇る心持ちです」 クライアは沈痛な面持ちでこれからなすべきことへ向けて、最後の心の整理をする。 「正直、ふわもこエリューションを倒すのは気が引けるけど、このままじゃエリューションが増えちゃう。それだけは絶対に防がないと!」 明らかにアイドルか何かのように人気を集めつつある毛玉に『戦うアイドル』陽子は色んな意味で戦う決意を強めていた。 「もっふもふ出来ないならば選ぶ道はただ一つ!」 瑠琵は『強結界』を生み出し、一般人の意識を逸らすが、半ば魅了された人達の大半がそこからは動こうとはしない。それほど興味を持ってなかった者や人垣に阻まれて、ふわもこを見ることが出来ていなかった者達は立ち去ったが、このまま戦闘を開始すれば巻き込みかねない状況は変わっていない。 「もるもるー」 そこにモルぐるみを着たアゼルが待ち合わせに遅れたかのような動きでもこもこと接近する。 モルぐるみの構造が合わなかったのか、転んだアゼルに視線が集中すると、人垣が崩れた。 その隙間から顔を出した毛玉がモルぐるみ達に向けて……。 「きゅ~……」 と鳴いた。 「もるもるー」 「もるもる☆」 なんとなく意思の疎通が図れているような、そうでないような微妙な空気が周囲を支配する。そんな愛くるしい生き物達のやり取りに見物していた人達はハートブレイクされて動きを止めた。 「こんな所に居たんですね、探しましたよ」 ファンシーな衣装に身を包んだレイチェルが耳と尻尾をあえて出したままで毛玉のほうへと駆け寄る。 「ああ、なんてことなの。三人は互いに深い友情で結ばれているのにこんなことって……」 そこに視線が集まったことを確認した上で陽子はアドリブで演技を始めた。その衣装はどこか毛玉と同じようなふわふわひらひらなデザインで、隣に並んでいたとしても違和感はない。説明的で思わせぶりなセリフの効果もあって、これが何かの撮影だと思った人達の何人かは邪魔をしないようにと距離を取った後に結界の影響を受けてそのままどこかに消えていく。 「もるもる……」 「もるもる♪」 周囲の人達が撮影なら近付かないで見守ろうという雰囲気になったお陰でモルぐるみを着た零音が近付くことくらいは出来る状況にはなった。もるもるに『では、行きましょうか』という意味を込めて語りかけながら、いつの間にか反対側に回り込んだアゼルと共に毛玉の手っぽい部分を掴んでとことこもふもふと歩き出す。 害意を感じなかったからか、素直に従うふわもこの移動に伴って、興味の薄かった者達はその周囲から姿を消したが、それでも好奇心旺盛な者が何名かはぞろぞろと後ろを着いて歩く。 「すいません、今は余裕ないのでまた今度お願いします」 レイチェルがそう告げると数は減ったが、毛玉の魔力はそうそう断ち切れるものではなかったようだ。 「野次馬してられるほど、暇なのかぇ? 急がねばタイムセールに遅れるのじゃ。待ち合わせをしていたのではないのかぇ? 塾は如何したのじゃ。サボるのかぇ?」 しぶとく追従する者達に声をかけ、ふわもこを独占するという強い意志で瑠琵は次々に本来やろうとしていたことを思い出させることで意識を逸らす。それによってふわもこへの注意が逸れたことで結界の影響を受け、あるべき生活へと戻って行った。 そして、目の前に公園が見え始める。クライアの立てた看板が立ち入り禁止を告げていたことや撮影機材が設置されているのに気付いて、残されていた者達もしぶしぶといった様子で立ち去る。 「誰もが時間に追われ続けるこの御時世。暇を持て余す者は――居るか、居るのぅ」 それでもまだしぶとくふわもこを追従し続けていた一人の男に向かって、瑠琵は哀れみすら秘めた視線を向けながら優しくその過多に手を置く。 「……次の就職先を探しに行くが良い」 何故か泣きながらどこかに走っていった男を勝利の笑みを浮かべながら瑠琵は見送った。 ●ふわもこ争奪戦?! 邪魔者がいなくなってすぐ瑠琵は一目散に走り出した。 目標は言うまでもない。排除すべき対象の毛玉。 「此処まで我慢した自分への御褒美なのじゃッ!!」 我慢の限界はかなり前に通り過ぎていたのだろう。 「ふわもこ喰う!」 ホワンも狩猟民族として負けていられないとばかりに飛び掛り、二人はもふもふな身体に埋もれながら、そのまま齧り付いた。 「お主は結構美味いのぅ。じゃ、もう一口♪」 そしてそのまま、幸せそうにその味を堪能する。味はとっても甘くてスイート。 「触った感じはふわふわでビーズクッションみたいにモフッとした感じでしょうか?」 「肉が無くて毛だけだったら、そもそも食べられませんが……」 「否、これは……綿菓子そのものじゃのぅ」 撮影機材を用意して待ち伏せていた弐升の問いに、ホワンは期待と違っていたことに戸惑いを見せながら、瑠琵はきっぱりと応える。どうやらこの毛玉は砂糖のE・ゴーレムだったらしい。透明な瞳は砂糖の結晶。身体の大半は綿菓子のようだ。 とりあえず撮影を始める弐升のデジカメを気にも留めず、瑠琵はもっふもふと堪能を続けている。ホワンも先ほどから食べているようだが、量は減っているように見えない。毛玉は僅かに萎縮したように見える瞳をデジカメに向けてキラキラと訴えかける。 「そんなうるっとした瞳で見ないでくださいよ。思わず毟りたくなります」 そんなものには負けず、やはり何か怖いことを言いながら弐升はじっとその瞳を見つめ……。 「こんなふわもこを毟るなんてとんでもない」 唐突に真顔でそう言い放った。どうやら完全に魅了されてしまったらしい。 「困りましたね……叩けば直るでしょうか」 「もるもる、もーるーもるー」 溜息混じりに呟くレイチェルの横で零音はマスコットキャラクターは二体もいらないのです。という意志を込め、モルぐるみの指というか手を突きつけ……真似をしてか、同様に手を突きつけた毛玉と触れあい、友情が生まれる。 「もるもるもるもる」 そして、そう叫びながら抱き合った。登頂に成功していた瑠琵は合わさることで偶然生じたふわもこ技に悦楽の境地へと誘われる。 「ふわもこですー、ふわもこふわもこふわもこふわもこ……」 アゼルはモル語で話すことも忘れ、一心不乱にふわもこなボディでふわもこな毛玉に埋もれていく。ふわもこトライアングルアタックを喰らった瑠琵の意識は天に召される寸前であった。 ●ふわもこの果てに 「理不尽だよね。でもボク達はエリューションによる被害を出すわけにはいかないんだ。だから倒すね。その罪を背負って……」 幾度となくもふった後に陽子は謎の靴跡を顔面に残したままで真面目に呟く。 「……でも、その前に少しもふもふするくらい、別に構いませんよね?」 そう言ったレイチェルの顔面に蹴りが突き刺さった。 「イヤじゃ! わらわのじゃ! 誰にも渡さぬ!」 瑠琵はがっしりと頭頂部で牙を剥いて威嚇する。同様に魅了されたと思われる者達を足蹴にして正気に戻しながら、決して近付けはしない。果たして魅了されてるのが独占欲に従って行動しているのか、傍目にはまったく分からない。 「……残念、なんて思っていませんから」 正気に戻されたレイチェルは戦う意志を固める。 「見た目の可愛らしさ? 眼中にありません」 そう告げるホワンにモルぐるみの二人が選り分けられた。食べるのに邪魔だったのだろう。 何度も何度も魅了されては蹴りで正気に戻される不毛な戦い……いや、毛塗れの戦いは長時間に及び……。 「きゅ~…………」 どこから出しているのかすでに分からない声を上げ、砂糖のエリューションは地面に転がった。 「ああ、私のふわもこが……」 数多の攻撃を受けた結果、毛を失い、目玉……というか飴玉だけになって転がる元毛玉を前にアゼルはさめざめと泣いた。 「ふわもこ君。倒しちゃってごめんね」 陽子は謝罪しながら、転がっていく飴玉の行方を見守る。 「もーるもーる。もるるもるるもるもる」 強敵に贈る追悼の言葉をモル語で語り、零音も心で泣いた。 最後に残された透き通った砂糖の塊を頬張って、瑠琵は口の中で丁重に弔い……。 「恐ろしい、相手でした……」 モルぐるみの頭をはずし、零音は空に浮かぶ雲の形に毛玉の面影を探しながら溢れ出る涙を押し込めていた。 「でも第二・第三のふわもこは現れるとあたいは信じてる! てか現れないとあたいぐれちゃう!」 そう叫んで駆け出したアゼルをレイチェルは追いかける。その理由は決して仲間を思いやったからなどではなく……。 「……微妙にもふり足りません」 モルぐるみを着たアゼルをもふるためであった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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