● 「うぉー、俺ぁまだ飲めるってぇのー! 酒寄越せー!」 「だーっうっせぇな! 黙って帰りゃいいんだよ!」 夜は更けていた。時間もあって人も車の通りも少ないそこには、男二人の怒号がただただ響き渡っていた。 「お前だって飲み足りないだろぉ? ピンピンしやがって」 「はいはいそーですね、家で飲むからご心配には及ばねーよ」 「何だい、寂しい奴だな……っと」 片方の男の足がふらついて、もう片方がそれを支えた。二人の足音が止まる。 「おお、危ねえ危ねえ」 「危ねえじゃねええぇぇえ! しっかり立てや!」 「そんなに怒らなくてもさ……あ……?」 呂律の怪しい声でなお饒舌であった男の声が、勢いを失くす。その表情があからさまに青くなる。捲し立てる男は、彼のその状況に気付かない。 「いつもいつもお前が困難だから俺が気持ちよく酒飲めねえんだよ! なんで男の見送りしねえといけねえんだ! どうせなら──!」 「……なあ」 静かな声が、言葉の濁流をせき止める。相手の表情に気付いた男は、熱のやり場も分からぬまま彼に問う。思考は冴えていなかった。 「どうした?」 「あれ……なんだ?」 言われて、男は彼の指差した方向へと向く。暗闇に紛れて、人の姿が見えた。体格から、男はそれを青年であると予測する。けれども、それには光がほとんど当たっておらず、正確な姿形を認識するのは難しい。 必要以上に怯える彼に気を揉みながら、男はその人型に問う。 「誰だ、あんた」 男にはそれは単なる人型に見えた。しかし彼の表情や、それの纏っている雰囲気が、不穏さを助長する。それは果たして人なのがという、疑念。やがて目が慣れてそれの姿を大まかに把握できるようになると、男は彼が恐怖している理由を、掴む事が出来た。 闇に溶けたその体は灰色をしていた。頭は兜のような、体は鎧のような形をした硬質の物質から成っている。しかしそれの動きにはなんら支障になっていない。手足の爪は鋭く尖り、それが触れようものなら、人間の皮膚程度簡単に避けてしまいそうにも思える。 複眼が男たちをギョロリと見つめている。それは獣が獲物を見る眼差しと、似ていた。 男の視線から、それの姿がフッと消える。数秒の後気がつくと、それは彼らの背後におり、爪の一つを剣のように伸ばしていた。そして彼らの体は爆発するように、弾けた。 そこに残ったのは、甲虫のような体をした二体の生物であった。一つ或いは二つの角を持った姿は、さながらカブトムシとクワガタムシのようであった。ただそれらは、通常より巨大であった。 異形は二体を連れ立って、街中を行く。向かう先は分からない。 ● 「とある怪物の出現が確認された」 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は簡潔に言い、詳細な説明を続ける。 「『インセクト・プリンス』。姿は映像の通り。情報によると彼らは人間からアザーバイドに変化したものみたい。便宜上アザーバイドと呼んだけれども、別のアザーバイドによってそれと同質のものに変化させられた者、とでも言えばいいかな。アザーバイド自身と同じ意志を持つように変えられた『怪物』。そのアザーバイドがどんなものかも分かっていないし、戻す方法も恐らく無いから、世界に悪い影響を及ぼしている以上、倒す以外にない」 プリンスは、人通りの少ない街中を闊歩しているという。昼間には見られないため、時間帯は夜に限られるだろう。 またプリンスは五体の配下を連れている。およそ体長80センチメートル程のカブトムシの形をしたものが二体、クワガタムシの形をしたものが三体いるという。 「配下の虫も厄介だけど、それを従える『インセクト・プリンス』も侮れない。元々攻撃性能の高い上に、かかっている異常の数だけ攻撃力が上がるらしい。装甲も中々に厚そうだから、中々に厄介かも」 それと、とイヴは付け加えた。 「今回は君原隆二という男性リベリスタに同行してもらう。かつて同様の敵が現れた際にも戦っていたし、どうせ何も言わないでも着いてっちゃうだろうから。彼の話では、インセクトたちはかつての家族みたいだから、ね」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:天夜 薄 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年08月01日(水)22:38 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● それは一見して虫である。 だが大きかった。そしてそれと同時に、ボトム・チャンネルに存在する虫のように、生存本能に縛られてなどいなかった。 変わった蟲だ、と『微睡みの眠り姫』氷雨・那雪(BNE000463)は思う。 何か、目的でもあるのだろうか。そんなことも考える。 それはアザーバイドによって、変質させられたのだという。もとよりこの世界にいたというのだから、アザーバイドとは呼ばれないだろう。アザーバイドの性質を、その身に宿されたに過ぎないのだから。だが既に、エリューションのように人間と呼べないのもまた、確かな事だ。 そんな異質となってなお命が続いている事の方が、辛い事だろう。那雪はふと、君原隆二の顔を見る。彼は那雪が自分を見ている事に気付くと、汚れの目立つ帽子を、顔を隠すようにクイッと下げた。那雪は彼を見ながら、囁いた。 「……大丈、夫……?」 彼女の目は残酷な程に優しい。隆二は那雪をジッと見つめながら、言葉を無理矢理ひねり出す。 「……ああ、大丈夫だ」 「そう……」 那雪は一つ溜め息を吐く。そしてそっと、隆二の頭を撫でた。壊れ物を扱うように、優しく。 「……がんばりましょう、ね」 「人間を同質の存在に変える、か。蟲を媒介にする伝染病ってのはあるらしいが、万倍タチが悪いな」 『影の継承者』斜堂・影継(BNE000955)の口調は重い。この事件の元凶は、人間を自分と同質に変化させていく。そして変化させられた彼ら『インセクト』もまた、新たな被害者を生んでいく。 シャレになっていないな、と『浄化の炎』ロータス・エーデルハイト(BNE003957)は思う。 一体元凶が何を考えて、人間を変質させたのかは見当がつくはずも無い。 けれども放っておくわけにも行かず、また意思の疎通も怪しい、となれば、駆除するわけにはいかないだろう。 「……まァ、話し合って解決できるならソレが一番ええんやろが」 それが難しい以上、やるしかない。 ただ自我は残っているという。ともすれば、心まで変質させられているのだろうか。 隆二をも襲う行動が、そうした予感を引き起こす。 けれども一方の隆二は、違う。 『早く、あいつを死なせてやりたい』 影継は隆二がかつてそう言った事を、覚えている。アザーバイドによって変化させられたのは、かつての家族だ。その心中を察するに余りある。 けれども、同情は後だ。今は戦って、悲劇の再生産を食い止める。影継の決意は、固い。 「速攻で終わらせてやる。行くぜ!」 ● 夜の落ちた道路は閑散としている。まるで道として死んでしまったかのように、人の気が無い。 人の気は、ない。 人ではない、異形だけがその道を蔓延っている。先頭を行くインセクト・プリンスの複眼が、月明かりを反射してギョロリと煌めいた。爪は、獲物の首を掻っ切るその時を待っているかのように、怪しく光っている。 それらはゆったりと行軍を続けている。既に張られている囲いにも気付かないで。 初めに訪れたのは一発の銃声だった。轟音が彼らの聴覚を震わせる。彼らは一斉に音の鳴った方へと振り向いた、銃弾をその身に受けた鍬形虫が、怯みながらも遅れて体を動かした。 「発光するぜ!」 彼らが視線を向けると同時、『てるてる坊主』焦燥院 フツ(BNE001054)が自身の身を発光させる。それはリベリスタと虫たち全てを白日の下に晒すような極めて眩いものであった。 その光を便りに、リベリスタは虫たちへと進撃する。発光を済ますと、フツはプリンスと対峙するために駆け出した。 「さぁって、がっつりと真っ向からやり合おうか!」 闇のオーラを身に纏いながら『極黒の翼』フランシスカ・バーナード・ヘリックス(BNE003537)は呟いた。虫の化け物、それを連れるインセクト・プリンス。かつて人間であったとはいえ今は化け物だ。倒さないわけには、行かない。 「……これでプリンスやらを仕留めれば残りは1体」 『足らずの』晦 烏(BNE002858)と『孤独嬢』プレインフェザー・オッフェンバッハ・ベルジュラック(BNE003341)の頭に同様に浮かぶのは、インセクトが今目の前にしているプリンスを含め、あと二体であるということ。かつて隆二の口にした言葉を信ずるならば、それが事実だ。 「よう。こんな時間にどこ行くんだよ、王子様?」 挑発するような言葉を発しながら、ブレインフェザーが全身から気糸を伸ばし、乱れ撃つ。その攻撃はプリンス以外の全てを容赦なく撃った。 「可哀想やけど処理するしかあらへんね」 『他力本願』御厨 麻奈(BNE003642)が周囲の虫に気糸を伸ばしつつ、プリンスの様子を伺う。自我は失われていないとは思えない程、その目は死んでいる。 プリンスが何を考えているのか。それが何を目指しているのか。彼女はそれを探る。 「あんじょうよろしゅうしたってや!」 ● 「ようやく頭が回ってきた、な」 脳の回転速度が瞬く間に上がっていく。集中と共に、更なる高みへ。その中で、那雪はプリンスに向けて、問いかける。 「お前たちは一体、『何』なのだ?」 言葉が終わるよりも先、プリンスは那雪に敵意を向ける。しかしフツがそれを体ごと遮った。 「お前はここで食い止める!」 フツの威圧するような気迫に、プリンスは苛立つ素振りを見せつつ、伸ばした爪で斬る。フツの体を縦断した軌跡から、血液が漏れだすが、彼は立ちはだかるのを、止めない。 隆二が感覚を研ぎすませ、プリンスを狙う最中、烏は兜虫を相手取りながら、聖なる光をプリンスを除く全ての虫へと放った。厳然たる意志が神秘となって、虫たちの体を焼く。烏と対峙する兜虫は怯みながらも、その角で思いきり烏を突いた。烏が怯みを見せる最中、ロータスの放った攻撃が彼の脇を横切った。十字架の形をした自らの得物を振り回すようにして撃った一撃は、兜虫の固い皮膚を貫いた。 「なんや固いな、なら壊れるまで撃ち込むだけやな!」 「うおっと!」 鍬形虫の鋏から身を逸らそうと、それの側面に回っていた影継だったが、素早く自分の方に向けられた鋏に声を上げつつ、挟まれぬよう避けた。鋭く尖っていた鋏の先が彼の腕を掻いた軌跡に、かすり傷だけが残る。 「危ねえな!」 フツが奏でた福音を聞きつつ、叫びと共に放たれた渾身の打撃が鍬形虫の体に爆裂する。壮絶な破壊力は鍬形虫の装甲にヒビを入れる程の衝撃を打ち込んだ。同時にそこには気の糸が撃ち込まれる。今しがた出来た傷を抉るように、ブレインフェザーは執拗にそこを撃った。 ブレインフェザーと同様に、那雪も気糸でひび割れたその装甲を狙い撃つ。射程内の全ての虫の弱点を、一様に突いていく。 「さて、私の糸は如何かな?」 最中、那雪はプリンスを『理解』しようと努めている。それがアザーバイドに侵された異物である事は真実だ。配下もまたその同質性に侵されている。 麻奈もまたハイテレパスにより、その心理を垣間見ようとしている。異形となったとしても、元はこの世界の人間だ。ある程度の理解は出来ないものだろうかと、彼女は考える。 『あんたのこと、助けたいんやけど』 麻奈はプリンスの思念が完全に理解できないのを知りつつも、問いかけてみる。明確な返事は無い。続いてどうしてこうなったのか、対処のしようはありそうか、とも問うてみる。やはり、返事は無い。 ただ思念の揺れ動く様子は、確かにあった。 けれども伝わってきた思念に、特別強い悪意や敵意は感じられない。実際には明らかにリベリスタや人間を殺しにかかっているのに、である。それどころか、ある種の好意のようなものすら伝わってくる。そして問いかけるたびにプリンスから感じる好意のようなものは、益々強くなっていった。 那雪はその中で、プリンス、というよりもインセクトは、仲間を増やそうとしているのだと理解する。それはインセクトがアザーバイドによって変質させられたのと同じように、インセクトもまた、自分たちと同じ性質に変質させようとしているということだ。 それが元凶の本質とどう関わるのか定かではないが、少なからずプリンスの意思は、侵食されている。 『勘弁したってな。こうでもせんとお返事くれへんみたいやし……素直に喋ってくれると助かるんやけど』 麻奈はプリンスの心を読みながら、プリンスに向けて謝罪をする。 そしてプリンスはそれに対して、確かにニヤリと笑みのような感情を返した。麻奈は半信半疑ながら、プリンスに問いかけを続ける。 ● 破壊的な気と共に振り下ろされた攻撃が、相対する鍬形虫を中心から真っ二つにへし折った。それでもなお動く事を止めないそれを気糸が貫くと、腐臭のする断面を見せびらかすように鍬形虫は裂けた。何でも構わず挟みたそうに空を掻いていた鋏も、やがて動く事を止めた。 フランシスカは気糸に続いて、兜虫に向けて赤く染まった大太刀を一心に振り下ろした。鋭い一撃は兜虫を地面へと叩き付けるが、すぐさま立ち上がったそれは角を振り上げると一気に振るい、周囲の敵を薙いだ。フランシスカはなんとか堪えながら、反撃に転ずる。 「どっちかが倒れるまで勝負!」 その時プリンスが咆哮し、爪を伸ばしながら飛び上がり、それを抑えていたフツを含む複数を切り裂いた。暴れ足りないのか、同じ所に留まるのに痺れを切らしたか、プリンスは妙に気性を激しくしていた。 もう一体の兜虫は烏に向け突進し、角で彼の腹を突く。痛みに顔を歪めながら転がるが、素早く立ち上がり、光線を発射する。兜虫は身を焦がす炎に打震えながらも、角を振り回して突進を始める。 だが那雪の放った気糸がその鎧のような体を撃つと、途端に兜虫は動きを弱めてしまった。 度重なる気糸と光線の応酬と、強力な斬撃・射撃の連続に、固い兜虫と鍬形虫の装甲もボロボロになっていた。虫の攻撃もまたリベリスタには少なくないダメージを与えていたが、逆はまたそれ以上に深刻な傷を叩き込まれていた。 フランシスカは運命に身を委ねながら、大太刀を兜虫に叩き付ける。同時にブレインフェザーが気糸で乱れ撃つと、リベリスタに攻撃するものはプリンスだけとなった。 プリンスは自分の配下の虫が全て倒れたのを理解すると、悲し気にギャーギャーと吼えた。その眼前では、フツが息絶え絶えに立っている。 「そこは、柔らかかったりするのかな?」 那雪はフツの前に出てプリンスに接近すると、片の複眼を刹華氷月で攻撃した。それは複眼を擦りはしたものの、素早い動きで回避されてしまう。 だが烏がその傾いた体を狙って、銃弾を放つ。狙い澄まされたそれは、隆二の放った銃弾と交錯し、プリンスに激痛を与えた。 プリンスの悲痛の叫びが響く。プリンスは睨むようにリベリスタを見ると、爪を伸ばして周囲を切り裂いた。 「まァ、恨んでくれても構わんが、しっかりとやらせてもらいはするで」 興奮して鈍くなったプリンスを、ロータスが早撃ちする。うずくまるプリンス。 「アンタの剣には魂が無い。それじゃあ俺の命には届かないぜ!」 影継はプリンスをエネルギーを溜めた得物で狙った。プリンスはそれを受け止めようと爪を伸ばして待ったが、彼の全力は耐える事を許さない。 「吹っ飛べ! そこがアンタのデッドラインだ!」 爪が吹き飛びそうな程の衝撃がプリンスを襲い、プリンスは地面へと転がった。 麻奈は絶え間なくプリンスに問い続ける。変質にかかる期間、他の仲間の存在、D・ホールの存在。問う毎に少しづつ、返答らしい思考が麻奈の元に届くようになっていた。自分はもうどうにもならないこと。変質にかかる時間は一瞬であったこと。他の仲間は、いくらでも作り出せること。『穴』など知らないということ。 そして立ち上がる寸前、不確かな思考が、彼女の元へと、伝わってきた。 「え、今なんて──」 麻奈の言葉を待たず、プリンスは立ち上がる。 プリンスを追撃すべく、フランシスカが暗黒の衝動を放つ。黒いオーラがプリンスを包み、その体力を削っていく。 なおプリンスは地を蹴り、回転しながら爪をブレインフェザーに振るった。先ほどより幾分重い斬撃が彼を襲うが、お返しとばかりに彼は強烈な圧力をプリンスに炸裂させ、吹き飛ばす。 転がったプリンスは、丁度隆二の前へと至る。隆二はしっかりと引き金を握った。 「自分の手で倒したいって言ってたろ?」 ブレインフェザーは純粋に、彼に敬意を表している。彼にとって、インセクトたちは彼の大切な人だったものだ。だからこそ、自分の手で。彼女とて、同じ立場ならきっとそう思うだろうと思っている。 いざその時になって、本当にできるかは分からない。だから、あんた、すげえリベリスタだよ、とブレインフェザーは純粋に、思っていた。 研ぎすまされた狙いから放たれた銃弾は、プリンスの頭蓋を綺麗に貫通した。プリンスは無防備に、その身を地面に投げ出した。 「……そんな目で俺を見るなよ」 隆二はブレインフェザーの視線を感じ、思わず口にした。 「俺はこいつを守ってやれなかった、ただの弱者なんだぜ」 ● 人の気配のない道路で、ロータスは祈りを捧げている。彼とて一応は神父だ。来世での幸福くらい祈ってやらねばなるまい。その横では、麻奈も黙祷を捧げている。 フツが念仏を唱えつつ、プリンスの死体に交霊術をかける。その様子を、皆ジッと見ていた。 「大丈夫……? 貴方が辛いなら、止めましょうか……?」 神妙な面持ちの隆二に那雪がそっと囁いた。那雪は隆二の心が壊れてしまわないか、心配でもあった。変質させられてしまった彼の家族はまだ、一人残っているという。交霊の儀を行っても、また敵として向き合えるのか、と。 けれども隆二は那雪の頭をポンと撫でて、大丈夫と言った。 「全て死なせてやるまでは、壊れるわけにはいかないからな」 「何か言いたいことがあるなら聞くぜ」 無事呼び出す事に成功したプリンスに向けて、問う。プリンスは黙ったまま、俯く。 「オレ達にはなくても、君原個人へはどうだろう。インセクト達が君原隆二の家族だったってのは、イヴの嬢ちゃんから聞いてるぜ」 プリンスが少しだけ反応する。そして恐らく隆二へと視線を向けて、一言だけ口にした。 それは、麻奈が取り出した思考と、少しだけ重なるものでもあった。 『お父さんもこっちにくればよかったのに』 プリンスはそれだけ言うと、交霊術を拒絶し、消えた。フツはプリンスのいた場所を悲し気に見つめながら、念仏を続けた。 「君原君、おじさんもう一つ気になる事が出来ちまってな。何故あんちゃんだけアザーバイド化に巻き込まれず大丈夫だったんだい?」 烏は自らの疑問を隆二に率直に問うた。彼の家族はアザーバイドの力で異質に変化させられた。けれどもその場所にはきっと隆二もいたに違いない。 隆二はそのアザーバイドがある日突然現れたと言った。それは偶然だろうかというと、それは考えにくい。何処で、何が原因で、元凶となるアザーバイドは現れたのだろうか。その根幹を解決しなければ、悲劇はきっと繰り返される。 何か心当たりは、ないのだろうか。ブレインフェザーも頼んだ。 だが隆二は、本当に突然現れたのだと言う。 「誰でもよかったのだと思う。たまたま現れた場所に、俺と、俺の家族がいたのだろう。奴は家族を変質させ、さらい、消えた。俺がそうならなかった原因は、多分フェイトだ」 「フェイト、ね」 「世界に愛されたものは、世界と結びつきが強くなる。奴とてこの関係を崩す事は難儀だったんだろう」 「次はどこに出るのか、原因になったヤツはどこに行けば全部倒せるのか。分かるなら教えて欲しい」 ブレインフェザーは問う。しかし隆二は黙って首を振った。 「俺が一人で向かってた時は、出現の直前に夢を見たんだ。何時何処に、何がどれだけ出るのか。それまで必死に探していたのがバカらしくなる位の正確さでな。まるでフォーチュナになった気分だ」 だから、今は分からないと隆二は言う。黙る隆二に、影継が訊いた。 「後は1人、そしてアザーバイド本体。それでいいのか?」 「ああ、間違いない」 だが、と一呼吸置いて、隆二は口にした。 「あの悪夢のようなアザーバイドが、すんなり姿を現してくれるかは分からんがね」 「まあお疲れ様ってことで、帰ろう」 フランシスカの言葉に先導され、リベリスタたちは帰路に着いた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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