● とある繁華街。 その一角にある雑居ビルの扉が開くと、女性が出てきた。 それを追いかけるように、スーツ姿のイケメンが出てくる。 イケメンは、前に立つ女性の肩を抱きよせて耳元で囁いた。 「ねぇ、今度はいつきてくれる?」 囁かれた言葉に少しばかりの甘えた吐息を感じ、女性は擽ったそうに笑う。 「んーと……来週お給料日だから、また週末にね?」 「えー、それまで来てくれないの? サビシイなぁー」 「またまたー。樹って上手いのよねー? どうせ、他の女の子にも言ってるんでしょ?」 「ソンナコトナイヨ? んー、じゃあ、また来週ねー?」 樹はしつこく食い下がる様子も見せずに女の頬に口付けると手を離す。 今まで甘えてた樹があっさり離れた事で、女性の中には焦燥感が湧き上がった。 「わかった、それまでの間にまた来るわ!」 「待ってるよ、またねー♪」 タクシーに乗り込んだ女性に手を振る樹。 「チョロイもんだよなぁ……。――さぁて、いつ喰ってやろうかな」 微笑んだ口元からは紅く彩られた歯が覗いていた。 ● 「今回の依頼はアザーバイド『紅い牙』と、エリューション・アンデッドの討伐よ」 『もう一つの未来を視る為に』宝井院美媛(nBNE000229)は、リベリスタ達に資料を配布するとスクリーンに画像を映しだした。 「『紅い牙』は先日リベリスタが排除に当たったものの、倒すには至らなかったアザーバイドよ。 恐ろしい繁殖力と、寄生した対象をエリューション化させてしまう能力を持っているわ。 それが、前回の戦場でもあった繁華街にある、ホストクラブを根城にしているの。 中に居る従業員はアザーバイドに寄生されて、脳を吸われて……死んで……、エリューション・アンデッドになった人も居るわ」 『紅い牙』の能力は資料を読んでね。と、自らも資料のページを捲る。 「アザーバイド『紅い牙』は、実体が見えない。同等の能力を持つ『子』を生み増殖していく。そして、寄生する能力を有するわ。その寄生対象には、リベリスタも含まている。 残念ながら、ホストクラブに居る従業員10人の内、現在『紅い牙に』寄生されている人数、E・アンデッドになっている者の人数は判っていないわ。 それから、E・アンデッドの攻撃方法も不明よ」 「つまり、現場に到着してから内訳を把握し、その内訳に適した作戦を実行しなければならないと言うことか」 と、リベリスタが声を上げた。 「作戦を一つにするならその必要はないけど、アザーバイドとE・アンデッドの総数とその割合によって戦法を変えるならそうなるわね」 美媛はスクリーンの画像を切り替えると、従業員の顔を映し出した。 ホスト、バーテン共にイケメン揃い。だが、その表情にはどこか狡猾な雰囲気が秘められていた。 「以前を振り返る必要はないけど、違う点としては、アザーバイドに脳を吸われる激痛により寄生された対象は我を失い暴れ、辺りにいる人たちに攻撃したりするという部分が、なくなっているわ。 ――ホストクラブの従業員達は、全て、非合法の薬を服用している。 その効果によって、脳を吸われる激痛を感じなくなってしまっていて、行動も思考も寄生前と大差はないわ。 けれど、それは『紅い牙』が半ば操っているのと同様。彼等は『紅い牙』の利益になるような行動しかとらないわ。 そして、痛みを感じなくても、いつかは脳を吸い尽くされて、死ぬわ。 その後『紅い牙』は別の寄生対象を探して移って行く。そしてまた被害者が増えていく。 今の被害は従業員内に留まっているけど、店舗である以上お客もいる。一気に拡大する可能性もあるわね」 資料のページを捲ると美媛はリベリスタ達を見遣る。 「被害の拡大を避けるためにも、閉店後の店内での戦闘をお願いするわ。 今からならホストの樹が最後の御客を見送って店内に戻る頃に到着できると思うから、丁度いいはずよ。 敵の総数や内訳、攻撃方法等判らない部分も多いけど、よろしくね」 あ、それから――。と、立ち上がったリベリスタ達を追いかけるように、美媛は声を上げる。 「さっき、脳を吸われる痛みを感じないと言う話をしたけど。 つまり、こちらからの攻撃も痛みとは感じないという事よ。 そして、身体に変調を来す類のバッドステータスも受けないわ。 攻撃するときは注意してね」 「了解」 「本当に、厄介な相手よ。気を付けてね――」 美媛は閉められた扉を見詰めると、瞼を伏せた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:叢雲 秀人 | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 4人 |
■シナリオ終了日時 2012年07月31日(火)23:22 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■サポート参加者 4人■ | |||||
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● 「えーっとぉ。バックルームに2人、厨房に2人、後はホールにいるかなぁ~。そこには寄生前の一般人もいる。 アンデッドが多いね、多分5体ぐらい。残りが『寄生体』かな」 『殺人鬼』熾喜多 葬識(BNE003492)は、ホストクラブの内部を見透かすと、状況を仲間に伝えた。 「寄生体ねー。うーんやっぱ生物として他に依代求めるー、ってーのは弱い証なのかもしれないね」 『大風呂敷』阿久津 甚内(BNE003567)は、至って飄々と。 「我が身をふやしていくってのは生物としては普通なんだけど、迷惑だよね」 葬識は甚内と同じ調子で言葉を返す。 生きとし生けるものは、子を産み育て、『種』としての生を紡いでいく。 それは生物としての当然の理。 しかし――。 「厄介すぎる相手だ。でも、一般社会に拡散する前で良かった。 繁殖範囲を広げたらこの世界が終わりかねない」 『ガントレット』設楽 悠里(BNE001610)の、柔らかな陽の光を思わせる瞳が真剣な光を放つ。 「歯止めが効く間になんとかしなくては……」 『不屈』神谷 要(BNE002861)は、決意のもとに呟いた。 一度ホストクラブの外へ出してしまえば、悠里の言うように世界が終わる可能性もある。 「俺たちが逃してしまったせいで……」 『red fang』レン・カークランド(BNE002194)は、紅い牙と相見えるのは2度目だ。 最初はたった1体のアザーバイドの討伐依頼だった。集ったメンバーの中には、『出来損ないの魔術師』シザンサス・スノウ・カレード(BNE003812)、エリス・トワイニング(BNE002382)、アルフォンソ・フェルナンテ(BNE003792)の姿も在った。 リベリスタ達は死力を尽くし戦ったが、『紅い牙』を倒すには至らず。 『己が生を絶やさぬ為に』アザーバイドは増殖し、それに伴い犠牲者が増えていった。 だから、彼は今此処に立っている。 (今度こそ、必ず) その思いに、強く拳を握りしめる。 「頼りにしてるよ」 血が滲む程に握り締めた手。その力の入った肩に、ポンと置かれた手。 レンが顔を上げた先には、悠里の姿。一人で無理をするなと、その瞳は物語っていた。 そして、悠里の傍らには、『シスター』カルナ・ラレンティーナ(BNE000562)の姿がある。 「これ以上の犠牲者を出す訳には参りません。 仲間すらその対象となるのであればなおの事です。 頑張りましょう」 その言葉にレンは、小さく頷いた。 「最優先は、紅い牙だ。いくぞ」 ホストクラブの扉が大きく開け放たれる。 「てめーら喧嘩の時間だぜ! 設楽悠里のお出ましだァ!」 「――え」 悠里は、その声に瞳を瞬かせる。 己の名を叫んだのは、前方で片手に『雷切(偽)』、逆手に『ブロードソード』を携え駆ける男、『合縁奇縁』結城 竜一(BNE000210)であった。 「何故、僕の名前を……」 その理由は、誰にも判らない。 「はーん。コイツラが来るから、だったのねぇ」 ホストクラブ店内。高級なソファーに埋もれるように腰かけていたホストが立ち上がる。 彼の中に居る『紅い牙』が、かつて遭遇したリベリスタの匂いを嗅ぎつけ、彼に警告を発していたのだろうか。 その瞳には既に闘気が宿り、周りにいるホスト達も殺気に満ちた瞳をリベリスタ達に向けていた。 カルナの神気閃光が、薄暗いホストクラブの店内を照らし輝く。 その光は、ステージの上に集まったホスト達を焼き――そして、二人の男性が昏倒した。 「あれが一般人だねぇ。保護チームちゃん、頼んだ~」 葬識がステージに上がり、後方で一般人を保護するために待機していた『普通の少女』ユーヌ・プロメース(BNE001086)とアルフォンソへと一般人を蹴り転がした。 「ありがとう、カルナ!」 神気閃光を放った恋人に礼を言うと、悠里もステージに駆け上る。 「神気閃光で手酷い傷を負ってしまってはいるが、命に別状はないようだ」 ユーヌは一般人の無事を確認すると、早くも混戦の様相を見せるステージ上に視線を送った。 事前の情報通り、ホスト達は寄生され脳を吸われても、痛みを感じずに居る。 それは、法に触れる薬の力に拠るものだという。 (薬漬けだろうが勝手だが、虫が死ぬほどまで漬かれば良かったものを。 無用の脳と害虫の駆除が一度にすんで楽だったんだがな) 憮然とした瞳を向ける。 しかし、その視線を誤解した男がいるようだった。 前衛に立ち、今まさに彬と剣を交えようとしていた竜一である。 (俺の愛しのユーヌたんが、ホストにハマったりしたらどうしよう……) ホストを見ていた事だけが原因ではないのだろうが、彼はそんな懸念を抱く。 「……ここは、殲滅しておく必要があるな……。 悪いホストらしいし、遠慮はいらねえだろ!」 些か事情は違っているような気がするが、竜一の戦鬼烈風陣が群がるホスト達を薙ぎ払っていった。 ● ホストクラブの店内に居た『寄生体』とE・アンデッド。 その数はリベリスタ達ほぼ同等であるが、その均衡は『寄生』により簡単に崩れる可能性がある。 その為にも、寄生体であるホストから『子』が生まれた瞬間を察知しなければならない。 カルナの背で翼が音もなく羽ばたく。 そして彼女はホール中央のスプリンクラーへと向かった。 彼女が握ったライターに炎を灯すと、けたたましい警報音と共にスプリンクラーから夥しい量の水が撒き散らされる。 時を同じくして、高級そうなソファーに悠里が火をつける。 豪華な皮製のソファーの表皮を溶かしながら高々と上がる炎に反応したスプリンクラーが水を放出する。 「うっわ、びしゃびしゃじゃねぇか……スーツ、高かったんだぜ? どーしてくれんだよ」 甚内がブロックしていた『寄生体』、翔がスーツをバタバタと閃かせた。 「どーもこーもねー?」 『矛』を閃かせる甚内。 「あん?」 苛立つように顔を近づけた翔の顔面に矛を叩きつける。そして、矛先から放たれた気糸は翔の咥内を貫いた。 「顔無くなっちゃってもごめんやで!」 「……んの、クソガキがぁ!!」 顔面を撃ち抜かれた翔は怒号を上げる。実際、年齢は甚内のほうが明らかに上なのだが。 追いかけ、『逸脱者のススメ』が暗黒の魔力を解き放ち、翔の顔面を打つ。 「神谷ちゃん、バックルームから2体来るからよろしくねぇ~」 戦いの中でも辺りへ視界を拡大したままの葬識は、要に次の手を指示した。 「わかりました」 ステージとバックルームを繋ぐ通路入り口を要は見据え、時を待つ。 「なんだこれぇ!? ……へぶっ」 音を聞きつけてバックルームから現れた『寄生体』は、要の十字架に打ち抜かれた。 「そこなのっ!!」 テテロが叫ぶ。 その指示に、リベリスタ達はすかさずカラーボールを投擲していく。 数弾のカラーボールが行きかい、その内の2つが『子』に色をつけることに成功した。 それを狙い、、悠里の壱式迅雷と竜一の戦鬼烈風陣が炸裂する。 しかし、『子』はいまだ浮遊していた。 「二度と、お前達を逃がさない」 レンの生み出した『赤い月』が天井に輝き。 蛍光オレンジに彩られた『紅い牙』の1体が消滅した。 しかし、それと同時に悲鳴が響いた。 「あぁ……っ」 最初の寄生は、シザンサス。残った1体に身を奪われ、脳を吸い取られていく。 彼女に出来ることは最早、仲間に倒されるまでこの苦痛に耐えるのみ――。 また一方でも、状況は変化していた。 甚内の2度目のピンポイントで、翔の頭蓋はものの見事に吹っ飛ばされ、絶命した体から逃げるように『紅い牙』が離脱した。 「この辺かなぁ~?」 スプリンクラーの水が宙で止まる場所を見つけると、葬識がカラーボールを叩きつける。 べちょりと音がして、何もない場所に蛍光オレンジに塗られた何かが出現した。 先刻、子を落とされたのを見ていたアンデッド達は、『紅い牙』を護らねばとオレンジに染められたものへと向かっていく。 「――!!」 アッパーユアハート。アンデッドへ向け、要が何かを叫ぶ。 その言葉はアンデッドの心を怒りへと導く。 そして彼らは向きを変えると、一斉に要へと飛び掛った。 生命の危機を感じた『紅い牙』は、次々と『子』を生んでいく。 「カルナ!!」 癒しの術を放ったカルナの傍に蛍光オレンジが移動したのを発見した悠里が叫び、咄嗟に彼女と『紅い牙』の間に立ち塞がった。 「く……っ」 腹部に、何かが潜り込んだ感覚があった。 それは胃の中を蠢き、胸の中を這い登り、そして、凄まじい激痛が彼の頭を襲った。 「あ、あ、あぁぁぁっ」 叫びを上げているのは、痛みに耐えられないからではない。 紅い牙に寄生され紅く染まった己の歯を仲間に見せる為、悠里は自らの指に噛み付いて牙を露出している。 開いた口から漏れる声は生理的な物に近く、それに別の叫びが重なった。 「――!?」 リベリスタ達が振り返る。そこには、ステージ上で蹲る竜一の姿。 「くそっ。俺は俺の思うがまま自由に生きたいんだ! こんなヤツに乗っ取られてたまるか! あぁぁぁぁぁっ!!」 別の『寄生体』が産み落とした『子』は、竜一の身に巣食い、彼の脳を音を立てて吸い始めていた。 「子が……生まれるわ」 4WDに一般人2人を詰め込み戦場に戻ったユーヌの呪印封縛を受けたシザンサスは、痛みに耐え、言葉を紡ぐ。 「やーだもー。また増えるのー?」 『寄生体』を抑える甚内が、辟易した声を上げる。 敵を攻撃することは殆どなく、ただただ子を増やしていくだけのアザーバイド。 生の本能のままに生きる存在がこれ程までに厄介だとは。 しかし、これはまだまだ戦いの序盤に過ぎない。 ● 耳をぴこぴこさせ、テテロがカラーボールを投げる。 シザンサスに続き、悠里からも子が生まれ、それに蛍光オレンジが塗布された。 「きをつけてなのー!!」 寄生への注意喚起を行うが、アンデッドを全てひきつけた要、回復に手を尽くすカルナ、エリス。 先ほど寄生された竜一に呪印封縛を施したばかりのユーヌ。 ホストの寄生体をブロックしつつ攻撃を繰り出す甚内、連携する葬識。 シザンサスの『紅い牙』を狙うアルフォンソ。 そして、全ての『紅い牙』を倒すべく赤い月を呼び出すレン。 誰にも、周りに気を払う余裕などない。 レンの赤い月が光を放つ。 「あ……っ」 それを追うように、葛折れるシザンサス。 アルフォンソの刃に倒れたのではない。 生のタイムリミットを迎えたのだった。 ホストクラブの従業員から『寄生体』はいなくなり、残るはアンデッドのみ。 アザーバイド『紅い牙』は、全てリベリスタ達の身に宿っていた。 「まず、い……っ」 悠里の声。 牙を露出させる為、咥内に己の指を突っ込んだ悠里の手は、痛みに耐えるために力加減が出来ずに噛み締めた歯が傷つけた傷で血塗れだった。 シザンサスに次いで寄生された彼の身にも、リミットが近づいていた。 己から『紅い牙』が離脱することが近いと告げると、仲間達に『倒してくれ』と懇願する。 「……っ」 苦しむ恋人が少しでも早く解放される為に、カルナの聖なる光が辺りを包む。 その光は、アンデッドも、寄生されたリベリスタにも届き、ダメージを与えていく。 次いで、ユーヌの呼び出した不吉な影が、悠里を覆う。 アルフォンソとレンの攻撃が悠里の『紅い牙』を狙い打つ。 「……っ」 砕け散る歯。 「やったか!?」 アザーバイドが宿った牙だけを破壊すれば、寄生されたものは倒れずに済むかも知れない。 リベリスタ達は悠里の復帰を祈りつつ、ステージ上に伏した彼を見詰める。 けれど、数々の攻撃と内部からの痛みに耐え続けた悠里が立ち上がる事はなかった。 悠里から離れた『紅い牙』は、投げられたカラーボールを回避しつつ宿元を探し、浮遊を始めた。 ● 「歯医者さぁーん! 早くー! 早くこの虫歯を抜いちゃってー下さーい!」 ホストの『寄生体』をブロックしていた甚内が叫びを上げた。 それは、「寄生された」という報告。レンの赤い月により命を落とした『寄生体』から抜け出した『紅い牙』は、より近くにいた甚内を宿に決めたのだ。 葬識は、甚内の口角から覗いた『紅い牙』に鋏を突き立てた。 しかし、一撃で破壊することは叶わない。 「かはっ」 アンデッドに群がれた要の腹部に何かが入り込んだ。悠里から抜け出した『紅い牙』だ。 「寄生です……っ」 要が咥内を噛み切ると同時にユーヌの呪印封縛が飛び、要の体を拘束した。 要が『紅い牙』の宿となった事を知ると、今迄彼女を攻撃していたアンデッドは、別の獲物を求め動き出す。 アンデッドの1体が吼える。と、辺りに凄まじい衝撃波が巻き起こり、咄嗟にソファーに隠れた葬識とエリスを除いて、全員が吹き飛ばされた。 「くっ」 レンは、身を起こそうとした時に走った体の痺れに、麻痺を受けた事を知る。 逃れられぬ身に残るアンデッドの範囲攻撃が降り注ぎ生命力を削っていく。 その脇を、ソファーの影から飛び出した葬識が通過した。 半数以上が麻痺し、アンデッドの攻撃を受け続けている。寄生された仲間も多数。 現状を打破するには、『寄生体』となっている仲間の誰かを復帰させるしかない。 「はいはい、それ以上痛いのが嫌なら口、頑張ってあけなよ」 巨大な鋏が再度振り上げられ、甚内は大きく口を開く。 「おねがーい!! 歯医者さーん!!」 バギンっと、砕ける音が辺りに響く。 此処で甚内さえも倒れてしまったら、最早撤退するしかないだろう。甚内を攻撃するのは一か八かの賭けである。 リベリスタ達の間に緊張が走る。 闇の淵に沈み往く甚内の意識。しかし彼は己の運命を捧げ光を掴み取る。 「いったーい!! でも、治ったー!!」 葬識の鋏を受け、後頭部を強かに床に打ちつけたものの、甚内は戦場へ復帰を果たした。 まだ、戦える。 ユーヌの不吉の影が竜一を覆う。 シザンサスと悠里が倒れたタイミングからして、竜一の生命力が尽きるのも程ないだろう。 だからこそ、彼女が恋人に出来る事は、これしかない。 甚内のように戻ってきて欲しい。 竜一もそれを理解しているからこそ、大人しくその攻撃を受け止めた。 竜一の体を不吉の影が這い、命を蝕んでいく。 それは、彼の咥内に宿る『紅い牙』にも及び、ピシリと亀裂が走る。 しかし――。 今まで受けてきたダメージに加えても、まだ『紅い牙』を破壊するには足りない。 「く……っ」 苦しげに呻く竜一。最早、彼の命は風前の灯。 「はい 口開けてー? 歯医者みたいなもんだよー。痛いのサッサと終わらせちゃおうねー★」 「――!」 ユーヌが振り返る。 その先に立っていたのは、先ほど生還したばかりの甚内。 ダメージがまだ回復しきらない身。けれど、彼は矛を振り上げる。 やるなら今しかない。 「矛ピンポイント、ドーン!!」 生糸が真っ直ぐに竜一の口に向かう。そしてそれは、『紅い牙』を打ち砕く。 竜一の命は寸前のところで繋ぎとめられ、戦場への生還を果たした。 「回復、する」 先ほどの麻痺を回避したエリスは聖神の息吹を放つ。 それは、限界まで生命力を削られた仲間達を回復し、立ち上がらせた。 『紅い牙』に命蝕まれる要へ向かおうとするリベリスタの前に立ちはだかるアンデッド。 「邪魔だよ、出がらしが」 葬識から生み出された暗黒の瘴気がアンデッドを包み込む。 そして、開いた活路をリベリスタ達が駆け抜ける。 すり抜けざま、葬識のつまらなそうな顔を見た甚内が笑った。 「やっぱ食事は新鮮じゃないとねー」 葬識――『殺人鬼』としては、不死の存在を殺すなんてつまらない事はない。 その感情を一瞬で甚内は見抜いた。 「じゃあ手助けするか」 竜一は、両手に持つ剣を大きく旋回させ烈風を巻き起こす。 アンデッドは烈風に飲み込まれ、偽りの生命の終焉を迎えた。 アルフォンソは真空の刃を生み出すと、要へと打ち込む。 しかし、『紅い牙』は砕けない。 「……『子』が生まれます……っ」 「――!!」 「……ぁっ」 カルナの小さな悲鳴。 ステージの床に転がった彼女は、両手で頭を抑えると頭の奥から聞こえるベチャベチャという音と凄まじい激痛に身悶える。 万が一『紅い牙』が己から離れた時の為に、苦しさに耐えながら咥内を噛み切ると、口の中一杯に鉄の味が広がった。 ユーヌが呪印封縛をカルナに施した頃、竜一とアルフォンソの攻撃が要に止めを刺した。 しかし、彼女の生命力は全て奪われ、戦場に復帰する事は無く。 抜け出した『紅い牙』は新たな宿を捜し求めたが、リベリスタ達の総攻撃がそれを許さなかった。 残るは、カルナに宿る『紅い牙』。 「これで最後だ」 ユーヌの不吉がカルナの身を貫いたのを皮切りに、アルフォンソの真空刃が襲い掛かる。 エリスの魔法の矢、竜一の刃が『紅い牙』を狙い撃ち、更に、葬識と甚内の渾身の一撃が炸裂した。 そして、最後の瞬間(とき)――。 「俺がこぼしたものは、俺の手で終わらせる」 レンはその手の中に道化のカードを生み出した。 先の戦いでも、この戦いでも、道化のカードを何度使った事だろう。 しかし、これで終いだ。 「絶対に、逃がさない」 レンの想いを込めた一撃が、最後の『紅い牙』を葬り。 長い戦いは、終わりを告げた――。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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