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血の花嫁

●夜の帝王
 満月が館を照らす。
 館のエントランスを照らすのは月光と蝋燭の炎。かつては社交場として50人は収容できたそのエントランスの中央に立つのは、一人の少女。
 純白のヴェール。純白のドレス。そして蒼白な顔。
 何がなんだかわからなかった。学校で遅くなり、つい近道で人気のないところを通ったら、急に意識が遠のき……気がつけばこんな場所でこんな服装を着ていた。あまりの非常識さに、頭の処理が追いつかない。ここは何処? なんで私はここにいるの? 怖い、誰か助けて。
 何より恐ろしいのは、体が動かないこと。力を込めても指一本動かない。何かが自分の身体を拘束しているわけでもないのに、自分の身体が何一つ自分の思い通りにならないのだ。それでいて意識は鮮明。夢の中と思うには現実感が強すぎる。
 精神が恐怖で押しつぶされそうになったとき、女性の視界に一人の男が入ってきた。黒い燕尾服に黒いマント。白い肌に赤い瞳。そう、あれは、マンガで見たあの怪物に似ている。
「美しい」
 その男は女性の顔を撫でる。身体がまるで動かせなくても、五感は鮮明だ。頬をなでる男の手が冷たい。嫌悪と恐怖が心の中で渦巻く。
「恐怖におびえる顔もまた、美しい」
 喋る男の口にみえる鋭い八重歯。違う、八重歯なんてかわいいものじゃない。あれは、獲物に暗いつく牙だ。まって? 獲物って誰? 私? なんで? どうして?
 逃げようにも男の瞳を見ただけで身体が動かなくなる。いやだ、逃げなきゃ、でもそれもできない。牙が私の首筋に近づく。だめだよ、牙が、痛そうだよ。痛いからやめて。
 痛覚は一瞬。そして脱力感。自分の中の、何かが吸われていく感覚。
 吸血鬼。血を吸う化物。このまま血を据われて死んでいくんだ……。
 しかし予想に反してその男は首筋から牙を離す。
 助かったの……? そう思い安堵する少女の希望は、別の痛みにより消え去った。
 ばさばさと耳に響く羽音。そして何者かが耳に噛みついた感覚。むずがゆさと痛みが襲い掛かり、そしてゆっくりと血を吸われていく。
 その感覚から解放されれば正面の男が今度は少女の胸を掴みそこに噛み付く。そして背後のものが肩を。
 腕を、背中を、腹部を、脇を、臀部を、脚を。何度も何度も噛み付かれ、そのたびに何かが吸われていく。痛みの数は少しずつ増えてきて、気がつけば6箇所同時に痛みが走ることもあった。
 涙を流すこともできず、悲鳴を上げることも叶わず、気を失うことさえも許されない。ただ痛みと恐怖に支配され、生への執着が削られていく。
「ああ、美しいよ。その絶望に満ちた顔が最高に美しい!」
 最後、最初血を吸った男が少女の唇を塞ぎ、そこから血を吸う。
「赤いドレスがお似合いだよ。クックック。ハーッハッハ!」
 純白のドレスは赤く染まり、少女は立ったまま失血死していた。

●万華鏡
「レトロなホラーだね、これは。ブラッディドレスなんて趣味が悪いにも程がある」
『万華鏡』が映し出した映像に『駆ける黒猫』将門伸暁(nBNE000006)は唾棄するように肩をすくめた。
「山奥の洋館に隠れ住んでいる吸血鬼の退治だ。視線で女性を魅了して、恐怖に覚える女性の血を吸うモンスター……という役に酔いしれるフィクサードだ。称号は『美しき吸血貴族』。本名は鈴木弥太郎。
 種族としてはアークのヴァンパイアと同じ。爪で君達の身体に傷をつけ、それを舐めて回復する。爪は鋭いから、出血には気をつけてくれ。
 あと彼は蝙蝠のエリューション・ビーストを使役している。同じく血を吸ってくるね。数は6匹。フェイズは1」
 大した能力はないけど数が多いから気をつけてくれ、と伸暁は付け加える。
「魅了の魔眼はエリューション能力を持たない人には効果がないから安心してくれ。つまり彼は自分より弱い相手としか戦ったことがない。もっとも、それなりには強いので気を抜かないようにしてくれ。
 役者不足のヴァンパイアにはとっとと退場してもらう。みんな、頼んだよ」


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:どくどく  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2011年06月04日(土)21:23
 どくどくです。
 血の宴をお送りします。出血大サービスだひゃっはー!

◆敵情報
『美しき吸血貴族』鈴木弥太郎
 20歳。男性。ヴァンパイア×ナイトクリーク。
 ヴァンパイアとして覚醒し、その能力を駆使して女性を誘拐するフィクサードです。良心や常識はもはや持ち合わせていません。
 自らを美しいと称するナルシストで、称号で呼ばれることを望みます。名前で呼ばれても反応しません。
 小物ですが、実力は相応です。
<使用スキル>
吸血:物近単 HPとEPを回復します。出血付与。
ダンシングリッパー:物近範 爪で周りの人を切り裂きます。出血付与。
シャドウサーヴァント:神自 影が伸び、戦闘を援護。

 エリューション・ビースト
 蝙蝠のエリューション・ビーストです。
 数は6体。フェイズは1。知性なく、まっすぐに獲物に向かっていきます。
<使用スキル>
吸血:物近単 HPとEPを回復します。出血付与。

 皆様のプレイングをお待ちしています。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
ホーリーメイガス
ナハト・オルクス(BNE000031)
デュランダル
宮部乃宮 朱子(BNE000136)
ナイトクリーク
犬束・うさぎ(BNE000189)
クロスイージス
祭 義弘(BNE000763)
ナイトクリーク
アルバ・スゥ・アドラメレク(BNE001029)
デュランダル
楠神 風斗(BNE001434)
★MVP
覇界闘士
宮部乃宮 火車(BNE001845)
ホーリーメイガス
秋月・瞳(BNE001876)

●吸血鬼、到来
 昼と夜の間。逢魔が時。人が家に帰り、魔が起き出す時間帯。
 夕暮れの日に照らされるその館の扉を開けたのは、『不退転火薬庫』宮部乃宮 火車(BNE001845)と『消えない火』鳳 朱子(BNE000136)の男女だ。
「噂には聞いてたけど良い雰囲気だね?
 目立ちすぎる二人が隠れて愛を育むには最適じゃないかいハニィ!?」
「やだー、怖ーい……火車くん、オバケ出てきたら朱子の事守ってくれるよね?」
「もちろんだよ、プリンセス! ボクがナイトになって君を護るさ!」
「えへへ、火車くんならそう言ってくれると思ってたよ。だーいすき♪」
 ……などと砂糖菓子の如く甘いトークをしながら薄暗い洋館を歩く二人。バカップルである。そして二人の心は見事なまでにシンクロしていた。すなわち、
(早く出て来い鈴木! 一刻も早く!!)
(……死にたい……早く出てきて)
 このイチャイチャカップル会話はフィクサード『美しき吸血貴族』こと鈴木弥太郎を誘い出すための演技である。
 しかし目標の『美しき吸血貴族』は知性あるフィクサードである。こんな少し考えれば怪しむだろう不自然なシチュエーション。そのような演技で出てくるかといわれれば、
「ふ、オバケではなく吸血鬼では守りきれるかね。ナイトくん」
 出てきた。あっさりと。
 銀髪に黒のタキシード&マントと見るからに吸血鬼でございますな格好だが、その顔立ちはどう見てもアジア系20代男子。髪は市販の薬剤で銀に染めており、タキシードやマントもパーティグッズに毛が生えた程度の物。
 残念。百戦錬磨のリベリスタから見ればそう評せざるを得なかった。
「レディを護るナイトの精神は実に高潔。それを手折るのもまた一興。目の前で愛する乙女が無垢に散るさまを見て、絶望に浸るがいい。
 さぁ、そこの少女。この闇の瞳に魅了されるがいい……む?」
 両手を広げて無防備に二人に近づいて、魅了の魔眼で二人の動きを封じようとして……手ごたえがない事に気付く。エリューション能力を持つものに、彼の魔眼は効果を持たない。
 怪訝に思う『美しき吸血貴族』の隙をつき、朱子が携帯電話を通じて洋館の外にいたリベリスタたちに合図を出す。合図を受けて扉を開けてなだれ込んでくるリベリスタたち。
「思い描くヴァンパイアのイメージ、に酔ってるんだろうね。 自己陶酔の為に人を虐げるなんて、許されない事さ」
『灰潤茶人』アルバ・スゥ・アドラメレク(BNE001029)は同じヴァンパイアとして憤懣やるせないとばかりに言葉を放つ。途中何かを思ったりもしたが、ともあれ許さないという事実にはかわらない。一発殴ろう。
「まったく、こういう輩はいったい何を考えてるのか分からんな」
 同じく気に入らないのだろう。『侠気の盾』祭 義弘(BNE000763)は大きな身体を揺らしながら館に入ってくる。関節をほぐしながらしっかりお仕置きをしないとな、と付け足した。
(真面目に生きていた人間がノーフェイスと化したかと思えば、こんなクソ野郎にはフェイトが与えられる……世界はクソッタレだ)
『シルバーストーム』楠神 風斗(BNE001434)は『美しき吸血貴族』を見ながら世界の不条理さに唾棄する。正しいものが救われるという事はない。運命は善悪関係なく『平等』に取捨選択する。その在りようにやるせなさを感じていた。
「モンスター役ならちゃんと正義の味方に退治される所まで演じ切ってくれるんだろうな?」
 力に溺れた愚か者に『ナイトビジョン』秋月・瞳(BNE001876)は冷徹に言い放つ。その瞳が鋭く『美しき吸血貴族』を見てつまらぬヤツだ、と評価を下す。
「な、なっ、何者だ貴様等は!?
 この『美しき吸血貴族』の館に土足で入り込んで無礼な口の利き方。寛容な私でも許しがたいぞ!」
(小者な様ですし、おちょくり倒して冷静を欠かせましょう)
 わざわざマントを翻して威厳を保とうとする『美しき吸血貴族』を見て『夜翔け鳩』犬束・うさぎ(BNE000189)はそんな判断を下した。事前に『万華鏡』で確認してあった情報とあわせて、やっぱり小物だと確信する。
「美しき吸血貴族? ……天井に立った事はある? 爵位はあるの? ないの? それともただのごっこ遊びかしらね、坊ちゃん」
『素敵な夢を見ましょう』ナハト・オルクスはスローイングダガーを弄びながら『美しき吸血貴族』に問いかけた。小ばかにするように鼻を鳴らす。
「なんだと……!?」
「……このクソ野郎が。大層なもん名乗りやがってなァ。大昔のフィルムにしか存在しねーわ、こんな吸血鬼。しかもだいたい退治されて死ぬ運命。吸血鬼が勝って終わる映画とか無いっつーの」
 ナハトの嘲笑に『美しき吸血貴族』は怒りに顔を赤くして叫ぶ。
「ハッ! この『美しき吸血貴族』相手に大口を。
 よかろう、退屈していたところだ。その言葉、血に沈みながら後悔するがいい。――お前達!」
 館の主の号令に従い、コウモリがバサバサと飛んで来た。幻想纏いから武器をダウンロードするリベリスタたち。
「貴族ごっこは終わりだ、鈴木。その醜悪な魂ごと、終焉をくれてやる」
 風斗の言葉が戦闘開始の合図となった。

●血の宴
「鈴木ではない! 私の名前は『美しき吸血貴族』だ!」
 フィクサードが怒声を上げる間にリベリスタたちは動いている。
 もとより『美しき吸血貴族』に接近していた火車と朱子はそのまま彼と相対し、残りのリベリスタたちが6匹のエリューション・ビーストを落としにかかる。
「ブッ潰す!!!」
 火車が大声を上げてガントレットに炎を宿し『美しき吸血貴族』に殴りかかる。単純なジャブだが、それゆえに力がこもった一撃。彼は前のめりに相手に接近してとにかく殴る。それが最短にして最善の解決策だとわかっているから。
「お前のために白い服を着て来て……あげた」
 朱子は眼鏡を外し、機械化した腕を大きく振るう。無限機関が生み出す炎をエネルギーに変えて、それを一点に集中して『美しき吸血貴族』に叩きつけた。たまらず押されて吹き飛ぶフィクサード。
「まあ……お前程度の力量じゃ、赤く染められるとは思えない……けど」
「まさか私と同じような力を持ったものがいるとは……!」
 覚醒者と出会うのは初めてなのだろう。『美しき吸血貴族』の顔に始めて緊迫した表情が浮かぶ。どう嬲り殺そうかと思っていた余裕の表情から、
「この痛み……倍にして返してくれるわ!」
 怒りの衝動に突き動かされる殺戮者の顔へと。
「レディには優しくするのが現代の吸血鬼よ。時代遅れには痛い目見てもらうわ」
 ナハトが放つ聖なる光が、怒りに狂う『美しき吸血貴族』の肌と、そしてエリューション・ビーストたちを焼く。
「うぉ……! 貴様、吸血鬼のクセに聖なる光とか。美学はないのか!」
「吸血鬼らしくない? 当たり前じゃない。卑怯でこそ吸血鬼」
 相手の言葉にそう切り返し、親指を下に向けるナハト。
「お前達、ひるまず襲い掛かれ!」
 そんな言葉に従ったのか、あるいはただの本能か。コウモリたちは義弘と風斗とアルバに向かい牙を向く。鋭い牙が皮膚を引き裂き、そこから血を吸い上げる。ナハトの聖なる光によって受けた傷が癒えていくが、完全ではない。
「この状況ならこちらだな」
 コウモリたちとの混戦から離れていた瞳がグリモワールを広げて心に響く優しい歌を奏でる。歌はリベリスタたちの身体に作用してコウモリのよって受けた傷を治していく。鋭い牙によって受けた出血までは治らないが、それでも受けた傷はほぼ癒えた。
「ありがとう。それじゃ、俺は俺の仕事をするか」
 回復の礼を言うと義弘はコウモリの動きに集中する。しっかり狙い、膂力を引き絞る。自分自身が一つの武器になったようにイメージし、しっかり狙い力強く打つ。スピードや派手さはないが、確実な一撃。振り下ろされたメイスの一撃が、コウモリの一体を叩き落した。
「目標確認。一気に叩き潰す」
 闘気を全身にみなぎらせた風斗がバスタードソードを構える。戦士はストイックであるべし。その考えに従い一撃一撃丁寧に剣を振るう。コウモリの動きを牽制するように数度ふるい、そして一撃。悲鳴を上げてエリューション・ビーストの動きがまた一つ止まる。
「見るがいい。この美しい血の舞を!」
『美しき吸血貴族』が爪を振るい、火車と朱子を切り裂く。傷はけして浅くはないが、倒れるほど深くもない。
「ふはははははは! この華麗なるステップ、美しき舞! 貴様等には真似のできない動き――」
「ほら、当たっても知らないよ」
「おや、どうしました? 『うつ鈴木し吸血貴族』さん? カレーなスタンプですか?」
 行動を遅らせたアルバとうさぎもまた、エリューション・ビーストを中心に踊るように己の武器を振るい、コウモリたちを傷つけていた。『美しき吸血貴族』と同じ技である。
 あらかじめ範囲攻撃することを相談しており、かつ互いを視認もできる状態なので、混戦でも味方を巻き込むことなく効率よくコウモリを傷つけていく。
 多数を一斉に攻撃する為命中率に難があるが、それでも各下相手の一掃にはうってつけである。

●美しき吸血貴族
「鈴木ではない! 私の名前は『美しき吸血貴族』だ!」
「そんなことを言っている余裕はあるのかな?」
 義弘の指摘通り『美しき吸血貴族』には余裕がなかった。
 自分を責めている火車と朱子は想像以上の火力で攻めてくる。攻撃を避け、あるいは受け止めながらこちらの体力を削ってくる。
 エリュージョン・ビーストの方も、広範囲の攻撃で浅く傷つけられたところを義弘と風斗が一匹ずつ叩きとしていく。エリューション・ビーストが噛み付いた傷は瞳の歌で致命傷には程遠いところまで癒されてしまう。
 覚醒者同士の戦闘に慣れていない『美しき吸血貴族』は、焦りを感じながら打開策を見出せないでいた。
「人を殺しているなら手加減は……できない」
 朱子は『美しき吸血貴族』を穿ちながら低いテンションで言葉を放つ。
「ぐぉ! おのれ……体力を戻さねば……血をもらうぞ、貴様ぁ!」
「かかったな美しき吸血貴族! 上を見てみろ!!」
「何ぃ!?」
 火車が指差す天井を見れば――ただ古ぼけたシャンデリアがあるだけ。
「隙ありぃ!」
「ぐほぁ!」
 炎が宿ったアッパーカットが、『美しき吸血貴族』の顎にクリーンヒットする。お返しにとばかりに噛み付いて火車から血を吸い上げて、体力を回復する。
『美しき吸血貴族』対火車と朱子の戦いは足を止めての消耗戦となっていた。
 性格はアレな『美しき吸血貴族』だが、その実力は相当なもの。一撃は重く、かつ人の血を吸い体力と活力を回復できる分、持久戦には強い、
 しかし吸血で回復する以上の打撃を二人は叩き込んでいる。もとよりタフな『美しき吸血貴族』だが、少しずつ押され始めてきた。
 だが――
「……。……っはぁ……!」
 二人の消耗もまた激しい。ナハトと瞳の回復を受け、どうにか戦線を保っているのが現状だ。『美しき吸血貴族』の牙による出血量も、無視できないほどになってきている。
 天秤は揺れる。徐々に大きく揺れる天秤。そして――
「がはぁっ!」
 火車が倒れる。激しい出血で糸が切れるように倒れ伏した。その様子を見てにやりと笑う『美しき吸血貴族』。
「さぁ、次はアナタの番だ。その服を赤く染めてあげよう。クーックック!」
「いいや、染まるのはお前だ。炎で赤く染めてやらあぁ!」
 何、と叫ぶ間もなく。
 倒れ伏す、という運命を捻じ曲げて立ち上がった火車の炎の拳が『美しき吸血貴族』の顔に叩き込まれた。

 エリューション・ビーストの最後の一匹が倒れたのは、この時だった。

●鈴木フルボッコ
「行きますよ『鈴木しき吸血貴族』!」
「鈴木ではない! 私の名前は『美しき吸血貴族』だ!」
 ……あれ? 何か違ったっけ? どうでもいいですよね。うさぎはそんな些細なことを気にせず『美しき吸血貴族』に近づき、自らのオーラを叩き込む。カウント3でオーラが爆発し、内部から衝撃を与えた。
「慌てるな。まずは傷を塞いでからだ」
 義弘が淡い光を放ち、コウモリや『美しき吸血貴族』に受けた鋭い傷を塞いでいく。全ての傷を塞いだわけではないが、それでも出血者は大分少なくなった。
「お前が散々女性たちにやってきたメイクアップだ。美しくなれて満足だろう?」
 バスタードソードをすばやく抜き放つ。その一挙動で風斗は真空波を生み『美しき吸血貴族』を切り裂いた。鋭い斬撃は血管を切り裂き、彼の服を赤く染め上げる。
「さぁ、覚悟しろ。うつ……なんとか族、弥太郎!」
「弥太郎ではない! 私の名前は『美しき吸血貴族』……だぐぼ!」
 アルバの黒きオーラが『美しき吸血貴族』の顔を殴打する。端正な(と、当人が思っている)顔が崩れる。
「……ふむ、もはや虫の息だな」
 瞳が『美しき吸血貴族』をみて分析する。機械化した頭部が導き出す確かな結論。もはや勝敗は決した。そう判断して瞳はグリモワールをぱたん、と閉じる。
「鈴木君。貴方、拘りすぎ。はっきり言えばテンプレすぎて正直ダサいの。
 その模範しか出来ない腐れ切った根性、私すっごく気に入らない」
 ナハトが空間に魔法陣を描き、そこから魔力の刃を生み出す。わずかなカーブを描きながら、矢は『美しき吸血貴族』の心臓に突き刺さる。
 それが決定打。『美しき吸血貴族』は血を吐き、地面にくずれ落ちた。

●赤の花嫁
「貴方の事は忘れませんよ『吸血芸人鈴木』さん」
「ガァ……私の名前は、美しき、吸血……」
 うさぎの決別の言葉に、息絶え絶えに返す『美しき吸血貴族』。
「お前、よく見ると……」
 そんな死に体の吸血鬼の顔を見て風斗が呟く。一秒ほど時間を置いて、
「地味だな」
 きっぱりと言い放った。精神的なショックからか、脱力してそのまま動かなくなる。
 瞳が皆の傷を癒している間、他のリベリスタたちは館内にある『美しき吸血貴族』に殺された犠牲者の骸を見つけた。絶望と恐怖の表情で固まった赤いドレスの女性たち。
「……悪趣味」
「クソ野郎が。あの世で罪を償いやがれ」
 各々の作法で死者を弔い、アークに連絡して処理を任せる。『吸血鬼を模した快楽殺人犯』……新聞にはこんな見出しが載るのだろう。真実はさらに奇異な事件だったのだが。
「さて、帰るか」
 誰かがそう呟き、館を後にする。
 
 夜の帳が館に落ちる。
 しかしこの館の魔物が起きることは、もうなかった。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 どくどくです。
 館の吸血鬼を倒す、という古きファンタジーなシナリオでした。
 まぁ、肝心の鈴木さんはアレな性格でしたが。
 皆様のプレイングがそれに呼応したような鈴木祭り。こんなプレイングは大好きです。

 鈴木をおびき出す為にバカップル演技するのは、お見事です。鈴木さん警戒なくやってきました。
 そんな作戦を踏まえてMVPは火車様へ。朱子様とどちらか迷いましたが、バカップル演技の差で火車様に軍配を上げさせてもらいました。
 
 それではまた三高平市で。