● それは咆哮だった。 人に似つかわしくない、獣じみた絶叫が雨音で掻き消された。 「にい、さん」 オトキは自分の首を締め上げる人ならざる腕に抵抗するでもなく、確かめるように強く触れる。 その腕は既に血で濡れていて、それが誰のものなのかもオトキはわかっていた。 「ごめ……にい、さ」 呼吸がままならなくなってくる。その中で、オトキはこの世でたった二人の家族である兄達を見詰めている。 もう二度と動かなくなって、倒れ付した二番目の兄を。 化け物じみた姿になって、二番目の兄を殺し、今自分を殺そうとしている、一番目の兄を。 再び咆哮が轟いた。 それは兄の慟哭だった。 吹き飛んだ理性の向こう側で、優しい兄が殺したくないと泣き叫んでいる。 ごめん、とオトキは音にならない声で呟いた。 ごめん、いつだって損な役回りばかりさせて。 ごめん、望んだ最期を、迎えさせてあげられなくて。 だから、せめて。 ――オトキの鋭利な爪が、今にも自分を殺そうとしていた兄の胸に深く埋まった。 オトキの手には、目の前の兄とよく似た人間らしからぬ爪があった。倒れ伏した二番目の兄の足も、およそ人間のものではなかった。 彼らは三人とも、人間の枠から外れている。 けれどそれでも、彼らは人間らしい最期を望んでいた。 望んで望んで、その望みは、叶えられることはなかった。 「にいさん、にいさんにいさん」 動きを止めて倒れた兄二人に、オトキは縋る。その体温は冷たいコンクリートに奪われて行くばかりで、もう二度とその目が開くことはない。 「こんなのは、嫌だよ……! こんな最期は、いやだよ、にいさん」 悲痛な声で、ねえ、とオトキは兄達を揺する。 「どうせ死ぬなら綺麗な女の人に殺されたいって――そうやって死のうって、言ってたじゃないか。兄弟で殺し合うのだけは嫌だって、にいさん達、言った。言ったんだよ」 いやだよ、と幼い子供のようにオトキは繰り返した。 そうして、虚ろな目で大切な兄弟の命の感触が張り付いた自らの爪を、自分の喉に突き立てる。 「だれか――ころして」 切実な声は、やはり雨音ですぐに掻き消えて、二度と響くことはなかった。 ● 「革醒で身体の一部に獣の因子を取り込んでしまったノーフェイスの三兄弟が、暴走してしまうの」 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は自らが垣間見た未来をゆっくりと説明して、そう言った。 「とても、仲の良い兄弟だったみたい。苗字は柊。名前は上から、アキヤ、イクト、オトキ。 早くに親を亡くして、親類もいなくて、三人で生きて来た。 最初に長男のアキヤが革醒して、次に次男イクト、最後に三男オトキが革醒したみたい。 ――だけど、運命は彼らを愛さなかった。一人も、愛さなかったの」 そこで一度言葉を切って、イヴはリベリスタ達を見渡す。 「リベリスタは本当に、稀有な存在ね。私たちは運良く運命に愛されたけど。 この兄弟は、そうじゃなかった。そして、一番最初に革醒したアキヤは、フェーズ2に進行しようとしてる。 私の見た未来では、理性を失って、弟達を殺そうとする」 「その兄を、末の弟が殺す……」 そう、とイヴは頷いた。そして一度息を吸い直して、続ける。 「もともと、兄弟は殺されたがっていたの。兄弟じゃない、誰かに。……きっと、どうにもならないのを本能でわかっていたんだと思う。 だけどお互いが大切だから、兄弟同士で殺し合うのを何より嫌がって。人間らしく殺してくれる誰かを求めてた」 しかし時間はその望みを叶えるだけの猶予を与えようとはしていない。 見ようによっては甘えた望みだ。けれどそう切り捨てれば、兄弟達は絶望の中で死んで行く。 「ギリギリの状態の兄弟の所に行くことになるから、多少の戦いは避けられないと思う。アキヤの自我は大分薄れてる。必死に保っても暴走してしまったんだから、兄弟以外を見たら、それを引き金に暴走すると思うの。だから、どうやっても襲って来る。イクトも進行してるから、一緒になって攻撃して来ると思う。……力尽くで大人しくさせるしかない。 オトキは、しっかり自我がある。だけど、兄達の味方をするのは確か。 まず戦って、大人しくさせることができれば、みんな多少話はできるかもしれない」 できれば、彼らが望む死に方をさせてあげて欲しい、と少女は言う。 「放って置いても、自滅してしまうけど。――だけどその絶望から、助けてあげて。 あなた達の手で、最期をあげて来て欲しいの」 それができるのは、きっとリベリスタだけだから、とイヴは祈るように願うように、そっと瞑目した。 ● いつかの日、おれ達は獣化した自分達の未来を持て余して、こんな話をした。 「どうにもなんねえならさ、いっそ美人に最期を迎えさせて欲しいねえ。そう思わねえか、女好きのイクト弟よ」 「あーいいじゃんいいじゃん。可愛い子のさ、綺麗な笑顔で殺されるわけでしょ。発狂してこのまま死ぬより、随分ヒトらしい」 「でも、その子に悪くない?」 そういう最期は、あれば嬉しいけれど。おれが考え込んだら、アキヤ兄さんがぐしゃりと俺の頭をかき混ぜて、そうだなあ、と笑った。 「そん時は、俺らが悪役になりゃいいさ」 「なるほど、兄貴考えたね。がおーってこっちがやれば、正当防衛ってやつになるわけだ」 「そういうこと。――とち狂ってお前ら殺すくらいなら、俺はほんとに、美人に殺されたいね」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:野茂野 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年07月27日(金)22:52 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 生きていたい。 笑いたい。愛したい。悲しみたい。――いきていたい。 死にたくないのではない。ただ、生きていたい。 兄弟で揃って、絶望を呑み込んでも。 生きていたかった。 ――生きた証に、殺して欲しかった。 ● アークと言う組織は甘いのね、とラケシア・プリムローズ(BNE003965)は足音がよく響く薄暗い廃ビルを進みながら、思う。 放っておいても死ぬものを、わざわざ望むように殺してやれと言う。勝手に自滅してくれるのを待てば余計な手間もかからないと言うのに、それでもその依頼を受けて、これだけのリベリスタが集まった。 酔狂なことだ。黙って前を行く同じリベリスタ達を見詰めて、浮かんだ言葉とは裏腹にラケシアは薄く笑った。 (――まあ、嫌いではないけれど) 錆び付いた重いドアが『祈りに応じるもの』アラストール・ロード・ナイトオブライエン(BNE000024)の手によって押し開けられる。 ギイ、と金属質な掠れた音が短く響いて、広く寒々しいコンクリートの部屋が、リベリスタ達を待ち構えていた。 そこにあったのは大きな赤いソファがひとつ。周りにはビニール袋やゴミがところどころに散らばっていて、人影はない。 全員が進み入って、ドアが酷く軋みながら閉まる。その音が消えてから、ソファの影から人影が立ち上がった。 「だれ……?」 小柄な少年だった。耳と尻尾が揺れている。特徴から見てオトキだろう。彼は女性ばかりが複数そこにいることに驚いたようだった。 「何なの、君たち。何しに来たの?」 酷く警戒したように後退る。 「だめだよ、だめだ、帰って。帰ってよ、来ちゃいけない。だっておれたちは」 慌てたように紡がれた言葉は、『スウィートデス』鳳 黎子(BNE003921)が一歩踏み出して、遮った。 「お待たせしました。殺しに来ましたよう」 え、とオトキが言葉を失う。その後ろから、言葉に反応したようにゆらりと二つの影が起き上がった。 「……殺しに」 「来たって?」 著しく獣化の進んだ二人の瞳にリベリスタ達が映れば、そこに狂った色が差す。 「だめだ! イクト兄さん、アキヤ兄さん! ――あなた達、逃げて!!」 オトキが叫ぶ。イクトとアキヤが獣じみた叫びをあげてリベリスタ達目がけて踊りかかった。 その凶刃が瞬く間に迫る。それを見詰めながらも、『蒼き祈りの魔弾』リリ・シュヴァイヤー(BNE000742)はほんの一瞬だけ目を閉じた。 今の自分には、祈る事しかできないけれど。 「……どうか我等にご加護を、そして彼らに安らぎを」 目を開ける。同時に両手に銃を構えて、その指先の僅かなぶれまで許さぬよう、集中を高める。 「援護するわ。――少しでも自由に戦えるように」 ラケシアが、ディフェンサー・ドクトリンを発動させる。 その隣で、闇が膨れた。 「ナナがあなた達をとってもハッピーにしてあげちゃうの」 うふうふ、と笑って同じく両手に武器を抜いたのは『Unlucky Seven』七斜 菜々那(BNE003412)だった。その身に装飾のように、黒のオーラを纏う。 「望みを成就しながら死ねるなんてハッピーなの」 「ハッピーかは、わからんが……わしは……わしらは、あなた様達のような存在を倒す為の存在なのじゃ」 極限まで集中を高め、だから、と続けようとした『不誉れの弓』那須野・与市(BNE002759)の言葉は、アラストールがアキヤの攻撃を受け止めた音で掻き消された。 「手加減は、しません」 高めた力は、護りの力となってアラストールを守る。じりりと踏み止まって、アラストールは理性を失ったその瞳を正面から見据えた。まるでそこに浮かぶかもしれない可能性を掬い取ろうとするように、見詰める。 「ガアアアア!!」 けれどもその瞳からは、人間らしい感情が見つけられない。アキヤが咆哮して後ろへ飛び退る。イクトが流れるような動作でそこへ獣化した脚を振り下ろす。 その脚を『アヴァルナ』遠野 結唯(BNE003604)の銃弾が連続して撃ち抜いた。血が弾ける。イクトが叫んで距離を取った。結唯は無言で銃を下ろす。 「兄さん!!」 オトキが兄達に駆け寄る。その傷を見れば顔を歪ませて、リベリスタ達を見た。 「ほんとにおれ達を、殺しに来たんだね……」 「……そうだよ」 『ナルシス天使』平等 愛(BNE003951)はそのブロンドの髪を靡かせて、頷く。挟まれた沈黙は、短く重い。 その沈黙を破ったのは黎子だった。 「私達は貴方方の事情を知って殺しに来ただけです。 無意味に戦うつもりはありません。お兄様を止めるのを手伝ってくれませんか」 「……てつだう?」 オトキはアキヤの獣化した腕に触れて、俯いた。 傷ついた兄達、死にたいと願った、自分達兄弟。それを知って殺しに来た、人達。その人達を手伝うということ。 その状況で、今のオトキはひとつしか思いつけることがなかった。 「おれに、一緒に兄さん達を殺せって言うの」 違う、とリベリスタ達が否定する暇もない。イクトが獣じみた動きで攻撃を仕掛けた。その向こうで、オトキが悲痛な声で叫んでいる。 「やだよ」 イクトの四肢が、リリと結唯の銃弾に撃ち抜かれる。悲鳴があがる。 悲鳴を聞きつけて飛び出したアキヤがイクトを庇うように、その身体を後ろへ投げた。鋭い爪が前へ進み出ていた黎子をえぐる。 「いやだよ!」 叫んだオトキが駆け出した。人ならざる右手の爪に、初めて獣じみた意思を感じた瞬間だった。 これか。この衝動が、兄達を、兄達でなくす毒。この衝動が今、兄達を殺そうとしている。 この衝動があれば。――あの人達に、一緒に殺して貰えるだろうか。 ● 「――待って!」 オトキの前に、愛が立ち塞がった。両手を広げ、強い意志を宿した瞳でオトキを見る。 「どいてよ! 兄さん達がッ」 「初めまして!」 張り上げられた挨拶は、どうにもこの場にはそぐわない。驚いたように言葉を失ったオトキに、愛は続ける。 「落ち着いて聞いてね。これから君たち兄弟3人にすっごく痛い事をして……殺します。お仕事だから殺します」 「し、ごと……?」 「ごめんね。そう、仕事。だから無理やり正当防衛にして、自分達を悪にする必要は全然ないんだよ」 なんで、と戸惑ったように掠れた声でオトキが呟く。愛は苦笑して、その凶悪な爪ごとオトキを抱きしめた。 「大丈夫、本当は死にたくないって、わかってる。……死ぬのは誰だって怖いもん」 「こわい……こわい、怖いよ!」 オトキが叫ぶ。まるで感情の制御がきかないように、泣きじゃくる。 「死ぬのが怖い、怖い、怖い! でも兄さん達が苦しんでるのを見るほうがもっと、怖い」 でも、生きていたい。 オトキが泣いて叫べば、その爪が愛の身体に食い込む。それにも構わず、うん、と愛はただ声を聞いた。しばらくして嗚咽が収まると、オトキはまだ普通のかたちの片手で押して、愛から離れた。まだ涙は止まらない。 「……ごめんなさい。見ず知らずのあなた達に、おれ達の命を背負わせて、しまうけど。――兄さん達を、止めて。おれ達を終わらして」 「……うん。わかった」 「君の名前は?」 問われて、愛は可愛らしく、少し申し訳なさそうに笑って見せた。 「平等愛。……ごめんね、オカマなんだけど」 オトキはきょとんとして、それから涙を拭いながら、笑った。 ● ハッピーハッピー、なんてハッピー。 菜々那は暗黒の瘴気をまるで身体の一部のように操って、イクトへ叩き付ける。 望みを叶えて殺してあげる。ハッピーをあげる。ラッキーじゃない兄弟達へ。 「ナナとの出会いはどうやったってアンラッキーなの。 そういうお星様の元に生まれてるの。ナナと出会って幸せになれる人はいないの、うふうふ」 イクトはかなり消耗していた。アキヤと連携しないよう囲まれ、もう満足に動くのは普通の両手くらいだ。 正確なリリの射撃で足を貫かれ、イクトは丁度後ろにあったソファに背中から倒れ込む。獣じみた呼気は薄らいで、普通の呼吸が戻る。だがまだ瞳の狂気が抜けきっていない。 「イクト様」 銃を片方しまったリリが、倒れたイクトを力いっぱい抱きしめた。 ぬくもりが、てのひらが。それがひどく優しく安らぐものだと教わったから、それを分け与えたかった。 イクトが反射のように暴れる。だが傷つくのも厭わず、リリは離れない。 「――貴方の苦しみ、悲しみ、無念、全て受け止めます」 次第にイクトの動きが小さくなる。それを感じて、リリは腕を緩めてイクトを見下ろした。 「……ありがとね、美人さん。あったかいや……」 「イクト様……もう、大丈夫ですよ」 何とか笑顔を作って、リリは言ってみせる。イクトはその笑顔に少し驚いてから、へへ、と笑ってその頬に指を伸ばした。 「なん、か、すごい美味しい体勢……最期にこれって、贅沢。……傷、ごめんね」 せっかく綺麗な肌なのに、と頬を撫でて、疲れたように腕を落とす。リリはその手を受け止めて握った。 「貴方の痛みに比べれば、この程度痛みのうちに入りません」 「……なんで、俺達だったのかな」 ぽつりとイクトが零す。 「なんで俺達は、死ななきゃなんないのかなぁ」 目尻に涙が滲んで、滲んで、流れた。 「何で、生きちゃだめなの。生きてられないの。――死にたくないよ」 しにたくない。繰り返しながら、けれどイクトはリリが握っていた銃を、自らの眉間へ持ち上げる。 「……美人さんに似合いの、銃、だねぇ」 「そう、ですか?」 「うん。……嬉しいな。ほんとに、それで殺して貰えるなんて」 「もう、苦しまないでください」 精一杯笑って、リリは告げる。イクトは兄弟のことを気にしたように視線を巡らせてから、目を閉じた。 「あいつらも、ちゃんと殺してやってね。――ありがと。ころして?」 イクトはもう一度目を開けて、綺麗に笑ってくれるその顔を見る。 リリは微笑を絶やさないまま、引き金を引いた。 「神の御許に行かれますように――Amen」 ● 銃声が一発だけ響く。 その音で、結唯はイクトの死が見送られたことを察した。 アキヤはアラストールと与市、ラケシア、黎子が引き止めている。武器を仕舞って、結唯はオトキに近づく。 ――これが件の標的か。 落ち着いたオトキを置いて、愛は仲間への回復へと向かった後だ。銃声に静かに目を伏せていたその首に、手をかける。 「!?」 ああ。やっとだ。やっと、生者をこの手で殺せる。 驚いたオトキに構わず、結唯はその首を絞める。無口な彼女は、端的に言葉を述べた。 「滅ぼしてやる。身も心も」 オトキの表情が、落ち着きから一変して歪む。怖がるように、歪む。抵抗するように手を動かすが、結局その手は攻撃の意思を持たなかった。 生きたい。――同じくらいに、死にたい。 それを感じ取って、結唯は叶えてやれる後者の望みを叶えるために、力を入れる。 本心では生きたいと望む。身体が変貌しようが、心は生きている。 それをわかりながら、結唯は最期を与える。 「死んだ者とて想いは残る。――それは私が喰らってやろう」 言葉と共に、にいさん、と唇だけが最後に動いたオトキの身体から力が抜けた。 結唯はその首筋に、喰らいついた。 ● 「……イクト」 アキヤは銃声を耳にして、唐突に我に返った。 暴れていた腕を鎮めて、荒い息をつく。既に傷だらけだ。 弟が一人死んだことに気付いたのだろう。アキヤに、ラケシアが声をかける。 「弟達が亡くなるのを見ているのが辛いのはわかるわ。でも、最後まで頑張りなさいな。――兄なのでしょう?」 「……ああ」 ずるりと壁に添って背中を預けたアキヤは、半ば呆然とした瞳でいる。 「私達は、貴方を救えない。すまない」 アラストールが剣を下げて、その前に立つ。 「だが、まだ、運命が応える可能性は零ではない」 「うんめい……?」 本当は、生きる場所を与えてやりたい。けれどもその方法は、今のアラストール達の知る中に無い。僅かな、本当に僅かな可能性にかけるしかない。 それでも。 「人らしく死にたいと言っていましたね。戦いに負けて殺されるなんて全く人らしくありませんよう」 黎子が訴えた言葉には、苦笑が返った。 「……聞いても、良いじゃろうか?」 そっと声を出したのは与市だった。義手とそうでない手を握り合わせて、アキヤを見る。 「何故、外に出なかったのじゃ? 誰がここに居ろと、外に出てはいけないと言ったのじゃ?」 わしは機械の身体になった時、パニックになってしまったのじゃ――と、与市は問う。 アキヤはそれに、薄く笑った。酷く自重的な笑みだった。 「俺だよ。……ここにいれば、もし、暴走しても、死ぬのは俺達だけだろ?」 その時だった。どさり、と誰かが倒れるような音がする。そちらに目をやって、アキヤは見た。――末の弟の骸が貪られるそれを、見てしまった。 その行為にあった意思を、アキヤが知る術もない。 兄は、ゆらりと立ち上がる。爪がめきりと鳴る。見開いた目は閉じない。 ただ擦り切れそうな理性の中で、リベリスタ達を振り返った。 「人らしく、殺してくれるんじゃなかったのかよ……ッ」 理性を失った兄は獣じみた叫びで走る。 ソファで最初に逝った弟を右の爪で貫き抱え、末の弟を左の手で貫き拾う。 ――救い、なんて。 ――運命、なんて。 誰も俺達を、愛してはくれない。 人らしく死ぬことすら、許してはくれない。 アキヤは泣き叫ぶ。 そして、死んだ弟達の骸を貫いたままのその爪を、弟達ごと抱きしめるように自分の胸へと沈めた。 ごめんな。一緒に行こうな。 もはや言葉ではない咆哮を最後に、三兄弟は二度と動かなくなった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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