●世界を見渡せば、よくある事 まぁ、よくある不幸の一つだろう。 塾帰りの少女が暴漢に殺される事件。 イライラしていた。カッとなってやった。誰でも良かった。 包丁で滅多刺しにされて横たわった少女を見下ろしながら。 ポタリポタリ。 真っ赤に染まりきった切っ先から赤色が滴る。 暴漢は辺りを忙しなく見渡しつつ包丁を鞄に押し込み、踵を返した。 ここまではよくある話。 ……否、ここからも『ある意味では』よくある話かもしれない。 ゆらり、立ち上がった少女。死んだはずの少女。怒りに満ちたその眼差しが男を捉え――…… ●毎日がオブザデッド 「何故『人を殺す事』は世界的に犯罪だと――悪い事だと思われているのでしょうか」 事務椅子をくるんと回して開口一番、『歪曲芸師』名古屋・T・メルクリィ(nBNE000209)が放った言葉。顔を見合わせるリベリスタ。 「……とまぁ、今日の本題は議論では御座いませんので、取り敢えず私の話をお聞き下さいませ」 そう言うメルクリィの背後モニターには、血だらけの少女が男に襲いかからんとしている画像が映っている。一目で分かった。E・アンデッドだ。 大方、今回の依頼はE・アンデッドが一般人を襲っているので何とかして来い……といった内容か。 「御名答。厳密には、半分以上御名答。一つずつ説明してゆきましょう。 ……このフェーズ1アンデッド・恩田千絵は、こちらの一般人・長池隆夫に殺害された少女が革醒したもので御座います。 動機は『イライラしていた、カッとなってやった』……何とも言えませんな」 新聞やニュースで偶に見かける、テンプレート。悲劇には違いない、しかし日々の中で忽ち風化してしまう悲劇。 メルクリィの説明は続く。 「サテ、ここからが少しイレギュラー。 千絵様は皆々様と遭遇してから凡そ30秒ほどの時間が経過するとフェーズ2のE・アンデッドに……隆夫様は1分弱ほどの時間経過でフェーズ1のノーフェイスとなってしまいますぞ。 尤も、隆夫様に関しましては時間内に千絵様からウンと離れるか死んでしまえば革醒しないのですが。 皆々様に課せられたオーダーは『エリューションの討伐』。……どのようにするかは、皆々様に一任致しますぞ」 選択肢は一つではない。どうするか、何を選ぶか――一つ一つの選択で、状況は大いに変わってくるだろう。 何をするか。思いを胸に、フォーチュナを見た。 「説明は以上です。……私はいつも、リベリスタの皆々様を応援しとりますぞ。どうかお気を付けて!」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:ガンマ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年08月02日(木)23:23 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●どこにでもある 夜。 常通り。 変哲の糞も無い。 その最中を、急ぎ、駆ける。 「確かに『良くある話』なのかもしれません」 だが『シスター』カルナ・ラレンティーナ(BNE000562)には、それを良くある話と容易に切り捨てる事など出来なかった。 (当事者にとってはたった一度きりで人生が狂ってしまった話なのですから……) チクリと胸が痛むのは、優しい心を持つ故か。顔を向ける彼方。並んだ電柱、蛍光灯の列。その先に待つのであろう『ありふれた悲劇』。 「あー何か不慮の事態でも起きたりして此方の領分に踏み込んで来てくれないか」 夏の暑空にボヤき捨てたのは『終極粉砕機構』富永・喜平(BNE000939)の声。さらりとした動機で人を殺せる者に、何を言って聞かせても無駄だろうと思うから。でもしかしこの世界の道理に生きているのであれば、出来うる限りその世界の道理で裁かれるべきで……。嗚呼。 「……こんな事を考えるのも夏の暑さの所為かね」 そういう事にしておこう。全体の意向が己の意志とは別である以上、無理に通す事もない。やれやれ何て弱いんだろうなぁ俺は。 重なる溜息。喜平は蟠りを吐き出す様に、『銃火の猟犬』リーゼロット・グランシール(BNE001266)は辟易したかの様に。 「アークの任務目標に無いのならノーフェイス化する殺人者の救助など……」 わざわざリスクを増やさず消してしまえばよいと思うのですが、と続きは胸中。目標――恩田千絵は運が無く、長池とやらは運が良かったのだろう、それだけの話。 見渡す仲間は、真剣な表情を浮かべている者が多い。やれやれ、嫌いではないがお人よしの多いこと。自分だけだったら間違いなく任務の障害は排除していただろう。 「……まぁ、仕事にかかりましょう」 アークの害を排し、アークに利益を。 成すべき事を歯車の如く。 神秘に関わってれば、理不尽に死ぬ奴なんていくらも見てきた――『燻る灰』御津代 鉅(BNE001657)は溜息すら出ない。感慨も湧かない。 「まあせめて、死んだなら死んだらしく休ませてやるぐらいは手伝おう」 後の面倒も少なそうな仕事だ、という感想。 「今日も運命って奴はクソったれで世界は公平に不公平で誰にも優しかねぇってね」 黒い髪を掻き上げ吐き捨てる、『ザミエルの弾丸』坂本 瀬恋(BNE002749)の言葉。 まぁ、可哀想だとは思うし、殺人犯の隆夫は糞だと思う。だけど―― (生憎アタシはヒーローじゃねぇし、聖人でもねぇ) ただの人間、一人の人間だ。それ以上でも、それ以下でもない。 昨日も今日も、きっと明日も、生きる為に人を踏みつけて生きるさ。 それでも何か、何か出来る事があるのではないか。『刃の猫』梶・リュクターン・五月(BNE000267)はそう思う。 守る力も、倒す力も、あまりないけれど。 それでもできる事があるならば。その為に自分はここに居る。 「この手は、この剣は、誰かの為にあるのだ」 そんな五月の言葉に同意するよう、『戦奏者』ミリィ・トムソン(BNE003772)は頷く。最低の状況を、それでもどうにかする為に自分達はここまで来たのだから。 ありふれた悲劇、風化する悲劇。 世界は、そんな悲劇に溢れている。 被害者たる彼女の怒りは、きっと正しくて。自分達が隆夫を助ける事が、本当に正しいのかは分からないけれど――だからと言って何もしない訳にはいかないから。 だから、戦おう。戦って、彼女の怒りを受け止めよう。 リベリスタの想いは銘々、されど目的は同一。選択するのは殺人犯<一般人>の生、被害者<ノーフェイス>の死。 その手に持つ杖に魔力を込めて、少女は静かに前を見据える。 その視線の彼方。街灯に照らされたた二つの人影。 「――任務開始。さぁ、戦場を奏でましょう。 ●タンマタイム 青い羽を翻し。『幸せの青い鳥』天風・亘(BNE001105)は駆けた。逸散に駆けていた。高速。最速。いの一番。その登場に、隆夫と千絵が彼へと向いた――その瞬間。 バヂリ。 爆ぜたスパーク。弛緩した隆夫の身体。リーゼロットが押し付けたスタンガン。脱力したその身体はすかさず鉅が受け止め、亘へと投げ寄越された。些か乱暴だが、自業自得。丁寧にやっている時間も無い。 その様子を見守り、隆夫を庇いつつ――カルナは形容し難い気持ちに奥歯を噛み締める。あれは殺人犯。下らぬ理由で人を殺めた罪人。許す許せないで言えば、到底許せるわけが無い。 それでもカルナは、己に言い聞かせた。 『自分達はリベリスタ。守らねばならぬ一線がある』 それに──……思考はそのまま、警戒は緩めず仲間と共に張り巡らせる結界。余程の騒ぎが起こらない限り誰かが来る事は無いだろう。 状況は進む。 鉅が投げ寄越した隆夫を受け止め、亘は喜平とアイコンタクトを交わした。喜平は既に幻想纏いから軽トラックを出し、運転席でスタンバイしている。その荷台へ、隆夫諸共。 あぁ、重い。 彼ではなく命と彼女の怒りと想い。 何が悪いか、誰が悪いのか、それくらい判っている。 でも、助ける。全速力で。 生きてる命しか自分は救えないから。 「乗ったな?」 「はい、飛ばして下さい!」 「分かった、そんじゃしっかり掴まってろよ!」 アクセル全開フルスロットル、急発進。事前に調べた出来る限り進み易い道。ぐんぐん離れてゆく。おそらく抱えて走るよりはウンと速いだろう。 その刹那、 「じゃ ま しないでよおおおおおおおお!!」 夜を劈く凄まじい咆哮。怒りに満ちた千絵の声。血だらけの身体で、車を、隆夫を追いかけようとする。 だが、そうはさせない。 「御機嫌よう、恩田千絵さん」 その背後より凛とした声、夏風に靡く蜜色の髪。 「私は……私達は、貴女を止めにきました」 死した少女が振り返った先、戦奏者。ミリィの瞳が真っ直ぐに千絵を射抜く――アッパーユアハート。刺激する。引き付ける。 きっと、今の彼女にはこの言葉だけでも十分だろう。止めようとする者は敵に見えるだろうから――そうミリィが思った通りだった。 「うぅう ああぁああああ!!」 怒りの儘に放つのは衝撃波。響く痛み。骨の軋む感覚。 されど、それを真っ向から突っ切って。 五月は踏み込む。そのガラ空きな背中へ、華奢な手で握った大きな剣を振り上げて。叩き付けた。千絵が怒りに我を忘れている間に集中を挟み、渾身の気力を込めた轟撃。吹き飛ばす。塀に叩き付けられた少女を見据え、視線を逸らさず、言い放つ。 「罪を犯すのは馬鹿だ、君の代わりにオレがあいつをぶん殴る。何も君が罪を犯す必要はないだろう」 「貴方の手はまだ汚れてはいません。あのような者の為にその手を汚してはなりません……!」 聞こえなくていい。だが、それでも。五月に続き、カルナも千絵に声をかける。 このような恨みを持たずにはいられはしないような、このような状況で、綺麗事を。そう思われたって、罵られたって、それでもだ。構わない。カルナの言葉に嘘は無い。 彼女の手を汚させるわけには、いかないから。 「あいつは、私の事、包丁で何回も何回も……! 痛い、痛いよ、何で? 許せない 死にたくないよ!」 涙交じりの声だった。己が死んだという事実。殺された。もう会えない?お母さんにも、お父さんにも、友達にも?志望校の為に勉強していた事も全て無駄?将来の夢は?まだ恋もしてないのに?今までの人生は一体何だったの?何の為にここまで生きてきたの?理不尽に殺される為に生きたの?私は何も悪い事していないのに! 様々なの感情が混ざり合って、どうしようもなくって、認められなくって、でも事実で、諦めと絶望と、自分をそこへ追いやった者への怒りと。 ――嗚呼。泣き叫ぶ少女の嗚咽が鼓膜を掻き毟る。 それを掻き消す様に、瞬間。攻撃教義を広げるミリィの指揮と研ぎ澄まされた集中の下、寸分違わぬ精度で瀬恋がTerrible Disasterより放つのは――皮肉かな、罪を裁く恐るべき魔弾。 「悪人は長池でアンタは被害者。そりゃあ間違いねぇさ。あんたの怒りは正当なもんだ。 だからアンタの邪魔をするアタシはワルモンだ。長池を殺りてぇならまずはアタシを殺ってみな」 靡く黒髪。反動に傷付き、血を滴らせながら。 嘘は、言っていない。 恨まれたって構わない。 「痛いし辛かっただろう、まだしたい事もあっただろう。世界は常に理不尽だ、罪を罪としない時もある。 泣き出しそうに辛い思いを、世界はいとも容易く淘汰する。 オレの想いが君を傷つけたらすまない――それでも、君が手を汚す事は嫌なのだ」 爆ぜる炎を刃で防ぎつ、五月は踏み込む。千絵のすぐ傍へ。離れやしない。気持ちは揺らがない。 「……君の怒りをオレが受け止めるから」 目が合った。 死した少女は、涙を流していた。 「私、わた、し、どうしたらいいの? どうしたらいいか、分かんないよ……!」 表情を歪めて。泣き崩れる。皆の言葉に僅か生まれた憤怒の間隙。その隙間、残った理性で彼女は知った。己は死んだのに動いている。普通の人間では有り得ぬ力を持っている。自分は化物だ。もう人間じゃない。もう戻れない。 そして、自分の目の前に現れた『有り得ぬ力を持った者達』は、おそらく――自分のような存在を駆逐するのが役割なのだろう。 「受け止めてくれる……?」 「ああ、オレはウソをつかないぞ。ゆびきりげんまんだ」 「じゃあ、じゃあ……アイツを、絶対に、捕まえて……!」 「安心するといい、もうアイツはオレの仲間達が捕まえている」 「本当……?」 「本当だ」 「それじゃあ、もう一つ」 少女は笑んだ。泣きながら。 「 私を 止めて 」 笑んでいた。泣きながら、更なる異形に変貌しながら。 ●同時進行ラニングウェイ 安全か危険か、どちらかと言えば『危険』寄りの速度で車が走る。 「……」 荷台の亘は後方を――千絵や仲間達が居る方向をじっと見据えていた。 通信をONにした幻想纏いより溢れるのは、死した少女が泣き叫ぶ声。感情の濁流。 その怨嗟を心に刻もう。 握り締めた拳の感覚は既に無い。苦い辛い想いを何度でも繰り返して、それでも前に進むしかない。 と、その時だった。 「やばいかも、ちっと時間が足りねぇや」 喜平の声。車で進むのは非常に効率的だった。が、ここは住宅街。入り組んだ道。曲がり角だらけ。あと僅かで離れきれるが、あと僅かで『タイムリミット』。 だとしたら、迷っている暇は無い。 「いくぞ!」 「はい!」 声の刹那、喜平は思い切りブレーキを踏み締めた。タイヤがアスファルトを強烈に擦る甲高い音と共に、ぐんと反動。それに乗って、隆夫を抱えた亘が空中へと飛び出した。勢いに乗った速度。翼で落下しないよう、更に加速して。 間に合うか。 いや、間に合わせてみせる。 「おぉああああああ!!」 投げた。少しでも距離を稼ぐ為。直後、亘自身も投げだされた勢いの儘に地面を転がった。慌てて身を起こす。幸運にも車が2台ほどしか停まっていない駐車場。亘の視線の先で、地面にぶつけられた隆夫が呻き声を漏らしている。 ノーフェイスではない。 間に合った――安堵の溜息。されどゆっくりしている暇も無い。立ち上がった亘は幻視で翼を隠すと、起き上がれないで居る隆夫の目前に立ちはだかり。 「おはようございます。どうです悪夢から醒めた気分は」 「……!?」 突然の事に戸惑いつつ――無理も無い、間髪入れずスタンガンで気絶させたのだから――されど隆夫は『自分が殺人を犯した事をこいつらは知っている』と悟ったらしい。慌てふためいて逃げ出そうとするのを……胸倉を掴み、ぐんと引き寄せて睨みつけて。 「お前、恩田千絵さんを――女の子を、殺しましたね?」 「な、な」 「そこの鞄に入っている包丁が証拠だ。お前は人を殺した、何の罪も無い人の命を理由なく奪った――それがどれほど重い罪か、貴方には分かっていますね!?」 本気の怒り、その剣幕に隆夫は怯え声も無い。それを地面に突き離し、 「社会的に罪を償うのが一番だ。でも言おう、お前の見た悪夢は彼女の意思だ。同じ事を繰り返せば同じ理由でお前が死ぬでしょう」 亘の背後で、駐車場の出入り口を喜平が軽トラックで防いでいる。運転席から降りた彼の手には、ワイヤーケーブルとガムテープ。逃げられない、逃がさない。諦めて項垂れる殺人犯へ、されど亘は言葉を続けた。 「だからせめて彼女の分も生き幸せになれ。 幸せは一面的じゃない。その裏にある苦しみと犠牲を忘れるな。……絶対にだ」 ●おわる 憤怒を孕んだ赤い炎が炸裂する――ある者は運命を対価に立ちあがり、ある者は地面に頽れる。 「チッ……」 サイレンサーを取り付けた大型ライフルGarmfangを構え、カルナを庇ったリーゼロットは舌打ち一つ。狙い、引き金を引けば貫通力の増した杭の弾丸が千絵に襲いかかる。猟犬の牙は獲物を逃がさない。喰らい付き、貫く弾丸が標的の鮮血を散らした。 隆夫の退避、確保が完了したという連絡が来た以上――そして、彼女が本当に化物になってしまった以上、あとはもう全力で戦う他に無い。 それでも、カルナは声を張り上げた。ジェーズルを構え、癒しの祝詞によって聖神の寵愛を顕しながら。 「どうか、どうかご自身を取り戻してください。このような、このような最期は悲しすぎます」 命だけでなく、自我すら失ったまま消えるなんて……そんなの、あんまりだ。全ての者に祝福を、そう祈りを込めた十字架の杖を掲げているというのに、なんて皮肉だろうか。 カルナが奔らせる声、それを掻き消す様に千絵は化物じみた咆哮を上げ、リベリスタへと襲い掛かる。止めねばならない。約束したから――五月は黙したまま間合いを詰め、稲妻を纏う刃を振るう。反動の火花が少女の白い手を赤く焼く。だが、『彼女』はもっと痛くて辛い目に遭ったのだ。一歩も引かない。 「何処に注意を向けているんですか。今の貴女が倒すべき相手は、私ですよ?」 そこへ更に、ミリィのチェイスカッターが少女の背中を切り裂いた。上体を揺らし、蹌踉めく。彼女の攻撃力は高いが、それでも全てに於いて連携の取れたリベリスタが上回っている。決着は近い。 血を滴らせ、振り向いた千絵の白濁した眼球がミリィを捉えた。炎に焼かれた傷を押さえる少女。その手は、小さく震えている。 燃えるような……否、憤怒そのものを宿す炎。その怒り。無念。向けられる視線に思わず、身が竦む。 けれど、決して屈したりはしない。逃げたりなんかしない。 「だって、受け止めるって、決めたから――彼への怒りも、受け止めてあげる」 これが私の、貴女との立ち向かい方。 刹那の魔力を持った眼光は、間に入った瀬恋が庇い防御した。支援役たるミリィが危機に瀕する事は捨て置けない。ハラワタが捩じれる様な鈍痛。舌打ち一つ。しかし最悪な災厄の砲身を向けて。 「……もう、眠っちまいな」 撃った。断罪の魔弾が千絵の頭部に直撃し、少女の身体が大きく仰け反る。 その隙。踏み込む五月。刃にありったけの力を込めて。 ――オレは守ることには貪欲だ。 彼女が彼女であるなら、その為に。 彼女の、千絵の怒りなら、全て受け止めよう。 願わくばこの手で――一閃する。 ●それでも明日はやって来る 倒れた少女。 無情な勝利。 カルナはそっと倒れた千絵の傍にしゃがみ込み、その手を優しく握り締めた。 なんて冷たい手だろうか。ごめんなさいだなんて、言えないけれど。温めるよう、両手で包み込む。 「ごめん、君が君であるうちに守れなかった」 更にその手に手を重ね、五月は目を閉ざした千絵の顔を覗き込む。 そして奏でられるのは――カルナが歌う清らかなゴスペル。静かで優しい旋律に、千絵は薄く眼を開けた。その目は異形のそれではない、人間の、少女の目。 「君はきっと笑顔が似合う素敵な子だ」 だから、おやすみ。 「――……、ありがとう……」 千絵は薄く笑みを浮かべた。安らかな笑顔だった。瞼を閉ざす。その顔もまた、眠っているかの様な表情で――二度と目覚める事は無い。 それらを見届け、ミリィは奥歯を噛み締め、幻想纏いで亘と喜平に連絡を取る。隆夫は警察へ引き渡す。思うことは多々あれど、ここから先は神秘の外の話。自分達の領分ではないのだ。 静まり返った一帯。 今日も変わらぬ夜の空を見上げ――瀬恋は一つ、呟いた。 「因果応報、三世因果。いつか報いを受けることになるさ。長池の野郎も、アタシもね」 それがいつになるかは、誰も知らないけれど。 踵を返す。 残されたのは、今日も何一つ変わりやしない世界。 『了』 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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