●とある町の喫茶店にて 常連客の木村さんが、昨日見たらしい映画のあらすじを、一生懸命喋っていた。 でも、一生懸命喋れば喋る程、もーその映画がどんなあらすじなのか、どんどん分からなくなっている、という残念な結果になってしまっていることを、木村さんは気付いていない。 裏切り物、とか、彼、とか、復讐、とか、暗号みたいに言葉がどんどん出て来て、彼って一体誰なのか、誰が誰に復讐したいのか、っていうか、どうしてその人は復讐したいと思ったのか、とか、その辺りがもう全然行方不明で、でも、木村さんはめっちゃ一生懸命喋ってるので、椎名はぼーっと聞いているふり、をやっている。 で、そんな事をやりながら、頭の中ではどういうわけか、全く好きでも興味があるわけでもない「こんにゃくの作り方」について考えていて、特に、すりおろしたイモを火にかけて、延々かきまわしながらだまを取ったりするシーンが、何でかもう延々頭の中で再生されて、あーどーしよー、別に一回もこんにゃくとか作った事ないのにどーしよー、凄い今作りたくなってきたどーしよー、とか、思っていた。 カウンターを挟んだ向かいでは、唾を飛ばし、顔を若干紅潮させた木村さんが、いよいよ迫って来ているらしいクライマックスのシーンについて、語っている。 物凄い熱意がむんむん漂っている。でも、全く理解が出来ない。 そんなけテンション上がっちゃうクライマックスに参加できない事が、最早若干残念だとすら感じ始めた頃、カラーンとか、店のドアに取り付けられたカウベルが、鳴った。 ぼーっと、椎名はそちらを振り返る。 木村さんも、何だよ今いいとこなのにーみたいに、振り返った。 で、ちょっと、「え」みたいになった。 茫然として、言葉が止まっている。 でもそんなん全然気にしてませーんみたいに入って来た、その、笑顔だけ見るととっても人の良さそうな美形眼鏡の男の人は、カウンターのスツールに、さらーっと腰掛け、 「ねえねえ椎名君、コーヒー」 とか、言った。 凄い自然に、言った。 なので椎名は、その顔を、ちょっとぼーっ、とか、見つめた。 「っていうか辻さん、思い切り眼鏡割れてますけど、大丈夫ですか」 「うん大丈夫だよ」 ってそんなあっさり言うからには、いくらあり得ないくらい眼鏡の片方のレンズが割れていたとしてもきっと大丈夫に違いなく、椎名はもーさっさと仕事に戻ることにした。 そしたら木村さんが、「事故にでも、遭われたんですか」とか辻に聞いていた。 聞かれた辻は、「そうですね。いきなり道端で女性に思いっきりビンタされて、眼鏡が落ちたんで拾おうとした矢先、興奮して向かって来た彼女が、眼鏡に気付かず踏んじゃった、という事故に遭いまして」とか、真面目な顔で答えていた。 「あー、へー」 こういう時のリアクションの方法なんて、習ってないのにどうしたら、みたいな木村さんの間延びした声が、店内に響く。 椎名は無言で、カウンターにコーヒーを置いた。 辻は、出されたコーヒーを無言で飲んだ。 とか、そんな沈黙に耐えられなくなったのか、木村さんは、じゃあまた続きは後でね、とか何か言って、去って行った。 あんなに破綻してしまったあらすじをまだ喋る気なのか、何だったらまた最初からじゃないのか、むしろ、あらすじを喋るのが極端に下手な人なのだと教えて上げた方がいいんじゃないのか、とか何か、複雑な思いで、椎名は木村さんを見送った。 「で、鍵、盗んでおいてくれた?」 彼がいなくなると、早速みたいに、辻が言った。 「盗むって言い方やめて貰っていいですか。僕は辻さんに言われて、ちょっと借りただけですし」 「面倒臭いよね。何で空き地にあったプレーヤーなんて持って帰っちゃうんだろうね」 「さー。まだ使えそうなのに捨てられてあったから、持って帰っちゃった、とか言ってましたね」 ふーん、とか、もー全然興味ないですけど、みたいに覇気なく頷いた辻は、カウンターの鍵を手に取り、眺めながら、言う。 「じゃーとりあえず、この鍵から合鍵作って、あとは、椎名君が木村さんと夕食とってる間に、リベリスタの人達にこっそり自宅へ忍び込んで貰って、作戦を実行して貰うって感じでいいかな」 「はーそうですね、そんな感じでいいんじゃないですか」 「っていうかさ、椎名君もさ、さっさと三高平に来て、アーク所属のフォーチュナになってくれないかな。いろいろ面倒臭いからさ」 「んーでも、バイトあるんで」 「喫茶店なら三高平にもあるよ」 「はい」 「うん全然今の聞いてない返事だよね」 「はいすいません、っていうかすいませんついでにその眼鏡、外して貰えないですか、ちょっと苛っとするんで」 「それはあの女の人に言ってよ。眼鏡割ったのあの女の人だし」 「っていうかそもそも、眼鏡を割られるような事したの、辻さんですよね」 って言ったら、何かぼーとか、こちらを見つめた辻が、 「ねえねえ、それにしてもさー。アザーバイドによりこの世界に持ち込まれた「別の物体」が、この世界で言う「DVDプレーヤー」と「DVD」に変化しちゃうって、そんな事あるんだね。革醒って怖いね。しかもさ、「革醒DVDプレーヤー」で「革醒DVD」を再生すると、その映像を見ている者が、映像の世界の中に「落ちて」しまうなんて」 とか、マイルドに話を変えて来た。 でも別に、椎名としても話を膨らませるつもりもなかったので、 「ちなみにこのアーティファクトって、この世界のDVDを再生しても、落ちてしまうとかあるんですかね」 とそれに乗っかることにした。 「さあ、どうなんだろうね。試してないから、分かんないよね」 「あと、やっぱりその眼鏡だいぶ苛っとするんで、外して欲しいです」 「敵も出現しちゃうからね。そういえばあの、危ないノーフェイスの「A」は、とにかく若い男子が好きみたいだから、そういうリベリスタの人達がいるなら、それでおびき寄せるって手もあるかも知れないよね」 「んーもう何か全部その眼鏡に持ってかれて、段々話入ってこなくなってます、今」 「本当、映像の中に落ちちゃうってねー。面倒臭いよねー。しかもこれ、入るのは簡単だけど、出るためには条件を満たしていないと駄目みたいだしね。敵を全て討伐している状態で、アザーバイドと一緒に、礼拝堂にある「何か」を調べると、映像の世界は崩壊し、元の世界に戻ってこれるようになるらしいって」 「胡散臭いですよね、それ。誰から情報なのかも分かんないですし。っていうかだいたい、眼鏡割れてる辻さんが言っても何も説得力ないっていうか」 「だからそれはあの女の人に言ってよ。眼鏡割ったのあの女の人だし」 「うんだから、そもそも眼鏡を割られるような事したの、辻さんですよねって」 って言ったら、またぼーっと、辻が聞こえない振りで椎名を見つめてきた。 抑揚のない美形。のひび割れた眼鏡。 「いやもうほんと、その顔でこっちとかじっと見るのやめて下さい、苛っとするんで」 目を逸らしながら、椎名は、言う。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:しもだ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年07月25日(水)23:00 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● プールの前を通り過ぎた時だった。 斜め前を歩いていた『シトラス・ヴァンピール』日野宮 ななせ(BNE001084)のアホ毛が、凄い反応の仕方をした。 「今、何らかの電波を受信しました!」みたいに、プールの方へと引き寄せられるようにして尖ったそれが、明らかにここに何かありますよ! みたいに、ぴこぴこと動いている。 とかいうそれを内心では静かに「え」とか思いながらも風見 七花(BNE003013)は、どうしていいかもあんまり分からないので、とりあえず何か黙って見ていた。 そしたら突然、バッ! とか、プールを見たななせが、「匂いますね」とか、言った。 匂い。 匂うのだろうか。 七花は、匂いますね、と言われたからには何か、プールの方に鼻を向けてみて、くんくん、と匂いを嗅いでみることにした。 「確かに、そうですね。澱んだ水の匂いはしますが」 と、真面目な顔で言ってななせを見たら、「え」とか凄いきょとんとした顔で言われた。 「えって、え?」 「いやあの。そうですね。匂いっていうのはそういうことじゃなくて」 「はい」 「あ、いやはいっていうか」 とかやってたらいきなり、背後からガンッ! ってわりと凄い音がしたので七花は振り返った。 「いやあごめんごめん、何かぼーっと歩いてたら、ぶつかっちゃって、あはは」 って何が可笑しいのか全く分からなかったけれど、アーベル・B・クラッセン(BNE003878)は笑いながら足とかさすっていて、その脚元を良く見てみたら、プールサイドに置かれてあった白い椅子の位置が、明らかに何かずれている。 「で、どうしたの、何かあったの」 とかいう一連のくだりはもう全くなかったかのようにして、アーベルは近づいて来た。 「はい。実はわたしは超直観中、触覚アホ毛がダウジングのようにぴこぴこ動くんです、そして今、何かを発見したんです日野宮ななせです、よろしくお願いします」 そして深く一礼。 「あ、これはこれはどうも丁寧に、えーじゃあ、別チャンネルから持ち込んだ物なら意外と異世界チックな物があったりするんじゃないかなあ、とかそんな超直観中のアーベルですどうも」 「あ、じゃあ、アーベルさんにも超直観の触覚あるんですかー? えー何処ですかー」 「うん何かそんなある前提で来てくれてる所大変申し訳ないんだけど、多分ないかな俺には」 「そうですか、残念です」 「うん何かそう言われると凄い残念だよね、考えた事なかったけど、そう言われると凄い何か残念……」 って別にどうでもいいループにハマりかけた所で、一人わりと冷静な七花が、「すいません」と、口を挟んだ。 「それで、このプールには何があるんでしょうか。見た所何もなさそうですが」 「えーっと。何かは、まだ分からないですけど」 「んー」 じー。 そしてななせとアーベルは、二人して葉っぱとか浮かぶ濁った水面を食い入るように見つめる。 と。 そしたら突然、ザバーっ! とか何かが水面から勢いよく飛び出て来た。 「敵……!」 と、七花は身構えかける。 けれど。 「え、何これ」 茫然としたアーベルの声が、呟いた。 ●インターバル 黒い画面がある。 始めは黒い画面だったそれに、ブチン、という微かな音と共に灯りがともり、映像が映し出される。 「だからね。あたしはそんな彼のために、あいつを殺そうと決めたんよ!」 粗い画像の中に、オレンジ色の髪をした色白の女性がそう叫んで拳を握る姿が、見えた。 「待ってくれよ、姉さん! 俺は姉さんにそんな事をして欲しくない。もうあいつの事は忘れてくれよ。あれは運命だったんだ。俺が支えるから……姉さん、俺じゃ駄目なのか」 金髪のきりっとした美貌の青年が、そんな彼女に食い下がるように懇願した。 という、演技をした。 というか、演技と分かるくらいに、何だかもうとっても棒読みだった。 「ごめんなさい。でも、あたしの事は誰も止められないの! どうか分かって、お願い」 そんな彼とは凄い温度差で、テンションの高い芝居をする彼女は、勢い良く青年の手を振り払い走り去る。 そしてどういうわけか、そんな二人を見守る部屋の隅の座敷童子。 「姉さん……」 姉の背中を無念そうな表情で見送り立ちつくす青年。 の、アップ。 「いやごめん。ちょっと待って、鈴姐。その軽い博多弁は台詞読む時直さねえの」 とか言った青年が突然こっちを見た。 暗転。 流れるテロップ。 「プロローグ」 ――キャスト。 復讐に燃えるBの婚約者役 『十徳彼女』渡・アプリコット・鈴(BNE002310)。 そんな姉にもう夢中! シスコン気味の弟役 『輝く蜜色の毛並』虎 牙緑(BNE002333)。 何故か座敷童子役 『朝蜘蛛のナチャ』ヤマ・ヤガ(BNE003943)。 ● 「ってゆー設定で今日は何か仕事するらしーよ」 定期報告を終え、また屋敷の中へと戻るべく壁をよじ登って行く牙緑の姿とかを双眼鏡で眺めながら、『息抜きの合間に人生を』文珠四郎 寿々貴(BNE003936)が、言った。 そしたら、同じく待機班として礼拝堂近くで待機しつつも、一応「元の世界に帰るのに必要な何か」とは何なのかを探したりしてみてる『デンジャラス・ラビット』ヘキサ・ティリテス(BNE003891)が、顔を上げ、「ふうん」とか、ぼんやりとした返事を返した。 「で、あの水着姿は、復讐する婚約者のくだりと何か関係があるのかな」 「さー。純白だし、何か、こうウェディングドレスモチーフみたいな気は、するかもしれないとか寿々貴さんは思ったりするけどね」 「でも、座敷童子って何だろ」 「んーそれは寿々貴さんにも分からないよね」 「そうか」 「んー」 って二人してぼーとか何か、真っ青な南フランスの空とか眺めていたら、うっかり仕事だということを忘れてしまいそうだったけれど、今は間違いなく仕事中だった。 やばい、とヘキサは我に返った気分で首を振る。 そしたらふと、視界の先、背の低い木々を挟んだ向こうの通路に、走っている人の姿が見えた。 あー人が走ってるー。とか思ってぼーっと見てたら、その青年はひっとか悲鳴を上げて後ろを振り向き、また前を向いて走って、じゃあ一体何を振り返って怯えたのかといえば、木々の隙間から見えたその正体は、黒い猫。 ヘキサは、は。とした。 「確か、チョイ役に猫っていたような」 とかいう間にも、青年は庭の端に辿りつき、折れ曲がるようにして続く通路に沿って、こちらの礼拝堂に向かい走ってくる。 「じゃああれは、アザーバイドなのかな」 隣の寿々貴が、ぼんやりと呟いた。 は。とヘキサは弾かれたように隣を見やった。 「アザーバイド!」 そのまま慌てて拡声器を構え仲間に知らせようとする。けれど、「いや待て待て今騒ぐとアザーバイドが逃げるかも知れない」と隣の寿々貴から指摘が飛んだ。 「じゃ、じゃあどうすれば」 「んーまあとりあえずこのまま植込みに隠れつつ様子を見てだね」 「んーな悠長なこ」 「あ!」 と、そこで突然寿々貴が弾けるような声を出すので、ヘキサはびくっとした。「えっ」 「いやー実はさっき敵が近づかないようにするためにトラップをだね」 「えっ!」 って今度はまた忙しなく前を見て、「わー!」と思わず目を覆う。 ダーーーーーン! ズッシャーッ! と思いっきり、トラップのワイヤーに足を引っかけたアザーバイドが、転んだ。 そこへすかさず、猫がシャーッ! と爪を立て。 「こらこらこらこらこらー!」 ガササガササガサ! と凄い勢いで植込みを跨ぎ、ヘキサは思いっきり前へと躍り出た。紅鉄グラスホッパーを装着した足で、飛びかかってくる猫へとキーック! どべ、と腹を思いっきり付かれた猫は、ぐにゃ、と身体を曲げて、ちょタンマ、みたいに後方へとよたよた着地した。 「ほら、助けに来たぜ、掴まれ!」 「わーへっきーヒーローみたーい」 後方から寿々貴のやる気なさそーな声が飛ぶ。 「いやへっきーって言うなよ! っていうか、どんなけ棒読みなんだよ!」 「え、あ、アナタ達は……」 地面に這い蹲ったままの格好で、アザーバイドは二人を見比べる。 「お、良かった言葉が通じる」 「大丈夫。オレらはあれだ。えーっと、正義の味方だ!」 「あやっぱりヒーローなんじゃん」 「大丈夫、心配ないぜ! あの猫はオレ達がやっつけてやる!」 「んーかっこーねー、いやほんと。でも、「達」っていうか「へっきーが」だから。寿々貴さんはその頑張りを支持して、援護だけしてます。ほれ」 と、わりと緊張感なく言った彼女は、ハイ・グリモアールをぱらぱらめくって、面倒臭そうに手をひらひらとさせると、ディフェンサードクトリンを発動した。 戦闘防御力がぐーんと上昇するのを感じながら、ヘキサは「んーじゃあやってやるよー!」とか何か叫びながら、業炎撃を発動。蹲る猫へと、燃え盛る炎を纏った拳をぶつけるぶつける、ぶつけるぶつける。 そのままくるん、と一回転して、とどめのキーック。 とかいう背後では寿々貴が、持ってきたお弁当とかお菓子とかをアザーバイド青年に向け、差し出していた。 「お腹空いてる? これ、食べるかい?」 「え、あ、どうも」 「寿々貴さん達は、キミを元の世界に戻すためにやってきたんだよ。安心して。まあ、暫くはまだ一緒だと思うから、仲良くしようじゃないか」 「はあ……何だか良く分からないけど……ありがとうございます」 「さてと。じゃあ仲間に報告を」 寿々貴は、ヘキサの持って来た拡声器を手に取ると、キーンッとか耳触りな音を立てながら、声を上げた。 「アザーバイド見つけたー! あと猫は倒したー!」 「オレが倒したんだけどね、それはね」 「とりあえず一緒に飯食って待ってるからー!」 「あ。そうだ。オレもハンバーガー持って来たんだ。一緒に、食べる?」 ● そんな中プールでは、ななせ、七花、アーベルの三人が、ふわふわと空に浮かぶそれをポカン、として見つめていた。 水の中から飛び出して来たそれは、何だかもう全く良く分からないものだった。 言い表すなら、ぶよぶよしながらふわふわ浮いてて、たまににゅとんって感じの質感で震えて、ゼリーっぽい涼しげな水色で、内部に黄色と赤のビー玉みたいなのが三つくらい浮かんでいる。 「わー何だこれー異世界っぽーい、っていうか宇宙っぽい、っていうか、え何これ、ゾンビ? E・フォース?」 って全く意味が分からなかったけれど、とりあえずアーベルは、何かはしゃいだ。 「いえそんな敵の情報は」 七花がすかさず訂正する。 とかもう全く聞いてないアーベルは、ブヨブヨに近づいていき、ちょいちょい、と手招きした。 ブヨブヨは最初、全く無反応な感じで浮かんでいたけれど、中のビー玉みたいなのを一回ボヨンと動かし、おずおず、といった感じで近づいて来た。そしてそのまま、アーベルの腕にぐにゃん。 「わー巻きついてきたー。ひんやりするー! 気持ちいいー!」 「わー大丈夫なんですかー。痛くないんですかー。危なくないんですかー!」 とかななせが、大丈夫なんだったらわたしも触ってみたいですー! みたいに、そわそわそわそわしながら、辺りを徘徊する。 そんな二人を「で。だからどうなんだろう」みたいな目で見つめていた七花は、突然ハッと何かを感じ、後方を振り返った。 「敵です!」 言い終わらない内から、ビューっ! と、透明の球のような物が三人目掛けて飛んでくる。 「わー!」 って何か、慌てたアーベルはとりあえず手に持っていたブヨブヨ君、というかあるいはブヨブヨさんだったかも知れないけれど、とにかくそれを投げた。 そしたら、こちらへ向かい突進していたE・アンデットの顔面に思いっきり命中。 「えー何で投げちゃったんですかー!」 「いやまあ、嫌がらせくらいになるかな、って。ははは」 「くそー。私も触りたかったのにー!」 ななせ悔しいー! とばかりに巨大な鋼のハンマー「Feldwebel des Stahles」を振り上げた彼女は、オーララッシュを発動し敵へと飛び込んで行く。黄金色のオーラを纏いながら、鋼の軍曹でその頭を思い切りドッカーン。 ブヨブヨ空中へバーン。 「わー。ブヨブヨさーん。後で必ず戻って来て下さいー!」 「後ろから更に来てますよ!」 七花がマジックガントレットに覆われた手を、空へと翳した。近づいてくる農民へと、チェインライトニングを発動し、激しく暴れ狂う雷を落とす。 「農民は任せて下さい」 「なら、僕はあの、カフェ店員らしきノーフェイスを」 重火器を構えたアーベルが、狙いを定め、バウンティショットを発動した。だだだだだだだだ! と凄まじい早打ちで、まず投げられた銀色のお盆を撃ち抜き、続いて敵の足を撃ち抜き、腰を撃ち抜き、腹を打ち抜き、心臓辺りを撃ち抜き、最後に頭を打ち抜いた。 肉の破片となって崩れ落ちるカフェ店員を確認し、重火器を下ろしたアーベルは、辺りを見回し、言った。 「あら。ブヨブヨのあの子、どっか行っちゃったね」 ● その頃牙緑は、走っていた。 「さあ、オレの血を舐めたかったら、そのノコギリでこの首落としてみろよ!」 そんな煽り文句でAの注意を引き付けながら、虎のような激しさとしなやかさで走り、空いている部屋の中へと飛び込み、窓からバーンと外へと飛び出る。 「誰かー! Aが出たー!」 庭で大声を張り上げ、仲間の到着を待ちながら応戦をする。 ぶうん、と全力で振り回されたノコギリの刃を、上体を逸らす事で避け、前へと戻る反動に乗せギガクラッシュを発動した。 身体から激しい雷気が放出する。眩く光る閃光の中で剣を振りかぶると、Aへ向け突進するように激しい一撃を放つ。 腕がもがれるようにして千切れ、それでもまだ尚、敵は闘志を失ってはいない。 「くそ、面倒臭い奴だな。おーい! 鈴姐ー! 仇のAが出たぞー! まだかー!」 とかいうその少し前。 鈴は、憎き仇(設定)であるカフェ店員を追いかけていた。 「待ちなさい、小賢しい泥棒猫のカフェ店員め! あなたの所為で、彼は、優しい彼は……!」 そんな台詞と共にポイズンジェルを発動すると、店員の足を撃つ抜いて、一先ず動きを封じておくことにした。 そうして部屋の中央に蹲った店員へと向かい、ゆっくりと歩みよりながら、可憐なブーケにしか見えないGory weddingをビシーっと一振り。するとそれは、束ねられた花をひと繋ぎにした蛇腹剣へと変化した。物凄い可愛い、純白のウェディング水着姿なのに、ふふふとか目を座らせながら、鞭みたいに蛇腹剣を振るう姿はまるで……。 とにかくその目がもーマジだ。 「さー! 祝福されざる女たちの呪詛の力、思い知るっちゃー!」 Gory weddingの花弁は今や鋭利な刃以外の何物でもなく、薔薇のような棘を生やした鋼糸はうねうねと蛇のように踊り。 「女の怨みは怖いんよ、女の怨みは……!」 化弁の刃が、店員の身体を切り刻む度、血に染まる。 「これぞ血塗れの婚礼劇やね!」 と。その時。 「おーい! 鈴姐ー! 仇のAが出たぞー! まだかー!」 窓の外から聞こえて来たのは、あれは、あたしのために苦悩する愛しい弟の声! (役の牙緑の声) 「今行くわっ!」 勢い良く声を上げ、店員にはトドメの一突きを与えておいて、ばさーっと彼女は窓から飛んだ。 ひらひらひらひら、と白いシースルーの布をはためかせながら、 「あのひとの仇! この痛みもすべて込めて返してあげるわーっ!」 呪刻剣を発動しすると、Gory weddingに禍々しい黒い光が帯びた。 空中からその首を掻き斬るように剣を振り回し、着地と共に思い切り、引く。 ぶちぶち、という鈍い感触の後、ごろん、とAの頭が地面に転がった。 ● 「わー! ブヨブヨさんっ、会いたかったです!」 とかいう声と共に、礼拝堂にパーンと、ななせのクラッカーの音が響いた。 「つか、何だよ、これ」 そしてヘキサは思わず指摘していた。 そしたら何か、「えー、何だろう。ブヨブヨさん?」とか、へらへらして答えたアーベルが、「だから何だよブヨブヨさんって!」って、若干キレかけたヘキサを、「ん、ん、ちょっと待って」とか、遮った。 「見て見て! ブヨブヨさんが何かしてる。あ、何か神像に同化、あ、え、あ! 何か出口だ! 出口でてきたよ、ねえ」 「ってそれってさ」 面倒臭そうに寿々貴は言う。「礼拝堂にある何かを調べる、ではなくて、礼拝堂にこの得体の知れない「何か」と一緒に来たらどうにかなるって話だったってこと? 情報微妙に間違ってんじゃん。帰ったら辻さんの眼鏡割っとこう」 「でもこれもきっとあの人の導きなのね。あたしとあなたに、ありがとうを言ってるんだわ、きっと」 「あ、これ、最後のシーンだから」 うっとりと台詞を読み上げる鈴を指さし、牙緑が言う。 「でもこれって、映像、見れるんですか?」 七花が今更みたいに、指摘した。 「えー! これ、普通のプレイヤーで再生したら引き込まれないやないっちゃろか? えっだめ? えーえーがんばって演技したのにもったいないよえー」 「うん、分かったから鈴姐。とりあえず帰ろう」 ダダをこねる鈴の背中をぽんぽんやりながら、牙緑が言う。 「さーあとはアザーバイドを返して終わりだー寿々貴さん行くよー」 アザーバイドの手を引いて、寿々貴が真っ先に出口をくぐる。 皆もぞろぞろとその後に続いた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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