● 「で、何か、喋ってる最中に、っていうか、喋りながら? その人がパッケージからビデオ取り出して、デッキにセットしたんですよね。そしたらほら、何か、その人も喋りながらだし、僕も一生懸命聞いてたもんで、全然ビデオの事気にしてなかったっていうか。まー、そっちに気なんか向かないじゃないですか、普通に。そしたらですよ。ピッとか再生した途端ですよ。ヤバいビデオだったんですよ。びっくりですよ。もう酔いとか一気に、サーみたいな。醒めましたよね。またそれが、どう考えても、若干こう、偏った趣味のあれなんですよね。だからすーごいこう、シーンとかして。で、彼がそーっと、こうビデオの再生を止めたんですけど。で、ちら、とかこっち見るんですよね。いやー、もう完全に、そんな見られても、みたいな。困りましたよねー」 とか、芝池がわりとノリノリで、ついこの間飲みに行った際の知り合いとの出来事について喋り終えると、 「ふーん」 とか、思いっきり気のない返事を、というか、これぞ気のない返事の代表みたいな返事を、というか、何らかのメディアに「これぞ気のない返事の例」とかって公開したいくらいの気のない返事を、アーク所属の変人かつ無駄に美形のフォーチュナ仲島は、しかも、何らかの書き物をしながら、返した。 何かもうその、あんまりの温度差に、芝池は思わず、 「いやまあ確かにそんな盛り上がる話ではないですけど。でも、もうちょっと何か、リアクション、ないですか」とか、でもまあいつもわりと気のない返事とかを返してしまっている身としては、さほど強くも言えない気もしたので、そこは控え目に、拗ねた。 そしたら何か、 「うんじゃあさ、言うけどさ」 とか、まるで今から戦いますっていう宣言にも聞こえるような言葉を、仲島は、相変わらずの覇気のなーい感じで言って、パタン、とペンを置き、こちらを向いた。 そして、 「その人は何なの、芝池君の事が好きなの」 とか、そんな意味不明な事を言った、相変わらず何考えてるか分かんない美形の顔を、芝池は思わずちょっと見つめた。「え」 「え、じゃないでしょ。だってその話の設定がそもそもどう考えたっておかしいでしょ、そんなん飯食った後、じゃあ俺ンちでDVDでも観る? ってならないでしょ。ならいないよね。何だったら恋人同士の会話だよね。同性同士でそんな事ならないよね」 「いや別になりましたんで実際」 「しかも何それ。そこでそんなベストタイミングでエロいビデオとか、いやいや、ないでしょ。そんなわけないでしょ。これもうあれでしょ、確信犯でしょ」 「いや何をどう確信した犯人なのかも分からないですし、そもそも、エロビデオ再生して、その人に利点が全くないですよね」 「驚いた顔とか、嫌がった顔とかが見たかったんじゃないの、芝池君の。可愛いから」 「いやそんな、仲島さんじゃあるまいし」 「いや分かんないよね。だいたい「あれ」も、偏った趣味の「あれ」だったんでしょ。っていうかそこはどう偏ってたのよ、詳しく聞かせてみてよ。そこ大事だもんね」 って言った顔をまたちょっと芝池は見つめて、はい。とか軽い感じで両手を叩き合わせた。 「じゃあえーっと、この話はここで終わりってことで。えーっと。何でしたっけ、依頼、トンネルがどうの、とか言ってましたよね」 「え何それ。自分で言いだしといて、何それ。だいたい、リアクしろって言ったの芝池君だよね」 「確かあれですよね、抜けられないトンネルとか言ってましたよね。これ実は、トンネルを入ってずんずん進んで行くと、その先が、出口ではなくて、D・ホールだったっていう事なんですよね。現状的には、元々ほとんど使われてない朽ち果てたトンネルだったので、幸い被害はまだ少ないけれども、行方不明者とかも出だしたもんで、心霊スポットとか言われて、ちょっと脚光を浴びつつある、みたいな。いやーこれはもう、心霊スポットなんかになっちゃったら、大変ですもんね。怖いですよー。さっさとD・ホール塞いどかないと駄目ですよね、うん。絶対駄目だうんこれもう」 とか、必死に喋ってますよってふりで、というか、ある意味必死で、だーって喋って、ちら、とか、仲島を見たら、研究者が珍しい動物を見るような目で、じーっとかこっちを見ていて、芝池は益々何か、追い詰められ、追い詰められた現実から逃れるべく、喋った。 「しかも、トンネルの中腹辺りで敵とか出現しちゃいますしね。これも面倒ですよね。でも、それより何より、一番大きな出口を塞いでいるD・ホールの手前の地面の問題が面倒ですよね。まずこの地面が、別世界からの影響なのか、何かこう人の内臓みたいにぶよぶよ、ヌメヌメしてて滑りやすくなっている、って事でしたよね。しかもそこには、巾着の口の部分みたいな穴が幾つかあって、これはつまり、小型の、人の腕くらいの細さのD・ホールってことみたいですけど、そこからこう、イカやタコの足のような、ぬるーっとした百センチくらいの足っていうか、手っていうか、紐っていうか、何だか良く分からない物が伸びて出てくるんですよね。巻きついて、D・ホールに放り込もうとしてきたりもするらしいんで、注意が必要だ、って事でしたよね」 で、また、チラ。 同じ肘をついた体制で、ぼーっとか芝池を見つめていた仲島は、やがて、「うん、そうね」と、素っ気ないのか覇気がないのか、分からない感じで、答えた。 「あ、ですよね」 って、思わず相手が話に乗って来た事にテンションが上がり、「いやあ、怖いですね。こんなD・ホール。さっさと塞いでしまわないといけないですよね」とか調子に乗って思わず続けると、また「うん、そうね」って返事が帰って来たので、よしじゃあここで畳み掛けるぞ、さあ、さっさと素知らぬふりで帰ってしまえーって立ち上がりかけたその時。 「で、気は済んだ?」 って全く表情一つ変えてない仲島が、ぼーっとこっちを見ながら、言った。 浮かしかけた腰が、固まる。 芝池は、何だかもうすっかり、負けた気がした。 「じゃあ、とりあえずどう偏ってたかのくだりから話を聞く事にするけど、いいよね」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:しもだ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年07月27日(金)22:49 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 8人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
●一人の少年の緊急事態。 その時『羊系男子』綿谷 光介(BNE003658)は、現実から目を逸らし、体育のプールの授業の事について考えていた。 具体的には、プールの授業が終わった後にどういうわけか更衣室から見つかってしまう「誰かのブリーフのくだり」について、考えていた。 それはいつもプールの授業終わりで唐突に出現し、こちらの心拍数を若干上げてきたりする代物なのだけれど、それが出現する度光介はいつもこう思っていた。 どうしてそんな大事な物をうっかり忘れてしまうのか。と。 いや、絶対忘れないでしょ、と。パンツ穿くの忘れないでしょ、と。 だいたい、あ、俺のパンツないわ! っていつどの時点で気付くのか、むしろ、あ、俺パンツ穿いてないわ! っていつどの時点でハッとするのか、そしてその気付いた時の危機感はいかばかりなのか。 でも今は、その危機感が少し想像出来る気がする。 パンツはきっとその忘れた人にとっては身体の一部で、あんまりにも身近で身近な事だからこそ、うっかりと更衣室での着替えとかいう、ある種の戦場のような慌ただしさのような中で流されるようにして忘れさられてしまい、大事な局面になって、例えば友人と一緒にトイレに入ってしまった時とかになって、彼はその今月最大の試練とかに気付くのだ。 あ俺今パンツ穿いてない! やばい! あの時だ! 忘れてきたんだ! と。 でもばれたくない! そんな事絶対ばれたくない! パンツ穿いてない奴だなんてばれたくない! で、そんなパンツ……いやパンツはもーいー。つまり今日の問題は過去なのだ。今日のボクの差し迫った問題は過去だ。占い師だ。占い師の見る過去だ。 何をそんな油断していたのか、と数十分前の自分に問いたい。 だから更衣室でパンツ忘れるみたいに、自分のクソ恥ずかしい過去の事もうっかり忘れちゃったりすんじゃないか。そして今しも突き付けられようとしているんじゃないかっ! 緊急事態だ。これこそが緊急事態だ。パンツ忘れるとかパーマがおばさんみたいになっちゃったとか、超えてくる緊急事態だ。どうしよう。ばれたくない。絶対ばれたくない。実は七歳年上の姉が大好きで、彼女の纏う甘い香りも大好きで、放課後はいつも姉が帰って来る前にほんのちょっとだけ彼女のベッドに……。 いや駄目だ。考えたら駄目だ。あの占い師もどきに見抜かれでもしたら。そんな若干変態チックな所があるんですね、と勘違いされかねないエピソードをここで暴露なんてされたら。そんな若干アブノーマルな匂いのするシスコンエピソードをここで暴露なんてさ。 ●とかいう、緊急事態の数十分前からのくだり。 「D・ホール周辺に変なものが有るのはやはり、D・ホールの影響でしょうね」 ぽっかりと口を開ける仄暗いトンネルの中を見つめながら、小鳥遊・茉莉(BNE002647)が、言った。 「とりあえずはそこに取り込まれるだかしてノーフェイスとなった人たちを排除しなければなりません。犠牲者には悪いですが、とっとと片付けて穴を閉じないといけませんね」 すると隣の『黒太子』カイン・ブラッドストーン(BNE003445)が、切れ長の目を細めながら「ふむ」と、顎を摘んだ。 「それにしてもトンネルを抜けるとそこは別世界だったというのは、笑えぬ話だな。しかもその世界はタコだがイカが溢れている世界だというではないか。笑えぬぞ、一切笑えぬ。だいたいD・ホールを塞ぐのに、そのイカだかタコだかに絡まれるのだろう? 笑えぬ。一切笑えぬな。しくじった。笑えぬ」 って言ってる顔は、確かに一切笑っていない。どころかむしろ若干怒りすら滲んでいる感じだったので、もしかしたら受ける仕事を間違えてしまったとか、そういう何か手違いがあったのかも知れない。 その斜め後ろでは、前髪パッツンの着物姿の小柄な座敷わらし、いや『朝蜘蛛のナチャ』ヤマ・ヤガ(BNE003943)が、「ふむ。入ったら出られない、とな」とか何か呟いていて、「こういう場所はこっそりと謀殺に使われそうだからの。そう軽々しく素人に使われても困るし、さくさくと壊してしまおかの、の?」って丁度横に居たからっていう理由で『Unlucky Seven』七斜 菜々那(BNE003412)を見ていた。 見られた菜々那は、「えーっと」と、一旦は何かそれらしーこと言おーみたいに考えたけれど、やっぱり何も思い付かなかったらしく、「うん! 何でもいいよ! とにかくナナにおまかせだよ!」 と、サムズアップを。 って勢いだけでとりあえずいろんな事を片づけようとしている。 そんな菜々那の後ろでは、今日も元気にアホ毛を揺らす『シトラス・ヴァンピール』日野宮 ななせ(BNE001084)が、 「でも、ホラーは大好きですので、心霊トンネルちょっと楽しみです日野宮 ななせです宜しくお願いします!」 ってにこにこしながら、一応強結界とか張っていたのだけれど、その近くをうろうろしていた『すもーる くらっしゃー』羽柴 壱也(BNE002639)の、「ねえねえところで仲島くんと芝池くんってどんな関係なの」とかゆー、誰に言うでもない言葉にアホ毛をピン! と一瞬、尖らせた。 「えっ仲島さんと芝池さんの……関係……?」 「あと胡散臭い占い師って何なの馬鹿なの」 その間にも壱也はやっぱり何かうろうろしていて、最終的には光介の隣でそんな事を言っている。 「さー」と、苦笑を浮かべながら光介は小首を傾げた。「でも、一応日々まっとうに生きてますので、今回は何かを見抜かれたとしても全く怖くないですね」 そして爽やかを通り越して何かもー不敵なくらいの笑みを浮かべる。 「ふーん、そうなんだ?」 「はい。見抜かれた所で平穏な日々のどーでもいー話しかないんで大丈夫です。平穏万歳です、つまらない奴でいいんです、生真面目最高です」 「まーそうだね。綿谷君はそーだろね」 ってまーそこんとこはわりとどーでも良かったので、「で、あとやっぱり仲島くんと芝池くんってどんな関係なの」とかやっぱりそこに戻った壱也の問いに、ちょうど前に居た菜々那が振り返り。 「ねえ、仲島君と芝池君の関係」 「えーっと……うん! 何でもいいよ! とにかくナナにおまかせだよ!」 と、サムズアップを。 したけど何かちょっとシーンとかしたその横を、ピューッ! と何か小さな物が横切って行った。 「なんか知らんけどとにかく悪はたおーす! あなはふさーぐ! あと床は飛ぶ! とーう!」 って、え、あれ? 今突風とか吹いたんですかね、と思って見たら、もーそこには何もなくて前方を見たら、『ひーろー』風芽丘・六花(BNE000027)の小さな背中がもー勢いだけでトンネルの中に突っ込んでいる。 その後暫くその場はまたシーンとなった。 と思ったら、すぐにエコーのかかった声が響いた。 「ぎゃおー! さっそくえりゅーしょんがあらわれたのだーーー!」 ● そんなわけで一同は、慌ててトンネルの中へと走り出した。 現れたのは、ノーフェイス達。事前に知らされている情報から、まずは回復系の行動を行う助手をやっつけてしまおうという作戦だった。 とか、知ったこっちゃないわー! みたいに、六花がもー何かいろいろやっていた。 具体的には、「うおー唸れアタイのドラゴンなもんしょー!」とかって走りながら、何かこうわりと理不尽な感じの神秘のパワーとかを溢れさせたりして、つまりはマナブーストして、「唸れアタイさんだー」って雷をばら撒いたりして、つまりはチェインライトニング放って、「チェインライトニングサソリ固めーっ!」って何がどうサソリなのか全然分からないけど、っていうか、もー全然サソリ関係ないんだけどとにかく叫んで、トンネルの中をバッチバチ明るくさせたりしている。 っていう自由な感じが何か苛っとしたのか、助手がすかさず落ちていた小石を拾い、六花に向かい投げつけた。するとそれがまた凄い命中率で、わー! みたいにそこら中を走り回ってる彼女の頭にガッキーン! と、命中。 「いたー! あほー!」 ってがーんって横に飛んだ頭を戻す勢いで叫んだ六花は、「仕返しなのだー! フレアバースト卍固めなのだー!」って、フレアバーストを今度はしっかり助手目掛けて放った。 敵を包みこむように、ぶわああおおおお、とか凄まじく燃え盛る炎。 から、助手を救いだそうと躍り出てきた弟子達。 には、「さあ、いっちょやりますかー!」とか、はしばぶれーどと共に勢い良く飛び出して来た壱也がすかさず命令! 「ちょっとそこの兄ちゃん。言っとくけどわたしだっていろいろ見えるんだよ」 じーっと目を見つめて腕を組み、「実はきみは、隣のあいつが好き! ドーン!」って言ってビシィと指をさした。 「さあ、その思いを今ここで暴露しちゃいな!」 ってそれはつまり命令でも何でもなくて、ただの趣味だった。 でも、弟子は何か分かんないけどその勢いだけで何かもうガーン。 何か分かんないけど、何かガーン。 むしろ「っていうか、え、もしかして俺、本気でこいつの事好きだったんじゃあ……」みたいに隣を見て……目逸らし……何だかとっても気まずくなる二人。 「違う、そんなんじゃ駄目だ!」 と、そこで隣に出て来たカインは、何かもう血が騒いじゃいました、みたいに「見よ! これが正しい命令の仕方だ!」とか何か、良く分からない所に燃え、意地を見せ出した。 「さあまずは、びしりと直立不動し胸を張り、弟子に向かって吠えるのだ」 魔力銃の筒をぴしっと上向け、足をピチと合わせて、美しく気を付け。 「貴様! 両足の踵をつけ、両膝をつけて伸ばし、胸を張り、顎を引き、口は閉じて、肘を伸ばして、指を揃えて腿の外側につけろ! よし! それがきおつけの姿勢だ! そう、気をつけ!!!! 整列!!!!! 敬礼!!!!!」 ってトンネルの中に響く美声に、弟子今までにないくらいの衝撃を受け、ガーン!! たまらんくらいにガーン! いやんガーン! もっと言ってガーン! もう一生アナタについていきますガーン! って何か良く分かんないけどぷるぷるし出している弟子を、カインはその美しく整った切れ長の瞳で、じろっと。 弟子またガーン! むしろ、きゅーんっ。 「いいか貴様! くだらない戯言に惑わされるな! 我の言葉を信じ、我に従え! サーと言って我を敬え!」 「サーッ! イエッサー!」 「こらー! 貴様ー! 誰が動いていいといった! 我は貴様らに許可を出してはいないぞ!」 「サーッ! イエッサー!」 「なるほど。そうやるんだね。じゃあえっと、そこで気まずく見詰め合ってる貴様と貴様ー! ちょっと手を取り合いなさい。うんそう。そうそう、ほんでこう、ちょっともじもじして、うん、そこでもうお前行け。行っちゃえ。こうガッと。我慢できませんでしたって感じで。うんうん。それで抱き合っちゃえばいいよ。いやむしろ抱き合え! 強く、しっかりね。うんそう、そう! もっと! もっとだよ! もっとこう、熱い思いをぶつけなさい! 抱擁は思いを伝えるためにあるんだよ、ガシッと。こう、ガシッ、いやもう分かんないかなああ。こう、がしっとだよ、まさぐりあうんだよ、もう何だったらキスとかしちゃうくらいだよ! アメリカンな感じだよ! そこは獣だよ! っていやもう分かるでしょうよ!」 とかいう間にも、茉莉が、フレアバースト終わりの助手に向かい、飛行して飛び込んで行く。 葬送曲・黒を発動すると、その細身の身体から、幾重にも重なる黒い鎖が出現し濁流のように流れ出た。 自らの血液を実体化させた黒鎖は、彼女の意のままに流れ、大きなうねりを作り、重く冷たい波の中に助手を呑み込んで行く。 「さあこれで回復の手はなくなりますね」 危機感を感じたのか、胡散臭い男は水晶を構え、とにかく攻撃だ! と思ったら、菜々那の放った暗黒がズサーッ! とか飛び込んで来た。 「もー何か面倒臭いから暗黒で全部まとめて撃っちゃうの。うん」 ほのかにストロベリーレッドの柄頭を持つ、「Serpent tail」と「Serpent head」を対にさせ、弓矢状の武器にした菜々那は、そこからどんどん暗黒を放っていく。 その身体から放たれた暗黒の瘴気が、男の攻撃の手を止める。逃げ回りながらも男は、 「あ、わりと見えましたよ」 って何か分かんないけど見えちゃったんでいいます、みたいに言って、びしっと指さした。 誰を。 今しも、トラップネストを発動し、胡散臭い男の動きでも封じておくかの、とか思っていたヤマを。 「ほう。ヤマのしょっぱい思い出を見るというか。ほむ。ではあれかの。ごじっさいだかろくじっさいだかの時分に、メキシコでしこたまテキーラ飲んで三日三晩苦しんだ辺りのくだりかの? いやあの頃はあの国も大概野放図でなあ。最初に出されたミルクを隣の客の額で叩き割ったらマスターから奢りが入ったんだ。ヤマはこの通り、見た目が歳と共に変化しない特異な体質なんでな。あの頃はそんな自分の見た目を気にしてつっぱっとった。酒は楽しく呑むものだちうになにを無理しておったのやら……。ちうわけで。年喰うと恥も増えるものだが、今更恥ずかしうて動きが止まるよな事は無いわなあ」 「いやあのー先に言われたら駄目ですよね。これから俺が見るんですよね、自己申告駄目ですよね、俺が見るんですよね」 って胡散臭い男思わず地団太。 この間、光介は、後方ですっかり顔面蒼白になっている。 光介は何も考えられない。光介は茫然としている。光介は若干冷や汗をかいている。光介は困っている。 光介は……。 とかいうそこへ飛び込んで行ったのは巨大な鋼のハンマー「Feldwebel des Stahles」を構えたななせで、 「飛んで火に居る夏の虫ー!」 って実は良く考えたらあんまり良く分からない格言を叫びながら、胡散臭い男へ向け、今日も元気にメガクラッーシュ! ドーン! その腹の辺りを思いっきりドーン! 男吹っ飛んで壁にドーン! その音で光介我に返って、ドーン! むしろ、トイレに行きたくならなければ、パンツの事なんか思い出さなかったのに! 「さあ遺言は……ありますか?」 素朴な羊男子は、今までに見せた事のない酷薄な表情で指を空へと掲げる。今すぐこの危険な胡散臭い男の口を塞ぎにかかるのだ。 今こそボクの中の全ての力よ、集まれ! 「術式、堕ちた羊の殲滅歌! マァァァァァァァジーーックアロォォォォォォォ!!!」 ってそんな全力なマジックアローみたことない、みたいなマジックアローでとどめを、さした。 「さてと。じゃあそろそろこっちも終わりにしなきゃみたいだね。残念だけどここで終了。じゃあばいばい!」 そうして助手や胡散臭い男が倒れたのを察知した壱也は、メガクラッシュで弟子を。 「滅びこそ我が喜び。死にゆく者こそ美しい。我が闇の波動の中で息絶えるがいい!」 カインもまた、暗黒で弟子を。 それぞれ始末した。 ● で、その頃、真っ先にトンネルに突っ込んだ六花は、やっぱり真っ先に、「人の内臓みたいにぶよぶよ・ヌメヌメして滑りやすくなっている床」ゾーンへと突入していた。 ぱんちやキックや飛び蹴りやドロップキックを駆使して、果敢に小型バグホールから飛び出るイカやタコの足みたいなのと戦っていた。 でもどう見ても子供が無茶に暴れ回っているようにしか、見えなかった。 「にょわー! やめろアザバーッ! ぶっとばすぞー!!」 挙句、足を取られずっこけながら、ばったばたして叫んでいた。 続いて飛び込んだななせは、やっぱり足を取られて、そしたら何か向かいからにょき、って伸びて来たイカ足に触覚アホ毛を掴まれて「駄目です! 触覚は駄目ですぅー!」とか何か叫んでいた。 でもイカの足は、聞こえませーんみたいに、アホ毛をくりくりとかきまわす。 「ううううう」って苦しげに震えるななせ。 って何だろう、ちょっとエロい。 結局アホ毛を触られてるだけなのだけれど、何か、エロい。 どうしてなのか分からないけれど、何か闇雲やたらにエロ……。 ってちょっと頬とか染めながら見ていた光介は、ハッと振り返ったななせに見つめられ、そっと目を逸らした。 「ブレイクゲェェトっ!」 もうそれしか考えてませんでしたよ! みたいに、ブレイクゲートを発動する。 その間にも、やっぱりタコイカに足を取られる壱也は、はしばぶれーどをぶんぶん振り回し、ばっつんばっつん奴らをちょん切っていた。 「絡みつくなコノォ!! わたしにそういう趣味はない! わーやだ!! 気持ち悪い!」 とかいう間にも菜々那は、ウネっとか伸び出して来たタコ足をすかさず引っ張り、 「わー! はははは、何だこれー。変なの出てきたよー!」 とか、名伏しがたきナントカをその場に出現させたりし。 「駄目だ! これは駄目だ! 食えるタコイカとかならいいけど、これは駄目だ! さっさと元に戻せ!」 慌てて駆けつけたカインが、それを思いっきり穴の中に押し込んだ。 とか、そんな凄い一生懸命頑張ってる一同を、後方からぼーっと眺めていた茉莉が、徐に、言った。 「というかそれ、フレアバースト辺りで焼き払えれば良いんじゃないでしょうか?」 凄い冷静に、言った。 !!!! そうして今日もリベリスタの頑張りでバグホールは一つ姿を消したのだった。 |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|